【文献】
INOUE Y. Kumi et al.,A Screen-printed endotoxin sensor based on amperometry using a novel p-aminophenol conjugated substr,Analyst,RSCPublishing,2013年11月 7日,Vol. 138, No. 21,pages 6523-6531
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
微生物夾雑物を含む被検体、ライセート試薬およびパラメトキシアニリンが結合したペプチドを接触させて、多段階反応により前記ペプチドからパラメトキシアニリンの遊離反応を生じさせる反応工程と、
前記遊離反応後の、前記被検体、前記ライセート試薬および前記ペプチドの混合物に対して、電気化学反応により測定される電流値に基づいて微生物夾雑物を定量する測定工程と
を有することを特徴とする微生物夾雑物の濃度検出方法。
前記ペプチドは、一端にパラメトキシアニリンが結合し、他端にペプチドの保護基が結合したオリゴペプチドであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微生物夾雑物の濃度検出方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の微生物夾雑物の濃度検出方法ならびにそれに用いられる電極チップおよびオリゴペプチドについて詳細に説明する。
【0033】
A.微生物夾雑物の濃度検出方法
本発明の微生物夾雑物の濃度検出方法は、微生物夾雑物を含む被検体、ライセート試薬および下記一般式(a)で示した化合物が結合したペプチドを接触させて、多段階反応により上記ペプチドからの上記一般式(a)で示した化合物の遊離反応を生じさせる反応工程と、上記遊離反応後の、上記被検体、上記ライセート試薬および上記ペプチドの混合物に対して、電気化学反応により測定される電流値に基づいて微生物夾雑物を定量する測定工程とを有することを特徴とする。
【0035】
(式(a)中、Rは、−O−C
nH
2n+1または−S−C
nH
2n+1であり、nは1から4までの整数である。)
【0036】
以下、上記一般式(a)で示した化合物として、具体的に、パラメトキシアニリンについて説明する。なお、本明細書中にて、パラメトキシアニリンをpMAと略称する場合がある。
【0037】
図1は、多段階反応の一例を示す模式図であり、微生物夾雑物がエンドトキシンの場合の例である。
図1に例示するように、多段階反応においては、エンドトキシンを含む被検体をライセート試薬のC因子に作用させることにより、C因子から活性型C因子を、B因子から活性型B因子を、凝固酵素前駆体から活性型凝固酵素を次々に発生させ、この活性型凝固酵素により、pMAが結合したペプチドからpMAを遊離させる。
【0038】
図2は、多段階反応の他の例を示す模式図であり、微生物夾雑物が(1→3)−β−D−グルカンの場合の例である。
図2に例示するように、多段階反応においては、(1→3)−β−D−グルカンを含む被検体をライセート試薬のG因子に作用させることにより、G因子から活性型G因子を、凝固酵素前駆体から活性型凝固酵素を次々に発生させ、この活性型凝固酵素により、pMAが結合したペプチドからpMAを遊離させる。
【0039】
本発明においては、遊離反応後の、被検体、ライセート試薬およびペプチドの混合物に対して、電気化学反応により測定される電流値に基づいて微生物夾雑物を定量する。すなわち、反応後の被検体、ライセート試薬およびペプチドの混合物には、ペプチドから遊離したpMAが存在しており、特定の電位においてpMAが酸化反応する。このpMAの酸化反応に由来する電流値と、pMAの濃度、すなわちエンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度との間には相関が成り立ち、この相関を利用して、pMAの濃度を定量する。
【0040】
具体的には、電極電位が酸化電位以上になると、pMAは下記式(1)のスキームに従って電子を放出し、酸化される。
【0042】
このときにpMAから放出されて作用極が受け取る電子が電流として観察される。電気化学反応により測定される電流値は、pMAの濃度に比例する。エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度および多段階反応の進行には相関があるため、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度および生じたpMAの濃度、すなわち電流値にも相関が生じる。したがって、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度および電流値の相関を示した検量線を予め作成することにより、電流値から、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度を測定することができる。
【0043】
ここで、被検体、ライセート試薬およびペプチドの混合物には、ペプチドから遊離したpMAの他に、ペプチドに結合したpMAも存在する。しかしながら、ペプチドから遊離したpMAとペプチドに結合したpMAとは、酸化還元電位が異なっており、その差が比較的大きい。そのため、ペプチドから遊離したpMAの酸化反応に由来する電流と、ペプチドに結合したpMAの酸化反応に由来する電流とを容易に分離して得ることができる。したがって本発明においては、pMAが結合したペプチドを用いることにより、ペプチドから遊離したpMAの濃度が極微量であっても、エンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度を高い精度で検出することができる。
【0044】
また、一般に、被検体には酸素が溶存しており、酸素は特定の電位において還元反応する。そのため、還元反応に由来する電流に基づいて微生物夾雑物の濃度を測定する場合には、酸素の還元反応に由来する電流も影響することから、微生物夾雑物の濃度を精度良く検出することが困難である。特許文献1に記載されているような、色素が結合したペプチドを用いる場合には、ペプチドから遊離した色素の還元反応に由来する電流ピークに基づいてエンドトキシンの濃度を測定するため、高精度な検出は難しい。
これに対し、本発明においては、上述したように、ペプチドから遊離したpMAの酸化反応に由来する電流に基づいてエンドトキシンや(1→3)−β−D−グルカンの濃度を測定することができる。
したがって本発明においては、ペプチドと結合したpMAをはじめ、被検体を含む混合物に存在するその他の物質の影響を受けることなく、極微量の微生物夾雑物であっても高感度に検出することが可能である。
【0045】
また本発明においては、電気化学測定を行うため、電極表面での反応の検出が可能となり、微量の被検体でも微生物夾雑物の濃度を測定することができる。したがって、微量の被検体でも微生物夾雑物の濃度検出が可能になるのみならず、迅速な検出が可能となる。さらに、高価なライセート試薬の使用を大幅に節減することができ、安価な微生物夾雑物の濃度検出方法の提供が可能になる。
【0046】
また本発明においては、パラメトキシアニリンが結合したペプチドを用いており、パラメトキシアニリンは、その電気化学活性が安定であるため、正確かつ安定的な検出が可能となる。特に、例えば30分以上の長時間測定で高感度検出が必要な場合には、安定性に優れた検出が可能になる。
【0047】
また本発明の微生物夾雑物の濃度検出方法は、比色法のように、光により検出する方法ではないため、透明性の低い被検体や、組織液等の多成分系の被検体も測定対象にできると考えられ、実用性が極めて高い。
【0048】
このように本発明においては、医療現場で、手軽で迅速かつ高精度な微生物夾雑物の定量が可能となり、血液と直接接する医薬品や医療器具に対して、微生物夾雑物の厳重な混入防止管理を行うことができる。
【0049】
本発明が適用される微生物夾雑物としては、ライセート試薬反応性物質であればよく、エンドトキシン、(1→3)−β−D−グルカンを例示することができる。
【0050】
以下、本発明の微生物夾雑物の濃度検出方法における各工程について説明する。
【0051】
1.反応工程
本発明における反応工程では、微生物夾雑物を含む被検体と、ライセート試薬およびパラメトキシアニリンが結合したペプチドとを接触させて、多段階反応により上記ペプチドからの上記パラメトキシアニリンの遊離反応を生じさせる。
【0052】
ライセート試薬としては、Limulus Amebocyte Lysate(LAL)といわれるカブトガニの血球抽出成分により調製されたものを用いることができる。また、ライセート試薬として、生体由来成分から単離精製されたC因子、G因子、凝固酵素等や、遺伝子組換え技術によって作製された組換えC因子等を適宜使用して調製した「LALの同等物」を用いることもできる。
【0053】
パラメトキシアニリンが結合したペプチドとしては、一端にパラメトキシアニリンが結合し、他端にペプチドの保護基が結合したオリゴペプチドを用いることができる。このようなオリゴペプチドは、例えば、X−A−pMAで示されるものを挙げることができる。ここで、Xは保護基、Aはオリゴペプチドを表す。
保護基Xは、ペプチドの保護基、例えば、t−ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンゾイル基、アセテート基等を挙げることができる。
【0054】
オリゴペプチドとしては、ライセート試薬の作用によってパラメトキシアニリンを遊離することができるものであれば特に限定されるものではない。中でも、オリゴペプチドは、アミノ酸数が2〜10、特に2〜5、さらには3〜4のものが好ましい。
例えば、トリペプチドとしては、Leu−Gly−Arg、Thr−Gly−Arg等を例示することができる。また、例えば、一般式:R
1−Gly−Arg−pMAにおけるL−アミノ酸を有するトリペプチドを挙げることができる。ここで、R
1はN−ブロックされたアミノ酸を表す。
また、一般式:R
2−A
1−A
2−A
3−A
4−pMAにおけるテトラペプチドを挙げることができる。ここで、R
2は水素、ブロックしている芳香族炭化水素またはアシル基を表し、A
1はIle、ValまたはLeuから選択されるL−アミノ酸またはD−アミノ酸を表し、A
2はGluまたはAspを表し、A
3はAlaまたはCysを表し、A
4はArgを表す。
一端にパラメトキシアニリンが結合し、他端にペプチドの保護基が結合したオリゴペプチドとしては、具体的には、Boc−Leu−Gly−Arg−pMA、アセテート−Ile−Glu−Ala−Arg−pMA等が挙げられる。
【0055】
微生物夾雑物を含む被検体と、ライセート試薬およびパラメトキシアニリンが結合したペプチドとを接触させる際には、pH6.0〜9.0、中でもpH7.0〜8.5の緩衝液を併用することが好ましい。これにより、パラメトキシアニリンの遊離量を増加させることができる。緩衝液としては、例えば、Tris−Ac緩衝液、Tris−HCl緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、PIPES緩衝液等が挙げられる。
【0056】
多段階反応により生じた活性型凝固酵素によって、被検体、ライセート試薬およびパラメトキシアニリンが結合したペプチドの混合物中には、パラメトキシアニリンが結合したペプチドからパラメトキシアニリンが遊離する。
多段階反応および遊離反応時には、反応を活性化するために、加温することが好ましい。多段階反応および遊離反応の反応温度としては、好ましくは20℃〜50℃の範囲内、より好ましくは25〜45℃の範囲内、特に好ましくは37℃程度である。また、反応時間は、好ましくは30分間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上である。これにより、充分な量の遊離したパラメトキシアニリンを得ることができる。
なお、被検体とライセート試薬とパラメトキシアニリンが結合したペプチドとの合計容量が1mm
3〜200mm
3の範囲内、特に1mm
3〜100mm
3の範囲内、さらには1mm
3〜50mm
3の範囲内のように少ない場合は、反応温度を30℃〜40℃程度とし、反応時間を15分間〜1時間程度とすることができる。
【0057】
2.測定工程
本発明における測定工程では、上記遊離反応後の、上記被検体、上記ライセート試薬および上記ペプチドの混合物に対して、電気化学反応により測定される電流値に基づいて微生物夾雑物を定量する。すなわち、反応後の被検体、ライセート試薬およびペプチドの混合物には、ペプチドから遊離したパラメトキシアニリンが存在しており、特定の電位において、パラメトキシアニリンが酸化反応する。この酸化反応に由来する電流値と、パラメトキシアニリンの濃度、すなわち微生物夾雑物の濃度との間には相関が成り立ち、この相関を利用して、パラメトキシアニリンの濃度を定量する。
【0058】
電気化学反応による測定方法としては、電気化学反応により測定される電流値に基づいて微生物夾雑物を定量できる方法であれば特に限定されるものではなく、例えばアンペロメトリ法、ボルタンメトリ法等が挙げられる。アンペロメトリ法としては、クロノアンペロメトリ法、ディファレンシャルパルスアンペロメトリ法等が例示される。ボルタンメトリ法としては、ノーマルパルスボルタンメトリ法、ディファレンシャルパルスボルタンメトリ法、サイクリックボルタンメトリ法等が例示される。中でも、測定が簡単であることから、アンペロメトリ法が好ましい。
【0059】
アンペロメトリ法による測定においては、例えば、被検体、ライセート試薬およびパラメトキシアニリンが結合したペプチドの混合物に、電極を入れ、アンペロメトリ法に基づく測定を行う。すなわち、作用極に一定電位を印加した状態で、流れる電流を測定する。電位は参照極に対して制御し、電流は作用極および対極の間を流れる。電流値が小さいとき等には、対極を設けずに、参照極に対極の役割を担わせてもよい。電圧印加時間を横軸に、電流値を縦軸にプロットしたグラフを用いることで、上記の一定電位を電極に印加開始してから一定時間経過後の電流を測定する。微生物夾雑物の濃度および一定時間経過後の電流値の相関を示した検量線を予め作成することにより、測定電流値から微生物夾雑物の濃度を算出することができる。
【0060】
使用する電極としては特に限定されるものではなく、電気化学測定に用いられる一般的な電極を使用することができる。例えば、作用極としては、グラッシーカーボン、カーボンペースト、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素電極、Au、Pt等の電気化学的に安定な貴金属を用いることができる。対極としては、Au、Pt等の電気化学的に安定な貴金属を用いることができる。参照極としては、Ag/AgCl電極等を用いることができる。
また、測定装置としては、一般に電気化学測定に使用される装置を用いることができ、例えばポテンショスタット、電流増幅器、これらと同等の機能を持つ装置を挙げることができる。
【0061】
3.その他
上述のように、本発明の微生物夾雑物の濃度検出方法については、パラメトキシアニリンを例に挙げて説明したが、本発明においては、上述した一般式(a)で示した他の化合物についても、パラメトキシアニリンと同様の電気化学特性を有することから、正確かつ安定的な検出が可能となる。
【0062】
B.電極チップ
本発明の電極チップは、基板と、上記基板上に形成され、微生物夾雑物を含む被検体を収容し得る収容部と、上記収容部内に配置された電極とを有し、上記被検体を導入する導入口から上記収容部の間に下記一般式(a)で示した化合物が結合したペプチドが配置されていることを特徴とするものである。
【0064】
(式(a)中、Rは、−O−C
nH
2n+1または−S−C
nH
2n+1であり、nは1から4までの整数である。)
【0065】
以下、上記一般式(a)で示した化合物として、具体的に、パラメトキシアニリンについて説明する。
【0066】
図3(a)、(b)は、本発明の電極チップの一例を示す概略平面図および断面図であり、
図3(b)は
図3(a)のA−A線断面図である。
図3(a)、(b)に例示する電極チップ1においては、基板2上に複数の電極3および端子4がそれぞれ配列して形成され、電極3および端子4を一対にして両者を電気的に接続する導線5が複数形成されており、導線5を覆うように絶縁層6が形成されている。また、基板2上には、複数の貫通孔12を有する上部基板11が、電極3上に貫通孔12が位置するように配置されており、貫通孔12によって収容部7が形成されている。収容部7の上部は開口しており、被検体を導入する導入口になっている。そして、収容部7内の電極3の近傍にはパラメトキシアニリンが結合したペプチド9が固定されている。この電極チップ1は、内部に電極3およびパラメトキシアニリンが結合したペプチド9が配置された収容部7を複数有している。なお、
図3(a)において絶縁層は省略している。
【0067】
図4(a)、(b)は、本発明の電極チップの他の例を示す概略平面図および断面図であり、
図4(b)は
図4(a)のB−B線断面図である。
図4(a)、(b)に例示する電極チップ1においては、基板2上に作用極3a、対極3bおよび参照極3cを含む電極3ならびに端子4が形成され、作用極3a、対極3bおよび参照極3cのそれぞれと端子4とを一対にして両者を電気的に接続する導線5が形成されており、導線5を覆うように絶縁層6が形成されている。基板2上には、収容部7、流路22および導入口23を形成するための開口部を有するスペーサ25が配置されており、このスペーサ25は、スペーサ25の収容部7に相当する開口部が電極3上に位置するように、かつ端子4が露出するように配置されている。スペーサ25上には、スペーサ25の収容部7および流路22に相当する開口部を覆うように、かつ導入口23が確保されるように、上部基板21が配置されている。また、流路22にはパラメトキシアニリンが結合したペプチド9およびライセート試薬10が固定されている。なお、
図4(a)において絶縁層は省略している。
【0068】
本発明においては、電極チップにパラメトキシアニリンが結合したペプチドが予め配置されており、電気化学的に測定を行うため、電極表面での反応の検出が可能となり、微量の被検体でも微生物夾雑物の濃度を測定することができる。したがって、微量の被検体であっても、簡易かつ迅速に、高感度で安定的な検出が可能となる。さらに、高価なライセート試薬の使用を大幅に節減することができ、安価に微生物夾雑物の濃度検出を行うことができる。
また、本発明の電極チップが収容部を複数有する場合には、連続的に測定が可能であり、かつ、小型化が可能であるため、医療用現場で実用的に使用することができる。
【0069】
以下、本発明の電極チップにおける各構成について説明する。
【0070】
1.収容部
本発明における収容部は、基板上に形成され、微生物夾雑物を含む被検体を収容し得るものであり、その内部に電極が配置されるものである。
収容部の形状としては特に限定されるものではなく、収容部の平面視形状としては、例えば円形、楕円形、矩形等を挙げることができる。
本発明の電極チップにおいては、被検体を数μL〜数十μL程度導入して測定を行うことができることから、収容部の容量としては、1mm
3〜200mm
3の範囲内であることが好ましく、中でも1mm
3〜100mm
3の範囲内、特に1mm
3〜50mm
3の範囲内であることが好ましい。収容部の大きさとしては、例えば収容部の平面視形状が円形の場合には、直径が1mm〜5mm程度、深さが1mm〜10mm程度とすることができる。
【0071】
収容部の配置としては、被検体を収容することができ、その内部に電極を配置することができれば特に限定されるものではない。例えば
図3に示すように上部が導入口となるように収容部7が配置されていてもよく、
図4に示すように流路22に接続して収容部7が配置されていてもよい。
収容部の数は、1つでもよく複数でもよい。
【0072】
2.流路
本発明の電極チップは、一端が上記収容部に接続され、他端が導入口に接続された流路を有していてもよい。
流路は、上部基板の溝によって形成されていてもよく、また基板と上部基板との間にスペーサを配置することによって形成されていてもよい。
流路の幅や高さとしては、被検体を収容部に導くことができれば特に限定されるものではなく、例えば0.1mm〜5mm程度とすることができる。
【0073】
3.パラメトキシアニリンが結合したペプチド
本発明においては、被検体を導入する導入口から収容部の間にパラメトキシアニリンが結合したペプチドが配置されている。
パラメトキシアニリンが結合したペプチドの配置としては、導入口から収容部の間までであればよく、例えば収容部内や流路等にパラメトキシアニリンが結合したペプチドを配置することができる。また、パラメトキシアニリンが結合したペプチドは、基板側に配置されていてもよく、上部電極側に配置されていてもよい。
パラメトキシアニリンが結合したペプチドを配置する方法としては、例えばパラメトキシアニリンを蒸留水や上述の緩衝液等に溶解させ、ディスペンサーを用いた方法やインクジェット法等にて塗布し、乾燥する方法が挙げられる。
【0074】
4.ライセート試薬
本発明においては、被検体を導入する導入口から収容部の間にライセート試薬が配置されていてもよい。
ライセート試薬の配置としては、導入口から収容部の間までであればよく、例えば収容部内や流路等にライセート試薬を配置することができる。また、ライセート試薬は、基板側に配置されていてもよく、上部電極側に配置されていてもよい。
また、ライセート試薬は、パラメトキシアニリンが結合したペプチドとは別に配置されていてもよく、パラメトキシアニリンが結合したペプチドと混合して配置されていてもよい。
ライセート試薬を配置する方法としては、上記のパラメトキシアニリンが結合したペプチドを配置する方法と同様とすることができる。
【0075】
5.電極
本発明における電極は、上記収容部内に配置されるものである。
電極としては、特に限定されるものではなく、電気化学測定に用いられる一般的な電極を使用することができる。例えば、グラッシーカーボン、カーボンペースト、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素電極や、Au、Pt等の電気化学的に安定な貴金属の電極を用いることができる。
基板上には、電極として、作用極のみが形成されていてもよく、作用極および対極が形成されていてもよく、作用極、対極および参照極が形成されていてもよい。
【0076】
また、基板上には、電極と電気的に接続された導線および端子を形成することができる。導線および端子の材料は、電極の材料と同様とすることができる。導線および端子の材料は、検出電流値に影響を及ぼさない導電性が確保されればよく、一般的な導電材料を使用することができるが、中でも、導電性の観点から、Au、Pt、Ag等の貴金属であることが好ましい。
【0077】
電極の形成方法としては、例えば導電膜が形成された基板を用い、フォトリソグラフィー法により導電膜をパターニングする方法や、マスク蒸着法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
導線および端子の形成方法は、電極の形成方法と同様とすることができる。
また、導線および端子は、電極と同時に形成してもよく、電極とは別に形成してもよい。
【0078】
6.基板
本発明に用いられる基板としては、電極が形成可能であり、表面が絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばガラス基板、樹脂基板、セラミック基板等が挙げられる。
基板の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば正方形、矩形、円形、楕円形等、任意の形状とすることができる。
【0079】
7.上部基板
本発明においては、基板上に上部基板が配置されていてもよい。
【0080】
上部基板は貫通孔を有していてもよい。貫通孔を導入口とすることができる。また、
図3に例示するように貫通孔によって収容部を形成することもできる。
貫通孔の大きさとしては、
図3に例示するように貫通孔によって収容部を形成する場合には、収容部の大きさと同様とすることができる。また、図示しないが貫通孔が導入口であり流路に接続されている場合には、被検体を導入可能な大きさであればよい。
貫通孔の形状としては特に限定されないが、貫通孔の形成し易さから、貫通孔の平面視形状は円形、楕円形が好ましい。
【0081】
また、上部基板の基板との対向面には、流路および収容部を形成するための溝が形成されていてもよい。流路や収容部を形成するための溝の大きさとしては、流路や収容部の大きさと同様とすることができる。
【0082】
上部基板としては、表面が絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えばガラス基板、樹脂基板等が挙げられる。
上部基板の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば正方形、矩形、円形、楕円形等、任意の形状とすることができる。
【0083】
上部基板は、少なくとも端子が露出するように基板上に配置される。また、上部基板の貫通孔によって収容部を形成する場合には、貫通孔が電極上に位置するように、上部基板が配置される。また、上部基板の溝によって流路および収容部を形成する場合には、溝の一部が電極上に位置するように、上部基板が配置される。
上部基板は、例えば接着剤や粘着剤を介して基板に貼付することができる。
【0084】
8.スペーサ
本発明においては、基板と上部基板との間にスペーサが配置されていてもよい。スペーサは収容部および流路を形成するために設けられるものである。
スペーサは収容部および流路に相当する開口部を有することができる。開口部の大きさおよび形状としては、収容部および流路の大きさおよび形状と同様とすることができる。
【0085】
スペーサとしては、絶縁性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば樹脂基板等が挙げられる。
スペーサの形状としては、特に限定されるものではなく、例えば正方形、矩形、円形、楕円形等、任意の形状とすることができる。
【0086】
スペーサは、少なくとも端子が露出し、スペーサの開口部が電極上に位置するように基板上に配置される。
スペーサは、例えば接着剤や粘着剤を介して基板に貼付することができる。
【0087】
9.絶縁層
本発明においては、導線を覆うように絶縁層を形成することができる。絶縁層により、導線の酸化を抑制するとともに、ショートを防ぐことができる。
絶縁層の材料としては、例えば熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を用いることができる。
絶縁層の形成方法としては、導線を覆い、電極および端子を覆わないように絶縁層をパターン状に形成することができる方法であればよく、例えばフォトリソグラフィー法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
【0088】
10.電極チップの使用方法
本発明の電極チップを用いた微生物夾雑物の濃度検出方法の一例について説明する。
まず、
図3に例示するような電極チップにおいては、微生物夾雑物を含む被検体とライセート試薬とを混合した混合物を電極チップ1の導入口から導入して、収容部7に収容する。この際、pMAが結合したペプチド9は被検体とライセート試薬との混合物に溶解する。また、
図4に例示するような電極チップにおいては、微生物夾雑物を含む被検体を電極チップ1の導入口23から導入し、毛細管現象により流路22に流入させ、収容部7まで移動させる。この際、pMAが結合したペプチド9およびライセート試薬10は被検体に溶解する。そして、被検体とライセート試薬とpMAが結合したペプチドとを収容部にて一定時間反応させる。
次に、アンペロメトリ法の場合には、電極に一定電位を印加する。一定時間経過後の電流を測定することにより、微生物夾雑物の濃度を算出することができる。このとき、ペプチドから遊離したpMAとペプチドに結合したpMAとは、酸化還元電位が異なっており、その差が比較的大きいため、pMAが結合したペプチドから分離して生じるpMAのみを、選択的かつ高精度に検出することができる。
【0089】
11.その他
上述のように、本発明の電極チップについては、パラメトキシアニリンを例に挙げて説明したが、本発明においては、上述した一般式(a)で示した他の化合物についてもパラメトキシアニリンと同様の電気化学特性を有することから、同様の効果を得ることができる。
【0090】
C.オリゴペプチド
本発明のオリゴペプチドは、一端に下記一般式(a)で示した化合物が結合し、他端にペプチドの保護基が結合していることを特徴とするものである。
【0092】
(式(a)中、Rは、−O−C
nH
2n+1または−S−C
nH
2n+1であり、nは1から4までの整数である。)
【0093】
以下、上記一般式(a)で示した化合物として、具体的に、パラメトキシアニリンについて説明する。
なお、一端にパラメトキシアニリンが結合し、他端にペプチドの保護基が結合したオリゴペプチドについては、上記「A.微生物夾雑物の濃度検出方法」に記載したので、ここでの説明は省略する。
本発明のオリゴペプチドは、公知の方法に準拠して合成することができる。例えばBoc−Leu−Gly−Arg−pMAは下記のスキームに示すように合成することができる。
【0095】
なお、本発明のオリゴペプチドについては、上述のように、パラメトキシアニリンを例に挙げたて説明したが、本発明においては、上述した一般式(a)で示した他の化合物についてもパラメトキシアニリンと同様の電気化学特性を有することから、同様の効果を得ることができる。
【0096】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0098】
[準備]
1.試薬
本実施例で使用した試薬は以下の通りである。
【0099】
(1)標準エンドトキシン溶液
エンドトキシン標準品は、生化学工業社製のE.Coli O113:H10株由来USP Reference Standard Endotoxinを用いた。標準エンドトキシン溶液は、生化学工業社製のエンドスペシーES24Sに添付されているエンドトキシンフリー水を用いて調製し、使用の直前に30分間ボルテックスミキサーで激しく攪拌した。なお、エンドトキシン濃度は測定溶液中の最終濃度で示した。
【0100】
(2)ライセート試薬
ライセート試薬としては、ライセート試薬が凍結乾燥状態で1テスト分ずつ専用の試験管に封入されている、生化学工業社製のエンドスペシーES24Sを用いた。
【0101】
(3)LGR−pMAおよびpMA
合成したLGR−pMAは、大塚製薬社製の注射用水に溶解し、10mMのストック溶液として−20℃で保管した。和光純薬工業社製のpMAは、測定毎に大塚製薬社製の注射用水に溶解し、10mM溶液とした。LGR−pMAおよびpMAの希釈には生化学工業社製のエンドスペシーに添付されている緩衝液を用いた。
【0102】
2.装置および測定法
本実施例における電気化学測定法で用いた装置および測定法は以下の通りである。
【0103】
(1)測定装置
Ivium Technologies社製のポテンショスタットCompactStat
【0104】
(2)電極
(a)96ウェルプレートを用いる測定
作用極にはBAS株式会社製の直径1mmのグラッシーカーボンディスク電極を、対極にはPt板を、参照極にはAg/AgClをそれぞれ用いた。作用極表面の状態を一定に保つため、1回の測定ごとにGC電極表面をBAS社製の0.05μmのアルミナスラリーで1分以上研磨した。
(b)電極チップを用いる測定
電極チップの電極を作用極、対極および参照極として使用し、測定を行った。あるいは、電極チップの直径1.0mmの炭素電極を作用極として使用し、Ag/AgCl参照極とPt対極を収容部へ挿入して測定を行った。
【0105】
(3)測定法
サイクリックボルタンメトリ(CV)では走査速度を20mV/sとした。また、アンペロメトリ法では初期電位を−0.2Vに設定し、10秒間印加を行った後、電位を0.6Vにステップし、30秒間印加を行った。
【0106】
[参考例]
溶解したpMAの安定性の評価を行った。
緩衝液は、生化学工業社製のエンドスペシー添付の試薬を用いた。緩衝液を用いて濃度が1mMとなるようにpMA溶液を調製した。pMA溶液をそれぞれ30分、1時間、2時間、3時間、72時間の間37℃の暗所で保存した後、96ウェルプレートでCV測定を行った。電位は0.2V→0.7V→−0.4V→0.2Vの範囲で走査した。
図5に0分、30分、1時間、2時間、3時間、72時間後のボルタモグラムを示す。0.5V付近にpMAの酸化反応由来のピークが確認され、その電流値はpMA溶液調製直後から72時間後までほぼ一定だった。この結果から、pMAが非常に安定であることがわかった。
【0107】
[実施例1]
パラメトキシアニリンが結合したペプチドであるBoc−Leu−Gly−Arg−pMAは、上記「C.オリゴペプチド」に示すスキームにより合成した。なお、以下、Boc−Leu−Gly−Arg−pMAはLGR−pMAと略称する場合がある。
【0108】
[実施例2]
1.電極チップの作製
電極チップは、下記に示す方法により作製した。
(1)導線および端子の形成
PET基材(東レ社製、ルミラー350H10)上にスクリーン印刷にてAgペーストをパターン状に塗布し、130℃で30分間焼成することで導線および端子を形成した。
(2)電極の形成
次に、上記PET基材上にスクリーン印刷によりカーボンペーストをパターン状に塗布し、120℃で15分間焼成することで作用極および対極を形成した。また、上記PET基材上にスクリーン印刷によりラサ工業製のAg/AgClペーストをパターン状に塗布し、80℃で10分間焼成することで参照極を形成した。
(3)絶縁層の形成
次に、導線を被覆する目的で、上記PET基材上にUV硬化性樹脂をスクリーン印刷によりパターン状に塗布し、ウシオ社製Deep UVランプにて100秒間露光して硬化させた。
【0109】
(4)流路および収容部の形成およびLGR−pMAの配置
100μm厚みのPET基材(東レ社製、A4100)の両面に25μm厚みのアクリル粘着シートをラミネーターにて貼り合わせ、積層基材とした。次いで、被検体液が通過する流路、収容部および導入口を形成すべく、GRAPHTEC社製のカッティングマシーンにて、上記積層基材を裁断し、上記積層基材の流路、収容部および導入口に相当する領域を除去することで流路、収容部および導入口に相当する開口部を形成した。
次に、流路、収容部および導入口に相当する開口部が形成された積層基材を、上記の導線、端子および電極等が形成されたPET基材にラミネーターにて貼り合わせることで積層し、高さ150μmの流路および収容部を形成した。
次に、LGR−pMAの希釈には生化学工業社製のエンドスペシーES24Sに添付されている緩衝液を用いた。LGR−pMAの希釈液をディスペンサーにて、上記絶縁層上の収容部滴下し、室温にて乾燥させた。あるいは、LGR−pMAの希釈液をディスペンサーにて、後述のスリーエムヘルスケア社製の親水カバーフィルムの収容部に相当する領域に滴下し、室温にて乾燥させた。
次に、流路および収容部に蓋をするように、上記積層基材にスリーエムヘルスケア社製の親水カバーフィルムを貼り合わせ接着させた。
【0110】
2.評価
作製した電極チップの評価を行った。測定試料としては、濃度1.0mMに調製したpMAおよびLGR−pMAを使用した。試料の調製には、生化学工業社製のエンドスペシーES24Sに添付されている緩衝液を使用した。
まず、電極チップにおいて、親水カバーフィルムを含まないものを用いて評価を行った。電極チップの電極部分に100μLの試料を滴下し、CV測定を行った。測定には、電極チップの作用極、対極および参照極を使用した。電位は0.2V→1.5V→−0.4V→0.2Vの範囲で、20mV/sの速度で走査した。
図6に(A)pMAおよび(B)LGR−pMAのそれぞれの場合のボルタモグラムを示す。0.4V付近にpMAの酸化反応に由来するピークが、0.95V付近にLGR−pMAの酸化反応に由来するピークが確認された。この結果から、電極チップを使用した電気化学測定が可能であることが示された。
【0111】
次に、電極チップを用いて評価を行った。導入口より試料を電極チップ内に導入し、収容部が試料で満たされたのを確認した後、CV測定を行った。測定条件は、上述と同様とした。
図7に(A)pMAおよび(B)LGR−pMAの場合のボルタモグラムを示す。0.4V付近にpMAの酸化反応に由来するピークが、1.0V付近にLGR−pMAの酸化反応に由来するピークが確認された。この結果から、電極チップを使用した電気化学測定が可能であることが示された。さらに、pMAの酸化反応に由来するピークが0.4Vであり、LGR−pMAの酸化反応に由来するピークがpMAの酸化反応に由来するピークである0.4V以上の1.0V付近に確認されたため、アンペロメトリ法によりpMAのみの酸化反応を検出することが可能であることが示された。
【0112】
[実施例3]
LALカスケード反応を用いてエンドトキシンの濃度検出を行った。
ライセート試薬および緩衝液は、生化学工業社製のエンドスペシー添付の試薬を用いた。凍結乾燥状態のライセート試薬が入った試験管へ、LGR−pMA、緩衝液200μLおよびエンドトキシン標準溶液200μLを添加して撹拌した。37℃で最長60分間反応を行った後、混合液200μLを96ウェルプレートへ移した。エンドトキシンがC因子へ結合する反応がトリガーとなり、B因子、凝固酵素を次々に活性化してLALカスケード反応が進む。凝固酵素によりLGR−pMAから遊離したpMAを直径1mmのグラッシーカーボン電極でCV法およびアンペロメトリ法を用いて検出した。CV法は走査速度を20mV/sとし、範囲を0.2V→1.5V→−0.4V→0.2Vとした。アンペロメトリ法では−0.2Vの初期電位を10秒間印加した後、0.6Vに電位をステップして30秒間印加し、pMAの酸化反応に由来する電流を記録した。
【0113】
図8に、反応時間をそれぞれ(A)0分、(B)10分、(C)20分、(D)30分、(E)40分、(F)50分、(G)60分に設定し、濃度100EU/Lのエンドトキシン標準溶液とライセート試薬とを反応させた時のボルタモグラムを示す。LALカスケード反応によってLGR−pMAから遊離するpMAの酸化反応に由来するピークが0.5V付近に確認された。その電流値は10分〜40分の範囲では時間に依存して増加し、40分以降は一定となった。
図9に、反応時間を30分に設定し、それぞれ濃度が(A)1EU/L、(B)10EU/L、(C)100EU/L、(D)1000EU/Lのエンドトキシン標準溶液とライセート試薬とを反応させた時のボルタモグラムを示す。LALカスケード反応によってLGR−pMAから遊離するpMAの酸化反応由来のピークが0.5V付近に確認された。その電流値はエンドトキシン濃度に依存して増加した。
これらの結果から、本手法により30分で10EU/Lのエンドトキシンを検出できることが分かった。さらにこれらの結果から、pMAの酸化反応由来のピーク電位はLGR−pMAの酸化反応由来のピーク電位よりも低く、アンペロメトリ法によりpMAの酸化反応のみを検出することができることが示された。
【0114】
図10(a)にLAL反応を30分行った溶液に対してアンペロメトリ法による検出を行った際に得られたアンペログラムを示す。また、
図10(b)に
図10(a)の拡大図を示す。エンドトキシンの濃度は(A)0EU/L、(B)1EU/L、(C)10EU/L、(D)100EU/L、(E)1000EU/Lであり、1EU/L〜1000EU/Lの範囲でエンドトキシン濃度が高くなるに従って、pMAの酸化反応由来の電流値が増大することが確認された。
【0115】
[比較例1]
パラニトロアニリンが結合されたペプチドとしてBoc−Leu−Gly−Arg−pNAを用いた。
LAL酵素溶液としては、C因子、B因子および凝固酵素前駆体を含むライセート試薬と、Boc−Leu−Gly−Arg−pNAとが凍結乾燥状態で1テスト分ずつ専用の試験管に封入されている、生化学工業社製のエンドスペシーES−24Sセットの試薬を用いた。なお、以下、Boc−Leu−Gly−Arg−pNAをLGR−pNAと略称する場合がある。
ライセート試薬および緩衝液は、生化学工業社製のエンドスペシー添付の試薬を用いた。凍結乾燥状態のライセート試薬およびLGR−pNAが入った試験管へ、緩衝液200μLおよびエンドトキシン標準溶液200μLを添加して撹拌し、200μLを96ウェルプレートへ移した。室温で1時間または2時間反応を行った後、直径1mmのグラッシーカーボン電極を用いてディファレンシャルパルスボルタンメトリ(DPV)法による測定を行った。
【0116】
図11(a)に反応時間1時間後、
図11(b)に反応時間2時間後のボルタモグラムを示す。LGR−pNAおよびpNAの還元反応由来のピークがそれぞれ−0.64Vおよび−0.75V付近に観察された。LGR−pNAの還元反応由来のピークには−0.6V付近に見られる別のピークが重なっていた。エンドトキシンの濃度は、(A)0EU/L、(B)1EU/L、(C)10EU/L、(D)100EU/L、(E)1000EU/Lであり、エンドトキシンの濃度が高くなるに従って−0.64V付近のLGR−pNAの還元反応由来のピークが減少し、−0.75V付近のpNAの還元反応由来のピークが増大した。
図12に、0EU/Lの電流値を基準とした−0.75V付近のピーク電流値をシグナルに採用し、エンドトキシン濃度に対してプロットしたグラフを示す。それぞれの点は5回の繰り返し実験の平均値であり、エラーバーは±標準偏差を示す。DPVのシグナルはエンドトキシン濃度および反応時間に依存した。本手法によって反応時間1時間では5EU/L以上のエンドトキシンの検出が可能であり、反応時間2時間では0.5EU/L以上の検出が可能であった。
しかし、上述の通りディファレンシャルパルスボルタンメトリは、測定結果の測定電流ピーク解析を行う必要があり、分析が複雑である。さらにpNAとLGR−pNAのシグナルの分離はディファレンシャルパルスボルタンメトリ以外の方法では難しい。例えば、アンペロメトリ法を用いようとした場合、pNAのほうがLGR−pNAよりも低電位で還元されるため、pNAが還元される電位を印加するとLGR−pNAも還元されてしまうため、pNAのみの検出は不可能である。
【0117】
[比較例2]
パラアミノフェノールが結合したペプチドとしてBoc−Leu−Gly−Arg−pAPを用いた。なお、以下、Boc−Leu−Gly−Arg−pAPをLGR−pAPと略称する場合がある。
ライセート試薬および緩衝液は、生化学工業社製のエンドスペシー添付の試薬を用いた。凍結乾燥状態のライセート試薬が入った試験管へ、LGR−pAP、緩衝液200μLを添加しライセート試薬を溶解した。この混合液90μLおよびエンドトキシン標準溶液90μLを96ウェルプレートへ移し撹拌した。37℃で30分、1時間または2時間後、アンペロメトリ法による測定を行った。測定には直径1mmのグラッシーカーボン電極、Ag/AgCl参照極およびPt対極を使用した。
【0118】
図13にアンペロメトリ法による検出の反応2時間後のアンペログラムを示す。エンドトキシンの濃度は(A)0EU/L、(B)0.5EU/L、(C)1EU/L、(D)10EU/L、(E)100EU/L、(F)1000EU/Lであり、1EU/L〜1000EU/Lの範囲でエンドトキシン濃度が高くなるに従って、pAP由来の電流値が増大した。
図14に、電位を−0.2Vから0.3Vに切り替えてから19秒後から21秒後の電流値の平均値をシグナルとして採用し、エンドトキシン濃度に対してプロットしたグラフを示す。反応時間は(A)30分、(B)1時間、(C)2時間となっており、それぞれの点は3回の繰り返し実験の平均値、エラーバーは±標準偏差を示す。本手法から、反応時間30分では100EU/L〜2000EU/Lの範囲、1時間では1EU/L〜1000EU/Lの範囲、2時間では0.5EU/L〜1000EU/Lの範囲でエンドトキシン濃度と電流値の間に相関があることが分かった。超純粋透析液の管理等、医療現場では1EU/Lの検出法が求められていることから、本手法の場合では、検出には1時間以上の反応時間が必要となる。
【0119】
しかし、ここでpAPの電気化学活性の低下が問題となる。溶媒をリン酸緩衝液PBS(−)として、1.0mMとなるように調製したpAPを37℃、遮光条件で保存した時のpAP酸化シグナルの変化を評価した結果を
図15に示す。測定にはCV法を用い、電位は20mV/sの速度で、−0.2V→0.8V→−0.8V→−0.2Vの範囲で走査した。保存時間は溶液調製時を開始とし、(A)0分、(B)30分、(C)1時間、(D)4時間であり、時間経過とともに0.2V付近に現れるpAPの酸化反応由来のピークが小さくなった。0分のときの電流値を100とすると、30分で97、1時間後および4時間後で87となり、1割以上減少する結果となった。また、時間の経過とともに0.3V付近に新たなピークが現れ始め、pAPが別物質へ変化していることが示唆された。