特許第5916084号(P5916084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916084製剤用の精製Mo溶液作製方法及び製剤用の精製Mo溶液作製装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916084
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】製剤用の精製Mo溶液作製方法及び製剤用の精製Mo溶液作製装置
(51)【国際特許分類】
   G21G 4/08 20060101AFI20160422BHJP
   G21G 1/06 20060101ALI20160422BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20160422BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20160422BHJP
   A61K 51/00 20060101ALN20160422BHJP
【FI】
   G21G4/08 T
   G21G1/06
   G01T1/161 B
   B01J20/20 B
   !A61K49/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-282473(P2011-282473)
(22)【出願日】2011年12月23日
(65)【公開番号】特開2013-134063(P2013-134063A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年12月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業(開発委託事業)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000140627
【氏名又は名称】株式会社化研
(74)【代理人】
【識別番号】100074631
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剣一
(72)【発明者】
【氏名】津口 明
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 優子
(72)【発明者】
【氏名】田仲 睦
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 きよ子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐未
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 克嘉
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−002370(JP,A)
【文献】 特開2008−102078(JP,A)
【文献】 特開2004−150977(JP,A)
【文献】 特開平08−309182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 4/08
G21G 1/06
G01T 1/161
B01J 20/20
A61K 51/00
A61K 49/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子照射法によって製造された、親核種の99Moと99Moが溶解されて形成され、娘核種の放射性核種99mTcとを含んだMo溶液を作製するMo溶液作製方法において、
99Mo溶解して99Mo溶液を作製し、製剤用の99mTcの分離操作を行う前に、少なくとも1度当該99Mo溶液を活性炭層からなる精製カラムに通液することによって
当該99Mo溶液中の99Tc及び99mTcを除去して精製処理すること
を特徴とする製剤用の精製Mo溶液作製方法。
【請求項2】
請求項1において、前記精製処理を製剤用の出荷直前の一日の範囲内で実施することを特徴とする製剤用の精製Mo溶液作製方法。
【請求項3】
請求項1において、前記99Mo溶液を活性炭層及びキレート樹脂層からなる精製カラムに通液することによって当該99Mo溶液中の99Tc、99mTc及び金属不純物を除去して精製処理することを特徴とする製剤用の精製Mo溶液作製方法。
【請求項4】
中性子照射法によって製造された、親核種の99Moが溶解されて形成され、娘核種の放射性核種99mTcを含んだMo溶液を作製するMo溶液精製方法を実施するMo溶液作製装置において、
99Mo溶解して99Mo溶液を作製するMo溶解槽と、製剤用の99mTcの分離操作を行う前に、少なくとも1度当該99Mo溶液を活性炭層からなる精製カラムに通液することによって当該99Mo溶液中の99Tc及び99mTcを除去して精製処理する精製カラムと、を有すること
を特徴とする製剤用の精製Mo溶液作製装置。
【請求項5】
請求項4において、前記精製カラムが活性炭層及びキレート樹脂層からなり、前記99Moを該精製カラムに通液することによって当該99Mo溶液中の99Tc、99mTc及び金属不純物を除去して精製処理することを特徴とする製剤用の精製Mo溶液作製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製剤用の精製高濃度Mo溶液作製方法及び製剤用の精製高濃度Mo溶液作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テクネチウム99m(99mTc)が医療機器で検出用の放射性トレーサとして使用される。99mTcは容易に検出できるガンマ線を放出し、6時間の半減期を有している。そして99mTcは、脳、心筋、甲状腺、肝臓、胆のう、腎臓、骨格、血液及び腫瘍の撮像に用いられる。
【0003】
このような性質を持つ99mTcは、従来原子炉でのfissionによって99Moを製造し、99Mo溶解することで99Mo溶液が作られ、この崩壊性の99Moから作製することがなされて来たが、99mTcを三酸化モリブデンに中性子を照射することで作製することが試みられている。これは(n,γ)法と呼ばれている。
【0004】
特許文献1には、98Moを中性子により活性化することで、その生成された99Moが、235Uの核分裂により生成された99Moに代わる選択肢として使用できる比放射能に達する、無担体99Moの製造プロセスが記載されている。
【0005】
特許文献2には、中性子法によって中性子を照射して製造された、親核種の放射性核種99Moを溶解して、99Mo及び娘核種の99mTcを含む高濃度Mo溶液を作製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2011−522276号公報
【特許文献2】特開2011−2370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、中性子法による99Moの製作法を記載していない。特許文献1には、99Moの製作法について詳細に記載していない。
【0008】
99Mo溶液からは99mTcが絶えず生成され、その99mTcが崩壊して、99Tcを絶えず生成する。99mTcは、半減期が約6時間で、γ線のみを放出する(エネルギー0.143MeV)。99mTcは、β線を放出せずγ線のみを放出するが、γ線は体外から測定し易く、半減期も短いので、核医学の画像診断に用いられる。一方、99Tcは、半減期21.1万年でβ線を放出する(エネルギー0.143MeV)。
【0009】
放出されたβ線は水中で0.8mmしか届かないため、体外からは検出されず、核医学の画像診断に用いられない。
【0010】
99mTcと99Tcは同位体であるため、99mTc中に99Tcが混入すると、同時に製剤化するため、γ線の出ない混入99Tcは画像診断の妨げとなる。
【0011】
図1に示すグラフは、99mTcから99Tcが生成する割合を示す。
【0012】
99Mo(半減期67時間)からは99mTcが絶えず生成され、その99mTcが崩壊し、さらに99Tcを絶えず生成する。図1に示すグラフは、その時の原子数の比であり、経過日数により99Tcの割合が増加する傾向を示している。
【0013】
99Mo製造(中性子照射)後には、上述した生成は直ちに始まっている。1)99Mo製造後→2)前処理(原子炉移送し、容器取出し、移送)→3)溶解操作における1)から3)までの操作までに数日要し、高濃度Mo溶液中に99Tcの割合が高くなる。99Tcは、固体状態では除去及び分離ができない。このため、3)溶解操作後の溶液を対象にして99Tcの除去及び分離を考えなければならない。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑み溶解操作後に99Tcを除去及び分離を行って、画像診断の妨げとなる、γ線の出ない99Tcの混入を少なくした製剤用の精製高濃度Mo溶液を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、中性子照射法によって製造された、親核種の99Moと99Moが溶解されて形成され、娘核種の放射性核種99mTcとを含んだ高濃度Mo溶液を作製する高濃度Mo溶液作製方法において、
99Mo溶解して高濃度溶液を作製し、製剤用の99mTcの分離操作を行う前に、少なくとも1度当該高濃度Mo溶液を活性炭層からなる精製カラムに通液することによって
当該高濃度Mo溶液中の99Tc及び99mTcを除去して精製処理すること
を特徴とする製剤用の精製高濃度Mo溶液作製方法を提供する。
【0016】
本発明は、また、上述した前記精製処理を製剤用の出荷直前にあるいは前日に実施することを特徴とする製剤用の精製高濃度Mo溶液作製方法を提供する。
【0017】
本発明は、また、上述した前記高濃度Mo溶液を活性炭層及びキレート樹脂層からなる精製カラムに通液することによって当該高濃度Mo溶液中の99Tc、99mTc及び金属不純物を除去して精製処理することを特徴とする製剤用の精製高濃度Mo溶液作製方法を提供する。
【0018】
本発明は、また、中性子照射法によって製造された、親核種の99Moと99Moが溶解されて形成され、娘核種の放射性核種99mTcとを含んだ高濃度Mo溶液を作製する高濃度Mo溶液精製方法を実施する高濃度Mo溶液作製装置において、
99Mo溶解して高濃度溶液を作製するMo溶解槽と、製剤用の99mTcの分離操作を行う前に、少なくとも1度当該高濃度Mo溶液を活性炭層からなる精製カラムに通液することによって
当該高濃度Mo溶液中の99Tc及び99mTcを除去して精製処理する精製カラムと、
を有することを特徴とする製剤用の精製高濃度Mo溶液作製装置を提供する。
【0019】
本発明は、また、上述した前記精製カラムが、前記高濃度Mo溶液を活性炭層及びキレート樹脂層からなり、該精製カラムに通液することによって当該高濃度Mo溶液中の99Tc、99mTc及び金属不純物を除去して精製処理することを特徴とする製剤用の精製高濃度Mo溶液作製装置を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、上述したように99Mo溶解して高濃度溶液を作製し、製剤用の99mTcの分離操作を行う前に、少なくとも1度当該高濃度Mo溶液を活性炭層からなる精製カラムに通液することによって、当該高濃度Mo溶液中の99Tc及び99mTcを除去して精製処理を行うので、画像診断の妨げとなるγ線の出ない99Tcの混入を少なくした製剤用の精製高濃度Mo溶液を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】経過日数により99Tc/99mTcの割合が増加傾向を示すグラフ。
図2】本発明の実施例の製剤用の精製高濃度Mo溶液作製装置の構成を示す図。
図3】精製カラムの概要を示す図。
図4】本発明の実施のフローを示す図。
図5】毎日ミルキングの効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0023】
図2は、本発明の実施例の製剤用の精製高濃度Mo溶液作製装置を示す。
【0024】
図2において、製剤用の精製高濃度Mo溶液作製装置100は、Mo溶解槽1(以下、溶解槽という)及び精製カラム2を備える。溶解槽1は、モータ11によって駆動される撹拌機3及び中性子が照射された三酸化モリブデンのペレットの投入口4が設けられ、配管5、6を介して廃液タンク7に接続される。また、配管5、8、9を介して精製カラム2に接続される。また、溶解槽1は、下部がヒータ10によって加熱され、上部は配管11を介して試薬容器12に接続され、試薬としてアルカリ(NaOH)が投入される。また、溶解槽1の上部は、配管12、13、14を介して純水源に接続されて、純水が投入され、配管12、15を介してAir源に接続され、Airが投入される。Air源は、配管16を介して試薬容器12に接続される。試薬容器12には、配管17を介して試薬源に接続される。
【0025】
廃液タンク7は配管21を介して減圧源に接続されて、減圧される。減圧源は配管22を介して溶解槽1に接続されて、溶解槽1の内部は減圧される。配管22はFフィルタ23が設けられる。
【0026】
精製カラム2の下部は、精製Mo溶液が配管24を介して取り出され、製剤用の精製高濃度Mo溶液とされる。
【0027】
各配管には図示するように適宜制御用の二方弁あるいは三方弁が設けられる。
【0028】
図3は、精製カラム2の概要を示す。
精製カラム2は、本体31内に上部に活性炭層32及び下部にキレート樹脂層32が形成されて構成される。
【0029】
図2に示すように、Mo溶解液34には、99Tc、99mTc、各種の金属イオンが含まれる。
Mo溶解液34が精製カラム2に導入され、活性炭層32で99Tc及び99mTcが除去され、次いでキレート樹脂層33で金属イオン、すなわち金属不純物が除去され、PureなMo溶液35を得ることができる。
【0030】
図4は、本実施例のフローを示す。
三酸化モリブデンペレットが原子炉で中性子照射される(S1)。
三酸化モリブデン(MoO3)ターゲットが取り出される(S2)。
【0031】
ターゲットである三酸化モリブデンについて点線枠で示すように、溶解操作、ろ過操作、カラム通液操作がなされる。
【0032】
すなわち、溶解槽移送(S3)、溶解操作(S4)、溶解確認(S5)、Mo溶解液送液(S6)、ろ過操作(S7)、カラム通液操作(S8)及びMo溶解液回収・保管(S9)の各ステップになる処理がなされる。
【0033】
溶解操作
・ターゲットである三酸化モリブデン(MoO3)を溶解槽に入れる。
・6M−NaOH溶液を添加し、撹拌する。
・目視で溶解を確認する。液が透明になるのが目安とされる。
表1
【0034】
形状問わず定量の6M−NaOHで容易に溶解可能、溶解後pHは中性である。溶解操作条件を表1に示す。
【0035】
ろ過操作
・溶解後のMo溶液を定性ろ紙(No.5Bおよび5C)で不溶解物(主にMoO2)を除去可能である。
・ろ過後のMo溶液を再度ろ過したが、何も捕集されなかった事から1回でろ過可能である。
【0036】
カラム通液操作(Tc99及び不純物元素の除去)
Mo溶解液を活性炭とキレート樹脂を詰めたカラムへ通液する。
・活性炭
Mo溶液中にTc99存在率が高くなると、最終回収物質であるTc99mを製剤化する際の効率が低減するため、活性炭カラムを通し、Tc(Tc99m)を除去した。望ましくは、球状活性炭が使用される。
【0037】
・キレート樹脂
溶液中にRe(Tc代換元素)および想定不純物元素を混入させキレート樹脂カラムに通過させたのち、元素分析を行い不純物元素の除去を確認。想定不純物として活性炭含有元素のCa、Mg、PとSUS材からのFe、Niを添加した。
【0038】
下の結果よりCa、Mg、Fe、Niは不検出であり、カチオンはイオン交換樹脂カラムに捕集された。アニオンであるRe、P、Crは除去されず溶出された。結果を表2に示す。
【0039】
表2
【0040】
製剤用の精製高濃度Mo溶液作製するに当って、99Mo溶解して高濃度溶液を作製し、製剤用の99mTcの分離操作を行う前に、少なくとも1度当該高濃度Mo溶液を活性炭層からなる精製カラムに通液することによって
当該高濃度Mo溶液中の99Tc及び99mTcを除去して精製処理することを行う。
【0041】
製剤用の精製高濃度Mo溶液作製するに当って、前記精製処理を製剤用の出荷直前にあるいは前日に実施することができる。
【0042】
製剤用の精製高濃度Mo溶液作製するに当って、前記高濃度Mo溶液を活性炭層及びキレート樹脂層からなる精製カラムに通液することによって当該高濃度Mo溶液中の99Tc、99mTc及び金属不純物を除去して精製処理する。
【0043】
図5は、図1に示す例について毎日ミルキングした効果を示す。
図5に示すように、ミルキングしない場合は99Tc/99mTc原子数比は二次放物線状に増加するが、毎日ミルキングすることで99Tc/99mTc原子数比は増加しない。
【0044】
このことから活性炭層32からなる精製カラム2に通液する精製処理を、製剤用の出荷前の直前あるいは前日に実施することは製剤中に99Tcの混入を低減する上で重要である。
【符号の説明】
【0045】
1…Mo溶解槽、2…精製カラム、3…撹拌機、7…廃液タンク、31…本体、32…活性炭層、33…キレート樹脂槽、34…Mo溶解液、35…Mo溶液、100…製剤用の精製高濃度Mo溶液作製装置。
図1
図2
図3
図4
図5