【実施例1】
【0030】
実施例1に係る発明は容器兼用注射器に関するものであるが、最初に実施例1に係る容器兼用注射器100に使用する注射筒について説明する。
図1は、実施例1に使用する注射筒を説明するための模式断面図である。
図1に示されるように、実施例1に使用する注射筒1は、注射筒本体2の先端3に排出孔4、後端5に開口部6および外面にバイパス溝7を有するものである。また前記開口部6には鍔部8が設けられている。
本発明の容器兼用注射器においては、前記注射筒1のうち、前記排出孔4がある側を前とし、前記開口部がある側を後とする。また前記注射筒1の長軸線を一点破線a−aにより図示した。
【0031】
前記注射筒1の形状は、前記注射筒1の長軸線に対する垂直断面を基準として、円形、多角形、楕円形等が挙げられる。
前記射筒1の形状は、前記注射筒1の一部の内部に応力が集中することを防止する観点から円形であることが好ましい。実施例1に使用した前記注射筒1は円筒であり、その断面は円形である。
【0032】
また前記注射筒1の先端3に設けられた前記排出孔4には注射針、保護キャップ等を装着することができる。前記注射筒1の後端5には円形の開口部6が設けられていて、この開口部6から薬剤、液剤、前部可撓性封止部材、後部可撓性封止部材等を前記注射筒1の内部に入れることができる。
【0033】
また前記注射筒1の外面には前記バイパス溝7が設けられている。動作機構の詳細は後述するが、前記バイパス溝7を通じて液剤を前記注射筒1内部の前記排出孔4側に送り込むことができる。
【0034】
前記注射筒1は、薬剤、液剤等の医薬品を安定して保存することのできる素材であれば適宜選択して使用することができる。このような素材としては、例えば、ガラス等の無機材料、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の医療用高分子等の有機材料が挙げられる。
【0035】
図2は、注射筒の内部に挿入された前部可撓性封止部材および後部可撓性封止部材を説明するための模式断面図である。
前記前部可撓性封止部材20および前記後部可撓性封止部材30は、それぞれ前記注射筒1の内部に挿入されている。
【0036】
前記前部可撓性封止部材20の形状は円柱であり、側面に突出部21と溝部22とを有する。同様に前記後部可撓性封止部材30の形状は円柱であり、側面に突出部31と溝部32とを有する。
前記前部可撓性封止部材20および前記後部可撓性封止部材30は、それぞれシリコーンゴム等の医療用可撓性高分子等の有機材料により成形されている。
前記注射筒1の長軸線に対する垂直面を基準として、前記前部可撓性封止部材20の突出部21の断面および前記後部可撓性封止部材30の突出部31の断面はそれぞれ前記注射筒1の断面よりも大きい円形である。
前部可撓性封止部材20および前記後部可撓性封止部材30が前記注射筒1の内部にそれぞれ挿入されることにより、前記前部可撓性封止部材20の突出部21および前記後部可撓性封止部材30の突出部31はそれぞれ前記注射筒1の長軸線に向かう方向に縮む。
このため前記注射筒1の長軸線に対する垂直面を基準として、前記前部可撓性封止部材20の外周形状および前記後部可撓性封止部材30の外周形状のそれぞれを、前記注射筒1の内周形状に一致させることができる。
前記前部可撓性封止部材20および前記後部可撓性封止部材30にそれぞれ前記溝部22および前記溝部32を設けることにより、前記前部可撓性封止部材20の外面および前記後部可撓性封止部材30の外面と、前記注射筒1の内面との接触摩擦を低減することができる。これにより、前記前部可撓性封止部材20および前記後部可撓性封止部材30をそれぞれ前記注射筒1の内部で、前記注射筒1の長軸線方向に自由に動かすことができる。
【0037】
また前記後部可撓性封止部材30にプランジャーロッド40が連結されている。
図3は、実施例1に使用するプランジャーロッドを説明するための模式図である。
先の図に示される前記後部可撓性封止部材30には螺子孔33が設けられていて、この螺子孔33に、プランジャーロッド40の先端の螺子山42を回転させて挿入することにより、前記後部可撓性封止部材30と前記プランジャーロッド40とを連結することができる。
前記プランジャーロッド40は、プランジャーロッド本体41、螺子山42およびプランジャーロッド鍔部43を備えている。前記螺子山42は前記プランジャーロッド本体41の先端に設置され、前記プランジャーロッド鍔部43は、前記プランジャーロッド本体41の後端に設置されている。
前記プランジャーロッド本体41は、格納溝44と前記格納溝44以外の外面45とを有する。
【0038】
次に実施例1に使用するフィンガーグリップについて説明する。
図4は、実施例1に使用するフィンガーグリップの模式断面図である。
図4に示されるフィンガーグリップ50は、前記注射筒1の鍔部8に挿入するための開口枠部51および誘導筒を挿入するための筒状開口部52が設置されている。
前記フィンガーグリップ50の開口枠部51の内部には固定用レール53,53が設置されていて、前記開口枠部51と前記固定用レール53,53との間に前記注射筒1の鍔部8を挿入することにより、前記前記フィンガーグリップ50を前記注射筒1に固定することができる。
さらに前記フィンガーグリップ50の開口枠部51は、前記注射筒1の長軸線に直交する両側方向に拡張しているため、前記開口枠部51に指を掛けて実施例1に係る容器兼用注射器100を保持することができる。
【0039】
また前記フィンガーグリップ50の筒状開口部52は、前記注射筒1の長軸線方向に前記注射筒の後端から前記注射筒1の先端3方向に狭くなる構造を有する。この筒状開口部52の大きさは、前記注射筒1の長軸線に対する垂直断面を基準として、最前部が前記注射筒1の断面形状と略一致し、最後部は前記注射筒1の断面形状よりも大きい。
前記フィンガーグリップ50の筒状開口部52は、前記注射筒1の長軸線方向に前記注射筒の後端から前記注射筒1の先端3方向に断続的に狭くなっても、連続的に狭くなってもよい。
【0040】
次に実施例1に使用する誘導筒について説明する。
図5は、実施例1に使用する誘導筒の模式図である。
図5に示す前記誘導筒60の長軸線は、前記注射筒1の長軸線と一致している。
図6は、
図5に示した誘導筒を、前記誘導筒60の長軸線を基準に90度回転させた状態を示した模式図である。なお、
図6を前記誘導筒60の長軸線を基準に180度回転させた前記誘導筒の形状は、
図6に示した前記誘導筒の形状と一致する。
図7は、前記注射筒1の長軸線方向から前記誘導筒60の前筒部側を示した模式図である。
前記誘導筒60は、前筒部61、後筒部62、連結部63、前記停止用突起部64および前記格納用突起部65を有する。
前記誘導筒60の連結部63は、前記誘導筒60の前筒部61および前記誘導筒60の後筒部62を連結している。
前記誘導筒60の停止用突起部64の先端が、前記誘導筒60の前筒部61、前記誘導筒60の後筒部62および前記誘導筒60の連結部63により囲まれる開口部66を前記誘導筒60の長軸線に対して開閉方向(
図5の矢印方向)に動くことができるように、前記誘導筒60の停止用突起部64が前記誘導筒の後筒部62に連結されている。
【0041】
前記停止用突起部64は、前記誘導筒60の長軸線に対して前記誘導筒60後端から前記誘導筒60先端方向に開くように斜め外前方へ突き出させることができる。
【0042】
前記誘導筒60の前筒部61、後筒部62、連結部63、前記停止用突起部64および前記格納用突起部65は、例えば、比較的硬質ではあるが可撓性のある医療用高分子等の有機材料により一体成形されたものを使用することができる。
【0043】
また
図7に示されるように、前記誘導筒60の外面は、前記注射筒1の内面と接触する接触部67,67および前記注射筒1の内面に接触しない溝部68,68により形成されている。
前記接触部67,67は、前記注射筒1の断面内部に移動可能な状態で隙間なく接触することができる。
このため前記停止用突起部64が閉じた状態であれば、前記誘導筒60を前記注射筒1の内部に挿入することができる。
また前記溝部68,68は前記注射筒1内面との間に隙間を形成する。このため前記誘導筒60を前記注射筒1の内部に挿入した際に、前記注射筒1の内部にある空気を前記隙間から円滑に排出することができる。
【0044】
図8および
図9は、前記誘導筒60の内部に前記プランジャーロッド40を挿通させた状態を説明するための模式図である。
前記プランジャーロッド本体41は、外面45,45と前記格納溝44とを有する。
【0045】
図8に示されるように、前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の前記格納溝44以外の外面45,45と接触している場合は、前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の停止用突起部64,64を内側から押すことにより、前記誘導筒60の停止用突起部64,64が、前記誘導筒後端から前記誘導筒先端方向に開く。
また
図9に示されるように、前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44に受け入れられた場合は、前記誘導筒60の停止用突起部64,64が、前記誘導筒60後端から前記誘導筒60先端方向に閉じる。
【0046】
前記誘導筒60の格納用突起部65,65の長さを大きくすれば、前記誘導筒60の停止用突起部64,64を大きく開かせることができる。この逆に前記誘導筒60の格納用突起部65,65の長さを小さくすれば、前記誘導筒60の停止用突起部64,64を小さく開かせることもできる。
【0047】
また前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44の幅を狭くかつ深くして前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41を移動させた際に、前記誘導筒60の停止用突起部64,64を急に開かせたり、急に閉じさせたりすることができる。
この逆に前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44の幅を広くかつ徐々に深くなるようにすれば、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41を移動させた際に、前記誘導筒60の停止用突起部64,64を緩やかに開かせたり、緩やかに閉じさせたりすることもできる。
【0048】
図10〜
図13は、実施例1に係る容器兼用注射器の動作機構を説明するための模式断面図である。
図10に示されるように、実施例1に係る注射器100の前記注射筒1の内部には薬剤70と液剤80が充填されている。
前記薬剤70は、前記注射筒1内部の前記排出孔4から前記前部可撓性封止部材20までの空間11に格納されている。前記注射筒1の先端3の排出口4には、先端が閉じた円筒状の保護キャップ10が装着されていて、実施例1に係る注射器100から前記薬剤70が外部に漏れることを防ぐことができる。
【0049】
また前記液剤80は、前記注射筒1内部の前記前部可撓性封止部材20から前記後部可撓性封止部材30までの空間12に格納されている。前記前部可撓性封止部材20は、前記注射筒1の外面に設けられたバイパス溝7よりも後方に配置されているから、
図10に示された状態では前記バイパス溝7を通って前記液剤80が前記薬剤70のある前記空間11側に移動することはない。このため前記液剤80と前記薬剤70とが互いに混合することを防ぎながら、実施例1に係る注射器100を
図10に示した状態で保存することができる。
前記薬剤70は、前記液剤80に短時間で懸濁させたり溶解させたりするために、粉体状、顆粒状、液状等のものを使用することが好ましい。
また本発明に使用する前記液剤80に限定はなく、例えば、医療用滅菌水、医療用生理食塩水等を適宜選択して使用することができる。
【0050】
また
図10に示されるように、前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の前記格納溝44,44以外の外面45,45と接触している。
前記格納用突起部65,65は、前記誘導筒60の停止用突起部64,64を内側から外側へ押し上げるように支持している。この前記格納用突起部65,65の支持により、前記誘導筒60の停止用突起部64,64は、前記誘導筒60の長軸線、すなわち前記注射筒1の長軸線に対して前記誘導筒60の後端から前記誘導筒60の先端方向に開くように斜め外前方へ突き出る。
そして前記誘導筒60の停止用突起部64,64は、前記フィンガーグリップ50の筒状開口部52の内部に突き当たっている。前記誘導筒60の停止用突起部64,64は、前記誘導筒60の格納用突起部65,65により内側から外側へ押し上げられているため、内側に閉じることが防止されている。
つまり前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の前記格納溝44,44以外の外面45,45と接触している場合は、前記誘導筒60の停止用突起部64,64が、前記フィンガーグリップ50の筒状開口部52の内部に突き当たり、前記誘導筒60の長軸線に対して前記誘導筒60後端から前記誘導筒60先端方向に前記誘導筒60を移動させることができない。
このため
図10に示される前記誘導筒60は、前記注射筒1の内部に挿入することができない状態を維持することができる。
【0051】
前記誘導筒60は、前記注射筒1の内部に挿入することができなが、この場合でも前記誘導筒60の内部を通して前記プランジャーロッド本体41を前記注射筒1の先端3方向に移動させることができる。
このため前記プランジャーロッド40を押せば、前記プランジャーロッド40の先端に連結された前記後部可撓性封止部材30を前記注射筒1の先端3方向に移動させることができる。
【0052】
前記注射筒本体2の先端3の保護キャップ10を外して前記注射筒本体2の先端3の排出口4に注射針90を装着する。
図11に示されるように前記注射筒1の長軸線方向(
図1参照)を基準として、前記前部可撓性封止部材20の厚みは、前記バイパス溝7の長さより短い。このため前記プランジャーロッド40を押して、
図11に示される前記注射筒1内部の位置まで前記前部可撓性封止部材20を移動させた後は、前記プランジャーロッド40を前記注射筒1の先端3方向へ押すと、前記前部可撓性封止部材20は前記バイパス溝7が設置された位置に止まったまま、前記前部可撓性封止部材20と前記後部可撓性封止部材30の間に充填された前記液剤80が、前記注射筒1の先端3と前記前部可撓性封止部材20との間の空間11に移動する。
【0053】
前記プランジャーロッド40を押し続けると、
図12に示されるように、前記プランジャーロッド40のプランジャーロッド鍔部43が、前記誘導筒60の後筒部62に接触する直前に、前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44に達する。
前記プランジャーロッド40のプランジャーロッド鍔部43が、前記誘導筒60の後筒部62に接触する直前に、前記誘導筒60の停止用突起部64,64が、前記誘導筒60後端から前記誘導筒60先端方向に閉じる。
【0054】
実施例1に係る容器兼用注射器100の場合は、前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44に達する直前に、前記フィンガーグリップ50の筒状開口部52の内径が、急に狭くなるように調整されている。
このため前記プランジャーロッド40を一定の力で押し続けた場合、前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44に達する直前に、前記プランジャーロッド40を前記注射筒1の先端3方向に移動させにくくなることが分かる。
また目視により、前記プランジャーロッド鍔部43が前記誘導筒60の後筒部62に達するところを簡単に確認することができる。
【0055】
次に前記誘導筒60の格納用突起部65,65が、前記誘導筒60の内部を挿通する前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44に受け入れられると、前記格納用突起部65,65が前記格納溝44,44に噛み合う音と振動が発生する。これにより、実施例1に係る容器兼用注射器100を操作する者は、肉眼、耳および実施例1に係る容器兼用注射器100を持つ指に伝わる振動によって、前記注射筒1内部の予め定められた位置に前記前部可撓性封止部材20および前記後部可撓性封止部材30が移動したことを知ることができる。
実施例1の場合では、上記の動作後、前記誘導筒60を前記注射筒1内部の先端方向に移動させることが可能となったことが分かる。
【0056】
上記に説明した通り、前記誘導筒60の格納用突起部65,65の長さ、前記プランジャーロッド本体41の格納溝44,44の幅および深さ、ならびに前記フィンガーグリップ50の筒状開口部52の内径を狭くする程度を調整することにより、前記プランジャーロッド40を押したときの前記プランジャーロッド40の動き具合を制御することができる。
【0057】
次に実施例1に係る容器兼用注射器100を注意深く振って、前記注射筒1内部の前記薬剤70と前記液剤とを十分に混合する。
前記プランジャーロッド40を押すと前記プランジャーロッド鍔部43により、前記誘導筒60が前記注射筒1の内部に押し込まれる。
前記注射筒本体2の先端3の排出口4に装着された注射針90を上に向け、前記注射筒1内部の空気を前記注射筒本体2の先端3の排出口4側に集めた後、前記プランジャーロッド40を前記注射筒1の先端3方向に移動させて前記注射筒1内部の空気を排出する。
次に
図13に示されるように、前記プランジャーロッド40をさらに押し続けることにより、前記前部可撓性封止部材20および前記後部可撓性封止部材30を前記注射筒1の先端3側に移動させることができる。前記前部可撓性封止部材20に押されて、前記注射筒1内部の前記薬剤70と前記液剤との混合液が、前記注射針90の先端から外部へ排出される。