(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916366
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】排気再循環装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/00 20160101AFI20160422BHJP
F02M 26/14 20160101ALI20160422BHJP
F01N 13/10 20100101ALI20160422BHJP
【FI】
F02M25/07 580Z
F02M25/07 580A
F01N13/10
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-271029(P2011-271029)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-122200(P2013-122200A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 卓俊
【審査官】
寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−023818(JP,A)
【文献】
特開昭52−094926(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/092201(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/00 − 1/24
5/00 − 5/04
13/00 − 99/00
F02B 47/08 − 47/10
F02M 26/00 − 26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気側から排気ガスの一部を抜き出して吸気側へ再循環するようにした排気再循環装置であって、シリンダヘッド内における各排気ポートの出口部周囲に該出口部を水冷チャンバから隔絶するEGRチャンバを形成し、該EGRチャンバと前記排気ポートの出口部とを各シリンダ毎に連通すると共に、各シリンダ間で隣り合う各EGRチャンバ相互を連通し、各シリンダの並び方向端部に位置するEGRチャンバを抜き出し用のEGRチャンバとし、排気マニホールドを二重殻構造として外殻と内殻との間にEGR流通路を形成し、前記抜き出し用のEGRチャンバの端部と前記EGR流通路の端部を連絡管で接続し、前記EGR流通路における前記連絡管の接続側の反対側にEGR流通路内の排気ガスを吸気マニホールド近傍の吸気管に導くEGRパイプを接続し、前記抜き出し用のEGRチャンバから抜き出した排気ガスを前記EGR流通路を経由して前記EGRパイプに導き吸気側に再循環するように構成したことを特徴とする排気再循環装置。
【請求項2】
排気マニホールドとEGR流通路とが連通していることを特徴とする請求項1に記載の排気再循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気側から排気ガスの一部を抜き出して吸気側へ再循環する排気再循環装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジン等では、排気側から排気ガスの一部を抜き出して吸気側へと戻し、その吸気側に戻された排気ガスでエンジン内での燃料の燃焼を抑制させて燃焼温度を下げることによりNOxの発生を低減するようにした、いわゆる排気ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が行われており、一般的に、この種の排気ガス再循環を行う場合には、排気マニホールド(タービンより上流の排気通路)における各シリンダの並び方向の一端部と、吸気マニホールドに接続されている吸気管(コンプレッサより下流の吸気通路)の一端部との間をEGRパイプにより接続し、該EGRパイプを通して排気ガスを再循環するようにしている。
【0003】
また、再循環する排気ガスをEGRパイプの途中で冷却すると、排気ガスの温度が下がり且つその容積が小さくなることにより、エンジン出力を余り低下させずに燃焼温度を低下して効果的に窒素酸化物の発生を低減させることができるため、排気ガスを再循環するEGRパイプの途中に水冷式のEGRクーラを装備したものもある。
【0004】
尚、排気再循環装置に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−120430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した如き従来の排気再循環装置にあっては、単純に外付けのEGRパイプにより排気マニホールドと吸気管との間を繋いで排気ガスの一部を抜き出すようにしていただけであったため、エンジンから出る排気ガスの温度を高く保つことに何ら寄与しない構造となっており、エンジンから出る排気ガスの熱が無駄に失われてしまっているという課題があった。
【0007】
即ち、エンジンのシリンダブロックやシリンダヘッドの内部には、必要な強度を損なわない範囲で水冷チャンバが多く形成されており、エンジンを冷却水により効率良く水冷できるようになっているため、各シリンダから排気ポートに排出された排気ガスが、排気ポートの周囲を取り巻く水冷チャンバの冷却水により直ちに冷却されてしまっており、また、各排気ポートから排気マニホールドに排出された排気ガスも、排気マニホールド全体が大きな放熱面を持つことにより外気により多くの熱を奪われてしまっていた。
【0008】
このため、タービン入口温度が低下してタービン仕事の効率が悪くなり、必要なコンプレッサ仕事が得られるようタービン膨張比を高めに設定しなければならなくなって排気マニホールドの圧力が高まる結果、エンジンでのポンピングロスが増えて燃費が悪くなる一要因を成していた。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、排気側から吸気側へ再循環する排気ガスの流路構造を工夫することによりエンジンから出る排気ガスの断熱を図り得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、排気側から排気ガスの一部を抜き出して吸気側へ再循環するようにした排気再循環装置であって、シリンダヘッド内における各排気ポートの出口部周囲に該出口部を水冷チャンバから隔絶するEGRチャンバを形成し、該EGRチャンバと前記排気ポートの出口部とを各シリンダ毎に連通すると共に、各シリンダ間で隣り合う各EGRチャンバ相互を連通し、各シリンダの並び方向端部に位置するEGRチャンバを抜き出し用のEGRチャンバとし
、排気マニホールドを二重殻構造として外殻と内殻との間にEGR流通路を形成し、前記抜き出し用のEGRチャンバの端部と前記EGR流通路の端部を連絡管で接続し、前記EGR流通路における前記連絡管の接続側の反対側にEGR流通路内の排気ガスを吸気マニホールド近傍の吸気管に導くEGRパイプを接続し、前記抜き出し用のEGRチャンバから抜き出した排気ガスを前記EGR流通路を経由して前記EGRパイプに導き吸気側に再循環するように構成したことを特徴とするものである。
【0011】
而して、このようにすれば、シリンダヘッド内における各排気ポートの出口部周囲のEGRチャンバが断熱層となり、該EGRチャンバにより前記各排気ポートの出口部が水冷チャンバから隔絶されることになるので、各排気ポート内の排気ガスと冷却水との伝熱面積が大幅に減少され、各シリンダから排気ポートに排出された排気ガスが水冷チャンバの冷却水に奪われる熱量が少なくなる。
【0012】
この結果、ターボチャージャが搭載されているエンジンにあっては、同じ運転状況下において、タービン入口温度が従来よりも高く維持されてタービン仕事の効率が向上し、少ないタービン膨張比で必要なコンプレッサ仕事が得られることで排気マニホールドの圧力を低減することが可能となり、これによりエンジンでのポンピングロスが減って燃費の改善が図られることになる。
【0013】
更に、排気管途中に排気浄化触媒(NOx吸蔵還元触媒、選択還元型触媒、酸化触媒、三元触媒等)が介装されているエンジンにあっては、該エンジンから出る排気ガスの温度が高くなることにより、前記排気浄化触媒の触媒床温度が活性温度まで上がり易くなるため、排気浄化触媒が有効に機能する運転領域が増え、排気ガスを効率良く浄化することが可能となる。
【0014】
尚、各排気ポートの排気ガスの一部は、前記各排気ポートの出口部から各EGRチャンバへと流れ込み、該各EGRチャンバから抜き出し用のEGRチャンバに集められて吸気側へと再循環される。
【0016】
また、このようにすれば、排気マニホールドの外殻と内殻との間のEGR流通路が断熱層となり、該EGR流通路により前記排気マニホールド内の排気ガスが外気から隔絶されることになるので、前記排気マニホールド内の排気ガスと外気との伝熱面積が大幅に減少され、各排気ポートから排気マニホールドに排出された排気ガスが外気に奪われる熱量が少なくなる。
【0017】
この結果、エンジンから出る排気ガスの更なる断熱を図ることが可能となるので、ターボチャージャが搭載されているエンジンにあっては、より一層の燃費の改善を図ることが可能となり、また、排気管途中の排気浄化触媒が有効に機能する運転領域を更に増やして排気ガスをより一層効率良く浄化することも可能となる。
【0018】
また、本発明においては、排気マニホールドとEGR流通路とが連通していても良く、このようにすれば、排気マニホールド内からも排気ガスを抜き出して吸気側へ再循環することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
上記した本発明の排気再循環装置によれば、排気側から吸気側へ再循環する排気ガスの流路構造を工夫することによりエンジンから出る排気ガスの断熱を図ることができ、これにより排気ガスの温度を従来よりも高く維持することができるので、ターボチャージャが搭載されているエンジンにあっては、タービン仕事の効率を向上して少ないタービン膨張比で必要なコンプレッサ仕事が得られるようにすることができ、排気マニホールドの圧力を低減することでエンジンのポンピングロスを減らすことができて燃費を大幅に改善することができ、更には、排気管途中に介装される排気浄化触媒(NOx吸蔵還元触媒、選択還元型触媒、酸化触媒、三元触媒等)の触媒床温度を活性温度まで上がり易くすることもできるので、排気浄化触媒が有効に機能する運転領域を増やして排気ガスを効率良く浄化することができる等種々の優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を一部を切り欠いて示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1及び
図2は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図中1はディーゼル機関であるエンジンを示し、該エンジン1は、ターボチャージャ2を備えており、図示しないエアクリーナから導いた吸気3を吸気管4を通し前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ送り、該コンプレッサ2aで加圧された吸気3をインタークーラ5へと送って冷却し、該インタークーラ5から更に吸気マニホールド6へと吸気3を導いてエンジン1の各シリンダ7に分配するようにしてある。
【0023】
また、このエンジン1の各シリンダ7から排出された排気ガス8を排気マニホールド9を介して前記ターボチャージャ2のタービン2bへと送り、該タービン2bを駆動した排気ガス8を排気管10を介して車外へ排出するようにしてある。
【0024】
そして、前記エンジン1のシリンダヘッド11内における各排気ポート12の出口部周囲には、該出口部を水冷チャンバ13から隔絶するEGRチャンバ14が形成されており、該EGRチャンバ14と前記排気ポート12の出口部とを各シリンダ7毎に連通口15を介して連通すると共に、各シリンダ7間で隣り合う各EGRチャンバ14相互を連絡路16を介して連通するようしてある。
【0025】
また、各シリンダ7の並び方向端部に位置するEGRチャンバ14’を抜き出し用のEGRチャンバとして排気ガス8を連絡管17へ抜き出し得るようにする一方、排気マニホールド9を二重殻構造として外殻と内殻との間にEGR流通路18を形成するようにしており、抜き出し用のEGRチャンバ14’から抜き出された排気ガス8を前記連絡管17を介し前記EGR流通路18に導入し得るようにしてある。
【0026】
ここで、前記EGR流通路18における前記連絡管17の接続側と反対側には、前記EGR流通路18内の排気ガス8を吸気マニホールド6近傍の吸気管4に導くEGRパイプ19が接続されており、抜き出し用のEGRチャンバ14’から抜き出した排気ガス8を前記EGR流通路18を経由してEGRパイプ19に導き得るようにしてある。
【0027】
ここで、前記EGRパイプ19には、該EGRパイプ19を適宜に開閉するEGRバルブ20と、再循環される排気ガス8を冷却するためのEGRクーラ21とが装備されており、該EGRクーラ21では、冷却水と排気ガス8とを熱交換させることにより排気ガス8の温度を低下し得るようになっており、この水冷した排気ガス8のエンジン1への再循環により燃焼温度の低下を図り得るようにしてある。
【0028】
尚、ここに図示している例では、排気マニホールド9とEGR流通路18との間が連通孔22を介し連通しており、排気マニホールド9内からも排気ガス8を抜き出して吸気側へ再循環し得るようになっている。
【0029】
而して、このように排気再循環装置を構成すれば、シリンダヘッド11内における各排気ポート12の出口部周囲のEGRチャンバ14が断熱層となり、該EGRチャンバ14により前記各排気ポート12の出口部が水冷チャンバ13から隔絶されることになるので、各排気ポート12内の排気ガス8と冷却水との伝熱面積が大幅に減少され、各シリンダ7から排気ポート12に排出された排気ガス8が水冷チャンバ13の冷却水に奪われる熱量が少なくなる。
【0030】
一方、各排気ポート12の排気ガス8の一部は、前記各排気ポート12の出口部から各EGRチャンバ14へと流れ込み、該各EGRチャンバ14から抜き出し用のEGRチャンバ14’に集められ、連絡管17、EGR流通路18、EGRパイプ19を介して吸気側へ再循環される。
【0031】
この際、排気マニホールド9の外殻と内殻との間のEGR流通路18が断熱層となり、該EGR流通路18により前記排気マニホールド9内の排気ガス8が外気から隔絶されることになるので、前記排気マニホールド9内の排気ガス8と外気との伝熱面積が大幅に減少され、各排気ポート12から排気マニホールド9に排出された排気ガス8が外気に奪われる熱量が少なくなる。
【0032】
この結果、ターボチャージャ2が搭載されているエンジン1にあっては、同じ運転状況下において、タービン2b入口温度が従来よりも高く維持されてタービン2b仕事の効率が向上し、少ないタービン2b膨張比で必要なコンプレッサ2a仕事が得られることで排気マニホールド9の圧力を低減することが可能となり、これによりエンジン1でのポンピングロスが減って燃費の改善が図られることになる。
【0033】
更に、排気管10途中に排気浄化触媒(NOx吸蔵還元触媒、選択還元型触媒、酸化触媒、三元触媒等)が介装されているエンジン1にあっては、該エンジン1から出る排気ガス8の温度が高くなることにより、前記排気浄化触媒の触媒床温度が活性温度まで上がり易くなるため、排気浄化触媒が有効に機能する運転領域が増え、排気ガス8を効率良く浄化することが可能となる。
【0034】
従って、上記形態例によれば、排気側から吸気側へ再循環する排気ガス8の流路構造を工夫することによりエンジン1から出る排気ガス8の断熱を図ることができ、これにより排気ガス8の温度を従来よりも高く維持することができるので、ターボチャージャ2が搭載されているエンジン1にあっては、タービン2b仕事の効率を向上して少ないタービン2b膨張比で必要なコンプレッサ2a仕事が得られるようにすることができ、排気マニホールド9の圧力を低減することでエンジン1のポンピングロスを減らすことができて燃費を大幅に改善することができ、更には、排気管10途中に介装される排気浄化触媒(NOx吸蔵還元触媒、選択還元型触媒、酸化触媒、三元触媒等)の触媒床温度を活性温度まで上がり易くすることもできるので、排気浄化触媒が有効に機能する運転領域を増やして排気ガス8を効率良く浄化することができる。
【0035】
尚、本発明の排気再循環装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン
7 シリンダ
8 排気ガス
9 排気マニホールド
11 シリンダヘッド
12 排気ポート
13 水冷チャンバ
14 EGRチャンバ
14’ 抜き出し用のEGRチャンバ