(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸着特性を測定する場合、吸着温度を吸着質の気化温度の付近にして行う。そのため、例えば、窒素を吸着させる場合には77K(−196℃)の液体窒素、アルゴンを吸着させる場合には87K(−189℃)の液体アルゴンの冷媒をそれぞれ用いる。このように従来は、吸着質ごとに気化温度の異なる低温冷媒を用意しなければならなかった。また、入手可能な低温冷媒の気化温度はそれぞれ固有の気化温度であるので、吸着特性を任意の温度で測定したり、測定温度を連続的に変えて吸着特性を評価することは困難であった。
【0005】
本発明の目的は、吸着特性の測定温度を任意に設定できる吸着特性測定装置を提供することである。また、他の目的は、吸着特性の測定温度を連続的に変化させることができる吸着特性測定装置を提供することである。さらに他の目的は、吸着熱測定を可能とする吸着特性測定装置を提供することである。以下の手段は、これらの目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る吸着特性測定装置は、少なくとも吸着質供給部と接続され、試料を収容し、所定の高伝熱性を有する試料室と、試料を冷却するための冷却ステージを有する蓄冷式冷却手段と、試料室と冷却ステージとの間に設けられ、所定の熱容量と所定の高伝熱性を有する伝熱バッファと、伝熱バッファと試料室の間に設けられ試料室に入熱する入熱部と、設定された目標吸着測定温度と試料室の温度との間の偏差をゼロにするように入熱量を制御する温度調整手段と、目標吸着測定温度の下で試料の吸着特性を測定する測定手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る吸着特性測定装置において、試料室と、入熱部と、伝熱バッファと、冷却ステージとを内部に収容する真空断熱チャンバを備えることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る吸着特性測定装置において、温度調整手段は、(1/1000)K単位で目標吸着測定温度を設定することが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る吸着特性測定装置において、蓄冷式冷却手段は、スターリング冷凍機またはGM冷凍機であることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る吸着特性測定装置において、吸着特性測定中における入熱部の入熱量に基づき、試料に吸着質が吸着するときの吸着熱を求める吸着熱算出部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の吸着特性測定装置によれば、試料室の温度は、蓄冷式冷却手段によって吸込まれる熱量と、入熱部により供給される熱量で調整できる。したがって、吸着特性の測定温度を蓄冷式冷却手段の冷却能力で定まるある程度の範囲で任意に設定でき、また、吸着特性の測定温度を連続的に変化させることができる。
【0012】
吸着特性測定装置は、試料を冷却するために試料室の熱を吸い込む冷却ステージ、試料室に熱を与える入熱部、試料室、伝熱バッファ等の、熱の出入り、伝熱に関する要素を真空断熱チャンバの内部に収納するので、外部への熱の放散、外部からの伝熱、内部の伝熱をそれぞれ遮断できる。これにより、熱的なノイズを少なくして吸着特性の測定温度を調整できる。
【0013】
吸着特性測定装置は、(1/1000)K単位で温度調整を行える。従来の液体窒素等の液体冷媒では測定中の気圧の変化、空気中の酸素の溶け込みなどの影響により0.2Kの揺らぎが観測されることがあるが、吸着特性測定装置は吸着特性の測定温度を従来の液体窒素等の液体冷媒以上に管理できる。
【0014】
吸着特性測定装置において、電気式冷却手段は、スターリング冷凍機またはGM冷凍機を用いる。スターリング冷凍機は小型で、50Kから室温の範囲で冷却温度が設定できる。GM冷凍機はスターリング冷凍機よりは大きくなり、約4.2K付近まで冷却できる。これらを用いることで、小型で、吸着特性の測定温度を可変できる吸着特性測定装置とすることができる。
【0015】
吸着特性測定装置は、吸着特性の測定中に発熱が生じれば、目標温度を一定にするように、入熱部の入熱量が低下する。その入熱量の変化から試料に吸着質が吸着するときの吸着熱を求めることができる。これにより、特別な熱測定装置を用いることなく、リアルタイムで吸着熱を測定できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、蓄冷式冷却手段としてスターリング冷凍機を述べるが、電気的な制御が可能な極低温冷凍機であればよく、例えば、GM冷凍機、パルスチューブ冷凍機等を用いてもよい。
【0018】
また、以下で説明する寸法、物体の形状等は、説明のための例示であって、具体的な形状、数値などは吸着特性測定装置の用途、目的、仕様に応じて適宜変更することができる。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0019】
図1は、吸着特性測定装置10の構成図である。
図1には、吸着特性測定装置10の構成要素ではないが、吸着特性が測定される対象の試料8が示される。
【0020】
吸着特性測定装置10は、蓄冷式冷却手段であるスターリング冷凍機20と、本体部30と、配管部80と、これらの動作を制御する制御部100を備える。
【0021】
スターリング冷凍機20は、冷媒ガスを用いる極低温冷凍機の一種であって、特に冷媒としてヘリウムを用いる極低温冷凍機の一種である。スターリング冷凍機20は、蓄冷器を介して圧縮機と膨張機が配置され、圧縮ピストンと膨張ピストンが90度の位相を保ちつつ駆動され、圧縮ピストンと膨張ピストンとの間にある冷却された冷媒が蓄冷器を通ることで蓄冷器を冷却する蓄冷式の極低温冷凍機である。
【0022】
スターリング冷凍機20は、外置圧縮機22と、外置膨張機24と、シリンダ部26と、冷却ステージ28を含む。外置圧縮機22は極低温冷凍機を構成する圧縮機に相当し、外置膨張機24とシリンダ部26と冷却ステージ28は、極低温冷凍機を構成する膨張機と蓄冷器とが一体化したもので、シリンダ部26は、ヘリウムガスを膨張させて寒冷する膨張空間と蓄冷器とを有する。外置膨張機24は、シリンダ部26の一部を含みながらこれを保持する部分である。冷却ステージ28は、膨張空間により極低温に冷却される先端部で、冷却対象が取り付けられる。ここでは、後述する伝熱バッファ60を介して試料8を冷却する機能を有する。
【0023】
冷却ステージ28は、スターリング冷凍機20の構成要素の一部であり、スターリング冷凍機20と冷却対象との間のインターフェースとなるものである。冷却ステージ28の温度は、スターリング冷凍機20の設定温度とほぼ同じである。冷却ステージ28の大きさは、外径3cm、高さ0.3cmとできる。
【0024】
シリンダ部26と冷却ステージ28は、周囲との熱のやり取りをできるだけ抑制したいので、本体部30を構成する真空断熱チャンバ32に内部に収納される。外置圧縮機22と外置膨張機24は、放熱する必要があるので、真空断熱チャンバ32の外側に配置される。
【0025】
スターリング冷凍機20は、50Kから室温の温度範囲で目標温度を設定できるが、設定温度に対して±1K程度の温度の揺らぎが生じる。GM冷凍機の場合は目標温度が設定できず、ピストンが1段式あるいは2段式により到達する低温温度はそれぞれ20K,4.2K程度となる。このため、温度制御には伝熱バッファにサファイヤを用いて室温付近の熱伝導性を悪くしたり、大きな入熱部を設置し室温付近の制御を行うことがある。
【0026】
本体部30は、真空断熱チャンバ32と、真空ポンプ40と、試料室42と、伝熱バッファ60と、入熱部64を含む。
【0027】
真空断熱チャンバ32は、外部から内部への熱の出入りを外周面で反射し、内部から外部への熱の出入りを内壁面で反射し、内壁面で囲まれる収容空間を真空とすることで収容空間に配置される各要素間の熱のやり取りを抑制する密閉真空断熱容器である。真空断熱チャンバ32は、下部容器36と上部容器34の二体を組み合わせて1つの容器としたもので、下部容器36と上部容器34とは組合せ面を合わせた後、クランプ38によって固定され、内部の収容空間が密閉空間となる。真空ポンプ40は、真空断熱チャンバ32の内部を真空に保持する排気装置である。
【0028】
真空断熱チャンバ32の収容空間には、スターリング冷凍機20を構成するシリンダ部26、冷却ステージ28、伝熱バッファ60、入熱部64、試料室42、及びこれらを熱的に接続する接続部品が収容される。接続部品としては、冷却ステージ28と伝熱バッファ60を接続する筒部62、伝熱バッファ60と入熱部64を接続するキャップ部66、入熱部64と試料室42を接続する伝熱部材68等である。真空ポンプ40は、真空断熱チャンバ32の内部を真空に保持する排気装置である。
【0029】
伝熱バッファ60は、冷却ステージ28の上に配置され、所定の熱容量を有する円柱部材である。冷却ステージ28は、スターリング冷凍機20の動作の際に温度揺らぎが生じる。例えば、スターリング冷凍機20の設定温度をθ
20とすると、スターリング冷凍機20のシリンダ部26の往復運動等によって、そのままでは冷却ステージ28の温度がθ
20を中心として±1K揺らいだ値となる。伝熱バッファ60は、その温度揺らぎを吸収して、伝熱部材68の温度を入熱する熱の制御を合わせ約±2mK程度に安定させる。
【0030】
伝熱バッファ60の材質は、サファイアで構成される。サファイア以外でも熱伝導率の高い材質であればよく、例えば、銅、または銅合金を用いることができる。伝熱バッファ60の寸法の一例を挙げると、外径1.5cm、高さ5cmである。伝熱バッファ60の形状は円柱形状以外でもよい。
【0031】
筒部62は、伝熱バッファ60の外径とほぼ同じ内径を有する円筒部材である。筒部62は、冷却ステージ28の上に伝熱バッファ60を載せて熱的に接続するための部材である。筒部62は冷却ステージ28に固定され、その内径部分に伝熱バッファ60が挿入されることで冷却ステージ28の上面と伝熱バッファ60の底面が接触し、伝熱バッファ60の重さによって、冷却ステージ28と伝熱バッファ60が熱的に接続する。必要に応じ、筒部62と伝熱バッファ60、伝熱バッファ60と冷却ステージ28との間を適当な固定部材で固定してもよい。筒部62の内径部分に伝熱バッファ60を挿入した状態で伝熱バッファ60の上面が筒部62より突き出すように、筒部62の寸法が設定される。筒部62の材質は、銅または、銅合金とすることができる。また表面はNiメッキなどにより鏡面にし輻射熱を反射させることも有効である。
【0032】
キャップ部66は、伝熱バッファ60の上面にかぶせられる帽子状の部材で、その周囲に入熱部64であるヒータが巻き付けられる。キャップ部66の材質は、銅または、銅合金とすることができる。また表面はNiメッキなどにより鏡面にし輻射熱を反射させることも有効である。
【0033】
入熱部64は、例としてステンレスで被覆された外径1mmの細線で、キャップ部66に巻きつけられ、その外側が伝熱部材68で覆われる抵抗線ヒータである。入熱部64は、伝熱部材68を介して試料室42に熱量を供給し、これによって冷却ステージ28によって試料室42から吸い込まれる熱量を調整して、試料室42の温度を調整する機能を有する。ヒータの両端子は、制御部100によって動作が制御される加熱電源に接続される。
【0034】
入熱部64の抵抗線ヒータとしては、20W程度のフィルムヒータを用いることができる。フィルムヒータ以外の形式のヒータを用いてもよい。例えば、シーズヒータやニクロム線をキャップ部66に巻きつけたもの、キャップ部66に挿入穴を設けてカートリッジ型のヒータを挿入することでもよい。
【0035】
伝熱部材68は、入熱部64と台座部44との間に設けられ、キャップ部66に巻きつけられた抵抗線ヒータの外側を覆って保持する部材である。伝熱部材68は、抵抗線ヒータを保持する役割を有するが、試料室42に対する熱の流れからいえば、伝熱バッファ60を介して冷却ステージ28に吸い込まれる熱量と、入熱部64から供給される熱量が交じり合う部材である。
【0036】
伝熱部材68の材質は、銅、または銅合金とすることができる。また、高伝熱性を有する材質であればこれら以外の材質でもよい。伝熱部材68の寸法の一例を挙げると、外径5cm、高さ3cmである。高さ3cmのうち、入熱部64の外周を覆う高さの部分は2cmである。なお、伝熱部材68の形状は測定に応じて適当な形状を有することができる。
【0037】
試料室42は、台座部44と、蓋部46と、台座部44と蓋部46によって形成される収容空間48と、収容空間48に配置される試料台50を含んで構成される。台座部44と蓋部46は試料交換及び真空保持の為のシーリング機構とボルトを有する。
【0038】
台座部44は、伝熱部材68の上面に取り付けられる円板状の部材で、その上面側に設けられる蓋部46と協働して収容空間48を形成する。
図1では台座部44の上面を平面とし、フランジ付きで窪みを有する蓋部46を用い、フランジ部分を台座部44に取り付けることで、蓋部46の窪みを収容空間48とした。これと逆に、台座部44に円筒状の張出を設け、円筒状の上部開口を平板状の蓋部で覆い、円筒状の内径部分を収容空間48としてもよい。
図1では収容空間の数を1つとしたが、これ以外の収容空間の数でもよい。例えば2つの収容空間を設けるものとしてもよく、3つ以上の収容空間を設けてもよい。台座部44と蓋部46の材質は、銅、または銅合金とすることができる。また表面はNiメッキなどにより鏡面にし輻射熱を反射させることも有効である。
【0039】
試料台50は、試料8を収容するためのくぼみを上部に有する皿である。試料台50は、密閉空間である収容空間48の内部に配置され、台座部44から着脱可能である。これにより、蓋部46を取り外せば、個々の試料台50を取り出して洗浄等を容易に行うことができる。これに代えて、試料台50を台座部44と一体化させてもよい。試料台50の大きさの一例を挙げると、外径2.5cm、高さ0.8cmである。
【0040】
台座部44の上面側に設けられる温度検出部52は、試料台50の温度である試料温度θ
Sを計測する温度計である。試料温度θ
Sは、吸着特性算出のために、制御部100に伝送される。温度検出部52としては白金測温体を用いることができる。
【0041】
台座部44の下面側に設けられる温度検出部54は、試料室42の温度制御を行う際の実際温度θ
Aを検出する温度である。試料室42の温度制御は、スターリング冷凍機20の設定温度θ
20と、入熱部64によって供給される入熱量Q
64とに基づいて行われる。スターリング冷凍機20によって試料室42から吸い込まれる熱量と、入熱部64によって供給される入熱量Q
64は、伝熱部材68のところで合わさって試料室42の底面側に伝熱される。そこで、試料室42の底面側の温度を制御における実際温度θ
Aとして、温度検出部54はこの実際温度θ
Aを検出し、適当な信号線で制御部100に伝送する。温度検出部54としては白金測温体を用いることができる。
【0042】
なお、冷却ステージ28から試料室42までの間には、伝熱バッファ60、筒部62、キャップ部66、入熱部64、伝熱部材68の多くの部材が存在する。これらは、固体の熱伝導によって熱を伝えるため、何箇所かの接触面が生じる。この接触面は、熱抵抗を生む要因となるため、その影響を低減することが好ましい。影響を低減するには、接触面の表面粗さを滑らかにする、固体の材質を熱伝導率の高いものを用いる、接触面の押し付け力を高めること等が挙げられる。例えば、押し付け力を高めるためには、各要素間の固定力を大きくすることや、極低温でも高い熱伝導率を維持するグリースを塗ることが好ましい。また、熱伝達をする要素の数を減らすために、伝熱部材68と試料室42を一体化し、あるいは筒部62とキャップ部66と伝熱部材68とを一体化してもよい。
【0043】
吸着質供給部74は、試料8に対する吸着特性を測定する吸着質を供給するガス源である。例えば、吸着質が窒素ガスの場合、吸着質供給部74は窒素ガスボンベである。吸着質の種類が複数ある場合には、複数の吸着質供給部74が設けられる。
【0044】
排出部76は、試料室42の収容空間48を配管部80を介して減圧するための排気装置である。排出部76の動作は制御部100の制御の下で行われる。排出部76としてはロータリポンプを用いることができる。吸着特性測定の目的によっては、ターボ分子ポンプを用い、ロータリポンプを補助ポンプとして用いるものとしてよい。
【0045】
配管部80は、マニホールド82を介して、真空断熱チャンバ32の内部に配置される試料室42の収容空間48と、真空断熱チャンバ32の外側に配置される吸着質供給部74、排出部76をそれぞれ互いに接続して連結するために設けられる複数の配管である。配管部80には、制御部100の下で作動する複数の開閉弁88,92,94が設けられる。
【0046】
配管部80のうち、吸着質供給部74とマニホールド82との間の配管には、制御部100の制御の下で作動する吸着質用の開閉弁92が設けられる。吸着質供給部74が複数ある場合には、それぞれの吸着質供給部74に対応して吸着質用の開閉弁92が設けられる。同様に、排出部76とマニホールド82との間の配管には、制御部100の制御の下で作動する排出部用の開閉弁94が設けられる。
【0047】
マニホールド82は、開閉弁88,92,94のそれぞれの一方端を互いに接続した屈曲管路である。マニホールド82は、吸着質用の開閉弁92、排出部用の開閉弁94側の端部が真空断熱チャンバ32の外部に配置され、そこから延びて真空断熱チャンバ32の内部空間に入り、試料室42の側に延びる。マニホールド82に接続される圧力計86は、マニホールド82の内部圧力P
Mを検出する。マニホールド82に接続される圧力計90は、収容空間48の内部圧力P
Sを検出する試料室圧力検出手段である。検出されたマニホールド82の内部圧力P
M及び収容空間48の内部圧力P
Sは、適当な信号線で制御部100に伝送される。マニホールド82を含む配管部80は、温度調整された槽に収容され、所定の温度に維持されることが好ましい。
【0048】
開閉弁88と試料室42は、配管にて接続される。この配管は試料を真空に出来る配管内径を有し、かつ外部からの熱流入を極力小さくできるような細い外径の配管を使用することが好ましい。外部からの熱流入を最少にする為に接続配管と冷却ステージ28を結ぶサーマルアンカにて試料室とほぼ同じ温度にする機構を有することが好ましい。接続箇所は低温部分であるシリンダ部26あるいは筒部62でも可能である。
【0049】
制御部100は、これら各要素の動作を統合して制御する装置である。特に、本体部30における入熱部64、スターリング冷凍機20、配管部80における試料室用の開閉弁88、吸着質用の開閉弁92、排出部用の開閉弁94の動作を制御し、吸着特性測定処理を行う制御を実行する。かかる制御部100は、コンピュータで構成できる。
【0050】
制御部100は、吸着特性測定装置10の各要素の動作を全体として制御する機能を有するが、ここでは特に、スターリング冷凍機20の動作と、入熱部64の動作を制御することで、吸着特性の測定温度を所望の任意温度に制御する機能を有する。かかる制御部は、コンピュータで構成することができる。
【0051】
制御部100は、目標温度θ
Tを設定する目標温度設定処理手順102と、スターリング冷凍機20と入熱部64の動作を制御して温度調整を行う温度調整処理手順104と、吸着特性を算出して出力部110に伝送する吸着特性算出処理手順106と、吸着時の発熱量である吸着熱を算出して出力部110に伝送する吸着熱算出処理手順108を実行する機能を有する。かかる機能は、ソフトウエアで実現でき、具体的には、測定処理プログラムを実行することで実現できる。
【0052】
制御部100の吸着特性算出処理手順は、マニホールド用の圧力計86が検出するマニホールド82の内部圧力P
Mの変化、試料室用の圧力計90が検出する収容空間48の内部圧力P
Sの変化等に基づいて、試料室42の収容空間48に収容される試料8の吸着量等の算出を実行する。算出される吸着特性としては、試料8の吸着量、比表面積、細孔分布等である。吸着特性の算出には、マニホールド82の内部圧力P
Mの変化と試料室42の収容空間48の内部圧力P
Sの変化とに基づいて吸着量等を算出するプログラムが用いられる。算出された吸着特性は、出力端末である出力部110で表示される。出力部110の機能を制御部100の機能の一部としてもよい。
【0053】
制御部100の吸着熱算出処理手順は、吸着特性の測定中に発熱が生じれば、目標温度を一定にするように、入熱部64の入熱量が低下することを利用して、その入熱量の変化から試料8に吸着質が吸着するときの吸着熱の算出を吸着の進行と共にリアルタイムで実行する。算出された吸着特性は、出力端末である出力部110で表示される。吸着熱測定の場合は試料室42が1つの場合に適用できる。
【0054】
かかる構成の作用について
図2を用いて説明する。
図2は、横軸に時間を取り、縦軸に吸着特性測定装置10の各要素の温度、熱量をとって、これらの時間変化を示す図である。横軸の時間は、時間t
0から時間t
1までが吸着がまだ開始しない温度制御期間であり、時間t
1が温度制御の下での吸着開始時間である。
【0055】
図2(a)は、収容空間48に収容されている試料8の発熱量Q
8の時間変化を示す図である。時間t
0から時間t
1までは収容空間48に吸着質が供給されず、したがって、試料8の発熱量Q
8=0である。時間t
1で吸着質が供給され、試料8に吸着質が吸着するに従い発熱する。このときの発熱量Q
8は、吸着熱を反映した値となる。
【0056】
図2(b)は、吸着特性の測定温度としての目標温度θ
Tと、スターリング冷凍機20の設定温度θ
20と、冷却ステージ28の温度θ
28を示す図である。目標温度θ
Tは、試料室42の台座部44の下面側の温度検出部54が検出する実際温度θ
Aに対し与えられる目標温度である。試料室42の台座部44からはスターリング冷凍機20によって熱が吸い込まれるが、一方で入熱部64から熱が供給される。入熱部64からの熱の供給がゼロのときが試料室42の台座部44が最も低温で、そのときの温度はスターリング冷凍機20の設定温度θ
20である。
【0057】
換言すれば、台座部44の下面側に対する目標温度θ
Tは、スターリング冷凍機20の設定温度θ
20よりも高温となる。例としては2〜7Kの温度差を持つ。
【0058】
以下では、目標温度θ
Tを上限から下げて77.35Kとし、スターリング冷凍機20の設定温度θ
20を75Kとした場合について説明する。かかる目標温度θ
Tとスターリング冷凍機20の設定温度θ
20の設定は、制御部100の目標温度設定処理手順によって実行される。
【0059】
上記のように、設定温度θ
20を75Kとしてスターリング冷凍機20を動作させると、シリンダ部26の間歇動作等で、冷却ステージ28の温度θ
28はいくらか揺らぐ。例えば、±1K変動する。
図2(b)では、目標温度θ
T=77.35K、スターリング冷凍機20の設定温度θ
20=75K、冷却ステージ28の温度θ
28=(75K±1K)として示されている。
【0060】
図2(c)は、制御部100の温度調整処理手順によって温度調整が実行されたときの入熱部64の入熱量Q
64の時間変化を示す図である。時間t
0から時間t
1までは吸着が行われていないので、試料室42の台座部44の下面側の温度検出部54が検出する実際温度θ
Aを目標温度θ
Tとする制御が実行される。ここでは、冷却ステージ28の温度θ
28が(75K±1K)で変動しているので、この状態に対して入熱部64から入熱して、実際温度θ
Aをθ
T=77.35K±0Kとする。したがって、入熱量Q
64は、75Kから77.35Kに昇温させる熱量となる。
図2(c)では、Q
64に対応する温度θ
64を用いてその様子を示した。
【0061】
時間t
1以後は、吸着による発熱があるので、入熱部64からの入熱量Q
64をその分減少させる。それによって、吸着熱の増加分を入熱量Q
64の減少で埋めることができる。
図2(c)では、吸着熱の増加分を埋めた入熱量Q
64の減少分をΔQで示してある。冷却ステージ28の(±1K)の変動分は、伝熱バッファ60により緩和される。吸着熱の算出は制御部100の吸着熱算出処理手順を実行することで行われる。
【0062】
図2(d)は、温度調整が実行された後の試料室42の台座部44の下面側の温度検出部54が検出する実際温度θ
Aの変動を示す図である。実際温度θ
Aは目標温度θ
Tの前後に変動するが、その変動量は、制御部100の温度調整処理手順のフィードバックゲイン等で規定できる。一例を挙げると、スターリング冷凍機20の温度の揺らぎの(1/1000)程度に制御が可能と考えられ、その場合には、(1/1000)K単位で、目標温度θ
Tを設定しても追従可能である。
【0063】
上記では、吸着熱算出を行うものとしたので、目標温度θ
Tの設定可能範囲がスターリング冷凍機20の設定温度θ
20の設定可能範囲よりも狭まった。吸着熱算出を行わない場合には、目標温度θ
Tの設定可能範囲がスターリング冷凍機20の設定温度θ
20の設定可能範囲と同じ50Kから室温の範囲で、任意に設定できる。また、その範囲で、時間と共に連続的に目標温度θ
Tを変化させることもできる。