特許第5916285号(P5916285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916285
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/06 20060101AFI20160422BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20160422BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   B29D30/06
   B60C5/14 A
   B60C9/08 L
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-189288(P2010-189288)
(22)【出願日】2010年8月26日
(65)【公開番号】特開2012-46051(P2012-46051A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2013年8月8日
【審判番号】不服2015-4495(P2015-4495/J1)
【審判請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 寛和
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 一ノ瀬 覚
【審判官】 平田 信勝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−286381(JP,A)
【文献】 特開2002−103929(JP,A)
【文献】 特開平11−240108(JP,A)
【文献】 特許第2895953(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/06
B60C 5/00
B60C 5/14
B60C 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物からなるインナーライナー層とカーカス層との間に、独立気泡発泡ゴム層を有する空気入りタイヤの製造方法であって、発泡ゴム層の平均厚みが0.3〜4.0mmであり、発泡ゴム層の見掛け密度が0.22〜0.77g/cmであり、そして発泡ゴム層の独立気泡の平均径が0.1mmより大きく、かつ発泡ゴム層の平均厚みの半分以下であり、発泡ゴム層は発泡剤を配合したゴム組成物を加熱することにより発泡させて形成することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法
【請求項2】
発泡ゴム層の発泡前後の密度比率が0.2〜0.7であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法
【請求項3】
発泡ゴム層を構成するゴムが、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムおよびエチレンプロピレンゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法
【請求項5】
前記エラストマーが、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。特に、インナーライナー層とカーカスとの間に発泡ゴム層を有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、インナーライナー層とカーカスとの間に、多数個の独立気泡を有する発泡ゴム層を介在させてなる空気入りタイヤを開示している。しかし、特許文献1に記載された発明は、異物の貫通頻度を少なくしタイヤの耐パンク性を向上することを目的としており、発泡ゴム層の平均厚さが5〜15mmであり、発泡ゴム層の独立気泡の気泡径が0.05mm以下である。
【0003】
特許文献2は、インナーライナー層とカーカスとの間に、気泡径が0.01cm以下の独立気泡を有する多孔性材からなる吸音層を具えた空気入りタイヤを開示している。しかし、特許文献2に記載された発明は、タイヤの低騒音化を目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2895953号公報
【特許文献2】特許第2975438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、空気入りタイヤのインナーライナー層の疲労耐久性改善を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物からなるインナーライナー層とカーカス層との間に、独立気泡発泡ゴム層を有する空気入りタイヤであって、発泡ゴム層の平均厚みが0.3〜4.0mmであり、発泡ゴム層の見掛け密度が0.22〜0.77g/cmであり、そして発泡ゴム層の独立気泡の平均径が0.1mmより大きく、かつ発泡ゴム層の平均厚みの半分以下であることを特徴とする。
発泡ゴム層の発泡前後の密度比率は、好ましくは、0.2〜0.7である。
発泡ゴム層を構成するゴムは、好ましくは、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムおよびエチレンプロピレンゴムからなる群から選ばれた少なくとも1種である。
前記熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれた少なくとも1種である。
前記エラストマーは、好ましくは、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0007】
インナーライナー層に隣接して、特定の厚み、見掛け密度および気泡径を有する発泡ゴム層を設けたことにより、インナーライナー層への応力が緩和され、タイヤ走行時の繰り返し変形からインナーライナー層が保護され、その耐クラック性能が向上し、タイヤの耐久性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、インナーライナー層とカーカス層との間に、独立気泡発泡ゴム層を有する。ここで、独立気泡発泡ゴム層とは、多数の独立気泡を有する発泡ゴムからなる層をいう。
【0009】
発泡ゴム層の平均厚みは0.3〜4.0mmであり、好ましくは0.5〜3.0mmである。発泡ゴム層の平均厚みが大きすぎると発泡ゴム層を起点に亀裂が発生しやすくなり、逆に小さすぎるとインナーライナー層の疲労耐久性改善効果が得られない。
【0010】
発泡ゴム層の見掛け密度は0.22〜0.77g/cmであり、好ましくは0.33〜0.55g/cmである。発泡ゴム層の見掛け密度が大きすぎると緩衝層としての効果が得られず、逆に小さすぎると強度が不足してクラックが発生しやすい。見掛け密度の大きい発泡ゴム層を形成するには、発泡剤を減量するか加硫速度を速めればよく、逆に見掛け密度の小さい発泡ゴム層を形成するには、発泡剤を増量するか加硫速度を遅くすればよい。
【0011】
発泡ゴム層の独立気泡の平均径は0.1mmより大きく、好ましくは0.12mmより大きい。独立気泡の平均径が小さすぎると歪の緩和を付与しづらく、インナーライナー層の疲労耐久性改善効果が得られない。
発泡ゴム層の独立気泡の平均径は、発泡ゴム層の平均厚みの半分以下、すなわち0.5倍以下であり、好ましくは発泡ゴム層の平均厚みの0.4倍以下である。独立気泡の平均径が大きすぎると歪を緩和できるものの、発泡ゴム層を起点に亀裂が発生しやすくなる。
独立気泡の平均径が大きい発泡ゴム層を形成するには、分解の速い化学発泡剤を選択するか、あるいはゴム組成物の加硫促進剤を減らして加硫速度を遅くすればよく、逆に独立気泡の平均径が小さい発泡ゴム層を形成するには、分解の遅い化学発泡剤を選択するか、あるいは加硫促進剤を増量して加硫速度を速くすればよい。
【0012】
発泡ゴム層の発泡前後の密度比率は、好ましくは0.2〜0.7であり、より好ましくは0.3〜0.5である。ここで、発泡ゴム層の発泡前後の密度比率とは、発泡前の発泡ゴム層の密度に対する発泡後の発泡ゴム層の密度の比をいう。発泡ゴム層の発泡前後の密度比率が大きすぎると緩衝層としての効果が得られず、逆に小さすぎると強度が不足してクラックが発生しやすい。発泡前後の密度比率が大きい発泡ゴム層を形成するには、発泡剤を減量するか加硫速度を速めればよく、逆に発泡前後の密度比率が小さい発泡ゴム層を形成するには、発泡剤を増量するか加硫速度を遅くすればよい。
【0013】
独立気泡発泡ゴム層は、発泡剤を配合したゴム組成物を加熱することにより発泡させて形成することができる。より具体的には、たとえば、タイヤの原料であるゴムに、タイヤの製造において通常使用される各種添加剤を配合するとともに、発泡剤を配合して、ゴム組成物を調製し、その発泡剤を配合したゴム組成物からなる部材を、インナーライナー層を形成する部材とカーカス層を形成する部材との間に配置してグリーンタイヤを作製し、そのグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫すると、その熱により発泡剤が分解して気体を発生し、多数の独立気泡を形成し、発泡ゴム層が形成される。
【0014】
発泡ゴム層を構成するゴムとしては、天然ゴム(NR)、天然ゴム誘導体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム(CR)、エピクロルヒドリン系ゴム(CO、ECO)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリサルファイドゴム、などを挙げることができる。
なかでも、隣接部材との接着性の観点から、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴムが好ましい。
【0015】
発泡剤としては、物理発泡剤と化学発泡剤が挙げられるが、化学発泡剤が好ましい。化学発泡剤としては、無機発泡剤と有機発泡剤が挙げられる。無機発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、アジド化合物などが挙げられる。有機発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、アジビスイソブチロニトリル、バリウムアゾカルボキシレート、N,N′−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p,p′−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、パラトルエンスルホニルヒドラジド、ヒドラゾジカルボンアミドなどが挙げられる。なかでも、分解速度制御の安易さ、分解物の安全性の観点から、N,N′−ジニトロソペンタメチレンテトラミンが好ましい。
【0016】
発泡ゴム層を形成するためのゴム組成物中の発泡剤の配合量は、限定するものではないが、ゴム組成物中のゴム100質量部を基準として、好ましくは0.5〜10質量部であり、より好ましくは1〜質量部である。発泡剤の配合量が多すぎると発生した多量のガスが隣接部材や隣接部材との界面を発泡させ、耐久性向上の効果が得られず、逆に少なすぎると発泡量倍率が低くなるために耐久性向上の効果が得られない。
【0017】
発泡ゴム層を形成するためのゴム組成物には、ゴムおよび発泡剤以外に、補強剤、加硫剤、加硫促進助剤、加硫促進剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、素練促進剤、有機改質剤、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤など、一般にタイヤの製造において使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0018】
インナーライナー層は、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物からなる。
【0019】
インナーライナー層に使用される熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66(N6/66)、ナイロン6/66/12(N6/66/12)、ナイロン6/66/610(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル等が挙げられる。ポリニトリル系樹脂としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体等が挙げられる。ポリメタクリレート系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル等が挙げられる。ポリビニル系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体等が挙げられる。セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。イミド系樹脂としては、芳香族ポリイミド(PI)等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン(PS)等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。
なかでも、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6Tが、耐疲労性と空気遮断性の両立という点で、好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂には、加工性、分散性、耐熱性、酸化防止性などの改善のために、充填剤、補強剤、加工助剤、安定剤、酸化防止剤などの、樹脂組成物に一般的に配合される配合剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、配合してもよい。可塑剤は、空気遮断性および耐熱性の観点から、配合しない方がよいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、配合してもよい。
【0021】
インナーライナー層に使用される熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、前記の熱可塑性樹脂と同一のものが使用できる。
【0022】
インナーライナー層に使用される熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物を構成するエラストマー成分としては、ジエン系ゴムおよびその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。ジエン系ゴムおよびその水添物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等が挙げられる。オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)等が挙げられる。シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含イオウゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。
なかでも、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体が、空気遮断性の観点から、好ましい。
【0023】
エラストマー成分には、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの、ゴム組成物に一般的に配合される配合剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で、配合してもよい。
【0024】
熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物を構成する熱可塑性樹脂とエラストマー成分との組み合わせは、限定するものではないが、ハロゲン化ブチルゴムとポリアミド系樹脂、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合ゴムとポリアミド系樹脂、ブタジエンゴムとポリスチレン系樹脂、イソプレンゴムとポリスチレン系樹脂、水素添加ブタジエンゴムとポリスチレン系樹脂、エチレンプロピレンゴムとポリオレフィン系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴムとポリオレフィン系樹脂、非結晶ブタジエンゴムとシンジオタクチックポリ(1,2−ポリブタジエン)、非結晶イソプレンゴムとトランスポリ(1,4−イソプレン)、フッ素ゴムとフッ素樹脂等が挙げられるが、空気遮断性に優れたブチルゴムとポリアミド系樹脂の組み合わせが好ましく、なかでも、変性ブチルゴムである臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合ゴムとナイロン6/66もしくはナイロン6またはナイロン6/66とナイロン6のブレンド樹脂との組み合わせが、耐疲労性と空気遮断性の両立という点で特に好ましい。
【0025】
熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物は、熱可塑性樹脂とエラストマー成分とを、たとえば2軸混練押出機等で、溶融混練し、連続相(マトリックス相)を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散相として分散させることにより、製造することができる。熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分の質量比率は、限定するものではないが、好ましくは10/90〜90/10であり、より好ましくは15/85〜90/10である。
【0026】
インナーライナー層に使用される熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂にエラストマー成分を分散させた組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含むことができる。
【0027】
本発明の空気入りタイヤは、常法により製造することができる。たとえば、タイヤ成形用ドラム上に、インナーライナー層を形成する部材を置き、その上に、発泡ゴム層を形成する部材を貼り重ね、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0028】
実施例1
発泡ゴム層を形成するためのゴム組成物として、表1に示す配合のゴム組成物を調製し、そのゴム組成物をTダイ付き二軸押出機で厚さ0.5mmのシートに押出成形し、発泡ゴム層用部材を作製した。
インナーライナー層を形成するための組成物として、表2に示す配合の組成物を調製し、その組成物をインフレーション成形装置で厚さ0.2mmのシートに成形し、インナーライナー層用部材を作製した。
タイヤ成形用ドラム上に、インナーライナー層用部材を置き、その上に、発泡ゴム層用部材を貼り重ね、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを175℃で10分間加熱加硫することにより、空気入りタイヤを作製した。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
実施例2
実施例1において、ゴム組成物のシート厚みを0.25mmに減らし、かつ加硫促進剤(TOT−N)を0.5質量部に増やした点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0032】
実施例3
実施例1において、ゴム組成物のシート厚みを1mmに増やし、かつ加硫促進剤(TOT-N)を0.5質量部に増やした点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0033】
実施例4
実施例1において、ゴム組成物のシート厚みを2mmに増やし、かつ加硫促進剤(TOT-N)を0.5質量部に増やした点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0034】
比較例1
実施例1において、発泡剤を配合しなかった点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0035】
比較例2
実施例1において、ゴム組成物に配合している発泡剤を3質量部に減量した点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0036】
比較例3
実施例1において、ゴム組成物に配合している発泡剤を10質量部に増量した点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0037】
比較例4
実施例1において、ゴム組成物のシート厚みを2.5mmに増やした点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0038】
比較例5
実施例1において、ゴム組成物のシート厚みを0.075mmに減らし、加硫促進剤(TOT−N)を1質量部に増やした点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0039】
比較例6
実施例1において、ゴム組成物に加硫促進剤を配合しなかった点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0040】
比較例7
実施例1において、ゴム組成物のシート厚みを0.25mmに減らし、ゴム組成物の加硫促進剤(TOT−N)を0.75質量部に増やした点以外は、実施例1と同様に、ゴム組成物を調製し、空気入りタイヤを作製した。
【0041】
各実施例および比較例で作製した空気入りタイヤについて、発泡ゴム層の平均厚さ、見掛け密度、発泡前後の密度比率、および独立気泡の平均径、ならびに樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性を評価した。評価結果を表3および表4に示す。なお、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性の評価方法は次のとおりである。
【0042】
[発泡ゴム層の平均厚さ]
加硫後タイヤの断面サンプルを作成し、インナーライナー/カーカス間に存在する発泡ゴム層部位を、光学顕微鏡にて発泡部厚みを5箇所観察し、平均値を平均厚さとした。
【0043】
[発泡ゴム層の見掛け密度]
加硫後タイヤよりインナーライナー/カーカス間に存在する発泡ゴム層部位を体積が15cm以上になるように切り出し、ノギスで寸法測定後、電子天秤で質量を測定して見掛け密度を求めた。
【0044】
[発泡前後の密度比率]
加硫前後のゴム組成物を体積が15cm以上になるように切り出し、ノギスで寸法測定後、電子天秤で質量を測定して見掛け密度を求め、加硫前の密度で加硫後の密度を割って算出する。
【0045】
[独立気泡の平均径]
加硫後タイヤの断面サンプルを作成し、インナーライナー/カーカス間に存在する発泡ゴム層部位を、光学顕微鏡にて発泡部の径を10箇所観察し、平均値を平均径とした。
【0046】
[樹脂高温耐久性]
185℃×15分、圧力2.3MPaの加硫条件でスチールラジアルタイヤ165SR13(リム:13×41/2−J)を作製し、得られたタイヤを用いて空気圧140kPa×荷重5.5kNの試験条件下に、室温38℃で、1707mmφドラム上で、速度80km/hで10,000km走行させた後にタイヤの内面の空気透過防止層(インナーライナー層)を目視検査し、故障が発見されないものを○、故障が見られるものを×とした。
【0047】
[樹脂低温疲労耐久性]
185℃×15分、圧力2.3MPaの加硫条件でスチールラジアルタイヤ165SR13(リム:13×41/2−J)を作製し、得られたタイヤを用いて空気圧140kPa×荷重5.5kNの試験条件下に、−35℃で、1707mmφドラム上で、速度80km/hで10,000km走行させた後にタイヤの内面の空気透過防止層(インナーライナー層)を目視検査し、故障が発見されないものを○、故障が見られるものを×とした。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
実施例1〜4は、いずれも樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に優れる。
比較例1は、インナーライナー層とカーカス層の間のゴム層が発泡していないため、すなわち発泡ゴム層が設けられていないため、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に劣る。
比較例2は、発泡ゴム層の発泡が不十分なため、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に劣る。
比較例3は、発泡ゴム層が発泡しすぎのため、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に劣る。
比較例4は、発泡ゴム層が厚すぎるため、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に劣る。
比較例5は、発泡ゴム層が薄すぎるため、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に劣る。
比較例6は、発泡ゴム層の独立気泡の平均径が大きすぎるため、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に劣る。
比較例7は、発泡ゴム層の独立気泡の平均径が小さすぎるため、樹脂高温耐久性および樹脂低温疲労耐久性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の空気入りタイヤは、自動車用タイヤ等として好適に用いられる。