特許第5916769号(P5916769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 北京科▲潤▼三▲聯▼生物技▲術▼有限▲責▼任公司の特許一覧

特許5916769組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法
<>
  • 特許5916769-組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法 図000004
  • 特許5916769-組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法 図000005
  • 特許5916769-組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916769
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20160422BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20160422BHJP
   C12P 1/04 20060101ALI20160422BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   A61K35/74 E
   A61P31/04
   C12P1/04 A
   C12N15/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-556952(P2013-556952)
(86)(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公表番号】特表2014-508766(P2014-508766A)
(43)【公表日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】CN2012071825
(87)【国際公開番号】WO2012119524
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2013年11月19日
(31)【優先権主張番号】201110052238.5
(32)【優先日】2011年3月4日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513224294
【氏名又は名称】北京科▲潤▼三▲聯▼生物技▲術▼有限▲責▼任公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING CREATED TRIBIOTECHNOLOGY CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】丘 小慶
(72)【発明者】
【氏名】李 栄旗
(72)【発明者】
【氏名】張 向利
(72)【発明者】
【氏名】張 小鳳
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101643501(CN,A)
【文献】 特開平08−080198(JP,A)
【文献】 特表2009−537138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 38/00
C12N 15/00
C12P 1/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌ペプチドの組み換え体を誘導発現可能な組み換え変異体プラスミドが導入された大腸菌を製造するステップ(1)と、
液体培養基によって、前記ステップ(1)で製造された前記大腸菌を大量培養するステップ(2)と、
前記ステップ(2)で得られた菌液から、前記抗菌ペプチドの組み換え体を分離精製するステップ(3)と、を含む組み換えポリペプチドを含む薬の製造方法であって、
前記液体培養基の最終溶液は、0.4から0.7W/V%のリン酸水素二ナトリウム、0.1から0.6W/V%リン酸二水素カリウム、0.05から0.2W/V%の塩化アンモニア、0.0005から0.001W/V%の塩化カルシウム、0.5から2.5W/V%の硫酸マグネシウム、1から3W/V%のペプトン、0.5から1W/V%の酵母エキス、0.1から0.5W/V%のグルコース、0.2から0.8W/V%の塩化ナトリウム、および、水を含むことを特徴とする組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法。
【請求項2】
前記液体培養基は、各グループの最終溶液中の質量/体積パーセントに基づいて調製され、各グループの最終溶液中の質量/体積パーセントは下記の通りであり、リン酸水素二ナトリウムは0.68W/V%であり、リン酸二水素カリウムは0.3W/V%であり、塩化アンモニアは0.1W/V%であり、塩化カルシウムは0.001W/V%であり、硫酸マグネシウムは0.02W/V%であり、ペプトンは2.5W/V%であり、酵母エキスは0.75W/V%であり、グルコースは0.2W/V%であり、塩化ナトリウムは0.6W/V%であり、それ以外の部分は水であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(2)は、攪拌速度が220rpmであり、温度が37℃であり、培養時間が3から8時間であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(2)は、前記抗菌ペプチドの組み換え体を誘導するステップを含み、
前記抗菌ペプチドの組み換え体を誘導するステップは、細菌培養液に対し、220rpmの速度で撹拌しつつ最大の酸素量を維持しながら、30℃で2から4時間処理し、42℃で0.5時間処理し、37℃で1から2時間処理し、42℃に達したとき、最終濃度が0.5mMのIPTGを添加することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(2)の前で、前記ステップ(1)で製造された前記大腸菌に対して、
(処理1)最終濃度が50μg/mlのAMPを含むLB液体培養基の中で、220rpmの撹拌速度で撹拌しながら温度37℃で一晩回復培養し、LB固体培養基に塗って単集落菌を培養し、
(処理2)単集落菌を取り出して1.5mlのLB液体培養基に入れ、220rpmの撹拌速度で撹拌しながら37℃で5から8時間培養し、100mlのLB液体培養基に移し、220rpmの攪拌速度で撹拌しながら37℃で5から8時間培養し、
前記LB液体培養基が、1W/V%の塩化ナトリウム、1W/V%のペプトン、0.5W/V%の酵母エキス、0.8から1W/V%の寒天、および、水を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質の製造技術に関し、特に組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新規抗生物質の開発に全力を傾ける際、細菌細胞膜にイオンチャネルを形成し、細菌を死滅させるメカニズムは期待できる抗生物質開発の手掛かりの一つである。自然界の中の少なくない細菌および毒素は上述したメカニズムによって死滅する。大腸菌(Escherichia coli)が毒素たんぱく質、即ちコリシン(colicin)を分泌することがその代表例である。1946年ペニシリンの発見者H. Florey (British J. of Experimental Pathology.1946(27), 378〜390.)などの数人は、コリシンの抗菌活性、安全性および毒性病理について詳しく探究した結果、コリシンは抗菌活性が極めて強いだけでなく、抽出した物質が数百万倍まで希釈されても抗菌効果が非常に効果的であることを発見した。
【0003】
ここに、コリシンは抗菌スペクトルが特定されるため、大腸菌および所属したグラム陰性菌の一部のみに作用を示す。続いて、1953年にJacob氏などはpH6−7におけるコリシンIaの殺菌力が非常に強いことを発見した。1978年にFinkelstein氏などは、イオンチャンネルを形成できるコリシンKによって人工脂質二重膜に電位依存性イオンチャンネルを形成できることを発見し、これをもとにこのグループの細菌毒素の抗菌メカニズム、即ち標的細胞膜に致死性イオンチャンネルを形成することを提示した。
【0004】
1996年にQiu氏およびFinkelstein氏などは、分子に水平に設計する、新規抗生物質製造の基礎理論を確立するために、人工脂質二重層に形成されたイオンチャンネルの開閉時に跨るコリシンIaの三次構造を提示した。続いて2001年にQiu氏は、コリシンおよび黄色ブドウ球菌のフェロモンを融合し、薬剤耐性黄色ブドウ球菌の繁殖を抑制するポリペプチド系抗菌薬(Pheromonicin−SA)を作り上げ、かつ生体内実験および生体外実験によりそのポリペプチドの殺菌活性および選択的な殺菌効果を明確に実証した。かつQiu氏は同じ方法に基づいてバンコマイシン耐性腸球菌およびペニシリン耐性肺炎球菌に対する抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)を作り上げた。かつこれらのポリペプチドは既存の抗生物質でも対抗しにくい病原菌に示した殺菌作用が特殊かつ迅速であるだけでなく安定し、薬効がバンコマイシン、オキサシリンおよびペニシリンなど既存の抗生物質の数十倍から千倍以上であることは、Qiu氏の行った生体内実験および生体外実験により実証された。それに関わる研究結果を記載した論文はNature Biotechnology(21(12):1480−85,2003)、Antimicrobial Agents and Chemotherapy(49(3):1184−1189, 2005)などの国際的な学術雑誌により発表された。
【0005】
それに対し、本プロジェクトにおいて、我々はコリシンおよび病原体抗原の抗体ミメティックを融合し、抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)の新たな研究アイディアおよび技術ロードマップを作り上げ、かつ抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)、即ち広域スペクトル抗菌フェロモニシンの製造を成功させた。一方、ポリペプチド系抗菌薬の領域においての独特のアイディアおよび革新的な理論を権利化するために特許請求を提出すると同時に人工的小型抗体ミメティックの製造方法を作り上げた。それに関わる研究結果はNature biotechnology(25(8):921−929,2007)により発表された。本プロジェクトの研究開発した新規・高性能の広域スペクトル抗菌フェロモニシンは殺菌メカニズムが特殊であり、薬剤耐性菌に対する殺菌作用が良好であるだけでなく、多剤耐性緑膿菌(MDRPA)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)など薬剤耐性菌に対し、既存の抗生物質より強い抗菌力を果たすことができる。この薬物に関わる研究開発および製造は、薬剤耐性菌株が原因で日増しに深刻になってくる一連の治療問題を解決し、人体の健康を守るという重要な役割を担う。
【0006】
本プロジェクトの研究開発した広域スペクトル抗菌フェロモニシンと国内外に研究開発された小ペプチド系抗生物質(Anti−Human Perforin、カイコ由来抗生物質)とは全く異なる物質である。その違いは次の通りである。(1)抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)は原型コリシンと同じに単量体(monomer)を単位として組織を構成する、即ち一つの分子で一つの機能単位を形成する。それたに対し、小ペプチド系抗生物質は重合体(polymer)を単位として組織を構成する、即ち一つの機能単位を形成するには数十個の分子が必要である。(2)抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)は原型コリシンと同じに血液循環および体内に作用できるのに対し、小ペプチド系抗生物質はできない。(3)抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)は原型コリシンと同じに標的細胞膜に電位依存性イオンチャンネルを形成するため、標的細胞膜にチャンネルを形成する小ペプチド系抗生物質より殺菌メカニズムおよび効率が遥かに上である。
【0007】
一方、2010年度までのそれに関わる文献を調べたところ、動物体内実験を行う際、上述した小ペプチド系抗生物質は動物体内のプロテアーゼによって分解され、低下するという致命的欠陥を抱えるため、小ペプチド系抗生物質から生み出された薬物が臨床実験を通った例は未だに一つもなかった。それに対し、本プロジェクトの研究開発および製造した抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)は新薬の原型が動物および人体の消化器官に共生した細菌から生み出されたバクテリオシンである。該バクテリオシンは構造およびメカニズムが低分子ポリプペチドと全く異なる。一方、八年にわたった生体内実験および生体外実験に示した殺菌活性が非常に高いことが判明した。大型動物(乳牛、ヤギなど)の病態生理モデル実験において、局所注射および静脈注射にもかかわらず、殺菌効果および治療作用が良好であることが判明した。従って、本プロジェクトによる抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)の新薬は、上述した低分子ポリペプチドが生体内で使用されにくいような問題がない。
【0008】
一方、文献を調べたところ、国外においてコリシン、細菌分泌シグナルポリペプチド、抗体再構成について別々に研究が進められており、本プロジェクトの研究アイディアおよび技術ロードマップに類似した研究を行う実験室は未だになかった。それに類似した文章は未だに公開されなかった。2010年6月にアメリカ国家医学図書館(www.ncbi.nlm.nih.gov)に登録された文献を調べたところ、コリシン(Colicin) に関わる文献は2600件あまり、フェロモン(Pheromone)に関わる文献は7300件あまり、抗体再構成 ( Antibody reconstitution)に関わる文献は2100件あまり、 免疫毒素(Immunotoxin)に関わる文献は3800件あまり、 抗生物質耐性(antibiotic resistance)に関わる文献は94000件あまりであった。
【0009】
上述した情報源において、本プロジェクトの科学的理念、設計理念および実施例に類似した報道は未だになかった。一方、2010年6月に教育部査新工作站(No.1)に調査を依頼した結果、国内外において、本プロジェクトの関係者により提示された報告のほかに、コリシンと標的細菌フェロモンまたは人工的な標的細菌抗体ミメティックとを結合することによって標的細菌に対する抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)薬物を作り上げた報告は未だになかった。または本プロジェクトにより標的化された抗菌性ポロペプチド(Pheromonicin−SA)の形成方法に基づいて人用抗生物質、動物用抗生物質および農薬を製造した報告は未だになかった。
【0010】
我々は、実際の需要に応じに、広域スペクトル抗菌フェロモニシンをもとに動物用薬物(乳牛の乳房炎を治療する薬物)および人体用薬物(抗生物質)の開発を進める。生体内外の抗菌実験により、フェロモニシンは抗菌作用が非常に強く、特に生体内の抗菌力が生体外の抗菌力に優れたことが判明した。一方、2010年5月に農業部獣薬安全監督検験測試中心に薬品安全性評価を依頼した結果、上述した開発した薬物は無毒で突然変異および異常作用を生じることがないことが判明した。完成した薬物の安全性評価結果は次の通りである。
【0011】
1)、ラットおよびマウスの急性毒性試験の結果により、該薬物は無毒類に属すると判断された。(報告WTPJ20100003号)
2)、ネズミチフス菌復帰突然変異(Ames)試験の結果により、該薬物は陰性反応、即ち突然変異を引き起こす性質を持たないと判断された。(報告WTPJ20100003(2)号)
3)、マウス骨髄小核試験の結果により、該薬物は陰性反応、即ち突然変異を引き起こす作用がないと判断された。(報告WTPJ20100003(3)号)
4)、マウス精子異常試験の結果により、該薬物は陰性反応、即ちマウス精子の異常を引き起こす作用がないと判断された。(報告WTPJ20100003(4)号)
5)、組み換え型ポリペプチド系抗菌薬によって乳牛の乳房炎の病原菌を分離させ、生体外の抑制試験を行った結果により、下記のことが判明した。
【0012】
A、組み換え型ポリペプチド系抗菌薬は、広域抗菌スペクトルを持ち、かつ生体外実験において乳牛の乳房炎の病原菌に対する抑制効果が良好である。
B、組み換え型ポリペプチド系抗菌薬(特許文献1を参照)は、ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、腐性ブドウ球菌、リスブドウ球菌)に対する抑制作用が最も良く、MIC50が0.125μg/mL、MBC50が0.25μg/mLに達することができる。かつセファロチン(2ug/ml)と、オキサシリン(4ug/ml)と、ペニシリン、アンピシリン、リンコマイシン、ゲンタマイシン(いずれも8ug/ml以上)とに比べて、差異が極めて著しい。薬物の分子量によって比較を進めた結果により、ポリペプチド(MW70,000)はブドウ球菌に対する抑制作用がセファロチン(MW523)の抑制作用の2100倍、かつオキサシリン(MW423)の抑制作用の5300倍であることが判明した。
C、組み換え型ポリペプチド系抗菌薬は、レンサ球菌と、アルカノバクテリウム・ピオゲネス菌と、大腸菌などの腸内細菌科の細菌とに対する抑制作用を有する。レンサ球菌(S.agalactiae、S.dysgalactiae、S. uberis、S.bovis)に作用する際、MIC50は1.0μg/mLであり、MBC50は2.0μg/mLである。アルカノバクテリウム・ピオゲネス菌に作用する際、MIC50は0.25μg/mLであり、MBC50は1.0μg/mLである。大腸菌などの腸内細菌科の細菌に作用する際、MIC50は1.0μg/mLであり、MBC50は1.0μg/mLである。
D、組み換え型ポリペプチド系抗菌薬は、感受性細菌株に対する抑制作用および薬剤耐性菌株に対する抑制作用の違いがあまりなく、薬剤耐性表現型のブドウ球菌、レンサ球菌および大腸菌を高効率に抑制することができる。
【0013】
前期の大型動物治療試験(乳牛乳房炎の実験・治療試験)において、完治した大型動物は112頭であり、完治率は95%に達する。国家獣薬安全評価中心の試験結果により、本薬物は動物に毒性反応を生ぜしめて不良な影響を与えることがない無毒薬品であり、この種類の薬物はフェロモニシンを分解し、低下させるだけでなく、従来の抗生物質のように家禽類疾患の治療が完了した後、家禽類の体内に残留してしまうという問題点を避けることができる。一方、北京市乳品質量監督検験站の試験結果により、該薬物を受けて治療された乳牛から搾った牛乳には抗生物質が残留しないことが判明した(試験報告A2009−249号)。
【0014】
組み換え型抗生物質の製造について、発明者は既に特許文献1の“新規抗生物質およびそのヌクレオシド配列、製造方法および応用”を提出した。該明細書の実施例1は抗菌ペプチドの製造技術を公開し、かつ組み換えプラスミドを生じてコンピテントセルの形質転換を行った後、細菌の増殖誘導によって組み換えタンパク質を発現するステップにおいて一般の細菌増殖技術を採用する。実験段階において、生産効率および製造量を特に要求しなかった上で組み換え型抗生物質に臨床試験、動物試験および安全評価を行った結果、抗菌ペプチドの組み換え体の医療上の価値が判明したが、上述の特許請求案により提示された製造技術を採用すればコストが高過ぎるだけでなく、高純度の組み換えタンパク質の大量発現が難しい。従って、上述した薬品の実用化を実現させるには、いかに開発および生産の規模化を効果的に進めるかという問題を解決しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】中国特許出願第200910157564.5号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した問題に対し、組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するために、組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法は次のステップ(1)〜(3)を含む。
(1)抗菌ペプチドの組み換え体を誘導発見可能な組み換え変異体プラスミドが導入された大腸菌を造する。
(2)液体培養基によって、ステップ(1)で製造された大腸菌を大量培養する。
(3)ステップ(2)で得られた菌液から、抗菌ペプチドの組み換え体を精製する。
【0018】
その特徴は次の通りである。液体培養基は各グループの最終溶液中の質量/体積パーセントに基づいて調製される。各グループの最終溶液中の質量/体積パーセントは下記の通りである。リン酸水素二ナトリウムは0.4から0.7W/V%である。リン酸二水素カリウムは0.1から0.6W/V%である。塩化アンモニアは0.05から0.2W/V%である。塩化カルシウムは0.0005から0.001W/V%である。硫酸マグネシウムは0.5から2.5W/V%である。ペプトンは1から3W/V%である。酵母エキスは0.5から1W/V%である。グルコースは0.1から0.5W/V%である。塩化ナトリウムは0.2から0.8W/V%である。それ以外の部分は水である。
【0019】
液体培養基は各グループの最終溶液中の質量/体積パーセントに基づいて調製される。各グループの最終溶液中の質量/体積パーセントは下記の通りである。リン酸水素二ナトリウムは0.68W/V%である。リン酸二水素カリウムは0.3W/V%である。塩化アンモニアは0.1W/V%である。塩化カルシウムは0.001W/V%である。硫酸マグネシウムは0.02W/V%である。ペプトンは2.5W/V%である。酵母エキスは0.75W/V%である。グルコースは0.2W/V%である。塩化ナトリウムは0.6W/V%である。それ以外の部分は水である。
【0020】
菌株を大量培養する際、三段階に分けて大量培養を進める。各段階の大量培養のパラメーターは下記の通りである。攪拌速度は220rpm、温度は37℃、時間は3から8時間である。
【0021】
菌株を誘導し抗菌ペプチドの組み換え体を発現するステップ(3)は、ステップ(2)によって製作された細菌培養液を下記の条件によって処理する。攪拌速度を220rpmに設定し、酸素量を最大に維持した上で温度が30℃の時に2から4時間、温度が42℃の時に0.5時間、温度が37℃の時に1から2時間処理する。温度が42℃に達すると最終濃度が0.5mMのIPTGを添加する。
【0022】
ステップ(2)を進める前に、菌株は下記の通り処理される。
(処理1)4℃で菌株を解凍し、かつ最終濃度が50μg/mlのAMPを含有したLB液体培養基の中で、菌株を220rpmの撹拌速度で撹拌しながら、温度37℃で一晩回復培養する。続いて、LB固体培養基に塗って単集落菌を培養する。
(処理2)単集落菌を取り出して1.5mlのLB液体培養基に入れ、そののち攪拌速度220rpm、温度37℃で5から8時間培養する。続いて、それを100mlのLB液体培養基に移し、そののち攪拌速度220rpm、温度37℃で5から8時間培養する。
【0023】
LB液体培養基の成分および各グループの質量/体積パーセントは次の通りである。塩化ナトリウムは1W/V%である。ペプトンは1W/V%である。酵母エキスは0.5W/V%である。寒天は0.8から1W/V%である。それ以外の部分は水である。
【0024】
本発明において、大腸菌は、組み換えプラスミドpBHC−SA1、pBHC−SA2、pBHC−SA3、pBHC−SA4、pBHC−SEまたはpBHC−PAを含有した遺伝子組み換え菌BL−21である。
【0025】
本発明者は、高純度の抗菌ポリペプチドの組み換え体を大量製造するために、以前に公開した抗菌ポリペプチドの組み換え体に関わる技術をもとに、抗菌ポリペプチドの組み換え体の製造方法を提供する。既存の方法は大規模生産に対応できないため、既存の方法に基づいて大規模生産を進めれば、純度または生産量などがあまり好ましくないという欠点が生じる。この点は、本発明者の以前に公開した抗菌ポリペプチドの組み換え体の臨床応用を進めるときに克服しなければならない難問である。本発明は培養基成分の選択および最適化により、大腸菌によって外来遺伝子を発現する培養基に最適の製剤を提供し、かつ大量培養に最適のパラメーターを選び出すことにより、製造過程の一貫性を保ち、大規模生産を実現させると同時に製造した抗菌ポリペプチドの組み換え体の純度および生産量を維持する。これにより、以前に公開した抗菌ポリペプチドの組み換え体の製造を規模化および工業化する基礎を固める。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の方法によって製造された抗菌ペプチドとAMPとを比較した結果を示す図である。図中の左から右への順によってCONは3時間経過後から濁り始めた。AMPは4時間経過後から濁り始めた。第一実施例によって製作したサンプル、即ち194グループのタンパク質および198グループのタンパク質は27時間経過後から濁りがなくなる。
図2】異なるグループの抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)の純度試験を示す図である。線状部1は比較用目印、線状部2は120グループ、線状部3は122グループ、線状部4は126グループ、線状部5は246グループ、線状部6は247グループ、線状部7は248グループ、線状部8は250グループ、線状部9は252グループである。120グループ、122グループおよび126グループの生産方法は既存の方法である。246グループ、247グループ、249グループ、250グループおよび252グループは本発明の提示した新たな方法によって生産された。
図3】異なる生産規模の差を比較した結果/左のフラスコ、中央の42L発酵槽、右の200L発酵槽によって10グループの生産を連続した生産率。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による組み換え型ポリペプチド系新規抗菌薬の製造方法を下記の実施例に基づいて説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されない。
【0028】
実施例1は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌および緑膿菌の繁殖を抑制する抗菌ペプチドの製造技術である。
本発明の実施例1は下記の培養基を採用する。
(1)LB液体培養基(100ml):
調製方法は1gの塩化ナトリウム、1gのペプトンおよび0.5gの酵母エキスを250mlのフラスコに入れ、続いて100mlの水を加えてそれらを水に溶解させる。続いてオートクレーブに入れて120℃で8分間殺菌する。
(2)LB固定培養基(100ml):
LB固定培養基は、回復培養後の菌株をプレーティングすることで単集落菌を培養するのに使用される。調製方法は 05から1.5gの塩化ナトリウム、0.5から2gのペプトン、0.3から1gの酵母エキスおよび0.8から3gの寒天を250mlのフラスコに入れ、続いて100mlの水を加えてそれらを水に溶解させる。続いてオートクレーブに入れて120℃で8分間殺菌する。
(3)生産用培養基(700ml、20l、100l、200l)
最終溶液中の成分の質量/体積パーセントは下記の通りである。リン酸水素二ナトリウムは0.4から0.7W/V%である。リン酸二水素カリウムは0.1から0.6W/V%である。塩化アンモニアは0.05から0.2W/V%である。塩化カルシウムは0.0005から0.001W/V%である。硫酸マグネシウムは0.5から2.5W/V%である。ペプトンは1から3W/V%である。酵母エキスは0.5から1W/V%である。グルコースは0.1から0.5W/V%である。塩化ナトリウムは0.2から0.8W/V%である。それ以外の部分は水である。
【0029】
本発明の好ましい配合量は表1のとおりである。
【表1】
培養基に水を適切に加え、そののちオートクレーブに入れて121℃で8分間殺菌する。
【0030】
(4)ホウ酸緩衝液: ホウ酸(0.04M)、塩化ナトリウム(0.01M)、四ホウ酸ナトリウム(0.04M)、EDTA(2mM)
調製方法:5Lのホウ酸緩衝液=1LのA液+4LのB液
A液(1L):ホウ酸12.368g(0.2M),塩化ナトリウム2.925g(0.05M)
B液(4L):四ホウ酸ナトリウム76.27g(0.05M)
1LのA液と4LのB液を混合させ、それに2.9225gのEDTAを加え、最終濃度を2mMに維持する。
【0031】
ステップ1は組み換え変異体プラスミドを製造する。
特許出願請求番号が200910157564.5、発明名が“新規抗生物質およびそのヌクレオシド配列、製造方法および応用”の明細書内の実施例1に基づいて、組み換え変異体プラスミドpBHC−SA1、pBHC−SA2、pBHC−SA3、pBHC−SA4、pBHC−SE、pBHC−PAを製造する。
【0032】
ステップ2はコンピテントセルの形質転換を行う。
6種類の100ngの組み換え変異体プラスミドを別々に遺伝子組み換え菌BL−21のコンピテントセル40ulと5分間冷却させ、42℃で熱衝撃処理を30秒行い、そののち、氷に入れて2分間冷却させ、続いて160ulのSOC培養基を加え、攪拌速度220rpm、温度37℃で細菌を1時間振り、そののち、プレート(LB培養基に1%の寒天と50 ug/mlのアンピシリンを加え、37℃で一晩寝かす)に敷き並べ、単集落菌を選び出し、細胞増殖を行って菌株を形成する。続いて、菌株を低温で保存する。
【0033】
ステップ3は菌株を回復させる。
1、菌株を回復させる
保存された菌株を4℃で解凍し、続いて10mlのLB培養基(50μg/mlのAMPを含有)に1.5mlの株菌を入れ、攪拌速度220rmp、温度37℃で5時間から8時間培養する。
【0034】
2、単集落菌を接種する。
回復した菌液を104または105倍まで希釈し、10ulの希釈された菌液をLB固体培養基(AMP50μg/ml)プレートに塗る。続いてウェットボックスに移し、37℃のインキュベーターで10時間から12時間培養し、培養基の表面に円形の単集落菌を成長させる。
【0035】
3、細菌を選び出し、細菌を増殖させる。
(1)形が丸くて辺縁が滑らかな単集落菌を殺菌済みの楊枝または接種用ループでプレートから選び出し、1.5mlのLB培養基に入れて攪拌速度220rpm、温度37℃で5時間から8時間培養する。
(2)1.5mlのLB培養基の菌液を100mlのLB培養基に移し、攪拌速度220rpm、温度37℃で5時間から8時間培養する。
(3)第一段階の大量培養:上述した100mlの菌液を700mlの生産用培養基に加え、攪拌速度220rpm、温度37℃で5時間から8時間培養する。
(4)第二段階の大量培養:上述した700mlの菌液を6*700mlの生産用培養基に別々に加え、攪拌速度220rpm、温度37℃で5時間から8時間培養する。
(5)第三段階の大量培養:上述した6*700mlの菌液を20Lの生産用培養基に加え、続いて攪拌速度が220rpm、温度が37℃、酸素量が最大に維持された発酵槽で3時間から5時間培養する。
(6)遺伝子組み換え菌の発酵および誘導によってタンパク質を発現する。上述した20Lの菌液を200Lの生産用培養基に加え、発酵槽で培養および誘導を行うことによってタンパク質を発現する。発酵槽での培養および誘導を行う際、攪拌速度を220rpmに設定し、酸素量を最大に維持した上で温度が30℃の時に2時間から4時間、温度が42℃の時に0.5時間、温度が37℃の時に1時間から2時間処理する。温度が42℃に達すると最終濃度が0.5mMのIPTGを添加する。
【0036】
4、遠心分離によって細菌を収集する。
6000gの培養液を4℃で20分間遠心分離し、遠心分離後の沈殿物を収集し、50mMのホウ酸緩衝液(pH9.0)に入れ、ホウ酸緩衝液に菌体を浮遊させる。ホウ酸緩衝液に加えた2mMのPMSFはフッ化フェニルメタンスルホニルである。菌体を浮遊させた後の作業は4℃で進めなければならない。
【0037】
5、菌体を破砕する。
pH9.0のホウ酸緩衝液に菌体を完全に浮遊させた後、圧力が500から600barの高圧ホモジェナイザーによって菌体を破砕し、3分から5分ごとに菌体破砕を行い、7回繰り返す。
【0038】
6、菌体DNAを沈殿させる。
破砕処理が完了した55000gの菌液を4℃で40分間遠心分離する。続いて、上澄み液を取り出し、それに硫酸ストレプトマイシンを加え(200mlごとに16本の100万単位の硫酸ストレプトマイシンを加え)、マグネチックスターラーで1時間攪拌する。
【0039】
7、透析処理
上述の55000gの菌液を4℃で20分間遠心分離し、上澄み液を取り出して透析袋に入れる。続いて透析袋をホウ酸緩衝液の中に入れて8時間から12時間透析し、その間に4時間ごとに透析液を取り替える。
【0040】
8、薬剤でタンパク質を精製することによって抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)薬物を生成する。
透析が完了した55000gの菌液を4℃で20分間遠心分離し、上澄み液を取り出してフラスコに入れ、続いてイオン交換法によってタンパク質を精製する。続いて上澄み液からCMイオン交換カラムを取り出し、充分に水洗いし、続いて0.3 M のNaClを含有した50mMのホウ酸緩衝液で溶出を行うことによって新規抗菌性ポリペプチドを生成する。
【0041】
実施例2はポリペプチド系薬物に細菌抑制試験を行う。
1、100mlのフラスコに10mlの培養基(未殺菌)を入れ、121℃の高圧蒸気滅菌器で8分間殺菌する。
2、作業台を予めアルコールで拭いて洗浄し、そして赤外線ランプで30分間殺菌する。
3、それぞれの100mlのフラスコに一晩培養した3μlの黄色ブドウ球菌を入れる。
4、10μlの無菌食塩水と、1μl 1mg/mlのAMPと、本発明の実施例1によって製作したpBHC−SA1が 0.8mg/ml のポリペプチドサンプル125μlとをそれぞれの100mlのフラスコに加え、しるしを付ける。
5、振動攪拌培養器に入れて攪拌速度220rmp、温度37℃で培養する。
6、3時間経過後、6時間経過後、9時間経過後、12時間経過後、24時間経過後の順に懸濁状態を観察する。
【0042】
図1に示すように、ブランクによって比較した上で3時間経過後、AMPが濁り、9時間経過後、サンプルがまだ濁っていないことにより、サンプルは黄色ブドウ球菌を効果的に抑制できることが判明した。図1の左から右への順によってCONは3時間経過後から濁り始めた。AMPは4時間経過後から濁り始めた。第一実施例によって製作したサンプル、即ち194グループのタンパク質および198グループのタンパク質は27時間経過後から濁りがなくなる。
【0043】
実施例2は、本発明の製造方法によって製造された抗菌ポリペプチドと既存の方法によって製造された抗菌ポリペプチドとを比較する。
同じ生産規模を条件とした上で本発明の実施例1により提示された方法と、特許出願請求番号200910157564.5号により公開された方法とによって別々に製造された、異なるグループの抗菌ペプチドpBHC−SA1に対し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動および染色を行い、生産物の純度を比較した。その結果は次の通りである。抗菌性ポリペプチド(Pheromonicin−SA)の分子量は75000前後である。本発明の実施例1の方法により製造されたポリペプチドは電気泳動径路5、6、7、8に位置する。電気泳動径路5、6、7、8は相互に単一線状部を呈する。電気泳動径路2、3、4は比較的小さい分子を大量含有したため、複雑な線状部を呈する。つまり、本発明の方法によって製造されたポリペプチドの純度が高いことは実証された。
【0044】
実施例3は、製造技術および工程を改善する。
製造技術の改善および最適化を持続的に進め、生産規模を持続的に拡大することにより、実験用フラスコによって(8.4L)製造することから、42Lの発酵槽で(25L)製造する、200Lの発酵槽で(100L)製造することを実現させることができる。一方、図3に示すように、生産規模が拡大されても生産量および生産率はあまり影響されないため、本発明は抗菌ポリペプチドの製造を規模化および工業化する基礎を固めることができる。フラスコ、42Lの発酵槽および200Lの発酵槽によって別々に10グループの生産を連続した生産量および生産率は表2および図3に示したとおりである。
【表2】
図1
図2
図3