特許第5916478号(P5916478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916478ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916478
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/02 20060101AFI20160422BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20160422BHJP
   C08F 18/08 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C08J3/02 A
   C08L29/04 S
   C08F18/08
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-79235(P2012-79235)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209453(P2013-209453A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】井上 馨
(72)【発明者】
【氏名】平野 泰広
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭42−020778(JP,B1)
【文献】 特開2007−326943(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/027677(WO,A1)
【文献】 特公昭39−016911(JP,B1)
【文献】 特開平11−092732(JP,A)
【文献】 特公昭43−003014(JP,B1)
【文献】 特開2010−007041(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0176989(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が60モル%以上のポリビニルアルコール系樹脂粉末をアルコール類中に分散させて分散液を調製する工程と、
調製された分散液と水とを混合してポリビニルアルコール系樹脂粉末を溶解する工程とを有し、
分散液と水とを混合したときの水/アルコール類の重量比が、99/1〜50/50である、
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80モル%以上である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法。
【請求項3】
アルコール類の使用量が、ポリビニルアルコール系樹脂粉末100重量部に対して、50〜1000重量部である、請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系樹脂が、下記一般式(1)で表される構造単位を含有するポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1〜3いずれかに記載のポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法。
【化1】
〔式中、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コスト高を抑えることが可能であり、かつ溶解時間の短縮化が可能なポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下「PVA」とも表記する。)系樹脂は、融点と熱分解温度が近接しているため溶融成形が難しいこと、および水溶性樹脂であることから、水溶液にして使用されることが多い。例えば、溶液コーティング剤、バインダー、接着剤などの形態でPVA系樹脂が利用されている。
【0003】
ところが、PVA系樹脂は、一般的に粉末状であり、水との親和性が高いので、これを水溶液とするために水中に投入するとママコ状態となり易く、ママコ状態になると溶解が困難となり、水溶液の調製に長時間を要する。また、一部の酢酸基が残存する部分ケン化PVA系樹脂や、一部に変性基を有する変性PVA系樹脂は、完全ケン化PVA系樹脂や未変性PVA系樹脂よりも結晶性が低いので、水に濡れるとママコ状態になり易く、水溶液の調製がさらに困難である。
【0004】
この課題の解決策として、特許文献1には、比較的大粒径のPVA系樹脂粉末を特定量以上含有させることが提案されている。しかしながら、このようなPVA系樹脂粉末を得るには、粉砕、粒度分別、再混合といった煩雑な製造工程が必要になるので、ロスが生じて、コスト高となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−265026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コスト高を抑えることが可能であり、かつ溶解時間の短縮化が可能なポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、PVA系樹脂粉末がアルコール類に溶解し難く、良好な分散液となることに着眼し、鋭意研究を重ねた結果、この分散液と水を混合して水/アルコール類の重量比を所定範囲に調整すると、PVA系樹脂粉末が良好な分散状態を保持したまま水中に分散し、その後に溶解することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ケン化度が60モル%以上のPVA系樹脂粉末をアルコール類中に分散させて分散液を調製する工程と、調製された分散液と水とを混合してPVA系樹脂粉末を溶解する工程とを有し、分散液と水とを混合したときの水/アルコール類の重量比が、99/1〜50/50である、PVA系樹脂水溶液の製造方法である。
【0009】
本発明の製造方法は、特殊なPVA系樹脂粉末を製造するための煩雑な工程が不要であるので、コスト高を抑えることができる。また、溶解し難いアルコール類中にPVA系樹脂粉末を分散させるので、ママコ状態になり難く、この分散液と水とを混合すると、PVA系樹脂粉末が良好な分散状態を保持したまま水中に分散し、その後に溶解するので、溶解時間の短縮化が可能となる。
【0010】
本発明の製造方法により得られたPVA系樹脂水溶液では、水/アルコール類の混合溶媒中にPVA系樹脂が溶解している。したがって、本発明によるPVA系樹脂水溶液は、各種基材への濡れ性の向上、および後工程として必要な乾燥工程の効率化(乾燥時間の短縮化)が期待できる。
【0011】
また、PVA系樹脂が変性PVA系樹脂である場合、例えば、後述の一般式(1)で表される構造単位を有するPVA系樹脂である場合には、変性PVA系樹脂はアルコール類の含有量が多い水/アルコール類の混合溶媒への溶解性に優れるので、未変性PVA系樹脂のときよりもアルコール類の使用量を多くすることができる。したがって、各種基材への濡れ性の更なる向上、および後工程として必要な乾燥工程の更なる効率化(乾燥時間の更なる短縮化)が期待できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、コスト高を抑えることが可能であり、かつ溶解時間の短縮化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0014】
本発明のPVA系樹脂水溶液の製造方法は、PVA系樹脂粉末をアルコール類中に分散させて分散液を調製する工程(分散液調製工程)と、調製された分散液と水とを混合してPVA系樹脂粉末を溶解する工程(樹脂粉末溶解工程)とを有する。以下、分散液調製工程、および樹脂粉末溶解工程について順次説明する。
【0015】
〔分散液調製工程〕
本工程では、PVA系樹脂粉末をアルコール類中に分散させて分散液を調製する。PVA系樹脂粉末をアルコール類中に分散させるに際しては、10〜100℃、好ましくは常温〜使用するアルコール類の沸点の温度範囲にて、0.1〜10分間の撹拌を行なう。
【0016】
(PVA系樹脂粉末)
本発明に用いられるPVA系樹脂粉末としては、特に制限はないが、製造されたPVA系樹脂水溶液を各種用途に適用することを考慮すると、以下のケン化度や平均重合度を有するPVA系樹脂粉末が好ましい。
【0017】
PVA系樹脂のケン化度は60モル%以上であり、好ましくは80モル%以上、特に好ましくは85〜99.9モル%、殊に好ましくは90〜99.5モル%である。ケン化度が低すぎると、アルコール類との親和性が高くなるのでアルコール類への分散性が低下したり、ガスバリア性や耐水性が低下する傾向がある。また、成形中に酢酸臭が発生する傾向もある。ケン化度が高すぎると、生産性が低下する傾向がある。なお、ケン化度はJIS K 6726に準拠して測定することができる。
【0018】
PVA系樹脂の平均重合度は、好ましくは200〜4000であり、特に好ましくは250〜3000、殊に好ましくは300〜2000である。平均重合度が高すぎると、水溶液としたときに高粘度となり作業性が低下する傾向があり、平均重合度が低すぎると、耐水性、機械強度や接着力が低下する傾向がある。なお、平均重合度はJIS K 6726に準拠して測定することができる。
【0019】
本発明においては、水溶解時にママコ状態になり易い微粒子のPVA系樹脂粉末に対して効果がより顕著なものとなる。PVA系樹脂粉末の平均粒径は、好ましくは0.1〜1000μmであり、特に好ましくは1〜1000、殊に好ましくは10〜500μmである。平均粒径が大きすぎると、溶解に時間を要する傾向があり、小さすぎると、微粉による作業環境汚染、粉塵爆発の危険、取り扱い性悪化などが生じる傾向がある。なお、平均粒径はJIS Z 6726に準拠して測定することができる。
【0020】
また、各種の変性PVA系樹脂粉末も水溶解時にママコ状態になり易いので、本発明においては、各種の変性PVA系樹脂粉末に対しても効果がより顕著なものとなる。ただし、変性PVA系樹脂を用いる場合、変性量(変性ビニルアルコール構造単位の含有量)が多すぎると、水溶性が著しく低下して良好な水溶液が得られなかったり、アルコール類に可溶となる傾向があるので、一般的な変性基を導入した変性PVA系樹脂の変性量は、好ましくは10モル%以下であり、特に好ましくは5モル%以下である。
【0021】
変性PVA系樹脂としては、下記一般式(1)で表される構造単位を含有するPVA系樹脂が好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
〔式中、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。〕
【0024】
一般式(1)で表される、側鎖に1,2−ジオール構造を導入することによって、アルコール含有量が高い水/アルコール類の混合溶媒にもPVA系樹脂粉末が可溶となるので、アルコールの使用量を多くすることができる。したがって、各種基材への濡れ性の更なる向上、および後工程として必要な乾燥工程の更なる効率化(乾燥時間の更なる短縮化)が期待できる。
【0025】
また、一般式(1)で表される構造単位を含有するPVA系樹脂は、親水性が高いので、他の一般的な変性PVA系樹脂よりも変性量を多くすることができる。一般式(1)で表される構造単位の変性量は、好ましくは1〜20モル%であり、特に好ましくは2〜15モル%、殊に好ましくは3〜10モル%である。変性量が多すぎると、アルコール類に可溶となる傾向があり、樹脂自体の生産性も低下する傾向がある。
【0026】
特に、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR〜R、及びR〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合であるものが最も好ましく、下記式(1’)で表わされる構造単位を有するPVA系樹脂が好適に用いられる。
【0027】
【化2】
【0028】
なお、かかる一般式(1)で表わされる構造単位中のR〜R、及びR〜Rは、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよく、その有機基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、かかる有機基は、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の官能基を有していてもよい。
【0029】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは熱安定性の点や高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CHO)−、−(OCH−、−(CHO)CH−、−CO−、−COCO−、−CO(CHCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、またはアルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CHOCH−が好ましい。
【0030】
なお、変性PVA系樹脂中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、変性PVA系樹脂を完全にケン化したもののH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出することができる。
【0031】
また、変性PVA系樹脂は公知の方法により製造することができ、例えば、一般式(1)で表される構造単位を含有するPVA系樹脂は、特開2012−46744号公報の記載に準じて製造することができる。
【0032】
本発明で用いられるPVA系樹脂粉末は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよいが、混合物を用いる場合には、ケン化度、平均重合度、変性量の平均値が上述の範囲内であることが好ましい。
【0033】
(アルコール類)
本発明に用いられるアルコール類としては、水と混和可能であり、PVA系樹脂粉末を溶解し難いものであれば特に制限はないが、各種用途に適用した後の乾燥性の点から、低沸点のものが好ましい。アルコール類の炭素数は、好ましくは1〜4であり、特に好ましくは1〜3、殊に好ましくは1〜2である。炭素数が大きすぎると、溶液粘度が高くなり、溶解性が低下する傾向がある。
【0034】
アルコール類の価数は、好ましくは1〜4であり、特に好ましくは1〜3、殊に好ましくは1〜2である。価数が大きすぎると、溶解性が低下する傾向がある。また、アルコール類の沸点は、好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは60〜90℃、殊に好ましくは60〜70℃である。沸点が高すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。
【0035】
アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどの一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの二価アルコール;グリセリンなどの三価アルコールなどが挙げられ、これらの中でもメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールが好ましく、エタノール、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
【0036】
アルコール類の使用量は、PVA系樹脂粉末100重量部に対して、好ましくは50〜1000重量部であり、特に好ましくは100〜800重量部、殊に好ましくは150〜700重量部である。なお、アルコール類は一種類または二種類以上を用いることができる。また、アルコール類には、本発明の目的を阻害しない範囲で、水や他の溶媒が含まれていても良い。
【0037】
〔樹脂粉末溶解工程〕
本工程では、分散液調製工程で調製された分散液と水とを混合してPVA系樹脂粉末を溶解する。分散液と水とを混合するに際しては、分散液を水中に投入するか、あるいは分散液中に水を投入する。分散液または水を投入するに際しては、水または分散液を撹拌しながら、分散液または水を滴下などの方法で徐々に添加することが好ましい。
【0038】
水または分散液の投入を完了して、分散液と水とを混合したときの水/アルコール類の重量比は、99/1〜50/50であり、好ましくは90/10〜60/40である。アルコール類が多すぎると、PVA系樹脂粉末が溶解し難くなったり、溶解したPVA系樹脂が析出したりして、水溶液が白濁する傾向がある。アルコール類が少なすぎると、PVA系樹脂粉末のママコが形成され易くなる傾向がある。
【0039】
水または分散液の投入後は、更に撹拌を行ない、必要に応じて昇温を行なって、分散液中のPVA系樹脂粉末を溶解する。溶解時には混合溶媒を高温にすることで溶解時間の短縮化が可能となる。溶解時の混合溶媒の温度は、通常、10〜100℃である。なお、PVA系樹脂が一般式(1)で表される構造単位を含有するPVA系樹脂である場合、混合溶媒の温度が10〜30℃でも溶解が可能である。
【0040】
溶解に要する時間は、溶解温度とトレードオフの関係にあり、高温短時間か、低温長時間かを適宜選択することができる。具体例には、好ましくは0.1〜10時間であり、特に好ましくは0.2〜5時間である。
【0041】
以上の分散液調製工程、および樹脂粉末溶解工程を経て製造されたPVA系樹脂水溶液におけるPVA系樹脂濃度は、好ましくは1〜30重量%であり、特に好ましくは3〜20重量%、殊に好ましくは5〜15重量%である。PVA系樹脂濃度が高すぎると、溶液粘度が高くなりすぎ、作業性が低下する傾向がある。PVA系樹脂濃度が低すぎると、用途によっては溶液を多量に用いる必要が生じ、乾燥負荷が大きくなる傾向がある。
【0042】
本発明の製造方法により製造されたPVA系樹脂水溶液は、バリアコーティング剤、塗料、紙コート剤、接着剤、保護膜の形成材料、親水コート剤などに利用することができる。また、本発明によるPVA系樹脂水溶液は、水/アルコール類の混合溶媒中にPVA系樹脂が溶解しているので、各種基材への濡れ性の向上、および後工程として必要な乾燥工程の効率化(乾燥時間の短縮化)が期待できる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
【0044】
〔実施例1〕
<PVA系樹脂粉末(A1)の調製>
還流冷却器、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0045】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするPVA系樹脂粉末を調製した。
【0046】
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、450であった。また、一般式(1’)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。また、PVA系樹脂粉末の平均粒径は400μmであった。
【0047】
<PVA系樹脂水溶液の製造>
得られたPVA系樹脂粉末(A1)100gをエタノール360g中に添加し、2分間攪拌して分散液とした。かかる分散液(25℃)に、水540gを攪拌しながら60秒かけて添加し、さらに攪拌を続けた。60分後、完全に溶解し、均一なPVA系樹脂水溶液(濃度:10%、水/エタノール=60/40)が得られた。
【0048】
〔実施例2〕
<PVA系樹脂粉末(A2)の調製>
還流冷却器、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.5部、メタノール20.5部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン11.0部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.255モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が92%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0049】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度50%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して12ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするPVA系樹脂粉末を調製した。
【0050】
得られたPVA系樹脂のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、350であった。また、一般式(1’)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、H−NMR(300MHz プロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、8モル%であった。また、PVA系樹脂粉末の平均粒径は500μmであった。
【0051】
<PVA系樹脂水溶液の製造>
得られたPVA系樹脂粉末(A2)50gをイソプロピルアルコール(IPA)190g中に添加し、2分間攪拌して分散液とした。かかる分散液(25℃)に、水760gを攪拌しながら60秒かけて添加し、さらに攪拌を続けた。60分後、完全に溶解し、均一なPVA系樹脂水溶液(濃度:5%、水/IPA=80/20)が得られた。
【0052】
〔比較例1〕
実施例1で用いたPVA系樹脂粉末(A1)100gを水/エタノール=60/40の混合溶媒900gに攪拌しながら徐々に添加し、その後、25℃で60分間攪拌を続けた。しかし、PVA系樹脂粉末は完全には溶解せず、ママコが溶け残りとして存在していた。