(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について
図1、
図2及び
図3を用いて説明する。このX線回折測定装置を含むX線回折測定システムは、X線を測定対象物OBに照射し、同照射による測定対象物OBからの回折X線によりイメージングプレートに形成される回折環の形状を読取り、測定対象物OBのX線照射ポイントにおける残留応力を計算するシステムであるが、複雑な形状の測定対象物OBの指定したポイントの残留応力を適切な方向からのX線照射により精度よく測定するためのシステムをも備える。複雑な形状の測定対象物OBは、例えば、素材が鉄であるギアである。
【0021】
X線回折測定装置1は、X線を出射するX線出射器10、回折X線による回折環が形成されるイメージングプレート15を取り付けるためのテーブル16と、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20と、イメージングプレート15に形成された回折環の形状を測定するためのレーザ検出装置30と、これらのX線出射器10、イメージングプレート15、テーブル16、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30を収容するケース50とを備えている。そして、X線回折測定システムは、前記X線回折測定装置1とともに、測定対象物OBの3次元形状を測定する3次元形状測定装置2、測定対象物OBを載置するとともに互いに直交する2つの回転軸周りに傾斜させる傾斜装置60、測定対象物OB(傾斜装置60)を互いに直交する3方向に移動させる移動装置70、コンピュータ装置100及び高電圧電源96を備えている。また、ケース50内には、X線出射器10、テーブル16、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、
図1においてケース50外に示された2点鎖線で示された各種回路は、ケース50内の2点鎖線内に納められている。なお、
図1及び
図2においては、回路基板、電線、固定具、空冷ファンなどは省略されている。
【0022】
ケース50は、略直方体状に形成されるとともに、底面壁50aと側面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cを有するように形成されている。このケース50の側面壁には、
図3に示すように支持アーム52に接続される接続部51が設けられており、接続部は
図3の横方向周り(
図1及び
図2の紙面の垂直周り)に回転可能になっている。支持アーム52は、図示されていないアーム式移動装置の先端であり、アーム式移動装置を操作することにより、ケース50を任意の位置、姿勢にすることができる。これにより、測定対象物OBの測定において、ケース50は切欠き部壁50cが後述するステージ61の上面に対向するように、位置及び姿勢が調整される。
【0023】
3次元形状測定装置2は非接触で測定対象物OBの形状を測定することができるものであればどのようなものでもよい。例えば、レーザ光を照射方向を検出しながら2方向に走査して、測定対象物OB表面のレーザ光照射点で発生する散乱光の一部を受光位置を検出することができるフォトセンサで受光し、レーザ光の照射方向ごとに受光位置を検出する方式の装置を使用してもよい。この場合、3次元形状測定装置2は、レーザ光の照射方向ごとに検出した受光位置データをレーザ光の照射方向のデータとともにコントローラ101に出力する。コントローラ101は入力したデータから3角測量法の原理でレーザ光の照射方向ごとにレーザ光の照射点までの距離を求め、レーザ光の照射方向とレーザ光の照射点までの距離からレーザ光の照射点の(測定対象物OB表面の各点の)座標値を算出する。また、照射箇所に設定された間隔で格子縞ができる光を測定対象物OBに照射し、格子縞を移動しながら格子縞の移動量が設定値になるごとに測定対象物OBの撮影を撮像素子を並べたイメージセンサで行う方式の装置を使用してもよい。この場合、3次元形状測定装置2は、撮影ごとにイメージセンサの設定された撮影点の明度データをコントローラ101に出力する。コントローラ101は入力したデータから位相シフト法の原理でイメージセンサの設定された撮影点ごとに距離を算出し、設定された撮影点ごとに定まる方向と算出された距離から測定対象物OBの各点の座標値を算出する。これ以外にも、複数の方向から測定対象物OBの撮影を撮像素子を並べたイメージセンサで行い、コントローラ101に出力された撮影データからステレオ法の原理で測定対象物OBの各点の座標値を算出する方式の装置を使用してもよいし、測定対象物OBにモアレ縞ができる光を照射して測定対象物OBの撮影を撮像素子を並べたイメージセンサで行い、コントローラ101に出力された撮影データからモアレ法の原理で測定対象物OBの各点の座標値を算出する方式の装置を使用してもよい。どのような測定原理の3次元形状測定装置2を用いても、3次元形状データとして測定対象物OBの表面における各点の座標値が得られる。以下、3次元形状測定の結果得られる測定対象物OBの表面における各点の座標値を点群データと呼ぶ。
【0024】
3次元形状測定装置2は、
図1ではX線回折測定装置1の上側に記載されているが、実際は
図3に示すように、X線回折測定装置1の側面に取り付けられている。これにより、3次元形状測定装置2が出力するデータからコントローラ101で計算される点群データの基になる座標原点および座標軸の方向(以下、座標系Dという)とX線回折測定装置1とは固定された位置関係になっている。
【0025】
測定対象物OBを載置するとともに傾斜させる傾斜装置60は、2つのゴニオステージを重ねたものである。ステージ61には操作子61aが組み付けられており、操作子61aの回転操作により、図示しない機構を介して第1プレート62に対して
図1、
図2の紙面垂直方向および
図3の横方向(X方向)にある回転軸周りに傾斜する。また、第1プレート62には操作子62aが組み付けられており、操作子62aの回転操作により、図示しない機構を介して後述する第2プレート71に対して
図1、
図2の紙面横方向および
図3の紙面垂直方向(Y方向)にある回転軸周りに傾斜する。ステージ61の横面および第1プレート62の横面には傾斜角度(回転軸周りの回転角度)を読取る目盛がつけられており、これを読取ることにより、ステージ61の傾斜角度を検出できるようになっている。また、傾斜角度を読取る目盛りはマイクロメータのように操作子61aおよび操作子62aにつけられており、これを読取る構造であってもよい。
【0026】
傾斜装置60の下方にある移動装置70は、手動回転またはモータ回転による回転運動を直線運動に変える機構である。高さ調整機構72はジャッキの構造になっており、操作子72aを回転させることにより第2プレート71と第3プレート73の間の距離を変化させることで傾斜装置60(ステージ61)の高さ位置(Z方向位置)を変化させる。第2プレート71には、マイクロメータ74が取り付けられており、回転部分を回転させることで棒状部分74aが回転しながら伸び、棒状部分74aが第3プレート74に当接して動かなくなったときに回転部分の目盛を読取ることでステージ61の高さ位置(Z方向位置)を検出することができる。マイクロメータ74は高さ位置を読取った後は、棒状部分74aを常に最小長さにしておく。また、第3プレート73の下面にはX方向に所定の幅を有する凸部が複数個あり、この凸部が第4プレート75の上面に形成された複数個の凹部に侵入して、第4プレート75に対して第3プレート73がY方向に移動できるようになっている。第4プレート75には操作子75aが固定されており、この操作子75aを回転させると、第3プレート73は図示しない機構によりY方向に移動される。操作子75aもマイクロメータの回転部分のように目盛が付けられており、この目盛を読取ることでステージ61のY方向における移動量(Y方向位置)を検出できるようになっている。この移動量は、ステージ61の
図1,2の右方向への移動で値が増加するようになっている
【0027】
また、第4プレート75の下面にはY方向に所定の幅を有する凸部が複数個あり、この凸部が設置プレート76の上面に形成された複数個の凹部に侵入して、設置プレート76に対して第4プレート75がX方向に移動できるようになっている。設置プレート76の
図1の紙面横方向にある側面には
図1の紙面垂直方向に回転軸を有するモータ77が固定されており、モータ77の回転軸は雄ねじが形成されたシャフトと結合されている。また、この雄ねじが形成されたシャフトは設置プレート76の反対側の側面に固定された回転体と結合している。そして、第4プレート75には、雄ねじが形成されたシャフトに螺合した雌ねじが形成されており、モータ77が回転することにより、第4プレート75(傾斜装置60、ステージ61)がX方向に移動する。本実施形態では3次元形状測定装置2はX線回折測定装置1の側面に取り付けられているため、3次元形状測定装置2の測定可能範囲内にステージ61に搭載された測定対象物OBを移動させ、X線回折測定装置1から照射されるX線がステージ61に搭載された測定対象物OBに照射される位置まで測定対象物OBを移動させることができるよう、このX方向の移動はY方向、Z方向の移動よりも移動可能範囲が長くなっている。
【0028】
モータ77内には、モータ77の回転を検出して、その回転を表す回転信号を出力するエンコーダ77aが組み込まれている。この回転信号はパルス列信号であって、回転方向を識別するために互いにπ/2だけ位相のずれたA相信号とB相信号とで構成される。回転信号は、X方向移動量検出回路95及びX方向モータ制御回路94に出力される。X方向移動量検出回路95は、前記回転信号のパルス数をモータ77の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値からモータ77によるステージ61の移動量(移動位置)を検出し、検出した移動量をX方向モータ制御回路94及び後述するコントローラ101に出力する。X方向モータ制御回路94は、入力装置102からコントローラ101を介して移動量(移動位置)が入力すると、X方向移動量検出回路95から入力する移動量がコントローラ101から入力した移動量と等しくなるまでモータ77を回転させる。また、入力装置102からコントローラ101を介して移動方向指令が入力すると、ステージ61の移動方向が入力した移動方向になるようモータ77を回転させる。また、入力装置102からコントローラ101を介して停止指令が入力するとモータ77への駆動信号を停止する。なお、モータ77の回転時においては、X方向モータ制御回路94は、エンコーダ77aから入力する回転信号の単位時間あたりのパルス数から算出される回転速度が、予め設定された回転速度になるようモータ77の回転速度を制御する。これにより、ステージ61は常に設定された速度で移動する。
【0029】
X方向移動量検出回路95におけるカウント値の初期設定は、電源投入時にコントローラ101の指示によって行われる。すなわち、コントローラ101は、電源投入時に、X方向モータ制御回路94に
図3の右方向における駆動限界位置への移動を指令するとともに、X方向移動量検出回路95に初期設定を指令する。この指令により、X方向モータ制御回路94は、モータ77を駆動してステージ61を
図3の右方向における駆動限界位置まで移動させる。X方向移動量検出回路95は、指令が入力してからモータ77内のエンコーダ77aからの回転信号を入力し続け、ステージ61が駆動限界位置に達してモータ77の回転が停止すると、X方向移動量検出回路95はエンコーダ77aからの回転信号の入力停止を検出して、カウント値を「0」にリセットする。また、それと同時に、X方向モータ制御回路94に出力停止のための信号を出力する。これにより、X方向モータ制御回路94はモータ77への駆動信号の出力を停止する。その後に、モータ77が駆動された際には、X方向移動量検出回路95は、回転信号のパルス数をモータ77の回転方向に応じてカウントアップ又はカウントダウンし、そのカウント値に基づいてステージ61の移動量(移動位置)を計算し、計算した移動量をX方向モータ制御回路94及びコントローラ101に出力し続ける。よって、
図3の右方向における駆動限界位置が移動量0(移動位置0)であり、3次元形状測定装置2からX線回折測定装置1に向かう方向(
図3の左方向)への移動で値が増加する。
【0030】
なお、後述するが、本実施形態には3次元形状測定装置2の座標系Dの他にいくつかの座標系があり、それぞれの座標系にはX方向、Y方向、Z方向が存在しているので、以後、ステージの移動方向であるX方向、Y方向、Z方向を、ステージX方向、ステージY方向、ステージZ方向と表現することで区別する。
【0031】
X線出射器10は、長尺状に形成され、ケース50内の上部にて図示左右方向に延設されてケース50に固定されており、高電圧電源96からX線出射のための高電圧及び電流の供給を受け、X線制御回路81により制御されて、出射口11からX線を下方(図示左下方向)に向けて出射する。ケース50は前述のように支持アーム52に回転可能に接続されているので、X線出射器10から出射されたX線の出射方向はステージX方向周りに変化させることができる。ただし、ケース50の切欠き部壁50cと側面壁50bの繋ぎ壁50dがステージ61に対してほぼ平行になるように調整するのが好ましい。このとき出射されたX線のステージZ方向に対する角度(X線の入射角度φ)は、例えば30度乃至45度の範囲内の角度である。
【0032】
X線制御回路81は、後述するコンピュータ装置100を構成するコントローラ101によって制御され、X線出射器10から一定の強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源96から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路81は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。これにより、X線出射器10の温度が一定に保たれる。
【0033】
テーブル駆動機構20は、X線出射器10の下方にて、移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、フィードモータ22及びスクリューロッド23により、X線出射器10から出射されたX線の光軸と前記X線の光軸に交差するステージZ方向の線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に垂直な方向に移動可能となっている。フィードモータ22は、テーブル駆動機構20内に固定されていてケース50に対して移動不能となっている。スクリューロッド23は、X線出射器10から出射されたX線の光軸に垂直な方向に延設されていて、その一端部がフィードモータ22の出力軸に連結されている。スクリューロッド23の他端部は、テーブル駆動機構20内に設けた軸受部24に回転可能に支持されている。また、移動ステージ21は、それぞれテーブル駆動機構20内にて固定された、対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、スクリューロッド23の軸線方向に沿って移動可能となっている。すなわち、フィードモータ22を正転又は逆転駆動すると、フィードモータ22の回転運動が移動ステージ21の直線運動に変換される。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれている。エンコーダ22aは、フィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路86及びフィードモータ制御回路85へ出力する。
【0034】
位置検出回路86及びフィードモータ制御回路85は、コントローラ101からの指令により作動開始する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路85は、フィードモータ22を駆動して移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させる。位置検出回路72は、エンコーダ22aから出力されるパルス列信号が入力されなくなると、移動ステージ21が移動限界位置に達したことを表す信号をフィードモータ制御回路85に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路85は、位置検出回路86から移動限界位置に達したことを表す信号を入力すると、フィードモータ22への駆動信号の出力を停止する。上記の移動限界位置を移動ステージ21の原点位置とする。したがって、位置検出回路86は、移動ステージ21が
図1及び
図2にて左上方向に移動して移動限界位置に達したとき「0」を表す位置信号を出力し、移動ステージ21が移動限界位置から右下方向へ移動すると、エンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動限界位置からの移動距離xを表す信号を位置信号として出力する。
【0035】
フィードモータ制御回路85は、コントローラ101から移動ステージ21の移動先の位置を表す設定値を入力すると、その設定値に応じてフィードモータ22を正転又は逆転駆動する。位置検出回路86は、エンコーダ22aが出力するパルス信号のパルス数をカウントする。そして、位置検出回路86は、カウントしたパルス数を用いて移動ステージ21の現在の位置(移動限界位置からの移動距離x)を計算し、コントローラ101及びフィードモータ制御回路85に出力する。フィードモータ制御回路85は、位置検出回路86から入力した移動ステージ21の現在の位置が、コントローラ101から入力した移動先の位置と一致するまでフィードモータ22を駆動する。
【0036】
また、フィードモータ制御回路85は、移動ステージ21の移動速度を表す設定値をコントローラ101から入力する。そして、エンコーダ22aから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、前記計算した移動ステージ21の移動速度がコントローラ101から入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
【0037】
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されている。上壁26には、貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、X線出射器10から出射されたX線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。
【0038】
後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(
図1、
図2の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、
図11に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とする出力軸27aを有するスピンドルモータ27が組み付けられている。出力軸27aは、円筒状に形成され、回転中心を中心軸とする断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aと反対側には、貫通孔27a1の中心位置を中心軸線とする貫通孔27bが設けられている。貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。なお、
図11において2点鎖線で示した箇所は、本発明の変形例においてLED光照射機構を設ける部分であるが、それについては後述する。
【0039】
また、スピンドルモータ27内には、エンコーダ22aと同様のエンコーダ27cが組み込まれている。エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路82及び回転角度検出回路83へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ101及び回転角度検出回路83に出力する。
【0040】
スピンドルモータ制御回路82及び回転角度検出回路83は、コントローラ101からの指令により作動開始する。スピンドルモータ制御回路82は、コントローラ101から、スピンドルモータ27の回転速度を表す設定値を入力する。そして、エンコーダ27cから入力したパルス信号の単位時間当たりのパルス数を用いてスピンドルモータ27の回転速度を計算し、計算した回転速度がコントローラ101から入力した回転速度(設定値)になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に供給する。回転角度検出回路83は、エンコーダ27cから出力されたパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値を用いてスピンドルモータ27の回転角度すなわちイメージングプレート15の回転角度Θpを計算して、コントローラ101に出力する。そして、回転角度検出回路83は、エンコーダ27cから出力されたインデックス信号を入力すると、カウント値を「0」に設定する。すなわち、インデックス信号を入力した位置が回転角度0度の基準位置である。
【0041】
テーブル16は、円形状に形成され、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16の中心軸と、スピンドルモータ27の出力軸の中心軸とは一致している。テーブル16は、一体的に設けられて下面中央部から下方へ突出した突出部17を有していて、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。突出部17の中心軸は、スピンドルモータ27の出力軸27aの中心軸と一致している。テーブル16の下面には、イメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15は、表面に蛍光体が塗布された円形のプラスチックフィルムである。イメージングプレート15の中心部には、貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
【0042】
テーブル16、突出部17及び固定具18にも貫通孔16a,17a,18aがそれぞれ設けられており、貫通孔16a,17a,18aの中心軸はテーブル16の中心軸と同じであり、貫通孔18aの内径は貫通孔16a,17aに比べて小さく、前述した通路部材28の内径と同じである。したがって、スピンドルモータ27の出力軸27aから出射されたX線は、貫通孔16a,17a,18aを介するとともに、切欠き部壁50cに設けた円形孔50c1を介して外部下方に位置する測定対象物OBに向かって出射される。この場合、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、通路部材28を介して貫通孔27b,27a1,16a,17a内に入射したX線はやや拡散しているが、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、円形孔50c1から出射される。また、この円形孔50c1の内径は、測定対象物OBからの回折光をイメージングプレート15に導くために大きい。
【0043】
イメージングプレート15は、フィードモータ22によって駆動されて、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、原点位置から回折環を撮像する回折環撮像位置へ移動する。前述のように、この回折環撮像位置において、X線出射器10から出射されたX線がステージ61上の測定対象物OBに照射されるようになっている。また、イメージングプレート15は、スピンドルモータ27によって駆動されて回転しながら、フィードモータ22によって駆動されて、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域内、及び回折環を消去する回折環消去領域内を移動する。なお、この場合のイメージングプレート15の移動においては、イメージングプレート15の中心軸が、X線出射器10から出射されたX線の光軸と測定対象物OBの法線とが成す平面内に保たれた状態で、前記X線の光軸に垂直な方向に移動する。
【0044】
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射して、イメージングプレート15から入射した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、測定対象物OB及び回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に充分離れている。すなわち、イメージングプレート15が回折環撮像位置にあるとき、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31と、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34及び対物レンズ36を備えている。
【0045】
レーザ光源31は、レーザ駆動回路77によって制御されて、イメージングプレート15に照射するレーザ光を出射する。レーザ駆動回路77は、コントローラ101によって制御され、レーザ光源31から所定の強度のレーザ光が出射されるように、駆動信号を制御して供給する。レーザ駆動回路77は、後述するフォトディテクタ42から出力された受光信号を入力して、受光信号の強度が所定の強度になるようにレーザ光源31に出力する駆動信号を制御する。これにより、イメージングプレート15に照射されるレーザ光の強度が一定に維持される。
【0046】
コリメートレンズ32は、レーザ光源31から出射されたレーザ光を平行光に変換する。反射鏡33は、コリメートレンズ32にて平行光に変換されたレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射する。ダイクロイックミラー34は、反射鏡33から入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、ダイクロイックミラー34から入射したレーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。この対物レンズ36から出射されるレーザ光の光軸は、X線出射器10から出射されたX線の光軸と前記X線の光軸に交差するステージZ方向の線とが成す平面内であって、前記X線の光軸に平行な方向、すなわち移動ステージ21の移動方向に対して垂直な方向である。
【0047】
対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられている。フォーカスアクチュエータ37は、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に移動させるアクチュエータである。なお、対物レンズ36は、フォーカスアクチュエータ37が通電されていないときに、その可動範囲の中心に位置する。
【0048】
対物レンズ36によって集光されたレーザ光を、イメージングプレート15の表面であって、回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じる。すなわち、回折環を撮像した後、イメージングプレート15にレーザ光を照射すると、イメージングプレート15の蛍光体が回折X線の強度に応じた光であって、レーザ光の波長よりも波長が短い光を発する。イメージングプレート15に照射されて反射したレーザ光の反射光及び蛍光体から発せられた光は、対物レンズ36を通過して、レーザ光の反射光の大部分はダイクロイックミラー34を透過し、蛍光体から発せられた光の大部分はダイクロイックミラー34にて反射する。ダイクロイックミラー34の反射方向には、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39及びフォトディテクタ40が設けられている。集光レンズ38は、ダイクロイックミラー34から入射した光を、シリンドリカルレンズ39に集光する。シリンドリカルレンズ39は、透過した光に非点収差を生じさせる。フォトディテクタ40は、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子によって構成されており、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した大きさの検出信号を受光信号(a,b,c,d)として、増幅回路88に出力する。
【0049】
増幅回路88は、フォトディテクタ40から出力された受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ同じ増幅率で増幅して受光信号(a’,b’,c’,d’)を生成し、フォーカスエラー信号生成回路91及びSUM信号生成回路89へ出力する。本実施形態においては、非点収差法によるフォーカスサーボ制御を用いる。フォーカスエラー信号生成回路91は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を用いて、演算によりフォーカスエラー信号を生成する。すなわち、フォーカスエラー信号生成回路79は、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ回路92へ出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置のイメージングプレート15の表面からのずれ量を表している。
【0050】
フォーカスサーボ回路92は、コントローラ101により制御され、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路93に出力する。ドライブ回路93は、このフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させる。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにフォーカスサーボ信号を生成することにより、イメージングプレート15の表面にレーザ光を集光させ続けることができる。
【0051】
SUM信号生成回路89は、受光信号(a’,b’,c’,d’)を合算してSUM信号(a’+b’+c’+d’)を生成し、A/D変換回路90に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射したレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射したレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、イメージングプレート15に入射した回折X線の強度に相当する。A/D変換回路90は、コントローラ101によって制御され、SUM信号生成回路89からSUM信号を入力し、入力したSUM信号の瞬時値をディジタルデータに変換してコントローラ101に出力する。
【0052】
また、レーザ検出装置30は、集光レンズ41及びフォトディテクタ42を備えている。集光レンズ41は、レーザ光源31から出射されたレーザ光の一部であって、ダイクロイックミラー34を透過せずに反射したレーザ光をフォトディテクタ42の受光面に集光する。フォトディテクタ42は、受光面に集光された光の強度に応じた受光信号を出力する受光素子である。従って、フォトディテクタ42は、レーザ光源31が出射したレーザ光の強度に対応した受光信号をレーザ駆動回路87へ出力する。
【0053】
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ101によって制御され、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
【0054】
コンピュータ装置100は、コントローラ101、入力装置102及び表示装置103からなる。コントローラ101は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置1、3次元形状測定装置2および移動装置70の作動の制御を行う。また、X線回折測定装置1、3次元形状測定装置2から入力したデータの処理および後述する表示装置103への画像信号の出力を行う。入力装置102は、コントローラ101に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置103は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果なども視覚的に知らせる。
【0055】
コントローラ101には入力装置102からの入力により3次元形状測定装置2に形状測定開始を指令し、3次元形状測定装置2からデータが入力すると、点群データを算出し、算出した点群データから測定対象物OBの3次元形状画像データを作成して表示装置103に出力するプログラムがインストールされている。また、コントローラ101には入力装置102からの入力により、表示された3次元形状画像上の任意の点を指定し、指定した点をX線照射点として決定すると、以下の(A)〜(C)を計算して表示するためのプログラムがインストールされている。
(A)決定した点にX線が照射された場合にイメージングプレートに形成される回折環の形状。
(B)決定した点にX線が照射された場合のX線の入射角度。
(C)決定した点にX線が照射され、その際にX線照射点からイメージングプレート15までの距離が設定値になるための、ステージX方向、ステージY方向およびステージZ方向の移動量。
また、コントローラ101には入力装置102からの入力により、ステージ61の(測定対象物OBの)傾斜方向と傾斜量(符号が付いた傾斜量)を指定すると、その場合の上記の(A)〜(C)を計算して表示するためのプログラムもインストールされている。また、コントローラ101には入力装置102からの入力により、X線回折測定装置1においてテーブル20をX線出射器10から出射されるX線が貫通孔27b,27a1,16a,17a,18aを介して出射口51Cから出射のされる位置にしたうえでX線を設定された時間だけ出射し、イメージングプレート15に形成された回折環の形状をレーザ検出装置30により読取り、読取った回折環の形状から残留応力を計算するプログラムもインストールされている。これらのプログラムが実行する制御およびデータ処理の詳細については、これより後に、前述のように構成されたX線回折測定システムにおいて、作業者が測定対象物OBの残留応力測定のために行う操作に沿って説明する。その前に、X線回折測定装置1が接続されているアーム式移動装置によりX線回折測定装置1のステージ61に対する位置を調整した後、コントローラ101には予め上記(A)〜(C)に示した回折環の形状、X線の入射角度およびステージ61の移動量を計算する際に使用する値として、様々な値や式を記憶させておく必要があるので、それらの値や式を求める方法について説明する。
【0056】
コントローラ101には3次元形状測定装置2の座標系Dにおける次の(1)〜(4)の値および式を記憶させておく。これらを視覚的に示したものが
図4である。なお、(3)の式および(4)の値は、X線回折測定装置1と3次元形状測定装置2の位置関係が変わらない限り一定であるので、X線回折測定装置1の位置を調整するごとに行わなくてもよい。
(1)ステージ61の3つの移動方向における単位ベクトルVx,Vy,Vzの成分。
(2)ステージ61の移動位置が設定位置(例えば駆動限界位置、すなわち移動位置0の位置)にあるときの、ステージ61のX軸周りの傾斜とY軸周りの傾斜における回転軸Rx,Ryを表す直線式。
(3)X線の光軸Xaを表す直線式。
(4)イメージングプレート15の表面とX線の光軸が交差する点Xiの座標値。
以下、3次元形状測定装置2、X線回折測定装置1、移動装置70および傾斜装置60を用いてこれらの(1)〜(4)の値および式を求める方法について説明する。
【0057】
(1)ステージ61の3つの移動方向における単位ベクトルVx,Vy,Vzの成分。
ステージ61に定点定義可能な基準物体(例えば球体)を動かないように載置し、ステージ61を移動装置70によりステージX方向に移動させて3次元形状測定装置2により形状測定が可能な位置にする。そして、入力装置102から測定指令を入力して3次元形状測定装置2により形状測定を行う。コントローラ101では3次元形状測定装置2から入力したデータを用いてデータ処理を行い点群データが算出されるが、この点群データには基準物体の点群データの他にステージ61の点群データおよびその周囲にある物体の点群データがあるので、この点群データから基準物体の点群データのみを抽出し、抽出した点群データから基準物体中に定義される定点座標(球体であれば球体の中心)の座標値を計算する。点群データから基準物体の点群データのみを抽出するためのデータ処理の手法は既存技術であり、例えば特許第3952467号に記載されている。次に入力装置102からの入力により、3次元形状測定装置2による形状測定が可能な範囲内でステージ61をステージX方向に移動させ、上記と同様に3次元形状測定装置2により形状測定を行い、コントローラ101で点群データを処理して基準物体中に定義される定点座標(球体であれば球体の中心)の座標値を算出する。これにより、2つの定点座標が得られるので、この2つの定点座標を結ぶ方向のベクトル成分を計算し、このベクトル成分をベクトルの大きさで除算することで、単位ベクトルVxの成分を計算する。この単位ベクトルVxの向きは
図4に示すように3次元形状測定装置2からX線回折測定装置1に向かう向き(すなわち、ステージX方向)を正とする。次に、同様に3次元形状測定装置2による形状測定が可能な範囲内で基準物体を移動装置70によりステージY方向に移動させ、ステージY方向の異なる2点で3次元形状測定装置2により形状測定を行い、点群データを処理して2つの定点座標を求め、2つの定点座標から単位ベクトルVyの成分を計算する。この単位ベクトルVyの向きは
図4に示すようにX線回折測定装置1の前方方向(すなわち、ステージY方向)を正とする。さらに、同様に3次元形状測定装置2による形状測定が可能な範囲内で基準物体を移動装置70によりステージZ方向に移動させ、ステージZ方向の異なる2点で3次元形状測定装置2により形状測定を行い、点群データを処理して2つの定点座標を求め、2つの定点座標から単位ベクトルVzの成分を計算する。この単位ベクトルVzの向きは
図4に示すようにステージ61が高くなる方向(すなわち、ステージZ方向)を正とする。これにより、単位ベクトルVx,Vy,Vzの成分が得られる。
【0058】
(2)ステージ61の移動位置が設定位置にあるときの、ステージ61のX軸周りの傾斜とY軸周りの傾斜における回転軸Rx,Ryを表す直線式。
ステージ61に定点定義可能な基準物体(例えば球体)を動かないように載置し、移動装置70によりステージ61を予め設定された移動位置Xstd,Ystd,Zstdに移動させる。3次元形状測定装置2による形状測定が可能であれば、移動位置がXstd=0,Ystd=0,Zstd=0になる駆動限界位置にすると、後述する計算が簡単になるので好ましい。次に上記(1)の単位ベクトルVx,Vy,Vzの成分を求めた場合と同様に、3次元形状測定装置2により形状測定を行い、点群データを処理して定点座標を求める。次に傾斜装置60によりステージ61のX軸周りの傾斜を変更して、同様に3次元形状測定装置2により形状測定を行い、点群データを処理して定点座標を求め、さらに傾斜装置60によりステージ61のX軸周りの傾斜を変更して、同様に定点座標を求める。すなわち、X軸周りの傾斜が3つの傾斜角度にあるときの定点座標をそれぞれ求める。3つの傾斜角度は、例えばマイナス方向の最大傾斜角度、0付近の傾斜角度およびプラス方向の最大傾斜角度とすればよい。次に得られた3つの定点座標から以下の順で計算を行い、回転軸Rxを表す直線式を計算する。
・3つの定点座標を平面式 a・X+b・Y+c・Z+d = 0の式に代入して、連立方程式を解くことで3つの座標を含む平面式a1・X+b1・Y+c1・Z+d1 = 0を求める。
・3つの定点座標の内、2つの定点座標値を減算して2つの定点座標を結ぶ方向にあるベクトルの成分を計算し、2つの定点座標値を加算して2で除算することで2つの定点座標の中点の座標値を計算する。そして、このベクトルが法線ベクトルで中点を含む平面の式a2・X+b2・Y+c2・Z+d2 = 0を求める。
・3つの定点座標の内、先に選択しなかった定点座標ともう1つの定点座標値から同様の計算によりa3・X+b3・Y+c3・Z+d3 = 0を求める
・3つの平面式a1・X+b1・Y+c1・Z+d1
= 0、a2・X+b2・Y+c2・Z+d2 = 0、およびa3・X+b3・Y+c3・Z+d3 = 0からなる連立方程式を解くことで3つの定点座標が円周上にある円の中心座標値(xc,yc,zc)を求める。回転軸Rxを表す直線式は、(X−xc)/a1=(Y−yc)/b1=(Z−zc)/c1である。なお、後述する回転軸Ryを表す直線式と区別するため、回転軸Rxを表す直線式を、(X−xcx)/ax=(Y−ycx)/bx=(Z−zcx)/cxとする。
【0059】
次にステージ61のY軸周りの傾斜を変更して、X軸周りの傾斜の場合と同様に3次元形状測定装置2により形状測定を行い、点群データを処理して3つの定点座標を求める。次に得られた3つの定点座標から回転軸Rxを表す直線式を計算した場合と同様の手順で計算を行い、回転軸Ryを表す直線式を計算する。回転軸Ryを表す直線式を、(X−xcy)/ay=(Y−ycy)/by=(Z−zcy)/cyとする。
【0060】
(3)X線の光軸を表す直線式Xa。
X線回折測定装置1のケース50の切欠き部壁50cを取り外し、テーブル16にイメージングプレート15を取付けるための固定具18を外して、X線出射器10から出射されたX線が通過する貫通孔27a1に外径が貫通孔27a1と略同じ大きさの棒111を挿入する。この棒111は先端が尖ったものであり、先端に接触した物に着色する液体(例えばインク)をつけてある。次にステージ61を移動装置70によりステージX方向に移動させて、棒111をX線照射方向に移動させると先端がステージ61の中央部分に当たる位置にする。そして
図5に示すように、ステージ61にX線照射により回折環を形成可能な平板状の金属(鉄が最もよい)110を載置し、棒111の先端を接触させて、平板状の金属110に印をつける。次にこの印の箇所に
図6に示すように、2つの球体113,114の中心にピン112を通した物体で先端115が接着可能になっている物体の先端115をつける。この状態でステージX方向の移動位置を検出した後、ステージ61をステージX方向に3次元形状測定装置2により形状測定が可能な位置まで移動させ、再びステージX方向の移動位置を検出し、移動前の移動位置から減算してX方向の移動距離Lxを算出する。次に3次元形状測定装置2により形状測定を行い、コントローラ101に入力し計算された点群データから以下の順で計算を行い、X線の光軸上の1点の座標値を求める。
・球体113の点群データのみを抽出して抽出した点群データから球体113の中心座標を計算する。球体113,114の直径の値は予め記憶されており、球体という限定と球体113の直径値の限定から球体113の点群データが抽出される。この手法は前述のように詳しくは特許第3952467号に記載されている。
・同様にして球体114の点群データのみを抽出して抽出した点群データから球体114の中心座標を計算する。
・球体113の中心座標値から球体114の中心座標値を減算し、球体113と球体114間の距離で除算することで球体113の中心から球体114の中心に向かう単位ベクトルの成分を求め、このベクトル成分に予め記憶してある球体113(又は球体114)の中心から先端115までの距離を乗算して球体113(又は球体114)の中心座標に加算することで先端115の位置(金属110に印をつけた位置であり、出射したX線が金属110に当たる位置)の座標値を求める。
・求めた座標値に1)で求めた単位ベクトルVxの成分に移動距離Lxを乗算したベクトル成分を加算する。得られた座標値がX線の光軸上の1点の座標値である。
【0061】
なお、上記実施形態では、点群データから求めた球体113と球体114の中心座標と、予め記憶してある球体113(又は球体114)の中心から先端115までの距離から先端115の位置の座標値を求めたが、点群データから別の処理を行って先端115の位置の座標値を得ることもできる。この処理は、球体113と球体114の中心座標を求めるまでの処理は同じであるが、それ以降は次の処理を行う。
・球体113と球体114の中心を結ぶ線分方向に球体113の中心から線分の大きさと同じ距離だけ離れた座標値を求め、この座標値を中心とした設定した半径の球体内にある点群データを抽出する。
・抽出した点群データから最小2乗法で平面方程式を算出し、算出した平面からの距離が設定された範囲内にある点群データを抽出し、抽出した点群データにより再度最小2乗法で平面方程式を算出する。これを、抽出する点群データが変化しなくなるまで行う。
・球体113と球体114の中心を通る直線の式を求め、抽出した点群データから作成した平面方程式との連立方程式を解くことで、直線と平面が交差する座標値を求める。求めた座標値がX線の光軸上の1点の座標値である。
【0062】
次に移動装置70によりステージ61をステージZ方向(
図5の上方向)に移動させ、上記と同様にして棒111の先端を平板状の金属110に接触させて印をつけ、印の箇所に
図6に示す球体113と球体114を備える物体の先端115をつけて、ステージ61をステージX方向に3次元形状測定装置2により形状測定が可能な位置まで移動させる。そして、上記と同様に3次元形状測定装置2により形状測定を行い、コントローラ101にて点群データを処理してX線の光軸上の別の1点の座標値を得る。これによりX線の光軸上の2点の座標値が得られるので、これからX線の光軸Xaを表す直線式として(X−xr)/ar=(Y−yr)/br=(Z−zr)/crを計算する。なお、後述するイメージングプレート15の表面とX線の光軸が交差する点の座標値Xiを求めるため、ステージ61をステージZ方向に移動させた後、ステージ61の高さ位置、ステージ61に載置した平板状の金属110の位置を固定する。
【0063】
(4)イメージングプレート15の表面とX線の光軸が交差する点Xiの座標値。
X線回折測定装置1のテーブル16にイメージングプレート15を取り付け、固定具18で固定して、X線の光軸Xaを表す直線式を求める際に取り外したX線回折測定装置1のケース50の切欠き部壁50cを取りつける。そして、ステージ61をステージX方向に移動させる前の位置(金属110に棒111の先端で印をつけた位置)に戻し、金属110に鉄粉を糊塗する。これは、残留応力0の鉄にしてX線が照射された場合、理論値の回折角度で回折X線が発生するようにするためである。次に入力装置102からの測定開始指令の入力により、X線出射器からX線を出射してイメージングプレート15に回折環を形成し、形成された回折環を光ヘッドからのレーザ照射により読取る。この時、コントローラ101が実行するプログラムは前記背景技術の特許文献1に記載されている通りであり、後述する測定対象物OBの残留応力測定において説明する。読取った回折環は残留応力0であるため略真円である。この回折環の半径値を求め、この半径値と残留応力0の鉄における回折角度の理論値とからX線照射点からイメージングプレート15までの距離を求める。そして、X線の光軸を表す直線式Xaを求める際に求めた2つの座標値における2回目の座標値から1回目の座標値を減算し2つの座標値間の距離で除算することで得られる単位ベクトルの成分にこの距離を乗算してベクトル成分を求め、2回目の座標値にこのベクトル成分を加算する。得られた座標値がイメージングプレート15の表面とX線の光軸Xaが交差する点Xiの座標値である。
【0064】
前述のように、上記(1)〜(4)の値が得られる、または変更されると、コントローラ101は3つの座標変換係数を計算し、記憶する。これらの座標変換係数の計算の仕方を、以下の(5)〜(7)にて説明する。
(5)3次元形状測定装置2の座標系Dによる座標値を、座標系の原点はそのままでステージX方向、ステージY方向、ステージZ方向の3つの移動方向をX軸,Y軸,Z軸にした座標系Sの座標値に変換するための座標変換係数Mds。
座標変換係数Mdsは3×3の行列式であり、この行列式の成分をg11〜g33とすると、座標変換の式は以下の数1である。以下の数1の(x’,y’,z’)に(1,0,0)を代入し、(x,y,z)
に単位ベクトルVx の成分を代入した式と、(x’,y’,z’)に(0,1,0)を代入し、(x,y,z)
に単位ベクトルVy の成分を代入した式と、(x’,y’,z’)に(0,0,1)を代入し、(x,y,z)
に単位ベクトルVy の成分を代入した式を作成する。
【数1】
それぞれの行列式を展開して行列式の成分が同じものをまとめると、g11,g12,g13を未知数とする3つの式の連立方程式、g21,g22,g23を未知数とする3つの式の連立方程式、g31,g32,g33を未知数とする3つの式の連立方程式が作成される。この連立方程式を解くことにより、座標変換係数Mdsとして行列式の成分g11〜g33を求めることができる。
【0065】
(6)3次元形状測定装置2の座標系Dによる座標値を、座標系の原点はそのままにした以下の座標軸を有する座標系Iの座標値に座標変換するための座標変換係数Mdi。
・Z方向がX線の光軸に平行でX線の照射方向とは逆方向
・X方向がステージX方向をイメージングプレート15の平面に投影させた方向
・Y方向がZ軸方向,X軸方向に垂直でX線回折装置1の前方方向
この座標変換係数Mdiも3×3の行列式であり、行列式の成分をg11〜g33とすると、座標変換の式は上記の数1である。この行列式の成分g11〜g33を求めるため、座標系IのX方向,Y方向,Z方向の単位ベクトルVxi,Vyi,Vziの座標系Dによるベクトル成分を求める。座標系Dによる単位ベクトルVziの成分は、X線の光軸Xaに平行なベクトル(ar,br,cr)をベクトルの大きさで除算することで求める。ar,br,crは上記(3)で求めた、X線の光軸Xaを表す直線式(X−xr)/ar=(Y−yr)/br=(Z−zr)/crの係数である。なお、このときベクトルの向きがX線の照射方向とは逆方向になるよう留意する。座標系Dによる単位ベクトルVyiの成分は、単位ベクトルVziと単位ベクトルVxの外積により得られるベクトル成分をベクトルの大きさで除算することで求める。なお、外積は単位ベクトルVziを前側にすることで単位ベクトルVyiの向きがX線回折装置1の前方方向になるようにする。座標系Dによる単位ベクトルVxiの成分は、単位ベクトルVyiと単位ベクトルVziとの外積により求める。なお、外積は単位ベクトルVyiを前側することで単位ベクトルVxiの向きがステージX方向とほぼ同じ方向になるようにする。そして、上記の数1の(x’,y’,z’)に(1,0,0)を代入し、(x,y,z)
に単位ベクトルVxiの成分を代入した式と、(x’,y’,z’)に(0,1,0)を代入し、(x,y,z) に単位ベクトルVyiの成分を代入した式と、(x’,y’,z’)に(0,0,1)を代入し、(x,y,z) に単位ベクトルVyiの成分を代入した式を作成し、座標変換係数Mdsを求めたときと同じ計算方法により座標変換係数Mdiを求める。
【0066】
(7)座標系Sによる座標値を、座標系Iの座標値に座標変換するための座標変換係数Msi。
この座標変換係数Msiも3×3の行列式であり、上記で求めた、座標変換係数Mds,座標変換係数Mdiから次の数2の計算により求めることができる。
(数2)
Msi=Mdi・Mds
−1
【0067】
さらに、コントローラ101は上記(5)〜(7)の座標変換係数を計算すると、次に以下の(8)〜(10)の値を計算して記憶する。
(8)座標系Sによるイメージングプレート15の表面からの距離が設定値LsであるX線の照射点Xmの座標値
(9)座標系Sによる座標系Dの原点をステージ61のX軸周りの傾斜における回転軸Rxに含ませるためのY,Z方向への移動量
(10)座標系Sによる座標系Dの原点をステージ61のY軸周りの傾斜における回転軸Ryに含ませるためのX,Z方向への移動量
以下、これらの(8)〜(10)値を計算する方法について説明する。
【0068】
(8)座標系Sによるイメージングプレート15の表面からの距離が設定値LsであるX線の照射点Xmの座標値
上記(4)で求めたイメージングプレート15の表面とX線の光軸が交差する点Xiの座標値に、上記(3)で求めたX線の光軸Xaを表す直線式に平行で方向がX線照射方向である単位ベクトルの成分に設定値Lsを乗算したベクトルの成分を加算する。得られる座標値は、座標系DによるX線の照射点Xmの座標値であるので、この座標値を上記(5)で求めた座標変換係数Mdsにより座標変換することで座標系SによるX線の照射点Xmの座標値にする。
【0069】
(9)座標系Sによる座標系Dの原点をステージ61のX軸周りの傾斜における回転軸Rxに含ませるためのY,Z方向への移動量
回転軸Rxに垂直で原点を含む平面と回転軸Rxの交点の座標値を、平面式ax・X +bx・Y +cx・Z =0と直線式(X−xcx)/ax=(Y−ycx)/bx=(Z−zcx)/cxからなる連立方程式を解くことで求める。求めた座標値は、座標系Dによる座標値であるので座標変換係数Mdsにより座標変換することで座標系Sによる座標値にする。回転軸Rxの方向は、ステージX方向と略同一であるので、得られるX座標値は0に近い。そして、Y座標値、Z座標値がY,Z方向への移動量になる。この値をYfst,Zfst1とする。
【0070】
(10)座標系Sによる座標系Dの原点をステージ61のY軸周りの傾斜における回転軸Ryに含ませるためのX,Z方向への移動量
回転軸Ryに垂直で原点を含む平面と回転軸Ryの交点の座標値を、平面式ay・X +by・Y+cy・Z =0と直線式(X−xcy)/ay=(Y−ycy)/by=(Z−zcy)/cyからなる連立方程式を解くことで求める。求めた座標値は、座標系Dによる座標値であるので座標変換係数Mdsにより座標変換することで座標系Sによる座標値にする。回転軸Ryの方向は、ステージY方向と略同一であるので、得られるY座標値は0に近い。そして、X座標値、Z座標値がX,Z方向への移動量になる。この値をXfst,Zfst2とする。
【0071】
このように、コントローラ101に上記(A)〜(C)に示した回折環の形状、X線の入射角度およびステージ61の移動量を計算する際に使用する値として、様々な値や式を記憶させると、測定対象物OBの測定が可能になる。これより以降は、作業者が測定対象物OBの残留応力測定のために行う操作とともに、コントローラ101が実行するプログラムについて説明する。
【0072】
作業者は、
図10に示された工程図に従って、入力装置102からの入力、表示装置103の画面確認および傾斜装置60および移動装置70の手動操作を行う。作業者はまず、S10にて傾斜装置60に示されている目盛りを見ながら傾斜量を0にしたうえでステージ61に測定対象物OBを載置し、入力装置102から測定対象物OBの材質(例えば、鉄)を入力する。次に、作業者はS11において、入力装置102からの入力により、ステージ61を3次元形状測定装置2により測定対象物OBの形状測定が可能になる位置まで移動させる。この状態を示したものが
図7の(A)である。入力装置102から入力するものは、移動量(移動位置)でも移動方向指令と停止指令でもよい。次に作業者は、S12において、入力装置102から3次元形状測定開始の指令を入力する。これにより3次元形状測定装置2が作動し、3次元形状測定装置2から3次元形状の元となるデータがコントローラ101に入力し、コントローラ101でのデータ処理により点群データおよび3次元形状画像データが作成されて、表示装置103に測定対象物OBの3次元形状画像を表示される。次に作業者は、S13において、入力装置102からの入力により、表示装置103に表示された3次元形状画像上にX線照射点を決定する。
【0073】
X線照射点を決定すると、コントローラ101は、上記(A)〜(C)に示した回折環の形状、X線の入射角度およびステージ61の移動量を計算する。以下、このデータ処理の手法について説明する。
(A)決定した点にX線が照射された場合にイメージングプレートに形成される回折環の形状。
コントローラ101は、次の[1]〜[9]の順でデータ処理を行う。
[1]点群データを予め記憶されている座標変換係数Mdiにより座標変換し、座標系Iによる点群データ(xi,yi,zi)にする
[2]X線照射点として指定されたポイントの座標値(xp,yp,zp)を、座標変換係数Mdiにより座標変換し、座標系Iによる座標値(xpi,ypi,zpi)にする。
[3]座標系Iによる点群データの座標値から座標値(xpi,ypi,zpi)を減算し、新たな点群データ(xi’,yi’,zi’)にする。この点群データは座標系Iにおける座標値(xpi,ypi,zpi)を座標原点にした座標系I’の点群データである。
[4]座標系I’をZ軸周りに回転する角度Θnを0°にする。
[5]点群データ(xi’,yi’,zi’)からY座標値の絶対値が微少値A以下であり、X座標値が正であるものを抽出し、tan
−1(xi’/zi’)を計算して最大値を抽出する。
[6]tan
−1(xi’/zi’)の最大値が(90°−理論上の回折角度)以上か否かを判定し、以上である場合はEx=0、未満である場合はEx=1とし、回転角度Θnの値に対応させて記憶する。理論上の回折角度は測定対象物OBが鉄であれば、鉄の原子間距離およびX線の波長をブラックの条件式に代入することで求めることができる。
[7]回転角度ΘnにΘsを加算して、新たなΘnにし、以下の数3により点群データ(xi’,yi’,zi’)の座標変換を行う。Θsは例えば2〜5°程度の値である。
【数3】
[8]点群データ(xi”,yi”,zi”)において、上記[5]〜[7]の処理を繰り返し行う。[7]の処理を行う際、回転角度Θnが360°を超えていれば[7]の処理は実行せず、次の[9]の処理を行う。
[9]円周においてEx=1の回転角度Θnの箇所にドットを表示し、Ex=0の箇所にドットを表示しないようにして円周の画像を表示装置103に表示させる。表示された円周の画像が、イメージングプレートに形成される回折環の形状である。円周の画像は、ドットが連続している箇所を線で結んだものにしてもよい。
【0074】
上記のデータ処理を視覚的に示すと、
図8に示すように、測定対象物OBにおける回折X線の発生箇所(X線照射箇所)からイメージングプレート15の回折環形成箇所までの間に測定対象物OBが存在して回折X線が遮られるか否かを、回折X線の発生方向それぞれにおいて判定する処理である。さらに具体的には、X線の光軸Xaを含む平面をX線の光軸Xa周りに回転させ、それぞれの平面で、回折X線の発生箇所(X線照射箇所)からイメージングプレート15の回折環形成箇所を結ぶ線よりX線の光軸Xa側に、測定対象物OBの表面における複数の点である点群が存在するか否かを判定する処理である。存在する場合は回折環は形成されないとし、存在しない場合は回折環は形成されるとする。
【0075】
(B)決定した点にX線が照射された場合のX線の入射角度。
上記[3]のデータ処理で得られた座標系I’による点群データ(xi’,yi’,zi’)の中から、原点(0,0,0)からの距離が設定された範囲内にある点群データを抽出する。これは視覚的には、X線照射点として指定されたポイントを中心にした設定された半径値の球体内にある点群を抽出する処理である。次に抽出した点群データから最小2乗法により平面式am・X+bm・Y+cm・Z+dm = 0を算出する。これは視覚的には、抽出した点群からの距離の合計が最も小さくなる平面を求める処理である。そして、ベクトル(am,bm,cm)とベクトル(0,0,1)が成す角度を内積の式から求める。ベクトル(am,bm,cm)は向きがイメージングプレート15に向かう方向とは逆方向になる場合があるので、求めた角度が90°を超えるときは、90°を減算する。得られた角度が指定されたポイントへのX線の入射角度である。
【0076】
(C)決定した点にX線が照射され、その際にX線照射点からイメージングプレート15までの距離が設定値になるための、ステージX方向、ステージY方向およびステージZ方向の移動量。
X線照射点として指定されたポイントの座標値(xp,yp,zp)を、座標変換係数Mdsにより座標変換し、座標系Sによる座標値(xps,yps,zps)にする。そして、予め記憶されているX線の照射点Xmの座標値(上記(8)参照)から座標値(xps,yps,zps)を減算し、ベクトル成分(xfs,yfs,zfs)を得る。xfsがステージX方向の移動量、yfsがステージY方向の移動量、zfs がステージZ方向の移動量である。なお、この時点のステージ61の移動位置(原点からの移動量)にこれらの移動量を加算して、ステージX方向、ステージY方向およびステージZ方向の移動位置(原点からの移動量)としてもよい。この場合、ステージY方向およびステージZ方向の移動位置は目視での読取りであるので、作業者に表示装置103にて入力を指示するようにする。
【0077】
上記(A)〜(C)に示した回折環の形状、X線の入射角度およびステージ61の移動量がコントローラ101で計算され、表示装置103に表示されると、作業者はS14にて回折環の形状を確認する。回折環に欠けが発生していなければS15は「Yes」、S18は「No」であるのでS20に進み、後述するように移動装置70を操作して表示装置103に表示されているステージX方向、ステージY方向、ステージZ方向の移動量だけステージ61を移動させる。回折環に欠けが発生している場合は、S16にて入力装置102から現在のステージY方向移動量Ystと、ステージZ方向移動量Zstとを入力した後、S17にて仮想上でステージ61を傾斜装置60により傾斜させたときの2つの回転軸Rx,Ry周りの傾斜量(符号により傾斜方向が示された値)を入力し、S14にて表示装置103に表示される回折環の欠けを確認する。そして、回折環に欠けがなくなるまで、または欠けが極力少なくなるまでS14とS17を繰り返す。このときコントローラ101は、傾斜量を入力するごとに表示装置103に入力した傾斜量を表示するとともに、上記(A)〜(C)に示した回折環の形状、X線の入射角度およびステージ61の移動量を再度計算して表示装置103に表示する。このコントローラ101が実行するデータ処理の手法について以下に説明する。
【0078】
(A’)決定した点にX線が照射された場合にイメージングプレートに形成される回折環の形状。
コントローラ101は、次の[1]〜[11]の順でデータ処理を行う。
[1]現在のステージ61のステージX方向移動量Xstを移動量検出回路33から入力し、予め記憶されているステージX方向移動量Xstd(回転軸Rx,Ryを表す直線式を求める際の移動位置、上記(2)参照)を減算して差分移動量Xdeとする。同様に、作業者が入力装置102から入力したステージY方向移動量Ystから予め記憶されているステージX方向移動量Ystdを減算して差分移動量Ydeとし、作業者が入力したステージZ方向移動量Zstから予め記憶されているステージZ方向移動量Zstdを減算して差分移動量Zdeとする。なお、ステージX方向移動量Xstd,ステージY方向移動量YstdおよびステージZ方向移動量Zstdがすべて0であれば(回転軸Rx,Ryを表す直線式を移動装置70の駆動限界位置で求めるようにすれば)Xst=Xde,Yst=Yde,Zst=Zdeである。
[2]点群データを予め記憶されている座標変換係数Mdsにより座標変換し、座標系Sによる点群データ(xs,ys,zs)にする。
[3]点群データ(xs,ys,zs)のY座標値から、予め記憶されている座標系Sによる座標系Dの原点を回転軸Rxに含ませるためのY方向への移動量Yfstと、本データ処理の[1]で求めた差分移動量Ydeを減算し、Z座標値から座標系Sによる座標系Dの原点を回転軸Rxに含ませるためのZ方向への移動量Zfst1と、上記[1]で求めた差分移動量Zdeを減算する。すなわち、点群データ(xs,ys,zs)を点群データ(xs,ys−Yfst−Yde,zs−Zfst1−Zde)にする。
[4]減算して得られた点群データを、作業者が入力装置102から入力した回転軸Rx周りの傾斜量Θxを用いて、以下の数4による座標変換を行う。
【数4】
この場合、回転軸Rx周りの傾斜量ΘxはステージX方向(座標系SのX方向)に見て左周りを正とする。
[5]座標変換された点群データを(xsa,ysa,zsa)とすると、このY座標値に、本データ処理の[3]で減算したY方向への移動量Yfstと差分移動量Ydeを加算し、Z座標値に本データ処理の[3]で減算したZ方向への移動量Zfst1と差分移動量Zdeを加算する。すなわち、点群データ(xsa,ysa,zsa)を点群データ(xsa,ysa+Yfst+Yde,zsa+Zfst1+Zde)にする。
[6]加算して得られた点群データを(xsb,ysb,zsb)とすると、このX座標値から、予め記憶されている座標系Sによる座標系Dの原点を回転軸Ryに含ませるためのX方向への移動量Xfstと、本データ処理の[1]で求めた差分移動量Xdeを減算し、Z座標値から座標系Sによる座標系Dの原点を回転軸Ryに含ませるためのZ方向への移動量Zfst2と、上記[1]で求めた差分移動量Zdeを減算する。すなわち、点群データ(xsb,ysb,zsb)を点群データ(xsb−Xfst−Xde,ysb,zsb−Zfst2−Zde)にする。
[7]減算して得られた点群データを、作業者が入力装置102から入力した回転軸Ry周りの傾斜量Θyを用いて、以下の数5による座標変換を行う。
【数5】
この場合、回転軸Ry周りの傾斜量ΘyはステージY方向(座標系SのY方向)に見て左周りを正とする。
[8]座標変換された点群データを(xsc,ysc,zsc)とすると、このX座標値に、本データ処理の[6]で減算したX方向への移動量Xfstと差分移動量Xdeを加算し、Z座標値に本データ処理の[6]で減算したZ方向への移動量Zfst2と差分移動量Zdeを加算する。すなわち、点群データ(xsc,ysc,zsc)を点群データ(xsc+Xfst+Xde,ysc,zsc+Zfst2+Zde)にする。
[9]得られた点群データを予め記憶されている座標変換係数Msiにより座標変換し、座標系Iによる点群データ(xsi,ysi,zsi)にする。
[10]X線照射点として指定されたポイントの座標値(xp,yp,zp)について、本データ処理の[2]〜[9]と同じ処理を行い、座標系Iによる座標点(xpi,ypi,zpi)にする。なお、[8]の処理により求めた座標値(xps,yps,zps)は後述するX線の入射角度の計算のため記憶しておく。
[11]前述した(A)決定した点にX線が照射された場合にイメージングプレートに形成される回折環の形状におけるデータ処理の[3]〜[9]と同じ処理を行う。
【0079】
(B’)決定した点にX線が照射された場合のX線の入射角度。
前述した(A’)決定した点にX線が照射された場合にイメージングプレートに形成される回折環の形状のデータ処理における[11]の処理の中の、前述した(A)のデータ処理の[3]のデータ処理で得られた座標系I’による点群データ(xi’,yi’,zi’)を用いて、前述した(B)決定した点にX線が照射された場合のX線の入射角度におけるデータ処理と同じ処理を行う。
(C’)決定した点にX線が照射され、その際にX線照射点からイメージングプレート15までの距離が設定値になるための、ステージX方向、ステージY方向およびステージZ方向の移動量。
前述した(A’)決定した点にX線が照射された場合にイメージングプレートに形成される回折環の形状におけるデータ処理の、[10]の処理で記憶した座標値(xps,yps,zps)を、予め記憶されているX線の照射点Xmの座標値(上記(8)参照)から減算し、ベクトル成分(xfs,yfs,zfs)を得る。xfsがステージX方向の移動量、yfsがステージY方向の移動量、zfs がステージZ方向の移動量である。前述したように移動位置(原点からの移動量)を求めてもよい。
【0080】
前述した(A’)〜(C’)のデータ処理は、視覚的には、測定対象物OBの表面にある複数の点群を回転軸Rx,回転軸Ry周りに角度Θx,Θyだけ回転させた状態にし、前述した(A)〜(C)と同じ処理を行うものである。
図9に示すように、ステージ61の傾斜量が異なると測定対象物OBの一部による回折X線の妨害のされ方が異なり、形成される回折環の形状が異なる。よって、作業者は入力装置102から回転軸Rx,回転軸Ry周りの傾斜量Θx,Θyを入力するごとに回折環の形状を確認し、回折環に欠けが発生しないか、または欠けが極力少ない状態を見つる。なお、このときコントローラ101は前述した(A’)〜(C’)のデータ処理以外に、表示装置103に表示されている3次元形状画像を入力された傾斜量Θx,Θyにより変更するデータ処理を行ってもよい。このデータ処理は、前述した(A’)決定した点にX線が照射された場合にイメージングプレートに形成される回折環の形状のデータ処理における[8]のデータ処理により得られた点群データを以下の数6による座標変換により変換し、変換した点群データにより3次元形状画像を作成する処理である。
【数6】
【0081】
作業者はS14とS17の操作を繰り返し、回折環に欠けがなくなると、または欠けが極力少なくなると、S15、S18は「Yes」であるので、S19にて傾斜装置60の傾斜角度が示す目盛りを読み取りながら傾斜装置60を傾斜させ、表示装置103に表示されている傾斜量(入力装置102から入力した傾斜量)と同じ傾斜量にする。そして、作業者はS20にて入力装置102からの入力により、表示装置103に表示されている値だけステージ61をステージX方向へ移動させる。また、移動装置70の操作子75aを目盛りを見ながら回転させて、表示装置103に表示されている値だけステージ61をステージY方向へ移動させる。また、移動装置70の操作子72aを回転させるとともにマイクロメータ74を動かして目盛りを読み取り、表示装置103に表示されている値だけステージ61をステージZ方向へ移動させる。これにより、X線回折測定装置1から出射するX線が決定した点に照射されるようになる。この状態を示したものが
図7の(B)である。
【0082】
作業者は次にS21にて残留応力測定開始の指令を入力する。このとき、コントローラ101が実行するプログラムと、X線回折測定装置1内の各機器および回路の作動について説明する。ただし、上記(4)において前述したように、X線回折測定開始の指令を入力したとき、コントローラ101が実行するプログラムおよび各機器および回路の作動は背景技術の特許文献1に記載されているものと同じである。よって、これについては端的に説明するにとどめる。
【0083】
コントローラ101は、まずイメージングプレート15が撮像位置にある状態で、スピンドルモータ制御回路82を制御して、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート15の回転を停止させる。これにより、イメージングプレート15の回転角度が0度に設定される。
【0084】
次に、コントローラ101は、X線制御回路81を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させ、所定時間の経過後に、X線制御回路81を制御してX線出射器10にX線の出射を停止させる。これにより、X線出射器10から出射されたX線は、貫通孔26a,21a、通路部材28、貫通孔27b,27a1,16a,17a,18a及び円形孔50c1を介して外部に出射され、測定対象物OBの測定箇所に所定時間だけ照射される。このX線照射により、測定対象物OBのX線照射から回折X線が発生し、イメージングプレート15には回折環が撮像される。
【0085】
次に、コントローラ101は、フィードモータ制御回路85を制御して、イメージングプレート15を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の読取り開始位置とは、対物レンズ36の中心すなわちレーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。この場合、位置検出回路86から出力される位置信号は、移動ステージ21が移動限界位置にある状態から移動ステージ21が移動した移動距離xを表しており、移動ステージ21すなわちテーブル16(イメージングプレート15)が移動限界位置にある状態で、テーブル16(イメージングプレート15)の中心から対物レンズ36の中心位置までの距離は予め決められた所定値である。したがって、イメージングプレート15の読取り開始位置への移動は、位置検出回路86からの位置信号を用いて行われる。
【0086】
回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、測定対象物OBに対するX線の照射によりイメージングプレート15上に形成される回折環の半径であり、測定対象物OBにおけるX線の回折角度φx及びイメージングプレート15から測定対象物OBまでの距離Lに応じて決まる。そして、X線の回折角度φxは測定対象物OBの材質で決まり、前記距離Lは予め設定されている距離である。したがって、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角φxを記憶しておけば、前記入力した測定対象物OBの材質を用いることにより、コントローラ101は回折環基準半径RoをRo=L・tan(φx)の演算によって自動的に計算する。
【0087】
次に、コントローラ101は、スピンドルモータ制御回路82に、イメージングプレート15が所定の回転速度で回転するように指令し、レーザ駆動回路87にレーザ光源31からレーザ光の出射を指令する。これにより、回転するイメージングプレート15上にレーザ光が照射される。次に、コントローラ101は、フォーカスサーボ回路81にフォーカスサーボ制御の開始を指令し、対物レンズ36が、レーザ光の焦点がイメージングプレート15の表面に合うように光軸方向に駆動制御されるようにする。
【0088】
次に、コントローラ101は、回転角度検出回路83及びA/D変換回路90を作動させて、回転角度検出回路83からスピンドルモータ27(イメージングプレート15)の基準位置からの回転角度θpを入力させ始めるとともに、A/D変換回路90からSUM信号の瞬時値のディジタルデータをコントローラ101に出力させ始める。次に、コントローラ101は、フィードモータ制御回路85を制御してフィードモータ22を回転させて、イメージングプレート15を読取り開始位置から
図1及び
図2の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置が、イメージングプレート15において、回折環基準半径Roの若干内側の位置から外側方向に一定速度で相対移動し始める。
【0089】
その後、コントローラ101は、イメージングプレート15が所定の小さな角度だけ回転するごとに、SUM信号の瞬時値のディジタルデータをA/D変換回路90を介して入力するとともに、回転角度検出回路83からの回転角度θp及び位置検出回路86からの移動距離xを入力して、SUM信号の瞬時値のディジタルデータを、基準位置からの回転角度θpと、移動距離xに基づくイメージングプレート15の中心からのレーザ光の照射位置の径方向距離r(半径値r)とに対応させて順次記憶する。この場合も、移動ステージ21すなわちテーブル16(イメージングプレート15)が移動限界位置にある状態で、テーブル16(イメージングプレート15)の中心から対物レンズ36の中心位置までの距離は予め決められた所定値であるので、前記半径値rは移動距離xを用いて計算される。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置に関して、SUM信号の瞬時値、回転角度θp及び半径値rを表すデータが所定回転角度ごとに順次記憶されて蓄積されていく。
【0090】
SUM信号の瞬時値、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ101は、前記所定角度ごとに、SUM信号の瞬時値のピークに対応した半径値rを回折環の半径値とする。具体的には、回転角度θpが同一である複数のSUM信号の瞬時値が増加した後に減少している状態を検出することにより、前記複数のSUM信号の瞬時値のピークを検出し、このピークであるSUM信号の瞬時値に対応して記憶されている半径値rを取得する。そして、前記所定回転角度ごとの全ての半径値rを取得した時点で、SUM信号の瞬時値、回転角度θp及び半径値rを表すデータを所定回転角度ごとに検出し記憶する処理を終了する。これにより、回折環の形状が検出されたことになる。
【0091】
その後、コントローラ101は、フォーカスサーボ回路91によるフォーカスサーボ制御を停止させ、レーザ駆動回路87によるレーザ光源31のレーザ光の照射を停止させる。また、コントローラ101は、A/D変換回路90及び回転角度検出回路83の作動を停止させるとともに、フィードモータ制御回路85によるフィードモータ22の作動も停止させる。これにより、回折環読取りが終了される。なお、この状態では、位置検出回路86の作動及びイメージングプレート15の回転は、以前と同様のまま継続されている。
【0092】
次に、コントローラ101は、フィードモータ制御回路85を制御してイメージングプレート15を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の消去開始位置とは、LED光源43から出力される可視光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になるような位置である。この場合も、前記読取り開始位置の場合と同様に、イメージングプレート15の移動は、位置検出回路86からの位置信号を用いて行われる。
【0093】
次に、コントローラ101は、LED駆動回路84を制御してLED光源43による可視光のイメージングプレート15に対する照射を開始させるとともに、フィードモータ制御回路85を制御して、イメージングプレート15を前記消去開始位置から消去終了位置まで
図1及び
図2の右下方向に一定速度で移動させるように、フィードモータ22を回転させる。消去終了位置とは、LED光源43によるLED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光源43による可視光が、消去開始位置から消去終了位置まで、イメージングプレート15上に螺旋状に照射され、前記回折X線によって形成された回折環が消去される。
【0094】
次に、コントローラ101は、フィードモータ制御回路85を制御してイメージングプレート15の移動を停止させるとともに、LED駆動回路84を制御してLED光源43による可視光の照射を停止させる。また、コントローラ101は、位置検出回路86の作動を停止させるとともに、スピンドルモータ制御回路82を制御してスピンドルモータ27によるイメージングプレート15の回転も停止させる。これにより、回折環消去が終了する。
【0095】
また、コントローラ101は、前述した回折環消去と同時に残留応力の計算を実行する。この残留応力計算は、前述した回折環の読み取りにおいて得られた回折環の形状を表すデータ、すなわち回転角度ごとの回折環の半径値rと、予め得られている値である前記計算した回折環基準半径Ro、前記予め測定されたX線の入射角度φo、設定値である測定対象物OBからイメージングプレート15までの距離Loおよび前記入力した測定対象物OBの材質などを用いて、測定対象物OBのX線照射位置における残留圧縮応力、残留せん断応力などを計算するものである。これらの残留圧縮応力及び残留せん断応力は、従来からよく知られているcosαを用いて計算される。このとき、前述した測定対象物OBの傾斜量調整で回折環の発生を極力少なくした場合、すなわち、回折環の欠けを完全になくすことができなかった場合は、回折環には欠けが存在するが、回折環が形成されている箇所のデータを用いて計算される。そして、コントローラ101は、計算した残留応力を表示装置103に表示する。作業者はS22にて表示された残留圧縮応力及び残留せん断応力の大きさを見て、測定対象物OBの疲労度の評価等を行う。なお、コントローラ101に、残留応力以外に残留オーステナイト量、回折環の半価幅のように読取った回折環から算出できる他の特性値を計算させて表示装置103に表示させるようにし、作業者は他の特性値を含めて測定対象物OBの評価を行うようにしてもよい。
【0096】
このように上記実施形態においては、X線出射器10からX線を出射して測定対象物OBに照射し、イメージングプレート15に回折光の像である回折環を記録する機能を備えたX線回折測定装置1と、このX線回折測定装置1に対して位置及び姿勢が固定されており、測定対象物OBの3次元形状を測定し、3次元形状データの作成するための元データを出力する3次元形状測定装置2と、測定対象物OBの位置および姿勢を少なくとも2方向および1軸周りに変化させる移動装置70および傾斜装置60とを備える。そして、コントローラ101は、実行するプログラムにより、3次元形状測定装置2から入力するデータを用いて測定対象物OBの3次元形状データを作成し、作成された3次元形状データを用いて測定対象物OBの3次元形状画像を作成して表示装置103に表示する。また、コントローラ101は入力装置102からの入力により、表示装置103に表示された3次元形状画像内にX線出射器10から出射されるX線が照射されるポイントを指定することができる機能を有し、3次元形状測定装置10の座標系によりX線出射器10から出射されるX線の光軸位置を記憶している。そして、コントローラ101は、表示装置103に表示された3次元形状画像内にX線の照射ポイントが指定されると、実行するプログラムにより、記憶されているX線の光軸位置と、作成した測定対象物OBの3次元形状データとを用いて、移動装置70により測定対象物OBの位置を変化させて指定されたポイントにX線が照射されたとき、イメージングプレート15に形成される回折環の形状を計算して表示装置103に表示する。したがって、上記実施形態によれば、作業者は表示装置103に表示された回折環の形状を見ることにより、回折環の欠けの有無および回折環の欠けがある場合はその程度を確認することができる。これによれば、複雑な形状をしている測定対象物OBであっても、傾斜装置60により測定対象物OBの姿勢(測定対象物OBに対するX線の照射方向)ごとに回折環の形状を確認することができ、短時間で回折環の欠けを極力少なくすることができる測定対象物OBの姿勢(測定対象物OBに対するX線の照射方向)を見つけることができる。
【0097】
また上記実施形態においては、コントローラ101は、3次元形状測定装置2の座標系により傾斜装置60による測定対象物OBの姿勢の変化における回転軸の位置も記憶しており、入力装置102から、仮想上で傾斜装置60を用いて姿勢を変化させる際の姿勢の変化方向および変化量(すなわち符号付の傾斜量)を入力すると、入力された値および記憶している回転軸の位置を用いて、3次元形状測定装置2の測定により得られている測定対象物OBの3次元形状データを姿勢が変化した際の3次元形状データに変更することができる。そして、この変更した3次元形状データを用いても回折環の形状を計算することができる。したがって、上記実施形態によれば、表示装置103に表示された回折環の形状において欠けの程度が大きい場合は、実際に傾斜装置60により測定対象物OBの姿勢を変化させて再度3次元形状測定装置2により測定を行わずとも、仮想上で傾斜装置60により測定対象物OBの姿勢を変化させる際の姿勢の変化方向および変化量を入力装置102から入力しさえすれば、その変化を実際に行った時の回折環の形状を見ることができる。よって、回折環の欠けの程度が大きい場合は、回折環の欠けを極力少なくすることができる測定対象物OBの姿勢(傾斜装置60の傾斜量)を入力装置102からの入力を繰り返すことで仮想上で見つけ、傾斜装置60の傾斜量を見つけた傾斜量と同じになるよう変化させればよい。これによれば、複雑な形状をしている測定対象物OBであっても、さらに短時間で回折環の欠けを極力少なくすることができる測定対象物OBの姿勢(測定対象物OBに対するX線の照射方向)を見つけることができる。
【0098】
また上記実施形態においては、コントローラ101は、記憶されているX線の光軸位置と、3次元形状測定装置2による測定により得られた3次元形状データとを用いて、移動装置70により測定対象物OBの位置を変化させて、表示装置103に表示された3次元形状画像内に指定されたポイントにX線が照射された場合における、X線の入射角度を計算する。したがって、上記実施形態によれば、計算されたX線の入射角度を使用して残留応力を計算することができるので、精度の良い残留応力を計算することができる。
【0099】
また上記実施形態においては、コントローラ101は、3次元形状測定装置2の座標系により移動装置70による測定対象物OBの位置の変化におけるそれぞれの移動方向も記憶しており、この移動方向と記憶されているX線の光軸位置とを用いて、表示装置103に表示された3次元形状画像内に指定されたポイントにX線が照射されるようにするための、移動装置70のそれそれの移動方向の移動量を計算し、表示装置103に表示する。したがって、上記実施形態によれば、3次元形状画像内に指定したポイントにX線を照射させるためには、移動装置70によりどの方向にどれだけ移動させればよいかがわかるので、簡単に指定したポイントにX線を照射することができる。さらに具体的には、移動装置70は3方向に移動させることができるものであり、コントローラ101は指定されたポイントに、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定値になるようにX線が照射されるようにするための、それそれの移動方向の移動量を計算する。したがって、上記実施形態によれば、測定対象物OBによらずX線の照射点からイメージングプレート15までの距離は常に設定値にすることができる。
【0100】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0101】
上記実施形態は、測定対象物OBが3次元形状測定することが可能な場合において実施可能である。しかし、測定対象物OBの中には反射率が非常に低くて3次元形状測定することができない場合があり、このような場合は、上記実施形態は実施不可能である。よって、この場合は以下に示すようにX線回折測定装置1に別の機能を設け、別の方法により上記(A)、(B)に示した回折環の形状、X線の入射角度と、上記(C)の代わりにX線照射点からイメージングプレート15までの距離を求める。
【0102】
この実施形態においては、X線回折測定装置1はX線出射器から出射されるX線と光軸を同一にしてLED光を出射することができる。具体的には
図11に2点鎖線で示すように、X線出射器10とテーブル駆動機構20の上壁26との間に配置されたプレート45の一端部下面にLED光源44が固定されている。この2点鎖線の部分を立体的に示したものが
図12である。プレート45は、その他端部上面にて、ケース50内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、テーブル駆動機構20の上壁26に平行な面内を回転する。テーブル駆動機構20の上壁26にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を
図4のD1方向に回転させたとき、LED光源44がX線出射器10の出射口11及びテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aに対向する位置(A位置)に静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を
図4のD2方向に回転させたとき、プレート45がX線出射器10の出射口11とテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aとの間を遮断しない位置(B位置)に静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が
図12に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。
【0103】
LED光源44は、コントローラ101によって作動制御される駆動回路からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であり、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、貫通孔26a,21a、通路部材28の通路及び貫通孔27bを介して、スピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1に入射し、貫通孔16a,17a,18a及び切欠き部壁50cの円形孔50c1から出射される。このLED光の場合も、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、通路部材28を介して貫通孔27b,27a1,16a,17a内に入射したLED光はやや拡散しているが、貫通孔18aから出射されるLED光は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、円形孔50c1から出射される。
【0104】
モータ46はエンコーダ46aを備えており、エンコーダ46aはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を出力する。モータ46に駆動信号を供給する駆動回路は、コントローラ101から回転方向と回転開始の指示が入力されると、モータ46を指示方向に回転させ、エンコーダ46aからのパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、入力装置102からLED照射の指令を入力するとプレート45を前述したA位置まで回転させたうえでLED光源44からLED光を発光させ、LED照射停止の指令を入力すると、LED光源44の発光を停止したうえでプレート45を前述したB位置まで回転させることができる。
【0105】
作業者は3次元形状測定装置による測定対象物OBの測定の結果、形状測定不能であると判断すると、移動装置70によりステージ61を移動させ、測定対象物OBをX線回折測定装置1からX線照射される位置にする。そして、入力装置102からLED光照射開始の指令を入力し、X線回折測定装置1からX線の光軸と等しい光軸を有するLED光を照射させる。LED光の照射点がX線の照射点であるので、作業者は移動装置70による移動によりLED光の照射点が測定対象物の測定箇所になるように調整する。その後、作業者は入力装置102からの入力によりLED光を一旦消去し、X線回折測定装置1の円形孔50c1部分に
図13に示す治具200を取り付け、測定対象物OBの測定箇所に治具200の先端部209が接触するようにする。治具200は円板203を取り付けている骨組部分の円状部分201の4箇所に磁石201aが取り付けられており、X線回折測定装置1の筐体に磁力による吸着で取り付けることができる。また、治具200は円形孔50c1への取り付け位置が少々ずれても先端までLED光が行くように、骨組部分の半径部分202の中心にある円筒部分204にエキスパンダーレンズ205,206を備えている。また、治具200は円管部分207,208が伸縮できる構造になっているので最初は縮めたうえで、X線回折測定装置1の円形孔50c1部分に取り付け、円管部分を伸ばして先端部分209を測定箇所に接触するようにする。その状態で、入力装置102からの入力によりLED光を照射すると、
図13に示すように治具200の先端部分209にある円錐ミラー210でLED光が反射し、治具の平板203にリング状の照射跡が形成される。この照射跡が回折環に相当するので照射跡の欠け部分の程度を確認することで、回折環の欠けの程度を確認することができる。また、イメージングプレート15からLED光照射点(すなわちX線照射点)までの距離は、円板203に形成されたリング状の照射跡の径と1:1の関係にあるので、予めこの関係を求めて円板203に目盛をつけておけばリング状の照射跡からこの距離を求めることができる。なお、治具200の平板203に形成されるリング状の照射跡をそのまま目視するのは困難なことが多いので、ミラーを用いて目視するようにするとよい。
【0106】
次に、作業者は入力装置102からの入力によりLED光を一旦消去し、X線回折測定装置1から治具200を円管部分207,208を縮めたうえで取り外し、
図14に示す治具250を治具200と同様、円管部分207,208を縮めたうえで取り付ける。治具250は治具200の先端部分209を先端部分220に変更したものであり、先端部分220は円筒状の部分と円錐状の部分を合わせ、中心で半分に割った形状をしており、接触部220aは内面が円錐形状のミラーになっている。この治具250を取り付けた後、円管部分207,208を伸ばして測定対象物OBの測定箇所に先端部分220を接触させ、入力装置102からの入力によりLED光を照射する。LED光は
図14に示すように測定対象物OBで反射し、接触部220aの内面のミラーで反射して円板203に照射され、照射跡が形成される。この照射跡の位置(円板203の中心からの距離、すなわちX線光軸からの距離)は、測定対象物OBへのLED光の入射角度と円板203から測定対象物OBのLED光照射点までの距離により変化するが、イメージングプレート15から円板203までの距離は一定であるので、円板203から測定対象物OBのLED光照射点までの距離は、治具200を用いて得られたイメージングプレート15からLED光照射点までの距離から求めることができる。よって、円板203から測定対象物OBのLED光照射点までの距離ごとのLED光の入射角度と照射跡の位置との関係を予め求めておけば、LED光の入射角度(すなわちX線の入射角度)を求めることができる。LED光の入射角度の変化に対して円板203における照射跡の位置の変化は大きいので、接触部220aが1つの形状のみでは可能性のあるLED光の入射角度すべてに対応させることは不可能である。よって、先端部分220は接触部220aの円錐形状の角度を変えたものがいくつか用意してあり、LED光の照射跡が形成されない場合は、適宜治具250の先端部分220を取り替えるようにするとよい。
【0107】
さらに、本発明はこれ以外にも種々の変更が可能である。上記実施形態においては、イメージングプレート15の表面からの距離が設定値LsであるX線の照射点Xmの座標値を求めておき、指定ポイントがX線の照射点Xmに一致するためのステージ61のステージX方向、ステージY方向、ステージZ方向の移動量を計算するようにした。しかし、測定対象物OBによりイメージングプレート15の表面からX線の照射点までの距離が大きく変化しなければ、X線の照射点Xmの座標値は求めず、ステージZ方向の移動はなくして指定ポイントがX線の光軸上になるためのステージX方向、ステージY方向移動量のみを計算し、その際のイメージングプレート15の表面からX線の照射点までの距離を計算して、回折環の形状から測定対象物の残留応力を計算する際に用いてもよい(回折環基準半径を計算する際に用いる)。この場合、コントローラ101が実行するデータ処理は次の通りである。単位ベクトルVzの成分を係数a,b,cとするa・X+b・Y+c・Z+d=0の平面方程式のX,Y,Zに3次元形状測定装置2の座標系Dによる指定ポイントの座標値(xp,yp,zp)を代入してdをもとめ、この平面方程式とX線の光軸を表す直線式の連立方程式から座標値(xm,ym,zm)を得る。この座標を座標変換係数Mds
により座標変換し、この座標値から座標系Sによる指定ポイントの座標値(xps,yps,zps)を減算する。得られたベクトル成分のX成分、Y成分がステージX方向、ステージY方向の移動量である。また、ベクトル成分のZ成分は0になる。そして、得られた座標値(xm,ym,zm)と、予め記憶してあるイメージングプレート15の表面とX線の光軸が交差する点Xiの座標値との間の距離を求めれば、イメージングプレート15の表面からX線の照射点までの距離が得られる。
【0108】
また、上記実施形態では、移動装置70を直交する3方向への移動が可能なものにしたが、前述のように、測定対象物OBによりイメージングプレート15の表面からの距離が大きく変化せず、イメージングプレート15の表面からX線の照射点までの距離を計算するようにすれば、移動は2方向のみにしてもよい。また、上記実施形態では、傾斜装置60を直交する2つの回転軸周りに傾斜可能なようにしたが、測定対象物OBが限定された形状のものに限られるならば、1つの回転軸周りに傾斜可能なようにしてもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、入力装置102からステージ61の傾斜量を入力し、3次元形状データを用いて仮想上で測定対象物OBが傾斜した場合における回折環の形状、X線の入射角度およびステージ61の移動量を計算した。しかし、3次元形状測定が短時間で終了するならば、ステージ61を実際に傾けて3次元形状測定を行い、回折環の形状、X線の入射角度およびステージ61の移動量を計算するようにしてもよい。この場合は、回転軸Rx,Ryを表す直線式を求めて記憶する必要はない。
【0110】
また、上記実施形態では、X線回折測定装置1と3次元形状測定装置2を固定して、ステージ61を3方向に移動させるとともに2方向の軸線周りに傾斜させる構造にしたが、ステージ61を固定して、X線回折測定装置1と3次元形状測定装置2を移動させるとともに姿勢を変化させる構造にしてもよい。また、移動と姿勢変化の一部を移動装置70と傾斜装置60が行い、残りをX線回折測定装置1と3次元形状測定装置2が行う構造にしてもよく、ステージ61およびX線回折測定装置1と3次元形状測定装置2の双方が移動及び姿勢変化を行う構造でもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、X線回折測定装置1の側面に3次元形状測定装置2を固定させた構造にしたが、X線回折測定装置1と3次元形状測定装置2の位置関係が固定されていれば、作業のしやすさを考慮して様々な構造にすることができる、例えば、X線回折測定装置1の前面に3次元形状測定装置2を固定させてもよいし、X線回折測定装置1の筐体内に3次元形状測定装置2を含ませるようにしてもよいし、X線回折測定装置1を取り付けたアーム移動装置の別の箇所に3次元形状測定装置2を取り付けるようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、移動装置70のステージX方向への移動のみモータ77の回転による自動での移動にし、移動装置70のそれ以外の方向への移動および傾斜装置60による傾斜を、操作子を回転させることによる手動での移動および傾斜にしたが、本発明による製品のコストがUPしても問題なければ、手動での移動および傾斜のいくつかまたはすべてを自動での移動および傾斜にしてもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、X線回折測定装置を、回折環がイメージングプレート15に形成された後に、レーザ検出装置30からのレーザ光の照射により回折環を読取る構造にした。しかし、回折環の読取りを別途行う装置でも、イメージングプレート15の中心にある貫通孔を通してX線が出射され、イメージングプレート15に回折環を形成する装置であれは、本発明は適用されるものである。