特許第5916741号(P5916741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916741酪農反芻動物により生成されるメタンの量の評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916741
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】酪農反芻動物により生成されるメタンの量の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/06 20060101AFI20160422BHJP
【FI】
   G01N33/06
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-534247(P2013-534247)
(86)(22)【出願日】2011年10月11日
(65)【公表番号】特表2013-543122(P2013-543122A)
(43)【公表日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】EP2011067689
(87)【国際公開番号】WO2012052314
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年9月19日
(31)【優先権主張番号】1058624
(32)【優先日】2010年10月21日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510340687
【氏名又は名称】ヴァロレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイユ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】シェノー,ギヨーム
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−525974(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0229119(US,A1)
【文献】 J. Dairy Sci. 89:3690-3695
【文献】 J. Anim. Sci. 2009. 87:1334-1345
【文献】 Animal (2012), 6:10, pp 1694-1701
【文献】 J. Dairy Sci. 94 :6057-6068
【文献】 J. Dairy Sci. 92 :5199-5211
【文献】 J. Dairy Sci. 90:3456-3467
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/06
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酪農反芻動物により生成されるメタンの量を評価するための方法であり、当該方法は少なくとも、
前記反芻動物からの乳のサンプル中の、デノボ合成から得られる少なくとも1つの脂肪酸(AG)の重量を測定すること、及び
次式:CH4=a*(デノボ AG)+y*(BH AG)+z:
により前記メタンの量を評価すること、
を含み、ここで、
− 「CH4」は、前記反芻動物によって乳1キログラム当たり又は1リットル当たり生成されるメタンのグラム数で表した量であり、
− 「デノボ AG」は、乳1キログラム当たり又は1リットル当たりグラム数で表される、乳腺上皮細胞によって合成される16以下の炭素原子を含む少なくとも1つの脂肪酸の前記サンプル中で測定された量であり、それ自体で又は少なくとも他のデノボ脂肪酸の測定された量と組み合わせて取得され;
− 「BH AG」は、乳1キログラム当たり又は1リットル当たりグラム数で表される、反芻胃内での生体水素化から得られた少なくとも1つの脂肪酸、すなわち、反芻胃内での発酵の過程で少なくとも1つの水素化を経た18の炭素原子を持つ少なくとも1つの脂肪酸の前記サンプル中の測定された量であり、それ自体で又は少なくとも反芻胃内での生体水素化から得られた他の脂肪酸の測定された量と組み合わせて取得され;
− aは、yがゼロである場合に−2から2、又はyがゼロとは異なる場合には0.1から10の間の数であり;
− yは、aがゼロではない場合に−10から+10、又はaがゼロの場合には−50から−0.1の間の数であり;
− a及びyは同時にゼロではなく;
− zは−100から+100の間の数である、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であり、「デノボ AG」は次の定義:
(a)4から14の炭素原子を持つ飽和脂肪酸(AGS)の量;
(b)4から16の炭素原子を持つ飽和脂肪酸の量;
(c)C12及びC14の飽和脂肪酸の量;
(d)C4、C6、C8、C10、C12、C14及びC16の飽和脂肪酸の量であり、単独又はこれらのうち少なくとも2つの組み合わせで取得される、量;
から選択される、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であり、yがゼロであり、前記メタンの量が次の式:
CH4=(1.07±0.5)*C4からC14の飽和脂肪酸の和+(4.8±3)
によって与えられる、方法。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法であり、yがゼロではなく、「BH AG」が次の定義:
(a)不飽和脂肪酸(AGI)の全量;
(b)少なくとも18の炭素原子を含む不飽和脂肪酸(AGI)の全量;
(c)少なくとも18の炭素原子を含む不飽和脂肪酸(AGI)の全量、但しC18:1n−9、C18:2n−6及びC18:3n−3の不飽和脂肪酸を除く;
(d)C18の飽和脂肪酸(C18:0)の量;
(e)トランス脂肪酸又はその一部の量;
から選択される、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であり、前記メタンの量が以下の式:
CH4=(1.14±0.4)*C4からC14の飽和脂肪酸の和−(0.07±0.3)*[AGI−(C18:1n−9+C18:2n−6+C18:3n−3)]+(4.7±0.5)
によって与えられ、ここで、[AGI−(C18:1n−9+C18:2n−6+C18:3n−3)]は、C18:1n−9、C18:2n−6及びC18:3n−3の酸を除く不飽和脂肪酸の全量を表す、方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法であり、デノボ合成から得られる前記脂肪酸の量が、赤外分光法によって測定される、方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法であり、
(a)参照サンプルとして知られるいくつかのサンプル乳を用いて繰り返され;
(b)それぞれの参照サンプルの測定されたCH4の量が、それぞれの赤外線吸収スペクトルと関連付けられ;
(c)試験される新たなサンプルの赤外線吸収スペクトルが記録され;
(d)前記スペクトルが前記参照サンプルのスペクトルと比較され;
(e)前記新たなサンプルに関連付けられるCH4の量が、前記新たなサンプルのスペクトルと前記参照サンプルのスペクトルとを比較することで導き出される;
方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であり、ステップ(d)で、前記比較が数学的統計学的モデルを用いて行われ、かつステップ(e)で、ステップ(d)のモデルで得られた評価式が用いられる、方法。
【請求項9】
デノボ合成から得られる前記脂肪酸の量が、中赤外線の赤外分光法によって測定される、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酪農反芻動物により生成されるメタンの量を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内メタン(CH)は反芻動物においておくびによって放出されるガスである。メタンはこれらの動物の反芻胃(第1胃)内で飼料の発酵の際に形成されこれは前記動物に対するエネルギー損失を表す。しかしメタンはまた、強力な温室効果ガスでもある。
【0003】
地球規模では、畜産は温室効果ガスの全放出量の18%に相当し得る(FAO、2006)。反芻動物の腸内発酵により放出されるCHは、地球全体の温室効果ガス放出量全体の3から5%を占めることが示される。
【0004】
大気中ではその寿命は、(二酸化炭素の100年と比較して)ほんの12年であるが、前記腸内メタンの放出を低減するための技術を実現することは非常に興味深いことである。
【0005】
反芻動物からの腸内メタン放出を削減することは、従って、経済問題と環境問題という2重の課題に一致する。
【0006】
種々の技術が今後、反芻動物、特に酪農反芻動物から腸内メタン放出を削減するために提案され
【0007】
しかし、これらの技術で有効な測定をすることは、ルーチン測定を可能にする簡単な方法が開発されていないという点でなお問題として残されている。
【0008】
腸内メタン放出は反芻動物の発酵特徴であるけれども、生成される乳1キログラム当たりのメタンの量は乳牛の生産性、摂取飼料の性質反芻胃の生態系などに関して大きく変動する。
【0009】
この点にかかる科学的文献によデータは、乳キログラム当たりの非常に広い範囲にわたる変動ている。事実、約7から25グラムのメタンが、生成される乳1キログラム当たり放出され得る。
【0010】
前記乳の「メタンフットプリント」は、泌乳の際に1匹の乳牛により毎日放出され且つ一日当たり生産される乳のキログラム数で割り算されるメタンとして定められる。これは、乳1キログラム当たりメタン(CH)のグラム数で表現される。
【0011】
従って、信頼性のある方法で、乳1キログラム当たりのメタン放出量を、その乳の成分に関連させて評価でき、メタンフットプリント、言い換えると乳1キログラムの生成に対して放出されるメタン量を低減及び最小化する畜産技術を見出しかつ促進することができるということは興味深いことである。
【0012】
科学的文献は、腸内メタン放出を低減するために多くの可能な方法を記載している。
【0013】
網羅されるものではないが、次の方法が留意され得る:
− 生産性(乳牛1頭1日当たり生産される乳のキログラム)の増加が、乳牛1頭1日当たりメタンの放出量を増加させるが、しかし、乳1リットル当たりのメタンの量が減少する(前記用語「乳牛」はここでは、最も広く酪農反芻動物として飼育されていることから使用されている);
反芻胃内で発酵されない食用油の摂取;
反芻胃のある微生物集団への毒物:抗生物質、エッセンシャルオイル、野菜抽出物、脂肪酸などの使用であり、メタンの経路を阻害してプロピオン酸塩経路によ水素の使用を増加させる;
− プロピオン酸塩前駆体(リンゴ酸塩、フマル酸塩など)の使用であり、これはまたメタン経路を阻害してプロピオン酸塩経路を優位にする;
− 前記方法の組み合わせ、などである。
【0014】
これらの効果を説明する刊行物には測定方法として:
(a)インビトロ技術:これらは常にインビボを表すものではない
(b)短時間の実験期間でのインビボ技術:これらは前記効果が全期間で維持されることを保証するものではない、
の使用開示される。
これらは常に実行が難しく実験的制限がある。
【0015】
最も広く知られている方法は:
− 「カロリメトリックチャンバ」及び
− 「SF方法」、即ち、おくびガスサンプル収集後重量によるメタン放出量を読み取り、インビボで動物の反芻胃内に導入されたパラメータ化拡散器から得られる既知量のSFガスと比較する方法
である。
(c)「レーザー検出装置」測定:最近の技術であり、シンシチュ(その場)でレーザー放射によりメタン放出を測定できるが、入手可能な最初の刊行物(Chagunda等、2009)からは高い信頼性が得られない。
(d)摂取飼料の消化量又は性質から予測する:多くの式が異なる著者から提案されている。これらは正確なものではなく、定常的に測定可能ではないか又は一般には知られていない(例えば、乳牛の消化、飼料の発酵などの)多く基準に依存している。
(e)乳牛の生産からの予測:乳牛がより多く乳を生産するほど、乳1キログラム当たりのメタン放出量は低くなる。
【0016】
生産性との関連付けは飼料摂取のタイプと関連付けされた違いを統合化せず、参考文献を注意深く読むと、メタンの放出が異なる摂取飼料で測定される場合に、同じ生産性レベルでも非常に大きな相違が見られる、ということされる
【0017】
本発明者の仏国特許第0854230号明細書では、信頼性の高い簡単な方法が記載され、これは乳牛の生産性と、反芻胃の脂肪酸、乳の脂肪酸及びメタンの間の化学量論的関係によ前記反芻胃の発酵の方向とを一度及び同時に統合ている。
【0018】
最近の刊行物(Martin 2008、Chilliard 2009)ではこの関連付けが確認されている。
【0019】
それにもかかわらず、この方法を実施するためには:
− この乳牛の生産性を知ること、及び
− 前記乳の脂肪酸プロフィルを実施することが必要であり、これは:
− 前記乳の脂の抽出及び
− ガス相クロマトグラフ求する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】仏国特許第0854230号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、これらの困難性を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
従って、本発明は、酪農反芻動物により生成されるメタン量を評価するための方法提案、前記方法は、前記反芻動物からの乳のサンプル中の、デノボ合成から得られる、少なくとも1つの脂肪酸(AG)の重量を測定すること、及び次式:CH4=a*(デノボ AG)+y*(BH AG)+zによりメタンの量を評価すること少なくともことを特徴とし、ここで、
− 「CH」は前記反芻動物による乳1キログラム当たり又は1リットル当たり生成されるメタンのグラム数で表した量であり、
− 「デノボ AG」とは、乳1キログラム当たり又は1リットル当たりグラム数で表される、少なくとも前記脂肪酸の前記サンプル中測定された量であり、それ自体又は少なくとも他のデノボ脂肪酸の測定された量と組み合わせて取得され;
− 「BH AG」とは、乳1キログラム当たり又は1リットル当たりグラム数で表される、反芻胃内での生体水素化から得られた少なくとも1つの脂肪酸の前記サンプル中測定された量であり、それ自体又は少なくとも反芻胃内での生体水素化から得られた他の脂肪酸の測定された量と組み合わせて取得され;
− aは、yゼロである場合−2から2、又はyがゼロとは異なる場合には0.1から10の間の数であり;
− yは、aがゼロではない場合には−10から+10、又はaがゼロの場合には−50から−0.1の間の数であり;
− a及びy同時にゼロではなく;
− zは−100から+100の間の数を含む。
【0023】
この方法により、前記反芻動物の生産性に縛られることなシンプルな乳のサンプルを分析することでCHの量を決定することが可能となる。
【0024】
さらに他の有利なかつ非限定的な特徴により:
− 「デノボ AG」が次の定義:
(a)4から14炭素原子を持つ飽和脂肪酸(AGS)の量;
(b)4から16炭素原子を持つ飽和脂肪酸の量;
(c)C12及びC14飽和脂肪酸の量;
(d)C4、C6、C8、C10、C12、C14及びC16飽和脂肪酸の量であり、単独又はこれらのうち少なくとも2つの組み合わせで取得される、量
から選択される
− 前記メタン量は次の式:
CH=(1.07±0.5)*C4からC14飽和脂肪酸の和+(4.8±3)によって与えられる
− 「BH AG」は次の定義:
(a)不飽和脂肪酸(AGI)の全量;
(b)少なくとも18炭素原子を含む不飽和脂肪酸(AGI)の全量;
(c)少なくとも18炭素原子を含む不飽和脂肪酸(AGI)の全量、但し、C18:1n−9、C18:2n−6及びC18:3n−3不飽和脂肪酸を除く;
(d)C18飽和脂肪酸(C18:0)の量;
(e)トランス脂肪酸又はその一部の量
から選択される
前記メタンの量は以下の式で与えられる:
CH4=(1.14±0.4)*C4からC14飽和脂肪酸の和−(0.07±0.3)*[AGI−(C18:1n−9+C18:2n−6+C18:3n−3)]+(4.7±0.5)、ここで、[AGI−(C18:1n−9+C18:2n−6+C18:3n−3)]は、C18:1n−9、C18:2n−6及びC18:3n−3の酸を除く不飽和脂肪酸の全量を表している。
− デノボ合成から得られる前記脂肪酸の量は、赤外分光法で、優先的には中赤外線において測定する。
(a)前記方法は参照乳として知られるいくつかのサンプル乳を用いて繰り返される;
(b)それぞれの参照サンプルの測定されたCH4の量が、それぞれの赤外線吸収スペクトルと関連付けられる;
(c)試験される新たなサンプルの赤外線吸収スペクトルが記録される;
(d)前記スペクトル前記参照サンプルのスペクトルと比較される;
(e)前記新たなサンプルに関連付けられるCHの量を、そのスペクトルを参照サンプルのスペクトルと比較することで導き出す。
優先的には、ステップ(d)で、前記比較を数学的統計学的モデルを用いて行い、かつステップ(e)で、ステップ(d)のモデルで得られた評価式を用いて行う。
【0025】
本発明の他の特徴及び利点は以下の詳細な記載を参照することで明らかとなる。
【0026】
本願を通じて次の表現は以下のように定義される。
− 「デノボ脂質生成」:乳腺上皮細胞による脂肪酸合成;
− 「デノボ脂肪酸」:乳腺上皮細胞によって合成される、16以下の炭素原子を含む脂肪酸;
− 「BH脂肪酸」又は「反芻胃内での生体水素化から得られる脂肪酸」:反芻胃内での発酵の過程で少なくとも1つの水素化を経た18炭素原子を持つ脂肪酸。
これらはゼロ、1又はそれ以上の不飽和性を持つ。
【0027】
最後に、「組み合わせる」という用語は、加える、差し引く、掛け合わす又は割ることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[1]: メタン及びAGV(揮発性脂肪酸)関係−反芻胃とメタン生成
反芻胃中でのAGVの生成とメタンの生成との関連付けは知られており多年研究されている。
【0029】
従って、反芻胃中での酢酸塩及び酪酸塩の生成は水素を放出し、従ってメタン生成に有利であり、一方でプロピオン酸塩の生成は水素の使用を可能にし従ってメタン生成を抑制するということが示されてきた。このことは次の式:
1グルコース(C6)は、2ピルビン酸塩(C3)[+4H]を与え、
1ピルビン酸塩(C3)+HO=1酢酸塩+CO[+2H]であり、及び
1ピルビン酸塩=1プロピオン酸塩(C3)[−4H]
で表される
【0030】
従って、予想式がMssら(2000)の刊行物に従って開発され、CHの生成がAGの生成から予想される。従って、反芻胃での発酵がC2(酢酸塩)及びC4酪酸塩)をより生成すると、CHの生成がより多くなる。
【0031】
逆に、反芻胃での発酵がC3(プロピオン酸塩)をより生成すると、CHの生成はより少なくなる。
【0032】
これに続く合成式は次のようである(Mossの式):
[CH4]=0.45[酢酸塩]+0.40[酪酸塩]−0.275[プロピオン酸塩]、ここで、[x]=xの量を全AGVに対する%で表す。
【0033】
前記デノボ脂質生成とメタン成との関連付けはここで現れる、というのはC2とC4は乳頭で合成されるデノボ脂肪酸(デノボ AG)の前駆体だからである。
【0034】
反芻胃の発酵によりC2及びC4がより多く生成されるほど、前記乳の脂肪酸のデノボ合成に利用可能な基質より多く存在することとなる。
【0035】
[2]: 乳頭及び脂質
反芻胃内での発酵から得られるC2及びC4のAGVはその後乳腺上皮細胞によって取り込まれデノボAG合成の基質として供される。
【0036】
AGV基質の利用可能性が、これらの合成を制限する要因である場合には(これは極めて普通である)、腸内CHの放出と、前記乳中のデノボ合成から得られたAGの排泄には、厳正な比例関係があり、以下の表に示される。

乳腺内皮細胞におけるデノボAGの合成は、上記の開発されたMoss式が示唆するように、「メタンフットプリント」で反芻胃内での発酵から得られたC2とC4基質からほとんど生じる。
【0037】
その後次の偶数飽和脂肪酸の合成で終了する:C4:0、C6:0、C8:0、C10:0、C12:0、C14:0、16:0。
【0038】
しかし留意すべきことは、第2相において、前記デノボ合成から得られた前記飽和AG(AGS)が不飽和化される、ということである。
【0039】
従って、一方では前記二重関係(C2+C4)とCH4(メタン)を用い、及び乳頭における飽和デノボAGの合成の前駆体として(C2+C4)を用いて、前記合成されたデノボAGの量から放出されるメタンの量を予想することは魅力的であるように見える。
【0040】
乳の脂質はまた、偶数AGV基質を用いるデノボ合成から得られる奇数飽和AGを(メタンの影響を有して)が、またC3から得られるものも含み、そのメタン生成に対する影響はない。従って、奇数AGについて、乳中のこれらの重量とこれらの「メタンフットプリント」との関連性はよりくなる
【0041】
しかし、ある偶数飽和AGは外因性起源を持ち得るものであり、特にC16:0はこれ自体乳のAGのほとんど1/3であり、種々の起源から派生し、例えば脂肪組織又は外因性植物油(例えばパーム油)などの保存領域の動員から派生する。
【0042】
従って、乳1キログラム当たりのメタンフィンガープリントと、AGの重量との信頼性のある関係を確立するためには、第1に必要なことは、乳1キログラム当たりのデノボの重量の信頼性のある測定を利用可能にする、ということである。
【0043】
[3]: 乳中に存在するデノボAGの量の評価
合成メカニズムは次に頭における偶数飽和AGのエステル化であり、これは多くの共同経路を含む
【0044】
また、乳中の偶数飽和AG間の強い関係を見出すことが理的である。次の表(Moateら、2007)は、この主題に対する刊行されたメタ分析後の乳中の偶数C4からC16の飽和AG間の統計的関係を与える。

これらのAGの全てがお互いに相当な割合で合成経路によって関連付けれており、乳中でのこれらのレベルはお互いに関連している、ということが明らかである。
【0045】
脂肪酸C16:0は、より鎖長の他の偶数AGよりも、短鎖長及び中間的鎖長を持つAGSとより弱い関係があるように見えるが、これは部分的に外因性起源によると考えられる。
【0046】
脂肪酸C4:0はまた、他の「デノボ」AGとの関連性が弱いように見えるが、これは他のAGとは異なる合成経路及び(乳のトリグリセリドに対する)エステル化経路によるものと考えられ、分析困難性によるものと考えられる。
【0047】
従って、C2及びC4基質として、前記AGのそれぞれの和又は組み合わせを用いてノボ合成のマーカーとして使用することと同等であるように思われる。
【0048】
優先的な方法では、(外因性起源であり得る)C16:0を除いて、全ての短鎖長又は中間的鎖AG(C4:0からC14:0)の重量による和が最も信頼性のある関係であるように思われる。
【0049】
しかしながら、それのみで、又は、いかなる前記AGの少なくとも2つの和又は組み合わせで取得されたいかなる偶数C4からC16AGも、多かれ少なかれ、デノボ合成について、従って反芻胃内でのメタン成について、C2及びC4基質の使用の信頼性のある評価を与える。
【0050】
従って、乳1キログラム当たり、又は乳1リットル当たりグラム数で表される、放出されたCH量を決定するために、次の式
CH(g/kg)=a*デノボAG+z
が使用され、ここでデノボAGは重量(g/kg乳)であり、式中、aは−2から+2の間の数、及びzは−100から+100の間の数である。
【0051】
前記デノボAGは、優先的に、乳中の4から14炭素原子の飽和AG(AGS)含有量により評価され得る。
【0052】
この式は、乳腺不飽和化の過程後4から16炭素原子のモノ不飽和AGの合成のために使用されるC2及びC4質の量を過小評価するが、しかし奇数飽和AGにおけるC2及びC4の共有をやや過大評価する。
【0053】
特に好ましい方法では、この量は式:
CH(g/kg)=1.07*C4からC14AGSの和+4.8
で評価される。
【0054】
ここでC4からC16AGSの和が乳1キログラム当たりのグラム数で表現されている。
【0055】
しかし、C4からC14のAGSの和の代わりに、次の変数を含む他の式を用いることも可能である:
− 全てのAGSの和:これはしかし精度が低いパラメータであり、というのは前記AGSはまた外因性AG及び反芻胃内での生体水素化から得られるC18:0を含むからである。
− 4から16炭素原子の飽和AGの和:常には既知でないC16:0の一部が、しかし、外因性起源である。
− C12:0及びC14:0の和。
− C4:0、C6:0、C8:0、C10:0、C12:0、C14:0、C16:0の単独又は少なくとも2つの組み合わせ。
【0056】
[4] 精度の増加
本発明による方法は、前記のようにメタン成と脂質成との間の関連付けを十分考慮するものである。
【0057】
しかし、メタンの放出の変化はここでは、メタン合成の経路とプロピオン酸塩合成の経路との間の水素の分配/競へ関連付けされている。
【0058】
また、メタン成及びプロピオン酸塩成以外の経路も水素利用について存在する。ほとんどは重要でないが、反芻胃での嫌気発酵で生成される水素代謝物はまた、飼料摂取された多飽和AGの水素化反応でも使用され得る。
【0059】
従って、前記式はまた次のように表現される:
CH(g/kg)=a*デノボAG+yBH AG*+z
*BH AGは、反芻胃内での生体水素化から得られたAGであ:ここで式中
− aは、yがゼロの場合に−2から2の間の数、又はyがゼロではない場合には0.1から10の間の数であり
− yは、aがゼロと異なる場合に−10から+10の間の数、又は、aがゼロの場合には−50から−0.1の間の数であり
− aとyとは同時にゼロとなることはなく;
− zは−100から+100の間の数である。
【0060】
生体水素化から得られるAGは、18以上で外因性起源のものより少ない炭素原子を持つ全AGの和を表す。
【0061】
これは:
− ステアリン酸(C18:0)を含むが、これはまた外因性起源であり得る;
− C18:0の乳頭における不飽和化から得られる場合オレイン酸(C18:1n−9)を含むが、しかしこれはまた外因性起源である得る;
− 外因性起源のリノール酸(C18:2n−6)及びアルファリノール酸(C18:3n−3)を除く2以上の不飽和を持つ全てのAGを含む
− C20:4n−6、C20:5n−3、C22:6n−3又はより長のAGを除外することも得策である
【0062】
水素を用いたによメタン放出の減少への(前記デノボAGから懸念される反芻胃内での発酵へのオイルの一般的効果とは異なる)これらの特定の寄与は完全には無視できない。
【0063】
実施例
− 360gの食餌C18:1n−9(飼料摂取の2%)は、反芻胃内で85%水素化され、乳1キログラムあたり0.4gのCHの合成(CH放出の約2%)に必要な水素を「消費」する。
− 360gの食餌C18:2n−6は、反芻胃内で85%水素化され、乳1キログラムあたり0.7gのCHの合成(約4%)に必要な水素を「消費」する。
− 360gの食餌C18:3n−3は、反芻胃内で85%水素化され、乳1キログラムあたり1.1gのCHの合成(約6%)に必要な水素を「消費」する。
【0064】
生体水素化から得られるAGの性質は複雑である。
【0065】
18以上の炭素元素を有するAGうち、C18:1n−9などは、内因性(C18:0で水素化、その後C18:1n−9で不飽和化)又は(例えばなたね油等の)外因性起源を持つ。
【0066】
[AGI−(C18:1n−9)−(C18:2n−6)−(C18:3n−3)]値は、具体的に水素化から得られるAGの量のよい指標である。
【0067】
従って、前記式は有利には次のように表される。
CH4(g/kg)=1.14*(C4からC14AGSの和)−0.07*[AGI−(C18:1n−9+C18:2n−6+C18:3n−3)]+4.7
また、AGI−(C18:1n−9+C18:2n−6+C18:3n−3)の代わりに、変数として次の生体水素化の指標
− AGIの和;
− C18:0;
− トランスAG又はその中のいくつかの
が含まれる他の式を使用することも可能である
【0068】
前記のとおり、従来技術では、直接、迅速にかつ容易に判断を実施することができない。現在最も正確な予想には、少なくとも乳中の脂質含有量及び牛の生産性を知ることが必要であり、この2つの因子は常は知り得ない。
【0069】
本発明の方法は、(もはや3つの最小の基準でもない)1つの基準、すなわち、1キログラム当たりグラムで表された乳中の1つ又は複数の脂肪酸の含有量から、乳1キログラム当たりのメタン放出量を評価することを可能にする。
【0070】
[5] 本方法の実施
ここ数年、赤外分光法によ、1キログラム(又は1リットル)当たりの乳中のグラムでのAGの迅速測定技術が開発されてきている。
【0071】
乳サンプルのデータベースから、これはそれぞれの乳サンプルについて、赤外線分析によって得られた光吸収スペクトルと、参考分析(ガス相クロマトグラフィーなど)によって得られた(1リットル当たりグラムで表される)AG中の成分との関連付けに本質がある。式(又は較正)を利用する数学的及び統計学的方法により、前記測定の信頼性のレベルが満足できるものとなる瞬間から、事前に決定された評価式を用いて、赤外線分析による全ての乳サンプルのAGをにより評価することが可能となる。
【0072】
乳のAGとメタン放出との化学量論的関連付けが知られているため、乳の「メタンフットプリント」を評価するために1キログラム(又は1リットル)当たりグラム数で乳中のAGの直接読み出しを使用することは魅力的である
【0073】
牛の生産性又は乳の全脂質量を知ることはもはや必要ではない。
【0074】
赤外分光法より正確には中赤外線を用いることで、乳1キログラム(又は1リットル)当たりのグラム数で直接、液体乳サンプルのAG含有量を測定することが可能となる。
【0075】
この方法の精度は、最近の刊行物に示されるようにますます信頼性が高くなってきている(Soyeurtら、2010)。
【0076】
この技術的進歩は本発明をいとも簡単に実施することを可能にする。
【0077】
従って、脂質の抽出及びガスクロマトグラフィーの実行はもはや必要なく、乳の全脂質含有量も牛の生産性も知る必要はない。
【0078】
本発明によれば、乳のそれぞれ1キログラムのメタンフットプリントの測定は、いつでも通常測定(ルーチン)で実施することが可能となる。
【0079】
乳の赤外線スペクトル分析により、単独で又は組合せて取得してAGを次いでこれらのAGからCHを連続的に測定する代わりに、赤外線スペクトル分析からCHを直接推定すること想定され得る。
【0080】
事実、デノボAGの量は、少なくとも、現在では中赤外線で非常によく決定されており、具体的に、識別される吸収スペクトルバンド、及びその光吸収に対応する波長に関連付けされている。従って、乳のAGの測定を行うことなく、同じスペクトルバンドを用いることで、スペクトル分析から乳サンプルのCHを直接決定すること可能である。