特許第5916616号(P5916616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5916616-菓子用高融点ヒマワリ脂肪 図000026
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916616
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】菓子用高融点ヒマワリ脂肪
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20160422BHJP
   A23G 1/00 20060101ALI20160422BHJP
   A23G 1/30 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   A23D9/00 500
   A23G1/00
【請求項の数】22
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2012-534697(P2012-534697)
(86)(22)【出願日】2010年10月21日
(65)【公表番号】特表2013-507940(P2013-507940A)
(43)【公表日】2013年3月7日
(86)【国際出願番号】EP2010065842
(87)【国際公開番号】WO2011048169
(87)【国際公開日】20110428
【審査請求日】2013年4月3日
(31)【優先権主張番号】09382222.9
(32)【優先日】2009年10月22日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512104166
【氏名又は名称】コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス(セエセイセ)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】ホアキン・ヘスス・サラス・リニャン
(72)【発明者】
【氏名】エンリケ・マルティネス・フォルセ
(72)【発明者】
【氏名】ミゲル・アンヘル・ボーテリョ・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】モニカ・ベネガス・カレロン
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル・ガルセス
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/006597(WO,A2)
【文献】 国際公開第01/096507(WO,A1)
【文献】 国際公開第00/074470(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23G 1/00
A23G 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアシルグリセロールの式中、グリセロールのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸が該式の2つの外側の文字であり、Sが飽和脂肪酸、Uが不飽和脂肪酸、Stがステアリン酸、Oがオレイン酸、Aがアラキジン酸、およびBがベヘン酸を表すとき、トリアシルグリセロールフラクション中、一般式SUSのトリアシルグリセロールを少なくとも49.1%、一般式StOStのトリアシルグリセロールを32.5〜74.3%、一般式AOStのトリアシルグリセロールを3.2〜8.1%、および一般式BOStのトリアシルグリセロールを3.3〜10.3%含有する固形ヒマワリ脂肪。
【請求項2】
一般式StOStのトリアシルグリセロールを39.9〜74.3%含有する請求項1に記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項3】
一般式StOStのトリアシルグリセロールを45〜74.3%含有する請求項1に記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項4】
一般式StOStのトリアシルグリセロールを50〜74.3%含有する請求項1に記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項5】
一般式AOStのトリアシルグリセロールを4〜8.1%含有する請求項1〜4のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項6】
一般式AOStのトリアシルグリセロールを4.5〜8.1%含有する請求項1〜4のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項7】
一般式BOStのトリアシルグリセロールを4.5〜10.3%含有する請求項1〜6のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項8】
一般式BOStのトリアシルグリセロールを5〜10.3%含有する請求項1〜6のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項9】
一般式BOStのトリアシルグリセロールを6〜10.3%含有する請求項1〜6のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項10】
StOStを39.9〜74.3%、AOStを4.4〜8.1%、およびBOStを4.4〜10.3%含有する請求項1〜9のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項11】
StOStを42.8〜74.3%、AOStを5.8〜7.4%、およびBOStを5.8〜8.3%含有する請求項1〜10のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項12】
油が30℃で38.9〜94.5%の固形脂肪含有量を有する請求項1〜11のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項13】
固形脂肪がステアリン酸とオレイン酸の含有量の高いヒマワリ油から分別処理により入手可能である請求項1〜12のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪。
【請求項14】
分別処理が以下の段階a)〜e)を含む溶剤分別である請求項1〜請求項13のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪の製造方法
a)ステアリン酸とオレイン酸の含有量の高いヒマワリ油を有機溶剤と混合させ、
b)穏やかに撹拌しながら、得られたミセルの温度を2〜10℃まで低下させ、調質種結晶を添加して、該油を該温度で最大96時間維持し、
c)濾過により固形ステアリンフラクションを分離させ、
d)固形相を新しい冷溶剤で洗浄し、沈殿物中に捕捉されたミセルの残りを除去し、次いで
e)溶剤を除去する。
【請求項15】
有機溶剤がアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルである請求項14に記載の製造方法
【請求項16】
段階e)において、減圧蒸留により溶剤を除去する請求項14に記載の製造方法
【請求項17】
以下の段階a)〜e)を含む、ステアリン酸とオレイン酸の含有量の高いヒマワリ油の溶剤分別方法を含む請求項1〜13のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪の製造方法;
a)ステアリン酸とオレイン酸の含有量の高い油を有機溶剤と混合させ、
b)穏やかに撹拌しながら、得られたミセルの温度を2〜10℃まで低下させ、調質種結晶を添加して、該油を該温度で最大96時間維持し、
c)濾過により固形ステアリンフラクションを分離させ、
d)固形相を新しい冷溶剤で洗浄し、沈殿物中に捕捉されたミセルの残りを除去し、次いで
e)溶剤を除去する。
【請求項18】
有機溶剤がアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルである請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
段階e)において、減圧蒸留により溶剤を除去する請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
菓子製品における、請求項1〜13のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪の使用。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれかに記載の固形ヒマワリ脂肪を含む菓子製品。
【請求項22】
菓子製品がチョコレートバーである請求項21に記載の菓子製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレエートとステアレートの含有量が高いヒマワリ油から分別により製造された固形脂肪(solid fat)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常はブロードな溶融間隔を示す液状の可塑性脂肪である油とは異なり、菓子用脂肪は30℃を超える温度でシャープな溶融間隔を有している。この目的のために最も使用される脂肪はカカオバター(CB)であり、これは一般式SUSのトリアシルグリセロール(TAG)を高濃度(70〜90%)で示す(上記式中、SはTAGのsn−1,3位における飽和脂肪酸、UはTAGのsn−2位における不飽和脂肪酸を表す)。CBの典型的な組成は表1Aに示され、1,3−ジステアロイル−2−オレオイル−グリセロール(StOSt)、1−パルミトイル−2−オレオイル−3−ステアロイル−グリセロール(POSt)および1,3−ジパルミトイル−2−オレオイル−グリセロール(POP)が最も豊富なTAG種である。
【0003】
【表1A】
【0004】
2種のカカオバターおよびシアバターのトリアシルグリセロール組成およびそれらに対応する30〜40℃での固形分含有量を表1Bおよび表2に示す。
【0005】
【表1B】
【0006】
【表2】
【0007】
カカオバターは、5種の異なる多形を与える6種の結晶形態のために、複雑な多形挙動を示す。さらに、この脂肪の溶融間隔は非常にシャープである。この脂肪の物性は、チョコレートおよび菓子製品に対して、口内において固形分含有量が高いことおよび溶融が迅速なことを含む典型的な特性を付与し、新鮮な感覚と迅速に開放される風味をもたらす。
【0008】
CBの世界的な生産は、カカオ木の低い生産性、限定される生産地域および収穫物への害虫の攻撃のために、制約されている。この状況は、当該脂肪の世界的な需要が増大していることと対照的であり、頻繁に起こる価格上昇を伴って当該市場に緊張をもたらす。
【0009】
菓子用脂肪の製造に適したCBの代替品は、パーム油、パーム核油もしくはココナッツ油または水素化により硬化された油からなっていた。前者の脂肪は、パルミチン脂肪酸、ラウリン脂肪酸およびミリスチン脂肪酸が豊富であり、sn−2位の飽和脂肪酸が高濃度である。このような脂肪は、動脈硬化を誘導する血漿コレステロール(blood plasma cholesterol)の濃度を増大させるものと説明されている。
【0010】
コレステロール代謝を変えるトランス脂肪酸の含有量のために、心臓血管の健康のためには、水素化脂肪の摂取もまた推奨できるものではなく、LDLタンパク質と結合されるフラクションを増大させ、HDLタンパク質と結合されるコレステロールを減少させる。CBの代替品源はシア、イリペ、コクムまたはマンゴーのようなStOStが豊富な熱帯脂肪である。
【0011】
菓子製品に適したこのような脂肪の源は動脈硬化を起こすようなものではないが、それらの供給はまだ規則的ではなく、提供されるこのような種は通常、収穫物(crops)ではなく、その果実であり、種子は荒れ地から収穫され、さらには通信手段が乏しく、しかも供給が不規則な地域で生産される。このような脂肪は通常、菓子用脂肪の配合に先に使用されるべきPOPが豊富な数種のパームフラクションと混合される。
【0012】
また最近では、菓子に適したStOStの新規な代替品源が現れている。当該源は、ステアリン酸濃度を増大させるように遺伝子工学により改変されている油料作物、例えば大豆および菜種、に由来している。これらは、グリーンカプセル(green capsules)で生育する種子または長角果を持つ植物であり、油中における顕著な量でのリノレン酸の存在を伴い、リノール酸の存在も伴う。リノレン酸は酸化に対して不安定で、融点が非常に低く(−11℃)、このことは室温以上での固形脂肪含有量を低減するという事実のために、リノレン酸の存在は菓子用脂肪において望まれていない。このような脂肪は、スプレッド(spreads)、ショートニングおよびマーガリンの製造のために、可塑性脂肪の代わりに使用することもでき、ブロードな溶融間隔を示す。分別油に関するあらゆる出願の例を見つけることができ、WO99/57990では高ステアリン・高オレイン大豆油を使用して菓子に適した脂肪を製造し、またWO00/19832では高ステアリン・高オレイン菜種油を使用して類似の製品を製造するが、不幸にも、幾らかのリノレン酸(18:3)が含まれ、しかも33.3℃を超える温度での固形分含有量が3%未満であった。このことは、ショートニングおよびスプレッドの製造には有用であるが、菓子には適していない。
【0013】
高ステアリン・高オレインヒマワリ油もまた分別され、揚げ調理用油のためのオレインフラクションを得たり(WO2008/006597)、液状植物油を構成するのに適した脂肪を製造し、融点がブロードである典型的に塗布可能な脂肪を製造する(WO01/96507)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO99/57990
【特許文献2】WO00/19832
【特許文献3】WO2008/006597
【特許文献4】WO01/96507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
菓子製品(confectionary products)への使用に適した代わりの脂肪が依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下のことを見い出したことに基づくものである;所望により調質ステアリン結晶(tempered stearin crystals)の種入れを行う乾式または溶剤分別処理によりヒマワリ高ステアリン・高オレイン油から入手可能なステアリン脂肪は、30℃より高い温度での固形脂肪含有量が高く、当該含有量は、ステアリン脂肪酸、アラキジン脂肪酸およびベヘン脂肪酸が豊富なジ飽和トリアシルグリセロールの存在により、カカオバターまたはジ飽和トリアシルグリセロール含有量が同等の他の高飽和熱帯脂肪(high saturated tropical fats)よりもさらに高いこと。このようなトリアシルグリセロールは、このような温度での固形分含有量が増大する脂肪の融点を増大させるものであり、このことは、特に菓子製品が偶然に適度な高温にさらされるとき、当該菓子製品の特性の維持に役立つ。
【0017】
本発明の新規なヒマワリ脂肪は、リノレン酸を含有するトリアシルグリセロールを有さない。この点に関して、本発明の脂肪は、菓子製品への使用に適したCBまたはシア、イリペ(illipe)、コクム(kokum)またはマンゴーのようなStOStの豊富な熱帯脂肪(tropical fats)の代替品である。
【0018】
本発明の脂肪は、オレイン酸およびステアリン酸の含有量が高いので、動脈硬化を起こすようなものではなく、血中コレステロール濃度に影響を及ぼさない。さらに、トランス体を含まず、sn−2位での飽和脂肪酸の量は非常に低い。
【0019】
本発明の脂肪は、高ステアリン・高オレインヒマワリ油から物理的手段により製造でき、当該油はその製品の規則的かつ信頼性のある供給が確保されている。さらに本発明の脂肪は、リノレン酸を含まず(<0.5%)、トリアシルグリセロールのsn−1,3位にエステル化されるアラキジン脂肪酸(A)およびベヘン脂肪酸(B)を含有し、特に、他の菓子用脂肪よりも高い室温固形分量を与える1−アラキドイル−2−オレオイル−3−ステアロイル−グリセロール(AOSt)および1−ベヘノイル−2−オレオイル−3−ステアロイル−グリセロール(BOSt)を形成し、菓子に適した溶融間隔(melting intervals)を維持する。
【0020】
一実施態様においては、本発明は、トリアシルグリセロール(TAG)の式中、グリセロールのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸が該式の2つの外側の文字であり、Stがステアリン酸、Oがオレイン酸、Aがアラキジン酸、およびBがベヘン酸を表すとき、トリアシルグリセロールフラクション中、トリアシルグリセロールStOStを少なくとも32.5%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは74.3%、AOStを少なくとも3.2%、好ましくは少なくとも4.5%、より好ましくは少なくとも5.5%、最も好ましくは8.1%、BOStを少なくとも3.3%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも8%、最も好ましくは10.3%含有する脂肪を提供する。本発明の当該脂肪は、水素化されていない、かつパルミチン酸およびラウリン酸を含有しない脂肪であり、しかもエステル交換されておらず、菓子製品に特に適している。
【0021】
一実施態様においては、本発明は、トリアシルグリセロール(TAG)の式中、グリセロールのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸が該式の2つの外側の文字であり、Stがステアリン酸、Oがオレイン酸、Aがアラキジン酸、およびBがベヘン酸を表すとき、トリアシルグリセロールフラクション中、トリアシルグリセロールStOStを32.5〜74.3%、好ましくは35〜70%、より好ましくは40〜60%、さらに好ましくは45〜55%、AOStを3.2〜8.1%、好ましくは4〜7%、より好ましくは4.5〜5.5%、BOStを3.3〜10.3%、好ましくは4.5〜9%、より好ましくは5〜8%、さらに好ましくは6〜7%含有する脂肪を提供する。本発明の当該脂肪は、水素化されていない、かつパルミチン酸およびラウリン酸を含有しない脂肪であり、しかもエステル交換されておらず、菓子製品に特に適している。
【0022】
一実施態様においては、当該脂肪は、そのトリアシルグリセロールフラクション中、一般式SUSのトリアシルグリセロールを少なくとも49.1%含有する。
【0023】
本発明の個々の実施態様は、表3に示すように、以下の組み合わせのStOSt、AOSt、BOStおよびSUSを含有する脂肪である。
【0024】
【表3】
【0025】
従って、本発明は、既知の高ステアリン・高オレインヒマワリ油を、所望により調質ステアリン結晶の種入れを行うか、または所望により結晶核の迅速な形成を誘導するのに十分に低い温度(すなわち、核形成温度)まで油の冷却を行う溶剤分別処理または乾式分別処理に付すことにより入手可能な高融点ステアリンに関するものである。本発明の脂肪は、カカオバターの代替品として、また菓子用脂肪の製造に、特に適している。当該脂肪はトランス体を含まず、sn−2位で含有される飽和脂肪酸の量が非常に低い。このような脂肪は、ヒトの血中コレステロール濃度を増大させない脂肪酸であるステアレートおよびオレエートが豊富である。さらに当該脂肪におけるリノレン酸含有量はごく僅かであるので、酸化安定性が高い。
【0026】
本発明の脂肪は、その組成において、AOStおよびBOStタイプのTAGを十分に高濃度で含有するので、ステアリン酸の量が同等の脂肪と比較したとき、固形分の量が増大されている。このことは、菓子の特定の用途において、また温暖な気候におけるブルーミング(blooming)を回避するのに、特に興味深いことである。ブルーミングは、高温により生じるチョコレートのテンプレート(template)の損失により生じるものであり、チョコレート製品の表面に望ましくない白色系の変色をもたらす。ステアリン酸より鎖長の長い脂肪酸の存在は、菓子の正確なテンプレートを維持するのを促進する「メモリー」効果を奏する。
【0027】
本発明の脂肪は、例えばWO00/74470で記載されている種子から抽出可能な高ステアリン・高オレインヒマワリ油から製造される。WO00/74470で開示されている油の典型的なTAG組成物はStOSt、POSt、AOStおよびBOStを含有するが、高固形脂肪を提供するには不十分な量である。このため、菓子に適した固形分濃度の脂肪を製造するためには、このようなTAGを乾式または溶剤分別により濃縮しなければならない。
【0028】
乾式分別処理は、油を16〜22℃の温度まで冷却すること、および該油をこのような温度で最高30時間維持すること、ならびに濾過後、最高10barまで加圧して残留オレインを除去することを含む。
【0029】
乾式分別後に得られる脂肪フラクションは時々、菓子のCB代替品としての使用に適していない。しかしながら、当該フラクションはさらなる分別による菓子用脂肪の製造に適している。このようなフラクションは、例えば、実施例で記載のSD1、SD2、SD3およびSD4である。本発明の幾つかの固形脂肪の製造において出発生成物として使用するための高ステアリン・高オレイン油のこのようなフラクションは、トリアシルグリセロール(TAG)の式中、グリセロールのsn−1位およびsn−3位の脂肪酸が該式の2つの外側の文字であり、Sが飽和脂肪酸、Uが不飽和脂肪酸、Stがステアリン酸、Oがオレイン酸、Aがアラキジン酸、およびBがベヘン酸を表すとき、トリアシルグリセロールフラクション中、一般式SUSのトリアシルグリセロールを少なくとも30%、一般式StOStのトリアシルグリセロールを20.8〜74.3%、一般式AOStのトリアシルグリセロールを2.9〜8.1%、および一般式BOStのトリアシルグリセロールを3.1〜10.3%含有する。
【0030】
溶剤分別処理は、油を有機溶剤と混合させること、その後、得られたミセルを15℃未満の温度で冷却することを含む。
【0031】
分別の初期に油に調質ステアリン結晶を種入れすることにより、または油をその核形成温度まで冷却することにより、改善された分別、特に迅速な分別を行うことができる。
【0032】
一実施態様においては、溶剤分別処理は溶剤としてヘキサンを用いて行う。高ステアリン・高オレイン油または乾式分別からのステアリンを使用する場合、ヘキサンを用いた分別により、35℃での固形分含有量がCBと匹敵する脂肪が誘導される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の脂肪はカカオバターと十分に相溶し、当該混合物の融点の低下を引き起こすことなく、あらゆる比率でカカオバターとブレンドすることができる。このような脂肪はヒマワリのような温帯作物から製造できるので、菓子用脂肪の規則的かつ管理的な供給を保証できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】カカオバターおよび脂肪SH5の様々なブレンドにおける様々な温度での固形脂肪含有量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の目的は、健康的な菓子用固形脂肪であって、温暖な気候の国々の産物であるヒマワリから製造できるものを提供することを目的とする。このような目的は、当該脂肪が高ステアリン・高オレインヒマワリ油から製造できるという事実により達成される。このような脂肪の組成は、室温で高濃度の固形分を有すること、および菓子用途に十分な溶融間隔を有することを可能にする。
【0036】
本発明の脂肪は上記油の分別により製造され、以下の要件を満足する;
・当該脂肪は一般式SUSのTAGを49.1〜95.5%含有する。
・当該脂肪はStOStを32.5〜74.3%、ならびにAOStを3.2〜8.1%およびBOStを3.3〜10.3%含有する。
・当該脂肪はリノレン酸を0〜0.5%含有する。
・当該脂肪は温度30℃での固形脂肪含有量が高い(38.9〜94.5%)。
【0037】
本発明の脂肪は、以下の段階a)〜c)を実施する低温乾式分別処理により入手可能である;
a)ステアリン酸とオレイン酸の含有量の高い油を、穏やかに撹拌しながら、最高約60℃まで加熱し、該温度を16〜22℃、好ましくは17〜19℃まで低下させ、所望により調質種結晶(tempered crystals for seeding)を添加し、該油を該温度で20〜50時間、好ましくは24〜35時間維持し、
b)濾過によりオレインから固形ステアリンを分離させ、
c)ステアリンケークを、好ましくは最高5barまで、特に最高10barまで、さらに好ましくは最高30barまで加圧し、該ケーク中に捕捉された残留オレインを除去する。
【0038】
別の実施態様においては、本発明の脂肪は、以下の段階a)〜e)を含む方法で溶剤分別処理により製造できる;
a)ステアリン酸とオレイン酸の含有量の高い油を有機溶剤、特にアセトン、ヘキサン又はエチルエーテルと混合させ、
b)穏やかに撹拌しながら、得られたミセルの温度を−3〜15℃まで、好ましくは2〜10℃まで最大96時間低下させ、所望により調質種結晶を添加し、
c)濾過により固形ステアリンフラクションを分離させ、
d)固形相を新しい冷溶剤で洗浄し、沈殿物中に捕捉されたミセルの残りを除去し、次いで
e)好ましくは減圧蒸留により溶剤を除去する。
【0039】
本発明の脂肪を製造するための出発原料は、WO00/74470公報またはプリーテ・アールらの文献(ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー2006、第54巻、第9383〜8頁)に記載された種子から抽出できる高ステアリン・高オレインヒマワリ油である。当該油はこのような種子から、種子の圧潰、および溶剤としてヘキサンを用いた硫酸ナトリウム添加後のソックスレー装置での抽出を含む従来の方法により抽出できる。
【0040】
分別方法は、適切な調質ステアリン結晶を種入れすることにより、時間および品質において改善できる。このようなステアリン結晶は、約20〜24℃の温度で少なくとも24時間調質(tempering)または予備結晶化することにより、高ステアリン・高オレインステアリンフラクションから入手可能である。
【0041】
sn−1,3位の脂肪酸が2つの外側の文字であり、Sが飽和脂肪酸、Uが不飽和脂肪酸を表すとき、上記した油中における一般式SUSのトリアシルグリセロールの含有量は菓子での使用には十分ではない。このため、このような油は分別されて本発明の脂肪を製造しなければならない。油の分別処理は、あらゆる有機溶剤の任意的な存在下で当該油を冷却すること、得られた沈殿物を濾過により分離させること、および必要であれば蒸留により溶剤を除去することを含む物理的な段階のみを含む。得られた脂肪は、一般式SUSのTAGの濃度が増大されている。初期の油および異なるフラクションにおけるTAGおよびTAG類の組成を表4および表5に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
一般式SUSのTAGの原含有量は、乾式分別処理により約4倍まで増大し、溶剤分別処理により約8倍まで増大し、結果として菓子用途に適した脂肪が得られた。このような脂肪は、当該脂肪における固形分含有量を増大させるAOStおよびBOStのTAG含有量としてそれぞれ3%〜8%を示した。このようなステアリンは、単独で、またはCBまたはシア、イリペ、コクムもしくはマンゴーのようなStOStの豊富な熱帯脂肪または他の菓子用脂肪と混合して、菓子製品およびチョコレート類の製造に使用することができる。本発明の脂肪は、CBと十分に相溶可能であり、CBと混合したとき、共融混合物をもたらさないし、最終混合物の融点のいかなる低下ももたらさない。
【0044】
【表5】
【0045】
本発明の脂肪は、どのような高ステアリン・高オレインヒマワリ油からも製造でき、同等のTAG組成および溶融分布(melting profiles)を保持することができる。乾式または溶剤分別から得られるステアリンの組成は、ステアリン酸の含有量がより高い油の使用により有意には変化しない。このため、ステアリン酸をより高濃度で含有する高ステアリン・高オレイン油(HStHO2)から得られたステアリンのTAG組成を表6および表7に示す。このような油はTAGのStOSt濃度が7.5%に達し、得られたステアリンは油HStHO1から得られたものと組成が同等であった。
【0046】
【表6】
【0047】
【表7】
【0048】
高ステアリン・高オレインヒマワリ油から分別処理により得られた高融点ステアリンは、本発明の脂肪を構成するものであり、菓子用途に特に適している。このような脂肪は、StOSt、主としてAOStおよびBOStの含有量が高いため、ジ飽和トリアシルグリセロールの含有量が同等の他の菓子用脂肪よりも、固形分濃度が高く、菓子に適した溶融間隔を維持している。
【0049】
このようなステアリンはトランス体を含まない脂肪酸であるので、単独で、またはCBと混合して、菓子製品およびチョコレート類の製造に使用することができる。本発明の脂肪は、CBと十分に相溶可能であり、CBと混合したとき、共融混合物をもたらさないし、最終混合物の融点のいかなる低下ももたらさない。
【0050】
本発明の脂肪は安定であり、リノレン酸、ラウリン酸またはミリスチン酸を、全脂肪酸の0.5%より高い割合で含有するものではなく、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.1%以下の割合で含有する。
【0051】
本発明を以下の実施例においてさらに説明する。実施例において図1を参照するが、図1は、カカオバターおよび脂肪SH5(表18および表19)の様々なブレンドにおける様々な温度での固形脂肪含有量を示す(5℃(−■−)、15℃(−×−)、25℃(−○−)、30℃(−▼−)、35℃(−▲−)および40℃(−●−))。
【実施例】
【0052】
実施例1
1.植物原料
WO00/74470公報またはプリーテ・アールらの文献(ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー2006、第54巻、第9383〜8頁)に記載された高ステアリン・高オレインヒマワリ種子を使用した。
【0053】
2.油の抽出
連続的オイルプレスを用いて種子油を抽出した。油のバッチを抽出した後、精製処理に付した。このような油は、ホスフェート含有量が低いために、脱ガム処理(degummed)には付さなかった。過剰の遊離脂肪酸は、12度ボイメ(2.18M)のアルカリ液を用いる15℃での中和処理に40分間付すことによって除去した。セッケン原料を遠心分離によって除去した後、油を水洗処理に付した。次の段階では、活性化漂白粘土(1%w/w)を用いる70℃での処理に10分間付すことにより、油を漂白した。最後に、3%のスチームを減圧下、200℃で3時間適用することにより、油を脱臭処理に付した。
【0054】
3.TAGの分析
TAG分子種の組成分析は、フェルナンデス−モヤらの文献(J. Agr. Food Chem. 2000年、第48巻、第764頁〜第769頁)に従い、30mクアドレックス(Quadrex)(アルミニウム−クラッド結合メチル65%フェニルシリコーン毛管カラム、0.25mm内径、0.1ミクロン膜厚)、水素キャリアガスおよびFID検出器を用いたアジレント6890ガスクロマトグラフィーにおける精製TAGのガスクロマトグラフィーにより行った。
【0055】
実施例2
1.高ステアリン・高オレイン(HStHO)ヒマワリ油の乾式分別
溶剤が全く添加されていないHStHO1油およびHStHO2油(表4および6)をジャケット付反応器へ装填した。当該油を連続的にゆっくり撹拌しながら(30rpm)、40℃まで加熱した。その後、当該油の温度を40℃から2時間の線形勾配で降下させ、19℃まで冷却した。先の分別で得られた調質ステアリン結晶を添加することにより、種入れを行った。このようなステアリン結晶は、約20〜24℃の温度で24時間の調質または予備結晶化により、先のステアリンフラクションから得られたものであった。
【0056】
連続的にゆっくり撹拌しながら(10〜30rpm)、油の温度を19℃で一定に30時間維持した。その後、ジャケット付濾板およびミラクロス織物(miracloth tissue)(カルバイオケム(Calbiochem))濾材を用い、形成された白色ステアリン沈殿物を減圧濾過した。沈殿物を減圧にて2時間余り乾燥させて、沈殿物中に捕捉されたオレインを除去した。得られたステアリンは、出発油に対して、ジ飽和TAGが増量した(表8)。TAGの全ジ飽和類について、同等の増量が観察された(表9)。
【0057】
【表8】
【0058】
【表9】
【0059】
2.パイロットプラントにおける高ステアリン・高オレインヒマワリ油の乾式分別
高ステアリン・高オレイン油10Lをデスメット・バレストラ(DesMet Ballestra)社製の結晶化パイロットプラントの晶析装置に装填した。当該油を40℃まで加熱した後、ゆっくり撹拌しながら(10rpm)、温度を2時間で18℃まで勾配させた。当該油が18℃に達したら、先の分別で得られた調質ステアリン結晶を用いて種入れを行い、当該温度で30時間維持した。
【0060】
その後、油を18℃に温度調節された加圧濾過器へ供給し、加圧空気を用いて晶析装置内部の圧力を2barまで増大させることにより、当該油にナイロンまたはプラスチド濾過膜を供した。濾過器がステアリン結晶で満たされたら、晶析装置との連結部を閉め、初めに加圧空気を最高5barまで適用した後、パイロットプラントの圧力回路へ水を手動で最高30barで2時間送り込むことにより、加圧濾過器への圧力を増大させて、ケークを圧搾した。最後に、圧力を開放し、ステアリンケーク濾過器から捕集した。
【0061】
分別の結果を表10および11に示す。当該結果は、StOStおよびジ飽和トリアシルグリセロール類の含有量が4〜5倍濃縮されるという、実験室規模の実験によりわかった結果と同等であり、このような含有量は当該脂肪を初期の油よりも菓子用脂肪に近づけるものである。
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
実施例3
1.高ステアリン・高オレインヒマワリ油の溶剤分別
溶剤分別は、高ステアリン・高オレイン油を有機溶剤と混合すること、得られたミセルを冷却すること、固形結晶を成長させること、次いで固形分を減圧濾過することを含む。得られたステアリンケークを新しい溶剤で洗浄し、当該ケーク中に捕捉されたオレインを除去する。溶剤分別はヘキサン、アセトンまたはエチルエーテルを含む様々な溶剤を用いて実行することができる。本実施例では、高ステアリン・高オレイン油HStHO1を同体積のヘキサンに溶解させた。得られたミセルを水浴に0℃および5℃で96時間配置させた後、沈殿物を濾過し、新しいヘキサンでそれぞれ0℃または5℃にて洗浄した。最後にステアリンを蒸留し、溶剤を除去して、特徴付けた。
【0065】
表12および13はヘキサンを用いた異なる温度での分別によりHStHO1油から得られた一連のステアリンを示す。溶剤分別はジ飽和TAGの含有量を数倍まで増大させ、AOStおよびBOStの含有量がそれぞれ3.2および3.3よりも高い高濃度のジ飽和TAGを示す本発明の脂肪を与えた。このような脂肪は高濃度のジ飽和TAGを示し、菓子用途に適していた。当該脂肪は健康的で、リノレン酸を含まず、HStHOヒマワリ油から調製できる。
【0066】
【表12】
【0067】
【表13】
【0068】
実施例4
1.高ステアリン・高オレインヒマワリ油ステアリンの溶剤分別
本発明の脂肪はHStHOヒマワリ油の分別により調製される。別法として、乾式分別または溶剤分別により得られたステアリンを、さらに溶剤分別処理に付すことにより、ジ飽和TAGを濃縮することができる。
【0069】
実施例2で記載したように、HStHOヒマワリ油から乾式分別により得られたステアリンを、3容量のアセトンに溶解させた。その後、このような脂肪ミセルを10℃または15℃の温度まで冷却し、このとき、先の分別から得られた適切な調質ステアリン結晶を用いて種入れを行い、当該ミセルを当該温度で48時間維持した。次いで、冷却室へ設置された濾板において、濾材としてミラクロス織物を用い、減圧濾過を行った。沈殿物を新しい溶剤で洗浄し、その内部に捕捉された残留オレインを除去し、最後に減圧にて蒸留を行った。
【0070】
溶剤分別法により、出発ステアリンのジ飽和TAGの含有量、例えば、特にStOSt、AOStおよびBOStの含有量が増大し、一般構造SUSのTAGの総含有量が最高79.3%に達した(表14および15)。このような脂肪は高濃度のジ飽和TAGを示すので、菓子用に適している。当該脂肪はリノレン酸を含まず、CBと十分に相溶可能である。
【0071】
【表14】
【0072】
【表15】
【0073】
実施例5
様々な温度での高ステアリン・高オレインヒマワリ油の分別
高ステアリン・高オレインヒマワリ油の分別により得られた様々なステアリンの組成は当該方法で採用された条件に応じて様々である。従って、油分別の条件を変更して、様々な特性および溶融分布を有するステアリンを得ることができる。
【0074】
乾式分別処理の場合、結晶核の迅速な形成を誘導するのに十分に低い温度(核形成温度)まで当該油を冷却することにより、当該作業を促進させることができ、当該温度は通常、最終的な結晶化温度よりも2〜5℃低い範囲内である。この核形成段階の後、当該油を最終的な結晶化温度まで20〜50時間加温した。その後、ステアリンをジャケット付きブフナー漏斗で濾過し、捕捉されたオレインを減圧の適用により除去した。最終的な分別温度にそうであったように、核形成温度および時間はステアリンの最終的な組成および収率に影響を及ぼした(表16)。
【0075】
より高い温度で得られたステアリン中の飽和脂肪酸濃度は、沈殿物のより低い収率を犠牲にして増大した。より低い核形成温度は分別作業全体を促進するが、ジ飽和TAG濃度がより低いステアリンを与えた。
【0076】
【表16】
【0077】
溶剤分別処理の場合、ステアリンの最終組成は結晶化を行う条件の作用により変化する。溶剤分別処理の場合、通常、変更されるパラメータは当該油に添加される溶剤の温度および量である。
【0078】
ヘキサンを用いた数種の分別処理に対応するデータを表17に示す。このような分別処理においては、最終ミセル中、油の比率を25%から75%まで変化させて、油を様々な容量のヘキサンと混合した。油−ヘキサン混合物を0℃または5℃に72時間冷却し、ブフナー漏斗で減圧にて濾過した。その後、ステアリンを新しいヘキサンで分別温度にて洗浄した。最後に蒸留を行い、特徴付けられるべき溶剤を除去した。
【0079】
より高い温度での分別により、収率および回収率を犠牲にして、ジ飽和TAGの含有量がより高いステアリンが得られる。分別混合物中のヘキサンの量を増大させた時、同様の結果が観察された。従って、ヘキサンをより多く含有するミセルは、油の濃度がより高いミセルよりも、ジ飽和TAGの含有量がより高く、かつ融点がより高いステアリンを与える。さらに、分別条件を調節すると、HStHO1およびHStHO2から、組成が類似するフラクションが製造された。従って、出発油の初期ステアリン含有量は実質的に分別の結果に悪影響を及ぼさない。
【0080】
【表17】
【0081】
実施例6
示差走査熱量測定法による溶融間隔および固形分含有量の測定
示差走査熱量測定法またはDSCは、試料および対照の温度を増大させるのに必要な熱量の差を温度の関数として測定する熱分析技術である。このような技術により、様々な脂肪およびステアリンの溶融間隔を測定した。さらに、熱流量信号を積分することにより、様々な温度での脂肪の固形分含有量を算出した。脂肪の溶融分布をQ100スキャナ(TAインストルメント社製、ニュー・キャッスル、DE、米国)において示差走査熱量測定法(DSC)により測定した。製造業者により提供されたTA分析ソフトウェアを用いて、結果を処理した。この計測器を、使用に先立ち、金属インジウム(融点156.6℃、△H=28.45J/g)を用いることにより検量した。溶融油および脂肪フラクション6〜8mgをアルミニウム皿に移し、精密微量はかり(サルトリウスM2Pマイクロバランス)で秤量することにより、試料を調製した。その後、皿を密封し、熱量はかり(calorimetric balance)に供した。空の密封カプセルを対照として使用した。
【0082】
溶融分布を検討するために、試料を90℃で10分間維持して、あらゆる先の構造を破壊した;その後、試料を0℃で30分間冷却し、5℃で24時間維持した。最後に、試料をオーブンへ26℃で48時間移した。試料を熱量計に20℃で装填し、温度を迅速に−40℃まで降下させた後、10℃/分速度で90℃まで上昇させた。TAユニバーサル分析ソフトウェア(TA universal analysis software)を用いたDSC融解曲線の連続積分により、固形脂肪含有量(SFC)を測定した。
【0083】
様々な高ステアリン・高オレイン油から乾式および溶剤分別により調製された様々なステアリンをDSCにより分析し、標準カカオバターと比較した。このような脂肪の組成を表18および19に示す。
【0084】
【表18】
【0085】
【表19】
【0086】
脂肪ブリットル(fat brittle)を構成する固形分が高濃度であること、および溶融間隔が迅速なことを含む必要特性を達成するために、菓子用脂肪はジ飽和TAGの濃度が高いことを要求される。このような分布は、表20に示されるように、典型的にはCBにより表される(表2)。
【0087】
【表20】
【0088】
ジ飽和TAGの総含有量がより低い脂肪は、30℃周辺の温度でCBと同等の固形分含有量またはCBよりもいくらか低い固形分含有量を示した(SA3およびSA4)。しかしながら、このような脂肪はこのような温度で高固形分含有量を維持し、溶融挙動は、高融点TAG、AOStおよびBOStの存在により、30℃より高温でCBに類似していた。高ステアリン・高オレインヒマワリステアリンがCBと同等のジ飽和TAG含有量を示したとき(SH5およびSA5)、当該脂肪はAOStおよびBOStのような高融点TAGを含有するので、CBより高い固形分含有量を示した。ジ飽和TAGの含有量がより高いヒマワリ脂肪は、35〜40℃の間で、より大きな固形分割合およびより高い溶融間隔を示したが、CBと十分に相溶したので、CBとのブレンドで使用して高温での菓子の特性を改良することができる。表20におけるフラクションの様々な温度での固形分含有量はSMS含有量との関連性をよく示した。
【0089】
高ステアリン・高オレインヒマワリ油の溶剤分別は、高融点ヒマワリ脂肪を製造するための効果的な方法である。様々な溶剤の中で、アセトンは10〜15℃範囲の温度でステアリンの迅速な沈殿を誘導するので特に適切であった。出発油、油/溶剤比率および温度に依存して、様々なTAG組成を有するステアリンが得られた。このようなステアリンは全てジ飽和TAG含有量が高い範囲にあった(67〜82%、表21および22)。
【0090】
【表21】
【0091】
【表22】
【0092】
前と同じように、ジ飽和TAGの濃度が高いほど、対応する脂肪の固形分含有量は高かった(表23)。このような脂肪は、幾つかのものは飽和脂肪酸含有量が少なかったが、全てのものが30℃より高い温度でカカオバターよりも高い固形分含有量を示した。このような効果は、融点がCBにおいて見い出されるジ飽和TAGよりも高いAOStおよびBOStのようなTAGの存在によりもたらされた。このような脂肪はCBと十分に相溶可能であるので、CBとのブレンドで使用して高温での菓子の特性を改良することができる。
【0093】
【表23】
【0094】
実施例7
本発明の脂肪とCBとの相溶性の検討
ラウリンおよび水素化脂肪のようなCBの代わりとして使用される脂肪は時々、脂肪ブレンドの溶融間隔が当該両方の脂肪が個々に示すよりも低い共融混合物を製造する。
【0095】
本発明の脂肪とCBとの相溶性を検討して改良された菓子用脂肪を製造するために、両方の脂肪を溶融し、様々な比率のブレンドを調製した。その後、ブレンドの固形分含有量を、実施例6で記載したように、示差走査熱量測定法により測定した。本実施例で使用された脂肪はCB1(表2)および表18および19に組成を示すSH5であった。一定温度での固形脂肪含有量に相当する線(図1)は平行であり、いかなる共融混合物の存在も示さなかった。このことは、本発明の脂肪はカカオバターと十分に相溶可能であり、あらゆる比率でCBと混合使用して、特性が改良された菓子用脂肪を製造できることを意味している。このような脂肪は、中鎖トランス脂肪酸(medium-chained and trans fatty acids)を含まないので、他のCB代替品とは異なり健康的である。さらに、本発明の脂肪はsn−2位が非常に低飽和であり、温暖な気候の国々で生育させることもできるヒマワリ突然変異品種から得ることができる。
【0096】
実施例8
本発明の脂肪を用いたチョコレートバー(chocolate bar)の製造
本発明の脂肪はあらゆる種類の菓子製品の製造に使用することができる。本実施例においては、文献(ダブリュ・シー・トレボール「チョコレートと菓子」、1950年)で入手可能な調理法を用いてチョコレートバーを製造した。以下の成分を使用した:
34.6g 脂肪SH5
21.6g 粉末チョコレート
43.4g 砂糖
0.3g 大豆レシチン
【0097】
脂肪を溶融し、50℃で維持した。この温度で大豆レシチンを添加し、混合物を均質にした。その後、連続的に手で撹拌しながら、粉末チョコレートおよび砂糖を添加した。得られた混合物を25℃まで冷却させた。次いで、穏やかに撹拌しながら、混合物を30℃までゆっくりと再び加熱し、最後に、適切な型に注いだ。混合物をひと晩で室温まで冷却させ、プレート性(platability)および官能的特性が良好なチョコレートバーが得られた。
【0098】
この調理法により、本特許出願で記載の他の脂肪またはこのような脂肪とカカオバターとのあらゆる比率でのブレンドと同等の良好な結果をもたらすことができた。
【0099】
実施例9
本発明の脂肪とパームミッドフラクション(palm mid fraction)の混合物を用いたチョコレートバーの製造
本発明の脂肪を他の脂肪と混合して適切な特性の菓子製品を製造することができる。例えば、パームミッドフラクションはパーム油から乾式分別により調製されたものである。このようなフラクションは通常、ポリ不飽和およびトリ飽和TAGの含有量が低く、ジ飽和TAG類、POPおよびPOSt、の含有量が高い。このような脂肪は通常、菓子用脂肪の製造に適したステアリン酸が豊富な熱帯脂肪と混合されるものである。本実施例において我々は、パームミッドフラクションと、アセトンを用いた分別により得られた本発明の脂肪の1種との混合物を用いてチョコレートバーを製造した。使用した成分は以下のものであった;
13.6g パームミッドフラクション
20.7g 脂肪SA2
21.6g 粉末チョコレート
43.4g 砂糖
0.3g 大豆レシチン
【0100】
本実施例のチョコレートバーを実施例8で記載の方法と同様の方法により製造した。このような脂肪混合物を用いて製造されたチョコレートは期待された外観および構成ならびに良好な官能的特性を示した。
【0101】
実施例10
本発明の脂肪、パームミッドフラクションおよびカカオバターの混合物を用いたチョコレートバーの製造
欧州法は、チョコレートに対して、CBと相溶可能な脂肪であって、ラウリンではなく、トランス体を含まないもの(non-lauric, trans-free fats)を最大で5%添加することを許容する。請求項に記載の脂肪はラウリン酸およびトランス脂肪酸を含まず、CBと十分に相溶可能である。本実施例においては、カカオバターおよびパームミッドフラクションとアセトンを用いた分別により得られた本発明の脂肪の1種との混合物5%を用いて、チョコレートバーを製造した。使用した成分は以下のものであった;
32.9g カカオバター
1.04g 脂肪SA2
0.7g パームミッドフラクション
21.6g 粉末チョコレート
43.4g 砂糖
0.3g 大豆レシチン
【0102】
本実施例のチョコレートバーを実施例8で記載の方法と同様の方法により製造した。このような脂肪混合物を用いて製造されたチョコレートは標準チョコレートバーにおいて期待される構成および官能的特性を示した。
図1