(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の計測装置は、ラジアル荷重を許容するころ軸受のころの挙動をその計測対象にしており、スラストころ軸受のころの挙動を計測するのには適していない。
また、スラストころ軸受の保持器にギャップセンサなどの検出器を取り付けることにより、ころの位置やスキュー角等を計測することも考えられる。しかしながら、実使用環境下の試験では、保持器やころと軌道輪との間に潤滑油が介在しており、ギャップセンサなどを用いた計測では、潤滑油に含まれる気泡などが計測に悪影響を及ぼし、その結果ころの挙動を正確に計測できないおそれがある。
【0005】
この発明は、このような背景の下でなされたものであり、スラストころ軸受のころの挙動を正確に分析することができるころ挙動計測方法およびころ挙動計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、軌道輪、ころ(13)および円環状の保持器(12)を有するスラストころ軸受(10)の
前記ころの挙動を計測するためのころ挙動計測方法であって、
前記スラストころ軸受の
前記保持器の中心軸線(O)を中心とするリング照明(18,28)によって
周方向に均一なリング状の光を照射することにより、前記スラストころ軸受を照明するリング照明ステップ
を含み、前記リング状の光の照射により、前記リング照明からの光が前記ころの周面で反射して、当該ころの周面に、線状部分を含む反射光模様が形成されるようになっており、前記リング照明ステップに並行して、前記保持器および前記ころを軌道輪に対して相対回転させながら、前記保持器の中心軸線に光軸が一致するレンズ(20)を有する撮像手段(17)
により前記スラストころ軸受
の一主面の全体を撮像する撮像ステップと、撮像画像に含まれ
る前記反射光模様
(Q)と、記憶部(25)に記憶されている
前記反射光模
様画像とをマッチングすることにより、
前記ころの
周方向角度位置およびスキュー角を算出するころ状態算出ステップとを含むことを特徴とする、ころ挙動計測方法である。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、特許請求の範囲を実施形態に限定する趣旨ではない。以下、この項において同じ。
前記の目的を達成するための請求項2記載の発明は、軌道輪(11)、ころ(13)および円環状の保持器(12)を有するスラストころ軸受(10)の
前記ころの挙動を計測するためのころ挙動計測装置(1)であって、
前記スラストころ軸受を保持する軸受保持手段(100)と、前記軸受保持手段に保持される
前記スラストころ軸受を照明するリング照明であって、その中心が前記軸受保持手段に保持される
前記スラストころ軸受の
前記保持器の中心軸線上に位置するように配置されたリング照明(18,28)と、レンズ(20)を有し、前記レンズの光軸が、前記軸受保持手段に保持される
前記スラストころ軸受の
前記保持器の中心軸線(O)に一致するように配置され
た撮像手段(17)と
、前記保持器および前記ころを軌道輪に対して相対回転させ、かつ前記リング照明から周方向に均一なリング状の光を前記スラストころ軸受に照射しながら、前記スラストころ軸受の一主面の全体を前記撮像手段によって撮像する撮像制御手段とを含み、前記リング状の光の照射により、前記リング照明からの光が前記ころの周面で反射して、当該ころの周面に、線状部分を含む反射光模様が形成されるようになっており、反射光模様画像を記憶する記憶部(25)と、撮像画像に含まれ
る反射光模様
(Q)と、前記記憶部に記憶されている
前記反射光模
様画像とをマッチングすることにより、
前記ころの
周方向角度位置およびスキュー角を算出するころ状態算出手段(24)とを含むことを特徴とする、ころ挙動計測装置である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記リング照明は、前記軸受保持手段に保持されるスラストころ軸受の
前記保持器の中心軸線を中心とする環状をそれぞれなす第1および第2リング照明(18,28)を有し、前記第1および第2リング照明は、前記第1リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角が、前記第2リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角よりも小さくなるように、それらの径および/または配置位置が設定されて
おり、前記撮像制御手段は、前記保持器および前記ころを軌道輪に対して相対回転させ、かつ前記リング照明から周方向に均一なリング状の光を前記スラストころ軸受に照射しながら、前記第1リング照明から周方向に均一なリング状の光を前記スラストころ軸受に照射すると同時に前記第2リング照明から周方向に均一なリング状の光を前記スラストころ軸受に照射する手段を含むことを特徴とする、請求項2記載のころ挙動計測装置である。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記第2リング照明は、前記第1リング照明よりも大径をなしていることを特徴とする、請求項3に記載のころ挙動計測装置である。
請求項5記載の発明は、前記第2リング照明は、前記軸受保持手段に保持されるスラストころ軸受と前記第1リング照明との間に配置されている、請求項3または4に記載のころ挙動計測装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明の方法によれば、リング照明による照明により、ころの周面に反射光模様が現れる。リング照明が保持器と同軸の環状をなしているので、ころが軌道輪における
どの周方向
角度位置にあっても、ころの周面に反射光模様が現れる。また、保持器の中心軸線上にリング照明の中心が位置しているとともに、レンズの光軸が保持器の中心軸線に一致している。そのため、軌道輪における周方向の各位置に位置するころに現れる反射光模様は、当該ころのスキュー角を考慮しなければ、中心軸線を中心とする回転対称をなしている。換言すると、ころの周方向
角度位置と、当該ころの姿勢とが判れば、それらに基づいてころのスキュー角を求めることができる。
【0011】
そのため、回転状態にあるスラストころ軸受を撮像したときの撮像画像に含まれる発射光模様と、記憶部に記憶されている反射光模様画像とをマッチングすることにより、ころの
周方向角度位置だけでなく、ころのスキュー角をも算出することができる。これにより、ころの挙動を精度良く計測することができる。
また、ころの撮像画像に基づいてころの
周方向角度位置およびスキュー角を算出するので、保持器やころと、軌道輪との間に介在する潤滑油の影響をほとんど受けない。これにより、ころの挙動の計測精度をより一層向上させることができる。
【0012】
請求項2記載の構成によれば、請求項1に関連して記載した作用効果と同等の作用効果を奏する。
請求項3記載の構成によれば、第1リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角が、第2リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角よりも小さい。そのため、スラストころ軸受における第1リング照明からの光の反射位置が、第2リング照明からの光の反射位置とは異なる。したがって、撮像画像に含まれる反射光模様には、第1リング照明からの光による反射光模様と、第2リング照明からの光による反射光模様とが含まれている。換言すると、マッチングの際の判断材料になる反射光模様が2種の反射光模様を含む態様であるので、これにより、ころの挙動の計測精度をさらにより一層向上させることができる。
【0013】
請求項4記載の構成によれば、第1リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角を、第2リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角よりも小さくした構成を、比較的簡単な構成で実現することができる。
請求項5記載の構成によれば、第1リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角を、第2リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角よりも小さくした構成を、比較的簡単な構成で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るころ挙動計測装置1の概略構成を示す斜視図である。
ころ挙動計測装置1は、計測対象であるスラストころ軸受10におけるころ13の挙動を計測するための装置である。
【0016】
ころ挙動計測装置1は、スラストころ軸受10を鉛直姿勢に保持しつつ、その軌道輪11および保持器12の一方(たとえば保持器12)を回転させる回転保持機構(軸受保持手段)100と、回転保持機構100に保持されたスラストころ軸受10に光を照射するための第1リング照明18と、回転保持機構100に保持されたスラストころ軸受10に光を照射するための第2リング照明28と、回転保持機構100に保持されたスラストころ軸受10を撮像するためのカメラ(撮像手段)17と、カメラ17による撮像画像を処理するための画像処理部22とを備えている。
【0017】
回転保持機構100は、スラストころ軸受10の軌道輪11を支持するための軌道輪支持ベース(図示しない)と、スラストころ軸受10の保持器12を支持するための保持器支持ベース(図示しない)と、保持器支持ベースを、水平方向に延びる回転軸線Oまわりに回転駆動させるためのモータ(図示しない)とを備えている。回転保持機構100にスラストころ軸受10をセットした状態では、スラストころ軸受10の中心軸線と回転保持機構100による回転軸線Oとが一致している。そのため、保持器支持ベースを回転軸線Oまわりに回転させることにより、保持器12およびころ13を、スラストころ軸受10の中心軸線まわりに回転させることができる。一方で、軌道輪支持ベースにはモータ等の回転駆動機構が結合されていないので、保持器12およびころ13の回転にかかわらず、軌道輪11は静止状態にある。
【0018】
なお、モータの回転駆動力を、保持器支持ベースではなく軌道輪支持ベースに付与することにより、軌道輪11を回転させるとともに保持器12を静止させるようにしてもよい。
第1リング照明18は、回転保持機構100による回転軸線O上に中心を有する小幅の円筒状をなしている。第1リング照明18は鉛直姿勢をなしている。第1リング照明18の回転保持機構100側(すなわち
図1で示す右奥側)の端面に円形の照射面(図示しない)を有し、この照射面からは、回転保持機構100に保持されたスラストころ軸受10に対して均一に光が照射される。この照射面は、回転軸線Oに直交する同一平面に含まれている。第1リング照明18の外周は、回転保持機構100により保持されるスラストころ軸受10の保持器12の外周よりも大径であり、そのため、回転保持機構100に保持されたスラストころ軸受10の全体に、外側から内側に向かう光を照射することができるようになっている。
【0019】
第2リング照明28は、回転保持機構100による回転軸線O上に中心を有し、第1リング照明18と同幅の円筒状をなしている。第2リング照明28は鉛直姿勢をなしている。第2リング照明28の回転保持機構100側(すなわち
図1で示す右奥側)の端面に円形の照射面(図示しない)を有し、この照射面からは、回転保持機構100に保持されたスラストころ軸受10に対して均一に光が照射される。この照射面は、回転軸線Oに直交する同一平面に含まれている。第2リング照明28の外周は、回転保持機構100により保持されるスラストころ軸受10の保持器12の外周よりも大径であり、そのため、回転保持機構100に保持されたスラストころ軸受10の全体に、外側から内側に向かう光を照射することができるようになっている。
【0020】
この実施形態では、第2リング照明28は、第1リング照明18よりも大径をなしている。また、第2リング照明28は、回転保持機構100に保持されるスラストころ軸受10と第1リング照明18との間に配置されている。
カメラ17は、たとえばCCDカメラであり、時間的に連続する複数枚の画像からなる動画像を撮像するためのカメラである。このカメラ17として、30(fp)以上のフレームレートで動画を撮像するカメラを採用することができるが、100(fp)以上のフレームレートで動画を撮像可能な高速度カメラを採用することがより一層望ましい。カメラ17のレンズ20は、その光軸が、回転保持機構100による回転軸線O上に配置されている。スラストころ軸受10を回転保持機構100にセットした状態で、スラストころ軸受10の一主面(背面側(
図1で示す左手前側)の面)の全体が、カメラ17の撮像範囲に含まれる。
【0021】
画像処理部22には、カメラ17による撮像画像が入力されるようになっている。この画像処理部22は、CPU(図示しない)、メモリおよび各種のインターフェイス等を含む構成のコンピュータにより構成されている。
画像処理部22は、入力された撮像画像に対して所定の画像処理を施す処理部であり、後述するように、反射光模様認識部23およびマッチング処理部(ころ状態算出手段)24としてそれぞれ機能する。また、画像処理部22は、ころ13の周方向角度位置およびスキュー角とマッチングさせるためのマッチング用反射光模様Qの画像を記憶するマッチング用反射光模様記憶部25を備えている。
【0022】
図2は、ころ挙動計測装置1の計測対象であるスラストころ軸受10の正面図である。ころ挙動計測装置1は、計測対象であるスラストころ軸受10におけるころ13の挙動を計測するための装置である。
スラストころ軸受10は、円板状の軌道輪11と、たとえば円筒状のころ13と、複数のころ13が放射状に組込まれて、軌道輪11と相対回転する環板状の保持器12とを備えている。スラストころ軸受10では、軌道輪11と保持器12との間の相対回転に伴って、ころ13が保持器12に伴って周方向(回転方向)に転動(公転)する。
【0023】
保持器12の径方向途中領域には、保持器12の径方向に波打つ形状の波打ち屈曲部14が絞り加工により設けられている。波打ち屈曲部14は、径方向の外側位置および径方向の内側位置のそれぞれで、保持器12の厚み方向の一方に向けてそれぞれ張り出す外側張出し部14Aおよび内側張出し部14Bと、前記の外側位置と内側位置との間に設けられて、保持器12の厚み方向の他方に向けて張り出す中間部張出し部14Cとを備えている。
【0024】
波打ち屈曲部14における、外径側の屈曲起点から内径側の屈曲起点に至る範囲における円周方向位置(たとえば数箇所)には、平面視矩形(より具体的には、径方向に長い長方形)のポケット15が、保持器12の厚み方向に打ち抜き形成されている。この各ポケット15に対してころ13が回動自在な状態で非分離に収納されている。すなわち、ポケット15の内壁面において周方向左右に位置する外側張出し部14A、内側張出し部14Bおよび中間部張出し部14Cの各張出し頂点部分の合計3箇所に、ポケット15内へ向けて突出する爪37A,37B,37Cが設けられている。この爪37A,37B,37Cによって、各ポケット15において径方向の3箇所がころ13の直径寸法よりも幅狭になっており、これによってポケット15内からころ13が抜け出ないようになっている。なお、ポケット15に対してころ13は、締り嵌めされることで収納される。
【0025】
各ポケット15の内壁面において外径側と内径側には、ポケット15内へ向けて突出する凸部38,39が設けられている。この凸部38,39は、ころ13の軸方向外端面や軸方向内端面の中心部に対して当接してころ13をピボット支持するためのものであり、ポケット15を打ち抜いて形成するときに同時に形成される。この凸部38,39は、平面視で丸い湾曲形状をなしている。
【0026】
図4および
図5は、ころ挙動計測装置1にスラストころ軸受10をセットした状態を示す正面図および側面図である。
図6は、スラストころ軸受10に、第1および第2リング照明18,28からの光をそれぞれ照射した状態を示す正面図である。
図7は、各ころ13の周面における反射光模様41,42を示す拡大図である。
スラストころ軸受10は、
図1に示す左手前側の面を正面(カメラ17側)に向けて、回転保持機構100にセットされる。回転保持機構100にスラストころ軸受10がセットされた状態で、モータ(図示しない)が回転駆動されると、保持器ベース部(図示しない)が保持器12ごと、回転保持機構100による回転軸線Oまわりに回転するようになっている。このとき、保持器12の中心軸線と、回転保持機構100による回転軸線Oとは一致している。
【0027】
ころ挙動計測装置1による計測時には、回転保持機構100にセットされたスラストころ軸受10の保持器12が回転される。保持器12の回転に伴って、ころ13も軌道輪11の軌道面(図示しない)上を周方向に公転(回転)する。
また、保持器12の回転に際して、第1リング照明18および第2リング照明28のそれぞれからスラストころ軸受10に向けて光が照射される。また、カメラ17によるスラストころ軸受10の撮像が開始される。第1および第2リング照明18からの光の照射により、見る方向によっては、ころ13の周面に反射光模様41,42が現れる。カメラ17により、レンズ20から見たときのころ13の周面に現れる反射光模様41,42が撮像される。
【0028】
次に、カメラ17によって撮像される反射光模様41,42について説明する。
第1リング照明18のたとえばA点(
図4および
図5参照)から照射された光は、ころ13の周面における所定の反射位置A1に所定の入射角で入射するとともに、当該反射位置A1(
図5参照)で反射してレンズ20に入射する。同様に、第1リング照明18のたとえばB点(
図4および
図5参照)から照射された光は、ころ13の周面における所定の反射位置B1に所定の入射角で入射するとともに、当該反射位置B1(
図5参照)で反射してレンズ20に入射する。すなわち、第1リング照明18の各点から照射された光は、それぞれ対応するころ13の周面上の所定の点で反射してレンズ20に入射する。これにより、ころ13の周面に、2本の曲線からなる反射光模様41(
図6および
図7に実線で図示)が現れる。
【0029】
また、第2リング照明28のたとえばA´点(
図4および
図5参照)から照射された光は、ころ13の周面における所定の反射位置A2に所定の入射角で入射するとともに、当該反射位置A2(
図5参照)で反射してレンズ20に入射する。同様に、第2リング照明28のたとえばB´点(
図4および
図5参照)から照射された光は、ころ13の周面における所定の反射位置B2に所定の入射角で入射するとともに、当該反射位置B2(
図5参照)で反射してレンズ20に入射する。すなわち、第2リング照明28の各点から照射された光は、それぞれ対応するころ13の周面上の所定の点で反射してレンズ20に入射する。これにより、ころ13の周面に、2本の曲線からなる反射光模様42(
図6および
図7に破線で図示)が現れる。
【0030】
前述のように、第2リング照明28は、第1リング照明18よりも大径をなしている。また、第2リング照明28は、回転保持機構100に保持されるスラストころ軸受10と第1リング照明18との間に配置されている。そのため、第1リング照明18からの光のスラストころ軸受10に対する入射角は、第2リング照明28からの光のスラストころ軸受10に対する入射角よりも小さい。また、ころ13の周面における、第1リング照明18の各所からの光の反射位置(反射位置A1,B1を含む)は、第2リング照明28の各所からの光の反射位置(反射位置A2,B2を含む)よりも、径方向の内側に位置している。これにより、ころ13の周面に、2本の曲線からなる反射光模様42(
図6および
図7に実線で図示)が現れる。
【0031】
図6および
図7に示すように、反射光模様41は、正面視における円筒状のころ13の中心軸線Cを中心として対称な一対の曲線状模様である。反射光模様42は、正面視における円筒状のころ13の中心軸線Cを中心として対称な一対の曲線状模様である。
前述のように、第1リング照明18からの光のスラストころ軸受10に対する入射角が、第2リング照明28からの光のスラストころ軸受10に対する入射角よりも小さいので、
図7に示すように、第1リング照明18からの光による反射位置は、第2リング照明28からの光による反射位置よりも内側に現れる。すなわち、第1リング照明18からの光による反射光模様41の各曲線は内側に、第2リング照明28からの光による反射光模様42の各曲線は外側にそれぞれ現れる。反射光模様41の各曲線は、その径方向内側に近づくほど、ころ13の中心軸線Cから離れるようになっている。また、反射光模様42の各曲線は、その径方向内側に近づくほど、ころ13の中心軸線Cから離れるようになっている。
【0032】
また、回転保持機構100による回転軸線(保持器12の中心軸線)O上に第1および第2リング照明18,28の中心がそれぞれ位置しているとともに、レンズ20の光軸が回転保持機構100による回転軸線(保持器12の中心軸線)Oに一致しているので、軌道輪11における周方向の各位置に位置するころ13に現れる反射光模様41,42は、当該ころ13のスキュー角を考慮しなければ、回転軸線Oを中心とする回転対称をなしている。したがって、ころ13の周方向位置と、当該ころ13の姿勢とが判れば、それらに基づいてころ13のスキュー角を求めることができる。
【0033】
この実施形態では、ころ挙動計測装置1を用いて、保持器12の回転中におけるころ13の周方向(回転方向)位置およびスキュー角をそれぞれ求める。具体的には、保持器12やころ13と軌道輪11との間に潤滑油を介在させ、かつ、軌道輪11と保持器12とが通常の使用条件下での相対回転速度になるように保持器12を回転させるとともに、カメラ17により、スラストころ軸受10(すなわち各ころ13)を連続的に複数回撮像する。このカメラ17による撮像回数は、たとえば1秒間に約5000回であり、ころ13が1公転する間に約280〜300回撮像されることになる。そして、計測対象の1つのころ13を特定し、その特定されたころ13の各周方向位置における、ころ13の周方向位置およびスキュー角のそれぞれを連続的に求める。
【0034】
図8は、画像処理部22による動作内容を示すフローチャートである。
図9は、マッチング用反射光模様記憶部25(
図1参照)に記憶されているマッチング用反射光模様Qの画像の一例である。
以下、一連の計測作業で撮像された個々の撮像画像の処理について説明する。
まず、画像処理部22は、カメラ17によって撮像画像の入力を受け付け、マッチング用反射光模様記憶部25を含む記憶部に記憶する(S1:画像記憶)。
【0035】
次いで、画像処理部22は、撮像画像における各ころ13の周面に現れている反射光模様41,42(
図6および
図7参照)を認識する(S2:反射光模様認識。反射光模様認識部23(
図1参照)の機能を実現)。反射光模様41,42の認識のための処理は、たとえば、撮像画像におけるころ13の部分に対し、所定の輝度値を闇値とする2値化処理を施すことにより、反射光模様41,42を抽出する。換言すると、反射光模様41,42は、ころ13の周面における反射光模様41,42の周囲部分よりも輝度が高くなるため、輝度が高い部分と低い部分とを2階調に変換することによって反射光模様41,42を抽出することができる。そして、抽出された反射光模様41,42を認識する。
【0036】
なお、第1リング照明18および第2リング照明28の照度は、2値化処理によって反射光模様41,42が適切に抽出されるような適切な照度に予め調整されている。
次いで、画像処理部22は、認識した反射光模様41,42を、マッチング用反射光模様記憶部に記憶されているマッチング用反射光模様Qの画像(
図9参照)を用いてマッチングさせる(ステップS3。マッチング処理部24(
図1参照)の機能を実現)。そして、計測対象のころ13の中心位置(重心位置)Pの位置座標およびスキュー角を算出する(ステップS4)。
【0037】
図8のステップS3の画像マッチング処理では、画像処理部22は、マッチング用反射光模様Qの画像を、上下左右に移動させ、または所定位置まわりに回転(傾倒姿勢に)させることにより、撮像画像に含まれるころの画像(
図8で、「コロ画像」)に現れる反射光模様41,42と完全に一致させる。画像処理部22は、マッチングしたときのマッチング用反射光模様Qの画像の座標に基づいて、反射光模様41,42の中心位置P(
図6参照)の中心座標を算出する。また、画像処理部22は、算出した中心位置Pと、マッチング用反射光模様Qの画像の回転角度量(反射光模様Qの画像の傾倒度合い)とに基づいて、ころ13のスキュー角を算出する。
【0038】
なお、この際、画素の輝度値によって重み付けを行えば、ころ13の中心位置Pおよびスキュー角を、より一層正確に算出することができる。また、計測対象である特定のころ13に限って中心位置Pの位置座標およびスキュー角を求める場合を例に挙げたが、全てのころ13の中心位置Pの位置座標およびスキュー角を求めるようにしてもよい。
以上によりこの実施形態によれば、第1および第2リング照明18,28による照明により、ころ13の周面に反射光模様41,42が現れる。第1および第2リング照明18,28が、それぞれ保持器12と同軸の環状をなしているので、ころ13が軌道輪11における周方向のどの位置にあっても、ころ13の周面に反射光模様41,42が現れる。また、回転軸線(保持器12の中心軸線)O上に第1および第2リング照明18,28の中心がそれぞれ位置しているとともに、レンズ20の光軸が回転軸線(保持器12の中心軸線)Oに一致している。そのため、回転状態にあるスラストころ軸受10を撮像したときの撮像画像に含まれる発射光模様41,42と、マッチング用反射光模様記憶部25に記憶されているマッチング用反射光模様Qの画像とをマッチングすることにより、ころ13の位置と、ころ13のスキュー角とを算出することができる。これにより、ころ13の挙動を精度良く計測することができる。
【0039】
また、ころ13の撮像画像に基づいてころの位置およびスキュー角を算出するので、保持器12やころ13と、軌道輪11との間に介在する潤滑油の影響をほとんど受けない。これにより、ころ13の挙動の計測精度をより一層向上させることができる。
また、撮像画像に含まれる反射光模様41,42には、第1リング照明18からの光による反射光模様41と、第2リング照明28からの光による反射光模様42とが含まれている。換言すると、マッチングの際の判断材料になる反射光模様41,42が2種の反射光模様を含む態様であるので、これにより、ころ13の挙動の計測精度をさらにより一層向上させることができる。
【0040】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は他の形態でも実施することができる。
たとえば、計測対象のスラストころ軸受10として、スラスト円筒ころ軸受を採用し、円筒状のころ13の挙動を測定したが、この場合に限られない。たとえば、計測対象のスラストころ軸受として、スラスト円錐ころ軸受を採用する場合には、円錐状のころの挙動を測定することができる。
【0041】
また、前述のように第2リング照明28が第1リング照明18よりも大径である場合には、第1および第2リング照明18,28のスラストころ軸受10(回転保持機構100に保持されている状態のスラストころ軸受10)からの距離を互いに設定してもよい。
また、前述のように第2リング照明28が第1リング照明18よりも大径である場合には、第1および第2リング照明18,28のスラストころ軸受10(回転保持機構100に保持されている状態のスラストころ軸受10)からの距離は、互いに等しくてもよい。
【0042】
また、前述のように、第2リング照明28がスラストころ軸受10と第1リング照明18との間に配置されている場合には、第1および第2リング照明18,28は互いに同径であってもよい。
また、リング照明として、第1および第2リング照明18,28からなる2重リングを採用したが、さらに、リング照明が1つのリング照明からなる構成(第1および第2リング照明18,28の一方)であってもよい。
【0043】
これに代えて、回転軸線Oを中心とする環状をなす第3リング照明を設けた3重リングがリング照明として採用されていてもよい。この場合、第3リング照明は、当該第3リング照明からの光のスラストころ軸受に対する入射角が、第1または第2リング照明18,28からの光の入射角と異なっている必要がある。さらに、リング照明として4重リング以上のものが採用されていてもよい。
【0044】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。