(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915976
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ロングアーク型放電ランプおよび光照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 61/30 20060101AFI20160422BHJP
H01J 61/35 20060101ALI20160422BHJP
H01J 61/70 20060101ALI20160422BHJP
F21S 2/00 20160101ALI20160422BHJP
F21Y 103/00 20160101ALN20160422BHJP
【FI】
H01J61/30 L
H01J61/35 K
H01J61/70
F21S2/00 311
F21S2/00 310
F21Y103:00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-140177(P2014-140177)
(22)【出願日】2014年7月8日
(65)【公開番号】特開2016-18646(P2016-18646A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
【審査官】
遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−198997(JP,A)
【文献】
特開2009−230867(JP,A)
【文献】
特開平03−088742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 61/00−65/08
C03C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な石英ガラス製の発光管内に一対の電極が対向配置されるとともに、発光物質として金属が封入されてなり、
前記発光管の外表面にシリカ粒子を主体とした帯状の反射膜が、発光長の全域にわたって形成されてなるロングアーク型放電ランプにおいて、
前記発光管の管壁のOH基含有量が50ppm〜300ppmであり、
前記反射膜のOH基含有量が100ppm以上である
ことを特徴とするロングアーク型放電ランプ。
【請求項2】
請求項1のロングアーク型放電ランプと、
該ロングアーク型放電ランプを取り囲む反射面を有し、当該ロングアーク型放電ランプの上部に対応して開口を備えた樋状の反射ミラーと、
を具備してなることを特徴とする光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はロングアーク型放電ランプおよび光照射装置に関するものであり、特に、発光管外表面に反射膜を有するロングアーク型放電ランプおよびこれを備えた光照射装置に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、印刷業界や電子工業界においては、インキや塗料の乾燥、樹脂の硬化処理に使用する光化学反応用装置の紫外線光源として、或いは、半導体基板や液晶ディスプレイ用の液晶基板を露光するのに使用する露光装置の紫外線光源として、水銀ランプやメタルハライドランプなどのロングアーク型放電ランプが使用されている。
【0003】
図2を用いて従来の光照射装置に用いられるロングアーク型放電ランプ1を説明する。
発光管2の両端部には封止部3が形成されており、発光管2内には一対の電極4、4が配置されている。
電極4の後端部4aは、上下部が平坦面形状となるように切削加工されて、ほぼ角柱状となっている。
封止部3には、石英ガラス製の扁平状のスペーサガラス5が埋設され、該スペーサガラス5を挟むように、その上下面に一対の(2枚の)金属箔6a、6bが配置されていて、該金属箔6a、6bの後端には外部リード8が接続されている。
前記封止部3内には、ガラス製の保持用筒体7が配置されていて、前記電極4が該保持用筒体7に挿通されおり、これによって該電極4が支持されている。
そして、前記封止部3の後端には口金9が装着されていて、光照射装置に当該ランプ1が組み込まれる場合、この口金9が、図示しないランプ支持具に取り付けられるものである。
【0004】
また、発光管2の外表面には帯状の反射膜10が、発光長の全域にわたって形成されていて、発光管2上方に向かう光を反射して、下方の被照射物に照射するものである。
この反射膜10は、耐熱性の観点から、シリカ粒子を主体とするものであって、アルミナ粒子、或いは、シリカ粒子とアルミナ粒子の混合物等で構成されていて、発光管2の外表面において細長い帯状に設けられる。
上記構成のロングアーク型放電ランプでは、紫外線を良好に放射するために、発光管2内には、水銀、鉄、ガリウム等の金属が封入されている。
【0005】
このようなロングアーク型放電ランプを用いた光照射装置の構造は、特開2008−130302号公報(特許文献1)や、特開2012−198997号公報(特許文献2)で公知であり、その構造が
図3に示されている。
図3(A)は、反射ミラーが開いた状態の説明図。
図3(B)は、反射ミラーが閉じた状態の説明図。
光照射装置20は、このメタルハライドランプ1を取り囲む樋状の反射ミラー21を備え、その内面には誘電体多層膜などからなる反射面22を有している。
そして、前記反射ミラー21は頂部開口21aと前面開口21bとを有していて、開閉可能とされており、頂部開口21aは、冷却風排気口23に対応して配置される。そして、処理物に紫外線を照射する定常点灯モード時には、
図3(A)に示されるように、前面開口21bが開放されており、処理物の入れ替えなどの待機点灯モード時には、
図3(B)に示されるように、反射ミラー20が回動して前面開口21bが閉じられる。なお、該待機点灯モードでは省電力の観点からランプへの入力電力が下げられている。
【0006】
図3(A)に示す定常点灯時には、反射ミラー21の下方から冷却風が流されて、ランプ1の周囲を通過してこれを冷却し、頂部開口21aから排気口23を介して流出する。
また、
図3(B)に示す待機点灯モード時においても、ランプは定格電力よりも低い低電力で点灯されており、このとき反射ミラー21の前面開口21bが閉じられていることもあって、該反射ミラー21が加熱されてしまう。この反射ミラー21の反射面22を構成する誘電体多層膜を保護するために、これを冷却する必要があり、冷却風は止められずに通風が維持される。
【0007】
上記したように、生産ラインにおいて可能な限りの省電力化が要求され、ワーク交換時などのワーク非処理期間においては(再点灯に備え放電ランプの点灯状態を維持しつつも)放電ランプを十分に低い電力で点灯する待機点灯モードが採用されている。
この結果、放電ランプは、ワークの処理期間と非処理期間という数十秒単位という短い時間で電力値を大きく切り替えて点灯する状態となり、短い周期で高温状態と低温状態とを推移する。
ここで、定常点灯時の電力と、待機点灯(省電力点灯)時の電力の一例を挙げると、有効発光長における単位長さ当たりの電力では、定常点灯時で280W/cmであり、待機点灯時で80W/cmである。
【0008】
このように、高い電力と低い電力とを頻繁に切り替え、しかもその電力が従来に増して高低差が大きくなったことで、発光管と反射膜の界面で熱応力が一層顕著となり、放電ランプの点灯時間の経過にともなって、反射膜が剥離するという不具合が生じるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−130302号公報
【特許文献2】特開2012−198997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、発光管内に一対の電極が対向配置されるとともに、発光物質として金属が封入されてなり、前記発光管の外表面にシリカ粒子を主体とした帯状の反射膜が、発光長の全域にわたって形成されてなるロングアーク型放電ランプにおいて、放電ランプを高い電力と低い電力とを頻繁に切り替えて点灯しても、反射膜が剥離、剥落することがない信頼性の高いロングアーク型放電ランプを提供することである。
また、他の課題は、前記ロングアーク型放電ランプを用い、樋状の反射ミラーを備えた光照射装置において、反射ミラーの開口に向かって放射された光も反射膜によって無駄にすることなく利用するとともに、放電ランプを高い電力と低い電力とを頻繁に切り替えて点灯したとしても、反射膜が剥離、剥落することがない、信頼性の高い光照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明に係るロングアーク型放電ランプは、発光管の管壁のOH基含有量が50ppm〜300ppmであり、反射膜のOH基含有量が100ppm以上であることを特徴とする。
また、この発明に係る光照射装置は、前記ロングアーク型放電ランプを用い、該放電ランプを取り囲む反射面を有するとともに、当該放電ランプの上部に対応して開口を備えた樋状の反射ミラーと、を具備してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明のロングアーク型放電ランプによれば、放電ランプを高い電力と低い電力とで頻繁に切り替えて点灯した場合でも、反射膜と発光管の両方にOH基が含有されているので、両部材の界面において、OH基同士が脱水縮合反応して強固な密着力が得られ、過酷な点灯条件であっても、膜剥がれや亀裂が発生せずに、長時間の点灯が可能となる。
しかも、発光管のOH基が50ppm以上であることで、反射膜に結合するOH基が十分に存在していて反射膜との十分な結合が得られ、また、これが300ppm以下であるので、発光管から放電空間に放出されるOH量が多くなりすぎることがなく、電極酸化という事態も回避することができる。
そして、反射膜のOH基含有量が100ppm以上であるので、発光管と反射膜のOH基同士の脱水縮合反応がシリカ粒同士の結合にも寄与し、反射膜自体が強固になって剥離しにくくなる。
【0013】
また、上記ロングアーク型放電ランプと、樋状の反射ミラーを備えた光照射装置によれば、ミラー開口の冷却構造を維持しつつ、放電ランプから開口に向かって放射された光も無駄にすることなく、被照射面における照度向上に寄与することが可能となり、しかも、放電ランプを、高い電力と低い電力とを頻繁に切り替えて点灯しても、反射膜が剥離、剥落することがなく、信頼性の高い光照射装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のロングアーク型放電ランプにおける発光管の一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明におけるロングアーク型放電ランプの全体構造は、
図2に示すものと同様であって、発光管2内に発光物質として封入される金属は、例えば、水銀(Hg)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)等の金属であり、その一種または二種以上混合してもよい。
また、反射膜10は、シリカ粒子を主体として構成され、好ましくは、シリカ粒子が50%超の割合となるよう含んで構成される。
【0016】
図1(A)に示すように、反射膜10を構成するシリカ粒子は、OH基が含有されたものである。OH基を含有させる手段としては、例えば、沈殿法、ゲル法、ゾルゲル法などの湿式法によりシリカを製造する方法を好適に採用できる。無論、乾式法によって製造されたシリカにおいても、例えば、シリカ系のアルコキシド溶液をバインダーにすることで、OH基を有する反射膜を形成することが可能となる。微粒子の形状及び径は、反射層として機能していれば、特別に指定されるものではないが、微粒子膜の反射の機構は、個々の微粒子の表面において反射されるため、できる限り緻密で微粒子層が多いほうが好ましい。例えば、シリカ微粒子の形状は、球状、扁平状などの形状であり、その平均粒子径は0.1〜10μm程度であることが好ましい。
【0017】
また、発光管2を構成する石英ガラスも、OH基を含有させる。OH基は、例えば、酸水素火炎を用いて石英粉を溶融させる製法(火炎溶融石英)やバルブを大気中に暴露させた状態で高温に加熱することで含有される。
このようにして、発光管2にOH基を含有させることで、
図1(B)に示すように、この発光管2のOH基と、反射膜10を構成するシリカ微粒子のOH基とが、脱水縮合反応を生じ、反射膜10の発光管2への密着性を上げることができる。
【0018】
発光管2のOH基含有量については、50〜300ppmが好ましい。50ppm以下となると、結合できるOH基が少なくなり、反射膜10の密着強度が低下する。また、300ppmを超えると、発光管2から放電空間に放出されるOH量が多くなり、放電空間内のタングステン電極の酸化が発生し、溶融が促進される。これにより、タングステンが発光管に付着し照度低下を引き起こす。
反射膜10のOH基の含有量は、多いほうがよく、これらは、発光管2との結合力を上げることと微粒子同士の結合力を上げられる。
【0019】
以上のように、本発明に係るショートアーク型放電ランプによれば、反射膜と発光管の両方にOH基を含有させることで、界面において、OH基同士が脱水縮合反応して、より強固な密着力が得られるようになる。
【0020】
本発明の効果を実証する実験を行った。
<実験例>
OH基含有量の異なる反射膜及び発光管を用いて、発光長(一対の電極間距離)が250mm、発光管の内径が22mm、外径が26mmであり、各発光管内には、水銀封入量を58mg、ヨウ化水銀を2.5mg、アルゴン1kPaを封入したロングアーク型水銀ランプを製作し、反射膜材料として、鱗片形状のシリカ微粒子を含むスラリーを、ランプ長手方向に幅10mmの反射膜を塗布し、10時間乾燥させ成膜した。
これらのランプを、アーク長1cmあたりの入力を80Wと280Wで交互に30秒間ずつ入力を変化させる点灯モードで、合計1000h点灯させ、反射膜の外観を観察した。
【0022】
上記表から分かるように、発光管及び反射膜のOH基が少ない場合、結合力が弱く、高入力かつ入力変化を伴う過酷な点灯条件では、反射膜が剥がれてしまった。一方、OH基を多く含んだ場合においては、過酷な点灯条件であっても反射膜の剥がれは発生しなかった。
なお、比較例3においては、膜剥がれは発生しなかったが、発光管に含有されるOH基の量が多すぎて、発光管の失透が発生し、著しい照度低下を引き起こした。
【符号の説明】
【0023】
1 ロングアーク型放電ランプ
2 発光管
3 封止部
4 電極
5 スペーサガラス
6a、6b 金属箔
7 保持用筒体
8 外部リード
9 口金
10 反射膜
20 光照射装置
21 反射ミラー
21a 頂部開口
21b 前面開口
22 反射面
23 冷却風排気口