(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
数平均分子量が2000以上の芳香族カルボジイミド化合物とともにポリブチレンテレフタレート樹脂に添加されるか、又は数平均分子量が2000以上の芳香族カルボジイミド化合物が配合される前にポリブチレンテレフタレート樹脂に添加され、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(但し、グリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物又はグリシジルエステルエーテル化合物を含有するものを除く)の耐加水分解性を向上させる耐加水分解性向上剤であって、
水酸基価が200以上の多価水酸基含有化合物から構成される耐加水分解性向上剤。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)カルボジイミド化合物と、(C)多価水酸基含有化合物とを含有する。そして、(C)多価水酸基含有化合物は、本発明の耐加水分解性向上剤である。以下、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0020】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂]
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸(テレフタル酸又はそのエステル形成誘導体)と、炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体とを、少なくとも重合成分とする熱可塑性樹脂である。また、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、後述する通り、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下の樹脂である。
【0021】
ベース樹脂である(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)としては、ブチレンテレフタレートに由来する繰り返し単位からなるホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)、又はブチレンテレフタレートに由来する繰り返し単位を主成分として、共重合可能なモノマーに由来する繰り返し単位を、後述の割合で有するコポリエステル(ブチレンテレフタレート共重合体又はポリブチレンテレフタレートコポリエステル)等が挙げられる。
【0022】
コポリエステル(ブチレンテレフタレート共重合体又は変性PBT樹脂)における上記共重合可能なモノマー(以下、単に共重合性モノマーと称する場合がある)としては、テレフタル酸を除くジカルボン酸成分、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分等が挙げられる。共重合性モノマーは、1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
ジカルボン酸(又はジカルボン酸成分又はジカルボン酸類)としては、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸等のC
4〜40ジカルボン酸、好ましくはC
4〜14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸成分(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等のC
8〜12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸成分(例えば、フタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸等のC
8〜16ジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)等のフタル酸又はイソフタル酸のC
1〜4アルキルエステル等)、酸クロライド、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体)等が挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸又はそのエステル形成誘導体(アルコールエステル等)等を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用すると、分岐状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることもできる。
【0024】
ジオール(又はジオール成分又はジオール類)には、例えば1,4 −ブタンジオールを除く脂肪族アルカンジオール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオール等)、オクタンジオール(1,3−オクタンジオール、1,8−オクタンジオール等)、デカンジオール等の低級アルカンジオール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
2〜12アルカンジオール、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C
2〜10アルカンジオール等);(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、複数のオキシC
2〜4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)等]、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等)、芳香族ジオール[例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオール等のジヒドキシC
6〜14アレーン;ビフェノール(4,4’−ジヒドキシビフェニル等);ビスフェノール類;キシリレングリコール等]、及びこれらの反応性誘導体(例えば、アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等のエステル形成性誘導体等)等が挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のポリオール又はそのエステル形成性誘導体を併用してもよい。このような多官能性化合物を併用すると、分岐状のポリブチレンテレフタレート樹脂を得ることもできる。
【0025】
ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン等のビス(ヒドロキシアリール)C
1〜6アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)C
4〜10シクロアルカン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加体が例示できる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF)のC
2〜3アルキレンオキサイド付加体、例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールA等が挙げられる。アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のC
2〜3アルキレンオキサイド)の付加モル数は、各ヒドロキシ基に対して1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0026】
オキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸成分又はオキシカルボン酸類)には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸等のオキシカルボン酸又はこれらの誘導体等が含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトン等)等のC
3〜12ラクトン等が含まれる。
【0027】
これらの共重合性モノマーのうち、好ましくはジオール類[C
2〜6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレングリコール等)、繰り返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリオキシC
2〜4アルキレングリコール(ジエチレングリコール等)、ビスフェノール類(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体等)]、ジカルボン酸類[C
6〜12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノール等]等が挙げられる。
【0028】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂としては、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又は共重合体(ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)が好ましい。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、共重合性モノマーの割合(変性量)が、通常、45モル%以下(例えば、0モル%以上45モル%以下程度)、好ましくは35モル%以下(例えば、0モル%以上35モル%以下程度)、さらに好ましくは30モル%以下(例えば、0モル%以上30モル%以下程度)のコポリエステルであってもよい。
【0029】
なお、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01モル%以上30モル%以下程度の範囲から選択でき、通常、1モル%以上30モル%以下程度、好ましくは3モル%以上25モル%以下程度、さらに好ましくは5モル%以上20モル%以下程度である。また、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)と共重合体(コポリエステル)とを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1モル%以上30モル%以下(好ましくは1モル%以上25モル%以下程度、さらに好ましくは5モル%以上25モル%以下程度)となる範囲であり、通常、前者/後者=99/1〜1/99(質量比)、好ましくは95/5〜5/95(質量比)、さらに好ましくは90/10〜10/90(重量比)程度の範囲から選択できる。
【0030】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は30meq/kg以下である。より好ましい末端カルボキシル基量は25meq/kg以下である。本発明によれば、(B)カルボジイミド化合物や(C)多価水酸基含有化合物の使用により、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性を高められるが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量が多すぎると、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性は十分に高まらない。したがって、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を30meq/kg以下にする必要がある。
【0031】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、0.6dL/g以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.7dL/g以上であってもよい。また、上記固有粘度は1.3dL/g以下であることが好ましく、1.2dL/g以下であることがより好ましい。異なる固有粘度を有する(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、例えば固有粘度1.5dL/gと0.5dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドすることによって、0.6〜1.3dL/g以下の固有粘度を実現してもよい。なお、固有粘度(IV)は、o−クロロフェノール中、温度35℃の条件で測定できる。このような範囲の固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂を使用すると、十分な耐加水分解性の付与と溶融粘度の低減とを効率よく実現しやすい。固有粘度が小さすぎると、十分な耐加水分解性の向上効果が得られない可能性があり、固有粘度が大きすぎると、成形時の溶融粘度が高くなり、場合により成形金型内で樹脂の流動不良、充填不良を起こす可能性がある。
【0032】
なお、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、市販品を使用してもよく、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4−ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えばエステル交換、直接エステル化法等により共重合(重縮合)することにより製造したものを使用してもよい。
【0033】
[(B)カルボジイミド化合物]
本発明で用いられる(B)カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物のいずれも使用できるが、耐加水分解性の点で芳香族カルボジイミド化合物の使用が好ましい。
【0034】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ−tert−ブチルカルボジイミド、1−エチル−3−tert−ブチルカルボジイミド、1−(2−ブチル)−3−エチルカルボジイミド、1,3−ジ−(2−ブチル)カルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等が挙げられる。脂環族カルボジイミド化合物としてはジシクロヘキシルカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等が挙げられる。
【0035】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジtert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、N−(2,6−ジイソプロピル−4−フェノキシフェニル)−N−tert−ブチルカルボジイミド、N,N−ビス[3−イソシアナト−2,4,6−トリス(1−メチルエチル)フェニルアミノ]カルボジイミド、N−シクロヘキシル−N−(4−(ジメチルアミノ)ナフチル)カルボジイミド、ジ−o−トリルカルボジイミド、ジ−p−トリルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−p−メトキシフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミドのモノ又はジカルボジイミド化合物及びポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1−メチル−3,5−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等が挙げられる。上記のカルボジイミド化合物は、2種以上併用することもできる。これらの中でも特にジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。
【0036】
なお、本発明における「カルボジイミド化合物」(脂環族カルボジイミド化合物、芳香族カルボジイミド化合物等)には、カルボジイミド基が環状構造中に存在する化合物、つまり「カルボジイミド環」を有する化合物(「環状カルボジイミド化合物」とも呼ばれる)は含まれない。
【0037】
また、(B)カルボジイミド化合物としては、数平均分子量が2000以上のものを使用することが好ましい。数平均分子量が2000以上の(B)カルボジイミド化合物を使用することで、長期間にわたってポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性を向上させることが可能である。さらに、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の溶融混練時や成形時における滞留時間が長い場合であっても、ガスや臭気の発生が低減でき得る点で有利である。
【0038】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の(B)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1当量とした場合、カルボジイミド官能基量が0.5〜10当量となる量であることが好ましい。(B)カルボジイミド化合物の配合量が上記範囲にあれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性を十分に高められる。
【0039】
(B)カルボジイミド化合物の配合量が少なすぎると、本発明の目的とする耐加水分解性改良効果が十分に得られない場合がある。また、(B)カルボジイミド化合物の配合量が多すぎると、樹脂組成物の流動性の低下や、コンパウンド時や成形加工時のゲル成分、炭化物の生成、高温環境下での変色、機械的特性の低下が起こりやすくなるおそれがある。さらに好ましい配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量を1当量とした場合、カルボジイミド官能基量が0.8〜5当量となる量であり、最も好ましくは1〜3当量となる量である。カルボジイミド官能基量が0.8〜5当量であれば、成形加工時の流動性や、成形加工後の機械的特性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が得られる。さらに、カルボジイミド官能基量が1〜3当量であれば、成形加工時の流動性や、成形加工後の機械的特性が優れていることに加え、高温環境下での変色が低減されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が得られる。
【0040】
[(C)多価水酸基含有化合物]
(C)多価水酸基含有化合物は、一分子中に水酸基を2個以上有する化合物である。また、(C)多価水酸基含有化合物は、後述する通り、水酸基価が200以上である。
【0041】
(C)多価水酸基含有化合物は、(B)カルボジイミド化合物が配合されるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐加水分解性を向上させる耐加水分解性向上剤として働く。
【0042】
また、(C)多価水酸基含有化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性も高める。通常、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に流動性を高める成分を添加すると、流動性を向上できても、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂そのものが有する機械的強度や靱性等の特性の低下を避けることができない。しかし、(C)多価水酸基含有化合物を使用することにより、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の特性を高いレベルで保持しつつポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の溶融時の流動性を効率よく向上できる。
【0043】
したがって、(C)多価水酸基含有化合物が、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に含まれることで、ポリブチレンテレフタレート樹脂の特性を活かすとともに、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性を高めつつ、上記樹脂組成物の耐加水分解性も高めることができる。
【0044】
ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の流動性としては、ISO11443に準拠し、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec
−1にて測定した溶融粘度が、350Pa・s以下であることが好ましく、300Pa・s以下であることがより好ましく、250Pa・s以下(例えば200Pa・s以下)であることがさらに好ましい。
【0045】
(C)多価水酸基含有化合物は、従来公知の方法で製造したものを使用してもよいし、市販品を購入して使用してもよい。
【0046】
(C)多価水酸基含有化合物の水酸基価は200以上である。また、好ましい水酸基価は250以上である。上記水酸基価が200以上であれば、上記流動性向上の効果がより高まる傾向にあることに加え、耐加水分解性をも向上させる効果が得られる。一方、上記水酸基価が大きすぎる場合、(A)ポリブチレンテレフタレートとの反応が過剰に進むことで、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の分子量が低下し、機械特性や耐熱性、耐薬品性といった優れた特性を損なうおそれがある。好ましい水酸基価は1000以下であり、500以下であることがより好ましい。
【0047】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の、(C)多価水酸基含有化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.05質量部以上5質量部以下であることが好ましい。より好ましくは0.1質量部以上3質量部以下である。さらに好ましくは0.5質量部以上2質量部以下である。多価水酸基含有化合物の含有量が0.05質量部以上であれば、流動性向上の効果が十分に得られる傾向にあるため好ましく、5質量部以下であれば、成形時のガス発生による成形品の外観不良や金型汚れを生じるおそれがほとんどないため好ましい。
【0048】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に溶融時の流動性を付与する観点、得られる成形体に(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の物性をほとんど低下させずに維持する観点から、(C)多価水酸基含有化合物として、グリセリン脂肪酸エステル又はジグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるエーテルを使用することが好ましい。以下、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるエーテルを説明する。
【0049】
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン及び/又はその脱水縮合物と脂肪酸とから構成されるエステルである。グリセリン脂肪酸エステルの中でも、炭素数12以上の脂肪酸を用いて得られるものが好ましい。炭素数が12以上の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等が挙げられる。好ましくは炭素数12以上32以下の脂肪酸であり、特に好ましくは炭素数12以上22以下の脂肪酸である。具体的には、ラウリン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸又はベヘニン酸が特に好ましい。炭素数12以上の脂肪酸を用いることで、樹脂の耐熱性を十分に維持できる傾向にあるため好ましい。炭素数が32以下であれば、上記流動性改善の効果が高いため好ましい。
【0050】
好ましいグリセリン脂肪酸エステルを例示すると、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、ジグリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンステアリン酸部分エステル、テトラグリセリンステアリン酸部分エステル、デカグリセリンラウリン酸部分エステル、グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート等が挙げられる。
【0051】
ジグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるエーテルとは、例えば、ジグリセリンに酸化プロピレンを付加重合して得られるポリオキシプロピレンジグリセリルエーテルや、ジグリセリンに酸化エチレンを付加重合して得られるポリオキシエチレンジグリセリルエーテルが挙げられる。本発明においては、これらのエーテルの中でも、特に、ポリオキシエチレンジグリセリルエーテルの使用が好ましい。
【0052】
[(D)無機充填材]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、無機充填材を配合することが好ましい。無機充填材が配合されることで、得られる成形品の機械的強度等の物性をさらに高めることができる。
【0053】
(D)無機充填剤としては、繊維状充填剤、粉粒状充填剤、板状充填剤等のいずれも使用することができる。繊維状充填剤として、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられる。また、板状充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる
【0054】
(D)無機充填剤の種類、使用量は、混合物に含まれる化合物の種類等に応じて適宜調整することが好ましい。(D)無機充填剤の使用量は、例えば、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下である。
【0055】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、他の樹脂や強化用充填材、難燃剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤、結晶核剤等の従来公知の添加剤を含有させることができる。本発明においては、他の成分として、エステル交換反応触媒、エステル交換反応停止剤を含有させることが好ましい場合がある。
【0056】
上記組成物が、エステル交換反応触媒を含有すると、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(C)多価水酸基含有化合物との間の反応が促進される。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(C)多価水酸基含有化合物との間の反応が遅く、所望の流動性に到達するまでに時間がかかる場合には、エステル交換反応触媒を用いることで、迅速に所望の流動性を実現できる。
【0057】
エステル交換反応触媒は、特に限定されず、例えば、金属化合物をエステル交換触媒として使用することができる。中でもチタン化合物、スズ化合物、アンチモン化合物が好適に使用される。チタン化合物の具体例としては、酸化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が代表的なものとして挙げられる。スズ化合物の具体例としては、ジブチルスズオキサイド、ヘキサエチルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等が挙げられる。アンチモン化合物としては三酸化アンチモン等が挙げられる。これらの中でも特に、テトラブチルチタネート、トリブチルスズアセテート、三酸化アンチモンの使用が好ましい。
【0058】
また、エステル交換反応が進みすぎることにより、樹脂組成物を成形してなる成形体の物性が低下するおそれがある。エステル交換反応停止剤を用いることで、物性低下等の問題を生じさせずに所望の流動性に調節することができる。
【0059】
エステル交換反応停止剤としては、リン化合物が好ましく使用できる。リン化合物の種類や量は特に限定されず、本発明の組成物に含まれる化合物の種類等の条件に応じて適宜調整することができる。
【0060】
使用可能なリン化合物としては、特に限定されず、ホスフィン系、ホスフィナイト系、ホスホナイト系、ホスファイト系、ホスフィナスアミド系、ホスホナスジアミド系、ホスホラストリアミド系、ホスホラミダイト系、ホスホロジアミダイト系、ホスフィンオキサイド系、ホスフィネート系、ホスホネート系、ホスフェイト系、ホスフィニックアミド系、ホスホノジアミデート系、ホスホラミド系、ホスホラミデート系、ホスホロジアミデート系、ホスフィンイミド系、ホスフィンサルファイド系のリン化合物を例示できる。また、リン化合物には、金属と塩を形成したものも含まれる。
【0061】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の調製法は特に限定されるものではなく、一般に樹脂組成物の調製法として公知の設備と方法を用いることができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。また、押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。ここで押出機中での樹脂温度は、240〜300℃となるように押出機シリンダー温度を設定することが好ましい。さらに好ましくは250〜270℃である。240℃より低い場合は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)カルボジイミド化合物との反応が不十分になり、樹脂組成物の耐加水分解性が不足したり、溶融物の粘度が高いことで十分に混練されず、均一な特性を有する樹脂組成物が得られないおそれがある。一方、300℃を超える場合は樹脂の分解が生じやすくなり、樹脂組成物の機械物性や耐加水分解性が不足するおそれがある。
【0062】
なお、本発明の組成物を製造する際には、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(C)多価水酸基含有化合物とを先に溶融混練した後に、(B)カルボジイミド化合物を添加することもできる。この場合、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融粘度が低減された状態で(B)カルボジイミド化合物が添加されるため、均一な溶融混練を効率よく行うことができる。反対に(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)カルボジイミド化合物を先に溶融混練した後に、(C)多価水酸基含有化合物を添加すると、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)カルボジイミド化合物との反応により、(A)ポリブチレンテレフタレートの粘度が増加しているため、(C)多価水酸基含有化合物との十分な溶融混練が阻害され、さらには剪断による発熱が大きくなり、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の熱分解に繋がるおそれがある。同様に(D)無機充填材を添加する場合も、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(C)多価水酸基含有化合物とを先に溶融混練した後に、(D)無機充填材を添加すれば、(D)無機充填剤の折損が抑えられ物性を損なわずに済むため、繊維状充填剤を使用する場合は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(C)多価水酸基含有化合物とを先に溶融混練する方法が特に好ましい。
さらに、(B)カルボジイミド化合物と(D)無機充填材は、(D)無機充填材を先に添加すれば(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(D)無機充填材の界面密着がより強固となるため好ましい。
【0063】
また、(B)カルボジイミド化合物は、樹脂をマトリックスとするマスターバッチとして配合することも可能であり、マスターバッチを使用することが実際の取り扱いの面から容易なことも多い。ポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチが好適に用いられるが、他の樹脂によりマスターバッチとして調製されたものを使用しても構わない。ポリブチレンテレフタレート樹脂によるマスターバッチの場合、所定の配合量の範囲内になるように調整すればよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<材料>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
A−1:ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度=0.68dL/g、カルボキシル基末端量=27meq/kg、ウィンテックポリマー株式会社製)
A−2:ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度=0.87dL/g、カルボキシル基末端量=16meq/kg、ウィンテックポリマー株式会社製)
A−3:ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度=1.14dL/g、カルボキシル基末端量=12meq/kg、ウィンテックポリマー株式会社製)
(B)カルボジイミド化合物
B−1:ラインケミージャパン株式会社製、スタバックゾールP400
(C)多価水酸基含有化合物
C−1:トリグリセリンステアリン酸部分エステル(水酸基価280、理研ビタミン株式会社製、「リケマールAF−70」)
C−2:ペンタエリスリトールテトラステアレート(水酸基価11、コグニスジャパン株式会社製、「ロキシオールVPG861」)
【0065】
(C)多価水酸基含有化合物の水酸基価については、日本油化学会2.3.6.2−1996 ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法)により測定した。
【0066】
<実施例1〜3、比較例1〜10>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)カルボジイミド化合物、(C)多価水酸基含有化合物を、表1に示す配合組成で秤量後ドライブレンドし、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX−30)にて、シリンダー温度を260℃、スクリュー回転数を130rpm、押出量を12kg/hとして、溶融混練を行い、吐出されたストランド状の溶融樹脂を冷却し、ペレタイザーによりカッティングすることにより、樹脂組成物のペレット状サンプルを得た。次いで、このペレットを用いて以下の各種評価を行った。
【0067】
[カルボキシル基末端量(CEG)]
カルボキシル基末端量は、本発明の樹脂組成物ペレットの粉砕試料をベンジルアルコール中215℃で10分間溶解後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液にて滴定することにより求めた。結果を表1に示す。
【0068】
[溶融粘度特性(MV)]
本発明の樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥後、ISO11443に準拠し、キャピログラフ1B(東洋精機製作所社製)を用いて、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec
−1にて測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[引張り強さ(TS)]
本発明の樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥後、樹脂温度260℃、金型温度80℃、射出時間15秒、冷却時間15秒で、ISO3167引張り試験片を射出成形し、ISO527−1,2に準拠し引張り強さを測定した。結果を表1に示す。
【0070】
[プレッシャークッカーテスト(PCT)]
引張り強さ試験に用いた試験片を、プレッシャークッカー試験機で121℃、100%RHの条件で処理し、処理後の引張り強さを測定し、処理前後での保持率を求めた。処理時間及び試験結果を表1に示す。また、実施例及び比較例の結果を、縦軸がTS保持率、横軸が処理時間のグラフ上に表し、実測した結果を表すドットに基づいて、各実施例及び各比較例について近似曲線を作成した。各近似曲線において、TS保持率が80%になる処理時間を表1に示した。なお、
図1には、PBTとして(A−2)を使用した実施例(実施例2)及び比較例(比較例2、5、8、10)についての上記近似曲線を示す。また、グラフ内の矢印は、TS保持率が80%になる処理時間を示す。
なお、TS保持率は、下式に基づいて算出した。
TS保持率(単位:%)=(所定時間処理後のTS/処理前のTS)×100
【0071】
【表1】
【0072】
実施例の結果と比較例の結果とから、本発明によれば、優れた耐加水分解性と、溶融時の高い流動性を併せ持つ、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が得られることが確認された。
【0073】
なお、当量比が「4.0」である実施例5では、PCT処理後の試験片に若干の変色が見られた。ただし、実施例5の溶融粘度特性及びTS保持率は十分に優れていた。