(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記放射装置における全放射束と指向特性に基づいて、前記放射強度を算出する放射強度算出部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエネルギー解析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、単位表面毎の照度を、光源の位置、光束、配光などの照明条件に基づいて計算することのみが記載され、どのような光源を用いるか、どのような演算によって照度を求めるかについては、一切記載されていない。
【0005】
そもそも、単に、光源の位置、光束、配光などの照明条件のみでは、照射面におけるエネルギーを正確に解析することはできない。また、照度等のエネルギーを、実際の現場において測定するには、必要な設備、手間を考えると、非常にコストがかかる。
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、放射装置から放射され、吸収装置へ吸収されるエネルギーを、実装置を用いて実際に測定するコストを回避して、数理モデルを用いることにより正確に解析することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のエネルギー解析装置は、以下のような技術的特徴を有している。
(1) エネルギーの伝播空間を3次元直交座標系によりモデル化した情報である伝播空間モデルを記憶する伝播空間モデル記憶部を有する。
(2) 前記エネルギーを外部へ放射する放射素子を有する放射装置をモデル化した情報である放射装置モデルを記憶する放射装置モデル記憶部を有する。
(3) 前記エネルギーを吸収する吸収素子を有する吸収装置をモデル化した情報である吸収装置モデルを記憶する吸収装置モデル記憶部を有する。
(4) 前記放射装置モデルには、前記3次元直交座標系における前記放射素子の位置、エネルギーの放射の中心点である放射中心及びエネルギーの放射強度に関する情報が含まれる。
(5) 前記吸収装置モデルには、前記3次元直交座標系における前記吸収素子の位置、吸収面及び吸収効率に関する情報が含まれる。
(6) 前記吸収素子の位置及び前記吸収面に関する情報に基づいて、前記吸収面を三角形に分割する分割部を有する。
(7) 前記放射素子の位置及び前記放射中心に基づいて、前記分割部により分割された三角形が、前記放射中心を中心とする球面上に中心射影された球面三角形を求める球面三角形算出部を有する。
(8) 前記球面三角形の立体角を求める立体角算出部を有する。
(9) 前記立体角を統合する統合部を有する。
(10)統合された前記立体角、前記放射強度及び前記吸収効率に基づいて、前記吸収面に吸収されるエネルギーのパワーを求めるパワー算出部を有する。
【0008】
以上のような発明では、放射装置から放射され、吸収装置へ吸収されるエネルギーを、伝播空間モデル、放射装置モデル、吸収装置モデルという数理モデルを用いて解析できる。解析は、吸収面を三角形に分割し、分割した三角形を中心射影した球面三角形を求め、球面三角形の立体角を統合することにより行う。
【0009】
他の態様では、前記分割部は、前記吸収面を分割した三角形を生成する三角形生成部と、前記三角形生成部が生成した三角形の最長辺の両端を、判定点として抽出する判定点抽出部と、前記判定点抽出部が抽出した2つの判定点の放射強度の差若しくは吸収効率の差の少なくとも一方が、あらかじめ設定された許容誤差の範囲内か否かを判定する許容誤差判定部と、前記許容誤差判定部により許容誤差範囲外と判定された場合に、前記三角形を細分化した三角形を生成する細分化部と、を有することを特徴とする。
【0010】
以上のような態様では、エネルギーの放射が、等方的な指向特性を有しない場合であっても、放射強度若しくは吸収効率が許容誤差の範囲内で、解析することが可能となる。
【0011】
他の態様では、前記放射装置における全放射束と指向特性に基づいて、前記放射強度を算出する放射強度算出部を有することを特徴とする。
【0012】
以上のような態様では、放射素子の放射強度が未定義であっても、全放射束と指向特性に基づいて、放射強度を求めて、解析することが可能となる。
【0013】
なお、上記のような発明は、エネルギー解析方法およびエネルギー解析プログラムの観点から捉えることもできる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、放射装置から放射され、吸収装置へ吸収されるエネルギーを、実装置を用いて実際に測定するコストを回避して、数理モデルを用いることにより正確に解析することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
[1.想定する装置および空間]
まず、本実施形態が、解析対象としてモデル化する装置と空間を、
図1〜3を参照して説明する。
【0017】
[エネルギー]
図1に示すように、解析の対象となるエネルギーEは、指向性を有し、任意の空間を伝播する。エネルギーEの量は、その特性に応じて所望の物理量で観測および抽出できる。エネルギーEの例としては、光や電波などの電磁波、音波、移動する物質などが挙げられる。ただし、上記特性を有するものであれば、これらには限定されない。
【0018】
[放射装置]
放射装置1は、解析対象となるエネルギーEを外部へ放射する装置である。この放射装置1は、
図2に示すように、一つ若しくは複数の放射素子11を有する。この放射素子11は、放射エネルギーの種類によって種々のものが適用可能である。たとえば、光源、電波源等の電磁波発生源、音源等の音波発生源等が含まれる。放射素子11からのエネルギーEの放射形態は、点放射もしくは面放射とする。放射素子11は、たとえば、以下の要素を定義することによりモデル化される。
【0019】
(1)配置および姿勢(位置情報)
(2)放射中心
(2)放射強度若しくは全放射束
(3)放射ベクトル
(4)放射指向特性
【0020】
放射中心は、エネルギーEの放射の中心点である。放射ベクトルは、エネルギーEの放射の基準方向を表すベクトルである。放射指向特性は、放射中心と放射ベクトルを基準として正規化された指向特性である。この指向特性の定義域である角度を、放射角と呼ぶ。
【0021】
放射中心から見て、放射強度が最大となる方向と放射ベクトルとは、一致している。なお、等方的な指向特性とする場合には、放射素子が載る平面の法線を、放射ベクトルとしてもよい。
【0022】
[吸収装置]
吸収装置2は、
図3に示すように、解析対象となるエネルギーEを外部から吸収する装置である。この吸収装置2は、一つ若しくは複数の吸収素子21を有する。吸収素子21は、以下の要素を定義することにより、モデル化される。
【0023】
(1)配置および姿勢(位置情報)
(2)吸収面
(3)吸収感度
(4)吸収中心
(5)吸収ベクトル
(6)吸収効率(吸収指向特性)
【0024】
ここで、吸収面22は平面であり単純多角形の閉領域とする。吸収感度は、各吸収素子21におけるエネルギーEの吸収感度である。エネルギーEは、吸収素子21の吸収面22により吸収され、吸収感度に応じて、所望のエネルギー形態に変換されて装置外部へ出力される。吸収面22に到達したエネルギーの反射や透過はないものとする。反射や透過があったとしても、その影響は指向特性に含まれるものとする。
【0025】
吸収中心は、エネルギーEの吸収の中心点である。吸収ベクトルは、エネルギーEの吸収の基準方向を表すベクトルである。吸収指向特性は、吸収中心と吸収ベクトルを基準として、正規化された指向特性である。この指向特性の定義域である角度を、入射角と呼ぶ。
【0026】
なお、吸収中心から見て、吸収効率が最大となる方向と吸収ベクトルとは一致する。吸収効率は、吸収指向特性と同義である。等方的な指向特性とする場合には、吸収面の法線を吸収ベクトルとしてもよい。
【0027】
[エネルギー伝播空間]
さらに、放射装置1および吸収装置2が配置され、放射装置1から放射されたエネルギーEが吸収装置2へ伝播する空間を、エネルギー伝播空間3として想定する。
【0028】
このエネルギー伝播空間3においては、3次元直交座標系が導入され、その座標系において、各装置および各要素の配置、姿勢等の位置情報を表現する。
【0029】
さらに、エネルギー伝播空間3は、以下のように定義することによりモデル化される。
【0030】
(1)エネルギーEは放射方向に直進する
(2)放射から吸収までの間に、エネルギー伝播空間3上での損失はない
(3)対象とする放射装置1以外からのエネルギーEの伝播はない
【0031】
[2.実施形態の構成]
[全体構成]
次に、本実施形態の構成を、
図4の機能ブロック図を参照して説明する。すなわち、本実施形態のエネルギー解析システムAは、エネルギー解析装置100及びインタフェース部200を有している。
【0032】
エネルギー解析装置100は、座標系処理部110、装置モデル処理部120、解析部130、記憶部140等を有している。インタフェース部200は、入力部210及び出力部220を有している。
【0033】
エネルギー解析装置100は、たとえば、所定のプログラムによって、上記の各部の機能を実現できるコンピュータによって構成することができる。なお、
図4に示した機能ブロック図は概念的なものである、これらの機能を実現する具体的な回路やソフトウェアは種々考えられ、特定のものには限定されない。
【0034】
[エネルギー解析装置]
[座標系処理部]
座標系処理部110は、エネルギー伝播空間における座標処理を行う処理部である。この座標系処理部110は、伝播空間モデル生成部111、座標変換部112等を有している。伝播空間モデル生成部111は、インタフェース部200から入力された情報に基づいて、エネルギー伝播空間をモデル化する処理部である。生成された伝播空間モデルは、後述する記憶部140が記憶する。
【0035】
座標変換部112は、指定された2つの座標系間で座標変換を行う処理部である。たとえば、後述する解析部130からの要求に応じて、座標変換を行い、中心射影像の生成等を行うことができる。
【0036】
[装置モデル処理部]
装置モデル処理部120は、装置モデルの生成を行う処理部である。この装置モデル処理部120は、放射装置モデル生成部121、吸収装置モデル生成部122等を有している。
【0037】
放射装置モデル生成部121は、インタフェース部200から入力された放射装置1の仕様等の情報に基づいて、放射装置1をモデル化する処理部である。モデル化に必要な情報としては、たとえば、上述したように、放射装置1のエネルギー伝播空間における位置姿勢、放射強度、放射指向特性など、解析に必要なすべての仕様が含まれる。生成された放射装置モデルは、後述する記憶部140が記憶する。
【0038】
吸収装置モデル生成部122は、インタフェース部200から入力された吸収装置2の仕様等の情報に基づいて、吸収装置2をモデル化する処理部である。モデル化に必要な情報としては、たとえば、上述したように、吸収装置2のエネルギー伝播空間における位置姿勢、吸収感度、吸収指向特性など、解析に必要なすべての仕様が含まれる。生成された吸収装置モデルは、後述する記憶部140が記憶する。
【0039】
[解析部]
解析部130は、伝播空間モデル、放射装置モデル、吸収装置モデルに基づいて、エネルギー解析を行う処理部である。解析部130は、解析モデル生成部131、分割部132、算出部133、異常判定部134、解析結果出力部135等を有している。
【0040】
解析モデル生成部131は、インタフェース部200からの入力に応じて、解析モデルを生成する処理部である。解析モデルは、後述する解析原理に従ったモデルであり、上述のような情報が含まれる。分割部132は、解析モデルによる解析のために、吸収素子21の吸収面を三角形に分割する処理部である。算出部133は、解析モデルによって、解析結果を算出する処理部である。
【0041】
異常判定部134は、各種モデルの不備などにより解析異常が発生した場合に、解析を中断させる処理部である。解析結果出力部135は、解析結果を出力する処理部である。解析結果は、正常な解析結果若しくは異常内容も含む。解析結果は、記憶部140が記憶する。
【0042】
なお、分割部132、算出部133は、
図4に示すように、複数の処理部を有している。これらの処理部の処理の詳細については、後述する作用において説明する。
【0043】
[記憶部]
記憶部140は、本実施形態に必要となる各種の情報(処理の結果等も含む)を記憶する記憶部である。それぞれの情報の記憶領域は、各情報の記憶部として捉えることができる。
【0044】
この記憶部140としては、たとえば、メモリ、ハードディスク、光ディスク等の現在もしくは将来において利用可能なあらゆる記憶媒体を使用できる。すでに情報が記憶された記憶媒体を、読み取り装置に装着することにより、記憶内容を各種の処理に利用可能となる態様でもよい。
【0045】
さらに、記憶部140には、一時的な記憶領域として使用されるレジスタ、メモリ等も含まれる。したがって、キュー、スタック等も、記憶部140を利用して実現可能である。
【0046】
[インタフェース部]
インタフェース部200は、エネルギー解析装置100の情報の入出力を行うインタフェースである。このインタフェース部200は、入力部210、出力部220等を有している。
【0047】
入力部210は、本実施形態の処理に必要な情報、指示等を入力する装置である。たとえば、マウス、キーボード、リモコン、スイッチ、ディスプレイ(タッチパネル)等の現在もしくは将来において利用可能なあらゆる装置を使用できる。また、入力部210には、通信ネットワークを介して外部の装置からの情報の入力を受け付けるインタフェース等も含まれる。
【0048】
出力部220は、本実施形態の処理に必要な情報を出力する装置である。たとえば、ディスプレイ、プリンタ等の現在もしくは将来において利用可能なあらゆる装置を使用できる。また、出力部220には、通信ネットワークを介して外部の装置へ情報を出力するインタフェース等も含まれる。
【0049】
[3.実施形態の作用]
上記のような構成を有する本実施形態の作用を説明する。
[エネルギー解析原理]
まず、前提として、本実施形態のエネルギー解析の原理を説明する。
【0050】
[エネルギーのパワー]
一点の放射素子11から放射されたエネルギーEの放射束の一部が、ある吸収素子21に照射されたとき、その吸収面22が吸収するパワーを考える。このとき、放射素子11からのエネルギーEの放射は、定常的であり等方的に一様に発散するものとする。また、放射強度は、既知であるものとする。さらに、吸収面22におけるエネルギーの吸収も、指向性なく等方的であり、照射された放射束はすべて吸収されるものとする。
【0051】
放射強度Iは、式(1)に示すとおり、微小な立体角dΩ[sr]あたりの放射束dΦ[W]であり、放射束の密度を表す。よって、一様に発散している場合は、立体角の大きさや放射方向によらず、通過する立体角が決まれば、そのときの放射束も決まる。
【0053】
すなわち、上記放射素子11から見た吸収面の見かけの立体角を求めれば、式(1)に基づいて、吸収面22が吸収したパワーを求めることができる。
【0054】
[立体角]
そこで、立体角の算出方法を説明する。まず、
図5に示すような球面50上におけるN頂点(
図5ではN=13)を有する多角形51を考える。この多角形51の面積である立体角Ωは、頂点n={0,..,N−1}の内角をa
nとするとき、式(2)のとおり求めることができる。
【0056】
頂点nの内角を、
図6を参照して説明する。すなわち、頂点nで交わり、nに隣接する両側の頂点(n−1,n+1)をそれぞれ含む2つの大円52,53(球の断面)を考える。頂点nの内角とは、この2つの大円52,53がなす、3頂点(n,n−1,n+1)から観測される交差角である。
【0057】
この多角形51を球面N角形、または単に球面多角形と呼ぶ。なお、単純な多角形ではなく、内部に複数の穴を有する多角形の場合、単純多角形の立体角(面積)から、内部の複数の穴の立体角(面積)を差し引けばよい。
【0058】
[座標系の導入]
次に、伝播空間モデルに導入される座標系について、
図7を参照して説明する。
【0059】
すなわち、放射素子11の放射中心を原点とした3次元直交座標系Σ
Cを考える。3つの直交成分がx,y,zで表されるとき、z軸の正方向と放射ベクトルが一致する。Σ
C上の任意の位置ベクトルを、
Cpで表す。
【0060】
Σ
Cとともに、同じく放射中心を原点とする球座標系Σ
Sを導入する。Σ
Sの3成分は、1つの動径rと2つの偏角θ,φで表される。偏角θは、放射ベクトルからの離角である。偏角φは、Σ
Cにおけるxy平面上のx軸正方向からの離角である。
【0061】
なお、Σ
Cの右ねじ回りを正とする。Σ
S上の任意の位置ベクトルを
Spで表す。また、上記の原点を中心とする任意半径の球面上の位置ベクトルを、上記2偏角を用いて(θ,φ)
Tで表す。
【0062】
[見かけの立体角]
対象となる吸収面22が平面であり単純多角形の閉領域であるとする。上記の原点からその吸収面22を見たとき、すべての頂点が重ならずに観測可能であれば、
図7のとおり、上記の原点を中心とする単位球面50上に、同頂点数の球面上の多角形51として中心射影される。
【0063】
この吸収面22の中心射影像である多角形51の面積が、すなわち見かけの立体角である。そして、この面積は、上記の式(2)により求めることができる。
【0064】
[球面多角形の内角]
上記球面多角形51の各頂点の内角は、
図8に示すように、吸収面22の頂点を用いて求めることができる。まず、吸収面22上の頂点nのΣ
Cにおける位置ベクトルを
Cv
nとする。そして、求める内角a
nに対応する頂点
Cv
nと、それに隣接する2つの頂点
Cv
n−1,
Cv
n+1を考える。
【0065】
なお、これら頂点の識別子は、対象多角形の頂点数を法として合同な値をとるものとする。また、頂点識別子の並びは、吸収面22の表面を見て、時計回りに...
Cv
n−1,
Cv
n,
Cv
n+1...と付与する。
【0066】
法線ベクトルが、
Cv
nと同方向であり、
Cv
nが載る平面を、S
nとする。このとき、原点
COと頂点
Cv
n−1とを通る直線と、平面S
nとの交点を、
Cs
n−1とする。同様に、頂点
Cv
n+1に関する交点を
Cs
n+1とする。
【0067】
これらの定義により、
Cs
n−1と
Cs
n+1は、求める内角をなす大円を含む2つの平面上にそれぞれ載ることがわかる。また、
COと
Cv
nは、それら2平面の交点であることがわかる。
【0068】
さらに、S
nは、それら2平面と直交する平面である。このため、
Cv
nと、
Cs
n−1を通る直線と、
Cv
nと
Cs
n+1を通る直線とが、S
n上でなす角∠
Cs
n−1 Cv
n Cs
n+1は、すなわち求める内角a
nとなる。
【0069】
これにより、内角a
nは、以下の式(3)〜(6)を用いて、式(7)のとおり表すことができる。ここで、式(3)は平面関数S()である。式(4)は直線関数L()である。式(5)は、直線と平面との交点関数I()である。式(6)は、3点間の角度関数A()である。
【0070】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【0071】
[三角形分割]
以上により放射素子11と吸収素子21の仕様および位置姿勢から、関与する立体角を正確に求めて、エネルギー解析を行えることが言えた。しかし、放射素子11からのエネルギーが、点放射や無指向性であるなど、条件が限定的である。
【0072】
続いて面放射や各素子が指向特性を有する場合など、より緩和された一般的な条件下でのエネルギー解析を考える。ただし面放射である場合、その指向特性が放射距離に依存しない程度に、吸収素子が離れているものとする。また、いずれの場合においても、指向特性が定義されているものとする。
【0073】
指向特性により、放射強度や吸収効率は、エネルギーの伝播方向に応じて変化してしまう。しかし、微小領域内では、その差は、エネルギー解析の精度上、無視できる程度の誤差と考えても差し支えない。この誤差を、それぞれ強度許容誤差、吸収許容誤差と呼び、エネルギー解析の仕様として定義する。なお、強度許容誤差、吸収許容誤差は、あらかじめインタフェース部200から入力されたものを、記憶部140が記憶する。
【0074】
これらの許容誤差を満足するように、まず、対象領域内部を微細に分割する。そして、分割した部分領域それぞれについて、エネルギー解析を行う。最終的に、それら解析結果を統合することによって、所望のエネルギー解析が達成できる。
【0075】
この分割は、分割部132が、
図3に示すように、吸収面22を、三角形に分割することにより行う。三角形分割された領域を、吸収面素23と呼ぶ。
【0076】
[パワーの算出]
三角形分割により、
図7に示した単位球面に中心射影された球面多角形51も、球面三角形に分割される。このため、分割されたそれぞれの三角形領域の立体角を求めて、それらの立体角を統合すれば、元の球面多角形の立体角を求めることができる。よって、吸収面素23の見かけの立体角(球面多角形の面積)を統合すれば、吸収面22の立体角を求めることができる。
【0077】
あるエネルギー解析系において、吸収面素kが見かけの立体角ω
kを有し、放射強度I(ξ
k)、吸収効率η(ζ
k)が対応付けられるとする。すると、算出部133は、以上に説明した原理から、対象となる吸収面全体が吸収するパワーPは、式(8)のとおり求めることができる。なお、ξ
kは吸収面素kに対する放射角、ζ
kは同面素への入射角を表す。
【0079】
[放射強度]
これまで、放射強度は既知であることを前提とした演算を説明した。しかし、放射素子11によっては、全放射束と指向特性のみが示される場合もある。このとき、指向特性を単位球面Ωにおいて面積分した値で全放射束Φを除すれば、最大放射強度Imaxを求めることができる。
【0080】
指向特性がΣ
Sにおける2偏角θ,φで決まる実関数D(θ,φ)であるとき、最大放射強度Imaxは、式(9)のとおり表すことができる。
【0082】
このとき、放射強度I(θ,φ)は、式(10)のとおり求めることができる。
【0084】
また、指向特性が偏角θのみで決まりM回微分可能な実関数D(θ)であるとき、実数x以下の最大の整数を[x]とすれば、最大放射強度Imaxは、式(11)のとおり表される。ただし、D
(k)(θ)は、D(θ)のk回微分を表し、D
(0)(θ)=D(θ)とし、s,tは、指向特性が定義されるθの範囲でありs<tとする。
【0086】
このとき、放射強度I(θ)は式(12)のとおり求めることができる。
【0088】
このような放射強度の算出は、放射装置モデル生成部121における放射強度算出部121aが行うことができる。算出された放射強度は、放射装置モデルの一部として、記憶部140が記憶する。
【0089】
[4.エネルギー解析処理手順]
以上のような原理に基づいた本実施形態のエネルギー解析装置100によるエネルギー解析処理の手順を、
図4のブロック図及び
図9〜
図11のフローチャートを参照して説明する。
【0090】
[4−1.全体処理]
まず、エネルギー解析装置100の動作手順の概要を、
図9のフローチャートを参照して説明する。エネルギー解析装置100の動作は、主として、初期化、モデル構築、エネルギー解析、解析結果出力などの手順から成る。
【0091】
本装置運用の前提として、エネルギー伝播空間3における放射装置1および吸収装置2のエネルギー解析に用いられる仕様が、すべて定義されているものとする。これらの仕様は、インタフェース部200を介して本装置に入力され、記憶部140が記憶している。
【0092】
また、いずれの動作においても、エネルギー解析装置100は、インタフェース部200の入力部210からの停止イベントを受け付ける。エネルギー解析装置100は、停止イベントが入力されると、その時点での動作を中断し、解析開始イベントや内部状態出力イベントなど、停止時に受付可能なイベントを待つ。
【0093】
[初期化]
まず、ユーザもしくは外部の装置が、インタフェース部200を介して、解析開始イベントを入力する(ステップ01)。それを契機に、エネルギー解析装置100は、直前の状態をリセットし、新たなモデル構築およびエネルギー解析を実行するための初期化を行う(ステップ02)。
【0094】
[モデル構築]
初期化完了後、エネルギー解析装置100は、インタフェース部200からのエネルギー伝播空間モデル、放射装置モデル、吸収装置モデル、解析モデルのデータ入力を待つ(ステップ03 NO)。
【0095】
インタフェース部200から、各種モデルのデータが入力されると(ステップ03 YES)、伝播空間モデル生成部111、放射装置モデル生成部121、吸収装置モデル生成部122、解析モデル生成部131は、それぞれのモデル構築を行う(ステップ04)。構築された各モデルは、記憶部140が記憶する(ステップ05)。
【0096】
解析モデルは、上述の解析原理で述べたように、主に解析対象および解析手順、許容誤差等を含む。なお、放射装置1から放射されたエネルギーのうち、吸収装置2が吸収するエネルギーEや、放射装置1全体の指向特性を解析対象とするために、放射装置1を回転させる手順を含めることもできる。
【0097】
解析モデル以外のモデルは、主に位置姿勢など幾何学的な情報および放射強度や吸収効率など放射吸収に関する仕様を含む。その例は、上記の通りである。
【0098】
[エネルギー解析]
解析部130における分割部132及び算出部133は、モデル構築完了もしくはインタフェースからのモデル構築完了イベント入力により、各モデルを用いて、エネルギー解析を行う(ステップ06)。本解析は前述のエネルギー解析原理に従う。その手順は後述する。解析が正常に終了した場合には(ステップ07 NO)、記憶部140が解析結果を記憶する(ステップ09)。
【0099】
異常判定部134は、各種モデルの不備などにより、解析異常が発生したと判定した場合には(ステップ07 YES)、解析を中断する(ステップ08)。記憶部140は、解析結果として異常内容を記憶する(ステップ09)。
【0100】
[解析結果出力]
解析結果出力部135は、解析の正常終了もしくは中断により、異常内容を含む解析結果もしくは解析完了イベントをインタフェース部200へ出力する(ステップ10)。出力部220は、入力部210から入力された要求に応じて、解析結果の表示等を行う。
【0101】
[4−2.エネルギー解析の詳細]
[三角形分割]
まず、分割部132が、吸収面22を三角形の吸収面素23に分割する手順を、
図10のフローチャートを参照して説明する。すなわち、解析部130は、処理の開始に当たって、分割三角形スタックをリセットする(ステップ11)。そして、多角形生成部132aは、吸収面22を凸多角形に分割する(ステップ12)。この凸多角形を、部分吸収面と呼ぶ。
【0102】
三角形生成部132bは、各部分吸収面を三角形に分割する(ステップ13)。この分割は、各部分吸収面の任意の頂点から、同面に残るすべての頂点へ線分を結ぶことにより、三角形を生成する。そして、三角形生成部132bは、生成した三角形の幾何情報を、分割三角形スタックに入れる(ステップ14)。
【0103】
次に、判定点抽出部132cは、スタックにおける先頭の三角形を取り出し(ステップ15)、三角形の3頂点のうち、最も長い辺の端点である2つの点を抽出する(ステップ16)。強度差判定部132dは、放射装置モデル、伝播空間モデルに基づいて、対象放射素子11から見た2点の放射角と放射強度を求めた上に、2点の強度差を判定する(ステップ17)。
【0104】
そして、強度許容誤差判定部132eが、2点の強度差が、記憶部140に記憶された強度許容誤差の範囲内かどうかを判定する(ステップ18)。強度差が許容誤差範囲内の場合には(ステップ19 YES)、効率差判定部132fが、2点の吸収効率差の判定を行う(ステップ20)。
【0105】
つまり、効率差判定部132fは、吸収装置モデル、伝播空間モデルに基づいて、対象となる吸収素子21から見た入射角と吸収効率を求めた上に、2点の吸収効率差を判定する。
【0106】
吸収許容誤差判定部132gは、2点の吸収差が、記憶部140に記憶された強度許容誤差の範囲内かどうかを判定する(ステップ21)。吸収差が許容誤差範囲内の場合には(ステップ22 YES)、三角形出力部132iが当該三角形を分割完了三角形として出力する。この分割完了三角形を、記憶部140が記憶する(ステップ23)。
【0107】
強度差が許容誤差範囲外の場合(ステップ19 NO)若しくは吸収差が許容誤差範囲外の場合(ステップ22 NO)、細分化部132hが、対象三角形を細分化した三角形を生成する(ステップ24)。たとえば、判定点抽出の際に求めた最大長の辺の二等分点と、残る頂点を結ぶ線分を境界として、三角形を二分する。細分化部132hは、細分化された双方の三角形をスタックに入れる(ステップ14)。
【0108】
そして、対象の三角形が、許容誤差範囲内の三角形に細分化されるまで、ステップ15〜22、24、14の処理を繰り返す。スタックにまだ三角形が存在する場合には(ステップ25 NO)、ステップ15〜24、14の処理を繰り返す。スタックが空になった場合には(ステップ25 YES)、分割部132は分割処理を終了する。
【0109】
なお、上記の分割の手法は、一例である。定義された許容誤差を満足できる程度まで、三角形分割を行うことができれば、他の手法であってもよい。許容誤差の判定も、放射強度及び吸収効率の少なくとも一方に基づいて判断すればよい。
【0110】
[エネルギー算出]
次に、算出部133が、以上のように分割された三角形に基づいて、パワーを算出する手順を、
図11のフローチャートを参照して説明する。まず、球面三角形算出部133aが、単位球面に対して、分割された各三角形について、中心射影された球面三角形を算出する(ステップ31)。
【0111】
そして、立体角算出部133bが、全ての球面三角形について、立体角を算出する(ステップ32)。さらに、統合部133cが、全ての立体角を統合することにより、吸収面22の見かけの立体角を求める(ステップ33)。パワー算出部133dは、立体角及び放射強度、吸収効率に基づいて、吸収面が吸収したパワーを求める(ステップ34)。
【0112】
[5.実施形態の効果]
以上のような本実施形態によれば、放射装置1から放射され、吸収装置2へ吸収されるエネルギーについて、実装置を用いて実際に測定するコストを回避して、数理モデルを用いて正確に解析できる。
【0113】
つまり、等方的な指向特性を有する放射装置と吸収装置との間で授受されるエネルギーを、正確に求めることができる。さらに、その他の指向特性の場合であっても、許容誤差の範囲で、正確に求めることができる。
【0114】
また、放射素子11の放射強度が未定義であっても、全放射束と指向特性が定義されていれば、放射強度を求めて、エネルギーを解析することができる。さらに、放射装置1全体もしくは吸収装置2全体の指向特性を求めることができる。
【0115】
[6.他の実施形態]
本発明は、上記のような実施形態には限定されない。以下のような態様も本発明に含まれる。
【0116】
(1)吸収面は、平面には限定されず、曲面、その他の凹凸を有する面等であってもよい。
【0117】
(2)許容誤差判定において、許容誤差として記憶された範囲(しきい値)との比較で、しきい値を含む「以上」、「以下」とするか、しきい値を含まない「より大きい」、「より小さい」とするかは自由である。
【0118】
(3)エネルギー解析装置100、インタフェース部200は、共通のコンピュータにおいて実現してもよいし、通信ネットワークで接続された複数のコンピュータによって実現してもよい。たとえば、エネルギー解析装置100における各部を、複数のコンピュータに分散して構成してもよい。記憶部140を、分散した記憶媒体によって実現してもよい。