(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリマー主鎖にコンジュゲートした前記陽イオン部分が、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMEMA)モノマーの前記プレポリマーへの重合から生じる、請求項1記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明において、その一部を形成し、例として、デバイス、システムおよび方法のいくつかの特別な実施の形態が示されている、添付図面を参照する。他の実施の形態が考えられ、本開示の範囲または精神から逸脱せずに、作製されるであろうことが理解されよう。したがって、以下の詳細な説明は、制限を意味するものと解釈すべきではない。
【0011】
ここに使用した全ての科学用語と技術用語は、別記しない限り、当該技術分野に一般に使用されている意味を有する。ここに提供された定義は、ここに頻繁に使用される特定の用語の理解を容易にするものであり、本開示の範囲を制限することは意味しない。
【0012】
本明細書および付随の特許請求の範囲に使用されているように、単数形は、そうではないと明白に示されていない限り、複数の対象を有する実施の形態を包含する。本明細書および付随の特許請求の範囲に使用されているように、「または」という用語は、そうではないと明白に示されていない限り、「および/または」を含む意味で一般に使用される。
【0013】
ここに用いたように、「有する(have, having)」、「含む(include, including, comprise, comprising)」などの用語は、範囲を制限しない意味で使用されており、一般に、「含む(including)が、制限されない」ことを意味する。「から実質的になる」、「からなる」などの用語は、「含む(comprising)」などに包含されることが理解されよう。ここに用いたように、「から実質的になる」は、組成物、被覆、物品、方法などに関するように、その組成物、被覆、物品、方法などの成分が、列挙された成分およびその組成物、被覆、物品、方法などの基本的な特徴と新規の特徴に実質的に影響しない任意の他の成分に制限されることを意味する。
【0014】
ここに用いたように、「プレポリマー」は、例えば、架橋により、さらに別の重合を始めることができる、活性化可能な反応性基であってもよい反応性基を有するポリマーまたはオリゴマーを意味する。例えば、活性化可能な架橋剤基を有するポリマーは、その架橋剤基が活性化され、別のポリマーに架橋した場合、プレポリマーである。本開示の目的に関して、活性化可能な架橋剤基を有するプレポリマーが架橋する他のポリマーは、反応性基を有さない限り、プレポリマーとは考えられない。該他のポリマーが、例えば、プレポリマーの反応性基により誘発された非特異的プロトン吸着により、そのプレポリマーと架橋し、該他のポリマーの特異的な反応性基のために架橋したのではない場合、該他のポリマーは、本開示の目的のためのプレポリマーではない。
【0015】
ここに用いたように、「コンジュゲートした(conjugated)」は、モノマーまたはポリマーおよびポリペプチドまたは活性化可能な架橋剤基などの部分に関するように、ポリペプチドまたは活性化可能な架橋剤基が、ポリマーまたはモノマーに直接的または間接的(例えば、スペーサを介して)に共有結合していることを意味する。
【0016】
ここに用いたように、「モノマー」は、別のモノマーと重合できる化合物を意味する(「モノマー」が、他のモノマーと同じまたは異なる化合物であるか否かにかかわらず)。
【0017】
ここに用いたように、「(メタ)アクリレートモノマー」は、メタクリレートモノマーまたはアクリレートモノマーを意味する。ここに用いたように、「(メタ)アクリルアミドモノマー」は、メタクリルアミドモノマーまたはアクリルアミドモノマーを意味する。(メタ)アクリレートモノマーおよび(メタ)アクリルアミドモノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和部分を有する。「ポリ(メタ)アクリレート」は、ここに用いたように、少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマーを含む1種類以上のモノマーから形成されたポリマーを意味する。「ポリ(メタ)アクリルアミド」は、ここに用いたように、少なくとも1つの(メタ)アクリルアミドモノマーを含む1種類以上のモノマーから形成されたポリマーを意味する。
【0018】
ここに用いたように、「陽イオン」モノマー、プレポリマー、ポリマー、もしくはその成分または単位は、pH7から7.7で、のような細胞培養条件下で正電荷を有するモノマー、プレポリマー、ポリマー、もしくはその成分または単位である。
【0019】
ポリペプチド配列は、ここでは、1文字のアミノ酸コードまたは3文字のアミノ酸コードにより称される。これらのコードは交換可能に使用してよい。
【0020】
ここに用いたように、「ペプチド」および「ポリペプチド」は、化学合成されても、または組換え由来であってもよいが、動物源から完全なタンパク質として単離されない、アミノ酸の配列を意味する。本開示の目的に関して、ペプチドおよびポリペプチドは総タンパク質ではない。ペプチドおよびポリペプチドは、タンパク質の断片であるアミノ酸配列を含んでよい。例えば、ペプチドおよびポリペプチドは、RGDなどの細胞接着配列として知られている配列を含んでもよい。ポリペプチドは、長さが3と30の間のアミノ酸などの、任意の適切な長さのものであってよい。ポリペプチドは、それらが、例えば、エクソペプチダーゼにより分解されるのを防ぐために、アセチル化(例えば、Ac−LysGlyGly)またはアミド化(例えば、SerLysSer−NH
2)されていてもよい。これらの修飾は、ある配列が開示された場合に考えられることが理解されよう。
【0021】
本開示は、特に、細胞培養物品を被覆する方法であって、その物品を、陽イオン架橋剤官能化プレポリマー(「成分1」)および細胞結合ペプチド官能化ポリマー(「成分2」)を含有する組成物と接触させる工程、および被覆された物品を、そのプレポリマーとペプチドポリマーの架橋を生じさせる条件に曝露して、細胞付着表面を有する細胞培養物品を製造する工程を有してなる方法を記載する。
【0022】
I. 成分1:陽イオン架橋剤官能化プレポリマー
成分1は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした架橋剤部分およびポリマー主鎖にコンジュゲートした陽イオン部分を有するプレポリマーである。この陽イオン部分は、細胞培養pH、例えば、7から7.7で正に帯電している。この架橋剤部分は、例えば、UV光などの電磁放射線に曝露された際に、成分1のプレポリマーを、成分2のペプチド含有ポリマー、およびいくつかの実施の形態において、細胞培養物品の表面に架橋させることができる。成分1のプレポリマーは、少なくとも1つの陽イオンモノマーおよび少なくとも1つの架橋剤含有モノマーの重合によって調製されることが好ましい。あるいは、陽イオン基または光反応性基が、反応性基を含むポリマー主鎖にコンジュゲートされてもよい。
【0023】
様々な実施の形態において、成分1のプレポリマーは、親水性成分をさらに含む。例えば、
図1を参照すると、説明のための成分1のプレポリマー100が示されている。プレポリマー100は、ポリマー主鎖140並びにこの主鎖140にコンジュゲートした架橋剤部分110、陽イオン部分120、および親水性部分130を有する。多くの実施の形態において、プレポリマー100には架橋がないかまたは架橋が実質的にないが、架橋剤部分110のいくつかの偶発的な活性化のためにいくつかの架橋が生じるかもしれない。
【0024】
成分1のプレポリマー100は、どのような適切なプロセスを使用して形成してもよい。例えば、
図2を参照すると、プレポリマー100は、架橋剤部分110にコンジュゲートした重合部分145(「架橋剤部分」115)、陽イオン部分120にコンジュゲートした重合部分145(「陽イオンモノマー」125)、および親水性部分130にコンジュゲートした重合部分145(「親水性モノマー」135)を含むモノマーの混合物の重合から形成してもよい。重合部分145は同じであっても異なってもよいことが理解されよう。
【0025】
実施の形態において、プレポリマーを形成するために使用される重合部分145は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、マレイミド、フマレート(fumarate)、ビニルスルホンなどのエチレン性不飽和基を含有する。架橋剤部分110、陽イオン部分120、または親水性部分130は、どのような適切な重合部分にコンジュゲートされても、または公知のモノマーの一部であってもよい。重合部分にコンジュゲートするのではなく、架橋剤部分110、陽イオン部分120、または親水性部分130は、例えば、架橋剤官能基、陽イオン官能基、または親水性官能基を導入するために、架橋剤部分をポリマー鎖の側基に共有結合させることによって、既存のポリマーにコンジュゲートしてもよい。
【0026】
A. 架橋剤部分
架橋剤モノマー115を形成するために、または既存のポリマーにコンジュゲートするために、どのような適切な架橋剤部分110を使用してもよい。架橋剤部分110は、光反応性部分または熱反応性部分であってもよい。例えば、架橋剤部分は、α,β不飽和ケトン光反応性部分であってよい。光反応性基は、光に曝露された際に、非常に反応性である種を形成する分子または部分である。光反応性基の例としては、アリールアジド、ジアザレン、ベータカルボニルジアゾおよびベンゾフェノン、アセトフェノン、およびその誘導体が挙げられる。反応性種としては、ニトレン、カルベンなどが挙げられる。反応性種は、一般に、共有結合を形成できる。例えば、実施の形態において、感光性部分は、ベンゾフェノン含有部分、置換アリールアジド含有部分、またはトリフルオロメチルアリールジアジリン含有部分である。
【0027】
実施の形態において、架橋剤モノマー115は、N−(3−メタクリルアミドプロピル)−4−ベンゾイルベンズアミドである。重合性ベンゾフェノンを有する他の適切な架橋剤モノマーとしては、2−アクリルオキシ−5−メチルベンゾフェノン、4’−ジメチルアミノ−2−アクリルオキシ−5−メチルベンゾフェノンおよび4’−ジメチルアミノ−2−(β−アクリルオキシエチル)オキシ−5−メチルベンゾフェノン、4−ベンゾフェノンメトキシメタクリレート、4−ビニル−4’−メトキシベンゾフェノン、2−メチル−4’−ビニルベンゾフェノンおよび4−ビニルベンゾフェノン、4−[(4−マレイミド)フェノキシ]ベンゾフェノン、4−[(4−マレイミド)チオフェニル]ベンゾフェノン、アクリル酸4−[3−(4−ベンゾイル−フェノキシ)−2−ヒドロキシプロポキシ]ブチルエステルが挙げられる。
【0028】
B. 陽イオン部分
陽イオンモノマー125を形成するために、または既存のポリマーにコンジュゲートするために、どのような適切な陽イオン部分120を使用してもよい。実施の形態において、陽イオン部分120は、第一級、第二級または第三級アミノ基などのアミン基を含む。陽イオン基は、親の第三級アミンの第四級化によって生成された第四級アミンであってもよい。様々な実施の形態において、陽イオン部分120は、一または二置換C1〜C4アルキルアミン、もしくは一または二置換C1〜C4アルカノールアミンなどの、第三級アルキルアミンまたは第三級アルカノールアミンである。
【0029】
様々な実施の形態において、陽イオンモノマー125は、モノアルキルアミノアルキルまたはジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートである。使用してよいモノアルキルアミノアルキルまたはジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの例としては、N,N−ジメチルアミノエチル−、N,N−ジエチルアミノエチル−、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレートまたはN−tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。あるいは、これらのエステルモノマーの代わりに、グリシジル(メタ)アクリレートおよび第二級アルキルアミンまたはアルカノールアミンの対応する反応生成物を使用してもよい。様々な実施の形態において、陽イオンモノマー125は、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMEMA)である。
【0030】
C. 親水性部分
親水性モノマー135を形成するために、または既存のポリマーにコンジュゲートするために、どのような適切な親水性部分130を使用してもよい。親水性部分130またはモノマー135は、細胞培養pHで負に帯電していても、細胞培養pHで帯電していなくてもよい。多くの実施の形態において、親水性部分130またはモノマー135は細胞培養pHで帯電していない。成分1のプレポリマー100の電荷密度を調節するために、または結果として得られたポリマーにヒドロゲル挙動を与えるために、親水性部分130またはモノマー135を利用してもよい。
【0031】
様々な実施の形態において、親水性モノマー135は、式(I):
【化1】
【0032】
の(メタ)アクリレートモノマーであり、式中、AはHまたはメチルであり、BはH、Cl、C1〜C6直鎖または分岐鎖アルコールまたはヒドロキシル末端エーテル、もしくはカルボキシル基(−COOH)で置換されたC1〜C6直鎖または分岐鎖アルキルである。いくつかの実施の形態において、Bは、C1〜C4直鎖または分岐鎖アルコールである。いくつかの実施の形態において、Bは、カルボキシル基で置換された直鎖または分岐鎖C1〜C3である。例として、2−カルボキシエチルメタクリレート、2−カルボキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートなどを使用してよい。
【0033】
様々な実施の形態において、親水性モノマー135は、式(II):
【化2】
【0034】
の(メタ)アクリルアミドモノマーであり、式中、Aは水素またはメチルであり、BはH、C1〜C6直鎖または分岐鎖アルコールまたはヒドロキシ末端エーテル、もしくはカルボキシル基(−COOH)で置換されたC1〜C6直鎖または分岐鎖アルキルである。いくつかの実施の形態において、Bはカルボキシル基で置換された直鎖または分岐鎖C1〜C3である。いくつかの実施の形態において、BはC1〜C4直鎖または分岐鎖アルコールである。例として、2−カルボキシエチルアクリルアミド、アクリルアミドグリコール酸、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロイルアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミド−エトキシエタノール、N−ヒドロキシエチルアクリルアミドなどを使用してよい。
【0035】
D. 成分1のプレポリマーの合成
上述したように、成分1のプレポリマー100は、適切な部分をホモポリマーまたはコポリマーにコンジュゲートすること、またはモノマーにコンジュゲートした適切な部分を有するモノマーの混合物を重合することなどにより、どのような適切な様式で合成してもよい。
【0036】
好ましい実施の形態において、成分1のプレポリマー100は、架橋剤モノマー115、陽イオンモノマー125および親水性モノマー135を含む混合物を重合させることによって、合成される。様々なモノマーのモル比は、必要に応じて変えてもよい。架橋剤モノマー115の濃度がより高いと、最終的に、成分2のペプチドポリマー(以下により詳しく論じる)との架橋が増加することが理解されよう。陽イオンモノマー125の濃度がより高いと、プレポリマー100の電荷密度が増加することがさらに理解されよう。親水性モノマー135の濃度は、架橋密度と電荷密度を要望どおりに制御するために変えてもよく、ヒドロゲル特性をプレポリマー100に与えるであろう。
【0037】
架橋剤モノマー115、陽イオンモノマー125および親水性モノマー135をどのような適切なモルパーセントで使用してもよい。実施の形態において、架橋剤モノマー115は、成分1のプレポリマー100を形成するために使用されるモノマーの混合物の1%(モルパーセント)と20%(モルパーセント)の間を構成する。例えば、架橋剤モノマー115は、成分1のプレポリマー100を形成するために使用されるモノマーの混合物の1%と10%の間を構成する。
【0038】
実施の形態において、陽イオンモノマー125は、成分1のプレポリマー100を形成するために使用されるモノマーの混合物の1%(モルパーセント)と50%(モルパーセント)の間を構成する。例えば、陽イオンモノマー125は、成分1のプレポリマー100を形成するために使用されるモノマーの混合物の10%と30%の間を構成する。
【0039】
実施の形態において、親水性モノマー135は、成分1のプレポリマー100を形成するために使用されるモノマーの混合物の98%(モルパーセント)と30%(モルパーセント)の間を構成する。例えば、親水性モノマー135は、成分1のプレポリマー100を形成するために使用されるモノマーの混合物の89%と60%の間を構成する。
【0040】
適切な量の適切なモノマーが一旦選択されたら、重合反応によりポリマーを形成してよい。ポリマーを形成するモノマーに加えて、組成物は、界面活性剤、湿潤剤、光開始剤、熱開始剤、触媒、および活性化剤などの1種類以上の追加の化合物を含んでもよい。
【0041】
どのような適切な重合開始剤を使用してもよい。当業者には、そのモノマーに使用するのに適した開始剤、例えば、ラジカル開始剤またはカチオン開始剤を選択することが容易にできるであろう。様々な実施の形態において、連鎖重合を開始するためのフリーラジカルモノマーを生成するために、UV光が使用される。重合開始剤の例としては、有機過酸化物、アゾ化合物、キノン、ニトロソ化合物、ハロゲン化アシル、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、またはそれらの混合物が挙げられる。適切な市販の紫外線活性化光開始剤および可視光活性化光開始剤の例には、ニューヨーク州、タリタウン所在のCiba Specialty Chemicals社から市販されている、IRGACURE 651、IRGACURE 184、IRGACURE 369、IRGACURE 819、DAROCUR 4265およびDAROCUR 1173、並びにBASF社(ノースカロライナ州、シャーロット所在)から市販されているLUCIRIN TPO−Lなどの商標名がある。
【0042】
光増感剤が適切な開始剤系に含まれてもよい。代表的な光増感剤は、カルボニル基または第三級アミノ基もしくはその両方を有する。カルボニル基を有する光増感剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンジル、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、キサントン、チオキサントン、9,10−アントラキノン、および他の芳香族ケトンが挙げられる。第三級アミノ基を有する光増感剤としては、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニルメチルエタノールアミン、および安息香酸ジメチルアミノエチルが挙げられる。市販の光増感剤としては、Biddle Sawyer Corp.からのQUANTICURE ITX、QUANTICURE QTX、QUANTICURE PTX、QUANTICURE EPDが挙げられる。
【0043】
概して、光増感剤系または光開始剤系の量は、約0.01から10質量%まで様々であってよい。
【0044】
使用してよいカチオン開始剤の例としては、アリールスルホニウム塩などのオニウムカチオンの塩、並びにイオンアレーン系などの有機金属塩が挙げられる。
【0045】
使用してよいフリーラジカル開始剤の例としては、2,2’−アゾビス(ジメチル−バレロニトリル)、アゾビス(イソブチロニトリル)、アゾビス(シクロヘキサン−ニトリル)、アゾビス(メチル−ブチロニトリル)などのアゾタイプの開始剤、並びにベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、イソプロピルペルオキシカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイル−ペルオキシ)ヘキサン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクロロベンゾイルペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、重硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、重硫酸ナトリウムなどの組合せなどの過酸化物開始剤、およびそれらの混合物が挙げられる。もちろん、どのような他の適切なフリーラジカル開始剤を使用してもよい。開始剤の効果的な量は、一般に、反応混合物の0.1質量パーセントから約10質量パーセントまたは約0.1質量パーセントから約8質量パーセントなどの、反応混合物の約0.1質量パーセントから約15質量パーセントの範囲内にある。
【0046】
様々な実施の形態において、1種類以上のモノマーは、重合を行う前に、希釈される。
【0047】
重合反応から生じるプレポリマー100は、どのような適切な分子量を有してもよい。様々な実施の形態において、そのプレポリマー100は、10,000と250,000ダルトンの間などの、10,000と1,000,000ダルトンの間の平均分子量(Mw)を有する。当業者には、結果として生じるポリマーの分子量を調節するために、開始剤の量、反応時間、反応温度などを変えてもよいことが理解されよう。
【0048】
(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、または他の適切なモノマーは、当該技術分野に公知のように合成しても、Polysciences, Inc.、Sigma Aldrich, Inc.、およびSartomer, Inc.などの製造供給元から得てもよい。
【0049】
実施の形態において、成分1のプレポリマー100は「Photo−DMAE」と称される。本開示の目的に関して、「Photo−DMAE」は、例えば、
図3に示されるような、N−(3−メタクリルアミドプロピル)−4−ベンゾイルベンズアミド、DMEMAおよびHEMAからなるモノマーの混合物の重合から形成されるプレポリマーであり、式中、117は架橋剤モノマー[N−(3−メタクリルアミドプロピル)−4−ベンゾイルベンズアミド]から誘導され、127は陽イオンモノマー(DMEMA)から誘導され、137は親水性モノマー(HEMA)から誘導される。
【0050】
II. 成分2:ペプチド官能化ポリマー
成分2は、ポリマー主鎖にコンジュゲートしたポリペプチドを有するポリマーである。このポリペプチドは、どのような適切な様式でポリマーにコンジュゲートしてもよい。いくつかの実施の形態において、モノマーは、ポリペプチドを含むように誘導体化されており、それゆえ、ポリペプチドは、ポリマーが形成されているときにポリマーに取り込まれる。いくつかの実施の形態において、ポリペプチドは、ポリマーが形成された後にポリマーにグラフトされる。
【0051】
様々な実施の形態において、成分2のポリマーは、親水性成分をさらに含む。例えば、
図4を参照して、説明のための成分2のポリマー200が示されている。ポリマー200は、ポリマー主鎖240並びにその主鎖にコンジュゲートした細胞結合ペプチド部分210および親水性部分230を有する。多くの実施の形態において、ポリマー200は、架橋を含まないか、架橋を実質的に含まない。
【0052】
成分2のポリマー200は、どのような適切なプロセスを使用して形成してもよい。例えば、
図5を参照すると、ペプチド部分210にコンジュゲートした重合部分245(「ペプチドモノマー」215)および親水性部分230にコンジュゲートした重合部分245(「親水性モノマー」235)を含むモノマーの混合物の重合から形成してもよい。重合部分245は同じであっても異なってもよいことが理解されよう。重合部分245または親水性モノマー235は、成分1のプレポリマー100に関して、重合部分145または親水性モノマー135について上述したようなものであってよい。
【0053】
ペプチドモノマー215の親水性モノマー235に対するどのような適切なモル比を使用してもよい。様々な実施の形態において、成分2のポリマー200の形成に使用するためのモノマーの混合物は、ペプチドモノマー215および親水性モノマー235からなり、ここで、ペプチドモノマー215の親水性モノマー235に対するモル比は、0.03対1と0.9対1との間、例えば、0.06対1と0.2対1の間である。結果として得られるポリマー200におけるペプチドの濃度を制御し、所望のヒドロゲル特性を結果として得られるポリマー200に与えるために、親水性モノマー235の濃度を変えてもよいことが理解されよう。
【0054】
実施の形態において、ペプチドモノマー215のペプチドが、式1:
式1: R
m−S
p−C
ap
により記載される。
【0055】
実施の形態において、R
mは、外部エネルギー源の存在下で重合できる、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイミドまたはフマレートを含むα,β−不飽和基すなわちエチレン性不飽和基である、重合部分である。「m」は、1以上の整数である。実施の形態において、官能化ペプチドは、光重合性部分または熱重合性部分であってよい重合部分R
mを有する。
【0056】
実施の形態において、S
pはスペーサである。実施の形態において、S
pは、例えば、式(O−CH
2CHR’)
m2により表されるポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール(PPG)(式中、R’はHまたはCH
3であり、m2は、0から100または0から20などの0から200までの整数である)を含むポリアルキレンオキシドであってよい。このスペーサは、親水性スペーサ、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)であってよい。実施の形態において、スペーサはPEO
4である。実施の形態において、比較的短い鎖のポリアルキレンオキシドが望ましい。例えば、実施の形態において、S
pは、PEG
2、PEG
4、PEG
6、PEG
8、PEG
10、PEG
12、またはPPG
2、PPG
4、PPG
6、PPG
8、PPG
10、PPG
12またはPPG
20であってよい。実施の形態において、スペーサは、20以下の反復単位(すなわち、PEG
4、PEG
6、PEG
8、PEG
10、PEG
12、PEG
14、PEG
16、PEG
18またはPEG
20)を有するポリエチレンオキシドである。実施の形態において、S
pは、官能基を有するPPGまたはPEGである。例えば、そのPEGまたはPPGスペーサは、マレイミド、チオール、アミン、シラン、アルデヒド、エポキシド、イソシアネート、アクリレートまたはカルボキシル基を有してよい。実施の形態において、PEGスペーサは、アミン官能基を有するPEGである、Jeffamine(登録商標)である。追加の実施の形態において、そのPEGまたはPPGスペーサは分岐していてよい。例えば、分岐PEGまたはPPOは、Y分岐または星形PEGまたはPPGであってよい。実施の形態において、これらの分岐PEGまたはPPOスペーサは、多数のペプチドを、1つの官能ペプチドを通じて基材にコンジュゲートさせられるであろう。
【0057】
細胞培養表面が一度形成されたら(以下により詳しく論じられている)、スペーサは、ペプチド(C
ap)を細胞培養表面から離して延ばし、そのペプチドを培養されている細胞に一層アクセス可能にし、細胞培養のための表面の効率を改善するように働くであろう。その上、親水性スペーサは、タンパク質を寄せ付けず、細胞またはタンパク質の官能化ペプチドへの非特異的吸収を防ぐように働くであろう。実施の形態において、細胞培養物品を調製する際のPEO(ポリエチレンオキシド)などのスペーサを有する細胞接着ペプチドを使用すると、全体的に低い濃度の接着ペプチドを使用して、そのような物品を調製することが可能になる。
【0058】
実施の形態において、S
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、Xaaは、独立して任意のアミノ酸であり、nは、0から30まで、0から10まで、0から6まで、または0から3までの整数である。例えば、実施の形態において、S
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはGであり、n=1から20であり、またはS
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはKであり、n=1から20であり、またはS
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはDであり、n=1から20であり、またはS
pはアミノ酸Xaa
nであってよく、式中、XaaはEであり、n=1から20である。実施の形態において、スペーサS
pは、LysGlyGlyまたはLysTyrGlyなどの3つのアミノ酸配列であってよい。実施の形態において、Xaa
nは、一連の同じアミノ酸である。実施の形態において、スペーサS
pは、Xaa
nとポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシドとの組合せであってよい。Xaa
nは、リシン、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニンアミノ酸などの親水性アミノ酸を含んでよい。実施の形態において、Xaa
nは末端リシンまたはアルギニンを有してもよい。もしくは、実施の形態において、スペーサS
pは、任意の組合せで、ポリエチレンオキシドスペーサとアミノ酸スペーサとを含んでもよい。実施の形態において、S
pは、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸またはヘキサエチレンジアミンなどの疎水性スペーサであってよい。実施の形態において、S
pはメタクリル酸カルボキシエチルであってよい。
【0059】
重合部分は、ポリエチレンオキシドを通じて、リシンなどのアミノ酸の側鎖を通じて、またはアミノ酸のN末端で、スペーサS
pに結合してよい。アミノ酸Xaa
nは、それ自体を分解から保護するために、アセチル化および/またはアミド化されてもよい。しかしながら、Xaa
nがアセチル化されている場合、重合部分は、アミノ酸のN末端を通じてXaa
nに結合され得ない。例えば、メタクリル酸は、S
pがXaa
nであり、Xaaがリシンであり、n=1、およびR
mがメタクリル酸である場合、リシンアミノ酸の側鎖を通じて、リシンアミノ酸に結合されるであろう。
【0060】
実施の形態において、スペーサS
pはXaa
nであり、Xaaは末端のリシンを有する。実施の形態において、Xaa
nは重合部分R
mに結合されていてよい。例えば、Xaa
nは、(MAA)LysGlyGlyまたは(MAA)LysTyrGlyであってよく、式中、MAAは、末端のリシンアミノ酸の側鎖を通じてXaa
nに結合した重合部分であるメタクリル酸(MAA)である。追加の実施の形態において、重合部分は、N末端がアセチル化されていなければ、Xaa
nアミノ酸またはアミノ酸鎖のN末端に結合されていてよい。各官能化ペプチドは、少なくとも1つの重合部分を有し、複数有していてもよい。
【0061】
C
apは、細胞接着配列または細胞結合配列を有するペプチドまたはポリペプチドである。実施の形態において、細胞接着配列または細胞結合配列はRGDである。
【0062】
実施の形態において、成分2のポリマー200は、上述したように、ペプチドモノマー215の重合生成物から形成してもよい。追加の実施の形態において、成分2のポリマー200は、親水性モノマー235などの追加のモノマーと、任意の形態で、例えば、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマーとして、共重合されたペプチドモノマー215の重合生成物から形成してもよい。ポリマーを製造するために多数のモノマーを使用することにより、ポリマーが形成されるときに、ポリペプチドがポリマーに取り込まれるか否かにかかわらず、結果として得られるポリマーの性質を所望のように、より容易に調節することができる。その上、親水性モノマー235などの追加のモノマーを使用することにより、ペプチドの濃度を制御することができる。
【0063】
実施の形態において、これらの追加のモノマー(ペプチドモノマー215以外に)は、例えば、低級アルキル、すなわち、C
1からC
20アルキルを含む(メタ)アクリレートモノマー、(メタ)アクリレート、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチルまたは(メタ)アクリル酸ドデシルを含むエチレン性不飽和モノマーである。さらに、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルおよび(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルなどの環式アルキルモノマー種を使用してもよい。メタクリル酸およびアクリル酸などの官能性モノマー、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピルおよび(メタ)アクリル酸ジエチルアミノプロピルなどの(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル。(メタ)アクリレートにより、メタアクリレートまたは類似のアクリレートのいずれを使用してもよいことを意味する。実施の形態において、追加のモノマーは非イオン性であってよい。実施の形態において、追加のモノマーは親水性であってよい。
【0064】
図6は、成分2のポリマー200の実施の形態であるポリ(HEMA−co−MAA−PEG
4−VN)を製造するための反応スキームを示している。
図6に示されるように、ペプチドモノマー215は、PEG
4スペーサおよびメタクリル酸(MAA)重合部分を有する。式1:R
m−S
p−C
apに戻ると、
図6に示された実施の形態によれば、R
mはMAAであり、S
pはPEG
4であり、C
apは、RGD配列を含有する、VNと付された表1に示された配列のいずれであってもよいビトロネクチン配列のVNである。
図6に示されるように、MAA−PEG
4−VN官能化ペプチドは、熱開始剤であるエタノールの存在下、またはアルゴンまたはN
2雰囲気下における68℃で、親水性エチレン性不飽和モノマー235、この場合にはHEMAと反応させられて、成分2のポリマー200の実施の形態である、HEMA−co−MAA−PEG
4−VNを形成する(さらなる詳細は、以下の実施例に与えられている)。
【0065】
様々な実施の形態において、ポリペプチドは、既に形成されたポリマーにグラフトされる。ポリペプチドが、ポリマーのペンダント反応性基にコンジュゲートできるアミノ酸を含むことが好ましい。ポリマーがポリペプチドとの反応のために有することのある反応性基の例としては、マレイミド、グリシジル、イソシアネート、イソチオシアネート、活性化エステル、活性化カーボネート、無水物などが挙げられる。一例として、例えば、アミド結合の形成により、求核付加反応を可能にする官能基を有する任意の天然アミノ酸またはバイオミメティックアミノ酸が、適切な反応性基を有するポリペプチドにコンジュゲートする目的のために、ポリペプチドに含まれてもよい。リシン、ホモリシン、オルニチン、ジアミノプロピオン酸、およびジアミノブタン酸が、カルボキシル基などの、ポリマーの反応性基にコンジュゲーションするための適切な性質を有するアミノ酸の例である。その上、N末端アミンがキャッピングされていない場合、カルボキシル基にコンジュゲートするために、ポリペプチドのN末端アルファアミンを使用してもよい。様々な実施の形態において、前記ポリマーとコンジュゲートするポリペプチドのアミノ酸は、ポリペプチドのカルボキシル末端位置またはアミノ末端位置にある。
【0066】
ポリペプチドは、どのような適切な技法によりポリマーにコンジュゲートされてもよい。ポリペプチドは、アミノ末端のアミノ酸、カルボキシル末端のアミノ酸、または内部のアミノ酸によりポリマーにコンジュゲートされてもよい。適切な技法の1つには、当該技術分野に一般に知られているような、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)/N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)化学反応がある。EDCおよびNHSまたはN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ−NHS)が、ポリマーの自由なカルボキシル基と反応して、アミン反応性NHSエステルを生成できる。EDCはポリマーのカルボキシル基と反応して、加水分解を受けやすいアミン反応性O−アシルイソウレア中間体を生成する。NHSまたはスルホ−NHSの付加は、アミン反応性O−アシルイソウレア中間体をアミン反応性NHSまたはスルホ−NHSエステルに転化することによって、アミン反応性O−アシルイソウレア中間体を安定化させて、二段階工程を可能にする。ポリマーの活性化後、次いで、ポリペプチドが加えられ、ポリペプチドの末端アミンがアミン反応性エステルと反応して、安定したアミド結合を形成し、それゆえ、ポリペプチドを膨潤性(メタ)アクリレート層にコンジュゲートすることができる。ポリペプチドをポリマーにコンジュゲートするために、EDC/NHS化学反応が使用される場合、N末端アミノ酸は、リシン、オルニチン、ジアミノ酪酸、またはジアミノプロピオン酸などのアミン含有アミノ酸であることが好ましい。もちろん、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、ヒドロキシルなどの、許容されるどのような求核試薬を使用してもよい。
【0067】
EDC/NHS化学反応により、マイクロキャリアへのポリペプチドのゼロ長コンジュゲーションが生じる。末端アミンを有する、上述したものなどのスペーサ(S
p)をポリペプチドのN末端アミノ酸に加えてもよい。N末端アミノ酸にスペーサ(S
p)を加える場合、そのスペーサ(S
p)はN−PG−アミド−スペーサであることが好ましく、式中、PGは、Fmoc基、BOC基、CBZ基またはペプチド合成を受けやすい任意の他の基などの保護基である。
【0068】
ポリペプチドが、既に形成されたポリマーにコンジュゲートされるいくつかの実施の形態において、そのポリマーは、複数のエチレン性不飽和モノマーから形成された主鎖を有し、そのエチレン性不飽和モノマーの内の1つはカルボキシル官能基を有する。カルボキシル官能基は、必要以上の実験をせずに、適切な官能基がある、先に列記したエチレン性不飽和モノマーに組み込まれてもよいことが当業者には理解されよう。カルボキシル官能基を有するモノマーの一例はアクリル酸2−カルボキシエチル(CEA)であるが、多くの他のカルボキシル基含有モノマーを提供してもよい。実施の形態において、成分2のポリマー200は、親水性モノマーであってもよい(例えば、先に論じたような)、カルボキシル基を有さない1種類以上のエチレン性不飽和モノマーから、およびカルボキシル基を有さない1種類以上のエチレン性不飽和モノマーから、形成される。このペプチドは、上述したように、カルボキシル官能基を通じてポリマー主鎖にコンジュゲートされてよい。
【0069】
ポリペプチドが、既に形成されたポリマーにコンジュゲートされる、または形成されているときにポリマーに取り込まれるか否かにかかわらず、ペプチドは、細胞接着ペプチドまたは細胞接着ポリペプチド(これらの用語は相互に交換可能である)(C
ap)である。細胞接着ポリペプチドは、例えば、インテグリン結合配列またはR−G−D配列であってよい、細胞結合配列または細胞接着配列を有する。実施の形態において、細胞接着ペプチドは、ビトロネクチン、ラミニン、骨シアロタンパク質、コラーゲン、またはフィブロネクチン中に見つかるアミノ酸の配列である。本開示の目的に関して、ペプチドまたはポリペプチドは、化学的に合成されても、または組換え方法により製造されてもよいアミノ酸配列である。しかしながら、本開示の目的に関して、ペプチドまたはポリペプチドは、完全なタンパク質ではなく、タンパク質の断片である。その上、ペプチドまたはポリペプチドは、動物源から単離されない。実施の形態において、ペプチドまたはポリペプチドは、末端アミノ酸が、ポリペプチドの付着に適応するリシンまたはアルギニンであるという条件で、lが0から3までの整数であり、Xaaがどのようなアミノ酸であってもよい、ビトロネクチンペプチド配列である、Xaa
lProGlnValThrArgGlyAspValPheThrMetPro(配列番号32)のアミノ酸配列を含んでよい。実施の形態において、前記ペプチドまたはポリペプチドは環式であってよい。例えば、RGDYK(配列番号33)は環式c(RGDyK)であってよい。
【0070】
実施の形態に使用してよいペプチドの例が表1に列挙されている。
【表1-1】
【表1-2】
【0071】
存在するまたは細胞培養表面からアクセスできるペプチドの量は、プレポリマーの組成、スペーサの長さ、およびポリペプチド自体の性質に応じて様々であり得ることが理解されよう。その上、培養中の異なる細胞は、プレポリマーの組成、並びに表面で利用できるペプチドの個性と量に対して異なって応答するであろう。特定の密度のペプチドが、例えば、既知組成培地中の未分化幹細胞などの特定の細胞タイプの付着および増殖をよりよく支持できるであろうが、異なるペプチド濃度で、他の細胞タイプがよりうまく増殖するかもしれないことが理解されよう。
【0072】
ポリペプチドは、環化されていても、環状部分を含んでもよい。環状ポリペプチドを形成するどのような適切な方法を使用してもよい。例えば、適切なアミノ酸側鎖の自由なアミノ基および適切なアミノ酸側鎖の自由なカルボキシル基を環化させることによって、アミド結合を形成してもよい。また、ペプチド配列における適切なアミノ酸側鎖の自由なスルフヒドリル基の間でジスルフィド結合を形成してもよい。環状ポリペプチド(またはその部分)を形成するために、どのような適切な技法を使用してもよい。一例として、例えば、国際公開第1989/005150号パンフレットに記載されている方法を使用して、環状ポリペプチドを形成してもよい。ポリペプチドがカルボキシル末端とアミノ末端との間にアミド結合を有する、頭−尾結合環状ポリペプチドを使用してもよい。ジスルフィド結合の代わりは、例えば、Koide et al, 1993, Chem. Pharm. Bull. 41(3):502-6; Koide et al.,1993, Chem. Pharm. Bull. 41(9):1596-1600; またはBesse and Moroder, 1997, Journal of Peptide Science, vol. 3, 442-453に記載されているような、2つのセレノシステインを使用したジセレニド結合または混合セレニド/スルフィド結合であってもよい。
【0073】
ポリペプチドは、当該技術分野に公知のように合成しても(あるいは分子生物学技法により産生しても)、またはAmerican Peptide Company、CEM Corporation、またはGenScript Corporationなどの製造供給元から得てもよい。リンカーは、当該技術分野に公知のように合成しても、またはQuanta BioDesign, Ltd.から市販されている個別ポリエチレングリコール(dPEG(登録商標))リンカーなどのように、製造供給元から得てもよい。
【0074】
ここに論じられたポリペプチドのいずれについても、具体的に特定されたアミノ酸または公知のアミノ酸を保存アミノ酸で置き換えてもよいことが理解されよう。「保存アミノ酸」は、ここに用いたように、第2のアミノ酸と機能的に類似のアミノ酸を称する。そのようなアミノ酸は、公知の技法により、ポリペプチドの構造または機能への妨害を最小にして、ポリペプチドにおいて互いに置き換えられてもよい。以下の5種類の基の各々は、互いに保存置換基であるアミノ酸を含有する:脂肪族:グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I);芳香族:フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);硫黄含有:メチオニン(M)、システイン(C);塩基性:アルギニン(R)、リシン(K)、ヒスチジン(H);酸性:アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)。
【0075】
成分2のポリマー200が、ポリマーが形成されているときにポリマーにポリペプチド210を取り込むことによって(例えば、
図5に示されたようなペプチドモノマー215の使用により)形成されたか、またはポリマーが形成された後にポリマーにコンジュゲートされたかにかかわらず、成分2のポリマー200のポリマー部分を形成するための1種類以上のモノマーは、適切なペプチド密度が達成され、適切なポリマー特徴(例えば、率(modulus)、膨潤性など)が達成されるように選択されるであろう。当業者には、所望の特徴を有するポリマーを調製するための適切なモノマーおよびモノマー比を選択することが容易にできるであろう。
【0076】
適切な量の適切なモノマーが一旦選択されたら、重合反応によりポリマーを形成してよい(例えば、成分1のプレポリマーに関して先に論じたように)。
【0077】
実施の形態において、成分2の官能化ペプチドポリマー200は、10,000ダルトン超のMn(典型的に20,000〜100,000)および30,000ダルトン超のMw(典型的に50,000から300,000)を有する。
【0078】
III. 被覆組成物
陽イオンの架橋剤官能化プレポリマー(「成分1」)およびペプチド官能化ポリマー(「成分2」)は、どのような適切な量および比で被覆組成物において組み合わされてもよい。
【0079】
きつ過ぎて細胞を容易に収穫できない結合を形成せずに、幹細胞を、成分1(陽イオン部分を含有する)のプレポリマーおよび成分2(ペプチドを含有する)のペプチドポリマーの架橋から生成される被覆に結合させられるように、細胞接着ポリペプチドの陽イオン部分に対する比が制御されるであろうことが分かった。第三級アミンなどの陽イオン部分を有する表面は、幹細胞の増殖を支持するのに適していないことが以前に示唆されてきた(例えば、Langer et al., “Combinatorial development of biomaterials for clonal growth of human pluripotent stem cells,” Nature Materials, vol. 9, September 2010; および“Functional Polymer Hydrogel for Embryonic Stem Cell Support,” D. Horak , et al., published online August 3, 2005 in Wiley Interscienceを参照のこと)。したがって、幹細胞培養がここに記載された被覆により支持されていることは意外である。理論により拘束することを意図するものではないが、適切な量の細胞接着ペプチドを有することにより、細胞がここに記載された被覆表面に最初に付着し、その後、その細胞は、細胞外基質(ECM)分子を分泌でき、これらの分子は、たいていは、正味の負電荷(タンパク質、GAGなど)を示し、正に帯電した表面に容易に吸着できると考えられる。しかしながら、非特異的な調節の細胞/基質相互作用、例えば、電荷相互作用も関与することは除外できない。
【0080】
細胞/基質相互作用が、細胞接着ペプチドと細胞の相互作用およびECMと細胞の相互作用の両方により媒介される場合、ここに記載された被覆から細胞を容易に収穫する能力は、以下のように説明されるであろう(本出願の発明者等は、その理論に拘束されることを意図していない)。細胞接着ポリペプチドの濃度を低く維持することによって、そのようなペプチドに対する細胞の特異的で強い結合が最小に維持される。さらに、ECM分子は、典型的に、これらの効果の両方により、細胞の収穫の向上をもたらすことができる。細胞接着が、合成ペプチド/細胞受容体の相互作用に頼りすぎる場合、細胞の収穫が非効率になる。しかしながら、不十分な量しか合成ペプチドが存在しない場合、被覆は、幹細胞の培養を支持することができないであろう。
【0081】
成分1の成分2に対する比は、成分2により提供される細胞結合ペプチドの濃度を調節するために変えてもよい。様々な実施の形態において、被覆中の細胞結合ペプチドの濃度は、平方センチメートル当たり約1.5マイクログラムなどの、被覆により提供される細胞培養表面の平方センチメートル当たり5マイクログラム未満である。ポリペプチドのそのような濃度は、他の合成表面に使用されてきた量よりも実質的に小さく、ここに提示された教示により被覆された細胞培養物品の製造に関して、実質的なコスト削減をもたらし得る。最終的に被覆を生じるポリペプチドの量を調節するために、例えば、上述したように、成分2を形成するために使用される成分を変えることを(成分1の成分2に対する比を変えることに加え)使用してもよいことが理解されよう。
【0082】
第三級アミン部分などの陽イオン部分は、どのような適切な濃度で被覆組成物中に存在してもよい。ポリペプチドの濃度に関するように、陽イオン部分の濃度を制御するために、成分1の成分2に対する比を変えてもよい。最終的に被覆を生じる陽イオン部分の量を調節するために、例えば、上述したように、成分1を形成するために使用される成分を変えることを(成分1の成分2に対する比を変えることに加え)使用してもよいことが理解されよう。
【0083】
いくつかの実施の形態において、ブレンドまたは他の組成物中の成分1の質量パーセントは、30から70%、例えば、40から60%であり、成分2は、70から30%、例えば、40から60%の質量パーセントで存在する。もちろん、所望の量のポリペプチドおよび陽イオン部分を達成するために、プレポリマー自体の実際の組成に基づいて、成分1のプレポリマーと成分2のポリマーの相対比率を変えてもよい。
【0084】
いくつかの実施の形態において、成分1のプレポリマーと成分2のポリマーは、被覆プロセス(以下に記載されるような)に使用するために溶媒中に溶解される。どのような適切な溶媒を使用してもよい。いくつかの実施の形態において、溶媒はトリフルオロエタノール(TFE)である。
【0085】
いくつかの実施の形態において、細胞培養物品を被覆するための、適切な比の成分1のプレポリマーと成分2のポリマーを含有するブレンド溶液は、バイアルやアンプルなどの容器内にパッケージされ、末端ユーザが末端ユーザの実験室内で細胞培養物品を被覆できるように、その物品が設けられている。いくつかの実施の形態において、末端ユーザが、使用した細胞および培養条件で使用するための適切な組合せを選択できるように、各々が、異なる比の成分1と成分2、もしくは異なる成分1のプレポリマーまたは成分2のペプチドポリマーを含有する複数の容器が提供される。
【0086】
溶液中の成分1のプレポリマーおよび成分2のペプチドポリマーは、どのような適切な濃度で溶液中にあってもよい。様々な実施の形態において、成分1のプレポリマーおよび成分2のペプチドポリマーの総濃度は、5mg/ml以下または約1mg/mlなどの、10mg/ml以下である。
【0087】
IV. 被覆プロセス
成分1のプレポリマーおよび成分2のペプチドポリマーは、どのような適切な様式で細胞培養物品上に配置してもよい。一般に、先に記載したような、成分1のプレポリマーおよび成分2のペプチドポリマーを含有する溶液は、細胞培養物品の表面上に配置される。その溶液は、その物品の表面に吹き付けても、または物品の表面に注ぐなどしてもよい。いくつかの実施の形態において、その物品は、溶液に沈められ、そこから取り出される。
【0088】
その溶液が物品の表面上に一旦配置されたら、成分1のプレポリマーの架橋剤部分を活性化させるために、被覆物品を電磁放射線または他の適切な条件に施す。例えば、
図7を参照すると、成分1のプレポリマー100および成分2のペプチドポリマー200の混合物を放射線R(または他の適切な条件)に施すと、成分1のプレポリマー100の架橋剤部分110が活性化される。この架橋剤部分は、成分2のポリマー200のポリマー主鎖240と架橋することができ、陽イオン部分120およびポリペプチド部分210を有する架橋ポリマー300が生じ、このポリマー300の被覆が、細胞培養、特に、幹細胞の培養に適したものとなる。図示されていないが、成分1のプレポリマー100の架橋剤部分110と主鎖140との間の架橋も生じるかもしれないことが理解されよう。
【0089】
図8を参照すると、成分1と2、100,200の混合物が、細胞培養物品400の表面410と接触したまま放射線に曝露されると、成分1のプレポリマーの架橋剤部分110が、物品400の表面410と結合し、陽イオン部分120およびポリペプチド部分210を有する、共有結合した表面被覆300が提供される。
【0090】
もちろん、被覆300は、非共有相互作用によって物品400の表面410に付着してもよい。ポリマー300を基体に取り付ける非共有相互作用の例としては、化学吸着、水素結合、表面相互貫入、イオン結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、双極子間相互作用、機械的連結、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0091】
ポリマー被覆300が、物品400の表面410にどのように付着しているかにかかわらず、ポリマー300が、37℃での細胞培養培地の存在下などの、細胞培養条件中に剥離しないように付着することが好ましい。
【0092】
ここで
図9を参照すると、細胞培養物品を被覆する方法の概要が提示されている。この方法は、成分1のプレポリマーおよび成分2のペプチドポリマーを溶液中で混合する工程(900)、細胞培養物品の表面をこの溶液と接触させる工程(910)、溶媒を蒸発させる工程(920)、物品の表面と接触した混合物を放射線に曝露して、成分1のプレポリマーの架橋剤部分を活性化させる工程(930)、および洗浄して、未結合の材料を除去する工程(940)を含む。
【0093】
溶媒は、受動的な乾燥によって除去してもよい。あるいは、蒸発を促進させるために、熱または真空を印加してもよい。
【0094】
成分1のプレポリマーの架橋剤部分を活性化させるために、どのような適切な量またはタイプの電磁放射線を使用してもよい。例えば、ベンゾフェノン架橋剤部分を使用する場合、被覆された細胞培養物品をUV光に曝露してよい。雰囲気下でUV光が照射された被覆物品が良好な付着を示すことが分かった。一例として、0.6m/分のベルト速度で、80%の出力による「D」バルブを備えたフュージョンランプ(fusion lamp)が、いくつかの実施の形態において、十分であることが分かった。高エネルギーの低波長放射線によるポリペプチドの劣化を避けるために、300nm未満の波長を遮蔽するフィルタを光源と被覆組成物との間に配置してもよい。ポリスチレン製ウェルプレートの場合、潜在的に有害な低波長放射線を遮断する有効なフィルタとして、蓋板または底板を都合よく使用することができる。
【0095】
ポリマーで被覆される細胞培養物品の表面は、どのような適切な材料から形成されてもよい。例えば、細胞培養物品の表面は、セラミック物質、ガラス、プラスチック、ポリマーまたはコポリマー、それらの任意の組合せ、またはある材料の別の材料上の被覆から形成されてもよい。そのような基礎材料としては、ソーダ石灰ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコール(登録商標)ガラス、石英ガラスなどのガラス材料;シリコン;ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メタクリル酸メチル)、酢酸ビニル・無水マレイン酸の共重合体、ポリ(ジメチルシロキサン)モノメタクリレート、環状オレフィンポリマー、フルオロカーボンポリマー、ポリスチレン、ボルプロピレン、ポリエチレンイミンなどの樹枝状ポリマーを含むプラスチックまたはポリマー;酢酸ビニル・無水マレイン酸の共重合体、スチレン・無水マレイン酸の共重合体、エチレン・アクリル酸の共重合体、またはこれらの誘導体などのコポリマーが挙げられる。
【0096】
基体がコロナ処理またはプラズマ処理された場合、良好な付着が生じることが分かった。真空または大気圧プラズマの例としては、一次と二次の両方のRFおよびマイクロ波プラズマ、誘電体バリア放電、および空気、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、亜酸化窒素、または水蒸気を含む分子または混合ガス中に生成されるコロナ放電が挙げられる。一例として、TCTポリスチレンまたは「CellBIND」処理ポリスチレン(コーニング社)などのプラズマ処理ポリスチレンが、付着ための良好な基体を提供する。
【0097】
VI. 細胞培養物品
ここに記載された被覆は、6,12,96,384および1536ウェルプレートなどのシングルおよびマルチウェルプレート、瓶、ペトリ皿、フラスコ、ビーカー、プレート、ローラーボトル、区画および多区画培養スライドなどのスライド、試験管、カバースリップ、バッグ、膜、中空繊維、ビーズおよびマイクロキャリア、カップ、スピナーボトル、潅流チャンバ、バイオリアクタ、CellSTACK(登録商標)(コーニング社)および発酵槽などの任意の適切な細胞培養物品の表面に結合させてもよい。
【0098】
VII. 合成高分子被覆上の細胞のインキュベーション
上述したような被覆を有する細胞培養物品に細胞を播種してよい。細胞はどのような細胞タイプのものであってもよい。例えば、細胞は、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、腸細胞、腎臓細胞、または他の臓器からの細胞、幹細胞、島細胞、血管細胞、白血球、癌細胞などの結合組織細胞であってよい。細胞は、哺乳類細胞、好ましくはヒト細胞であってよいが、細菌、酵母、または植物細胞などの非哺乳類細胞であってもよい。
【0099】
数多くの実施の形態において、細胞は、当該技術分野で一般に理解されているように、連続的に分裂する(自己再生)能力を有し、多種多様な特殊な細胞に分化できる細胞を称する幹細胞である。いくつかの実施の形態において、幹細胞は、検体の臓器または組織から単離される多能性(multipotent)、全能性、または多能性(pluripotent)幹細胞である。そのような細胞は、完全に分化したまたは成熟した細胞タイプを生じることができる。幹細胞は、自己またはそうではない骨髄由来幹細胞、神経幹細胞、または胚性幹細胞であってよい。幹細胞はネスチン陽性であってよい。幹細胞は造血幹細胞であってよい。幹細胞は、上皮組織、脂肪組織、臍帯血液、肝臓、脳または他の臓器に由来する多分化能細胞であってよい。様々な実施の形態において、幹細胞は、未分化胚性幹細胞などの未分化幹細胞である。
【0100】
細胞を播種する前に、細胞を収穫し、細胞を表面に一旦播種したらその中で培養すべき増殖培地などの、適切な培地中に懸濁させてよい。例えば、細胞は、血清含有培地、ならし培地、または既知組成培地中に懸濁させ、培養してもよい。ここに用いたように、「既知組成培地」は、未知の組成の成分を含有しない細胞培養培地を意味する。既知組成培地は、様々な実施の形態において、未知の組成のタンパク質、加水分解物、またはペプチドを含有しない。いくつかの実施の形態において、ならし培地は、組換え成長ホルモンなどの、既知の組成のポリペプチドまたはタンパク質を含有する。既知組成培地の全成分は既知の化学構造を有するので、培養条件におけるばらつき、それゆえ、細胞応答を減少させ、再現性を増加させることができる。その上、汚染の可能性が減少する。さらに、拡大する能力が、少なくとも一部には、上述した要因のために、容易になる。既知組成培地は、胚性幹細胞の成長と増殖から特別に配合された完全無血清のフィーダーフリー培地(SFM)である、STEM PROとしてInvitrogen(カリフォルニア州92008、カールズバッド、PO Box6482、1600ファラデーアベニュー、Invitrogen社)から、またヒト胚性幹細胞のためのmTeSR(商標)1維持培地として、STEMCELL Technologies, Inc.から市販されている。別の既知組成培地は、ヒト間葉幹細胞(MSC)の培養のための、標準化された、異種成分を含まない無血清培地である、「MesenCult−XF」培地である。「MesenCult−XF」培地は、STEMCELL Technologies, Inc.から市販されている。
【0101】
その中で細胞が合成ヒドロゲル層と共にインキュベーションされる培地に、1種類以上の成長因子または他の因子を加えてもよい。これらの因子は、細胞増殖、接着、自己再生、分化などを促進させるものであってよい。培地に加えてよいまたは含ませてよい因子の例としては、筋肉形成因子(MMP)、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン、神経成長因子(NGF)、エリスロポエチン、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、アクチビンA(ACT)、造血成長因子、レチノイン酸(RA)、インターフェロン、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)などの線維芽細胞成長因子、骨形成タンパク質(BMP)、ペプチド成長因子、ヘパリン結合性増殖因子(HBGF)、肝細胞増殖因子、腫瘍壊死因子、インスリン様成長因子(IGF)IおよびII、形質転換成長因子−β1(TGFβ1)などの形質転換成長因子、およびコロニー刺激因子が挙げられる。
【0102】
細胞は、どのような適切な濃度で播種してもよい。典型的には、細胞は、基体1cm
2当たり約10,000細胞/cm
2から約500,000細胞/cm
2の濃度で播種される。例えば、細胞は、基体1cm
2当たり約50,000細胞/cm
2から約150,000細胞/cm
2の濃度で播種してよい。しかしながら、これよりも高濃度および低濃度で難なく使用できる。インキュベーションの時間および、温度、CO
2レベルとO
2レベル、成長培地などの条件は、培養されている細胞の性質に応じて決まり、容易に変更することができる。細胞を前記表面上でインキュベーションする期間は、所望の細胞応答に応じて変わりうる。
【0103】
培養される細胞は、(i)調査研究または治療用途の開発に使用するために、既知組成培地の合成表面上で培養される十分な量の未分化の幹細胞の入手、(ii)培養される細胞の調査研究、(iii)治療用途の開発、および(iv)治療目的を含む、どのような適切な目的に使用してもよい。
【0104】
本開示の態様の概要
第1の態様において、高分子細胞培養表面を形成するための組成物は、(i)ポリマー主鎖、その主鎖にコンジュゲートした陽イオン部分、および主鎖にコンジュゲートした架橋剤部分を含むプレポリマー、および(ii)ポリマー主鎖およびその主鎖にコンジュゲートした細胞接着ペプチドを含むペプチドポリマーを含む。
【0105】
第2の態様は、陽イオン部分がアミン部分である、第1の態様の組成物である。
【0106】
第3の態様は、アミン部分が第三級アミンである、第2の態様の組成物である。
【0107】
第4の態様は、第三級アミンが、アルキルアミンまたはアルカノールアミンからなる群より選択される、第3の態様の組成物である。
【0108】
第5の態様は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした陽イオン部分が、モノアルキルアミノアルキルまたはジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマーのプレポリマーへの重合から生じる、第1の態様の組成物である。
【0109】
第6の態様は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした陽イオン部分が、モノマーの第1のプレポリマーへの重合から生じるものであり、そのモノマーが、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレートおよびN−tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される、第1の態様の組成物である。
【0110】
第7の態様は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした陽イオン部分が、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMEMA)モノマーのプレポリマーへの重合から生じる、第1の態様の組成物である。
【0111】
第8の態様は、プレポリマーが、プレポリマーのポリマー主鎖にコンジュゲートした親水性部分をさらに含む、最初の7つの態様いずれかの組成物である。
【0112】
第9の態様は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした親水性部分が、モノマーのプレポリマーへの重合から生じ、そのモノマーが、2−カルボキシエチルメタクリレート、2−カルボキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−カルボキシエチルアクリルアミド、アクリルアミドグリコール酸、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロイルアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミド−エトキシエタノール、およびN−ヒドロキシエチルアクリルアミドからなる群より選択される、第8の態様の組成物である。
【0113】
第10の態様は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした親水性部分が、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のプレポリマーへの重合から生じる、第8の態様の組成物である。
【0114】
第11の態様は、架橋剤部分がベンゾフェノン部分である、最初の10の態様いずれかの組成物である。
【0115】
第12の態様は、細胞接着ペプチドがR−G−D配列を含む、最初の11の態様いずれかの組成物である。
【0116】
第13の態様は、細胞接着ペプチドが、ビトロネクチン、ラミニン、骨シアロタンパク質、コラーゲン、またはフィブロネクチン中に見つかるアミノ酸の配列である、最初の11の態様いずれかの組成物である。
【0117】
第14の態様は、細胞接着ペプチドが、KGGGQKCIVQTTSWSQCSKS(配列番号1)、GGGQKCIVQTTSWSQCSKS(配列番号2)、KYGLALERKDHSG(配列番号3)、YGLALERKDHSG(配列番号4)、KGGSINNNRWHSIYITRFGNMGS(配列番号5)、GSINNNRWHSIYITRFGNMGS(配列番号6)、KGGTWYKIAFQRNRK(配列番号7)、GGTWYKIAFQRNRK(配列番号8)、KGGTSIKIRGTYSER(配列番号9)、GGTSIKIRGTYSER(配列番号10)、KYGTDIRVTLNRLNTF(配列番号11)、YGTDIRVTLNRLNTF(配列番号12)、KYGSETTVKYIFRLHE(配列番号13)、YGSETTVKYIFRLHE(配列番号14)、KYGKAFDITYVRLKF(配列番号15)、YGKAFDITYVRLKF(配列番号16)、KYGAASIKVAVSADR(配列番号17)、YGAASIKVAVSADR(配列番号18)、CGGNGEPRGDTYRAY(配列番号19)、GGNGEPRGDTYRAY(配列番号20)、CGGNGEPRGDTRAY(配列番号21)、GGNGEPRGDTRAY(配列番号22)、KYGRKRLQVQLSIRT(配列番号23)、YGRKRLQVQLSIRT(配列番号24)、KGGRNIAEIIKDI(配列番号25)、GGRNIAEIIKDI(配列番号26)、KGGPQVTRGDVFTMP(配列番号27)、GGPQVTRGDVFTMP(配列番号28)、GRGDSPK(配列番号29)、KGGAVTGRGDSPASS(配列番号30)、GGAVTGRGDSPASS(配列番号31)、Xaa
lPQVTRGDVFTMP(配列番号32)、RGDYK(配列番号33)、およびそれらの組合せからなる群より選択されるアミノ酸の配列を含む、最初の11の態様いずれかの組成物である。
【0118】
第15の態様は、細胞接着ポリペプチドが、式R
m−S
p−C
apのペプチドモノマーからのペプチドポリマーに取り込まれ、式中、Rが、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイミドおよびフマレート、並びにそれらの組合せからなる群より選択される重合部分であり、mが1より大きい整数であり;S
pが、式(O−CH
2CHR’)
m2を有するポリエチレンオキシドまたはポリプロピレンオキシド(式中、R’はHまたはCH
3であり、m2が0から20までの整数である)、またはXaa
n(式中、Xaaは、独立して任意のアミノ酸であり、nは0から3までの整数である)、もしくはそれらの組合せを含む随意的なスペーサ部分であり;C
apは、細胞接着配列を含むペプチドである、最初の14の態様いずれかの組成物である。
【0119】
第16の態様は、ペプチドポリマーが、ペプチドポリマーの主鎖にコンジュゲートした親水性部分をさらに含む、最初の15の態様いずれかの組成物である。
【0120】
第17の態様は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした親水性部分が、モノマーの第2のプレポリマーへの重合から生じ、そのモノマーが、2−カルボキシエチルメタクリレート、2−カルボキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−カルボキシエチルアクリルアミド、アクリルアミドグリコール酸、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、3−アクリロイルアミノ−1−プロパノール、N−アクリルアミド−エトキシエタノール、およびN−ヒドロキシエチルアクリルアミドからなる群より選択される、第16の態様の組成物である。
【0121】
第18の態様は、ポリマー主鎖にコンジュゲートした親水性部分が、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のプレポリマーへの重合から生じる、第16の態様の組成物である。
【0122】
第19の態様は、ペプチドポリマーが、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーの、カルボキシル基を有さないエチレン性不飽和モノマーとの重合生成物を含み、細胞接着ペプチドが、カルボキシル基によりプレポリマーにコンジュゲートされている、最初の18の態様いずれかの組成物である。
【0123】
第20の態様は、カルボキシル基を有さないエチレン性不飽和モノマーが親水性である、第19の態様の組成物である。
【0124】
第21の態様は、細胞培養物品を製造する方法であって、最初の20の態様いずれかのプレポリマーおよびペプチドポリマーを基体に提供する工程、および基体上のプレポリマーおよびペプチドポリマーにエネルギー源を施して、プレポリマーおよびペプチドポリマーを互いと基体に架橋させる工程を有してなる方法である。
【0125】
第22の態様は、第21の態様の方法により製造された細胞培養物品である。
【0126】
第23の態様は、ポリペプチドの濃度が、基体の表面1平方センチメートル当たり5マイクログラム未満である、第22の態様の細胞培養物品である。
【0127】
以下において、先に論じた物品および方法の様々な実施の形態を記載する、非限定的実施例が提示される。
【実施例】
【0128】
実施例1:
成分(i):光反応性ヒドロゲル形成コポリマー(Photo−DMAE)の調製
工程a:塩化4−ベンゾイルベンゾイルの合成 手短に言えば、5グラムの4−ベンゾイル安息香酸を100mlの丸底フラスコに入れ、そこに塩化チオニル(15ml)を加えた。結果として得られた懸濁液を加熱して、1時間に亘り還流し、この最中に全ての固体が溶解した。回転蒸発により、揮発性化合物を除去した。残留物をトルエン中に溶解させ、再び蒸発させた。塩化チオニルを全て除去するために、この操作を二回行った。粗製化合物は、石油エーテルからの再結晶化によりさらに精製できる(溶解度が100ml当たり約1gであることに留意)。この生成物は白色粉末である、Mp.95℃(Lit;:98〜99℃)。1H−NMRは文献データに対応する。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.20 (d, J = 7.5, 2H), 7.86 (d, J = 7.4, 2H), 7.78 (d, J = 7.4, 2H), 7.61 (d, J = 6.7, 1H), 7.49 (t, J = 7.4, 2H) ppm. 13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 195.31, 167.85, 143.27, 136.36, 135.75, 133.34, 131.15, 130.09, 130.01, 128.59 ppm。=O信号が170.42ppmである炭素スペクトルに、加水分解が容易に見られることに留意。
【0129】
工程b:N−(3−メタクリルアミドプロピル)−4−ベンゾイルベンズアミドの合成: 730mg(4.1ミリモル)のN−(3−アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩を50mlの丸底フラスコ内の25mlのジクロロメタン中に溶解させた。1グラム(4.1ミリモル)の塩化4−ベンゾイルベンゾイルおよびフェノチアジン(1mg:重合開始剤として)を固体で加えた。トリエチルアミン(1.3ml、10ミリモル)を加えながら、懸濁液を氷浴で冷却した。氷浴を取り外し、3時間に亘り撹拌した。有機相を0.1NのHClで二回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で蒸発させた。残りの粗生成物を、溶媒として酢酸エチルを使用したフラッシュカラムクロマトグラフィー(Rf=0.5)により精製した。収量は、510mg(36%)の純粋な化合物であった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.01 (d, J = 7.5, 2H), 7.86 (d, J = 7.4, 2H), 7.80 (d, J = 7.2, 2H), 7.62 (s,
1H), 7.51 (d, J = 7.5, 2H), 5.81 (s, 1H), 5.39 (s, 1H), 3.49 ( 4H), 2.01 (s, 3H), 1.79 (s, 2H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 196.05, 169.53, 166.74, 139.93, 139.52, 137.63, 137.07, 132.79, 130.13, 130.06, 128.39, 127.00, 120.29, 35.98, 29.76, 18.68。
【0130】
工程c:光反応性ヒドロゲル形成コポリマー(Photo−DMAE)の合成
図10に与えられた反応にしたがって、Photo−DMAEを調製した。手短に言えば、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMEMA)、0.42g(2.67ミリモル)および2−ヒドロキシエチルメタクリレート、0.983g(7.55ミリモル)を、撹拌子を備えた琥珀色のフラスコ内に秤量した20mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に加え、これに、N−(3−メタクリルアミドプロピル)−4−ベンゾイルベンズアミド、0.17g(0.48ミリモル)を加え、この溶液中に溶解させた。溶解後、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、40mg(0.21ミリモル)を加え、溶解が完了するまで撹拌した。この溶液を1分間に亘りアルゴンのバブリングを使用して酸素を除去した。次いで、密封したフラスコを、撹拌しながら68℃で20時間に亘り加熱し、光から保護した。室温まで冷却した後、ポリマーを、250mlの脱イオン水中の沈殿によって単離した。収集した粘着性ポリマーをエタノール中に溶解させ、ジイソプロピルエーテル中に沈殿させた。得られた固体をジイソプロピルエーテルで3回洗浄し、次いで、真空乾燥して、微細な白色生成物を得た。
【0131】
PhotoDMAEポリマーの分子量は、屈折率検出器、光散乱検出器、光ダイオードアレイ検出器および粘度計検出器と接続されたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定した。移動相は、トリフルオロエタノール+トリフルオロ酢酸カリウムであった。平均Mwは90,950であり、Mnは35,090であり、PDIは2.59であった。
【0132】
実施例2:
成分(ii):ポリ(HEMA−co−MAA−PEG4−VN)の合成
工程A:(MAA−PEG4−VN)の合成: VNペプチド(KGGPQVTRGDVFTMP配列番号27)は、以下のプロセスによって、合成されたものであり、カリフォルニア州、サニーベール所在のAmerican Peptide社により提供された。
【0133】
MAA−PEO
4−Lys−Gly−Gly−Pro−Gln−Val−Thr−Arg−Gly−Asp−Val−Phe−Thr−Met−Pro−NH
2(配列番号27): このペプチドは、Fmoc化学反応により1ミリモルのFmoc−Rink−Amide樹脂上で合成された。アミノ酸に使用した保護基は:AspとThrについてはt−ブチル基、GlnについてはThr基、ArgについてはPbf、LysについてはBocであった。Fmoc保護アミノ酸はEMD Biosciences社から購入 したものであった;Fmoc−PEG
4−OHは、Quanta Biodesign社から購入したものであった。カップリングおよび開裂(cleavage)のための試薬は、Aldrich社から購入したものであった。溶媒はFisher Sceientific社から購入したものであった。ペプチド鎖は、Fmoc保護基の除去および保護されたアミノ酸のカップリングの繰返しによって、樹脂上に作製された。カップリング剤としてHBTUおよびHOBtが使用され、塩基としてNMMが使用された。脱Fmoc試薬としてDMF中20%のピペリジンが使用された。Fmoc保護基が除去された後、PEG4のアミノ基にメタクリル酸(MAA)がカップリングされた。最後のカップリング後、開裂および側鎖の保護基の除去のために、TFA/TIS/H
2O(95:3:2、v/v/v)で処理された。粗製ペプチドが冷たいエーテルから沈殿され、濾過により収集された。粗製ペプチドが逆相HPLCにより精製された;90%超の純度で収集された分画がプールされ、凍結乾燥された。生成物は、90%以上の純度でAmerican Peptide社により提供され、さらに精製せずに使用した。エタノールをこのプロセスに非反応性希釈剤として使用し、Sigma−Aldrich社から購入したものであった。
【0134】
工程B:ポリ(HEMA−co−MAA−PEG4−VN)の調製 撹拌子を備えた琥珀色のフラスコ内の7.5mlのエタノールに、60mg(0.46ミリモル)のHEMA、100mg(0.05ミリモル)のビトロネクチン−PEG
4−メタクリレート(MAA−PEG
4−VN)を加えた。次いで、9mgの2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)を加え、溶解が完了するまで、撹拌した。1分間に亘りアルゴンをパージしながら、この溶液から酸素を除去した。次いで、密封したフラスコを、混合しなから68℃で24時間に亘り加熱し、光から保護した。室温まで冷却した後、ポリ(HEMA−co−MAA−PEG
4−VN)ポリマーを、酢酸エチル中に粗製反応媒質を注ぐことにより単離した。得られた白色固体をジイソプロピルエーテルで3回洗浄し、真空下で乾燥させた。下記に記載する被覆は、ポリ(HEMA−co−MAA−PEG
4−VN)ポリマーを精製せずに作製したが、未反応のペプチドは、連続または不連続ダイアフィルトレーションプロセスなどのよく知られたプロセスによって、容易に除去できる。特に効率的な未反応ペプチドの除去は、例えば、5,000 MWCO Corning Spin−X濃縮カラムを使用して、行うことができる。
【0135】
このポリマーは、数ヶ月に亘り4℃で貯蔵できる。
【0136】
分子量は、屈折率検出器、光散乱検出器、光ダイオードアレイ検出器および粘度計検出器と接続されたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定した。移動相は、トリフルオロエタノール+トリフルオロ酢酸カリウムであった。平均Mwは80,000から100,000であり、Mnは25,000から33,000であり、PDIは2.8であった。
【0137】
実施例3: 6ウェルプレートの被覆
Sigma Aldrich社から市販されているトリフルオロエタノール(TFE)中1mg/ml総固形分で、成分(i)としての40質量%のPhoto−DMAEおよび成分(ii)としての60質量%のポリ(HEMA−co−VNPEGMAA)をブレンドすることによって、被覆配合物を調製した。
【0138】
組織培養処理済み(TCT)ポリスチレン(PS)製6ウェルプレート(コーニング社)を使用した。ウェル当たり40μlを分配した(1/4インチ(約6.4mm)の孔のテンプレートの蓋を使用して手作業で)。この蓋をカバープレートと直ちに交換した。5から8分間で、適所にカバープレートを配置して、配合物を縁まで広がらせた。40℃で15分間に亘りカバープレートを濾紙と交換することによって、プレートを乾燥させた(または真空乾燥)。紫外線硬化を、「D」バルブ、80%の出力、0.6m/分のベルト速度、1回通過で行い、プレートは、粉塵による汚染を避けるために、蓋を適所に配置して逆さまにして曝露される(プレートの底面が、300nm未満の波長の固有吸収のために、ペプチドを保護する紫外線フィルタの役割を果たす)。プレートを1時間に亘り1%質量/体積のSDSで洗浄し、次いで、脱イオン水で4回濯ぎ、最後に、穏やかに窒素を流しながら乾燥させた。必要に応じて、プレートをエタノールまたは水中70%v/vのエタノールで洗浄した(消毒を確実にするために)。
【0139】
固定化されたペプチドの量をBCAにより定量化した。結果が
図11に示されている。
【0140】
実施例4: 「CellSTACK」容器の被覆
TFE中1mg/ml総固形分で、成分(i)としての40質量%のPhoto−DMAEおよび成分(ii)としての60質量%のポリ(HEMA−co−VNPEGMAA)をブレンドすることによって、40mlの被覆組成物配合物を調製した。
【0141】
10mlの溶液を「CellBIND」「CellSTACK」一層容器内に分配した。広げた後、過剰の液体(約7ml)を注意深く吸引し、15分間に亘り40℃で、逆さまにして容器を乾燥させた。
【0142】
冷却後、容器を、Dバルブを備えた12インチ(約30cm)Fusionランプ(端と端を接して2つの6インチ(約15cm)ランプを束ねることによって達成された幅)を使用して、約9,000mJ/cm
2のUV−Aに曝露した。冷却後、容器を1時間に亘り50mlの1%質量/体積SDS水溶液で洗浄し、次いで、脱イオン水で4回洗浄し、最後に乾燥させた。
【0143】
図17は、コロイド金染色した(カリフォルニア州、ハーキュリーズ所在のBio−Rad社から市販されているコロイド金総タンパク質染色試薬(Colloidal Gold Total Protein Stain reagent))「CellSTACK」容器の画像であり、大型容器を、ここに記載した被覆で均一に被覆できることを示している。
【0144】
実施例5:
様々なレベルの紫外線硬化による6ウェルプレートの被覆
紫外線硬化を、0.6m/分のベルト速度での0、1、2または3回追加、もしくは1.2m/分のベルト速度での1回通過で行ったことを除いて、実施例3に記載されたように、6ウェルプレートを調製した。洗浄後、固定化されたペプチドをBCAにより定量化した。その結果が
図12に示されており、この図は、明白な紫外線線量応答を示す。
【0145】
実施例6:
比較例1(2010年7月28日に出願した国際特許出願第PCT/IB2010/002160号明細書(SP10−205))
2010年7月28日に出願した国際特許出願第PCT/IB2010/002160号明細書に記載されたように、トリフルオロエタノール中10mg/ml総固形分で、成分(i)としての10質量%のPhoto−HMAEおよび成分(ii)としての90質量%のポリ(HEMA−co−VNPEGMAA)をブレンドすることによって、被覆配合物を調製した。6ウェルプレートを、上の実施例3に記載したようにこの溶液で調製した。
【0146】
固定化されたペプチドの量をBCAにより定量化した。結果が
図11に示されている。
【0147】
これらの基体は、胚性幹細胞(
図13cおよび下記の実施例9における関連する議論を参照のこと)および間葉幹細胞の培養を適切に支持したが、細胞の収穫は、「MesenCult」付着基体により達成されたものよりも効率的ではなかった(
図16および下記の実施例8における関連する議論を参照のこと)。ペプチドの消費は、10mg/ml溶液のために多い(
図11参照)。
【0148】
実施例7:
比較例2
トリフルオロエタノール中1mg/ml総固形分で、成分(i)としての40質量%のPhoto−HMAEおよび成分(ii)としての60質量%のポリ(HEMA−co−VNPEGMAA)をブレンドすることによって、被覆配合物を調製した。6ウェルプレートを、上の実施例3に記載したようにこの溶液で調製した。固定化されたペプチドの量をBCAにより定量化した。結果が
図11に示されている。
【0149】
この実施例から得られたデータは、Photo−HEMAから調製されたブレンド(正に帯電した光反応性ヒドロゲル形成コポリマーではない)は、既知組成培地における胚性幹細胞の培養にとって1mg/mlほど低い濃度で使用できないことを明白に示した(
図14bおよび下記の実施例9における関連する議論を参照のこと)。
【0150】
実施例8:
ヒト間葉幹細胞の培養
ヒト骨髄間葉幹細胞(hBM−MSC)をStemcell technologies社(MSC−001F)を通じて得た。細胞を、製造業者の推奨にしたがって、「MesenCult」基質(参照番号05424)で被覆された培養プレート上において「MesenClut−XF」培地(参照番号05420)中で増殖させた。
【0151】
上の実施例3に記載したように調製した6ウェルプレート内の細胞接着および増殖アッセイについて、30−70K細胞/ウェルを「MesenCult−XF」培地内に播種し、対照の細胞が80%コンフルエンシーに到達するまで、6〜8日間に亘り37℃でインキュベーションした。各ウェル内の細胞数を、MTTアッセイを使用して測定した。
【0152】
トリプシン処理により細胞が遊離する可能性を、細胞を、1mLの0.05%トリプシン/0.2%EDTAと共に5分間に亘りインキュベーションすることによって、第2のウェル内で評価した。次いで、トリプシンを血清含有培地(IMDM、10%のFBS)で中和し、ウェルをPBSで濯ぎ、このウェルに「MesenCult−XF」培地を加えた。細胞の遊離を位相差顕微鏡法により評価し、残りの細胞の数を、MTTアッセイを使用して測定した。残りの細胞の全細胞に対する比は、MTT値を比較することによって、定量化できる。
【0153】
使用したプレートは、(i)「MesenCult」被覆6ウェルプレート、(ii)「Synthemax」6ウェルプレート(コーニング社)、(iii)実施例6に記載されたような、10%のPhotoHEMA+90%のVN−PEG−co−HEMA、10mg/ml、(「10/90PhotoHEMA/VNPEGMMA」)、(iv)実施例3に記載されたような、40%のPhotoDMAE+60%のVNPEGMAA−co−HEMA、(「40/60PhotoDMAE/VNPEGMMA」)、および(v)実施例8に記載されたような、40%のPhotoHEMA+60%のVN−PEG−co−HEMA、10mg/ml、(「40/60PhotoHEMA/VNPEGMMA」)であった。
【0154】
図15は、「Mesencult」基体(a)および40/60PhotoDMAE/VNPEGMAA−co−HEMA(b)上の「Mesencult−XF」培地中で培養したhBM−MSC細胞の位相差顕微鏡画像、並びにトリプシン処理後の、「MesenCult」基体(c)および40/60PhotoDMAE/VNPEGMAA−co−HEMA(d)上の「Mesencult−XF」培地中で培養したhBM−MSC細胞の位相差顕微鏡画像を示している。(c)および(d)に提示された画像は、トリプシン処理後の細胞の遊離を示している。
【0155】
図16は、「Synthemax」、「MesenCult」、10/90PhotoHEMA/VNPEGMMA、および40/60PhotoDMAE/VNPEGMAA−co−HEMA上の細胞培養物に関するトリプシン処理後の試験表面に付着したままである細胞の比率のMTT定量化を示すグラフである。図示されるように、細胞の遊離は、「Synthemax」合成表面上および10/90PhotoHEMA/VNPEGMMA上において不適格であるのに対し、40/60PhotoDMAE/VNPEGMAA−co−HEMAにより、「MesenCult」付着基体生物学的被覆に相当する細胞の収穫がもたらされる。
【0156】
hBM−MSCを、「MesenCult」付着基体生物学的被覆または40/60PhotoDMAE/VNPEGMAA−co−HEMA、1mg/ml(上の実施例4参照)で被覆された「CellBIND」「CellSTACK」培養容器内で培養した。
図18は、「CellBIND」「CellSTACK」中で被覆された、「MesenCult」付着基体生物学的被覆(a)および40/60PhotoDMAE/VNPEGMAA−co−HEMA(b)上の「Mesencult−XF」培地中で増殖したhBM−MSCの位相差顕微鏡画像を示している。
図18に提示された画像は、両方の基体上のhBM−MSCの類似の形態および被覆率を示している。
【0157】
図19は、「CellBIND」「CellSTACK」中で被覆された、40/60PhotoDMAE/VNPEGMAA−co−HEMA、1mg/ml上の「Mesencult−XF」培地中で増殖したhBM−MSC細胞のクリスタルバイオレット染色を示す写真である。この画像は、ここに記載された被覆を使用した場合、このタイプの容器中の間葉幹細胞の細胞接着と増殖の均一性を示す。
【0158】
実施例9:
マウス胚性幹細胞の培養
ES−D3(ATCC番号CRL−11632)を、ATCCにより推奨されるように、15%のFBSおよび0.1mMのベータ−メルカプトエタノールを添加したDMEM培地中で増殖させた。細胞を、コンフルエンシーに到達する前に、トリプシン処理し、希釈した。
【0159】
接着アッセイについて、ES−D3を、トリプシン処理により収集し、計数し、D−PBS中で洗浄し、LIFを添加したmTeSR1合成培地(Stemcell technologies社)内に再懸濁させた。次いで、ウェル当たり7.5×10
5の細胞を、2mLのmTeSR1+LIF中において6ウェルプレートフォーマット内に播種し、37℃でインキュベーションした。使用したプレートは、(i)「Matrigel」被覆6ウェルプレート、(ii)「Synthemax」6ウェルプレート(コーニング社)、(iii)実施例6に記載されたような、10%のPhotoHEMA+90%のVN−PEG−co−HEMA、10mg/ml、(「10/90PhotoHEMA/VNPEGMMA」)、(iv)実施例3に記載されたような、40%のPhotoDMAE+60%のVNPEGMAA−co−HEMA、(「40/60PhotoDMAE/VNPEGMMA」)、および(v)実施例8に記載されたような、40%のPhotoHEMA+60%のVN−PEG−co−HEMA、10mg/ml、(「40/60PhotoHEMA/VNPEGMMA」)であった。細胞形態を24時間後に調べ、代表的な位相差顕微鏡写真を撮った。
【0160】
結果の写真のいくつかが、
図13に示されており、ここでは、(a)は「Matrigel」であり、(b)は「Synthemax」であり、(c)は10/90PhotoHEMA/VNPEGMMAであり、(d)は40/60PhotoDMAE/VNPEGMMAである。これら基体の全ては、ES−D3細胞の培養を支持した。しかしながら、「Synthemax」基体は、40/60PhotoDMAE/VNPEGMMA基体のペプチド濃度の約100倍のペプチド濃度を有したにもかかわらず、40/60PhotoDMAE/VNPEGMMA基体上で培養した細胞の形態は、「Synthemax」上で培養した細胞よりも、「Matrigel」上に培養した細胞の形態により厳密に似ていた。
【0161】
いくつかの追加の写真が、
図14に提示されており、ここでは、(a)は40/60PhotoDMAE/VNPEGMMAであり、(b)は40/60PhotoHEMA/VNPEGMMAである。図示されるように、40/60PhotoDMAE/VNPEGMMAはES−D3細胞の培養を支持したのに対し、40/60PhotoHEMA/VNPEGMMAは支持しなかった。ペプチドの濃度は、40/60PhotoHEMA/VNPEGMMAにおけるよりも、40/60PhotoDMAE/VNPEGMMAにおけるほうが低いので、このことはいくぶん意外である。
【0162】
それゆえ、細胞培養のための合成組成物および被覆の実施の形態が開示されている。ここに記載された被覆、物品、組成物および方法は、開示された実施の形態以外の実施の形態により実施できることが、当業者により認識される。開示の実施の形態は、制限ではなく、説明の目的で提示される。