【実施例】
【0052】
実施例1
1.植物原料
WO00/74470公報またはプリーテ・アールらの文献(ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・ケミストリー2006、第54巻、第9383〜8頁)に記載された高ステアリン・高オレインヒマワリ種子を使用した。
【0053】
2.油の抽出
連続的オイルプレスを用いて種子油を抽出した。油のバッチを抽出した後、精製処理に付した。このような油は、ホスフェート含有量が低いために、脱ガム処理(degummed)には付さなかった。過剰の遊離脂肪酸は、12度ボイメ(2.18M)のアルカリ液を用いる15℃での中和処理に40分間付すことによって除去した。セッケン原料を遠心分離によって除去した後、油を水洗処理に付した。次の段階では、活性化漂白粘土(1%w/w)を用いる70℃での処理に10分間付すことにより、油を漂白した。最後に、3%のスチームを減圧下、200℃で3時間適用することにより、油を脱臭処理に付した。
【0054】
3.TAGの分析
TAG分子種の組成分析は、フェルナンデス−モヤらの文献(J. Agr. Food Chem. 2000年、第48巻、第764頁〜第769頁)に従い、30mクアドレックス(Quadrex)(アルミニウム−クラッド結合メチル65%フェニルシリコーン毛管カラム、0.25mm内径、0.1ミクロン膜厚)、水素キャリアガスおよびFID検出器を用いたアジレント6890ガスクロマトグラフィーにおける精製TAGのガスクロマトグラフィーにより行った。
【0055】
実施例2
1.高ステアリン・高オレイン(HStHO)ヒマワリ油の乾式分別
溶剤が全く添加されていないHStHO1油およびHStHO2油(表4および6)をジャケット付反応器へ装填した。当該油を連続的にゆっくり撹拌しながら(30rpm)、40℃まで加熱した。その後、当該油の温度を40℃から2時間の線形勾配で降下させ、19℃まで冷却した。先の分別で得られた調質ステアリン結晶を添加することにより、種入れを行った。このようなステアリン結晶は、約20〜24℃の温度で24時間の調質または予備結晶化により、先のステアリンフラクションから得られたものであった。
【0056】
連続的にゆっくり撹拌しながら(10〜30rpm)、油の温度を19℃で一定に30時間維持した。その後、ジャケット付濾板およびミラクロス織物(miracloth tissue)(カルバイオケム(Calbiochem))濾材を用い、形成された白色ステアリン沈殿物を減圧濾過した。沈殿物を減圧にて2時間余り乾燥させて、沈殿物中に捕捉されたオレインを除去した。得られたステアリンは、出発油に対して、ジ飽和TAGが増量した(表8)。TAGの全ジ飽和類について、同等の増量が観察された(表9)。
【0057】
【表8】
【0058】
【表9】
【0059】
2.パイロットプラントにおける高ステアリン・高オレインヒマワリ油の乾式分別
高ステアリン・高オレイン油10Lをデスメット・バレストラ(DesMet Ballestra)社製の結晶化パイロットプラントの晶析装置に装填した。当該油を40℃まで加熱した後、ゆっくり撹拌しながら(10rpm)、温度を2時間で18℃まで勾配させた。当該油が18℃に達したら、先の分別で得られた調質ステアリン結晶を用いて種入れを行い、当該温度で30時間維持した。
【0060】
その後、油を18℃に温度調節された加圧濾過器へ供給し、加圧空気を用いて晶析装置内部の圧力を2barまで増大させることにより、当該油にナイロンまたはプラスチド濾過膜を供した。濾過器がステアリン結晶で満たされたら、晶析装置との連結部を閉め、初めに加圧空気を最高5barまで適用した後、パイロットプラントの圧力回路へ水を手動で最高30barで2時間送り込むことにより、加圧濾過器への圧力を増大させて、ケークを圧搾した。最後に、圧力を開放し、ステアリンケーク濾過器から捕集した。
【0061】
分別の結果を表10および11に示す。当該結果は、StOStおよびジ飽和トリアシルグリセロール類の含有量が4〜5倍濃縮されるという、実験室規模の実験によりわかった結果と同等であり、このような含有量は当該脂肪を初期の油よりも菓子用脂肪に近づけるものである。
【0062】
【表10】
【0063】
【表11】
【0064】
実施例3
1.高ステアリン・高オレインヒマワリ油の溶剤分別
溶剤分別は、高ステアリン・高オレイン油を有機溶剤と混合すること、得られたミセルを冷却すること、固形結晶を成長させること、次いで固形分を減圧濾過することを含む。得られたステアリンケークを新しい溶剤で洗浄し、当該ケーク中に捕捉されたオレインを除去する。溶剤分別はヘキサン、アセトンまたはエチルエーテルを含む様々な溶剤を用いて実行することができる。本実施例では、高ステアリン・高オレイン油HStHO1を同体積のヘキサンに溶解させた。得られたミセルを水浴に0℃および5℃で96時間配置させた後、沈殿物を濾過し、新しいヘキサンでそれぞれ0℃または5℃にて洗浄した。最後にステアリンを蒸留し、溶剤を除去して、特徴付けた。
【0065】
表12および13はヘキサンを用いた異なる温度での分別によりHStHO1油から得られた一連のステアリンを示す。溶剤分別はジ飽和TAGの含有量を数倍まで増大させ、AOStおよびBOStの含有量がそれぞれ3.2および3.3よりも高い高濃度のジ飽和TAGを示す本発明の脂肪を与えた。このような脂肪は高濃度のジ飽和TAGを示し、菓子用途に適していた。当該脂肪は健康的で、リノレン酸を含まず、HStHOヒマワリ油から調製できる。
【0066】
【表12】
【0067】
【表13】
【0068】
実施例4
1.高ステアリン・高オレインヒマワリ油ステアリンの溶剤分別
本発明の脂肪はHStHOヒマワリ油の分別により調製される。別法として、乾式分別または溶剤分別により得られたステアリンを、さらに溶剤分別処理に付すことにより、ジ飽和TAGを濃縮することができる。
【0069】
実施例2で記載したように、HStHOヒマワリ油から乾式分別により得られたステアリンを、3容量のアセトンに溶解させた。その後、このような脂肪ミセルを10℃または15℃の温度まで冷却し、このとき、先の分別から得られた適切な調質ステアリン結晶を用いて種入れを行い、当該ミセルを当該温度で48時間維持した。次いで、冷却室へ設置された濾板において、濾材としてミラクロス織物を用い、減圧濾過を行った。沈殿物を新しい溶剤で洗浄し、その内部に捕捉された残留オレインを除去し、最後に減圧にて蒸留を行った。
【0070】
溶剤分別法により、出発ステアリンのジ飽和TAGの含有量、例えば、特にStOSt、AOStおよびBOStの含有量が増大し、一般構造SUSのTAGの総含有量が最高79.3%に達した(表14および15)。このような脂肪は高濃度のジ飽和TAGを示すので、菓子用に適している。当該脂肪はリノレン酸を含まず、CBと十分に相溶可能である。
【0071】
【表14】
【0072】
【表15】
【0073】
実施例5
様々な温度での高ステアリン・高オレインヒマワリ油の分別
高ステアリン・高オレインヒマワリ油の分別により得られた様々なステアリンの組成は当該方法で採用された条件に応じて様々である。従って、油分別の条件を変更して、様々な特性および溶融分布を有するステアリンを得ることができる。
【0074】
乾式分別処理の場合、結晶核の迅速な形成を誘導するのに十分に低い温度(核形成温度)まで当該油を冷却することにより、当該作業を促進させることができ、当該温度は通常、最終的な結晶化温度よりも2〜5℃低い範囲内である。この核形成段階の後、当該油を最終的な結晶化温度まで20〜50時間加温した。その後、ステアリンをジャケット付きブフナー漏斗で濾過し、捕捉されたオレインを減圧の適用により除去した。最終的な分別温度にそうであったように、核形成温度および時間はステアリンの最終的な組成および収率に影響を及ぼした(表16)。
【0075】
より高い温度で得られたステアリン中の飽和脂肪酸濃度は、沈殿物のより低い収率を犠牲にして増大した。より低い核形成温度は分別作業全体を促進するが、ジ飽和TAG濃度がより低いステアリンを与えた。
【0076】
【表16】
【0077】
溶剤分別処理の場合、ステアリンの最終組成は結晶化を行う条件の作用により変化する。溶剤分別処理の場合、通常、変更されるパラメータは当該油に添加される溶剤の温度および量である。
【0078】
ヘキサンを用いた数種の分別処理に対応するデータを表17に示す。このような分別処理においては、最終ミセル中、油の比率を25%から75%まで変化させて、油を様々な容量のヘキサンと混合した。油−ヘキサン混合物を0℃または5℃に72時間冷却し、ブフナー漏斗で減圧にて濾過した。その後、ステアリンを新しいヘキサンで分別温度にて洗浄した。最後に蒸留を行い、特徴付けられるべき溶剤を除去した。
【0079】
より高い温度での分別により、収率および回収率を犠牲にして、ジ飽和TAGの含有量がより高いステアリンが得られる。分別混合物中のヘキサンの量を増大させた時、同様の結果が観察された。従って、ヘキサンをより多く含有するミセルは、油の濃度がより高いミセルよりも、ジ飽和TAGの含有量がより高く、かつ融点がより高いステアリンを与える。さらに、分別条件を調節すると、HStHO1およびHStHO2から、組成が類似するフラクションが製造された。従って、出発油の初期ステアリン含有量は実質的に分別の結果に悪影響を及ぼさない。
【0080】
【表17】
【0081】
実施例6
示差走査熱量測定法による溶融間隔および固形分含有量の測定
示差走査熱量測定法またはDSCは、試料および対照の温度を増大させるのに必要な熱量の差を温度の関数として測定する熱分析技術である。このような技術により、様々な脂肪およびステアリンの溶融間隔を測定した。さらに、熱流量信号を積分することにより、様々な温度での脂肪の固形分含有量を算出した。脂肪の溶融分布をQ100スキャナ(TAインストルメント社製、ニュー・キャッスル、DE、米国)において示差走査熱量測定法(DSC)により測定した。製造業者により提供されたTA分析ソフトウェアを用いて、結果を処理した。この計測器を、使用に先立ち、金属インジウム(融点156.6℃、△H
f=28.45J/g)を用いることにより検量した。溶融油および脂肪フラクション6〜8mgをアルミニウム皿に移し、精密微量はかり(サルトリウスM2Pマイクロバランス)で秤量することにより、試料を調製した。その後、皿を密封し、熱量はかり(calorimetric balance)に供した。空の密封カプセルを対照として使用した。
【0082】
溶融分布を検討するために、試料を90℃で10分間維持して、あらゆる先の構造を破壊した;その後、試料を0℃で30分間冷却し、5℃で24時間維持した。最後に、試料をオーブンへ26℃で48時間移した。試料を熱量計に20℃で装填し、温度を迅速に−40℃まで降下させた後、10℃/分速度で90℃まで上昇させた。TAユニバーサル分析ソフトウェア(TA universal analysis software)を用いたDSC融解曲線の連続積分により、固形脂肪含有量(SFC)を測定した。
【0083】
様々な高ステアリン・高オレイン油から乾式および溶剤分別により調製された様々なステアリンをDSCにより分析し、標準カカオバターと比較した。このような脂肪の組成を表18および19に示す。
【0084】
【表18】
【0085】
【表19】
【0086】
脂肪ブリットル(fat brittle)を構成する固形分が高濃度であること、および溶融間隔が迅速なことを含む必要特性を達成するために、菓子用脂肪はジ飽和TAGの濃度が高いことを要求される。このような分布は、表20に示されるように、典型的にはCBにより表される(表2)。
【0087】
【表20】
【0088】
ジ飽和TAGの総含有量がより低い脂肪は、30℃周辺の温度でCBと同等の固形分含有量またはCBよりもいくらか低い固形分含有量を示した(SA3およびSA4)。しかしながら、このような脂肪はこのような温度で高固形分含有量を維持し、溶融挙動は、高融点TAG、AOStおよびBOStの存在により、30℃より高温でCBに類似していた。高ステアリン・高オレインヒマワリステアリンがCBと同等のジ飽和TAG含有量を示したとき(SH5およびSA5)、当該脂肪はAOStおよびBOStのような高融点TAGを含有するので、CBより高い固形分含有量を示した。ジ飽和TAGの含有量がより高いヒマワリ脂肪は、35〜40℃の間で、より大きな固形分割合およびより高い溶融間隔を示したが、CBと十分に相溶したので、CBとのブレンドで使用して高温での菓子の特性を改良することができる。表20におけるフラクションの様々な温度での固形分含有量はSMS含有量との関連性をよく示した。
【0089】
高ステアリン・高オレインヒマワリ油の溶剤分別は、高融点ヒマワリ脂肪を製造するための効果的な方法である。様々な溶剤の中で、アセトンは10〜15℃範囲の温度でステアリンの迅速な沈殿を誘導するので特に適切であった。出発油、油/溶剤比率および温度に依存して、様々なTAG組成を有するステアリンが得られた。このようなステアリンは全てジ飽和TAG含有量が高い範囲にあった(67〜82%、表21および22)。
【0090】
【表21】
【0091】
【表22】
【0092】
前と同じように、ジ飽和TAGの濃度が高いほど、対応する脂肪の固形分含有量は高かった(表23)。このような脂肪は、幾つかのものは飽和脂肪酸含有量が少なかったが、全てのものが30℃より高い温度でカカオバターよりも高い固形分含有量を示した。このような効果は、融点がCBにおいて見い出されるジ飽和TAGよりも高いAOStおよびBOStのようなTAGの存在によりもたらされた。このような脂肪はCBと十分に相溶可能であるので、CBとのブレンドで使用して高温での菓子の特性を改良することができる。
【0093】
【表23】
【0094】
実施例7
本発明の脂肪とCBとの相溶性の検討
ラウリンおよび水素化脂肪のようなCBの代わりとして使用される脂肪は時々、脂肪ブレンドの溶融間隔が当該両方の脂肪が個々に示すよりも低い共融混合物を製造する。
【0095】
本発明の脂肪とCBとの相溶性を検討して改良された菓子用脂肪を製造するために、両方の脂肪を溶融し、様々な比率のブレンドを調製した。その後、ブレンドの固形分含有量を、実施例6で記載したように、示差走査熱量測定法により測定した。本実施例で使用された脂肪はCB1(表2)および表18および19に組成を示すSH5であった。一定温度での固形脂肪含有量に相当する線(
図1)は平行であり、いかなる共融混合物の存在も示さなかった。このことは、本発明の脂肪はカカオバターと十分に相溶可能であり、あらゆる比率でCBと混合使用して、特性が改良された菓子用脂肪を製造できることを意味している。このような脂肪は、中鎖トランス脂肪酸(medium-chained and trans fatty acids)を含まないので、他のCB代替品とは異なり健康的である。さらに、本発明の脂肪はsn−2位が非常に低飽和であり、温暖な気候の国々で生育させることもできるヒマワリ突然変異品種から得ることができる。
【0096】
実施例8
本発明の脂肪を用いたチョコレートバー(chocolate bar)の製造
本発明の脂肪はあらゆる種類の菓子製品の製造に使用することができる。本実施例においては、文献(ダブリュ・シー・トレボール「チョコレートと菓子」、1950年)で入手可能な調理法を用いてチョコレートバーを製造した。以下の成分を使用した:
34.6g 脂肪SH5
21.6g 粉末チョコレート
43.4g 砂糖
0.3g 大豆レシチン
【0097】
脂肪を溶融し、50℃で維持した。この温度で大豆レシチンを添加し、混合物を均質にした。その後、連続的に手で撹拌しながら、粉末チョコレートおよび砂糖を添加した。得られた混合物を25℃まで冷却させた。次いで、穏やかに撹拌しながら、混合物を30℃までゆっくりと再び加熱し、最後に、適切な型に注いだ。混合物をひと晩で室温まで冷却させ、プレート性(platability)および官能的特性が良好なチョコレートバーが得られた。
【0098】
この調理法により、本特許出願で記載の他の脂肪またはこのような脂肪とカカオバターとのあらゆる比率でのブレンドと同等の良好な結果をもたらすことができた。
【0099】
実施例9
本発明の脂肪とパームミッドフラクション(palm mid fraction)の混合物を用いたチョコレートバーの製造
本発明の脂肪を他の脂肪と混合して適切な特性の菓子製品を製造することができる。例えば、パームミッドフラクションはパーム油から乾式分別により調製されたものである。このようなフラクションは通常、ポリ不飽和およびトリ飽和TAGの含有量が低く、ジ飽和TAG類、POPおよびPOSt、の含有量が高い。このような脂肪は通常、菓子用脂肪の製造に適したステアリン酸が豊富な熱帯脂肪と混合されるものである。本実施例において我々は、パームミッドフラクションと、アセトンを用いた分別により得られた本発明の脂肪の1種との混合物を用いてチョコレートバーを製造した。使用した成分は以下のものであった;
13.6g パームミッドフラクション
20.7g 脂肪SA2
21.6g 粉末チョコレート
43.4g 砂糖
0.3g 大豆レシチン
【0100】
本実施例のチョコレートバーを実施例8で記載の方法と同様の方法により製造した。このような脂肪混合物を用いて製造されたチョコレートは期待された外観および構成ならびに良好な官能的特性を示した。
【0101】
実施例10
本発明の脂肪、パームミッドフラクションおよびカカオバターの混合物を用いたチョコレートバーの製造
欧州法は、チョコレートに対して、CBと相溶可能な脂肪であって、ラウリンではなく、トランス体を含まないもの(non-lauric, trans-free fats)を最大で5%添加することを許容する。請求項に記載の脂肪はラウリン酸およびトランス脂肪酸を含まず、CBと十分に相溶可能である。本実施例においては、カカオバターおよびパームミッドフラクションとアセトンを用いた分別により得られた本発明の脂肪の1種との混合物5%を用いて、チョコレートバーを製造した。使用した成分は以下のものであった;
32.9g カカオバター
1.04g 脂肪SA2
0.7g パームミッドフラクション
21.6g 粉末チョコレート
43.4g 砂糖
0.3g 大豆レシチン
【0102】
本実施例のチョコレートバーを実施例8で記載の方法と同様の方法により製造した。このような脂肪混合物を用いて製造されたチョコレートは標準チョコレートバーにおいて期待される構成および官能的特性を示した。