特許第5915997号(P5915997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915997
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】防波構造物
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
   E02B3/06 301
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-164691(P2012-164691)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-25219(P2014-25219A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】大山 巧
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−012089(JP,A)
【文献】 特開2007−046387(JP,A)
【文献】 特開平09−302646(JP,A)
【文献】 実開昭58−010925(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0172560(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00〜 3/14
E02B 7/20〜 7/54
E02B 15/00〜 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水よりも低比重の油類や液状危険物等の貯留液を貯留するタンクを対象として津波や高波による非常時の被害を防止し軽減するための防波構造物であって、
前記タンクを取り囲んで設置された防液堤と、該防液堤の上部に形成されている収納部に収納されていて非常時には水面上に浮上可能かつ前記タンクの周囲に展開可能な浮上式防液フェンスと、該浮上式防液フェンスを前記防液堤または前記タンクの周囲の地盤に対して係留するための係留索を備えてなり、
前記浮上式防液フェンスは、前記防液堤が水没した際に前記収納部から水面上に浮上可能なフロートと、非常時に前記フロートにより吊り支持されて水面付近に配置されるとともに前記タンクの周囲に展開せしめられるフェンス本体とにより構成されてなることを特徴とする防波構造物。
【請求項2】
請求項1記載の防波構造物であって、
前記浮上式防液フェンスおよび前記係留索は、非常時に浮上した前記タンクの漂流を防止する係留機能を有することを特徴とする防波構造物。
【請求項3】
請求項1または2記載の防波構造物であって、
前記浮上式防液フェンスは、非常時に漂流物が前記タンクに衝突する際の衝撃力を緩和する緩衝機能を有することを特徴とする防波構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水よりも低比重の油類や液状危険物等の貯留液を貯留するためのタンクを対象として設置される防波構造物、特に津波や高波による非常時の被害を防止し軽減するための防波構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、津波や高波に対する防波構造物として、たとえば特許文献1〜4に示されるような可動式ないし浮上式と称される形式の防波堤や防潮堤が提案されている。
これらは、各種の浮体を堤体内に収納しておいたり海底に倒伏させておき、非常時にはそれらの浮体を海面上に浮上させることで防波機能を発揮させる構造のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−249914号公報
【特許文献2】特開2006−241806号公報
【特許文献3】特開2006−70536号公報
【特許文献4】特開2004−76393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油類や液状危険物等の貯留液を貯留するための大規模なタンクは、その周囲を防液堤で取り囲むことによって、万一のタンクの破損に伴う貯留液の外部への流出・拡散を防止する必要がある。
【0005】
図3に従来一般的なタンクに対する防液堤の設置例を示す。これは、(a)に示すように水平断面形状が円形の地上式のタンク1を基礎2上に設置し、その周囲にタンク1を全周にわたって取り囲むようにしてほぼ正方形の輪郭をなす防液堤3を設置したものである。
【0006】
この場合、(b)に示すように防液堤3の高さH(地盤面から天端までの寸法)は、タンク1内の貯留液の全量を防液堤3の内側に貯留し得るように(つまり、満液状態のタンク1から貯留液の全量が漏出しても防液堤3を超えて外部に溢れ出さないように)設定される。すなわち、タンクの最大貯留容量V、防液堤内の面積Aとすると、H>V/A となるように設定される。
【0007】
ところで、この種のタンク1は沿岸部に設置されることが多く、その場合も図3に示したような従来一般的な構造の防液堤3が設置されるのであるが、そのような防液堤3は堤頂を超流してくる大きな津波や高波に対する防護性能は有しておらず、そのような津波や高波の襲来時には有効に機能し得ないものである。
【0008】
そのため、先の東日本大震災では想定を超える津波が防液堤を容易に乗り越えてタンクや付属配管を破壊してしまい、タンクから流出した油類等の貯留液が津波とともに広範囲に拡散して甚大な被害をもたらした。
しかも、単に津波による波力によってタンクが損傷を受けただけでなく、水没したタンク全体が浮力により浮き上がって漂流してしまう事態も発生し、また津波とともに漂流してきた漂流物がタンクを直撃して破壊してしまい、それが被害を拡大したケースもあったと考えられている。
【0009】
このように、沿岸部に設置される大規模なタンクに対して単に従来一般的な防液堤を設置しているだけでは、大規模な津波や高波に対しては無防備であることから、この種のタンクに対する非常時の安全性と信頼性を向上させ、被害を軽減するための有効な対策が急務とされているのが実状である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記事情に鑑み、本発明はこの種のタンクに設置される従来一般的な防液堤に対して、特許文献1〜4に示されるような可動式ないし浮上式の防波堤や防潮堤の機能を取り入れることにより、大規模な津波や高波の襲来といった非常時において仮にタンクが損傷を受けた場合であっても、貯留液の周囲への拡散といった事態を有効に防止し軽減することを可能としたものである。
【0011】
すなわち、請求項1記載の発明は、水よりも低比重の油類や液状危険物等の貯留液を貯留するタンクを対象として津波や高波による非常時の被害を防止し軽減するための防波構造物であって、前記タンクを取り囲んで設置された防液堤と、該防液堤の上部に形成されている収納部に収納されていて非常時には水面上に浮上可能かつ前記タンクの周囲に展開可能な浮上式防液フェンスと、該浮上式防液フェンスを前記防液堤または前記タンクの周囲の地盤に対して係留するための係留索を備えてなり、前記浮上式防液フェンスは、前記防液堤が水没した際に前記収納部から水面上に浮上可能なフロートと、非常時に前記フロートにより吊り支持されて水面付近に配置されるとともに前記タンクの周囲に展開せしめられるフェンス本体とにより構成されてなることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の防波構造物であって、前記浮上式防液フェンスおよび前記係留索は、非常時に浮上した前記タンクの漂流を防止する係留機能を有することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の防波構造物であって、前記浮上式防液フェンスは、非常時に漂流物が前記タンクに衝突する際の衝撃力を緩和する緩衝機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防波構造物をタンクの周囲に設置しておくことにより、通常時においては従来一般的な防液堤と同様の防液機能を有することはもとより、大規模な津波や高波が襲来して防液堤が水没するような事態となった非常時には、防液堤の収納部に収納されていた浮上式防液フェンスが自ずと水面上に浮上してタンク全体を取り囲むように展開される。
したがって、そのような場合においてタンクが万一破損を生じて貯留液がタンクから外部に漏出したような事態となったとしても、その漏出液を浮上式防液フェンスの内側に滞留するに留めて外部にまで流出してしまうことを阻止し、以て多量の貯留液がそのまま広範囲に拡散してしまうことが有効に防止されてそれによる被害を十分に防止ないし大幅に軽減することが可能である。
また、本発明の防波構造物によれば、タンクが万一浮き上がってしまった場合には浮上式防液フェンスおよび係留索によりタンク全体を係留することが可能であり、したがって浮上したタンクがそのまま遠方にまで漂流してしまう事態を防止することが可能である。
さらに、本発明の防波構造物によれば、浮上式防液フェンスによって漂流物がタンクに衝突する際の衝撃を緩和することも可能であり、それによるタンクの破損を軽減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態である防波構造物の概略構成を示す立面図であって、(a)は通常時の状態、(b)は非常時(津波襲来時に防液堤が水没した状態)の状態を示す図である。
図2】同、非常時の状態を示す平面図である。
図3】従来一般的な防液堤の設置例を示す図であって、(a)は平面図、(b)は立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の防波構造物の実施形態について図1図2を参照して説明する。
本実施形態の防波構造物10は、水(厳密には海水)よりも低比重の油類や液状危険物等の貯留液を貯留するためのタンク1を対象として、そのタンク1が大規模な津波や高波といった非常時において貯留液が漏出するような破損が生じたとしても、この防波構造物10によって貯留液が広範囲に拡散してしまうという事態を回避し、以て貯留液の流出による被害を十分に防止し軽減することが可能なものである。
【0017】
本実施形態の防波構造物10は、基本的には図3に示した従来一般的な防液堤3に代えてそれと同様の形態と機能を有する防液堤11をタンク1全体を取り囲んで設置するものであるが、その防液堤11の上部には浮上式防液フェンス12を収納するための収納部11aを設けておき、その収納部11aに浮上式防液フェンス12を常に収納しておくことを主眼とする。
【0018】
なお、本実施形態における防液堤11は、収納部11aが形成されていることを除けば実質的に従来一般的な防液堤3と同様の構造、形態のもので良く、通常時は従来一般の防液堤3と同様の防液機能(タンク1から万一漏出した貯留液の周囲への流出を防止する機能)を備えたものとして設置しておけば良い。
但し、本実施形態の防波構造物10における防液堤11は、そのような従来一般的な防液堤としての本来の機能に加えて、想定規模の津波や高波が襲来した際にもそれに耐え得る強度を有するものとすることが好ましく、少なくともその際に浮上式防液フェンス12を支障なく浮上せしめることが可能であり、かつその浮上式防液フェンス12の機能を損なわないものであることが必要である。
【0019】
本実施形態における浮上式防液フェンス12は、図1(b)、図2に示すように、大規模な津波や高波が襲来した非常時において防液堤11が水没した際に収納部11aから水面上(襲来した津波ないし高波の海面上)に自ずと浮上可能なフロート12aと、非常時にそのフロート12aにより支持されて水面付近(襲来した津波ないし高波の海面から所定水深まで)に配置されるとともにタンク1の周囲に展開可能なフェンス本体12bとにより構成されている。
【0020】
本実施形態におけるフロート12aとしては、通常時には収納部11aに収納可能であり、かつ非常時には水面上に浮上してフェンス本体12bを水面付近に支持可能な浮力を有するものであれば良く、たとえば中空体や空気袋、発泡材等の任意の形式の浮体を採用可能である。
なお、フロート12aとしては、エアバッグのように通常時には小さく萎ませておいて、非常時に空気やガス等の気体を注入して瞬時に膨張して浮力を確保する形式のものも採用可能である。
【0021】
本実施形態におけるフェンス本体12bとしては、従来一般にはオイルフェンスとして使用されている各種のシート材や膜材が好適に採用可能であるが、通常時にはコンパクトに折り畳んだ状態で収納部11aに収納しておき、かつ非常時にはフロート12aにより水面上に引き上げられて自ずと展開されることによりフロート12aから垂れ幕式に吊り支持された状態で水面付近に配置されるものとしておく。
【0022】
そして、それらフロート12aとフェンス本体12bにより構成されている浮上式防液フェンス12の全体は、複数本(たとえば図2に示されるように8本)の係留索13によって防液堤11に対して係留されている。
したがって、大規模な津波や高波の襲来により防液堤11が水没したような非常時には、図2に示すように浮上式防液フェンス12の全体が自ずと収納部11aから浮上して、タンク1全体を取り囲むように展開された状態で水面付近に配置され、その状態で浮上式防液フェンス12の全体が係留索13により係留されて漂流することなくその位置に留まるものとされている。
なお、上述したように防液堤11が津波や高波に十分に耐え得る強度を有している場合には、図示例のように係留索13を防液堤11に対して締結しておけば良いが、非常時に防液堤11が損壊して係留索13を確実に係留し得ないことが懸念される場合には、係留索13を防液堤11付近の地盤に対して確実堅固にアンカーしておくことにより、仮に防液堤11が損壊しても浮上式防液フェンス12がタンク1の周囲に確実に係留されるようにしておくと良い。
【0023】
上記のように構成された本実施形態の防波構造物10は、通常時においては図1(a)に示すように浮上式防液フェンス12の全体を防液堤11の上部の収納部11a内にコンパクトに収納しておくことにより、図3に示した従来一般的な防液堤3と同様に防液堤11による通常時の防液機能を支障なく発揮し得るものである。
【0024】
そのような防液堤本来の機能に加えて、大規模な津波や高波が襲来して防液堤11が水没するような事態となった非常時においては、図1(b)、図2に示すように収納部11aに収納されていた浮上式防液フェンス12が自ずと水面上に浮上し、フェンス本体12bがフロート12aから吊り支持された状態で水面付近においてタンク1全体を取り囲むように展開される。
この状態において、図1(b)に示すようにタンク1が万一破損を生じて貯留液がタンク1から外部に漏出したような事態となったとしても、その漏出液Lは浮上式防液フェンス12の内側において水面上に浮遊して滞留するに留まって外部にまで流出してしまうことは阻止され、したがってタンク1内の多量の貯留液がそのまま広範囲に拡散してしまうことが有効に防止され、それによる被害を十分に防止ないし大幅に軽減することが可能である。
なお、満液状態のタンク1が破損した場合を想定してその時点で貯留されていた全貯留液の流出を確実に防止することが好ましく、そのためには、図1(b)に示すように浮上式防液フェンス12の展開時に水面下に水没する部分の高さ寸法を少なくとも図3に示したH以上に相当するように設定しておくと良い。それにより、タンク1内に最大限に貯留されていた貯留液の全量が漏出したとしてもその漏出液Lがフェンス本体12bの下部を潜り抜けて周囲へ拡散してしまうことを確実に防止することができる。
勿論、津波が終息した後には漏出液Lはタンク1の周辺に残留した状態となるから、適宜回収し排出すれば良い。
【0025】
また、大規模な津波の際にはタンク1全体が大きな浮力を受けて基礎2上に浮き上がってしまう事態も想定されるが、本実施形態の防波構造物10を設置しておけばそのような場合においても浮上式防液フェンス12と係留索13がタンク1に対する係留機能を発揮し、したがって浮上したタンク1がそのまま遠方にまで漂流してしまうという最悪の事態は未然に防止することが可能である。
但し、本実施形態の防波構造物10がタンク1に対する漂流防止機能を有効に発揮するためには、浮上式防液フェンス12および係留索13が津波の波力に抗してタンク1全体を係留するに十分な強度を有するものとして設置しておく必要があることは当然である。
【0026】
さらに、大規模な津波の際には津波とともに漂流してくる様々な漂流物がタンク1を直撃してタンク1を破損させる懸念もあるが、本実施形態の防波構造物10における浮上式防液フェンス12には漂流物がタンク1に衝突する際の衝撃力を緩和して破損を防止し軽減する緩衝機能を持たせることができる。
そのためには、フロート12aをたとえば従来一般的な防舷材と同様のものとしてそのフロート12aに十分な強度と緩衝機能を持たせておく(その素材としてはたとえば十分な浮力と強度を有する発泡材等が好適に採用可能である)ことが好ましく、フェンス本体12bの素材もそのような緩衝機能を備えたものとしておくことが好ましい。
なお、想定規模を超える津波や高波が襲来した際に、仮に浮上式防液フェンス12が破壊されたとしても、防液堤11のみが設置されている場合に比べて、波力の低減効果やタンク1が浮いた場合の移動距離の低減効果、漂流物の衝突防止効果が高まることが期待できる。
【0027】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、たとえばタンク1の形態や構造、規模、防液堤11や浮上式防液フェンス12、係留索13の具体的な構成その他については、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜の設計的変更や応用が可能であることは当然である。
【符号の説明】
【0028】
1 タンク
2 基礎
10 防波構造物
11 防液堤
11a 収納部
12 浮上式防液フェンス
12a フロート
12b フェンス本体
13 係留索
図1
図2
図3