特許第5916670号(P5916670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916670反射を軽減するための下部ガラス板を備えた手術照明
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916670
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】反射を軽減するための下部ガラス板を備えた手術照明
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/30 20160101AFI20160422BHJP
【FI】
   A61B19/00 504
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-156368(P2013-156368)
(22)【出願日】2013年7月29日
(65)【公開番号】特開2014-23935(P2014-23935A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2013年7月29日
(31)【優先権主張番号】10 2012 014 907.7
(32)【優先日】2012年7月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512069647
【氏名又は名称】ドレーゲル メディカル ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハノ クレッチュマン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ホイスラー
【審査官】 森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−059327(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3060264(JP,U)
【文献】 特開2007−194196(JP,A)
【文献】 特開2002−131526(JP,A)
【文献】 特開平10−246802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/00 − 90/98
F21S 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明ハウジング(8)を備え、前記照明ハウジング(8)内に少なくとも1つの光源(10)が配置されている手術照明(1)であって、前記照明ハウジングは光出射面を有し、前記光出射面には透明な下部ガラス板(9)が設けられていて、前記下部ガラス板(9)の少なくとも1つの面に透明な硬質塗料が塗布されていて、前記硬質塗料によって前記下部ガラス板(9)の反射特性が変更及び/又は低減され、前記硬質塗料の表面は、複数の平坦なミリ構造と前記平坦なミリ構造の間に介在する凹形の複数の移行領域からなり、前記平坦なミリ構造は硬質塗料表面に不均一でかつランダムに分配されており、前記平坦なミリ構造の高さは0.01〜0.1mmであり、かつ前記平坦なミリ構造の平坦な面の平均直径は0.1〜1.0mmである、前記手術照明(1)。
【請求項2】
前記硬質塗料はUV光により硬化可能な塗料である、請求項1記載の手術照明(1)。
【請求項3】
前記下部ガラス板(9)はガラス又はプラスチックからなり、少なくとも1つの光源(10)の光は前記下部ガラス板(9)を通過して手術部位(16)を照らす、請求項1又は2に記載の手術照明(1)。
【請求項4】
下部ガラス板(9)はポリカーボネートからなる、請求項1から3までのいずれか1項記載の手術照明(1)。
【請求項5】
塗料混合物は、ウレタン−アクリレート−オリゴマー21〜25質量%、エポキシ−アクリレート−オリゴマー5〜7質量%、反応性モノマー40〜44質量%、反応開始剤2〜4質量%、粘度改質剤24〜28質量%及び添加剤0.3〜0.5質量%を含有する、請求項1からまでのいずれか1項記載の手術照明(1)。
【請求項6】
前記手術照明は、旋回可能な天井アーム系(2)に取り付けられている、請求項1からまでのいずれか1項記載の手術照明(1)。
【請求項7】
前記手術照明のハウジング(8)内に少なくとも1つのリフレクタ(11)及び/又は少なくとも1つのレンズが設けられている、請求項1からまでのいずれか1項記載の手術照明(1)。
【請求項8】
手術照明(1)に使用するための下部ガラス板(9)において、前記下部ガラス板(9)の少なくとも1つの面に透明な硬質塗料が塗布されていて、前記硬質塗料により前記下部ガラス板(9)の反射特性が変更及び/又は低減され、前記硬質塗料の表面は、複数の平坦なミリ構造と前記平坦なミリ構造の間に介在する凹形の複数の移行領域からなり、前記平坦なミリ構造は硬質塗料表面に不均一でかつランダムに分配されており、前記平坦なミリ構造の高さは0.01〜0.1mmであり、かつ前記平坦なミリ構造の平坦な面の平均直径は0.1〜1.0mmである、前記下部ガラス板(9)。
【請求項9】
前記硬質塗料はUV光によって硬化可能な塗料である、請求項に記載の下部ガラス板(9)。
【請求項10】
前記下部ガラス板(9)はガラス又はプラスチック又はポリカーボネートからなる、請求項又はに記載の下部ガラス板(9)。
【請求項11】
前記硬質塗料は、ウレタン−アクリレート−オリゴマー21〜25質量%、エポキシ−アクリレート−オリゴマー5〜7質量%、反応性モノマー40〜44質量%、反応開始剤2〜4質量%、粘度改質剤24〜28質量%及び添加剤0.3〜0.5質量%を含有する、請求項から10までのいずれか1項記載の下部ガラス板(9)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の特徴を有する手術照明、並びに請求項12の特徴を有する下部ガラス板に関する。特に、本発明は、下部ガラス板での反射を低減されるように構成されている下部ガラス板を備えた手術照明に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明による手術照明は、通常では、好ましくは旋回可能な天井アーム系に可動に取り付けられていて、照明ハウジング内に設けられた1つ又は複数の光源を有し、この手術照明の光線は、例えば1つ又は複数のリフレクタ及び/又はレンズによって光出射面の方向に変向される。この光出射面には下部ガラス板が設けられていて、この下部ガラス板によって、1つ又は複数の光源、リフレクタ及び/又はレンズ(一般に光学系といわれる)が汚れるか、位置ずれする(dejustiert)か又は損なわれることが防がれている。この下部ガラス板は、好ましくはガラス又はプラスチックからなり、透明であるので、1つ又は複数の光源からの光はこの板を通過し手術部位を照らすことができる。この手術照明は比較的大きく、従って大きな光出射開口部を有するため、この下部ガラス板も比較的大きい。慣用の手術照明の場合には、この下部ガラス板で望ましくない反射が生じる。この反射を防ぐか又は低減するために、この下部ガラス板に本発明により特別な被覆が設けられる。
【0003】
周囲空気と下部ガラス板との屈折率の違いのため、標準入射(つまり板の表面に対して垂直)で、表面毎(つまり下部ガラス板の内側及び外側)にそれぞれ入射光の約4%のフレネル反射が生じる。より大きな角度の場合にこの効果は更に明らかに大きくなることがある。反射及び透過の計算は、公知のようにフレネルの式によって行われる。
【0004】
光源から放射されかつ下部ガラス板(外側及び内側)により反射して照明ハウジング内部に戻る光について、これにより効率に関して約8%の損失が生じる。この損失は、もちろん照明の構造及び1つ又は複数の光源の選択において考慮され、従って是認できる。
【0005】
もちろん、照明の外側でのOPの周囲領域からの光の、この下部ガラス板での反射、つまり下部ガラス板に一定の角度で外側から入射しかつそこで反射する光の反射は、欠点であることが判明する。この下部ガラス板はこの反射において鏡のように作用する。この下部ガラス板に垂直方向に入射し、従って約8%が反射する光は本質的な問題ではない、それというのも下部ガラス板の外側での反射がほとんど目立たず、ガラス板を通して放射される光がそれより極めて明るいため、外側での反射はほとんど知覚することができないためである。
【0006】
比較的大きな角度の場合(例えば、法線に対して20°より大きいが、手術照明の透過される光がもはや放射されない比較的小さな角度の場合、又は、手術照明が消灯されている場合)に、可視度及び反射のコントラストはしかしながら、臨界の程度に達する。特に、極めて明るい対象物の可視度、例えば手術照明自体又は他の手術照明の光によって照らされる対象物の可視度は、観察者の目で知覚されるために、この板での8%の反射で即座に十分である。これにより、手術台に寝かされかつ手術部位が手術照明の光により照らされている患者が、自分自身の手術を「実際に」見守ることができることになる、それというのも下部ガラス板の外側が鏡のように作用するためである。特に、この効果は、患者が部分麻酔で手術される場合に、例えば帝王切開の場合に欠点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の根底をなす課題は、上記に説明した欠点を克服する下方ガラス板を備えた手術照明を提供することである。本発明の特別な課題は、外側から下部ガラス板に当たる光の反射、及びそれによる反射される画像の明度及びコントラストを低減させるように構成されている、下方ガラス板を備えた手術照明を提供することである。このために、この下部ガラス板は好ましくは、下部ガラス板で反射された対象の認識性を低減し、同時に下部ガラス板の透過特性は本質的に維持され、それによりOP部位に収束された光がなお十分に提供されるように構成されていなければならない。本発明の他の課題は、手術照明に使用するために、上述の特性を有する下部ガラス板を提供することにある。他の課題は、この開示の全体から当業者には明らかである。
【0008】
一般に、ガラス板(例えばメガネガラス)は反射防止を設けることが公知である。しかしながら、この解決策は、手術照明の下部ガラス板にとって不利であることが判明した、それというのもこのような反射防止は選択された角度範囲について機能するだけであるが、下部ガラス板が設けられている手術照明は本質的にあらゆる角度で使用されるためである。公知の反射防止の更なる欠点は、この反射防止膜が所定の光入射角の場合にそれどころかより強く映ることにある。
【0009】
更に、ガラス板に艶消しを設けることが公知である。もちろん、このような艶消しは下部ガラス板にとって不利であることが判明した、それというのも手術照明の光は下部ガラス板を通過して手術部位に収束されなければならず、この場合に、予め設定された光の分配が達成されなければならないためである。更に、手術照明の場合に、下部ガラス板の艶消しの場合にもちろん避けられない散乱光が生じることを避けなければならない。
【0010】
最後に、下部ガラス板の面積を小さくすることも考えられる。これは有効な解決策ではない、それというのもこの照明のデザインを本質的に変更しなければならないためである。この下部ガラス板が複数の個別の部分に分けることも同様に有意義ではない、それというのもこの場合には手間のかかるフレーム構造が必要となるためである。さらに、このような解決策は不所望な影を生じかねない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の及び他の課題は、請求項1の特徴を有する手術照明により及び請求項12の特徴を有する、手術照明に使用するための下部ガラスによって解決される。その都度の従属請求項に、本発明による手術照明又は本発明による下部ガラス板の好ましい及び有利な実施態様が記載されている。
【0012】
本発明による手術照明は、好ましくは、保持系に、特に旋回アーム系に可動に取り付けられるように構成されているハウジングを有する。照明ハウジング中に、1つ又は複数の光源並びに所属する光学系が配置されている。この光源及び光学系は、光がこの照明の光出射開口部の方向に変向されるように構成されている。この光学系には、リフレクタ及び/又はレンズ系が含まれる。通常では、この手術照明は旋回アーム系によって、光が下方に向かって手術台を照らすので、この手術照明から放射された光は一般に垂直方向に照射されるように位置決めされている。この照明ハウジングは、ハウジング上部とハウジング下部とを有し、この場合、「上部」及び「下部」の概念は照明の上述の位置決めに関連している。この光出射開口部は、ハウジング下部に設けられていて、好ましくはガラス又はプラスチック製の透明な板(本願明細書内では、「下部ガラス板」とする)により形成されている。
【0013】
このハウジングには、主に医師又は外科医が手で又は少なくとも指で快適につかめ、この手術照明を場合により旋回アーム系と一緒に所望の位置に旋回させるために適したサイズを有するハンドグリップを有するグリップコンポーネントが設けられている。
【0014】
更に、このハウジング及び/又はグリップコンポーネントには、複数の操作エレメントが設けられていて、この操作エレメントを用いて輝度の調光、光源の集束又は他の機能の調節を実施することができる。
【0015】
上記の光源は、慣用の白熱灯、ライン型ランプ(Linienlampen)、ハロゲン白熱灯又は発光ダイオードであることができる。発光ダイオード(LED)の使用が今のところ好ましい、それというのもこの発光ダイオードは極めてエネルギー効率がよく、僅かな熱放射を有するだけであるためである。本発明の可能な実施態様の場合に、複数のLEDは1つのLEDモジュールにまとめられ、本発明による手術照明の場合には、好ましくは光源として複数の、例えば縦型の(ストライプ状の)LEDモジュールを有している。この手術照明の明るさは、複数のLEDモジュールの相応する数を点灯又は消灯することにより可変である。更に、LEDモジュールの個々のLEDを点灯又は消灯することも可能である。
【0016】
この手術照明のハウジングは、前記に説明したように、好ましくはハウジング上部とハウジング下部とを有し、このハウジング下部は光出射開口部を備えている。しかしながら、この照明ハウジングは1つの基体によって、下側がガラス板又はプレキシガラス板(下部ガラス板)により閉鎖されている逆さまのボウルの形に形成されていてもよい。この下部ガラス板は、適切なシーラントによってこの基体と結合されている。この下部ガラス板は、好ましくは、クランプ結合又は応力結合によって基体と結合される。このクランプ結合により更に下部ガラス板と基体との間のシーラントの作用が改善される、それというのもこの下部ガラス板はその周縁部によって基体の外周開口部で封止リングに対して強く押圧されるためである。
【0017】
旋回アーム系は1つ又は2つの支持アームを介して旋回可能に基体と連結されている。好ましくは、この手術照明についての電流供給はこの旋回アーム系を通して行い、この電線は、支持アーム及び旋回継手の内部を通して基体の内部へと延びる。このように、このハウジングは個々のハウジング部材の間の僅かな結合箇所を有する平坦な表面を有し、従って容易に清浄化できることが達成される。
【0018】
本発明による下部ガラス板の反射画像の可視度、明るさ及びコントラストの低減は、下部ガラス板に透明な硬質塗料を塗布し、それによりこの下部ガラス板の反射特性を変更することにより達成される。特に、硬質塗料層により望ましくない反射は本質的に抑制できるか又は少なくとも低減することができる。硬質塗料の塗布により生じる下部ガラス板の表面は大面積が平坦ではなく、介在する移行領域を有する不規則でかつランダムに分配された平坦なミリ構造を有する。この構造に当たる光は、一部は影響を受けずに透過及び反射され、並びに一部は僅かな角度を有するミリ平面の移行領域で散乱する。それにより、画像は下部ガラス板にもはや大面積で反射されず、小さな範囲に分割される。このミリ構造間の移行領域によって、この画像は更にゆがむため、同質の全体画像から、多数の小さな「パズル部分」(例えば割れたガラスの場合のように)からなるもはや認識不能な画像が生じる。この板の大部分は相変わらず(小さい面積で)平坦であるため、手術照明の光はほとんど妨げられることなく下部ガラス板を透過することができる。移行領域に当たる光だけがその当初の経路から(僅かな角度で)変向される。この領域は面積的に僅かな割合にすぎないため、僅かな光が散乱するだけである。移行領域を通過する光でさえ僅かに変向されるだけである、それというのもこの入射角は比較的小さいためである(スネルの屈折の法則)。OP作業箇所での光の分布は僅かに変化するだけである。
【0019】
実際に、患者の目による手術現場の反射の認識性は完全に妨げることができ、手術照明の光の特性は、僅かにかつ是認できる程度で変化するだけである。光の分布が(d50/d10比率)10%未満の悪化は、たいていの場合に許容でき、約10%の中央部の明るさの低下は、光源の出力を相応して高めることにより補償することができる。
【0020】
好ましい実施例の場合に、ポリカーボネート製の板(下部ガラス板)は、好ましくはUV光で硬化する塗料で湿潤される。この湿潤は、好ましくはプロッターを用いた印刷法によって行う。塗料の「ほぼランダムの」分配は、塗料塗布の局所的分配及び塗料の塗布量によって生じる。塗料がにじみ、かつ完全に分配されかつその表面張力に基づいて均一の平滑な塗料表面になる前に、この塗料は硬化のためにUV線で励起される。
【0021】
典型的な塗料混合物は、例えばウレタン−アクリレート−オリゴマー(約21〜25質量%)、エポキシ−アクリレート−オリゴマー(約5〜7質量%)、反応性モノマー(約40〜44質量%)、反応開始剤(約2〜4質量%)、粘度改質剤(約24〜28質量%)及び添加剤(約0.3〜0.5質量%)を含有する。
【0022】
こうして作成可能な表面は、ほぼランダムに分配された表面構造を有し、この表面構造により下部ガラス板の反射特性が変更される。この構造の高さは約0.01〜0.1mmである。個々の面積の平均直径は、約0.1〜1.0mmである。新規表面の平行平面の割合は約85〜95%であり、残りは、上記の移行領域(凹部)からなる。
【0023】
上記方法により作成された下部ガラス板は、この構造化された表面を外側に向けて手術照明中に組み込まれる。それにより、手術照明の下部ガラス板での反射の認識性はほぼ完全に妨げられる。同時に、手術照明の光学的パラメータは僅かに変化するだけである。下部ガラス板の変更された表面に基づいて、手術照明の最大照度は1メートルの作業距離で約160kLuxから約135kLuxに低下する。この照度の低下は、光束の向上によって完全に補償できる。同様に、作業箇所(手術部位)での光の分布はわずかに変化するだけである。移行領域での屈折によって、この光はもはや作業部位の中央に強く集中するのではなく、周辺領域にもいくらかより強く散乱する。それにより、構造的に補償されない限り、直径比率d50/d10(最大照度の50%/10%を有する光領域の直径)は、例えば約0.62から0.58に低下する。この値が0.5の限界値を遥かに上回る場合に、この値は受け入れられる。標準のために必要な他の全ての手術照明の特徴は、同様にほとんど変化しない。
【0024】
他の実施態様の場合に、この塗料を、使用された支持体材料(特にプラスチック、例えばポリカーボネートの場合)と比較してより高い硬度を有する様に構成する。このように、下部ガラス板に反射の低減のために塗料層を塗布すること同時に、引掻保護が達成される。この塗料の大きな硬度は、使用される塗料材料によって及び/又は(結晶性の)添加物(例えばナノ粒子)によって達成することができる。
【0025】
本発明を、実施例を用いて、図面を参照しながら記載し、この図面を用いて本発明による手術照明の例示的な態様を説明する。しかしながら、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】天井アーム系に取り付けられている例示的な手術照明を示す。
図2】患者が寝かされていて、患者の手術部位が手術照明によって照明されている手術台を示す。
図3】本発明による被覆なしの下部ガラス板での反射の原理説明図を示す。
図4】本発明による被覆を備えている下部ガラス板での反射の原理説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、天井アーム系2を介して医学的処置室の天井3に固定されている手術照明1を示す。(天井アーム系又は他の固定系の異なる別の態様が使用されていてもよいことを付記する。)この例示された天井アーム系2は、旋回継手5を介して相互に結合されている個々の支持アーム4からなる。この手術照明1は照明ハウジング8を有し、この照明ハウジング8は旋回継手7を介して支持アーム6と旋回可能に取り付けられている。この照明ハウジングは、その下側に光出射開口部9を備えていて、この光出射開口部9は透明な材料(ガラス、プレキシガラスなど)からなるプレート又は板でカバーされている。この透明なプレート(下部ガラス板)は、好ましくは平坦(平ら)であるか又は僅かに反っていてもよい。この照明ハウジング8内の中央に、少なくとも1つの光源10(図1においては1つだけ示されている)が存在する。この少なくとも1つの光源10は光線を放射し、この光線は所属する中空リフレクタ11(又は適切な光学系)によって光出射開口部の方向へ反射される。図示された光源の例は、LED又はLEDモジュール(レンズ素子を備えているか又は備えていない)を有する。図示された中空リフレクタの代わりに、使用された光源に合わせられている適切なレンズを使用することもできる。単数又は複数の光源から放射された光線12は、透明な下部ガラス板9を通過し、手術台の方向に放射される(図2に図示されている)。図1では、この光線は平行な放射として示されている。しかしながら、図2に示されているように、この光線は光学系によってフォーカスできることは明らかである。可能な実施態様の場合に、この透明な下部ガラス板9はほぼ中央に穴を備え、この穴を通して、ハンドグリップを有するグリップコンポーネント13の軸が延びている。このハンドグリップは、特に、手術する医師又は外科医が手でつかむために利用され、それにより光線12が所望の手術領域に当たるように医師が手術照明1の向きを変えることができる。しかしながら、このグリップコンポーネントは例えば手術照明のハウジングの何処かに設けられていてもよい。
【0028】
図2は(図式的に示された)患者15が寝ている手術台14を示し、この場合、手術部位(位置)16に手術が実施される。この手術照明1は、図1に関して記載された構造を有する。光は光源から放射され、中空リフレクタによって、この光が僅かに集光して手術部位(手術領域)に変向されるように反射される。この光の一部は下部ガラス板9の内面で照明ハウジングの内部側へ反射して戻るが、これは光源に供給される電流を高めることにより容易に補償することができる。この手術部位16は手術照明の光が照射されるため、手術部位の領域は明るく照らされている。符号17により、照らされた手術部位16から発せられかつ反射する下部ガラス板9によって、この反射された光線18が患者の目の方向に変向されるように反射される例示された光線が示されている。このように慣用の下部ガラス板9は鏡のように作用し、患者(特に患者が部分麻酔で手術されるような場合に)は手術を「実際に」見守ることができ、このことはできれば避けることが好ましい。この理由から、この不所望な反射を防ぐか又は少なくとも低減するために、好ましくは下部ガラス板9の外側は上記の塗装層が設けられている。
【0029】
図3は、本発明による被覆なしの下部ガラス板での反射の原理説明図を示す。この図に見られるように、光線12′は光源(図示されていない)から放射され、下部ガラス板9に当たる。この光のわずかな割合が下部ガラス板により反射される。この光の反射された部分は符号12″で表されている。下部ガラス板9を透過する光12′の部分は、符号12で示されている。この光線12は、手術部位16を照明するために、この手術部位16に当たる。手術部位16に当たる光の一部は、この手術部位16から光線17として放射され、この光はまた下部ガラス板9に当たり、この下部ガラス板9から光線18として部分的に反射される。この光線18は、手術部位の画像(符号16′で表される)を生じさせ、この画像は患者(患者の目20により表される)により見ることができる、それというのもこの慣用の下部ガラス板9は鏡のように作用するためである。
【0030】
図4は(図3と類似しているが)本発明による被覆を備えている下部ガラス板での反射の原理説明図を示す。この図に見られるように、光線12′は光源(図示されていない)から放射され、下部ガラス板9の内側に当たる。この光のわずかな割合がここでも下部ガラスにより反射される。この光の反射された部分は符号12″で表されている。下部ガラス板9を透過する光12′の部分は、符号12で示され、下部ガラス板の外側から出射する際にわずかに散乱する。この光線12の大部分は、手術部位16を照明するために手術部位16に当たる。手術部位16に当たる光の一部は、この手術部位16から光線17として放射され、この光はまた下部ガラス板9の塗装被覆を備えた外側に当たり、この外側からその塗装被覆に基づき著しくかつ不規則に散乱する。この散乱した光線18は、図3の態様(塗装層なし)とは反対に、手術部位の画像は生じない。その代わりに、患者は不規則な散乱光パターン(符号21で示される)だけが見える。図3の態様とは反対に、本発明による実施態様の下部ガラス板9は平坦な鏡のように作用せず、それにより、患者は手術部位の画像を見ることはできない。
【0031】
[発明の態様]
1. 照明ハウジング(8)を備え、前記照明ハウジング(8)内に少なくとも1つの光源(10)が配置されている手術照明(1)であって、前記照明ハウジングは光出射面を有し、前記光出射面には透明な下部ガラス板(9)が設けられていて、前記下部ガラス板(9)の少なくとも1つの面に透明な硬質塗料が塗布されていて、この硬質塗料によって前記下部ガラス板(9)の反射特性が変更及び/又は低減され、前記硬質塗料の表面は、介在する移行領域を有する不均一でかつランダムに分配された平坦なミリ構造を有する、前記手術照明(1)。
【0032】
2. 前記硬質塗料はUV光により硬化可能な塗料である、前記1記載の手術照明(1)。
【0033】
3. 前記下部ガラス板(9)はガラス又はプラスチックからなり、少なくとも1つの光源(10)の光は前記下部ガラス板(9)を通過して手術部位(16)を照らす、前記1又は2に記載の手術照明(1)。
【0034】
4. 下部ガラス板(9)はポリカーボネートからなる、前記1から3までのいずれか1に記載の手術照明(1)。
【0035】
5. 前記硬質塗料はプロッターを用いる印刷法により前記下部ガラス板に塗布されている、前記1から4までのいずれか1に記載の手術照明(1)。
【0036】
6. 前記硬質塗料は湿潤法により下部ガラス板(9)に塗布されていて、その際、前記塗料のほぼランダムな分配を塗料の局所的分配及び塗料の塗布量によって作り出す、前記1から5までのいずれか1に記載の手術照明(1)。
【0037】
7. 前記硬質塗料がにじみかつ完全に分配されかつその表面張力に基づいて均一の平滑な塗料表面になる前に、前記硬質塗料は硬化のためにUV線で励起される、前記1から6までのいずれか1に記載の手術照明(1)。
【0038】
8. 塗料混合物は、ウレタン−アクリレート−オリゴマー21〜25質量%、エポキシ−アクリレート−オリゴマー5〜7質量%、反応性モノマー40〜44質量%、反応開始剤2〜4質量%、粘度改質剤24〜28質量%及び添加剤0.3〜0.5質量%を含有する、前記1から7までのいずれか1に記載の手術照明(1)。
【0039】
9. 前記平坦なミリ構造の高さは0.01〜0.1mmであり、個々の面の平均直径は0.1〜1.0mmである、前記1から8までのいずれか1項記載の手術照明(1)。
【0040】
10. 前記手術照明は、旋回可能な天井アーム系(2)に取り付けられている、前記1から9までのいずれか1に記載の手術照明(1)。
【0041】
11. 前記手術照明のハウジング(8)内に少なくとも1つのリフレクタ(11)及び/又は少なくとも1つのレンズが設けられている、前記1から10までのいずれか1に記載の手術照明(1)。
【0042】
12. 手術照明(1)に使用するための下部ガラス板(9)において、前記下部ガラス板(9)の少なくとも1つの面に透明な硬質塗料が塗布されていて、前記硬質塗料により前記下部ガラス板(9)の反射特性が変更及び/又は低減され、前記硬質塗料の表面は、介在する移行領域を有する不均一でかつランダムに分配された平坦なミリ構造を有する、前記下部ガラス板(9)。
【0043】
13. 前記硬質塗料はUV光によって硬化可能な塗料である、前記12に記載の下部ガラス板(9)。
【0044】
14. 前記下部ガラス板(9)はガラス又はプラスチック又はポリカーボネートからなる、前記12又は13に記載の下部ガラス板(9)。
【0045】
15. 前記硬質塗料はプロッターを用いる印刷法により前記下部ガラス板に塗布されている、前記12から14までのいずれか1に記載の下部ガラス板(9)。
【0046】
16. 前記硬質塗料は湿潤法により前記下部ガラス板(9)に塗布されていて、その際、前記塗料のほぼランダムな分配は塗料の局所的分配及び塗料の塗布量によって作り出される、前記12から15までのいずれか1に記載の下部ガラス板(9)。
【0047】
17. 前記硬質塗料がにじみかつ完全に分配されかつその表面張力に基づいて均一の平滑な塗料表面になる前に、前記硬質塗料は硬化のためにUV線で励起される、前記12から16までのいずれか1に記載の下部ガラス板(9)。
【0048】
18. 前記硬質塗料は、ウレタン−アクリレート−オリゴマー21〜25質量%、エポキシ−アクリレート−オリゴマー5〜7質量%、反応性モノマー40〜44質量%、反応開始剤2〜4質量%、粘度改質剤24〜28質量%及び添加剤0.3〜0.5質量%を含有する、前記12から17までのいずれか1に記載の下部ガラス板(9)。
【0049】
19. 前記平坦なミリ構造の高さは0.01〜0.1mmであり、個々の面の平均直径は0.1〜1.0mmである、前記12から18までのいずれか1に記載の下部ガラス板(9)。
【符号の説明】
【0050】
1 手術照明
2 天井アーム系
3 天井
4 支持アーム
5 旋回継手
6 支持アーム
7 旋回継手
8 照明ハウジング
9 光出射開口部/下方ガラス板
10 光源
11 中空リフレクタ
12 光線
12′ 光線
12″ 光線
13 グリップコンポーネント
14 手術台
15 患者
16 手術部位
16′ 手術部位の画像
17 光線
18 光線
20 患者の目
21 散乱光パターン
図1
図2
図3
図4