(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916841
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】層結合構造を有する多孔性炭素生成物およびその製造方法およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C01B 31/02 20060101AFI20160422BHJP
H01M 4/583 20100101ALI20160422BHJP
【FI】
C01B31/02 101B
H01M4/583
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-503066(P2014-503066)
(86)(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公表番号】特表2014-511816(P2014-511816A)
(43)【公表日】2014年5月19日
(86)【国際出願番号】EP2012055387
(87)【国際公開番号】WO2012136513
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2014年11月14日
(31)【優先権主張番号】102011016468.5
(32)【優先日】2011年4月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507332918
【氏名又は名称】ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ノイマン
(72)【発明者】
【氏名】イェルク ベッカー
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−342944(JP,A)
【文献】
特開2007−137755(JP,A)
【文献】
特表2002−527335(JP,A)
【文献】
特開2007−197305(JP,A)
【文献】
特開2002−029860(JP,A)
【文献】
特開昭62−096324(JP,A)
【文献】
特開2010−208887(JP,A)
【文献】
特開2010−095390(JP,A)
【文献】
米国特許第06210831(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0116624(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0019037(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02407423(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層結合構造を有する多孔性炭素生成物(35)を製造する方法であって、
(a) ナノ粒子および孔を含む無機材料からなるテンプレート(30)を準備するステップと、
(b) 前記テンプレート(30)の孔に第1変種のグラファイト化できない炭素用の前駆体を注入するステップと、
(c) グラファイト化できない炭素用の前記前駆体を炭化して、第1の細孔率を有する内側層(31)を、前記テンプレート(30)上に形成するステップと、
(d) 前記ステップ(b)による注入プロセスおよび前記ステップ(c)による炭化の後に残っている前記テンプレート(30)の孔容積体に第2変種のグラファイト化可能な炭素用の前駆物質を注入するステップと、
(e) 前記前駆物質を炭化して、前記第1の細孔率よりも小さい第2の細孔率を有する外側層(32)を、前記内側層(31)上に形成するステップと、
(f) 前記テンプレート(30)を除去して、層結合構造を有する炭素生成物(35)を形成するステップとを有しており、前記層結合構造は、キャビティ(36)側を向いた覆われていない表面を有しかつ前記第1の細孔率を有する炭素からなる内側層(31)と、前記キャビティ(36)とは反対側の覆われていない表面を有しかつ前記第1の細孔率よりも小さい第2の細孔率を有する炭素からなる外側層(32)とを有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記テンプレート(30)の前記孔の、残っている細孔容積の少なくとも50%が前記前駆物質によって充填される、
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記グラファイト化できない炭素用の前駆体は、水溶性炭水化物である
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記水溶性炭水化物は、サッカロースである、
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、
前記炭化の後、前記内側層はBET法による400ないし600m2/gの範囲の比表面積を有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、
前記炭化の後、前記内側層(31)は、1ないし50nmの範囲の平均層厚を有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、
前記グラファイト化可能な炭素用の前駆物質はピッチである、
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、
前記炭化の後、前記外側層(32)は、50m2/g未満の範囲のBET法による比表面積を有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法において、
前記炭化のあと、前記外側層(32)は、少なくとも2nmの平均層厚を有する、
ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法において、
前記テンプレート(30)の前記準備には、スートデポジットプロセスが含まれており、
該プロセスでは、供給材料を熱分解または加水分解によってテンプレート材料粒子に変換し、前記テンプレート材料粒子を堆積面上にデポジットして前記テンプレート材料粒子からなるスート基体を形成し、
前記スート基体をテンプレート粒子に粉砕する、
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
無機材料からなる前記テンプレート(30)は球形のナノ粒子を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法において、
前記炭素生成物(35)は、多孔性微粒子炭素フレークの形態で形成される、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
層結合構造を備えた多孔性炭素生成物であって、
前記層結合構造は、グラファイト化可能な第2の炭素変種からなる外側層(32)に接する、グラファイト化できない第1の炭素変種からなる内側層(31)を有しており、
前記内側層(31)は、第1の細孔率と、キャビティ(36)側を向いている覆われていない表面とを有しており、
前記外側層(32)は、前記第1の細孔率よりも小さい第2の細孔率と、前記キャビティ(36)とは反対側を向いている覆われていない表面とを有している、
ことを特徴とする多孔性炭素生成物。
【請求項14】
請求項13に記載の炭素生成物において、
前記内側層(31)は、乱層炭素からなり、1ないし50nmの範囲の平均層厚を有する、
ことを特徴とする炭素生成物。
【請求項15】
請求項13または14に記載の炭素生成物において、
前記外側層(32)は、グラファイトに類似する炭素から構成されており、少なくとも2nmの平均層厚を有する、
ことを特徴とする炭素生成物。
【請求項16】
請求項13から15までのいずれか1項に記載の炭素生成物において、
該炭素生成物は、階層的な多孔構造を有する、
ことを特徴とする炭素生成物。
【請求項17】
請求項13から16までのいずれか1項に記載の炭素生成物において、
当該炭素生成物は、10μmないし500μmの範囲の平均層厚を有する炭素層からなる多孔性炭素フレークの形態である、
ことを特徴とする炭素生成物。
【請求項18】
再充電可能リチウム硫黄バッテリ用の電極を製造するために請求項13から17までのいずれか1項に記載の炭素生成物を使用する、
ことを特徴とする使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層結合構造を有する多孔性炭素生成物を製造する方法に関しており、この多孔性炭素生成物は、第2炭素変種からなる外側層に接触する、第1炭素変種からなる内側層を有する。
【0002】
さらに本発明は、層結合構造を有する多孔性炭素生成物に関しており、この多孔性炭素生成物は、第2炭素変種からなる外側層に接触する、第1炭素変種からなる内側層を有する。
【0003】
さらに本発明は、上記の炭素生成物の使用方法に関する。
【0004】
携帯型電子装置が発展している趨勢の中で再充電可能なバッテリ(「蓄電池」または「2次バッテリ」)に対する需要が増大している。根柢にある要求は、可能な限り小さい当量において高い電荷容量および高いセル電圧を得ることである。さらに長いサイクル寿命、すなわち、充放電時における小さい電荷損失が要求される。殊に商業的な応用に対し、電極材料は、安価であり、無毒であり、爆発せず、かつ、扱いが簡単であるべきである。
【0005】
従来の技術
最近ではリチウム2次バッテリの技術的な重要性が増大している。リチウム2次バッテリでは、カソード(正の電極)およびアノード(負の電極)は、リチウムイオンのインタカレーションおよびデインタカレーション(intercalationおよびdeintercalation)に適切であり、かつリチウムイオンの移動を可能にする電解質に接する材料から構成される。アノード材料としては複数の多孔性炭素構造部が使用され、これらの多孔性炭素構造部は、それらの構造的および電気的な特性を実質的に変化させることなく、リチウムイオンを可逆的に受け取りおよび放出することができる。リチウムイオン2次バッテリのカソードは、主に、例えばコバルトリチウム酸(LiCoO
2)のようなリチウムおよび遷移金属の複合酸化物からなる。電解質の種類に応じてリチウム2次バッテリは、リチウムイオンバッテリ(LIB)およびリチウムポリマバッテリ(LPB)に分けられる。リチウムイオンバッテリでは、液体の電解質が使用され、リチウムポリマバッテリでは、ポリマ電解質が使用される。理論的なセル電圧は、約3.7Vであり、(約90%の)高効率時におけるエネルギ密度は、タイプに応じて120〜210Wh/kgの範囲にある。理論的な最大容量は、約300mAh/gに制限される。
【0006】
リチウムの他には、当量が小さいことに起因して、硫黄が電極コンポーネント用の有利な候補になっている。さらに硫黄は、安価であり、毒性が少ない。リチウム硫黄2次バッテリは、長年開発中であり、次世代の有望な2次バッテリと見なされている。その最も簡単な構成において、セルは、硫黄製の正極と、リチウム製の負極とから構成される。理論的な容量は(電極の放電時にすべての硫黄原子が、完全にS
2-に還元されるという前提の下で)、1,675mAh/gであり、公称電圧は2.2V/セルであり、またあらゆる一般的な蓄電池の最大エネルギ密度のうちの1つ、すなわち2500Wh/kgを潜在的に有している。しかしながら実践的にはこれまで達成可能な効率は極めて低い。
【0007】
その理由は、リチウム硫黄2次バッテリの電気化学的な特異性にある。そのベースにある酸化還元反応は、つぎの反応式によって表される。すなわち、
【化1】
である。
【0008】
しかしながら上記の反応に関与する硫黄の成分(または硫黄を含有する有機化合物)は、電気的なおよびイオン性のアイソレータとして作用するため、電気化学的な反応の経過時には、電気的に良伝導性の成分(例えば炭素)との持続的な内部的な接触が必要である。
【0009】
硫黄含有電極の電気伝導またはイオン伝導を保証するため、複数の液体の電解質(多くの場合、有極性の有機溶媒)が使用される。これらの液体の電解質は、アノードとカソードとの間のイオン輸送媒体として使用されるだけでなく、硫黄含有電極内でのイオン導電体としても使用される。これにより、一方では、上記の電極構造により、電解質が妨げられることなく進入できるようにすべきであるという問題が発生する。他方では、Li
2S
2またはLi
2Sのようなスルフィドおよびポリスルフィド放電電生成物が上記の電解質において溶融し、電解質によって配送される。これが当てはまるのは、殊に、電解質の大きなリザーバが提供される場合である。正極から離脱して拡散した硫黄成分は、さらなる電気化学反応には利用することができず、これによって電荷容量が低下してしまうのである。放電生成物が非可逆的に電解質溶媒から析出することも考えられ、これによって電荷容量が同様に低下してしまうのである。
【0010】
上記のような不利な作用を低減するため、US 2009/0311604 A1において提案されているのは、カソードに対する骨格材料として、硫黄ローディング(Schwefelbeladung)を吸収するナノ細孔を有する多孔性炭素マトリクスを提供することにより、カソードからの硫黄ローディングの離脱拡散を最小化することである。上記のナノ細孔率は、電極材料の10〜99%体積パーセントになることがあり、硫黄ローディングは、そのうちの100%未満を充填し、これによって液体の電解質の流入および流出に対する部分容積が解放される。
【0011】
上記の炭素マトリクスのナノ細孔には、硫黄粒子が注入される。これらの孔は、ナノチャネルを介して互いに接続されており、これらのナノチャネルにより、硫黄粒子および放電時に電解質に溶解する体積の大きな硫黄リチウム化合物の移動度が制限される。これによってこれらは炭素マトリクスのすぐ近くにとどまり、ひいては導体に接触するため、これらを介して蓄電池を充電する際に電気化学反応の反転が可能になるのである。上記の炭素マトリクス用の有利な出発成分として挙げられるのは、エアロゲル、キセロゲルおよび分子篩である。
【0012】
上記の方法の発展形態は、Xiulei Ji, Kyu Tae Lee, Linda F.Nazarによる刊行物"A highly ordered nanostructured carbon-sulphur cathode for lithium-sulphur batteries",Nature Material 8,500 - 6 (2009)から公知である。ここでは、炭素マトリクスとして「CMK−3」という名称で公知の、メソポーラスを含む炭素生成物が使用されており、この炭素生成物は、均一な細孔径および大きな細孔容積を有する整然とした細孔構造を有する。この炭素生成物は、いわゆる"hard template"法を用いて形成される。このハードテンプレートして「SBA−15」(
Santa
Barbara
Amourphous type materialの略語(カリフォルニア大学))が使用され、これは、メソポールの周期的かつ調整可能な配置構成および極めて大きな比表面積を有する二酸化シリコン生成物である。これによって整然とした炭素構造が得られ、この炭素構造では平行かつ六角形状の配置構成で延在する6.5nm厚の炭素ナノ細孔が、3〜4nm幅のチャネルによって互いに分離されている。これらの炭素ナノチューブは、チャネルに架かる炭素マイクロファイバによって互いに補強されているため、構造のつぶれが阻止される。この炭素構造には、溶融した液状の硫黄が注入されるため、この硫黄は、毛細力によってチャネルに引き寄せられ、冷却の後、約3nmの直径を有しかつ上記の炭素構造と内側で接触する硫黄ナノファイバが形成されるのである。
【0013】
技術的な課題設定
上記の炭素構造用に公知の出発成分を製造することには費用がかかり、またここから形成される電極は相応に高価になる。
【0014】
したがって本発明の課題は、細孔構造が電極構成成分の固着に適しており、かつ、殊にリチウム硫黄2次バッテリ用の電極材料として使用することが可能なコスト的に有利な多孔性炭素生成物を提供することである。
【0015】
さらに本発明の課題は、多孔性構造がリチウム硫黄2次電池用の電極材料として使用するのに殊に適して上記のような生成物を多孔性炭素からコスト的に有利に製造できるようにする方法を提供することである。
【0016】
本発明の一般的な説明
上記の方法についての課題は、本発明により、以下のステップを含む方法によって解決される。すなわち、
(a) 球形のナノ粒子および孔を含む無機材料製のテンプレートを準備するステップと、
(b) このテンプレートの孔に第1変種の炭素用の前駆体を注入するステップと、
(c)
第1変種の炭素用の前駆体を炭化して、第1の細孔率を有する内側層をナノ粒子に形成するステップと、
(d) 上記の
ステップ(b)による注入プロセスおよびステップ(c)による炭化の後に残っているテンプレートの孔容積体に第2変種の炭素用の前駆物質を注入するステップと、
(e) この前駆物質を炭化するステップであって、第1の細孔率よりも低い第2の細孔率を有する外側層を上記の内側層上に形成するステップと、
(f) 層結合構造を有する炭素生成物を形成してテンプレートを除去するステップを有しており、この層結合構造は、キャビティ側を向いた覆われていない面を有しかつ大きい方の第1の細孔率を有する炭素からなる内側層と、キャビティとは反対側を向いた覆われていない面を有しかつ小さい方の第2の細孔率を有する炭素からなる外側層とを有する。
【0017】
本発明による方法の生成物は、層結合構造を有する炭素からなる合成生成物であり、この生成物は、多数のキャビティを包囲しており、複数の炭素変種からなる少なくとも2つの互いに接する層を有しており、これらの層は、細孔率が異なる。これを製造するため、多孔性のハードテンプレートから出発する。このテンプレートは、複数の球形のナノ粒子からなり、これらのナノ粒子は一般的に多かれ少なかれ球形をしたより大きなユニットに集合するかまたは凝集され、多孔性の整然としたテンプレート骨格を形成する。一般的にはこの球形のユニットは焼結されて、いわゆる「焼結ネック(sinter neck)」を介して互いに接続される。
【0018】
この多孔性のテンプレート骨格には、第1注入プロセスにおいて第1変種の炭素用の前駆体が注入される。この炭素変種の特徴は、炭化のあと、この炭素変種により、比較的大きな細孔率を有する炭素が得られることである(以下では「多孔性の高い炭素」または「乱層炭素」とも称する)。多孔性の高い炭素用の前駆体として、例えば、サッカロース、フルクトースまたはグルコースのような水溶性有機化合物が適している。これらは、粘度の低い水溶液でテンプレートの孔に容易にかつ均一に注入可能である。粘度が低いことにより、1回または比較的少ない注入過程の後、テンプレート孔は容易に満杯になり、複数回の注入も比較的コストが少なくなる。
【0019】
この注入は、液浸し、ポンピングおよび回転などの公知の技術によって行われ、ここではただ1回の注入過程で十分になり得る。複数の注入過程が連続して行われる場合、各注入過程後、数回または1回、引き続いて炭化プロセスが設けられる。内側層の炭化は、さらに以下に詳しく説明する外側層の炭化と共に行うこともできる。場合によっては、上記のステップ(c)および(e)は同時に行われる。この炭化により、多孔性の高い炭素からなる内側層が得られ、この炭素は、テンプレートのナノ粒子ないしはナノ粒子集合体または凝集体をコーティングする。本発明において重要なこの内側層の特性は、キャビティ側を向いた覆われていないその表面である。本発明において重要な別の特性は、その細孔率である。これらの2つの特性は、電極構成成分の固着に寄与する。このことはさらに以下で詳しく説明する。
【0020】
上記の内側層の大きな細孔率は、導電性の劣化を伴う。この欠点を回避するため、第1の注入プロセスによって形成される炭素含有層は、第2の注入プロセスにおいて別の(有利なグラファイト化可能な)炭素材料によってコーティングされる。ここでは、第1の注入プロセス(および場合によって炭化)の後、残りの細孔容積に完全または部分的に前駆物質が充填される。これは、例えば、上述の方法に基づいて行われ、また1回または複数回の注入プロセスが含まれる。
【0021】
最後の炭化の後、グラファイトに類似した層骨格からなる外側層が得られ、この層骨格は、内側層よりも細孔率が小さく、比表面積が小さく、導電率が高い。またこの層骨格はさらに上の炭素骨格の機械的に安定化に寄与することができる。グラファイト化可能な前駆物質の炭化の結果として得られるこの炭素変種は、以下では「多孔性の低い炭素」または「グラファイトに類似した炭素」とも称する。したがって本発明にとって重要な上記の外側層の特徴は、細孔率が小さいことと、これに伴う内側層に比べて高い導電率とである。
【0022】
上記の無機テンプレート材料は、ステップ(e)による炭化の後、除去される。この除去は、有利には化学的な溶媒によって行われ、ケイ酸前駆体の場合、溶媒として、例えば(フッ酸のような)酸または塩基(水酸化ナトリウム)が挙げられる。したがって上記のテンプレートは、炭素前駆体を堆積して炭化するための機械的および熱的安定した骨格としてだけ使用されるのである。
【0023】
結果的に得られる多孔性炭素生成物は、多孔性の高い炭素からなる内側層と、多孔性の低い炭素からなる外側層との層結合体になる。テンプレート材料を除去することにより、前に球形のナノ粒子およびその集合体/凝集体によって覆われていた内側層の表面領域は、むき出しの状態になる。この覆われていない内側層の表面は、元々のナノ粒子表面および焼成ネックを介する接続部をコピーし、したがって(焼成ネックの領域を除いて)キャビティの外壁として実質的に凹の、陰の湾曲を示すのである。これらのキャビティは、メソ細孔およびマクロ細孔領域における前の焼成ネックを介して互いに接続されかつ開いた複数の中空空間であり、これらの中空空間は、前にはナノ粒子によって占有された中空空間である。これらのキャビティは、比較的狭いチャネル(前の焼成ネック)を介して3次元的に互いにネットワークを形成している。このネットワーク内では、リチウム硫黄蓄電池の放電過程において形成されるような、例えば硫黄または硫黄化合物または硫黄複合体などの物質が、所定量固定される。この特性は、以下では「固着能力」とも称される。これに寄与するのは、キャビティ壁部の細孔率である。さらに比較的面積が大きいのに伴って一般的に比較的多数の反応性の表面グループも生じ、これらの表面グループも上記のキャビティにおける成分の所定の結合および固着に寄与し得る。上記の表面の細孔率は、2nm未満の範囲内の孔サイズを有する孔によって特徴付けられる。これに対し、包囲されるキャビティの平均サイズは、一般的に2〜50nmの範囲の孔サイズを有するメソポーラスの範囲にある。
【0024】
外側層の孔の少ない炭素により、内側層の孔の多い乱層炭素に液体の電解質が触れるのを妨げることなく、上記の結合材料の細孔率および比表面積が全体的に低減される。
【0025】
したがって本発明による方法により、多孔性は高いのにもかかわらず導電率が比較高い多孔性炭素からなるコスト的に有利な生成物が得られるのである。ここで得られるミクロ細孔は、物質を固定して閉じ込めるのに適しているため、上記の炭素生成物は、殊にリチウム硫黄バッテリ用の電極材料として使用するのに適している。
【0026】
ステップ(4)にしたがって注入するため、有利にはグラファイト化可能でない炭素用の前駆体を使用し、殊に水溶性炭水化物を、有利にはサッカロースを使用する。
【0027】
水溶性炭水化物は、安価な大量化学製品として入手可能である。この炭水化物の溶液(アルコールまたは別の有機溶媒も対象になり得る)の特徴は粘度が低いことであり、これによって狭い孔チャネルにも容易に完全かつ均一に注入することができる。上記の溶媒を注入して除去した後、ここから、炭化の後、上記のテンプレートの表面において、グラファイトではなくまたグラファイト化可能でもない孔の多い炭素からなる内側層が得られる。ここでこの炭素は、文献において「乱層(turbostratic)炭素」または「硬質炭素(hard carbon)」とも称される。
【0028】
乱層炭素は、複数のグラフェン層からなる層構造を有する。しかしながらグラフェン層の結晶学上の長距離秩序を有するグラファイトとは異なり、乱層炭素のこの層骨格は、個々の層積層体の平行移動または回転により、多かれ少なかれ無秩序化される。乱層層骨格を有する炭素は、加熱によってグラファイト化することはできず、本明細書では「グラファイト化できない炭素」とも称される。本発明と関係するのは、グラファイト化可能できない炭素用の前駆体として、大量の市販の炭素含有大量化学製品を使用できることという状況であり、これらの大量化学製品はまた高い濃度で溶融させることができる。これにより、グラファイト化できない乱層炭素を比較的容易かつコスト的に有利に製造する可能性が得られるのである。
【0029】
上記の内側層は、炭化の後、有利にはBET法による400〜600m
2/gの範囲の比表面積を有する。
【0030】
これらのデータは、両側が覆われていない表面を有する内側面、すなわち外側層によってもテンプレート材料によっても共にコーティングされていない表面を有する内側層に関するものである。大きな細孔率は、固着力に寄与する。上記の比表面積は、DIN ISO 9277 2003年5月(ガス吸着による固体の比表面積のBET法による測定)にしたがって求められる。
【0031】
殊に有利であることが実証されたのは、炭化のあと、1〜50nmの範囲の、有利には2〜10nmの範囲の平均層厚を有する内側層である。
【0032】
乱層(グラファイト化できない)炭素は、グラファイトに比べて比較的導電率が低く、したがって制限なく導電体としての適用に適しているわけではない。しかしながら固着力を及ぼすためには、1〜2nmの範囲の内側層の小さい厚さだけで十分である。その一方、より厚い内側層は、より細孔容積が大きくなり、ひいては蓄積容量も大きくなり、固着力も大きくなる。50nmより大きな層厚では、導電率が犠牲になってしまう。
ステップ(d)による注入のため、有利にはグラファイト化可能な炭素用の前駆物質を、殊にピッチを使用する。
【0033】
ピッチ、殊に「メソフェーズピッチ」は、整然とした液晶構造を有する炭素含有材料でる。注入されるピッチ溶融物は、炭化の後、グラファイトに類似する層骨格を形成する。この層骨格は、乱層部分を有することもあるが、グラファイト化可能でない前駆体から得られる乱層の孔の多い炭素よりも整然としておりかつグラファイトにより類似しており、また殊にミクロ細孔率が小さく、これによって比表面積も小さく、比較的導電率が高い。このグラファイト化可能な前駆物質は、炭化時にグラファイト構造の方向にグラフェン層が著しく転移し、文献では「軟質炭素(soft carbon)」とも称される。このようなグラファイトに類似した炭素の堆積物は、上記の層結合体の外側層を形成し、上記の内側層と強く結合される。
【0034】
炭素生成物全体の可能な限りに高い導電率について、上記の外側層は炭化の後、有利には、50m
2/g未満の範囲のBET法による比表面積を有する。
【0035】
これらのデータは、両側が覆われていない、コーティングされていない表面を有する外側面に関するものである。
【0036】
殊に上記の層構造の機械的安定性および高い導電率について有利であることは立証されたのは、炭化の後、上記の外側層が、少なくとも2nmの平均層厚を有することである。
【0037】
方法の殊に有利な変形形態では、ステップ(d)による注入時に、上記のテンプレートの孔の残りの細孔容積の少なくとも50%に、有利に少なくとも70%に上記の前駆物質を充填する。
【0038】
ここでは前のテンプレート細孔容積全体またはその少なくとも大部分を炭素によって覆い、しかも殊に第2変種の孔の少ない炭素によって覆う。したがって注入および炭化させた炭素はほぼ元々のテンプレートナノ粒子の雌型になる。以下では、この構造を「逆テンプレート」とも称する。この逆テンプレートの特徴は、階層的な孔構造および高い導電率である。
【0039】
ステップ(c)または(e)による炭素・前駆物質の炭化は、可能な限りに酸素を有しないガスまたは真空の下で3000℃までの高い温度で行われる。この炭化に対する最小温度は、約500℃であり、また前駆物質ないしは前駆体の分解温度に起因して得られる。使用されるカーバイド生成物により、上記の炭化温度の上限が制限されることがあり、例えば、SiO
2を含有するテンプレートでは、SiCの形成に起因して1000℃未満に制限される。殊に有利であることが示されたのは、上記のテンプレートの準備にスートデポジットプロセスが含まれる場合であり、ここでは、供給材料は、加水分解または熱分解により、テンプレート材料粒子に変換され、これが、テンプレート材料からなるスート基体
の形成
の際に堆積面にデポジットされ、またこのスート基体がテンプレート粒子に粉砕されるのである。
【0040】
ここでは有利にはケイ酸スートからなるテンプレートが形成され、このテンプレートは、階層的な孔構造を備えた異方性質量分布を有する。
【0041】
本発明による方法のこの変形実施形態では、上記のテンプレートの製造には、スートデポジットプロセスが含まれる。ここでは液状またはガス状の出発物質に化学反応(加水分解または熱分解)が行われ、堆積面にデポジットされる。反応域は、例えば、燃料器火炎またはアーク(プラズマ)である。例えばOVD,VAD,POD法という名称で公知のプラズマまたはCVDデポジット法により、産業的な規模で合成石英、酸化すず、窒化チタンまたは別の合成原材料が製造される。
【0042】
上記の堆積面は、例えば、容器、心棒、円筒形套面、プレートまたはフィルタである。この上に堆積される多孔性のすす(ここで「スート」と称される)は、スート層として発生する。その細孔率は、デポジットされる材料の高密度焼結が阻止されるように堆積面の温度を低く維持することによって保証される。
【0043】
上記の反応域にはナノメートル領域の粒径を有する1次粒子が得られ、これらの1次粒子は、上記の堆積面に至る過程において多かれ少なかれ球形の集合体または凝集体の形態で集合する。堆積面に至る過程における上記の反応域との相互作用の度合いに応じて、相異なる個数の1次粒子の集合するため、基本的には約5nm〜約200nmの範囲の幅の広い粒径分布が得られるのである。上記の集合体および凝集体内(1次粒子間)では、ナノメートル領域の殊に小さな空所および孔が発生し、すなわちいわゆるメソ細孔が得られる。これに対して個々の集合体および凝集体の間では、より大きな空所または孔が形成され、これらは、スート基体およびその断片において互いに接続されたマクロ細孔の系を構成するのである。少数峰性の孔サイズ分布を有するこの内部的な孔構造は、上記の多孔性材料の「階層的な多孔性」にとって特徴的である。したがって上のスートデポジットプロセスにより、階層的な孔構造を有する異方性質量分布が形成されるのである。
【0044】
上のスート基体の所定の熱的な固化は望ましく、この固化は、上記のスート基体を上のデポジットプロセス時に、またはこれとは択一的に、またはこれに補足的にこのデポジットプロセスに続く別の加熱プロセスによって部分的に焼成を行うことによって行われる。この熱的な固化の目標は、所定の機械的な安定性を有する多孔性のスート基体を得ることであり、この機械的な安定性は、引き続いて行われる粉砕の際に再現可能に上記の1次粒子よりも大きいスート粒子を得るのに十分な機械的な安定性である。粉砕または碾くことによって得られるテンプレート材料粒子も同様に、上記のスート材料においてあらかじめ設定した少数峰性の粒径分布を有する階層的な構造を有する。
【0045】
上記のスートデポジット法は、「ゾル・ゲル・ルート」を介する製造方法と比較して安価な方法であり、この方法により、産業的な規模でテンプレートをコスト的に有利に製造することができる。
【0046】
スートデポジットプロセスでは、上記のテンプレート材料をスート粉末の形態で行うことでき、この粉末は、引き続いて粒状化、圧縮、スラリーまたは焼成法によってテンプレート粒子にさらに処理される。中間生成物としては粒状物またはスカブが挙げられる。
【0047】
合成多孔性ケイ酸(SiO
2)は、上記のようなスートデポジット法により、安価な出発物質を使用して産業的な規模で比較的コスト的に有利に製造可能である。スート予備成形物は、炭化時の高温に持ちこたえる。上記の上限温度は、SiO
2と炭素とがSiCになる(約1000℃における)反応を使用することによって設定される。
【0048】
上記のスート予備成形物の相対的な平均密度は一般的に、石英ガラスの理論的な密度の10%〜40%の範囲にあり、有利には25%未満にある。この密度が低ければ低いほど、テンプレート材料を除去するためのコストは少なくなり、これに伴う材料損失も少なくなる。しかしながら10%よりも少ない平均密度では機械的な安定性が小さくなり、上記のスート予備成形物の扱いが困難になる。
【0049】
上記のような多孔性テンプレートを使用する際には上記の注入時に上記の孔の内側表面および空所は、孔の多い炭素用の前駆体によって覆われるため、上記のテンプレートにおいてあらかじめ設定される孔構造および粒子分布は、多かれ少なかれ内側層に正確に移し替えられ、したがってこの内側層は、このテンプレートに相応する少数峰性の粒径分布を備えた階層構造を有するのである。
【0050】
有利には上記の炭素生成物は、多孔性微粒子炭素フレークの形態で形成される。
【0051】
この炭素生成物は、本発明による方法において一般的にモノリスとして、または小板状またはフレーク状の形態を伴って発生し、一層小さな粒子に容易に粉砕することができる。分解した後に得られる粒子は、有利には階層的な孔構造を示し、また例えば一般的なペースト法またはスラリー法を用いて成形体または層に処理することができる。上記の炭素生成物を例えばリチウム硫黄バッテリ用の1つの電極にするため処理は、従来技術から公知の方法によって行われる。
【0052】
多孔性炭素生成物についての上で述べた課題は、冒頭に述べたタイプの炭素生成物から出発して、本発明によってつぎのようにして解決される。すなわち、上記の内側層が、第1のミクロ細孔率およびキャビティ側を向いた覆われていない表面を有しており、上記の外側層が、第1のミクロ細孔率よりも小さい第2のミクロ細孔率およびキャビティ側とは反対側を向いた覆われていない表面を有することによって解決される。
【0053】
本発明による炭素生成物は、孔の多い炭素からなる内側層と、孔の少なく炭素からなる外側との層結合体を有している。ここで重要であるのは、内側層が、テンプレート材料の元々のナノ粒子表面をコピーし、したがってメサ細孔およびマクロ細孔領域の平均サイズを有するキャビティの外壁として実施される覆われていない表面を有することである。ここでこれらのキャビティは、前にはナノ粒子によって占有されていたキャビティである。これらのキャビティは、閉じられていない、前の焼成ネックを介して互いに接続されていているメサ細孔およびマクロ細孔領域の複数の空所である。これらのキャビティは、比較的狭いキャビティ(前の焼成ネック)を介して3次元的に互いにネットワークを形成している。これらのキャビティ内には、リチウム硫黄蓄電器の放電過程において硫黄電極に形成されるような、例えば硫黄または硫黄化合物および硫黄複合体などの物質を所定量固定することができる。
【0054】
上記の覆われていない表面は、実質的に凹の、陰の湾曲および高い細孔率を有する。この表面は、閉じ込め部として機能し、この閉じ込め部には、リチウム硫黄バッテリの放電過程において硫黄電極に形成される例えば硫黄化合物および複合体などの物質が、所定量で化学的および殊に物理的に束縛され、上記の炭素骨格の近くに固定される。したがって本発明において重要な上記の内側層の特性は、そのミクロ細孔を有しかつびキャビティ側を向いた覆われていない表面である。これは、キャビティに物質を固着するのに寄与する。ミクロ細孔を有する内側層のミクロ細孔は、2nm未満の範囲の粒径を有する。上記の包囲されるキャビティは、2〜50nmの範囲の粒径を有するメソ細孔および50nmよりも大きな粒径を有するマクロ細孔を構成する。
【0055】
上記のキャビティとは反対側を向いた内側層の面は、「グラファイトに類似した炭素」からなる外側層によってコーティングされている。この外側層は、上記の内側層よりも、ミクロ細孔率が小さく、かつ、導電率が高い。これにより、内側層の多孔性炭素の固着力を損なうことなく結合材料の導電率が改善される。さらに上記の外側層は、炭素骨格の機械的な安定性に寄与することが可能である。
【0056】
上記の内側層は、有利には乱層炭素から構成されており、また1〜50nmの範囲の、有利には2〜10nmの範囲の平均層厚を有する。
【0057】
上記の炭素骨格の固着力は実質的に、上記の内側層によって包囲されているキャビティと、内側層の高い細孔率と、ひいては大きな面積とに起因している。この固着力を加えるためには、内側層の1〜2nmの比較的少ない厚さで十分である。その一方で、より厚い内側層は、やや大きな吸着力またはやや強い結合力を示し、ひいてはやや大きな固着力を示す。50nmよりも大きな層厚を有する内側層では、導電率が犠牲になる。
【0058】
殊に高い導電率の点において、上記の外側層は有利には少なくとも2nmの平均層厚を有する。
【0059】
上記の外側層は、著しく大きな層厚を有することができ、また覆われていない細孔容積が小さくかつ良好な導電率を有するコンパクトかつ安定した炭素構造を形成することができる。このような炭素構造は、「逆テンプレート」として、前のテンプレートの孔を十分に充填する際に得ることができる。このことは上で本発明の方法に基づいてすでに説明した通りである。
【0060】
上記の多孔性炭素生成物は有利には、上で説明したハードテンプレート法によって得られる。このテンプレートは一般的に、多孔性炭素フレークまたは小板の形態で得られ、これらのフレークまたは小板は有利には、10μm〜500μmの範囲、有利には20μm〜100μmの範囲、殊に有利には50μm未満の平均層厚を有する。
【0061】
10μmよりも小さい層厚は、上記の炭素フレークの機械的な安定性の低下に結び付き得る。500μmよりも厚い炭素フレークは、その厚さが一層不均一になる。
【0062】
多孔性炭素生成物は殊に有利には、階層的な孔構造を有する。
【0063】
この階層的な構造は、本発明による方法に基づいて上ですでに詳しく説明したガス相デポジットによるスートテンプレートの製造によって得られ、また再充電可能なリチウム硫黄バッテリの電極の製造に殊に良好に適している。
【0064】
リチウム硫黄バッテリの電極層を製造するために上記の炭素フレークを使用する際にはこの炭素フレークの層厚は、理想的なケースでは上記の電極層の厚さの大きさのオーダになる。これにより、比較的小さくかつ離散的な炭素粒子間の接触抵抗を回避するかまたは低減することができる。
【0065】
このような電極層を製造するため、上記の炭素フレークを液体内で拡散させ、公知の方法を用いて多孔性炭素層に処理する。
【0066】
炭素生成物の使用についての上記の課題は、本発明により、再充電可能なリチウムイオンバッテリ用の電極を製造するために本発明による多孔性炭素生成物を使用することによって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】SiO
2顆粒状微粒子を製造する装置を示す図である。
【
図3】本発明による炭素生成物の製造ステップを略示する図である。
【
図4】本発明による炭素生成物の別の製造ステップを略示する図である。
【
図5】本発明による炭素生成物のさらに別の製造ステップを略示する図である。
【
図6】本発明による炭素生成物のさらに別の製造ステップを略示する図である。
【0068】
実施例
以下では、実施例および図面に基づき、本発明を詳しく説明する。
【0069】
図1に示した装置は、本発明による方法においてハードテンプレートとして使用されるSiO
2製の顆粒状微粒子を製造するために使用される。この装置には、回転軸2の周りに回転可能なステンレス製の基体からなるドラム1が含まれており、この基体は、炭化ケイ素製の薄い層によってコーティングされている。ドラム1は、30cmの外径および50cmの幅を有する。ドラム1の套面1aにはSiO
2スート製の層5がデポジットされており、この層5は、わずかに固められて直接SiO
2多孔性スートプレート5aになる。
【0070】
スートデポジットのため、複数の火炎加水分解燃焼器4が使用され、そのうちの4つが、共通の1つの燃焼器列3においてドラム長手方向軸2の方向に前後に配置されている。燃焼器列3は、位置固定の2つの方向転換点の間で回転軸2に平行に往復運動する。火炎加水分解燃焼器4には、燃焼ガスとして酸素および水素が供給され、ならびにSiO
2粒子を形成するための供給材料としてオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS Octamethylcyclotetrasiloxan)が供給される。ここで形成されるSiO
21次粒子のサイズは、ナノメートル範囲内になる。複数の1次粒子は、燃焼火炎6内で集合し、BET法によれば25m
2/gの範囲内の比表面積を有する多かれ少なかれ球形の凝集体の形態になり、これらは、ドラム套面1aにおいて一貫した均一な厚さのSiO
2スート層5を形成する。
【0071】
この実施例では、ドラム1の回転速度および火炎加水分解燃焼器4のデポジット速度は、約40cmの幅および約45μmの厚さを有するSiO
2スート層5が生じるように調整される(
図1においてスート層は、図示上の理由から誇張して厚く示されている)。燃焼器4は、同時にある程度スート層5をスートプレート5aに予備焼結し、ここでこれは、最上位のスート層の表面に約1200℃の平均温度が形成されることによって行われる。この予備焼結は、中空ドラムとして構成されたドラム1内に、左下の四分円に配置されている管状の赤外線放射器14に支援され、またこの赤外線放射器は、スート層5を被着したすぐ後に内側からドラム1の套面を加熱する。
【0072】
このようにした得られるわずかに予備焼結された多孔性のスートプレート5aは、(2.21g/m
3の石英ガラスの密度を基準にして)約22%の平均相対密度を有している。
【0073】
ドラムがほぼ半回転以上した後、スートプレート5aは、ブロア7の作用領域に到達し、このブロアにより、スートプレート5aの下側に向かって配向されるガス流が形成されるため、スートプレート5aはドラム套面1aから持ち上がる。
【0074】
スートプレート5aは続いて、支持ローラ8を介して破砕ツール9に供給される。この破砕ツールは、逆回転する2つのローラ10a,10bからなり、これらのローラの間にスートプレート5aの厚さを有するギャップが設けられており、またこれらのローラの表面には長手方向プロフィールが付されている。
【0075】
上のギャップを通過したスートプレート5aは、ローラ10,10aのこの長手方向プロフィールにより、ほぼ同じ大きさの破砕部分(顆粒状粒子13)に分解されて、これらが受け容器11において集められる。
【0076】
ドラム1と破砕ツール9との間には分離壁12が設けられており、この分離壁には、スートプレート5aを通すための開口部が設けられており、またこの分離壁は、粉砕プロセスの影響からスートデポジット過程を保護するために使用される。
【0077】
上記の方法によって得られる顆粒状粒子13は、小板状またはフレーク状の形態と、スートプレート5aの厚さにほぼ等しい厚さ、すなわち約45μmの厚さを有する。上記の破砕過程により、顆粒状粒子13もほぼおなじ大きさになるため、粒度分布は狭くなる。
【0078】
図2にはこのような本発明による球形でないプレート状のSiO
2顆粒状粒子13が略示されている。顆粒状粒子13には、多かれ少なかれ平坦な上側面20と、これとは平行に延在する下側面21と、閉じていない複数の孔をそれぞれ有する側方破砕面22とが示されている。厚さのサイズは「c」で示されており、側方の2つのサイズは「a」および「b」で示されている。構造比「A」、すなわち、顆粒状粒子13の最大構造幅(aまたはb)と厚さ(c)との比は、この実施例において約10である。
【0079】
例1
このようにして形成した顆粒状粒子13は、多孔性炭素フレークを製造するためのテンプレートとして使用される。このことは、
図3〜6に略示されている通りであり、またこのことをこれらの図に基づいて詳しく説明する。
【0080】
球形でない小板状の顆粒状粒子13は、顕微鏡で見ると、SiO
2ナノ粒子からなる多かれ少なかれ球形の多数の凝集体から構成されている。このようなナノ粒子凝集体30は、
図3に略示されている。
【0081】
顆粒状粒子13は、水分の多い飽和蔗糖溶液の浸漬浴に入れられる。注入された材料は引き続いて乾燥される。この注入および乾燥過程は、1回繰り返される。顆粒状粒子13の孔内およびナノ粒子凝集体30の表面には、乾燥した蔗糖層が形成される。
【0082】
これは、窒素内で700℃で加熱することにより、多孔性の乱層炭素からなる内側層31に炭化される。内側層31は、
図4に略示したようにナノ粒子凝集体30も覆う。この内側層は、平均で約3nmの厚さを有する。ここではBET法により、約250m
2/gの比表面積が測定される。ここで注意すべきであるのは、内側層31の内側が、完全にまたは大部分がナノ粒子によって覆われていることである。したがって両側が開いた、覆われていない表面の場合には、理論的には約500m
2/gの2倍のBET比表面積が予想される。
【0083】
引き続いて顆粒状粒子30は、細かく碾いたピッチ粉末と重量比1:4(ピッチ:顆粒状粒子)で均一に混ぜ合わされ、この粒子の混合物は、300℃の温度に加熱される。粘度の低いピッチは、小さいSiO
2顆粒状粒子13を取り囲み、孔の中に浸入して孔に浸透する。ピッチ粒子および顆粒状粒子の上記の重量比は、ピッチが孔を充填して、なお覆われていない細孔容積がかなりの量で残っているように選択される。
【0084】
30分の注入持続時間の後、温度を700℃に上げてピッチを炭化する。ここでナノ粒子凝集体30は、
図5に略示したように、炭素を含有する別の外側層32によって取り囲まれる。外側層32は、グラファイト化可能な炭素からなり、細孔率は小さい。この外側層は、平均で約50nmの厚さを有している。ここで注意すべきであるのは、
図2〜7の図は、縮尺通りではないことである。層結合体の比表面積として、約275m
2/gの値が求められ、ここでは約250m
2/gが内側面の覆われていない表面に、また約25m
2/gが外側面の覆われていない表面に起因すると考えることができる(したがって両面が覆われていない外側層のBET比表面積は約50m
2/gと計算することができる)。
【0085】
ここでは球形でない多孔性SiO
2顆粒状粒子からなる多孔性合成物が形成され、その孔は、グラファイト化できない炭素およびグラファイト化可能な炭素からなる2重の層31;32によってほぼ完全に覆われている。引き続いて上記の合成物をフッ酸浴に浸すことによってSiO
2顆粒状粒子が除去される。
【0086】
図6には、SiO
2顆粒状粒子をエッチング除去した後に得られる、多孔性炭素からなる層結合体構造部35が略示されている。この結合体構造35は、ほぼ元々のSiO
2顆粒状粒子20の多孔性のコピーである。ここで重要であるのは、内側層31が、細孔率の高い覆われていない表面を有することであり、この表面は、凹の湾曲を有するメソポーラス領域において3次元キャビティ36を取り囲んでいる。キャビティ36は、完全には閉じられておらず、同様にミクロ細孔の内側層によって取り囲まれている別のメソポーラスまたはミクロ細孔に流体的に接続されている。これに対して外側層32は、細孔率の小さい炭素から構成されており、その覆われていない表面は実質的に凸に湾曲している。
【0087】
図7には、説明のため、
図6の層結合構造35の断面Aが拡大されて示されている。内側層31の内側の高度のある表面は、粗い内側面として略示されている。この内側面は、中空空間36を覆っており、例えば略示した体積の大きなポリスルフィド放電生成物37(Li
2S
2)などを固定して保持することができる。
【0088】
図6に概略的にまた2次元で示した層結合構造35は、すべての空間方向に延在しており、階層的な孔構造を有する炭素生成物を形成している。この層結合構造35は、(BET法による)約275m
2/gの比表面積を有しており、これは、2つの層31;32のBET表面の合計にほぼ等しい。
【0089】
このようにした得られた炭素生成物は、洗浄、乾燥および必要であればさらに粉砕される。この際には微細な凸凹のある1つの表面に比較的大きな複数の中空空間がチャネル状に走っている炭素フレークが得られる。
【0090】
階層的な孔構造を有する多孔性炭素からなるこれらの炭素フレークは、再充電可能なリチウム硫黄バッテリの硫黄電極(カソード)の電極層を製造するのに殊に良好に適している。このために、この炭素フレークには公知のように硫黄が注入され、ここでは硫黄は、前にテンプレート粒子30によって占有されていたキャビティ36を完全にまたは部分的に充填する。キャビティ36の内側表面積が大きいことにより、バッテリの放電時に形成されかつ遊離する硫黄化合物は物理的に束縛され、これにより、この硫黄化合物が電解質に均一に分散してしまい、これによって電気化学的な反応にもはや利用されないようなることが阻止される。
【0091】
例2
例1とは異なり、外側層32の製造は、顆粒状粒子30と、細かく碾いたピッチ粉末とを1.6:1(ピッチ:顆粒状粒子)の重量比で混ぜ合わせることによって行われる。この比は、ピッチがほぼ完全に消費され、孔が充填されてあまり大きな、覆われていない細孔容積がもはや残っていないように選択される。
【0092】
顆粒状粒子30はここでは、殊に細孔率の小さいグラファイト化可能な炭素からなる厚い炭素含有外側層によって包囲される。上記の炭化およびSiO
2顆粒状粒子の除去は、例1に基づいて説明したように行われる。
【0093】
ここでは、構造が実質的に元々のSiO
2顆粒状粒子の雌型である多孔性炭素からなる生成物が得られる。この「逆のテンプレート」は、多孔度が大きく覆われていない表面を有しかつ凹の湾曲を有する3次元キャビティ(メソまたはマクロ細孔)を包囲する内側層と、比較的壁が厚い外側層とを有する層結合構造体を有している。