(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボン酸のエステルが式RCOOR'(式中、Rが前記カルボン酸の飽和若しくは不飽和の脂肪族若しくは芳香族の残基であり、前記残基が置換され若しくは置換されておらず、R'がアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル若しくはアルカリルであるか、又はR及びR'は、それらが結合する原子とともに環の一部である)で表され、該カルボン酸エステルを式R''OH(式中、R''はヒドロキシ、アミノ、ハロゲン、アルケニル、モノアルキルアミノ若しくはジアルキルアミノ、スルホン酸基、テトラアルキルアンモニウム、シアノ、アルキルチオ、並びに飽和、不飽和及び部分飽和の複素環を含む複素環からなる群から独立して選択される1つ若しくは複数の置換基で置換された若しくは置換されていないアルキル;シクロアルキル;アルコキシアルキル;アルキルポリアルコキシアルキル;アルキルフェノキシアルキル;アルキルポリフェノキシアルキル;フェニルアルキル;アルキルフェニルアルキル;アルキルモルホリノアルキル;アルキルピペリジノアルキル;ハロアルキル;シアノアルキル;アルキルチオアルキル;モノアルキルアミノアルキル若しくはジアルキルアミノアルキル;ヒドロキシアルキル;又はエチレングリコール、ブタンジオール、ポリオキシエチレンオールに由来するヒドロキシアルキルである)のアルコールと反応させる、請求項1に記載のプロセス。
R''がアルキル;シクロアルキル、アルコキシアルキル、アルキルポリアルコキシアルキル、アルキルフェノキシアルキル、アルキルポリフェノキシアルキル、フェニルアルキル、アルキルフェニルアルキル、アルキルモルホリノアルキル、アルキルピペリジノアルキル、ハロアルキル、シアノアルキル、アルキルチオアルキル、モノアルキルアミノアルキル若しくはジアルキルアミノアルキル、ヒドロキシアルキル、ヒドロキシブチルからなる群から選択される置換アルキル;及びエチレングリコール、ブタンジオール、ポリオキシエチレンオールに由来するアルキルである、請求項2に記載のプロセス。
アルコールがブタノール、ペンタノール、イソデシルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ポリオキシエチレンのアルキルエーテル、ジメチルアミノエタノール、2−(N−オキサゾリジニル)エチルアルコール、2−(N−モルホリノ)エチルアルコール、及びジシクロペンテニルオキシエチルアルコールからなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
触媒が、それぞれのモル比が1:20〜10:1のZn、Li、又はFe1,3−ジカルボニル錯体と無機塩との混合物からなる、請求項1〜6のいづれか一に記載のプロセス。
【背景技術】
【0002】
エステル交換は、幾つかの産業プロセスにおける有機残基の交換において重要なプロセスである。エステル交換は例えば、ポリエステルの大規模合成に使用されている。この用途では、ジエステルがジオールとのエステル交換を受け、巨大分子が形成される。別の例は、植物油又は動物性脂肪と短鎖脂肪族アルコール(典型的にはメタノール又はエタノール)とのエステル交換によるバイオディーゼル(脂肪酸メチルエステル、FAME)の生成におけるものである。また、(i)ラクトン及び大員環をもたらす分子内エステル交換、(ii)特定の医薬品有効成分(API)(の中間体)の生成、(iii)ラクチドからのポリ乳酸(PLA)の生成、(iv)エチレンカーボネート及びメタノールからのジメチルカーボネート及びエチレングリコールの同時合成等の他の産業プロセスにおいても、エステル交換は非常に重要な工程である。
【0003】
エステル交換反応は通常、とりわけ鉱酸、金属水酸化物、金属酸化物、金属アルコキシド(アルミニウムイソプロポキシド、テトラアルコキシチタン、有機スズアルコキシド等)、非イオン性塩基(アミン、ジメチルアミノピリジン、グアニジン等)及びリパーゼ酵素を含む触媒の存在下で行われる(非特許文献1)。しかしながら、これらの従来の触媒の活性は、それぞれのエステル反応物又はアルコール反応物における不飽和結合、アミン、付加的ヒドロキシ基又は他の官能基の存在下で妨げられる可能性がある。硫酸又はメタンスルホン酸等の強鉱酸は例えば、通常は遅い反応速度をもたらし、得られるエステル交換生成物(transester product)は、典型的には高濃度の副生成物の形成を伴う。副生成物は、通常はアルコールの脱水に起因し、最終的に生成物に混入するオレフィン及びエーテルを生じる。アクリル酸エステルの場合、マイケル付加生成物(C=C二重結合へのアルコールの付加)及び相当量の高分子生成物も最終反応混合物中に見られる。
【0004】
酸触媒と同様に、アルカリ金属アルコキシド触媒(例えば、ナトリウムメトキシド又はカリウムtert−ブトキシド)は望ましくない副反応を促進し、更には反応溶液中の水の存在によって不活性化される。したがって、触媒は反応混合物に連続的に添加しなければならず、一方で、とりわけ生成物がアクリル酸エステル等の不飽和エステルである場合に、生成物の蒸留又は他の熱処理の際にアルコキシドによって促進される重合又は分解を回避するために後で除去する必要がある。
【0005】
チタン(Ti)アルコキシド及びスズアルコキシドは概して、より高い選択性を有するが、特定の欠点がある。チタネート触媒は、特に水に対する感受性が高く(一般に500ppmを超える水を含有する混合物中で活性を喪失する)、このため、より多くの触媒を反応に添加するという同じ必要性を伴う。加えて、Ti(IV)化合物に加えたTi(III)化合物の存在を含む要因、及び/又は錯体を形成するチタンの傾向に起因して、Ti化合物は得られる生成物の貯蔵時に望ましくない変色(黄変)をもたらす可能性がある。スズ化合物はヒトに対する潜在性発がん物質であり、したがって最終生成物におけるそれらの存在が望ましくないことも認識されている。このため、厳密な除去が不可欠であり、残渣を効率的に処分しなければならない。
【0006】
従来の触媒に関するこれらの問題のために、他の官能基の存在下での活性及び選択性が高く、水に対する感受性が低下した、改善されたエステル交換触媒が必要とされている。
【0007】
この必要性を満たすための前段階が、様々なエステル化合物の生成に金属アセチルアセトネート触媒を用いることによって当該技術分野において為されている。このようにして調製されるエステルの例としては、(メタ)アクリル酸エステル(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、又はより具体的にはアリルメタクリレート(特許文献4)、プレニル(メタ)アクリレートエステル(特許文献5)、エチルチオエタニルメタクリレート(特許文献6)が挙げられる。また、脂肪族オリゴカーボネートポリオール(特許文献7、特許文献8、特許文献9)、α−ケトカルボン酸エステル(特許文献10)、ワックスモノマー(wax monomers)(特許文献11)、ビス(3−ヒドロキシプロピル)テレフタレートモノマー(特許文献12)、及びポリエチレンテレフタレート樹脂(特許文献13、特許文献14)の生成が記載されている。
【0008】
好ましい金属は主としてジルコニウム(特許文献1、特許文献4、特許文献2、特許文献3、特許文献11、特許文献6)であるが、イッテルビウム(III)(特許文献7、特許文献15)、イットリウム/サマリウム化合物(特許文献9)、ランタン(特許文献12、特許文献16)、ハフニウム(IV)(特許文献17)、セリウム及び鉛(特許文献18)等の他の金属も記載されている。
【0009】
Zn(II)アセチルアセトネート又はFe(III)アセチルアセトネートの使用は、稀にしか言及されていない。一例は、(メタ)アクリレートと2−メチル−2−ヒドロキシ−1−プロピルアルコールとを、Zn−アセチルアセトネート触媒の存在下で反応させることによって、2−メチル−2−ヒドロキシ−1−プロピル(メタ)アクリレートを生成する方法である(特許文献19)。その収率は高かったが(95%)、テトライソプロポキシチタネート等の他のよく使用される触媒では、より低い収率が得られた(57%)。他の例としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの製造(特許文献20)、及び低級アルキルエステルから出発する高級アルキル(メタ)アクリレート(正:(meth)acrylate)エステルの調製(特許文献21、特許文献22)が挙げられる。生分解性グリコリド/L−ラクチドコポリマーの合成におけるFe(III)アセチルアセトネートが記載されている(非特許文献2)。
【0010】
本発明者らは、Zn又はFeの1,3−ジカルボニル錯体と無機塩との組合せが、予想外に高い活性を示すことを見出した。このため、金属1,3−ジカルボニル錯体、特にZn又はFeの1,3−ジカルボニル錯体、より具体的にはZn(II)又はFe(III)の1,3−ジカルボニル錯体と、無機塩とからなる塩の混合物の存在下で、低級アルキルエステルと適切なアルコールとのエステル交換エステル生成物のより高い変換率を達成することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以上で既に言及したように、本発明は、金属1,3−ジカルボニル錯体と塩とからなる触媒の存在下でアルコールを使用する、カルボン酸又は炭酸のエステルのエステル交換のためのプロセスに関する。
【0015】
カルボン酸エステルを出発物質として使用する場合、エステル交換プロセスは概して、以下の反応(スキーム1)によって示すことができる:
【化1】
【0016】
上述の反応スキームにおいて、カルボン酸エステル出発物質は式RCOOR’によって表され、飽和又は不飽和の脂肪族又は芳香族のカルボン酸のアルキルエステル、シクロアルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステル又はアルカリルエステルであることができ、ここで、Rが上記カルボン酸の飽和若しくは不飽和の脂肪族若しくは芳香族の残基であり、
前記残基が置換され若しくは置換されておらず、R’がアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル若しくはアルカリルであるか、又はR及びR’は、例えば開環重合(ROP)によるポリ(乳酸)(PLA)の生成に使用されるラクチドのように、それらが結合する原子とともに環の一部である。そのため、本発明のエステル交換反応に用いることのできる好適なカルボン酸エステルは、アルキルエステル、シクロアルキルエステル、不飽和脂肪族エステル、脂環式エステル及びアリールエステルを含む。アルキルエステルの例としては、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ブチルホルメート、アミルホルメート、ヘキシルホルメート、ヘプチルホルメート、オクチルホルメート、ノニルホルメート、デシルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、アミルアセテート、ヘキシルアセテート、ヘプチルアセテート、オクチルアセテート、ノニルアセテート、デシルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、アミルプロピオネート、ヘキシルプロピオネート、ヘプチルプロピオネート、オクチルプロピオネート、ノニルプロピオネート、デシルプロピオネート、メチルブチレート、エチルブチレート、プロピルブチレート、ブチルブチレート、アミルブチレート、ヘキシルブチレート、ヘプチルブチレート、オクチルブチレート、ノニルブチレート、デシルブチレート等が挙げられ、シクロアルキルエステルは、例えばシクロペンチルホルメート、シクロヘキシルホルメート、シクロヘプチルホルメート、シクロオクチルホルメート、シクロペンチルアセテート、シクロヘキシルアセテート、シクロヘプチルアセテート、シクロオクチルアセテート、シクロペンチルプロピオネート、シクロヘキシルプロピオネート、シクロヘプチルプロピオネート、シクロオクチルプロピオネート、シクロペンチルブチレート、シクロヘキシルブチレート、シクロヘプチルブチレート、シクロオクチルブチレート等であり、不飽和脂肪族エステルは、例えばビニルホルメート、アリルホルメート、メタリルホルメート、クロトニルホルメート、ビニルアセテート、アリルアセテート、メタリルアセテート、クロトニルアセテート、ビニルプロピオネート、アリルプロピオネート、メタリルプロピオネート、クロトニルプロピオネート、ビニルブチレート、アリルブチレート、メタリルブチレート、クロトニルブチレート等であり、不飽和エステルは、例えばメチルアクリレート、メチルクロトネート、メチルオレエート、アリルアクリレート等であり、シクロアルケニルエステルは、例えばシクロペンテニルホルメート、シクロヘキセニルホルメート、シクロヘプテニルホルメート、シクロオクテニルホルメート、シクロペンテニルアセテート、シクロヘキセニルアセテート、シクロヘプテニルアセテート、シクロオクテニルアセテート、シクロペンテニルプロピオネート、シクロヘキセニルプロピオネート、シクロヘプテニルプロピオネート、シクロオクテニルプロピオネート、シクロペンテニルブチレート、シクロヘキセニルブチレート、シクロヘプテニルブチレート、シクロオクテニルブチレート等であり、アリールエステルは、例えばベンジルホルメート、ベンジルアセテート、ベンジルプロピオネート、ベンジルブチレート、ベンジルベンゾエート等である。本明細書中で列挙されるエステルは、用いることのできるエステル群の代表的なものに過ぎず、本発明が必ずしもそれに限定されないことを理解すべきである。
【0017】
炭酸エステルを出発物質として使用する場合、エステル交換プロセスは概して、以下の反応(スキーム2)によって示すことができる:
【化2】
【0018】
炭酸エステル出発物質は式ROCOOR’によって表され、炭酸のアルキルエステル、アラルキル(又はこれらに対応する二価の基、例えばアルキレン)エステルであることができ、ここで、R及びR’は各々独立してアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル又はアルカリルである。本発明のエステル交換反応に使用することのできる炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート及びジメチルカーボネートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
上述の反応スキームの両方において、好適な出発アルコールは式R’’OHによって表され、ここで、R’’はアルキル(すなわち、ヒドロキシ、アミノ、フッ素化アルコール及び過フッ素化アルコール等のハロ、アルケニル、モノアルキルアミノ又はジアルキルアミノ、スルホン酸基、テトラアルキルアンモニウム、シアノ、アルキルチオ、並びにモルホリノ又はフラン等の飽和、不飽和及び部分飽和の複素環を含む複素環からなる群から独立して選択される1つ又は複数の置換基で任意に置換された一価の直鎖又は分岐鎖の飽和非環式炭化水素基を指す)又はシクロアルキル(すなわち、炭素原子及び水素原子を含む単環式又は多環式の飽和環)である。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル等の(C
3〜C
7)シクロアルキル基、並びに環式及び二環式の飽和テルペンが挙げられるが、これらに限定されない。シクロアルキル基は、非置換であっても、又は1つ、2つ若しくはそれ以上の好適な置換基で置換されていてもよい。好ましくは、シクロアルキル基は、単環式環又は二環式環、例えば3個〜20個の炭素原子を含有する低級アルキル及び低級シクロアルキルである。更なる実施形態では、R’’はアルコキシアルキル;アルキルポリアルコキシアルキル;アルキルフェノキシアルキル;アルキルポリフェノキシアルキル;フェニルアルキル;アルキルフェニルアルキル;アルキルモルホリノアルキル;アルキルピペリジノアルキル;ハロアルキル;シアノアルキル;アルキルチオアルキル;アルキルイミダゾリジノン;モノアルキルアミノアルキル、又はジメチルアミノエチル等のジアルキルアミノアルキル;オキサゾリジン;ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル等のヒドロキシアルキル、例えばエチレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)、ブタンジオール、ポリオキシエチレンオール等に由来するものであってもよい。特定の実施形態では、R’’はアルキル;置換アルキル(すなわち、アミノ;フッ素化アルコール及び過フッ素化アルコール等のハロ;アルケニル;モノアルキルアミノ、又はジメチルアミノエチル等のジアルキルアミノ;スルホン酸基;テトラアルキルアンモニウム;シアノ;アルキルチオ;並びにモルホリノ、オキサゾリジン、イミダゾリジン又はフラン等の飽和、不飽和及び部分飽和の複素環を含む複素環からなる群から独立して選択される1つ又は複数の置換基で置換されたもの);シクロアルキル;アルコキシアルキル;アルキルポリアルコキシアルキル;アルキルフェノキシアルキル;アルキルポリフェノキシアルキル;フェニルアルキル;アルキルフェニルアルキル;アルキルモルホリノアルキル;アルキルピペリジノアルキル;ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル等のヒドロキシアルキル、例えばエチレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)、ブタンジオール、ポリオキシエチレンオール等に由来するものからなる群から選択される。より具体的な実施の形態では、R’’がアルキル;シクロアルキル;アルコキシアルキル;アルキルポリアルコキシアルキル;アルキルフェノキシアルキル;アルキルポリフェノキシアルキル;フェニルアルキル;アルキルフェニルアルキル;アルキルモルホリノアルキル;アルキルピペリジノアルキル;ハロアルキル;シアノアルキル;アルキルチオアルキル;アルキルイミダゾリジノン;モノアルキルアミノアルキル、又はジメチルアミノエチル等のジアルキルアミノアルキル;アルキルオキサゾリジン;ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチル等のヒドロキシアルキル、例えばエチレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)、ブタンジオール、ポリオキシエチレンオール等に由来するものからなる群から選択される。
【0020】
上記の化合物において記載されたアルキル部分が2個〜20個の炭素原子を有する低級アルキルである、これらのアルコールが好ましい。アルコールの例としては、ブタノール、ペンタノール、イソデシル
アルコール、ラウリル
アルコール、セチル
アルコール、ステアリル
アルコール、ポリオキシエチレンのアルキルエーテル、ジメチルアミノエタノール、2−(N−オキサゾリジニル)エチル
アルコール、2−(N−モルホリノ)エチル
アルコール、ジシクロペンテニルオキシエチル
アルコール等が挙げられる。
【0021】
エステル交換反応に対するアルコールの適合性についての一般要件は、置き換えられる低級アルキルアルコール(R’OH)よりも高い標準沸点を有すること、及び比較的穏和な反応条件に安定であることである。比較的高い含水量(>1000ppm)を含有するアルコールは、使用前に従来の方法、例えば共沸脱水によって脱水されるが、本発明の触媒は、当該技術分野の多くの他の触媒とは対照的に、活性が顕著に低下することなく200ppm〜500ppmというアルコールの水レベルに容易に耐容することが見出される。
【0022】
本発明の触媒は、以下の一般式(I)によって表される金属アセチルアセトネートと塩M’
m+[X
p−]
nとの混合物からなる:
【化3】
(式中、n=1、2、3又は4であり、R
1及びR
3は各々独立してC
1〜C
4アルキル又はフェニルであり、R
2は水素、C
1〜C
4アルキル、フェニル、又はp−メチルフェニル、p−ヒドロキシフェニル等の置換フェニルである)。好適な金属キレート化合物は、例えばアセチルアセトネート、2,4−ヘキサンジオネート、3,5−ヘプタンジオネート、3−フェニルアセトアセトネート、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート、又は1,3−ジフェニルアセトネートを含む。
【0023】
Mは、典型的にはアルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム及びカルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属、又はインジウム、スズ、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛若しくは鉄等の遷移金属であり得る。この群の好ましい成員は、亜鉛アセチルアセトネート(Zn(acac)
2)及び鉄(III)アセチルアセトネート(Fe(acac)
3)である。
【0024】
塩M’
m+[X
p−]
nは、任意の無機カチオン又は有機カチオン、すなわち電荷として
m+を有するM’
m+(すなわち、mは1〜6の整数である)、好ましくはZn
2+、Li
+、Na
+、NH
4+と、任意の無機アニオン又は有機アニオン、すなわち電荷として
p−を有するX
p−(すなわち、pは1〜6の整数である)、例えばハロゲン化物イオン、炭酸イオン(CO
32−)、炭酸水素イオン(HCO
3−)、リン酸イオン(PO
43−)、リン酸水素イオン(HPO
42−)、リン酸二水素イオン(H
2PO
4−)、硫酸イオン(SO
42−)、亜硫酸イオン(SO
32−)及びカルボン酸イオンとを含有し得る(ここで、nはカチオンの電荷に適合するのに必要とされるアニオンの数を表す)。好ましいアニオンはCl
−、Br
−及びI
−等のハロゲン化物イオンである。塩M’
m+X
p−の好ましい成員は、ZnCl
2、LiCl、NaCl、NH
4Cl、LiIである。
【0025】
金属アセチルアセトネートと塩とのモル比は概して1:1〜10:1、好ましくは2:1〜1:2である。
【0026】
触媒は、エステル交換混合物又は溶液において適切なアセチルアセトネート塩と無機塩とを混合することによって、その場で調製することができる。触媒の調製に使用される単一の塩が、エステル交換触媒作用においてあまり効果がなかったことは本発明の重要な態様である。
【0027】
本発明の触媒は、アルコールの初期電荷に基づいて約0.01mol%〜約5.0mol%、特に約1.0mol%〜約5.0mol%、より具体的には約1.25mol%の量で使用される。より多くの量の触媒を使用してもよいが、通常はその必要はない。触媒は典型的には、反応物を合わせる時点で存在し、反応期間にわたって存在し続ける。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステルの生成の場合、出発(メタ)アクリル酸エステルを、アルコール生成物の除去を容易にするため、及び反応を終了させるために共沸溶媒として使用することができる。ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン等の他の好適な溶媒も、これらの目的で使用することができる。
【0029】
飽和、芳香族又は不飽和の(例えば(メタ)アクリル酸)エステルとアルコールとの初期モル比は、概して1:1〜10:1、好ましくは2:1〜5:1である。
【0030】
反応は大気圧条件又は減圧条件下で行われる。好適な反応温度は、約20℃〜約140℃、より典型的には約80℃〜約120℃の範囲である。
【0031】
反応は有機溶媒若しくはそれらの混合物中で、又は溶媒を添加することなく行うことができる。好適な有機溶媒は、例えば第三級アルコール、好ましくはtert−ブタノール、tert−アミルアルコール、ピリジン、ポリ−C
1〜C
4−アルキレングリコール−C
1〜C
4−アルキルエーテル、好ましくは1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル500、C
1〜C
4−アルキレンカーボネート、特にプロピレンカーボネート、C
3〜C
6−アルキル酢酸、特にtert−ブチル酢酸、THF、トルエン、1,3−ジオキサン、アセトン、イソブチルメチルケトン、エチルメチルケトン、1,4−ジオキサン、tert−ブチルメチルエーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、ヘキサン、ジメトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、アセトニトリルの均一混合物及び多相混合物である。
【0032】
通常は出発物質を触媒の存在下で還流させながら、アルコール生成物を系から共沸させる(過剰の出発エステルによって容易となる)。
【0033】
出発物質は、反応媒体中に溶解して、固体として懸濁して、又はエマルションで存在する。
【0034】
反応は、例えば管型反応器若しくはカスケード反応器内で連続的に、又は不連続的に行うことができる。
【0035】
変換は、かかる変換に好適な反応器の全てで行うことができる。かかる反応器は当業者に既知である。好ましい反応器は撹拌槽型反応器である。
【0036】
反応物の混合については、一般的な方法を使用することができる。特別な攪拌器は必要とされない。混合は、例えばガス、例えば酸素含有ガス(これを使用するのが好ましい)等を供給することによって行うことができる。反応媒体は単相であっても、又は多相であってもよく、反応物を溶解、懸濁又は乳化させることができる。
【0037】
反応中の温度は所望の値に設定され、必要に応じて反応プロセス中に上昇又は低下させることができる。
【0038】
本発明による触媒を用いるエステル交換の反応時間は、通常は30分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間である。
【0039】
反応の終了後に、触媒を必要に応じて、濾過、電気的濾過(electrical filtration)、吸着、遠心分離、デカンテーション(decanting)を適用すること、又は生成物の混合物を活性炭素、中性アルミナ、シリカ、シリカ/アルミナ等で処理することによって生成物から除去することができる。
【0040】
しかしながら、発明の概要において以上で既に言及したように、触媒は、その存在が最終エステル交換生成物に対して悪影響を有さず、その後の不飽和生成物の重合のような後処理工程、又は飽和、芳香族若しくは不飽和の生成物の多くの他の用途を妨げる可能性が低いため、反応媒体から除去する必要はない。
【0041】
触媒を反応媒体から除去する場合、これは単に、例えば反応生成物の濾過又は蒸発(触媒、すなわち塩錯体が残る)によって達成することができ、活性を顕著に喪失することなく、触媒をその後の実行に使用することができる。
【0042】
そのため、本発明の触媒錯体は、触媒候補に通常必要とされる以下の能力を満たす:
触媒は高い活性を示す、すなわちエステル交換反応を限られた時間内で能動的かつ効率的に促進するものとする。以下の実施例の部(exemplary part)から明らかなように、本発明の触媒錯体は、エステル交換の変換率に対して劇的な影響を及ぼす;
触媒は高い選択性を示すものとする。この場合も以下の実施例の部から明らかなように、本発明の触媒錯体は高いエステル交換収率をもたらす;
触媒は、その活性及び選択性を喪失することなく、エステル交換反応において再生及び再利用することが可能であるのに十分な安定性を一般的な取り扱い条件下で示すものとする。本明細書中で広範に記載されるように、本発明の触媒錯体は、活性を顕著に喪失することなく、反応媒体から容易に再生することができる;
触媒はまた、安価に生成されるものとする。最終的な試薬残渣、及びエステル交換反応中の反応媒体からの更なる反応生成物を除去する必要のない、反応混合物における触媒のその場調製の可能性を考えると、本発明の触媒は取り扱いがより安価である(事前の合成及び単離が必要ない)。
【0043】
本発明によるエステル交換の反応条件は穏和である。低い温度及び他の穏和な条件のために、(メタ)アクリレートを用いた場合の望ましくないラジカル重合による副生成物の形成が抑制される。この重合は、そうでなければ、相当量のラジカル阻害剤を添加することでしか妨げることができない。かかるラジカル阻害剤の例としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、ジエチルヒドロキシルアミン、2−tert−ブチル−4−メチルフェノール、6−tert−ブチル−2,4−ジメチルフェノール等のフェノール、ジ−tert−ブチルカテコール等のカテコール、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル、又は4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル等のTEMPO誘導体が挙げられる。これらの阻害剤は通常は50ppm〜2000ppmの量で使用される。加えて、酸素が阻害剤の存在下で重合を阻害するのに有益であることが見出されることもあり、多くの場合、酸素含有ガス、好ましくは空気の形態で、反応混合物の上方の気相が爆発限界未満のままであるような量で反応系に導入される。
【0044】
アクリル酸エステルの場合、エステル交換反応の最終生成物は、分散液の調製において、例えば反応溶媒であるアクリル分散液において、例えば放射線硬化性コーティング又は着色料において、並びに製紙産業、化粧品産業、医薬品産業、農産業、繊維産業及び石油生産での用途のための分散液においてモノマー又はコモノマーとして適用される。
【0045】
更なる態様では、本発明は、金属1,3−ジカルボニルキレートと塩との組合せからなることを特徴とする、カルボン酸又は炭酸のエステルのエステル交換反応に使用される触媒を提供する。
【0046】
特定の実施形態では、以上で既に説明したように、塩は好ましくはZnCl
2、LiCl、NaCl、NH
4Cl及びLiIからなる群から選択され、上述の組合せにおける金属1,3−ジカルボニルキレートは、式:
【化4】
(式中、n=1、2、3又は4であり、R
1はC1〜C4アルキル、フェニル又は置換フェニルであり、R
2は水素、C1〜C4アルキル、フェニル又は置換フェニルであり、R
3はC1〜C4アルキル、フェニル又は置換フェニルであり、Mは典型的にはアルミニウム等の卑金属;リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、バリウム及びカルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属;並びにインジウム、スズ、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛又は鉄等の遷移金属からなる群から選択される金属のカチオンを表す)によって表される。本発明の特定の一実施形態では、塩はLiCl、LiI、ZnCl
2又はCs
2CO
3、より具体的にはLiCl、LiI又はZnCl
2から選択され、上述の組合せにおける金属1,3−ジカルボニルキレートは、式:
【化5】
(式中、n=1、2、3又は4であり、R
1はC1〜C4アルキル、フェニル又は置換フェニルであり、R
2は水素、C1〜C4アルキル、フェニル又は置換フェニルであり、R
3はC1〜C4アルキル、フェニル又は置換フェニルであり、Mは亜鉛又は鉄から選択される金属のカチオンを表す)によって表され、より具体的には金属1,3−ジカルボニルキレートは、nが1、2、3又は4であり、R
1及びR
3が各々独立してC1〜C4アルキル(好ましくはメチル)であり、R
2が水素であり、Mが亜鉛又は鉄から選択される金属のカチオンを表すことを特徴とする。更により具体的には、金属1,3−ジカルボニルキレートは、亜鉛アセチルアセトネート(Zn(acac)
2)又は鉄アセチルアセトネート(Fe(acac)
3)から選択される。
【0047】
本発明を概括的に記載したが、より具体的な例を、本発明を説明する目的で下記に提示する。
【実施例】
【0048】
実施例1
典型的な反応(ニート)に対する混合塩の効果
コーニングチューブに、2mlのエチルアセテート(20.47mmol、17当量)、0.125mlのベンジルアルコール(1.20mmol、1当量)及び触媒を充填する。混合物を80℃で加熱する。サンプルをガスクロマトグラフィーによって分析する。結果を表1にまとめる。
【0049】
表1:80℃で形成したベンジルアセテートの%
【表1】
【0050】
実施例2
溶媒中の混合塩の効果
0.216mlのベンジルアルコール(2.09mmol、1当量)及び0.204mlのエチルアセテート(2.09mmol、1当量)を、2mlのトルエン(18.82mmol、9当量)に溶解する。混合物を触媒の存在下、80℃で加熱する。サンプルをガスクロマトグラフィーによって分析する。結果を表2にまとめる。
【0051】
表2:80℃で形成したベンジルアセテートの%
【表2】
【0052】
実施例3
ジメチルカーボネートとの反応における混合Zn及びFe acac塩の効果
コーニングチューブ内で、2mlのジメチルカーボネート(23.73mmol、17当量)、0.144mlのベンジルアルコール(1.40mmol、1当量)及び触媒を混合する。混合物を撹拌しながら80℃に加熱する。生成物の分布を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析する。得られた結果を表3に挙げる。
【0053】
表3:80℃で形成したベンジルメチルカーボネートの%
【表3】
【0054】
実施例4
ベンジルアルコールとジメチルカーボネートとの反応(スケールアップ)
500ml容のフラスコに、160gのジメチルカーボネート(1.78mol)、48gのベンジルアルコール(0.44mol)、5.9gの亜鉛アセチルアセトネート(22.2mmol)、及び3gのヨウ化リチウム(22.2mmol)を投入した。フラスコは撹拌器、温度計及び分留カラムを備えるものであった。混合物を大気圧で加熱して還流させ、DMCとメタノールとの共沸混合物を分留カラムの上部から除去した。カラムの最上部の温度をおよそ63℃、油浴の温度を130℃としながら、反応をこのように3時間継続した。触媒を真空濾過によって回収し、過剰のDMCを減圧下で除去した。GC分析から、2つの生成物(78%のベンジルメチルカーボネート及び22%のジベンジルカーボネート)の混合物へのベンジルアルコールの完全な変換が示された。
【0055】
実施例5
再生した触媒を用いたベンジルアルコールとジメチルカーボネートとの反応(スケールアップ)
160gの新たなジメチルカーボネート及び48gの新たなベンジルアルコールを投入した500ml容のフラスコに、実施例4からの回収した触媒、すなわち亜鉛アセチルアセトネートとヨウ化リチウムとの組合せを添加した。フラスコは撹拌器、温度計及び分留カラムを備えるものであった。混合物を大気圧で加熱して還流させ、DMCとメタノールとの共沸混合物を分留カラムの上部から除去した。カラムの最上部の温度をおよそ63℃、油浴の温度を130℃としながら、反応をこのように3時間継続した。GC分析から、再生した触媒がその活性を維持していたことが示された(表4)。
【0056】
表4.触媒の再生:変換されたDMCの%
【表4】
【0057】
実施例6
プレノール(別名プレニルアルコール)とメチルメタクリレートとの反応
メチルメタクリレート(3ml、28.17mmol、5当量)とプレノール(0.572ml、5.63mmol、1当量)との混合物を、50ppmのフェノチアジン、500ppmのハイドロキノンモノメチルエーテル及び触媒の存在下、65℃で加熱する。ガスクロマトグラフィーを使用して、変換を判断した。結果を表5に示す。
【0058】
表5.65℃で形成した生成物(%)
【表5】
【0059】
実施例7
プレノールとメチルメタクリレートとの反応(スケールアップ)
188gのメチルメタクリレート(MMA、1.88mol)、35gのプレノール(0.40mol)、1.24gの亜鉛アセチルアセトネート(4.7mmol)、0.2gのLiCl(4.7mmol)、0.9gのフェノチアジン(4.5mmol)、及び0.7gのハイドロキノンモノメチルエーテル(5.6mmol)を、撹拌器、温度計及び分留カラムを備える500ml容のフラスコに添加した。混合物を大気圧下、還流温度で加熱して、MMAとメタノールとの共沸混合物をカラムの最上部から除去した。反応を2時間後に終了させた。反応中のカラムの最上部の温度は65℃であり、反応器内の温度は130℃であった。過剰のMMAを減圧下(100mbar)で除去した。生成物を触媒及び阻害剤から真空蒸留によって分離した。61グラム(収率99.0%)の透明無色の液体が得られた。ガス液体クロマトグラフィー(GLC)分析から、純度95%のプレニルメタクリレートへの99.7%のプレノールの変換が示された。
【0060】
実施例8
プレノールとメチルアクリレートとの反応
メチルアクリレート(2ml、22.22mmol、5当量)とプレノール(0.451ml、4.44mmol、1当量)との混合物を、フェノチアジン(8.8mg、1mol%)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(8.3mg、1.5mol%)及び触媒の存在下、65℃で加熱する。ガスクロマトグラフィーを使用して、変換を判断した。結果を表6に示す。
【0061】
表6.65℃で形成した生成物(%)
【表6】
【0062】
実施例9
メチルベンゾエートと1−ブタノールとの反応
ブチルベンゾエートの調製を、216gのメチルベンゾエート(1.59mol)、132gのn−ブタノール(1.78mol)、21gの亜鉛アセチルアセトネート(0.08mol)、5.4gのZnCl
2(0.04mol)、及び100mlのシクロヘキサンを、撹拌器、温度計、分留カラム及びディーンスタークトラップを備える1リットル容のフラスコに添加することによって行った。溶液を大気圧還流温度まで加熱し、シクロヘキサンとメタノールとの共沸混合物をカラムの最上部から除去した。反応をこのようにして、およそ7時間継続した。反応混合物の分析から、ブチルベンゾエートへの94%のメチルベンゾエートの変換が示された。
【0063】
実施例10
ジメチルテレフタレートと1,3−プロパンジオールとの反応
攪拌器及び蒸留カラムを備える250ml容のフラスコに、58.5gのジメチルテレフタレート(DMT)及び45.7gの1,3−プロパンジオールを、2:1の1,3−プロパンジオール:DMTのモル比で充填した。次いで、フラスコを窒素でパージし、フラスコの内容物を加熱した。フラスコ内部の温度が約150℃に達し、全てのDMTが融解した時点で、4gの無水亜鉛アセチルアセトネート及び0.3gの塩化リチウムを添加した。触媒を添加すると、メタノールが発生した。メタノールを蒸留によって除去した。温度を150℃に保持し、収集されたメタノールの量を反応の進行の尺度とみなした。時間に対する収集されたメタノールの累積量を表7に示す。80分間で合計23.5mlのメタノールが収集された。完全なエステル交換のためのメタノールの理論量は24.4mlである。幾らかのメタノールが反応混合物中に残存していた可能性があり、重縮合時の真空の適用により除去された。
【0064】
表7.時間に対するメタノールの発生
【表7】
【0065】
実施例11
メチルメタクリレートと1−デカノールとの反応
撹拌器、温度計及びビグリュー分留カラムを備える1リットル容のフラスコに、188g(1.88mol)のメチルメタクリレート(MMA)、59.4g(0.376mol)のn−デシルアルコール、1.25mol%の亜鉛アセチルアセトネート、1.25mol%のLiCl、及び0.75gのフェノチアジン、及び0.62gのハイドロキノンフリーラジカル重合阻害剤を添加した。混合物を大気圧で加熱して還流させ、MMAとメタノールとの共沸混合物を分留カラムの上部から除去した。反応をこのようにして、およそ5時間継続した。触媒及び阻害剤の真空濾過の後、過剰のMMAを真空下で除去し、得られるn−デシルメタクリレート(DMA)を単離し(84.3グラム、収率99.1%)、分析した。ガス液体クロマトグラフィー(GLC)分析から、純度98%のDMAへの99%の1−デカノールの変換が示された。
【0066】
実施例12
再生した触媒を用いたメチルメタクリレートと1−デカノールとの反応
撹拌器、温度計及びビグリュー分留カラムを備える1リットル容のフラスコに、188gの新たなMMA、59.4gの新たな1−デカノール、並びに実施例11の回収した触媒及び阻害剤を添加した。混合物を大気圧で加熱して還流させ、MMAとメタノールとの共沸混合物を分留カラムの上部から除去した。反応をこのようにして、およそ5時間継続した。GC分析から、DMAへの1−デカノールの完全な変換が示されたが、これにより再生した触媒が依然として活性を有していたことが実証される。
【0067】
実施例13
メチルラウレートとブタノールとの反応
攪拌器及び蒸留カラムを備える500ml容のフラスコに、62.5g(0.29mol)のメチルラウレート、162g(2.19mol)のn−ブタノール、3.8g(15mmol)のZn(acac)
2、及び1g(7.5mmol)のLiIを充填した。混合物を大気圧で加熱して還流させ、メタノールをカラムの上部から除去した。油浴の温度を130℃に維持し、反応をこのようにして5時間継続した。反応の終了時に、過剰のブタノールを留去し、透明な黄色の油を得た。ガス液体クロマトグラフィー分析から、ブチルラウレートへのメチルラウレートの完全な変換が示された。
【0068】
実施例14
第一級アルコール及び第二級アルコールの選択性を実証するための2−エチル−1,3−ヘキサンジオールとエチルアセテートとの反応(スキーム3)
17当量のエチルアセテート(2.015mL、20.5mmol)及び1当量の2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(0.185mL、1.2mmol)を、5mol%のZn(acac)
2(0.06mmol)及び5mol%のLiCl(0.06mmol)の存在下で混合した。混合物を密封バイアル内、80℃で撹拌した。1時間後、4時間後、6時間後及び24時間後に、サンプルをGC分析のために反応混合物から採取した(表8)。
スキーム3:
【化6】
【0069】
表8.80℃で形成した生成物(%)
【表8】
【0070】
表9から明らかなように、本発明の触媒を用いると、実質的にジエステルの形成のないモノエステルの選択的な形成が見られる。
【0071】
表9.80℃でのモノエステル/ジエステル比(%)
【表9】
【0072】
実施例15
第三級アルコールに対する第一級アルコールの選択性を実証するための3−メチル−1,3−ブタンジオールとエチルアセテートとの反応(スキーム4)
17当量のエチルアセテート(2.015mL、20.5mmol)及び1当量の3−メチル−1,3−ブタンジオール(0.130mL、1.2mmol)を、5mol%のZn(acac)
2(0.06mmol)及び5mol%のLiCl(0.06mmol)の存在下で混合した。混合物を密封バイアル内、80℃で撹拌した。1時間後、4時間後、6時間後及び24時間後に、サンプルをGC分析のために反応混合物から採取した(表10)。
スキーム4:
【化7】
【0073】
表11から明らかなように、本発明の触媒を用いた、実質的にジエステルの形成のないモノエステルの選択的な形成が見られる。
【0074】
表10.80℃で形成した生成物(%)
【表10】
【0075】
表11.80℃でのモノエステル/ジエステル比(%)
【表11】
【0076】
実施例16
第三級アルコールに対する第二級アルコールの選択性を実証するための2−メチル−2,4−ペンタンジオールとエチルアセテートとの反応(スキーム5)
17当量のエチルアセテート(2.015mL、20.5mmol)及び1当量の2−メチル−2,4−ペンタンジオール(0.155mL、1.2mmol)を、5mol%のZn(acac)
2(0.06mmol)及び5mol%のLiCl(0.06mmol)の存在下で混合する。混合物を密封バイアル内、80℃で撹拌する。1時間後、4時間後、6時間後及び24時間後に、サンプルをGC分析のために反応混合物から採取する(表12)。
スキーム5:
【化8】
【0077】
表13から明らかなように、本発明の触媒を用いた、実質的にジエステルの形成のないモノエステルの選択的な形成が見られる。
【0078】
表12.80℃で形成した生成物(%):
【表12】
【0079】
表13.80℃でのモノエステル/ジエステル比(%)
【表13】
【0080】
実施例17
選択性を実証するためのエチル(−)−L−ラクテートとベンジルアルコールとの反応(スキーム6)
1当量のエチル(−)−L−ラクテート(1.140mL、0.001mmol)及び1当量のベンジルアルコール(1.035mL、0.001mmol)を、5mol%のZn(acac)
2(0.0005mmol)及び5mol%のLiCl(0.0005mmol)の存在下で混合する。混合物を密封バイアル内、80℃で撹拌する。1時間後、4時間後、6時間後及び24時間後に、サンプルをGC分析のために反応混合物から採取する(表14)。
スキーム6:
【化9】
【0081】
これらの試薬によって、標準的な触媒を用いて、ベンジルエステルの形成が望まれる場合に、通常は相当な割合のジ−エステルの形成が得られる。表13から明らかなように、本発明の触媒を用いると、ベンジルエステルの形成における選択性が大幅に向上する。
【0082】
表14.80℃でのベンジルエステル/ジエステル比(%)
【表14】
【0083】
本発明の上述の記載は例示としてのみ説明される。当業者に容易に明らかなように、他の変形形態及び変更形態を、上記に記載され、添付の特許請求の範囲において具体化される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、容易に採用することができる。