(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916518
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】庇
(51)【国際特許分類】
E04F 10/08 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
E04F10/08
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-123015(P2012-123015)
(22)【出願日】2012年5月30日
(65)【公開番号】特開2013-249585(P2013-249585A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】591181562
【氏名又は名称】株式会社共和
(74)【代理人】
【識別番号】100078916
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 由充
(74)【代理人】
【識別番号】100142114
【弁理士】
【氏名又は名称】小石川 由紀乃
(72)【発明者】
【氏名】中川 実
【審査官】
小林 俊久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−052386(JP,A)
【文献】
特開2011−208489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 10/08
E04B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁面より合成樹脂製の庇板が張り出すように前記庇板の基端部が金属製の保持枠材に全幅にわたって保持されて成る庇において、
前記保持枠材は、建物の外壁面に固定される背板部と、背板部の前面に上下に対向して設けられる一対の保持板部とを一体に備え、上下の保持板部間に形成される保持溝は、庇板の基端部の厚さにほぼ一致する溝幅に形成されるとともに、背板部の前記保持溝に対応する部分に背板部の幅方向へ所定の間隔毎にビス通し孔が開設されており、
前記庇板は、基端部が前記保持溝中に基端面が背板部の前面に達する位置まで嵌挿され、前記ビス通し孔に対し背板部の背面側より、ネジ軸部の径が前記ビス通し孔の内径より小さく頭部の径がビス通し孔の内径より大きいビスが挿入されて、ビスのネジ軸部が庇板の基端面へねじ込まれて成る庇。
【請求項2】
前記庇板は、合成樹脂製の芯材の表裏両面にアルミニウムの薄板材が積層されて成るものである請求項1に記載された庇。
【請求項3】
前記保持枠材は、背板部の背面の各ビス通し孔の位置に、ビスの頭部が背板部の背面より突出しない溝深さの凹溝が背板部の全長にわたって一連に形成されている請求項1に記載された庇。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の外壁面より庇板が前方へ張り出すように設けられる庇に関するもので、この発明は特に、合成樹脂製の庇板の基端部が建物の外壁面に固定された金属製の保持枠材に全幅にわたって保持される庇に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は以前、その種の庇の保持枠材として、
図4に示すような、厚さが異なる庇板に対応できる構成のものを提案した。この保持枠材9は、庇板92の幅に相当する長さのL型形状の金属枠材より成る基板90と、その基板90上に配置される金属製の押さえ板91とで構成されている。基板90および押さえ板91は、庇板92の基端部を挟んだ状態で一体に保持するための水平板部93,94と、重ねられた状態で建物の外壁面に複数本のボルト95により一体に固定される垂直板部96,97とをそれぞれ備えている。
基板90の水平板部93は庇板92の基端部を下面より支え、押さえ板91の水平板部94は庇板92の基端部を上面より押さえ付けるもので、庇板92の基端部の下面と基板90の水平板部93の上面との間、および庇板92の基端部の上面と押さえ板91の水平板部94の下面との間は接着剤により接合されている。
【0003】
基板90の水平板部93と押さえ板91の水平板部94との間より庇板92が抜け出ないようにするために、押さえ板91の水平板部94の前端部に庇板92の基端部を貫通して基板90の水平板部93に達する複数個のネジ98が一定間隔毎にねじ込まれている。押さえ板91の水平板部94の前端部には各ネジ98のねじ込み位置にあらかじめ下孔が形成されており、ネジ98のねじ込みに際しては、庇板92の基端部の前記下孔の各位置にドリルにより同様の下孔が形成される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011―52386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した構成の保持枠材9において、基板90と押さえ板91との間に庇板92の基端部を挟着するには、基板90の水平板部93上に庇板92の基端部を支持させ、その上に押さえ板91を重ねて接着剤により接合する必要があり、基板90および庇板92に対する押さえ板91の位置決めや組付けに手数を要する。また、抜止めのためのネジ98をねじ込むに際して、押さえ板91の水平板部93に形成された下孔の各位置に合わせて、庇板92の基端部にドリルにより下孔を形成する必要があるため、作業工程が増し、作業効率が悪いという問題がある。
【0006】
この発明は、上記した問題に着目してなされたもので、押さえ板の位置決めや組付けが必要でなく、また、抜止めのためのビスを庇板の基端部にねじ込むのに、庇板に下孔を設ける必要がない庇を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による庇は、建物の外壁面より合成樹脂製の庇板が張り出すように前記庇板の基端部が金属製の保持枠材に全幅にわたって保持されて成るものである。前記保持枠材は、建物の外壁面に固定される背板部と、背板部の前面に上下に対向して設けられる一対の保持板部とを一体に備え、上下の保持板部間に形成される保持溝は、庇板の基端部の厚さにほぼ一致する溝幅に形成されるとともに、背板部の前記保持溝に対応する部分に背板部の幅方向へ所定の間隔毎にビス通し孔が開設されている。前記庇板は、基端部が前記保持溝中に基端面が背板部の前面に達する位置まで嵌挿され、前記ビス通し孔に対し背板部の背面側より、ネジ軸部の径が前記ビス通し孔の内径より小さく頭部の径がビス通し孔の内径より大きいビスが挿入されて、ビスのネジ軸部が庇板の基端面へねじ込まれている。
【0008】
上記した構成の庇において、保持枠材の保持溝の溝幅を庇板の基端部の厚さにほぼ一致させているので、庇板の基端部を保持溝に嵌挿することにより庇板の基端部は保持溝に緊密に嵌合される。保持枠材の背板部に開設されたビス通し孔に対し背板部の背面側よりビスを挿入して、ビスのネジ軸部を庇板の基端面へねじ込むとき、そのねじ込まれた部分において庇板が厚さ方向へ膨出しかつその膨出部分がビスと上下の保持板部との間で圧縮変形を受けるもので、これにより庇板の基端部が保持溝に一層緊密に嵌合し、かつビスのネジ軸部が庇板の基端部に噛み込む。この保持溝への庇板の緊密嵌合と、ビスのネジ軸部の庇板への噛込みとが庇板の抜け阻止力として作用し、庇板の保持溝からの抜けが阻止される。
【0009】
この発明の上記した構成において、庇板の軽量化をはかるために、庇板として合成樹脂製の庇板を用いるが、庇板として合成樹脂製の芯材の表裏両面にアルミニウムの薄板材が積層されたものを用いてもよい。
この実施態様によると、庇板の基端面に抜止めためのビスがねじ込まれると、合成樹脂製の芯材はそのねじ込まれた部分で厚さ方向へ膨らむように変形し、その芯材を覆うアルミニウムの薄板材は芯材の変形に伴って変形するので、庇板の基端部は保持溝に一層緊密に嵌合する。
【0010】
この発明の好ましい実施態様においては、前記保持枠材は、背板部の背面の各ビス通し孔の位置に、ビスの頭部が背板部の背面より突出しない溝深さの凹溝が背板部の全長にわたって一連に形成されている。
この実施態様によると、保持枠材をアルミニウムの引抜加工により成形することで凹溝を形成でき、引抜成形後に特別な溝加工が不要である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によると、保持枠材に庇板の基端部を保持するのに、従来例のように押さえ板の位置決めや組付けが必要でない。また、庇板の基端面に背板部の背面側より抜止めのためのビスをねじ込んで、そのねじ込まれた部分において庇板が厚さ方向へ膨出しかつその膨出部分がビスと上下の保持板部との間で圧縮変形を受けることにより庇板の基端部が保持溝に緊密嵌合し、かつビスのネジ軸部が庇板の基端部に噛み込むので、庇板に下孔を設ける必要がなく、作業効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の一実施例である庇の外観を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1および
図2は、この発明の一実施例である庇1の外観を示している。この実施例の庇1は、庇板2が建物の外壁面10から張り出すように設けられるもので、建物の外壁面10に固着された保持枠材3により前記庇板2の基端部が全幅にわたって保持されている。保持枠材3上にはカバー7が被せられ、両端には端板8,8がネジ止めされている。なお、張出し量や幅が大きな庇については、必要に応じて、庇板2の少なくとも1箇所をアームにより水平ないしは水平に近い状態で支持することも可能である。
【0014】
庇板2には、
図3に示すように、合成樹脂製の芯材20の表裏両面にアルミニウムの薄板材21が積層された積層複合材が用いられている。庇板2の先端縁および両側縁には水切り用の枠材4が複数個のビス41によって装着されている。この枠材4はアルミニウムの押出成形により形成されている。なお、庇板2には、上記の積層複合材に代えて、単層の合成樹脂板を用いることもできる。
【0015】
前記保持枠材3は、庇板2の幅とほぼ一致する長さを有し、アルミニウムの押出加工により形成されており、建物の外壁面10に背面を当接させてボルト6により固定される背板部30と、背板部30の前面の下端部に保持溝33を挟んで上下に対向して設けられる一対の保持板部31,32とを一体に備えている。背板部30には、各ボルト6を通すためのボルト通し孔36が所定の間隔で開設されている。なお、上下の保持板部31,32は突出長さが異なっているが、これに限らず、両者同じであってもよい。
【0016】
保持板部31,32間の保持溝33は、前面が全長にわたり開放されており、庇板2の基端部の厚さtにほぼ一致する溝幅dに形成されている。上側の保持板部31の前端縁は上方へ曲げられ、保持溝33の開口部分がわずかに広げられている。庇板2の基端部は保持溝33へ前方より嵌挿されており、基端面22は保持溝33の終端である背板部30の表面に達している。なお、庇板2の基端部の厚さtはわずかな誤差を有するが、その厚さtが溝幅dより多少大きくても、保持溝33へ庇板2の基端部を圧入することで保持板部31,32がわずかに撓むので、庇板2の基端部を保持溝33内に嵌挿するのに支障をきたさない。
【0017】
上側の保持板部31と庇板2の基端部の上面との間、および下側の保持板部32と庇板2の基端部の下面との間に接着剤を介在させ、これにより庇板2と各保持板部31,32とを接合している。下側の保持板部32の上面には、接着剤が溜まる一定幅の凹溝37が2か所形成されている。なお、このような凹溝37は上側の保持板部31の下面にも形成してもよい。上側の保持板部31の前端縁の押し広げられた開口部分にはコーキング材38が充填されている。
【0018】
保持枠材3の背板部30には、保持溝33に対応する部分に、背板部30を貫通するビス通し孔34が背板部30の幅方向へ所定の間隔毎に開設されている。各ビス通し孔34には、ネジ軸部51の径がビス通し孔34の内径より小さく頭部52の径がビス通し孔34の内径より大きい木ビスなどのビス5がそれぞれ挿通される。
背板部30の背面の各ビス通し孔34の位置には、ビス5の頭部52が嵌って支持される凹溝35が背板部30の全長にわたって一連に形成されている。この凹溝35は、ビス5の頭部52が背板部30の背面より突出しない溝深さ、すなわち、ビス5の頭部52の厚さより大きな溝深さに形成されている。なお、背板部30の背面の各ビス通し孔34の位置毎に、各ビス5の頭部52が嵌る穴を個別に形成することも可能である。
【0019】
庇板2の基端部は保持板部31,32間の保持溝33中に基端面22が背板部30の前面に達する位置まで嵌挿される。庇板2の基端面22には背板部30の背面側よりビス通し孔34へ挿入された抜止めのためのビス5のネジ軸部51がねじ込まれている。ビス5のネジ軸部51は庇板2の基端面22より合成樹脂製の芯材20を穿孔しつつ進入するが、削り取られた合成樹脂材料が周辺へ押し退けられる結果、そのねじ込まれた部分では庇板2の芯材20が厚さ方向へ膨出し、その膨出に応じて芯材20を挟むアルミニウムの薄板材21が変形する。この変形によって庇板2の基端部は保持溝33に緊密に嵌合する。また、前記膨出部分はビス5と上下の保持板部31,32との間で圧縮変形を受けるもので、これによりビス5のネジ軸部51が庇板2の基端部にしっかり噛み込む。なお、庇板2の基端部の変形度合やビス5の庇板2への噛み込み度合は各ビス5のネジ軸部51の径および長さに応じて変わるので、各ビス5は抜止め効果や作業性などを考慮して最適なものを選定する。
【0020】
保持枠材3の背板部30の上端と上側の保持板部31の前端には、カバー7の内側に形成された係合突部71a,71bと係合する係合部39a,39bが形成されている。カバー7は保持枠材3と同じ長さを有し、カバー7の前端縁は下側の保持板部32の前端部上まで達し、上側の保持板部31の前端面を覆っている。
【0021】
上記した構成の庇1において、保持枠材3の保持溝33の溝幅dを庇板2の基端部の厚さtにほぼ一致させているので、庇板2の基端部を保持溝33に嵌挿することにより庇板2の基端部は保持溝33に緊密に嵌合される。
【0022】
つぎに、背板部30に開設された各ビス通し孔34に対して背板部30の背面側よりビス5を挿入して各ビス5のネジ軸部51を庇板2の基端面22へねじ込むとき、そのねじ込まれた部分において庇板2が厚さ方向へ膨出するとともに、その膨出部分がビス5と上下の保持板部31,32との間で圧縮変形を受ける。これによって庇板2の基端部が保持板部31,32間の保持溝33に一層緊密に嵌合し、しかも、各ビス5のネジ軸部51は庇板2の基端部に強固に噛み込む。この庇板2の基端部の保持溝33への緊密な嵌合と、ビス5のネジ軸部51の庇板2との噛込みとが庇板2の抜け阻止力として作用し、庇板2の基端部が保持溝33から抜け出るのが阻止される。
また、各ビス5の頭部52は、背板部30の背面に形成された凹溝35内に嵌って背板部30の背面より突出しないので、背板部30の裏面は建造物の外壁面10に隙間なく当接する。
【符号の説明】
【0023】
1 庇
2 庇板
3 保持枠材
5 ビス
20 芯材
21 薄板材
30 背板部
31,32 保持板材
33 保持溝
34 ビス通し孔
35 凹溝
51 ネジ軸部
52 頭部