特許第5916479号(P5916479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916479
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ガスタービンおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/047 20060101AFI20160422BHJP
   F02C 7/042 20060101ALI20160422BHJP
   F02C 7/057 20060101ALI20160422BHJP
   F02C 9/22 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   F02C7/047
   F02C7/042
   F02C7/057
   F02C9/22 B
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-80131(P2012-80131)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-209917(P2013-209917A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】阿野 繁
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慶太
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−173459(JP,A)
【文献】 特開平01−151727(JP,A)
【文献】 特開2010−216476(JP,A)
【文献】 特開2007−040171(JP,A)
【文献】 特開2001−123852(JP,A)
【文献】 特開平08−082228(JP,A)
【文献】 特開平06−033795(JP,A)
【文献】 特開昭60−113034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/04, 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、燃焼器、およびタービンと、
前記圧縮機の入口に設けられて、負荷に応じてその開度が制御され、前記圧縮機に流入する空気量を調整する入口案内翼と、
流量制御弁が設けられ、前記圧縮機で加圧された空気の一部を、アンチアイシング動作時に前記圧縮機の上流側に戻す抽気管と、を備えたガスタービンであって、
アンチアイシング動作時に前記抽気管を介して前記圧縮機の上流側に戻される空気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御する制御器を備え
前記制御器は、前記ガスタービンの負荷値に応じた量の燃焼用空気を生成できる前記入口案内翼の開度指令値を求め、前記圧縮機の吸気温度に対する減少関数から前記流量制御弁の弁開度指令値を求め、該弁開度指令値に対する増加関数から求められる係数値を前記入口案内翼の開度指令値に加算することを特徴とするガスタービン。
【請求項2】
前記制御器は、前記圧縮機の車室圧の変化により変化する抽気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御することを特徴とする請求項1に記載のガスタービン。
【請求項3】
前記制御器は、前記圧縮機の吸気温度に対する増加関数である補正関数による係数値を、前記ガスタービンの負荷値に対して乗算することを特徴とする請求項1または2に記載のガスタービン。
【請求項4】
前記制御器は、前記入口案内翼の開度に前記圧縮機の性能に基づいて決められる上限値を設けることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガスタービン。
【請求項5】
圧縮機、燃焼器、およびタービンと、
流量制御弁が設けられ、前記圧縮機の入口に設けられて、負荷に応じてその開度が制御され、前記圧縮機に流入する空気量を調整する入口案内翼と、
前記圧縮機で加圧された空気の一部を、アンチアイシング動作時に前記圧縮機の上流側に戻す抽気管と、を備えたガスタービンの制御方法であって、
前記ガスタービンの負荷値に応じた量の燃焼用空気を生成できる前記入口案内翼の開度指令値を求め、前記圧縮機の吸気温度に対する減少関数から前記流量制御弁の弁開度指令値を求め、該弁開度指令値に対する増加関数から求められる係数値を前記入口案内翼の開度指令値に加算することで、アンチアイシング動作時に前記抽気管を介して前記圧縮機の上流側に戻される空気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御することを特徴とするガスタービンの制御方法。
【請求項6】
前記圧縮機の車室圧の変化により変化する抽気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御することを特徴とする請求項に記載のガスタービンの制御方法。
【請求項7】
前記圧縮機の吸気温度に対する増加関数である補正関数による係数値を、前記ガスタービンの負荷値に対して乗算することを特徴とする請求項5または6に記載のガスタービンの制御方法。
【請求項8】
前記入口案内翼の開度に前記圧縮機の性能に基づいて決められる上限値を設けることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載のガスタービンの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンおよびその制御方法に関する。より詳しくは、アンチアイシング機能を備えたガスタービンおよびそのガスタービンの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンチアイシング機能、つまり圧縮機入口部の氷結を防止したり、同入口部に降り積もった雪を溶かしたりする機能を備えたガスタービンとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。特許文献1に開示された技術では、圧縮機で生成された高温の加圧空気の一部を抽気管により圧縮機入口ダクトに導くように構成される。なお、圧縮機入口ダクトに導かれる加圧空気の量を、圧縮機入口ダクト内の温度に基づいて自動制御する技術についても周知である。
【0003】
図8はアンチアイシング機能を備えた従来のガスタービンの概略の構成を示す図である。
【0004】
図8に示すように、従来のガスタービン100は、圧縮機2、燃焼器3、タービン4、ダクト6、抽気管8、温度センサー42、流量制御弁11および制御器5Aなどを備える。
制御器5Aは、温度センサー42で検出したダクト6内の温度に基づき、流量制御弁11の開度を制御することで、圧縮機2から抽気管8によりダクト6に導かれる高温の加圧空気の量を制御する。これによりアンチアイシング動作を行うようになっている。
【0005】
ガスタービン100のアンチアイシング動作について説明する。
ガスタービン100の運転中は、温度センサー42はダクト6内の温度を検出し、吸気温度値Tとして制御器5Aに出力している。制御器5Aは、吸気温度値Tに基づいて、次述の特性を有する弁開度指令値Vを出力し、流量制御弁11の弁開度を制御する。
即ち、ダクト6内に氷結を生じる虞のある状況下で、吸気温度値Tが低い場合は、流量制御弁11の弁開度を大きく制御する。これにより、ダクト6に導かれる加圧空気の量を多くし、アンチアイシングの度合いを強める。また、吸気温度値Tがそれほど低くない場合は、流量制御弁11の弁開度を小さくし、アンチアイシングの度合いを弱める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−33795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したガスタービン100では、アンチアイシング動作時に圧縮機2からアンチアイシング用の加圧空気を抽気している。このため、アンチアイシング動作時に燃焼器3に供給される燃焼用の加圧空気は、抽気した分だけ減ることになる。つまり設計値の燃空費と実際の燃空費とに差が生じることになり、このことは、燃焼振動やエミッション変化を引き起こす要因となる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、アンチアイシング動作時に生じ得る燃焼振動やエミッション変化を防止することのできるガスタービンおよびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係るガスタービンは、圧縮機、燃焼器、およびタービンと、前記圧縮機の入口に設けられて、負荷に応じてその開度が制御され、前記圧縮機に流入する空気量を調整する入口案内翼と、流量制御弁が設けられ、前記圧縮機で加圧された空気の一部を、アンチアイシング動作時に前記圧縮機の上流側に戻す抽気管と、を備えたガスタービンであって、アンチアイシング動作時に前記抽気管を介して前記圧縮機の上流側に戻される空気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御する制御器を備え、前記制御器は、前記ガスタービンの負荷値に応じた量の燃焼用空気を生成できる前記入口案内翼の開度指令値を求め、前記圧縮機の吸気温度に対する減少関数から前記流量制御弁の弁開度指令値を求め、該弁開度指令値に対する増加関数から求められる係数値を前記入口案内翼の開度指令値に加算する
【0009】
本発明に係るガスタービンによれば、アンチアイシング動作時に流量制御弁が設けられた抽気管を介して圧縮機の上流側に戻される空気量を補うように、入口案内翼の開度を制御する制御器、即ち、アンチアイシング動作時に抽気管を介して圧縮機の上流側に戻される空気量相当分だけ、圧縮機に流入する空気量が増加するように、入口案内翼の開度を大きくなる方向に制御する制御器が設けられていることになる。制御器は、ガスタービンの負荷値に応じた量の燃焼用空気を生成できる入口案内翼の開度指令値を求め、圧縮機の吸気温度に対する減少関数から流量制御弁の弁開度指令値を求め、該弁開度指令値に対する増加関数から求められる係数値を入口案内翼の開度指令値に加算する。
これにより、例えば、吸気温度が低く、抽気管を介して燃焼用空気が多量に抜き出されるような場合でも、入口案内翼の開度が大きくなる方向に制御されることになり、燃焼器に供給される燃焼用空気の減少を防止することができる。その結果、アンチアイシング動作時に生じ得る燃焼振動やエミッション変化を防止することができる。
なお、エミッション変化とは、次の状態をいう。即ち、燃焼用空気に対する燃料の割合が大きくなったときに、燃焼温度が上がり、NOxが増えてCOが減る状態のことである。本発明では、燃焼器に供給される燃焼用空気がアンチアイシング動作時に補充されるため、アンチアイシング動作時と非動作時とで、エミッションレベルは、ほぼ同等になる。
【0010】
上記ガスタービンにおいて、前記制御器が、前記圧縮機の車室圧の変化により変化する抽気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御するように構成されているとさらに好適である。
【0011】
これにより、例えば車室圧が高く、抽気量が多いときでも、これを補うように入口案内翼の開度を大きく開けて、抽気により減った空気量を補充することができるので、より安定した燃焼を実現できるようになる。
【0012】
上記ガスタービンにおいて、制御器が、前記圧縮機の吸気温度に対する増加関数である補正関数による係数値を、前記ガスタービンの負荷値に対して乗算するとさらに好適である。
上記ガスタービンにおいて、前記制御器が、前記入口案内翼の開度に前記圧縮機の性能に基づいて決められる上限値を設けるとさらに好適である。
本発明に係るガスタービンの制御方法は、圧縮機、燃焼器、およびタービンと、流量制御弁が設けられ、前記圧縮機の入口に設けられて、負荷に応じてその開度が制御され、前記圧縮機に流入する空気量を調整する入口案内翼と、前記圧縮機で加圧された空気の一部を、アンチアイシング動作時に前記圧縮機の上流側に戻す抽気管と、を備えたガスタービンの制御方法であって、前記ガスタービンの負荷値に応じた量の燃焼用空気を生成できる前記入口案内翼の開度指令値を求め、前記圧縮機の吸気温度に対する減少関数から前記流量制御弁の弁開度指令値を求め、該弁開度指令値に対する増加関数から求められる係数値を前記入口案内翼の開度指令値に加算することで、アンチアイシング動作時に前記抽気管を介して前記圧縮機の上流側に戻される空気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御するようにした。
【0013】
上記ガスタービンの制御方法において、前記圧縮機の車室圧の変化により変化する抽気量を補うように、前記入口案内翼の開度を制御するようにするとさらに好適である。
上記ガスタービンの制御方法において、前記圧縮機の吸気温度に対する増加関数である補正関数による係数値を、前記ガスタービンの負荷値に対して乗算するとさらに好適である。
上記ガスタービンの制御方法において、前記入口案内翼の開度に前記圧縮機の性能に基づいて決められる上限値を設けるとさらに好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るガスタービンおよびその制御方法によれば、アンチアイシング動作時に生じ得る燃焼振動やエミッション変化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るガスタービンの概略の構成を示す図である。
図2】第1補正関数において使用されるチャートである。
図3】第2補正関数において使用されるチャートである。
図4】第3補正関数において使用されるチャートである。
図5】第4補正関数において使用されるチャートである。
図6】第5補正関数において使用されるチャートである。
図7】第6補正関数において使用されるチャートである。
図8】従来のガスタービンの概略の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るガスタービンについて、図1から図7を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係るガスタービンの概略の構成を示す図、図2は第1補正関数において使用されるチャート、図3は第2補正関数において使用されるチャート、図4は第3補正関数において使用されるチャート、図5は第4補正関数において使用されるチャート、図6は第5補正関数において使用されるチャート、図7は第6補正関数において使用されるチャートである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係るガスタービン1は、圧縮機2、燃焼器3、タービン4および制御器5を主たる要素として構成され、回転軸10に連結された発電機9を駆動するように構成される。
【0018】
圧縮機2は、吸気した空気から加圧空気を生成し、後段の燃焼器3にこの加圧空気を供給する要素であり、その上流側には、入口に吸気フィルター(図示せず)を備えたダクト6が接続されている。ダクト6の内部には、温度センサー42が設けられている。温度センサー42は、ダクト6に吸気される空気の温度を検出し、吸気温度値Tとして制御部5に出力するようになっている。
また、圧縮機2は抽気管8を備えている。抽気管8は、圧縮機2で加圧された空気の一部を、圧縮機2の上流側、即ちダクト6へ戻し、吸気フィルターに噴射するように構成されている。抽気管8の途中には流量制御弁11が設けられている。流量制御弁11は、制御器5から出力された弁開度指令値Vによりその開度が制御されるようになっている。
また、圧縮機2の車室内には、車室圧センサー44が設けられており、検出した車室圧を、車室圧Pとして出力している。
また、圧縮機2は、その入口に入口案内翼(IGV:Inlet Guide Vane)12を備えている。入口案内翼12は、ガスタービンの負荷に応じて、圧縮機2に吸気される空気量を調整する可変翼であり、IGV駆動部45によって駆動制御されている。ガスタービンの負荷は、発電機9に設けられた発電機出力検出器41から負荷値Wとして出力されている。
【0019】
燃焼器3は、圧縮機2で生成した加圧空気を可燃性燃料と共に燃焼させて加熱燃焼ガスを生成するための要素である。
【0020】
タービン4は、燃焼器3で生成した加熱燃焼ガスによって回転駆動される要素である。
【0021】
制御器5は、流量制御弁11の弁開度を制御するための弁開度指令値Vと、入口案内翼12の開度を制御するためのIGV開度指令値Sとを生成するものである。弁開度指令値Vは、吸気温度値Tに基づいて算出される。IGV開度指令値Sは、ガスタービン1においては、負荷値Wの他に、吸気温度値Tと車室圧Pにも基づいて算出される。
制御器5は、具体的には、第1補正関数FX01、第2補正関数FX02、第3補正関数FX03、第4補正関数FX04、第5補正関数FX05、第6補正関数FX06、加算部24、第1乗算部22、第2乗算部32および低値選択部25を備えている。
【0022】
各補正関数FX01〜FX06の機能概要について説明する。
【0023】
〔FX01〕
第1補正関数FX01は、ガスタービン1の負荷に応じた量の燃焼用空気が生成できるような、IGV開度を求める関数である。例えば、小負荷時にIGV開度を小さくすることで圧縮機2の吸気流量を減らし、大負荷時にIGV開度を大きくすることで圧縮機2の吸気流量を増やす機能を持たせている。第1補正関数FX01は、基本的には、図2に示すように、入力される負荷値Wに対する増加関数である。即ち、小さい負荷に対しては小さい係数値Jを出力し、大きい負荷に対しては大きい係数値Jを出力する。
【0024】
〔FX02〕
第2補正関数FX02は、圧縮機2の吸気温度に変化があった場合でも、圧縮機2に吸気される空気の質量流量を、設計基準温度時と同等にする機能を持たせる関数である。第2補正関数FX02は、基本的には、図3に示すように、入力される吸気温度値Tに対する増加関数である。即ち、低い吸気温度に対しては小さい係数値Nを出力し、高い吸気温度に対しては大きい係数値Nを出力する。
第1乗算器22において、入力される負荷値Wに第2補正関数FX02から出力された係数値Nを乗算することで、例えば低気温時は負荷を見かけ上小さくしてIGV開度を閉まり気味とする。これにより、気温低下による空気密度の増加に伴う、空気の質量流量の増加を抑え、圧縮機2に吸気される空気の質量流量を、設計基準温度時と同等となるようにしている。反対に、例えば高気温時は負荷を見かけ上大きくしてIGV開度を開き気味とする。これにより、気温上昇による空気密度の低下に伴う、空気の質量流量の低下を補い、圧縮機2に吸気される空気の質量流量を、設計基準温度時と同等となるようにしている。
【0025】
〔FX03〕
第3補正関数FX03は、IGV開度に上限値Rを設けるための関数である。上限値Rは主に圧縮機2の性能に基づいて決められる。圧縮機2では、IGV開度が大きい場合に、多量の空気が吸気されて空気密度が増大することによるサージング現象(圧縮機失速)を起こすことがある。この上限値Rは該サージング現象を抑える手段として機能する。
低値選択部25において、IGV開度指令値Sの基となる係数値Jと上限値Rとが比較され、係数値Jが上限値Rよりも大きい場合には、IGV開度指令値Sとしてこの上限値Rが出力される。
第3補正関数FX03としては、圧縮機2の吸気温度が低くなるに従い、上限値Rを小さくする形態が用いられることもあるが、本実施形態では、図4に示すように、一定値としている。
【0026】
〔FX04〕
第4補正関数FX04は、アンチアイシング動作時に抽気管8を介して圧縮機2の上流側に戻される空気量を補うように、IGV開度を制御するのに使う関数である。基本的には、図5に示すように、入力される弁開度指令値V(詳細は後述の「FX06」欄参照)に対する増加関数である。即ち、小さい弁開度指令値Vに対しては小さい係数値Mを出力し、大きい弁開度指令値Vに対しては大きい係数値Mを出力する。
加算部24において、IGV開度指令値Sの基となる係数値Jに、係数値Mを加算する。これにより、入口案内翼12は、抽気量の多い低気温時は開き気味となるように制御され、燃焼器に供給される燃焼用空気が補われる。つまりアンチアイシングのために抽気されて減った空気量が補われる。なお、第4補正関数FX04は、吸気温度値Tに対する増加関数となっている。
【0027】
〔FX05〕
第5補正関数FX05は、アンチアイシング動作時のIGV開度に、車室圧の観点から補正を設ける関数である。より詳しくは、流量制御弁11が同じ弁開度であっても、抽気される空気流量が車室圧によって異なるという現象から生じる不都合を緩和するための関数である。例えば車室圧が高いときには、燃焼器3へ供給される燃焼用空気が必要以上に減るので、これを防ぐために使用される。第5補正関数FX05は、基本的には、図6に示すように、入力される車室圧Pに対する増加関数である。車室圧が高いと、流量制御弁11の弁開度が変わらなくても、抽気量が多くなるから、これを補うように入口案内翼12を大きく開けて、高車室圧の影響により減少した空気を補充するようにしている。なお、この補正量は、第4補正関数FX04によるものに対して十分に小さく、系が発散することはない。
【0028】
〔FX06〕
第6補正関数FX06は、圧縮機2の吸気温度に応じてアンチアイシングの度合いを制御するための関数である。基本的には、図7に示すように、入力される吸気温度値Tに対する減少関数である。即ち、低い吸気温度に対しては大きい弁開度指令値Vを出力し、高い吸気温度に対しては小さい弁開度指令値Vを出力する。この弁開度指令値Vに応じた開度値を流量制御弁11に出力し、その開度制御を行う。吸気温度が境界温度T0を超えるときは、氷結の虞が無いと判断し、機能させないようになっている。
【0029】
次にガスタービン100のアンチアイシング動作について説明する。
【0030】
ガスタービン100は、アンチアイシングが必要とされない状況下で定常負荷運転中であるとする。
温度センサー42は、ダクト6内の温度を検出し、吸気温度値Tとして制御器5に送信している。発電機出力検出器41は、発電機9の出力を検出し、負荷値Wとして制御器5に送信している。車室圧センサー44は、圧縮機2における車室内の圧力を検出し、車室圧Pとして制御器5に送信している。
【0031】
この状態で、圧縮機2における吸気温度が境界温度T0以下に低下したとする。つまりアンチアイシングが必要とされる状況である。制御器5では、温度センサー42から送信された吸気温度値Tを基に、第6補正関数FX06で弁開度指令値Vを算出して、流量制御弁11に送信する。流量制御弁11は、この弁開度指令値Vに応じた弁開度に制御され、氷結防止に必要な量の高温の加圧空気がダクト6に供給される。これによりアンチアイシング動作が行われる。
【0032】
このとき、制御器5は、抽気されてダクト6に供給された空気量相当分だけ、圧縮機2に流入する空気量が増加するように、入口案内翼12の開度を大きくなる方向に補正制御する。具体的には、入口案内翼12がIGV駆動部45により駆動される。駆動のための信号はIGV開度指令値Sである。ここでIGV開度指令値Sは、負荷値Wを基に得た信号に、加算部24において係数Mを加算している。この係数Mが、上記補正制御分に相当する。弁開度指令値Vが大きくなれば、第4補正関数FX04の性質上、信号Mも大きくなる。これにより、入口案内翼12は、抽気量の多い低気温時は開き気味となるように制御され、燃焼器に供給される燃焼用空気が補われる。つまり抽気により減った圧縮機2の吸気量が補われる。IGV開度をΔSだけ増加させたときの吸気空気の増加量をΔDとし、アンチアイシングのための抽気量をΔVとしたとき、ΔD=ΔVとなるようにIGV開度指令値Sは定められている。
【0033】
このように、ガスタービン1によると、吸気温度が低く、抽気管8を介して燃焼用空気が多量に抜き出されるような場合でも、入口案内翼12の開度が大きくなる方向に制御されることになり、燃焼器3に供給される燃焼用空気の減少を防止することができる。その結果、アンチアイシング動作時に生じ得る燃焼振動やエミッション変化を防止することができる。
【0034】
また、IGV開度指令値Sは、第1乗算器22で吸気温度値Tを負荷値Wに乗算することにより温度補正が行われる。これにより、圧縮機2の吸気温度に変化があった場合でも、圧縮機2に吸気される空気の質量流量を、設計基準温度時と同等にする機能を持たせることができる。従って、より安定した燃焼を実現できるようになる。
【0035】
また、IGV開度指令値Sは、第3補正関数FX03により、IGV開度に上限が設けられるため、空気密度増大によるサージング現象を防止することができる。
【0036】
また、IGV開度指令値Sにおける補正の基となる係数Mは、車室圧の観点からも補正が設けられている。例えば車室圧Pが高く、抽気量が多いときでも、これを補うように入口案内翼12の開度を大きく開けて、抽気により減った空気量を補充することができるので、より安定した燃焼を実現できるようになる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形・変更実施可能である。例えば、上述した実施形態では、アンチアイシングの要否判断を吸気温度値Tに基づいて行っていたが、大気温度や湿度などを用いて行うことも可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 ガスタービン
2 圧縮機
3 燃焼器
4 タービン
5 制御器
8 抽気管
11 流量制御弁
12 入口案内翼
P 車室圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8