特許第5916505号(P5916505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916505ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916505
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20160422BHJP
【FI】
   A23L1/337 103A
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-106763(P2012-106763)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-233100(P2013-233100A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】512119768
【氏名又は名称】小西 正宏
(73)【特許権者】
【識別番号】599013979
【氏名又は名称】株式会社ベルリッチ
(74)【代理人】
【識別番号】100089406
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏
(72)【発明者】
【氏名】小西 正宏
(72)【発明者】
【氏名】高柳 富男
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−286079(JP,A)
【文献】 特開2000−270816(JP,A)
【文献】 特開2006−217809(JP,A)
【文献】 特開平11−299420(JP,A)
【文献】 特開平7−8221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00−35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも10相対%のω3系列高度不飽和脂肪酸を含有する原料油を精製後分子蒸留或いは水蒸気蒸留を行って脱臭処理を行った油100重量部に対し、20から400重量部のオリーブ油を配合し、この配合油を食塩含有の板状の海苔100重量部に対し5〜100重量部塗布することを特徴とするω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔の製造方法。
【請求項2】
ω3系列高度不飽和脂肪酸を含有する原料油がイワシ油、マグロ油、鮭油、カツオ油、アザラシ油、オキアミ油、藻油から抽出された油から選ばれる1種又は種以上の混合油である請求項1記載のω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドコサヘキサエン酸(以下「DHA」という)やエイコサペンタエン酸(以下「EPA」という)或いはドコサペンタエン酸(以下「DPA」という)等のω3系列高度不飽和脂肪酸(以下、単に高度不飽和脂肪酸という)を含有した味付け海苔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油中に含まれるω3系列高度不飽和脂肪酸(高度不飽和脂肪酸)は、脳・神経細胞の発達、網膜の発達、学習能力・視覚機能の向上発達作用、血流の改善、情緒安定化、中性脂肪値低下作用、コレステロール低下作用、血小板凝集抑制作用、血液粘度低下作用、赤血球変形能の増進、抗ガン作用、うつ病抑制作用、痴呆症抑制作用、抗炎症作用等私たちの体にとって重要な役割を果たしており、種々の食品に広く利用されている。
しかしながら、高度不飽和脂肪酸を含有する油には独特な臭いがある場合が多いことと高度不飽和脂肪酸は分子内に多くの二重結合を有するため酸化されやすいという欠点がある。これらの欠点を改良して例えば特許文献1にはDHAを主成分とする魚油と柑橘類のジュースとを混合して懸濁物をつくり、この懸濁物をパン生地に添加調整し、捏処理を行ってパン類を製造する方法が開示されている。特許文献2には、DHAを含有する精製油と柑橘類のジュースとの懸濁液に食用植物油および酸化防止剤よりなる成分を添加、得られた混合物を例えばゼラチンの如き被包剤をもってカプセル状とした炊飯用または調理用DHAについて記載されている。特許文献3には、DHAを乳化した後これを大豆由来の食品素材に吸着させて高機能を有する食品素材を製造する方法が開示されている。
他方、海苔は身近な海産物の一つであり、たんぱく質、食物繊維、ビタミン類、カルシウム、EPA、タウリン、β−カロテン、アミノ酸などが豊富に含まれた栄養に富んだ食材である。そして、この海苔に種々の調味料を塗布した海苔は味付け海苔として、或いは植物油脂(ゴマ油またはコーン油)を塗布した海苔は韓国味付け海苔として知られている。(特許文献4、5)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−274806号公報
【特許文献2】特開2000−217512号公報
【特許文献3】特開2008−193930号公報
【特許文献4】特開2003−135036号公報
【特許文献5】特開2004−305020号公報
【0004】
高度不飽和脂肪酸を含有する油には独特な臭いがある場合が多いことと高度不飽和脂肪酸は分子内に多くの二重結合を有するため酸化されやすいという欠点がある。通常、かような油を海苔に塗布しても独特な臭と酸化を抑えることができないし、仮に塗布直後は臭いが軽減された場合でも日時が経つことによって臭いが発生し、酸化が進行し人の体にとって有害となってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように極めて有用な高度不飽和脂肪酸含有油を簡単な手段によって摂取できるような食材を得るべく種々検討した結果、高度不飽和脂肪酸含有油をオリーブ油と配合することによって酸化を防ぎ、これを海苔に塗布することによって高度不飽和脂肪酸含有油を豊富に含有した食材を得ることを見出し本発明を完成したもので、本発明の目的は有用な高度不飽和脂肪酸含有油を含んだ摂取しやすい食材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、少なくとも10相対%のω3系列高度不飽和脂肪酸を含有する原料油を精製後分子蒸留或いは水蒸気蒸留を行って脱臭処理を行った油100重量部に対し、20から400重量部のオリーブ油を配合し、この配合油を食塩含有の板状の海苔100重量部に対し5〜100重量部塗布することを特徴とするω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上述の方法によって、身近な食材である海苔に多種多様な効果を持つEPA、DHA、DPAの如きω3系列高度不飽和脂肪酸を付与することができ、長期間魚臭を発することなくω3系列高度不飽和脂肪酸を摂取できる食材を提供することができたのである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について詳細に述べる。
本発明における少なくとも10相対%とは当該油をガスクロマトグラフィーにて分析し,EPA、DHA,DPAの各ピーク面積の和を全体のピーク面積の総和で割った割合が10%以上であるという意味である。脂肪酸組成値は、通常相対%で表示される。当該油として具体的にはイワシ油、マグロ油、鮭油、カツオ油等の魚油またはアザラシ油、オキアミ油、藻類から抽出された油の1種又は2種以上の混合油から選ばれる。
本発明においては上述の原料油を公知の方法による精製方法に加えて分子蒸留或いは水蒸気を行って脱臭処理を行った油を使用する。この精製油中には少なくとも10相対%の高度不飽和脂肪酸を含有する。また、この精製油には一般的に抗酸化剤としてビタミンE、カテキン、ビタミンC等が添加されている。
【0009】
本発明で使用するオリーブ油は市販の未精製品から精製品いずれでも可能である。オリーブ油の主成分はオレイン酸トリグリセライドからなり、微量成分としてα―トコフェノール、ポリフェノール化合物、カロチン、β−シトステロール、シトスタノール等の天然抗酸化物質を含有する。これらの抗酸化物質が高度不飽和脂肪酸の酸化を抑制すると共に、オリーブ油特有の香気を有するので、本願発明は高度不飽和脂肪酸を含有すると共に風味の優れた海苔を製造することができたものと考えられる。
【0010】
本発明は上記高度不飽和脂肪酸含有油100重量部に対して20〜400重量部のオリーブ油を配合することによって酸化安定性に優れた高度不飽和脂肪酸含有油―オリーブ油からなる混合油が形成される。オリーブ油の添加量が20重量未満では酸化安定性の優れた混合油にはならず、また、400重量部を超えた量では高度不飽和脂肪酸の含有量が少なくなり過ぎる。好ましい配合割合としては高度不飽和脂肪酸含有油100重量部に対してオリーブ油30〜300重量部である。この混合油に所望により、通常味付け海苔に使用する調味料を添加してもよく、更に、酸化防止剤等を添加してより長期間に保存できるようにしても良い。
【0011】
本発明で使用する海苔は通常味付け海苔として使用する薄片状の海苔であって、これの少なくとも一面に上述のオリーブ油―高度不飽和脂肪酸含有油の混合油を塗布する。塗布量としては海苔100重量部に対して混合油5〜60重量部である。塗布量が5重量部未満では所期の目的を達成することができず、また、60重量部を超える量では油っぽくなり好ましくない。好ましい量は10〜60重量部である。
【0012】
本発明においては上記の混合油を薄片型板状の海苔の少なくとも一面に塗布することによって味付け海苔を製造する。塗布方法としてはどのような方法でも良いが、公知方法として知られている例えば混合油をスポンジに含浸させ、これを薄片型板状の海苔の少なくとも一面に塗布するによって製造してもよい。
得られた製品は、通常の味付け海苔と同様に、出来得れば例えばアルミパウチの如き酸素を遮断する包装材で包装する。
【実施例】
【0013】
実施例1
マグロ眼窩から採取した油を公知の方法にて脱色、脱臭後真空薄膜蒸留法を5回繰り返すことにより精製マグロ油を得た。得られた精製魚油を更に臭いを無くすために水蒸気蒸留を実施し、脱臭精製マグロ油を得た。本マグロ油にビタミンE、ビタミンC、カテキンを適量加えた。得られた脱臭精製マグロ油は、DHAを27%、EPAを7%含有し、酸価が0.1、過酸化物価値が0.8meq/Kgの油であった。この油100gを精製オリーブ油110gと攪拌下配合し、オリーブ油−マグロ油混合物を得た。本オリーブ油−マグロ油混合物は、経時的に極めて安定で、缶中に封入し、常温で2ケ月経過放置しても酸価は勿論、過酸化物価値にもほとんど変化は認められなかった。上記混合油1.4gを1枚あたり食塩0.3gと3.0gの薄型板状海苔に公知の方法にて塗布しω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を得た。
本ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を分析した結果、次のような数値を得た。酸価:0.1、過酸化物価:1.1meq/Kg、以下各数値は100g当たりの数値である。水分:1.0g、たんぱく質:35.7g、脂質:31.7g、糖質:1.5g、灰分:10.6g、食物繊維:19.5g、食塩:4.02g、鉄:8.35mg、マグネシウム:264mg、ビタミンA:4230μg、EPA:1.77g、DHA:2.18gであった。
この味付け海苔4枚を32片にし、アルミパウチで包装し、3ケ月後の酸価は、0.11、過酸化物価値は、1.2meq/Kgであった。
【0014】
実施例2
真イワシから採取した油を公知の方法にて脱色、脱臭後真空薄膜蒸留法を3回繰り返すことにより精製イワシ油を得た。得られた精製魚油にビタミンE、ビタミンCを添加し、脱臭精製イワシ油を得た。得られた脱臭精製イワシ油は、DHA12%、EPA18%含有する酸価が0.1、過酸化物価値が1.5meq/Kgの油であった。本脱臭精製イワシ油100gをバージンオリーブ油30gに攪拌下配合し、オリーブ油―イワシ油を得た。本混合油2.5gを実施例1と同様な方法にて食塩0.1g含有する薄型板状味付け海苔3gに塗布し、ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を得た。
【0015】
実施例3
鮭から採取した油を公知の方法にて脱色、脱臭後真空薄膜蒸留法を4回繰り返すことにより精製鮭油を得た。得られた精製鮭油にビタミンE、ビタミンC、カテキンを適量添加し、更に臭いを無くすために水蒸気蒸留を実施し、脱臭精製鮭油を得た。得られた脱臭精製鮭油は、EPA:8%、DHA:8%、DPA:2%含有する酸価が0.1、過酸化物価値が1.2meq/Kgの油であった。
本脱臭精製鮭油100gをバージンオリーブ油150gに攪拌下配合し、オリーブ油―鮭油混合油を得た。本混合油2.5gを実施例1と同様な方法にて食塩0.3gを含有する薄型板状味付け海苔3gに塗布し、ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を得た。
【0016】
実施例4
カツオから採取した油を公知の方法にて脱色、脱臭後真空薄膜蒸留法を5回繰り返すことにより精製カツオ油を得た。得られた精製カツオ油を更に臭いを無くすために水蒸気蒸留を実施し、脱臭精製カツオ油を得た。得られた脱臭精製カツオ油にビタミンE、ビタミンCを適量添加し、EPA:15%、DHA:13%含有する酸価が0.11、過酸化物価値が1.2meq/Kgのややカツオ臭のする油を得た。本脱臭精製カツオ油100gをバージンオリーブ油400gに攪拌下配合し、オリーブ油―カツオ油混合油を得た。本混合油1.5gを実施例1と同様な方法にて食塩0.3gを含有する薄型板状味付け海苔3gに塗布し、ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を得た。
【0017】
実施例5
オキアミから抽出した油を公知の方法にて脱色、脱臭後真空薄膜蒸留法を5回繰り返すことにより精製オキアミ油を得た。得られた脱臭精製オキアミ油は、EPA:20%、DHA:15%含有する酸価が0.15、過酸化物価値が1.5meq/Kgのやや海老煎餅臭のするリン脂質を含有する油であった。本脱臭精製オキアミ油100gをバージンオリーブ油30gに攪拌下配合し、オリーブ油―オキアミ油混合乳化状油を得た。本混合乳化状油0.5gを実施例1と同様な方法にて食塩0.1gを含有する薄型板状味付け海苔3gに塗布し、ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を得た。
【0018】
実施例6
クリプトコデニウム・コーニー(渦巻き鞭毛藻)から公知の方法にて抽出した藻類からの油を公知の方法にて脱色、脱臭後真空薄膜蒸留法を3回繰り返すことにより精製した藻類からの油を得た。得られた脱臭精製藻類からの油は、DHA:70%含有する酸価が0.12、過酸化物価値が1.2meq/Kgの油であった。本脱臭精製藻類からの油100gをバージンオリーブ油100gに攪拌下配合し、オリーブ油―藻類からの油の混合油を得た。本混合油3gを実施例1と同様な方法にて食塩0.2gを含有する薄型板状味付け海苔3gに塗布し、ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を得た。
【0019】
実施例7
アザラシ油を公知の方法にて脱色、脱臭後真空薄膜蒸留法を4回繰り返すことによって精製アザラシ油を得た。得られた脱臭精製アザラシ油は、DHA:8.6%、EPA:6.5%、DPA:4.5%含有する酸価が0.13、過酸化物価値が1.5meq/Kgの油であった。本脱臭精製アザラシ油100gを市販オリーブ油200gに攪拌下配合し、オリーブ油―アザラシ油の混合油を得た。本混合油2.5gを実施例1と同様な方法にて食塩0.1gを含有する薄型板状味付け海苔3gに塗布し、ω3系列高度不飽和脂肪酸含有味付け海苔を得た。上記実施例で出来上がったω3系列高度不飽和脂肪酸含有味海苔は、臭いが気にならなく、酸化安定性に優れた品であった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
上述したように、EPA、DHA、DPAの如き多様に健康に寄与するω3系列高度不飽和脂肪酸を子供から老人に至るまで安全に何時でも気軽に摂取可能な一般食品に添加することにより、結果的には国の医療費削減、個人的には長生きを付与できる素材を提供するものである。