特許第5916270号(P5916270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916270誘電膜およびそれを用いたトランスデューサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916270
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】誘電膜およびそれを用いたトランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/193 20060101AFI20160422BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20160422BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20160422BHJP
   H01L 41/318 20130101ALI20160422BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   H01L41/18 102
   H01L41/08 B
   H01L41/08 C
   H01L41/318
   H02N11/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2009-65737(P2009-65737)
(22)【出願日】2009年3月18日
(65)【公開番号】特開2010-219380(P2010-219380A)
(43)【公開日】2010年9月30日
【審査請求日】2011年12月5日
【審判番号】不服2014-25280(P2014-25280/J1)
【審判請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(72)【発明者】
【氏名】奥田 博文
(72)【発明者】
【氏名】吉川 均
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和信
【合議体】
【審判長】 河口 雅英
【審判官】 小野田 誠
【審判官】 加藤 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−238470(JP,A)
【文献】 特開2006−126696(JP,A)
【文献】 特開2001−288333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L41/00-41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリルゴムおよびCOOH基含有水素化ニトリルゴムから選ばれる一種以上のエラストマーと、アジピン酸エステル、塩素化パラフィン、スルホンアミドから選ばれる一種以上の液状化合物と、を含むエラストマー組成物を架橋した誘電膜であって、
該エラストマー組成物における該液状化合物の配合量は、該エラストマーの100質量部に対して5質量部以上300質量部以下であり
00%モジュラスが0.9MPa以下である誘電膜と、
該誘電膜を介して配置されエラストマーと導電材とを含む複数の電極と、
を備えるトランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、センサ等のトランスデューサに好適な誘電膜、およびそれを用いたトランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等がある。柔軟性が高く、小型で軽量なトランスデューサを構成するためには、誘電体エラストマー等の高分子材料が有用である。
【0003】
例えば、誘電体エラストマーからなる誘電膜の厚さ方向両面に、一対の電極を配置して、アクチュエータを構成することができる。この種のアクチュエータでは、電極間への印加電圧を大きくすると、電極間の静電引力が大きくなる。このため、電極間に挟まれた誘電膜は厚さ方向から圧縮され、誘電膜の厚さは薄くなる。膜厚が薄くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に伸長する。一方、電極間への印加電圧を小さくすると、電極間の静電引力が小さくなる。このため、誘電膜に対する厚さ方向からの圧縮力が小さくなり、誘電膜の弾性復元力により膜厚は厚くなる。膜厚が厚くなると、その分、誘電膜は電極面に対して平行方向に収縮する。このように、アクチュエータは、誘電膜を伸長、収縮させることによって、駆動対象部材を駆動させる。
【0004】
アクチュエータの誘電膜としては、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム等が用いられている。また、アクチュエータとしては、印加電圧に対する誘電膜の変位量(伸縮量)が大きい方が望ましい。例えば、誘電膜の比誘電率が高いほど、誘電膜と電極との界面に多くの電荷を蓄えることができる。これにより、誘電膜、つまりアクチュエータの変位量を大きくすることができる。このような観点から、チタン酸バリウム等の高誘電率の微粒子を、上記エラストマー中に配合する試みもなされている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−505865号公報
【特許文献2】特開2008−53527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記アクリルゴム等からなる従来の誘電膜を用いたアクチュエータにおいて、変位量は充分とはいえない。すなわち、シリコーンゴム等の比誘電率が低い材料を用いた場合には、印加電圧に対する静電引力が小さい。よって、電圧印加時の応答性が悪い。つまり、変位量が小さい。一方、ニトリルゴムの比誘電率は、比較的高い。このため、ニトリルゴムを用いると、印加電圧に対する静電引力は、シリコーンゴム等を用いた場合と比較して大きくなる。しかしながら、ニトリルゴムからなる誘電膜を用いた場合でも、その変位量は、まだ満足できるレベルではない。また、ニトリルゴムからなる誘電膜は、柔軟性に乏しい。したがって、電圧印加時に大きな静電引力が発生しても、誘電膜が伸長しにくい。つまり、誘電膜の柔軟性が低いと、発生した静電引力が変位に置換されにくい。このように、誘電膜における比誘電率および柔軟性の低さが、アクチュエータにおいて充分な変位量を得られない一因となっている。
【0007】
さらに、エラストマー中に高誘電率の微粒子を配合させた場合には、誘電膜の柔軟性を維持することが難しくなる。すなわち、高誘電率の微粒子を配合することにより、誘電膜の比誘電率は向上するものの、エラストマーの弾性率が高くなり、伸びが小さくなる。つまり、エラストマーが本来有している柔軟性が損なわれてしまう。これにより、印加電圧に対する誘電膜の伸縮が阻害されるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、比誘電率が高く、柔軟な誘電膜を提供することを課題とする。また、当該誘電膜を用いて、変位量の大きなトランスデューサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明の誘電膜は、分子中にヘテロ原子を有するエラストマーと、分子中にヘテロ原子を有し該エラストマーと相溶な高誘電率液状化合物と、を含むエラストマー組成物を架橋してなることを特徴とする(請求項1に対応)。
【0010】
「ヘテロ原子」とは、炭素原子(C)および水素原子(H)以外の原子である。本発明の誘電膜を構成するエラストマーおよび高誘電率液状化合物は、いずれも分子中にヘテロ原子を含む。ヘテロ原子を含むことで、C、Hのみからなる場合と比較して分極が発生しやすい。このため、当該エラストマーおよび高誘電率液状化合物の比誘電率は、各々、ヘテロ原子を含まないものと比較して、高くなる。本発明の誘電膜は、これらを含むエラストマー組成物を架橋してなる。したがって、本発明の誘電膜の比誘電率は高い。
【0011】
また、高誘電率液状化合物は、比誘電率が高く、常温で液状を呈する化合物である。高誘電率液状化合物とエラストマーとの相溶性は良好である。このため、高誘電率の微粒子とは異なり、エラストマーに混合しても、誘電膜の柔軟性を低下させるおそれはない。このように、本発明の誘電膜は、高い比誘電率と柔軟性との両方を備えている。したがって、本発明の誘電膜は、印加電圧に対する伸縮量が大きい。
【0012】
(2)また、本発明のトランスデューサは、分子中にヘテロ原子を有するエラストマーと、分子中にヘテロ原子を有し該エラストマーと相溶な高誘電率液状化合物と、を含むエラストマー組成物を架橋してなる誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、を備えることを特徴とする(請求項8に対応)。
【0013】
本発明のトランスデューサは、上記本発明の誘電膜を備える。誘電膜については、上記(1)で述べた通りである。すなわち、本発明のトランスデューサにおいて、誘電膜の比誘電率は高い。よって、誘電膜と電極との界面に多くの電荷を蓄えることができる。加えて、誘電膜は柔軟である。このため、例えば、本発明のトランスデューサをアクチュエータとして用いると、より低電圧で大きな変位量を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、比誘電率が高く、柔軟な誘電膜を提供することができる。また、当該誘電膜を用いて、変位量の大きなトランスデューサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のトランスデューサの一実施形態であるアクチュエータの断面模式図であって、(a)はオフ状態、(b)はオン状態を各々示す。
図2】本発明のトランスデューサの一実施形態である静電容量型センサの断面模式図である。
図3】本発明のトランスデューサの一実施形態である発電素子の断面模式図であって、(a)は伸長時、(b)は収縮時を示す。
図4】実施例の評価実験に使用したアクチュエータの上面図である。
図5図4中のV−V断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の誘電膜およびトランスデューサの実施形態について説明する。なお、本発明の誘電膜およびトランスデューサは、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0017】
<誘電膜>
本発明の誘電膜は、分子中にヘテロ原子を有するエラストマーと、分子中にヘテロ原子を有し該エラストマーと相溶な高誘電率液状化合物と、を含むエラストマー組成物を架橋してなる。
【0018】
エラストマーおよび高誘電率液状化合物の各々の分子に含まれるヘテロ原子は、一種であっても二種以上であってもよい。また、ヘテロ原子の種類は、エラストマーおよび高誘電率液状化合物の各々において、同じであっても、異なっていてもよい。
【0019】
ヘテロ原子は、エラストマーおよび高誘電率液状化合物の比誘電率を高くするという観点から、電気陰性度の大きな原子を含むことが望ましい。電気陰性度の大きな原子は、電子吸引力(共有電子対を引き寄せる力)が大きい。このため、電気陰性度の大きな原子を含む分子は、分極しやすい。つまり、当該分子の比誘電率は高くなる。電気陰性度の大きな原子としては、例えば、フッ素(F)、塩素(Cl)等のハロゲン原子や、窒素(N)、酸素(O)等が挙げられる。
【0020】
分子中にヘテロ原子を有するエラストマーとしては、電気抵抗が比較的大きいものが望ましい。なかでも、比誘電率が比較的高いものや、柔軟性を有するものが好適である。例えば、アクリルゴム、シリコーンゴム、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ヒドリンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムから選ばれる一種以上を用いるとよい。
【0021】
分子中にヘテロ原子を有する高誘電率液状化合物は、上記エラストマーとの相溶性を考慮して選択すればよい。相溶性の良否は、例えば、SP値(溶解度パラメータ)を指標とすることができる。すなわち、高誘電率液状化合物とエラストマーとのSP値が近い場合には、両者の相溶性は良好と考えられる。
【0022】
高誘電率液状化合物の比誘電率は、20以上であることが望ましい。また、電気抵抗が比較的大きいものが望ましい。なお、高誘電率液状化合物の電気抵抗がそれほど大きくなくても、エラストマーと混合されて誘電膜を構成した場合に、高い絶縁性を維持できるものであればよい。
【0023】
このような高誘電率液状化合物としては、例えば塩素化パラフィン、アジピン酸エステル、スルホンアミド等が挙げられる。これらのうちの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して使用すればよい。例えば、塩素化パラフィンのように、主鎖が炭化水素からなり、側鎖に塩素原子(ヘテロ原子)を有する構造の化合物は、主鎖に由来する高絶縁性と、側鎖に由来する比誘電率の高さと、の両方を備えているため好適である。
【0024】
高誘電率液状化合物の配合量は、エラストマーとの相溶性に応じて適宜調整すればよい。誘電膜の比誘電率と柔軟性の向上を図るという観点から、高誘電率液状化合物の配合量を、例えば、エラストマーの100質量部に対して、5質量部以上とすることが望ましい。15質量部以上とするとより好適である。一方、エラストマーとの相溶性によっては、高誘電率液状化合物を多量に配合すると、成膜時にしわ等が生じて均質な膜が成形できないおそれがある。したがって、高誘電率液状化合物の配合量を、例えば、エラストマーの100質量部に対して、400質量部未満とすることが望ましい。300質量部以下とするとより好適である。
【0025】
エラストマーと高誘電率液状化合物とを混合して、エラストマー組成物が調製される。エラストマー組成物には、必要に応じて、架橋剤、加硫促進剤、加工助剤、可塑剤、老化防止剤、補強剤、着色剤等を添加してもよい。例えば、架橋剤を添加する場合には、エラストマーの種類に応じて、硫黄、イソシアネート化合物、過酸化物等から適宜選択すればよい。また、架橋剤として、金属アルコキシド化合物を用いると、誘電膜の絶縁性の低下を抑制することができる。すなわち、金属アルコキシド化合物を用いると、架橋体(誘電膜)において、電子の流れが無機物(金属酸化物)により遮断されるため、絶縁性が高くなると考えられる。
【0026】
金属アルコキシド化合物は、例えば、次の一般式(a)で表される。
M(OR) ・・・(a)
[式(a)中、Mは金属等の原子である。Rは炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アルケニル基のいずれか一種以上であり、同一であっても、異なっていてもよい。mは金属等の原子Mの価数である。]
また、一分子中に、二つ以上の繰り返し単位[(MO);nは2以上の整数]を有する多量体であってもよい。nの数を変更することにより、エラストマーとの相溶性や、反応速度等を調整することができる。このため、エラストマーの種類に応じて、適宜好適な多量体を選択するとよい。
【0027】
金属等の原子Mとしては、例えば、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素、鉄、銅、錫、バリウム、ストロンチウム、ハフニウム、ホウ素等が挙げられる。なかでも反応性が良好であるという理由から、チタン、ジルコニウム、アルミニウムから選ばれる一種以上を含むものが望ましい。具体的には、テトラn−ブトキシチタン、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトラn−ブトキシシラン、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、テトラi−プロポキシチタン、テトラエトキシシラン等が好適である。
【0028】
エラストマー組成物は、例えば、エラストマー、高誘電率液状化合物、必要に応じて添加剤を、ロールや混練機により混練りして調製することができる。また、架橋剤として金属アルコキシド化合物を用いた場合には、エラストマーおよび高誘電率液状化合物の混合液に対して、金属アルコキシド化合物をそのまま、あるいは所定の溶剤に溶解した状態で混合して、調製することができる。
【0029】
金属アルコキシド化合物は、空気中や反応系中の水分と反応し、加水分解して重縮合する(ゾルゲル反応)。したがって、水との急激な反応を抑制し、均質な膜を形成するためには、金属アルコキシド化合物をキレート剤によりキレート化して用いることが望ましい。キレート化することにより、金属アルコキシド化合物の加水分解は抑制される。したがって、後にキレート剤を除去することにより、金属アルコキシド化合物の加水分解を促進し、重縮合による架橋反応を進行させればよい。
【0030】
キレート剤としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン、アセト酢酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、トリエタノールアミン、乳酸、2-エチルヘキサンー1,3ジオール、1,3へキサンジオール等が挙げられる。
【0031】
本発明の誘電膜は、調製したエラストマー組成物を、例えば金型に充填して、所定の条件下でプレス架橋することにより、製造することができる。また、金属アルコキシド化合物を使用した場合には、まず、調製したエラストマー組成物を基材等に塗布する。次に、塗膜を乾燥して溶剤(キレート剤)を蒸発させて、架橋反応を進行させることにより、製造することができる。
【0032】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、誘電膜と、該誘電膜を介して配置されている複数の電極と、を備える。ここで、誘電膜は、分子中にヘテロ原子を有するエラストマーと、分子中にヘテロ原子を有し該エラストマーと相溶な高誘電率液状化合物と、を含むエラストマー組成物を架橋してなる。
【0033】
エラストマー、高誘電率液状化合物等の誘電膜の構成、および製造方法については、上記本発明の誘電膜の実施形態において説明した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。なお、本発明のトランスデューサにおいても、上記本発明の誘電膜における好適な態様を採用することが望ましい。
【0034】
誘電膜の厚さは、用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明のトランスデューサをアクチュエータとして用いる場合には、アクチュエータの小型化、低電位駆動化、および変位量を大きくする等の観点から、誘電膜の厚さは薄い方が望ましい。この場合、絶縁破壊性等をも考慮して、誘電膜の厚さを、1μm以上1000μm(1mm)以下とすることが望ましい。より好適な範囲は、5μm以上200μm以下である。
【0035】
本発明のトランスデューサにおいて、電極の材質は、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料や金属からなる導電材に、バインダーとしてオイルやエラストマーを混合したペーストまたは塗料を塗布した電極、あるいは炭素材料や金属等をメッシュ状に編んだ電極等を使用することができる。電極は、誘電膜の伸縮に応じて伸縮可能であることが望ましい。電極が、誘電膜と共に伸縮すると、誘電膜の変形が電極によって妨げられにくい。このため、本発明のトランスデューサを、アクチュエータ等として使用した場合に、所望の変位量を得やすくなる。
【0036】
また、本発明のトランスデューサを、複数の誘電膜と電極とを交互に積層させた積層構造とすると、より大きな力を発生させることができる。したがって、積層構造を採用した場合には、例えば、アクチュエータの出力を大きくすることができる。その結果、駆動対象部材をより大きな力で駆動させることができる。
【0037】
[第一実施形態]
本発明のトランスデューサの第一例として、アクチュエータに具現化した実施形態を説明する。図1に、本実施形態のアクチュエータの断面模式図を示す。(a)はオフ状態、(b)はオン状態を各々示す。
【0038】
図1に示すように、アクチュエータ1は、誘電膜10と電極11a、11bとを備えている。誘電膜10は、エラストマーと高誘電率液状化合物とを含むエラストマー組成物の架橋体(本発明の誘電膜)である。電極11a、11bは、誘電膜10の上面および下面に、各々固定されている。電極11a、11bは、導線を介して電源12に接続されている。オフ状態からオン状態に切り替える際は、一対の電極11a、11b間に電圧を印加する。電圧の印加により、誘電膜10の厚さは薄くなり、その分だけ、図(b)中白抜き矢印で示すように、電極11a、11b面に対して平行方向に伸長する。これにより、アクチュエータ1は、図中上下方向および左右方向の駆動力を出力する。
【0039】
誘電膜10は、高い比誘電率と柔軟性との両方を備えている。したがって、誘電膜10は、印加電圧に対する伸縮量が大きい。つまり、アクチュエータ1によると、より低電圧で大きな変位量を得ることができる。また、誘電膜10を面延在方向に延伸した状態で取り付けると、誘電膜10の絶縁破壊強度が向上し、より大きな変位量を得ることができる。
【0040】
[第二実施形態]
本発明のトランスデューサの第二例として、静電容量型センサに具現化した実施形態を説明する。図2に、本実施形態における静電容量型センサの断面模式図を示す。図2に示すように、静電容量型センサ2は、誘電膜20と電極21a、21bと基板22とを備えている。誘電膜20は、エラストマーと高誘電率液状化合物とを含むエラストマー組成物の架橋体(本発明の誘電膜)である。誘電膜20は、左右方向に延びる帯状を呈している。誘電膜20は、基板22の上面に、電極21bを介して配置されている。電極21a、21bは、左右方向に延びる帯状を呈している。電極21a、21bは、誘電膜20の上面および下面に、それぞれ固定されている。電極21a、21bには、導線(図略)が接続されている。基板22は絶縁性の柔軟なフィルムであって、左右方向に延びる帯状を呈している。基板22は、電極21bの下面に固定されている。
【0041】
静電容量型センサ2の静電容量(キャパシタンス)は、次式(I)により求めることができる。
C=εεS/d・・・(I)
[C:キャパシタンス、ε:真空中の誘電率、ε:誘電膜の比誘電率、S:電極面積、d:電極間距離]
例えば、静電容量型センサ2が上方から押圧されると、誘電膜20は圧縮され、その分だけ電極21a、21b面に対して平行方向に伸長する。膜厚、すなわち電極間距離dが小さくなると、電極21a、21b間のキャパシタンスは大きくなる。このキャパシタンス変化により、加わった荷重の大きさ、位置等が検出される。
【0042】
ここで、誘電膜20は、高い比誘電率と柔軟性との両方を備えている。誘電膜20の比誘電率が高いため、キャパシタンスは大きい。また、誘電膜20は柔軟であるため、外部からの荷重に対して変形しやすい。つまり、電極間距離dの変位量が大きい。したがって、静電容量型センサ2の検出感度は高い。加えて、誘電膜20は、伸縮を繰り返しても劣化しにくい。したがって、静電容量型センサ2は、耐久性に優れる。
【0043】
[第三実施形態]
本発明のトランスデューサの第三例として、発電素子の実施形態を説明する。図3に、本実施形態における発電素子の断面模式図を示す。(a)は伸長時、(b)は収縮時を各々示す。図3に示すように、発電素子3は、誘電膜30と電極31a、31bとを備えている。誘電膜30は、エラストマーと高誘電率液状化合物とを含むエラストマー組成物の架橋体(本発明の誘電膜)である。電極31a、31bは、誘電膜30の上面および下面に、それぞれ固定されている。電極31a、31bには、導線が接続されており、電極31bは、接地されている。
【0044】
図3(a)に示すように、発電素子3を圧縮し、誘電膜30を電極31a、31b面に対して平行方向に伸長すると、誘電膜30の厚さは薄くなり、電極31a、31b間に電荷が蓄えられる。その後、圧縮力を除去すると、図3(b)に示すように、誘電膜30の弾性復元力により誘電膜30は収縮し、膜厚が厚くなる。その際、電荷が放出され発電される。
【0045】
ここで、誘電膜30は、高い比誘電率と柔軟性との両方を備えている。誘電膜30の比誘電率が高いため、電極31a、31bとの界面に多くの電荷を蓄えることができる。また、誘電膜30は柔軟であるため、外部からの荷重に対して変形しやすい。つまり、圧縮による伸長量が大きい。したがって、発電素子3の発電量は大きい。また、誘電膜30は伸縮を繰り返しても劣化しにくい。したがって、発電素子3は、耐久性に優れる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0047】
<誘電膜の製造>
[実施例1〜3の誘電膜]
下記の表1に示す原料から、実施例1〜3の誘電膜を製造した。まず、所定の原料をロール練り機にて混練りし、エラストマー組成物を調製した。次に、調製したエラストマー組成物を薄いシート状に成形した後、金型に充填し、150℃で約30分間プレス架橋した。得られた架橋物を、さらに150℃のオーブン中で約4時間架橋させた。
【0048】
[比較例1〜5の誘電膜]
下記の表1に示す原料から、上記実施例1〜3の誘電膜と同様にして、比較例1〜5の誘電膜を製造した。実施例1〜3の誘電膜と比較例1〜5の誘電膜との主な相違点は、高誘電率液状化合物の配合の有無である。実施例1と比較例1、実施例2と比較例2〜4、実施例3と比較例5は、各々、エラストマーが同じという点で対応している。なお、比較例3、4については、成膜中にブリードが発生し、均質な誘電膜が得られなかった。この原因は、エラストマーと炭化水素系オイルとの相溶性が悪いためと考えられる。
【0049】
表1中、各原料については以下のものを使用した。
(1)エラストマー
水素化ニトリルゴム(a):日本ゼオン(株)製「Zetpol(登録商標)0020」
水素化ニトリルゴム(b):日本ゼオン(株)製「Zetpol1010」
水素化ニトリルゴム(c):日本ゼオン(株)製「Zetpol1000L」
(2)高誘電率液状化合物
アジピン酸エステル:[ROCO(CHCOOR]、(株)ADEKA製「アデカサイザー(登録商標)RS107」
(3)炭化水素系オイル(添加剤)
ナフテンオイル:出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルNM−280」
パラフィンオイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW−380」
(4)架橋剤等
ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド:三新化学工業(株)製「サンセラー(登録商標)TRA」
N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド:三新化学工業(株)製「サンセラーCZ−G」
硫黄:鶴見化学工業(株)製「サルファックスT−10」
ジクミルパーオキサイド:日油(株)製「パークミル(登録商標)D」
【表1】
【0050】
[実施例4〜7の誘電膜]
下記の表2に示す原料から、実施例4〜7の誘電膜を製造した。まず、エラストマーと高誘電率液状化合物とアセチルアセトンとを混合した。この溶液に、テトラi−プロポキシチタン(金属アルコキシド化合物)を添加して、混合した。なお、アセチルアセトンは、金属アルコキシド化合物のキレート剤である。次に、混合溶液を基材上に塗布し、乾燥させた後、150℃で約1時間加熱して架橋させた。
【0051】
[比較例6、7の誘電膜]
下記の表2に示す原料から、上記実施例4〜7の誘電膜と略同様にして、比較例6、7の誘電膜を製造した。比較例6の誘電膜は、高誘電率液状化合物を配合しないという点で、実施例4〜7の誘電膜と相違する。また、比較例7の誘電膜については、実施例5〜7の誘電膜と比較して、高誘電率液状化合物(塩素化パラフィン)の配合量を多くした。なお、比較例7については、基材上の塗膜にしわが発生したため、成膜できなかった。この原因は、エラストマーに対して、高誘電率液状化合物の配合量が多すぎたためと考えられる。
【0052】
表2中、各原料については以下のものを使用した。
(1)エラストマー
COOH基含有水素化ニトリルゴム:ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」
(2)高誘電率液状化合物
塩素化パラフィン:[C2646.9Cl7.1]、味の素ファインテクノ(株)製「エンパラ(登録商標)40」
スルホンアミド:[CSO−NHC]、大八化学工業(株)製「BM−4」
(3)架橋剤等
テトラi−プロポキシチタン:日本曹達(株)製
【表2】
【0053】
<誘電膜の物性等>
[100%モジュラス、引張強さ、および切断時伸び]
実施例および比較例の誘電膜の100%モジュラス(引張応力:M100)、引張強さ(TS)、および切断時伸び(E)を測定した。これらの測定は、JIS K 6251(2004)に準じて行った。なお、試験片はダンベル状2号形を使用した。測定結果を上記表1、表2にまとめて示す。
【0054】
表1中、同種のエラストマー同士で比較すると、実施例1は比較例1に対して、実施例2は比較例2に対して、実施例3は比較例5に対して、いずれも100%モジュラスが小さくなった。同様に、表2中、実施例4〜7は比較例6に対して、100%モジュラスが小さくなった。また、表2中、実施例5〜7の誘電膜の結果から分かるように、同種の高誘電率液状化合物を配合した場合、その配合量が多いほど、100%モジュラスは小さくなった。これらの結果から、高誘電率液状化合物を配合した実施例の誘電膜は、同化合物を配合しなかった比較例の誘電膜と比較して、柔軟であることがわかる。
【0055】
また、表1中、実施例1は比較例1に対して、実施例2は比較例2に対して、実施例3は比較例5に対して、いずれも切断時伸びが大きくなった。同様に、表2中、実施例4〜6は比較例6に対して、切断時伸びが大きくなった。なお、実施例7の切断時伸びは、比較例6よりもやや小さくなったが、実用状充分な値である。上述したように、実施例の誘電膜では、高誘電率液状化合物が配合されているため、100%モジュラスが小さくなった。仮に、高誘電率液状化合物とエラストマーとの相溶性が悪い場合には、誘電膜に海島相が形成される。この場合、引張試験において、液状の島相が起点となり、早期に切断されてしまう。この点、実施例の誘電膜によると、所望の切断時伸びが確保されている。これにより、高誘電率液状化合物とエラストマーとの相溶性が良好であることが裏付けられる。
【0056】
[電気抵抗]
実施例および比較例の誘電膜の電気抵抗を、JIS K 6911(1995)に準じて測定した。測定結果を上記表1、表2にまとめて示す。表1、表2に示すように、実施例の誘電膜は、いずれも大きな電気抵抗を有している。つまり、高い絶縁性が維持されている。詳しくは、表1中、同種のエラストマー同士で比較すると、実施例1は比較例1に対して、実施例2は比較例2に対して、実施例3は比較例5に対して、いずれも電気抵抗が若干小さくなった。一方、表2中、実施例4〜7と比較例6とを比較すると、電気抵抗は同程度であった。
【0057】
[比誘電率]
実施例および比較例の誘電膜の比誘電率を測定した。比誘電率の測定は、各誘電膜をサンプルホルダー(ソーラトロン社製、12962A型)に設置し、誘電率測定インターフェイス(同社製、1296型)、および周波数応答アナライザー(同社製、1255B型)を併用して測定した(周波数100Hz)。測定結果を上記表1、表2にまとめて示す。表1中、同種のエラストマー同士で比較すると、実施例1は比較例1に対して、実施例2は比較例2に対して、実施例3は比較例5に対して、いずれも比誘電率が高くなった。同様に、表2中、実施例4〜7は比較例6に対して、比誘電率が高くなった。また、表2中、実施例5〜7の誘電膜の結果から分かるように、同種の高誘電率液状化合物を配合した場合、その配合量が多いほど、比誘電率は大きくなった。
【0058】
<アクチュエータの評価>
次に、実施例および比較例の各誘電膜を用いてアクチュエータを構成し、アクチュエータの変位量を評価した。まず、実験装置および実験方法について説明する。
【0059】
実施例および比較例の各誘電膜の上下面に、アクリルゴムにカーボンブラックが混合されてなる電極を各々貼着してアクチュエータを構成した。以下、作製されたアクチュエータを、誘電膜の種類に対応させて、実施例または比較例のアクチュエータと称す。図4に、作製したアクチュエータの上面図を示す。図5に、図4中V−V断面図を示す。
【0060】
図4図5に示すように、アクチュエータ5は、誘電膜50と一対の電極51a、51bとを備えている。誘電膜50は、直径70mmの円形の薄膜状を呈している。誘電膜50は、所定の延伸率で、予め二軸方向に延伸された状態で配置されている。ここで、延伸率は、次式(II)により算出した値である(以下、「予備延伸率」と称す)。
延伸率(%)={√(S/S)−1}×100・・・(II)
[S:延伸前(自然状態)の誘電膜面積、S:二軸方向延伸後の誘電膜面積]
一対の電極51a、51bは、誘電膜50を挟んで上下方向に対向するよう配置されている。電極51a、51bは、直径約27mmの円形の薄膜状を呈しており、各々、誘電膜50と略同心円状に配置されている。電極51aの外周縁には、拡径方向に突出する端子部510aが形成されている。端子部510aは矩形板状を呈している。同様に、電極51bの外周縁には、拡径方向に突出する端子部510bが形成されている。端子部510bは矩形板状を呈している。端子部510bは、端子部510aに対して、180°対向する位置に配置されている。端子部510a、510bは、各々、導線を介して電源52に接続されている。
【0061】
電極51a、51b間に電圧を印加すると、電極51a、51b間に静電引力が生じて、誘電膜50を圧縮する。これにより、誘電膜50の厚さは薄くなり、拡径方向に伸長する。この時、電極51a、51bも、誘電膜50と一体となって拡径方向に伸長する。電極51aには、予め、マーカー530が取り付けられている。マーカー530の変位を、変位計53により測定し、アクチュエータ5の変位量とした。なお、印加電圧は、電界強度50V/μm、周波数1Hzとした。
【0062】
次に、実施例および比較例のアクチュエータについての変位量の測定結果を、上記表1、表2にまとめて示す。表1、表2に示した最大変位率は、次式(III)により算出した値である。
最大変位率(%)=(最大変位量/電極の半径)×100・・・(III)
また、各アクチュエータにおける誘電膜の厚さおよび予備延伸率についても、表1、表2に併せて示す。
【0063】
上記表1、表2に示すように、実施例のアクチュエータによると、いずれも最大変位率が大きくなった。詳しくは、表1中、同種のエラストマー同士で比較すると、実施例1は比較例1に対して、実施例2は比較例2に対して、実施例3は比較例5に対して、いずれも最大変位率が大きくなった。同様に、表2中、実施例4〜7は比較例6に対して、最大変位率が大きくなった。以上より、本発明の誘電膜によると、変位量が大きなアクチュエータを構成できることが確認された。なお、本実施例では、誘電膜を予備延伸した状態で配置して、拡径方向の変位量を測定した。しかし、誘電膜を予備延伸せずに配置して、厚さ方向に変位させた実験においても、変位量が大きくなったことを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の誘電膜は、高い比誘電率と柔軟性とを有する。このため、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換や、音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うトランスデューサ等に広く用いることができる。例えば、本発明の誘電膜を備えるトランスデューサは、産業、医療、福祉ロボット用の人工筋肉、電子部品冷却用や医療用等の小型ポンプ、および医療用器具等に用いられる柔軟なアクチュエータの他、静電容量型センサ等の柔軟なセンサ、ならびに発電素子等として使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:アクチュエータ(トランスデューサ) 10:誘電膜 11a、11b:電極
12:電源
2:静電容量型センサ(トランスデューサ) 20:誘電膜 21a、21b:電極
22:基板
3:発電素子(トランスデューサ) 30:誘電膜 31a、31b:電極
5:アクチュエータ 50:誘電膜 51a、51b:電極 52:電源 53:変位計
510a、510b:端子部 530:マーカー
図1
図2
図3
図4
図5