特許第5916238号(P5916238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916238フェーズドアレイアンテナ、フェーズドアレイアンテナを備える衛星通信システムおよびフェーズドアレイアンテナを操作する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916238
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】フェーズドアレイアンテナ、フェーズドアレイアンテナを備える衛星通信システムおよびフェーズドアレイアンテナを操作する方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/10 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
   H04B7/10
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-515898(P2013-515898)
(86)(22)【出願日】2011年6月22日
(65)【公表番号】特表2013-529870(P2013-529870A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】EP2011060522
(87)【国際公開番号】WO2011161198
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年6月3日
(31)【優先権主張番号】10275065.0
(32)【優先日】2010年6月23日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512276430
【氏名又は名称】エアバス ディフェンス アンド スペイス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】スターランド、シモン、ジョン
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−536008(JP,A)
【文献】 特表2009−514345(JP,A)
【文献】 特開平08−274530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02− 7/12
H01Q 3/00− 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの通信ビームを有する放射パターンを提供するフェーズドアレイアンテナであって、
各アンテナエレメントが、他のエレメント信号と位相関係および振幅関係を有するアンテナエレメント信号を有する複数のアンテナエレメントと、
デジタルビームフォーミングネットワークを提供するデジタル信号処理構成と、
前記デジタル信号処理構成が干渉信号に晒されることを減らし、ゼロの指向性を有する1又は複数の領域を含む放射パターンを形成するように配置されたアナログビームフォーミングネットワークと
を備え、
前記アナログビームフォーミングネットワークは、前記複数のアンテナエレメントから受信した信号に対する前記干渉信号に対応する方向の前記放射パターンのヌルを生成するべくアナログビームフォーミング重み付けを与え、
前記デジタルビームフォーミングネットワークは、前記アナログビームフォーミングネットワークから受信した信号に、前記少なくとも1つの通信ビームそれぞれについてのデジタルビームフォーミング重み付けを与えて、前記アンテナの複合化された前記放射パターンによって、前記少なくとも1つの通信ビームが提供さ
前記複数のアンテナエレメントは、複数の互いに重複するサブアレイに分割され、各サブアレイは、前記複数のアンテナエレメント全てのサブセットを含んでおり、前記アナログビームフォーミングネットワークは、各サブアレイのエレメントにそれぞれサブアレイビームフォーミング重み付けを与えて前記ヌルを生成し、前記デジタルビームフォーミングネットワークは、前記少なくとも1つの通信ビームに対して各サブアレイビームフォーミング重み付けに割り当てて、前記少なくとも1つの通信ビームを生成し、各サブアレイは、前記サブアレイが生成しようとしているヌルの数よりも少なくとも1以上多いアンテナエレメントを含む、フェーズドアレイアンテナ。
【請求項2】
前記アナログビームフォーミングネットワークは、前記放射パターンに2以上のヌルを生成する、請求項1に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項3】
各サブアレイは3つ以上のエレメントを含む、請求項1または2に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項4】
複数のアンテナエレメントはそれぞれ、サブアレイごとの前記エレメントの数に等しい数のサブアレイに属する、請求項1からのいずれか一項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項5】
前記アナログビームフォーミングネットワークは、複数の出力ポートを含み、前記デジタル信号処理構成は、複数の入力ポートを含み、各サブアレイは出力ポートに連結されており、各出力ポートは、前記デジタル信号処理構成の別々の入力ポートに連結されており、前記アナログビームフォーミングネットワークの出力ポートの数は、前記フェーズドアレイアンテナのアンテナエレメントの数に等しい、請求項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項6】
前記アナログビームフォーミングネットワークは、ヌルが不要である場合、出力ポートに提供される各信号が、異なる1つのアンテナエレメントからものとなるように、各サブアレイのエレメントにビームフォーミング重み付けを与える、請求項1からのいずれか1項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項7】
前記デジタルビームフォーミングネットワークは、各アンテナエレメントにつき少なくとも1つの制御ポイントを含む、請求項1からのいずれか一項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項8】
前記アナログビームフォーミングネットワークは、各アンテナエレメントに連結された、前記複数のアンテナエレメントからの信号にビームフォーミング重み付けを与える位相重み付けおよび振幅重み付け手段と、各サブアレイについて設けられた前記重み付けされた信号を合計する合計デバイスを含む、請求項1からのいずれか一項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項9】
前記アナログビームフォーミングネットワークと前記デジタルビームフォーミングネットワークとの間にアナログ−デジタル変換手段をさらに備える、請求項1からのいずれか一項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項10】
それぞれがサブアレイの出力を複数の周波数チャネルに逆多重化する複数の周波数デマルチプレクサをさらに備え、
前記デジタルビームフォーミングネットワークは、前記複数の周波数チャネルのそれぞれについて少なくとも1つのデジタルビームフォーマーを含み、各デジタルビームフォーマーは、各サブアレイ出力からそれぞれ周波数チャネル信号を受信するように連結されており、それぞれの前記周波数チャネルの信号各々に複合的な重み付けを与えて、前記重み付けされたチャネル信号を合計して、チャネル出力信号を提供するよう配置されている、請求項1からのいずれか一項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項11】
前記複数のアンテナエレメントは、二次元に配置され、各サブアレイは、両次元に延びる、請求項1から10のいずれか一項に記載のフェーズドアレイアンテナ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載のフェーズドアレイアンテナを備える衛星通信システム。
【請求項13】
少なくとも1つの通信ビームを提供するために、フェーズドアレイアンテナを操作する方法であって、
前記フェーズドアレイアンテナは、
各アンテナエレメントが、他のエレメント信号と位相関係および振幅関係を有するアンテナエレメント信号を有する複数のアンテナエレメントと、
デジタルビームフォーミングネットワークを提供するデジタル信号処理構成と、
前記デジタル信号処理構成が干渉信号に晒されることを減らし、ゼロの指向性を有する1又は複数の領域を含む放射パターンを形成するように配置されたアナログビームフォーミングネットワークとを含み、
前記方法は、
前記アナログビームフォーミングネットワークで、前記複数のアンテナエレメントから受信した信号にアナログビームフォーミング重み付けを割り当てて、前記干渉信号に対応する方向のヌルを生成する段階と、
前記アナログビームフォーミングネットワークから前記デジタルビームフォーミングネットワークへの出力信号を提供する段階と、
前記デジタルビームフォーミングネットワークで、前記アナログビームフォーミングネットワークの前記出力信号に、前記少なくとも1つの通信ビームそれぞれについてのデジタルビームフォーミング重み付けを与えて、前記アンテナの複合化された放射パターンによって、前記少なくとも1つの通信ビームを提供する段階と
前記複数のアンテナエレメントを、各サブアレイが前記複数のアンテナエレメント全てのサブセットを含む複数の互いに重複するサブアレイに分割する段階と
を備え、
前記複数のアンテナエレメントから受信した前記信号にアナログビームフォーミング重み付けを割り当てる段階は、
各サブアレイの複数のエレメントにそれぞれのサブアレイの重みを与える段階を有し、
前記アナログビームフォーミングネットワークから出力信号を提供する段階は、
各サブアレイの複数のエレメントからの重み付けされた信号を合計して、前記デジタルビームフォーミングネットワークへの各サブアレイについての出力信号を提供する段階を有し、
前記出力信号にビームフォーミング重み付けを与える段階は、
前記少なくとも1つの通信ビームについて各サブアレイにそれぞれビームフォーミング重み付けを与えて、前記少なくとも1つの通信ビームを提供する段階を有し、各サブアレイは、前記サブアレイが生成しようとしているヌルの数よりも少なくとも1以上多いアンテナエレメントを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナにおけるビームフォーミングに関する。本発明はさらに、干渉信号へのアンテナのコンポーネントが晒されることを減らすことのできるアンテナ、および、その方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商用の通信衛星では、複数のスポットビームを生成すると好ましい場合が多い。複数のスポットビームは、マルチエレメントアンテナを利用して、アンテナが送受信する信号をビームフォーミングすることで生成することができる。
【0003】
デジタルビームフォーミング技術を利用して、各通信周波数チャネルについてアンテナエレメント信号に複合的なデジタル重みを適用することで、多くの幅の狭いスポットビームを生成することができる。しかし、デジタルビームフォーマーのダイナミックレンジは限られている。デジタルビームフォーマーの通常のダイナミックレンジは50dB前後である。このようにダイナミックレンジが限られていることから、デジタルビームフォーマーは、受信モードでの動作中に高電力の干渉信号の干渉を受けやすい。ダイナミックレンジを上げると、コストが高くなる。さらに、強い干渉信号が通信衛星に向けられると、デジタルビームフォーマーが動作不能になることもある。高電力の干渉信号は、アンテナの他のデジタル信号処理成分を飽和させてしまうこともある。
【0004】
マルチエレメントアンテナのエレメントを複数のサブアレイに分けて、デジタルビームフォーミングネットワークのビームフォーミング制御ポイントの数を減らし、ビームフォーミングネットワークを簡略にする技術が公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の点に鑑みて考案された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、少なくとも1つの通信ビームを有する放射パターンを提供するフェーズドアレイアンテナであって、各アンテナエレメントが、他のエレメント信号と位相関係および振幅関係を有するアンテナエレメント信号を有する複数のアンテナエレメントと、デジタルビームフォーミングネットワークを提供するデジタル信号処理構成と、デジタル信号処理構成が干渉信号に晒されることを減らすアナログビームフォーミングネットワークとを備え、アナログビームフォーミングネットワークは、複数のアンテナエレメントから受信した信号に対する干渉信号に対応する方向の放射パターンのヌルを生成するべくアナログビームフォーミング重み付けを与え、デジタルビームフォーミングネットワークは、アナログビームフォーミングネットワークから受信した信号に、少なくとも1つの通信ビームそれぞれについてのデジタルビームフォーミング重み付けを与えて、アンテナの複合化された放射パターンによって、少なくとも1つの通信ビームが提供される、フェーズドアレイアンテナが提供される。
【0007】
ヌルを生成することで、フェーズドアレイアンテナは、デジタルビームフォーミングネットワークが干渉信号に晒されることをなくす、または、大幅に低減させることができる。
【0008】
複数のアンテナエレメントは、複数の互いに重複するサブアレイに分割され、各サブアレイは、複数のアンテナエレメント全てのサブセットを含んでいる。アナログビームフォーミングネットワークは、各サブアレイのエレメントにそれぞれサブアレイビームフォーミング重み付けを与えてヌルを生成し、デジタルビームフォーミングネットワークは、少なくとも1つの通信ビームに対して各サブアレイビームフォーミング重み付けに割り当てて、少なくとも1つの通信ビームを生成してよい。
【0009】
デジタル信号処理構成はこのように、個々のアンテナエレメントに直接は接続されず、アンテナエレメントのサブアレイに連結されているアナログビームフォーミングネットワークに接続される。
【0010】
アナログビームフォーミングネットワークは、1以上のヌルを生成してよい。各サブアレイは3以上のエレメントを含んでよい。一般的にサブアレイは、生成しようとしているヌルの数より少なくとも1つ多いエレメントを含む必要がある。アンテナエレメントは、サブアレイごとのエレメントの数に等しい数のサブアレイに属する。
【0011】
アナログビームフォーミングネットワークは、複数の出力ポートを含み、デジタル信号プロセッサは、複数の入力ポートを含み、各サブアレイは出力ポートに連結されており、各出力ポートは、デジタル信号プロセッサの別々の入力ポートに連結されていてよい。アナログビームフォーミングネットワークは、ヌルが不要である場合、出力ポートに提供される各信号が、異なる1つのアンテナエレメントからものとなるように、各サブアレイのエレメントにビームフォーミング重み付けを与えてよい。アナログビームフォーミングネットワークの出力ポートの数は、アンテナエレメントの数に等しくてよい。
【0012】
デジタルビームフォーミングネットワークは、各アンテナエレメントにつき少なくとも1つの制御ポイントを含んでよい。
【0013】
アナログビームフォーミングネットワークは、各アンテナエレメントに連結された、複数のアンテナエレメントからの信号にビームフォーミング重み付けを与える位相重み付けおよび振幅重み付け手段と、各サブアレイについて設けられた重み付けされた信号を合計する合計デバイスを含んでよい。各アンテナエレメント信号は、該アンテナエレメントが属するサブアレイの数に等しい数の信号部分に分割されてよく、各信号部分には、別個の位相および振幅の重みを割り当ててよい。
【0014】
アナログビームフォーミングネットワークとデジタルビームフォーミングネットワークとの間にアナログ−デジタル変換手段をさらに備えてよい。
【0015】
フェーズドアレイアンテナは、それぞれがサブアレイの出力を複数の周波数チャネルに逆多重化する複数の周波数デマルチプレクサをさらに備え、デジタルビームフォーミングネットワークは、複数の周波数チャネルのそれぞれについて少なくとも1つのデジタルビームフォーマーを含み、各デジタルビームフォーマーは、各サブアレイ出力からそれぞれ周波数チャネル信号を受信するように連結されており、それぞれの周波数チャネルの信号各々に複合的な重み付けを与えて、重み付けされたチャネル信号を合計して、チャネル出力信号を提供するよう配置されていてよい。
【0016】
複数のアンテナエレメントは、二次元に配置され、各サブアレイは、両次元に延びていてよい。
【0017】
本発明は、フェーズドアレイアンテナを備える衛星通信システムも提供する。
【0018】
本発明においては、少なくとも1つの通信ビームを提供するために、フェーズドアレイアンテナを操作する方法であって、フェーズドアレイアンテナは、各アンテナエレメントが、他のエレメント信号と位相関係および振幅関係を有するアンテナエレメント信号を有する複数のアンテナエレメントと、デジタルビームフォーミングネットワークを提供するデジタル信号処理構成と、デジタル信号処理構成が干渉信号に晒されることを減らすアナログビームフォーミングネットワークとを含み、方法は、アナログビームフォーミングネットワークで、複数のアンテナエレメントから受信した信号にアナログビームフォーミング重み付けを割り当てて、干渉信号に対応する方向のヌルを生成する段階と、アナログビームフォーミングネットワークからデジタルビームフォーミングネットワークへの出力信号を提供する段階と、デジタルビームフォーミングネットワークで、アナログビームフォーミングネットワークの出力信号に、少なくとも1つの通信ビームそれぞれについてのデジタルビームフォーミング重み付けを与えて、アンテナの複合化された放射パターンによって、少なくとも1つの通信ビームを提供する段階とを備える方法が提供される。
【0019】
方法はさらに、複数のアンテナエレメントを、各サブアレイが複数のアンテナエレメント全てのサブセットを含む複数の互いに重複するサブアレイに分割する段階をさらに備え、複数のアンテナエレメントから受信した信号にアナログビームフォーミング重み付けを割り当てる段階は、各サブアレイの複数のエレメントにそれぞれのサブアレイの重みを与える段階を有し、アナログビームフォーミングネットワークから出力信号を提供する段階は、各サブアレイの複数のエレメントからの重み付けされた信号を合計して、デジタルビームフォーミングネットワークへの各サブアレイについての出力信号を提供する段階を有し、出力信号にビームフォーミング重み付けを与える段階は、少なくとも1つの通信ビームについて各サブアレイにそれぞれビームフォーミング重み付けを与えて、少なくとも1つの通信ビームを提供する段階を有してよい。
【0020】
本発明の実施形態を、例を利用して、以下に簡単に説明する図1から図10bを参照しながら後述する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】衛星通信システムを示す。
図2】先行技術によるフェーズドアレイ受信アンテナのコンポーネントを示す概略図である。
図3】本発明の一部の実施形態におけるフェーズドアレイ受信アンテナのコンポーネントを示す概略図である。
図4】アンテナエレメントをサブアレイに構成する方法の一例を示す。
図5】各サブアレイのエレメントから信号を合成する方法の一例を示す。
図6】ヌルを生成するために設定されるサブアレイの重みを示す。
図7a】デジタルビームフォーミングネットワークを利用して生成されるヌルを有する放射パターンを示す。
図7b】アナログビームフォーミングネットワークにより生成されるヌルを有する対応する放射パターンを示す。
図8a】デジタルビームフォーミングを利用して生成される2つのヌルを有する第2の放射パターンを示す。
図8b】アナログビームフォーミングネットワークを利用して生成される2つのヌルを有する第2の放射パターンに対応する放射パターンを示す。
図9a】アンテナエレメントをサブアレイに構成する方法の一例を示す。
図9b】アンテナエレメントをサブアレイに構成する方法の一例を示す。
図9c】アンテナエレメントをサブアレイに構成する方法の一例を示す。
図10a】デジタルビームフォーミングを利用して生成されるヌルを有する第3の放射パターンを示す。
図10b】第3の放射パターンに対応しているが、アナログビームフォーミングネットワークを利用して生成されるヌルを有する放射パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1の衛星通信システムは、地上制御局2と通信する通信衛星1を含む。衛星1は、予め定められた地理的領域4内にスポットビームの形で複数の通信ビーム3を生成する。衛星は、世界の領域を網羅する静止衛星であってよい。図1は、さらに、地理的領域4から生じ、通信衛星5へと方向付けられる干渉信号5も示している。干渉信号は、必要なスポットビーム信号の受信と干渉する場合がある。
【0023】
図2は、地理的領域からのスポットビームを受信するための従来のフェーズドアレイ受信アンテナ6を示している。フェーズドアレイ受信アンテナ6は、直接放射型アレイ(DRA)アンテナであってよい。従来のフェーズドアレイ受信アンテナは、複数のアンテナエレメント7が形成するアパーチャを含んでいる。図2は、1行のアンテナエレメントのみを示している。しかし、アンテナエレメントは、2次元アレイに構成することもできる。各エレメントは、受信エレメント信号を各ノイズ増幅器8に提供する。各低ノイズ増幅器8の出力は、各ダウン変換回路9に接続されて、衛星で処理される中間周波数に、信号をダウンコンバートする。ダウン変換回路は、共通のローカル共振周波数ソース(不図示)に接続されることで、継続的に信号間の位相をトラッキングすることができる。さらに信号は、フィルタリングされてからさらなる処理を受けることができる。
【0024】
信号は、ダウンコンバートされ、アナログ領域での処理を受けた後で、デジタル信号プロセッサ10へと提供される。デジタル信号プロセッサは複数の入力ポート11を含む。各アンテナエレメント信号は、それぞれ異なる入力ポートへと送られる。各入力は、アナログ−デジタル変換回路(ADC)12に接続され、アンテナエレメントから受信した信号をデジタル化する。デジタル化された信号は、デマルチプレクサ13に提供され、ここでは、受信された信号を周波数成分へと逆多重化する。例えば、受信された放射が、アンテナの受信可能範囲全体内で形成されるスポットビーム内にK個の周波数チャネルを含んでいるとする。各アンテナエレメント信号は、各デマルチプレクサのK個の別個の周波数チャネルに逆多重化される。次にチャネル信号は、ビームフォーミングネットワーク14を形成する複数のデジタルビームフォーマー14a、14b、14c、14dに提供される。各周波数チャネルには少なくとも1つのビームフォーマーが割り当てられる。2以上のビームフォーマーが1以上の周波数チャネルに割り当てられることで、周波数の再利用が可能となっている。各ビームフォーマーは、特定の周波数大域の異なるエレメント信号成分を入力として、これら異なるエレメント信号成分に対してそれぞれデジタル複合的な重みを与えてから、重み付けされた信号を合計して複数のスポットビームを形成する。次に、デジタルビームフォーマー14a、14b、14c、14dから、合成されてビームフォーミングされたチャネル信号が出力される。ビームフォーミングされたチャネル信号は、送信通信リンクでさらに処理されてよい。例えば、送信通信リンクがビームフォーマーを含むこともできる。
【0025】
デジタル信号プロセッサ10のコンポーネントのダイナミックレンジが限られていることから、従来のフェーズドアレイ受信アンテナ6は干渉信号の影響を受けて誤動作する可能性がある。デジタルビームフォーマーのレンジは通常50dBであるが、別のレンジも可能である。ビームフォーマーのレンジ外の信号電力を有する干渉信号は、デジタルビームフォーマーを飽和させて、フェーズドアレイを誤動作させる可能がある。さらに干渉信号は、デジタル信号プロセッサのフロントエンド(例えばADC12)を飽和させて、アダプティブビームフォーマー14に到達する前に動作不能にさせることがある。
【0026】
本発明の実施形態によると、フェーズドアレイアンテナ15のデジタル信号プロセッサ10の前にアナログビームフォーミング層16を設けることで(図3を参照)、デジタル信号プロセッサ10が干渉信号に晒されることを低減させることができる。アナログビームフォーミング層は、干渉信号の方向に、ゼロに近い指向性またはヌルの領域を生成して、アンテナが干渉信号を傍受しないようにする。図3の参照符号のうち、図2の参照符号と類似した図3の参照符号は、同様の部材を示している。
【0027】
本発明の一部の実施形態のアンテナ15は、直接放射型アレイ(DRA)アンテナであってよい。しかし、他の種類のフェーズドアレイアンテナも利用可能であることは理解されたい。本発明の一部の実施形態におけるフェーズドアレイアンテナ15は、二次元構成に設けられた複数のアンテナエレメント7を含む。アンテナエレメントは平面構成とすることができる。エレメントのサイズは、動作周波数、および、ビーム走査が必要となる領域の角サイズに関連して決定される。一例として、静止軌道にある衛星から地上の受信可能範囲を提供するために適しているアンテナのアンテナエレメントの直径は、処理済み信号の2−3の間の波長に等しくてよい。約8GHzの信号であれば、1つのエレメントの直径は、約100mmとなる。1つのエレメントのアパーチャは、任意の適切な形状とすることができる。アレイは、三角形または四角形の格子に構成することができる。しかし、他の配置構成とすることもでき、他のサイズのエレメントを採用することもできる。エレメントは、疎らに配置することもできるし、非周期的なアレイとすることもできる。アンテナエレメント7が受信した信号は、複数の低ノイズ増幅器8に提供される。増幅された信号は、アナログビームフォーミングネットワーク16へと提供され、アナログビームフォーミングネットワークは、これら信号をビームフォーミングして、干渉信号の方向に対応する1以上のヌルを生成する。ビームフォーミングされた信号は、アナログビームフォーミング層の出力17から、干渉信号の成分が低減された形で、または全くない形で、複数のダウン変換回路9に提供され、ダウンコンバートされた信号が、デジタル信号プロセッサ10に提供されて、デジタルビームフォーミング処理を受ける(図3参照)。デジタル信号プロセッサ10では、各周波数チャネルにつき少なくとも1つのビームフォーマー14a、14b、14c、14dが設けられている。1以上の周波数チャネルに対して2以上のビームフォーマーを設けて、周波数の再利用を可能としている。
【0028】
一部の実施形態では、アナログビームフォーミング層の出力ポート17の数と、デジタル信号プロセッサへの入力11の数とが、アンテナエレメントの数と等しくされる。デジタル信号プロセッサへの各入力11は、別個のDAC12、別個のデマルチプレクサ13、および1以上のビームフォーマー14a、14b、14c、14dに連結されている。ビームフォーマー14a、14b、14c、14dはさらに、他の入力11からの信号も受信する。この結果、各入力11を、ビームフォーミングの重みを決定するための少なくとも1つの別個の「制御ポイント」に対応する、とみなすことができる。従い、本発明のフェーズドアレイアンテナでは、各アンテナエレメントに対して少なくとも1つのデジタルビームフォーミング制御ポイントを提供することができる。この結果、アナログビームフォーミング層が、デジタルビームフォーミングネットワークのための制御ポイント数を低減させない。より詳しくは、デジタル信号プロセッサへの入力数がアンテナエレメント数と等しい実施形態では、デジタルビームフォーマー14a、14b、14c、14dそれぞれ、またはその少なくとも一部に対する入力数も、アンテナエレメント数と等しくすることができる。言い換えると、デジタルビームフォーマーは、アンテナエレメント数と等しくなるよう信号の数を組み合わせることができるような設定が可能である。この結果、アンテナの走査機能がアナログビームフォーミングネットワークによって低減されず、アンテナ制御において完全な柔軟性を維持することができる。他方、アナログビームフォーミング層の目的は、デジタルビームフォーマー、および、デジタル信号プロセッサの他のコンポーネントを飽和させてしまいかねない干渉を取り除くことである。後で詳述するように、アナログビームフォーミング層の動作によりヌルが生成される場合には、出力および入力のわずかな部分が利用されないことがある。しかしヌルが不要な場合、利用される出力および入力の数は、アンテナエレメントの数と同数になり、単一のアンテナエレメントからの信号が、デジタル信号プロセッサ10への各入力11で受信される。言い換えると、デジタルビームフォーミングネットワークが事実上アンテナエレメントのアレイにだけ接続されるように、アナログビームフォーミング層をトランスペアレントに構成することができる。
【0029】
次に、アナログビームフォーミング層について詳述する。アナログビームフォーミング層は、アンテナエレメント7のアレイを、複数の重複するサブアレイ18に分割する(図4参照)。各サブアレイは、全てのアンテナ全てのサブセットを含んでいる。アンテナの端部のいくつかのアンテナエレメントをのぞき、全てのアンテナエレメントが、2以上のサブアレイを構成している。各アンテナエレメント信号は、そのアンテナエレメントが属する複数のサブアレイに対応する複数の部分へと分割される。各信号部分は、振幅および位相を重み付けされて、1つのサブアレイについての重み付けされたエレメント信号部分全体を合計して、各サブアレイに対する合成信号を提供する。一部の実施形態では、各サブアレイに対して同じ重みのセットを与えることもできる。他の実施形態では、サブアレイごとに異なる重みのセットを与えることもできる。サブアレイに与える重みは、干渉信号の傍受の傍受を防ぐために必要なヌルが生成されるように選択される。サブアレイが形成する放射パターンは、フェーズドアレイアンテナ全体が形成しうるパターンに対するエンベロープを提供して、サブアレイパターンが、そこからは信号が受信されないゼロの指向性を有する面積を有する領域を含むようにしてよい。
【0030】
一部の実施形態では、ヌル生成に設定される重みのセットは、地上局2等の地上の位置で、干渉信号およびその出所に関する情報に基づいて決定されてもよい。決定された重み付けのセットを与えるための命令は、地上の制御センターから通信衛星に送信することができる。
【0031】
サブアレイに対する重みのセットが定まると、デジタルビームフォーマーへの複合的な重み付けが定められ、スポットビームを生成することができる。複合的な重み付けは、重複する複数のサブアレイのセットにおいて均一の位相勾配が形成されるよう、また、サブアレイパターンが必要な方向にコヒーレントに追加されるように決定される。スポットビームの生成に利用される複合的な重み付けの選択は、当業者であれば理解する技術なので、ここではその詳細は割愛する。上述したように、周波数チャネルが2以上のスポットビームで再利用される場合、2以上のデジタルビームフォーマーを、その周波数チャネルに対して提供して、各デジタルビームフォーマーが別個のビームを形成するようにすることができる。
【0032】
図4では、フェーズドアレイのアパーチャが、64個のアンテナエレメントを含んでよく、これらアンテナエレメントをそれぞれ4つのエレメントからなるサブアレイに分割される一例が示されている。サブアレイ同士は重複しており、各エレメントが複数のサブアレイに属している。図4のエレメント7'に示すように、各サブアレイは4つのエレメントを含んでおり、1つのエレメントが4つの別のサブアレイを構成してよい。
【0033】
4つのエレメントを含むサブアレイはそれぞれ、3つの別のヌルを同時に生成するよう構成することができる。4つのヌルを生成するために、各サブアレイは5つのエレメントを含む必要がある。言い換えると、各サブアレイが、サブアレイが生成しようとしているヌルの数より1つ多いエレメントを含む必要がある、ということである。フェーズアレイが1つのヌルしか生成する必要がない場合には、サブアレイはそれぞれ2つのエレメントを含めばよい。
【0034】
一部のアレイ構成においては、2つのエレメントによるヌルによってエレメントに属すラインに垂直な方向のヌルのラインを構成してしまうことがあるので、2つのエレメントを含むサブアレイが、所望の方向とは異なる方向のパターンに対して望ましくない効果を及ぼす可能性がある。この望ましくない効果は、2つのエレメントのサブアレイの全てを同じ方向に配置しないことにより、解消することができる。この代わりに、またはこれに加えて、少なくとも一部のアレイに3つ以上のエレメントを含めることによっても、この望ましくない効果を解消することができる。
【0035】
一部の実施形態では、これより多い、または少ないヌルが必要となる場合には、サブアレイを並べなおすことができる。他の実施形態では、サブアレイがハードウェアに組み込まれたものであってもよい。サブアレイがハードウェアに組み込まれている場合には、サブアレイは、アンテナが組み込まれる用途に適したヌルの最大数を処理可能なように配置するとよいと思われる。アンテナが、アレイが生成可能なヌルの最大数を超える数の方向からの干渉信号に晒される場合には、デジタルビームフォーマーがまだ誤動作していることが想定される。デジタルビームフォーマーの誤動作を停止させるための1つの方法としては、低ノイズ増幅器8を利用して、低ノイズ増幅器からデジタルビームフォーマーに提供される信号を単純に減衰する、というものがある。もちろん、この方法を採用すると、ノイズ比に対する信号レベルが低減することになり、衛星のペイロードの感度も低減してしまうことになる。
【0036】
図5は、アナログビームフォーミング層16のコンポーネント、および、複数のアンテナエレメント7a−7fの斜視図が示されている。この図には、明瞭性を尊重して、低ノイズ増幅器8は示されていない。低ノイズ増幅器からの信号を、各サブアレイのエレメントの数に対応する数の信号に分割する信号スプリッタも、明瞭性のために割愛されている。アナログビームフォーミング層16は、複数の振幅および位相重み付けデバイス19a、19a'、…19b''、19'''と、重み付けされたエレメントが、サブアレイ出力全体を生成するための重み付けされたエレメントの各貢献部分を合計する複数の合計デバイス20a、20b、20c、20dとを含む。1つのサブアレイに対する振幅および位相重み付けデバイスおよび合計デバイスが、そのサブアレイのアナログビームフォーマー16a、16bを構成している。図5からわかるように、アナログビームフォーミング層では、各エレメント信号を4つの成分に分割し、各成分は、対応する振幅および位相重み付けデバイスによって重み付けされる。あるサブアレイについて4つのエレメントで重み付けされた成分が、そのサブアレイに関連付けられた合計デバイスで合計される。合計デバイスからの出力はダウン変換回路(図5には不図示)に提供される。図5には位相と振幅両方を1つのデバイスで調節する例が示されているが、位相と振幅とはそれぞれ別のデバイスで調節することもできる。
【0037】
ヌルは、貢献する各信号の位相を他の貢献する信号の位相に調節することで生成することができる。図6は、ヌルを生成するための、サブアレイ内の位相の設定方法の1例を示しており、この例では、各エレメント信号の位相を、時計回りに90度(またはπ/2)ずらしている。サブアレイの1つのエレメントの信号は、位相が参照に対して
【数1】
度であり、時計回りに次のエレメントの信号の位相が、
【数2】
であり、三番目のエレメントの信号の位相が、
【数3】
であり、四番目のエレメントの位相が、
【数4】
となるよう設定されている。xが0度に等しい場合、Φは、90度であり、Φは180度であり、Φは270度となる。各位相を図6の例に示すように設定すると、ヌルを照準範囲内で生成することができる。サブアレイのさまざまなエレメントからの信号のそれぞれの位相を変更すると、ヌルは照準範囲から外れる。当業者であれば理解するところであるが、ヌルを含むサブアレイのパターンは、別の位相勾配を適用することでステアリングすることができる。
【0038】
ヌルが不要な場合には、位相および振幅重み付けデバイスは、エレメント信号の貢献部分のうち1つだけを、ゼロではない振幅を有するように設定される。こうすることで、再度図5を参照するとわかるように、アナログビームフォーマー16aの振幅および位相重み付けデバイス19aが、アンテナエレメント7aからの信号部分を通すよう、かつ、振幅重み付けデバイス19a'、19a''、および19a'''が、それぞれエレメント7b、7d、および7eからの貢献部分をブロックするように設定されてよい。さらに、アナログビームフォーマー16bの振幅重み付けデバイス19bが、エレメント7bからの信号を通すよう、かつ、アナログビームフォーマー16bの振幅重み付けデバイス19b'、19b''、および19b'''が、それぞれエレメント7c、7e、および7fからの貢献部分をブロックするように設定されてよい。この結果、各出力における信号が、1つのアンテナエレメントに対応する。言い換えると、振幅および位相重み付けデバイスは、アナログビームフォーミングネットワーク16がアンテナエレメントからの信号に影響を及ぼさないように設定することができる、ということである。全てのビームフォーミングはデジタルビームフォーミングネットワーク14内で行われる。
【0039】
図7aおよび図7bは、スポットビーム内で生成されたヌルを有する放射パターンを示している。図7aおよび図7bは、アナログビームフォーミング層に、1つのヌルを有する放射パターンの一部として生成されるスポットビームに対して悪影響を出させないための一例を示している。放射パターンの強度は、dBi(デシベル・アイソトロピック)の単位で示す。図7aは、デジタルビームフォーミングネットワークで生成されるスポットビームおよびヌルを有する放射パターンを示す。図7bは、アナログビームフォーミングネットワーク16で形成されるヌルと、デジタルビームフォーミングネットワーク14で形成されるスポットビームとを有する放射パターンを示す。図7aおよび図7bから明らかなように、1つのヌルでは、スポットビームの指向性は、ヌルを適用する前処理から実質的な影響を受けない。ヌルを干渉信号の方向に配置する場合には、アナログ層を利用することで、スポットビームの指向性全体には悪影響を出さずに、干渉信号がデジタルビームフォーマーに到達しないようにすることができる。
【0040】
図8aおよび図8bは、2つのヌルを有する放射パターンを示す。放射パターンの強度は、dBi(デシベル・アイソトロピック)の単位で示す。ヌルは、図8aのデジタルフォーミング層と、図8bのアナログ層とに形成されている。これらからわかるように、本例の、ヌルを適用する前のアナログ処理は、アナログ層の処理により、スポットビームヌルがカバーする領域が低減していることからわかるように、形成されるスポットビームの指向性にいくらかの影響を与えている。しかし、干渉信号の信号レベルが十分高い場合は、デジタルビームフォーマーのみしか有さない従来のフェーズドアレイアンテナでは、デジタルプロセッサが干渉信号で一杯になってしまうために、必要な信号を受信できなくなる可能性がある。本発明による、アナログビームフォーミング層を含むフェーズドアレイアンテナであれば、少ない領域からであっても信号を受け取ることができる。多くの用途において、必要なビームを生成するために、少ない領域で十分である。
【0041】
アナログ層が2つのヌルを生成するときに、スポットビームが小さくなる理由は、必要となるサブアレイが大きくなるほど、形成することができる完全なサブアレイの数が少なくなり、デジタルビームフォーマーに提供されるサブアレイ出力信号の数も少なくなるからである。上述したように、1つのサブアレイは、生成するよう設定されているヌルの数より1つ多いエレメントを含む必要がある。図9aに関して示すように、2つのエレメントサブアレイに分割される64個のエレメントを含むアパーチャにおいては、第1の大きさの8個のサブアレイと、第2の大きさの7つのサブアレイとのためのスペースがあり、全体で56個の2つのエレメントのサブアレイが生成されている。各列の最後のサブアレイだけが、ヌルを生成するには不十分なエレメントを1つ含んでいる。この結果、サブアレイが1つのヌルを生成するよう構成されている場合には、64個の信号ではなくて、56個の信号がデジタル信号プロセッサに提供される。デジタルビームフォーミングネットワークの全部で64個の制御ポイントのうち、56個の制御ポイントを利用することでも、パターンを、ヌルを適用する前の処理による影響を実質的に受けなくさせるためには、最大で64個の制御ポイントの利用に十分近い効果が得られる。
【0042】
しかし、サブアレイが3個のエレメント、4個のエレメント、およびこれより多い数のエレメントからなる場合には、利用される制御ポイントの数を低減すると、放射パターンには顕著な効果が現れる。図9bは、3個のエレメントからなる複数のサブアレイが三角格子状に配置されたフェーズドアレイアンテナのアパーチャを示し、図9cは、4個のエレメントからなる複数のサブアレイが四角格子状に配置されたフェーズドアレイアンテナのアパーチャを示している。図9aおよび図9cから、3個のエレメントからなるサブアレイおよび4個のエレメントからなるサブアレイ両方に対して、完全な3個のエレメントまたは4個のエレメントのサブアレイは、49個しか形成できないことがわかるだろう。これは、一部の実施形態において、デジタルビームフォーミングネットワークにおいて全体で64個の制御ポイントのうち、49個しか利用されず、この結果、スポットビームパターンが小さくなったことを意味している。一部の実施形態では、この問題は、アンテナにエレメントを追加することで解決することができる。
【0043】
利用されるサブアレイの数が一部のケースにおけるアンテナエレメント数より少なくなるかもしれないが、アナログビームフォーミング層で利用可能な出力17の数、および、デジタルビームフォーミング層で利用可能な入力の数は、アンテナエレメント数と等しくすることが依然として可能な点に留意されたい。一部の出力17は、必要なエレメントの数より少ない数のサブアレイに接続されて、アナログビームフォーミングネットワークを設計するヌルの数を生成してもよい。あるいは、一部の出力17がアンテナエレメントに直接接続されてもよい。放射パターンでヌルを生成するべくアンテナを動作させているときには、出力は利用できない。しかし、放射パターンでヌルが必要でない場合には、出力によって、各アンテナエレメントからデジタルビームフォーミングネットワークへと信号が通過させられる。ヌルが不要な場合、アナログビームフォーミングの重み付けを設定して、アナログビームフォーミングネットワークの各出力17が、1つのアンテナエレメントからの信号を出力するようにする。つまり、デジタル信号プロセッサへの各入力11は、別個のアンテナエレメントから信号を受信する。この結果、アナログビームフォーミング層は、ヌルが不要なときには、放射パターンにあまり影響を与えない、または全く影響を与えないよう設計される。
【0044】
図10aおよび図10bは、スポットビーム外で形成された1つのヌルを有する放射パターンを示す。放射パターンの強度は、dBi(デシベル・アイソトロピック)の単位で示す。図10aでは、デジタルビームフォーミングネットワーク14でヌルが形成されており、図10bでは、アナログビームフォーミングネットワーク16で形成されている。矢印はヌルの位置を示している。図8aおよび図8bを参照して既に言及したように、アナログビームフォーミングネットワークに1つのヌルを生成させる場合において、アナログビームフォーミングネットワークによって、デジタル信号プロセッサに供給される信号の数がわずかに低減したことによる効果は、放射パターンには実質的にあまり影響を与えていない。
【0045】
本発明の具体例を挙げてきたが、本発明の範囲は、これらの例によってではなく、添付請求項によって定義される。従って本発明は、他の方法でも実行可能であることを、当業者であれば理解する。
【0046】
64個のエレメントからなるアパーチャを示したが、本発明はどのサイズのアパーチャサイズにも適用可能であり、アパーチャのなかに任意の数のエレメントがある場合にも適用可能である。さらに、特定の形状および構成のエレメントおよびアレイを示してきたが、任意の形状、サイズ、および構成を採用することが可能である。
【0047】
さらに、本発明は、直接放射型のアレイアンテナに限定されない。本発明は、アンテナエレメントアレイを利用する任意の適切な種類のアンテナに実装することができる。直接放射型のアンテナの代わりに、反射器を利用するアンテナを利用することもできる。さらに、アンテナの用途は、通信衛星内に限定されない。本発明は、任意のアンテナの成分を干渉信号に晒すことを低減させる用途に利用することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図9c
図10a
図10b