特許第5916916号(P5916916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5916916潤滑性化合物及びそれを含む潤滑剤組成物
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  • 特許5916916-潤滑性化合物及びそれを含む潤滑剤組成物 図000035
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916916
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】潤滑性化合物及びそれを含む潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/24 20060101AFI20160422BHJP
   C10M 105/34 20060101ALI20160422BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20160422BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20160422BHJP
【FI】
   C07C69/24
   C10M105/34
   C10N30:06
   C10N30:08
   C10N40:04
   C10N40:06
   C10N40:08
   C10N40:18
   C10N40:20
   C10N40:25
   C10N40:30
【請求項の数】5
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-69191(P2015-69191)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2015-199934(P2015-199934A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2015年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-73366(P2014-73366)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506103636
【氏名又は名称】ウシオケミックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】原本 雄一郎
【審査官】 石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−106948(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101864007(CN,A)
【文献】 特開2002−206094(JP,A)
【文献】 特開昭61−215699(JP,A)
【文献】 特開2008−179773(JP,A)
【文献】 特開2011−132470(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008442(WO,A1)
【文献】 特開2012−207005(JP,A)
【文献】 特開2005−213451(JP,A)
【文献】 Nanao Watanabe et al.,Ring-opening Reaction of Oxiranes, Oxetanes, and Tetrahydropyran by Mercury(II) Salts and Alkyl Halides ,Bulletin of the Chemical Society of Japan,1979年,vol.52,No.12,PP.3611-3614
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/24
C10M 105/34
C10N 30/06
C10N 30/08
C10N 40/04
C10N 40/06
C10N 40/08
C10N 40/18
C10N 40/20
C10N 40/25
C10N 40/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される潤滑性化合物:
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、分岐を有していてもよい炭素数4〜14のアルキル基であり、
及びRはそれぞれ独立に、エチル基、2−メチルプロピル基、プロピル基、ブチル基、又はt−ブチル基であり、
及びRはそれぞれ独立に、分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基であり、
mは1である。)。
【請求項2】
前記一般式(1)において、R及びRが同一の基である、請求項1に記載の潤滑性化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、
及びRはそれぞれ独立に、分岐を有していてもよい炭素数8〜14のアルキル基であり、
及びRはエチル基であり、
及びRはメチレン基である、
請求項1に記載の潤滑性化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑性化合物を含む潤滑剤組成物。
【請求項5】
互いに接触して相対運動する複数の機械要素と、該機械要素の接触面の少なくとも一部に配置された請求項4に記載の潤滑剤組成物とを有する磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性に優れた新規化合物及びそれを含む潤滑剤組成物等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤は、液体としては水などに比べて粘性が高く被膜が丈夫で、物体間の摩擦を軽減させる作用を有するものであり、機械装置の機械要素間等に働く摩擦を軽減するために利用される。
【0003】
このような潤滑剤は、その使用される機械装置等の使用環境に応じて、各種の特性が求められる。例えば長期間の粘度安定性、耐酸化性、腐食耐性、温度変化に対する粘度の安定性などが求められる。
【0004】
さらに近年の各種技術革新により、様々な機械装置において、機械要素の小型化・軽量化・高速回転化が進み、また広い温度範囲での使用可能性も高まり、潤滑剤に求められる特性も高まっている。例えば、上記の特性に加えて、低摩擦係数や耐摩耗性、耐久性、低温流動性、高温安定性などが求められている。
【0005】
このような各種の要求に応え得る潤滑剤として様々な潤滑剤が提案されており、例えば特許文献1及び2には、分子両末端にエステル構造を有するジエステル型の潤滑油化合物が開示されている。
【0006】
また、液晶化合物を潤滑剤として使用することも提案されている(特許文献3〜5)。液晶化合物は一般に、剛直なコア部分(メソ―ゲン基)と柔軟な鎖状部分を有する化合物である。また、単一の液晶化合物では液晶相を示す温度範囲が狭く、潤滑剤として使用される温度範囲に十分対応することが出来ないので、単体ではなく混合物(混合液晶)で使用することも広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再公表特許WO2011/125842号公報
【特許文献2】特開2013−82900号公報
【特許文献3】特開平6−128582号公報
【特許文献4】特開2005−139398号公報
【特許文献5】特開2008−214603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低温から高温までの広い温度範囲で優れた潤滑性能を示す潤滑剤として使用し得る、新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、所定のエステル構造及び鎖状エーテル構造を有する化合物、並びに、所定の鎖状エーテル構造及び剛直なコア構造を有する化合物が、潤滑性に優れ、潤滑剤に好適に使用し得ることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0010】
すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
<1>下記一般式(1)で表される潤滑性化合物:
【0011】
【化1】

(式中、R及びRはそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、
及びRはそれぞれ独立に、水素原子;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、
及びRはそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基であり、
mは1〜6の整数であり、
mが2以上の場合、複数存在するR同士、R同士、R同士、R同士は、それぞれ互いに同じであっても異なっていてもよい。)。
【0012】
<2>前記一般式(1)において、R及びRがそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R及びRがそれぞれ独立に、水素原子;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R及びRがそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基である、<1>に記載の潤滑性化合物。
【0013】
<3>前記一般式(1)において、mが1〜3の整数である、<1>又は<2>に記載の潤滑性化合物。
【0014】
<4>前記一般式(1)において、mの添え字がついたかっこでくくられた単位中におけるR及びRが同一の基である(mが2以上の場合においては、一つの前記単位と、別の単位におけるR同士、R同士は同一であっても異なっていてもよい)、<1>〜<3>のいずれかに記載の潤滑性化合物。
【0015】
<5>前記潤滑性化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である、<1>〜<4>のいずれかに記載の潤滑性化合物:
【0016】
【化2】

(式中、R1’は、前記一般式(1)におけるRと同義であり、R2’及びR2’’は、それぞれ独立に、前記一般式(1)におけるRと同義であり、R3’及びR3’’は、それぞれ独立に、前記一般式(1)におけるRと同義であり、R4’’は、前記一般式(1)におけるRと同義であり、R5’及びR5’’は、それぞれ独立に、前記一般式(1)におけるRと同義であり、R6’は、前記一般式(1)におけるRと同義であり、nは1〜3の整数であり、pは0〜3の整数であり、nの添え字がついたかっこでくくられた単位と、pの添え字がついたかっこでくくられた単位とは、ブロックで存在しても、ランダムで存在してもよい。)。
【0017】
<6>下記一般式(3)で表される潤滑性化合物:
【0018】
【化3】

[式中、
基Aは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基;あるいは、下記一般式(4)で表される一価の有機残基であり:
【0019】
【化4】

(式中、R11は、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、
12及びR15はそれぞれ独立に、水素原子;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、
13は、単結合;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基であり、
14及びR16はそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基である。)
基Wは置換されていてもよい2価のテトラリン基、置換されていてもよい2価の多環芳香族基、及び下記一般式(I)で表される基からなる群より選ばれる2価のメソ−ゲン基であり:
【0020】
【化5】

(式中、環D、環E及び環Fはそれぞれ独立にベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ピリジン環、ピリミジン環、ジオキサン環、テトラリン環又は多環芳香族環であり、
Yはそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルキニル基、アルキニルオキシ基、アルコキシアルキル基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、又はシアノ基であり、
s1〜s3はそれぞれ独立に、1、ないし環D、環E又は環Fの置換基が結合し得る部位の数、までの整数であり、
s1〜s3が2以上の場合、同一の環に結合した複数のYは同一であっても異なっていてもよく、
およびZはそれぞれ独立に単結合、−CO−O−、−O−CO−、−CHO−、−OCH−、−CHCH−、−CH=CHCHO−、−CH=CH−、−CFO−、−OCF−、−S−、−SO−、−SO−又は−C≡C−であり、
rは0、1又は2であり、
rが2の場合、二つ存在するZは同一であっても異なっていてもよく、二つ存在する環Dは同一であっても異なっていてもよく、二つの環Dにそれぞれ結合するYは、同一であっても異なっていてもよい。)
基Bは下記一般式(5)で表される一価の有機残基である:
【0021】
【化6】

(式中、R21及びR23はそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基であり、
24は、単結合;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基であり、
22及びR25はそれぞれ独立に、水素原子;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基であり、
26は、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基である。)]。
【0022】
<7>前記一般式(3)において、基Aがフッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であるか、又は前記一般式(4)で表される有機残基である、<6>に記載の潤滑性化合物。
【0023】
<8>前記一般式(4)において、R11がフッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R12及びR15がそれぞれ独立に、水素原子;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R13、R14及びR16がそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基である、<6>又は<7>に記載の潤滑性化合物。
【0024】
<9>前記一般式(5)において、R21、R23及びR24がそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基であり、R22及びR25がそれぞれ独立に、水素原子;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基であり、R26がフッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基である、<6>〜<8>のいずれかに記載の潤滑性化合物。
【0025】
<10>前記一般式(I)において、環D、環E及び環Fはそれぞれ独立にベンゼン環、シクロヘキサン環、ジオキサン環、テトラリン環又は多環芳香族環を表し、Yはそれぞれ独立に、水素原子又はハロゲン原子を表し、ZおよびZはそれぞれ独立に単結合又は−CO−O−を表し、rは0又は1を表す、<6>〜<9>のいずれかに記載の潤滑性化合物。
【0026】
<11>前記一般式(4)において、R14及びR16が同一の基であり、前記一般式(5)において、R21及びR23が同一の基である、<6>〜<10>のいずれかに記載の潤滑性化合物。
【0027】
<12><1>〜<11>のいずれかに記載の潤滑性化合物を含む潤滑剤組成物。
【0028】
<13><6>に記載の潤滑性化合物を含む潤滑剤組成物であって、該組成物が、前記一般式(3)における基Aの選択肢から選択される一つの基(第一の基)及び基Bの選択肢から選択される一つの基(第二の基)より選ばれる基を、一般式(3)における基A及び基Bとして有する複数の化合物を含み、該複数の化合物が、前記一般式(3)において、基A及び基Bが前記第一の基である化合物と、基Aが前記第一の基であり基Bが前記第二の基である化合物と、基Aが前記第二の基であり基Bが前記第一の基である化合物と、基A及び基Bが前記第二の基である化合物である、潤滑剤組成物。
【0029】
<14>互いに接触して相対運動する複数の機械要素と、該機械要素の接触面の少なくとも一部に配置された<12>又は<13>に記載の潤滑剤組成物とを有する機械装置。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、低温から高温までの広い温度範囲で優れた潤滑性能を示す潤滑剤として使用し得る、新規化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例11及び比較例4の、本発明の化合物Bの混合物と、DOSの100℃における経時蒸発損失を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の潤滑性化合物は上記一般式(1)又は(3)で表される化合物であるが、まず、下記において、一般式(1)で表される本発明の潤滑性化合物(以下、「本発明の化合物A」ともいう。)、及び一般式(3)で表される本発明の潤滑性化合物(以下、「本発明の化合物B」ともいう。また、本発明の化合物A及び本発明の化合物Bをまとめて、単に「本発明の化合物」ともいう。)について、順に説明する。
【0033】
[本発明の化合物A]
本発明の化合物Aは、下記一般式(1)で表される。以下、式(1)における各基について説明する。
【0034】
【化7】
【0035】
<R及びRについて>
一般式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基である。
【0036】
本発明の化合物Aは、式(1)で示される通り、mの添え字がついたかっこでくくられた繰り返し単位を有し、かつ一方の分子末端にエステル結合を有する鎖状化合物であって、R及びRはこのような化合物Aの分子両末端を構成する鎖状基である。これらにより前記化合物Aの分子サイズ(長径)や極性を調節することができる。
【0037】
前記アルキル基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が4〜14である。このようなアルキル基の例としては、ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基が挙げられる。
【0038】
前記アルケニル基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が4〜14である。このようなアルケニル基の例としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基が挙げられる。
【0039】
前記アルキニル基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が4〜14である。このようなアルキニル基の例としては、ブチニル基、ペンチニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基が挙げられる。
【0040】
なお、前記アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基はシアノ基で置換されていてもよいが、シアノ基を構成する炭素原子は、前記アルキル基等の炭素数のカウントに入れない。以下、本明細書において同様である。
【0041】
以上説明したR及びRとしては、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
【0042】
<R及びRについて>
上記一般式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基である。
【0043】
及びRはmの添え字がつけられたかっこでくくられた単位における側鎖であり、これらの構造を調節することによって、鎖状分子である本発明の化合物A同士、あるいは化合物Aと後述する本発明の潤滑剤組成物における各種構成成分との分子間距離や分子間力を所望のものに調節することができる。
【0044】
前記アルキル基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜4である。このようなアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、2−メチルプロピル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
【0045】
前記アルケニル基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニル基の例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基が挙げられる。
【0046】
前記アルキニル基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基が挙げられる。
【0047】
以上説明したR及びRとしては、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、水素原子、並びに、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、Rが水素原子であり、かつRが炭素数1〜2のアルキル基であることがより好ましい。
【0048】
<R及びRについて>
上記一般式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基である。
【0049】
及びRは、mの添え字がつけられた単位の長さを規定するものであり、これによって本発明の化合物Aの分子サイズ(長径)や極性を調節することができる。
【0050】
前記アルキレン基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜4である。このようなアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。
【0051】
前記アルケニレン基は、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニレン基の例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基が挙げられる。
【0052】
以上説明したR及びRとしては、本発明の化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基が好ましい。また、本発明の化合物Aの合成の容易性の観点からは、R及びRは同一の基であることが好ましい。なお、後述するとおりmが2以上の場合には、mの添え字がつけられたカッコでくくられた単位が複数存在するが、その場合には、各単位におけるR及びRが同一であればよく、複数のR同士、R同士は同一である必要はなく、同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
<mについて>
上記一般式(1)において、mは1〜6の整数である。mが6を超えると、本発明の化合物Aの合成が困難になるとともに、後述する潤滑剤用途に好適な低粘度や低動摩擦係数を達成することが困難となる。
【0054】
また、mが2以上の場合、mの添え字がつけられたカッコでくくられた単位が複数存在し、R、R、R及びRがそれぞれ複数存在することになるが、これら複数存在するR同士、R同士、R同士、R同士は、それぞれ互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0055】
このように、本発明の化合物Aにおける繰り返し単位の数を示すmは、当該化合物Aの揮発性と潤滑性の観点から、1〜3の整数であることが好ましい。
【0056】
<化合物Aの好ましい態様>
以上説明した本発明の化合物Aは、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0057】
【化8】

式中、R1’は、前記一般式(1)におけるRと同義であり、
2’及びR2’’は、それぞれ独立に、前記一般式(1)におけるRと同義であり、
3’及びR3’’は、それぞれ独立に、前記一般式(1)におけるRと同義であり、
4’’は、前記一般式(1)におけるRと同義であり、
5’及びR5’’は、それぞれ独立に、前記一般式(1)におけるRと同義であり、
6’は、前記一般式(1)におけるRと同義であり、
nは1〜3の整数であり、
pは0〜3の整数であり、
nの添え字がついたかっこでくくられた単位と、pの添え字がついたかっこでくくられた単位とは、ブロックで存在しても、ランダムで存在してもよい。
【0058】
このように、繰り返し単位における側鎖(一般式(1)におけるR又はR)の一つが水素原子である本発明の化合物Aは、潤滑特性の温度依存性が緩やかになり広い温度範囲で使用できる。
【0059】
[本発明の化合物B]
次に、本発明の化合物Bについて説明する。本発明の化合物Bは、下記一般式(3)で表される。以下、式(3)における各基について説明する。
【0060】
【化9】
【0061】
<基Aについて>
一般式(3)において、基Aは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基;あるいは、下記一般式(4)で表される一価の有機残基である。
【0062】
【化10】
【0063】
後述するとおり本発明の化合物Bの多くが液晶化合物であるが、基Aは、そのような化合物Bにおけるテール部分を構成し、またこれの種類により、化合物B同士、又は化合物Bと後述する本発明の潤滑剤組成物の構成成分との分子間距離や分子間力を調整することができる。
【0064】
前記アルキル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が4〜14である。このようなアルキル基の例としては、ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基が挙げられる。
【0065】
前記アルケニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が4〜14である。このようなアルケニル基の例としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基が挙げられる。
【0066】
前記アルキニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が4〜14である。このようなアルキニル基の例としては、ブチニル基、ペンチニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基が挙げられる。
【0067】
次に、上記一般式(4)における各基について説明する。
【0068】
(R11について)
上記一般式(4)において、R11は、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基である。
【0069】
前記アルキル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜12である。このようなアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。
【0070】
前記アルケニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜12である。このようなアルケニル基の例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基が挙げられる。
【0071】
前記アルキニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜12である。このようなアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基が挙げられる。
【0072】
以上説明したR11としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
【0073】
(R12及びR15について)
上記一般式(4)において、R12及びR15はそれぞれ独立に、水素原子;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基である。
【0074】
前記アルキル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜4である。このようなアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、2−メチルプロピル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
【0075】
前記アルケニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニル基の例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基が挙げられる。
【0076】
前記アルキニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基が挙げられる。
【0077】
以上説明したR12及びR15としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、水素原子、並びに、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
【0078】
(R13について)
上記一般式(4)において、R13は、単結合;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基である。
【0079】
前記アルキレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜4である。このようなアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。
【0080】
前記アルケニレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニレン基の例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基が挙げられる。
【0081】
以上説明したR13としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基が好ましい。
【0082】
(R14及びR16について)
上記一般式(4)において、R14及びR16はそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基である。
【0083】
前記アルキレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルキレン基の例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。
【0084】
前記アルケニレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニレン基の例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基が挙げられる。
【0085】
以上説明したR14及びR16としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基が好ましい。またこれらの基は、本発明の化合物Bの製造の容易性から、同一の基であることが好ましい。
【0086】
(基Aについて)
本発明の化合物Bの構造を示す上記一般式(3)において、基Aは以上説明したとおり、所定のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又は上記一般式(4)の一価の有機残基である。
【0087】
これらの中でも、基Aとしては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、前記アルキル基及び前記一般式(4)の有機残基が好ましい。
【0088】
<基Wについて>
上記一般式(3)において、基Wは置換されていてもよい2価のテトラリン基、置換されていてもよい2価の多環芳香族基、及び下記一般式(I)で表される基からなる群より選ばれる2価のメソ−ゲン基である。
【0089】
【化11】

基Wは剛直な構造であり、本発明の化合物Bにおける液晶形成要素(コア部分)である。
【0090】
前記多環芳香族基は、2つ以上の芳香環を有する芳香族基である。これら2つ以上の芳香環は、例えばビフェニルのように単結合で結合していてもよいし、ナフタレンのように縮合環の状態で結合していてもよい。また、芳香環の環構成原子は炭素原子のみであってもよいし、ヘテロ原子が含まれていてもよい。
【0091】
このような多環芳香族基の例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0092】
【化12】
【0093】
前記テトラリン基及び多環芳香族基における置換基としては、重水素原子、フッ素原子、炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
【0094】
上記一般式(I)において、環D、環E及び環Fはそれぞれ独立にベンゼン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ピリジン環、ピリミジン環、ジオキサン環、テトラリン環又は多環芳香族環である。前記多環芳香族環は、基Wの候補として上記で説明した多環芳香族基と同様である。
【0095】
上記一般式(I)において、Yはそれぞれ独立に、水素原子、重水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルケニルオキシ基、炭素数2〜8のアルキニル基、炭素数2〜8のアルキニルオキシ基、炭素数2〜8のアルコキシアルキル基、炭素数2〜8のアルカノイルオキシ基、炭素数2〜8のアルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、又はシアノ基を表す。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。
【0096】
上記一般式(I)において、s1〜s3はそれぞれ独立に、1、ないし環D、環E又は環Fの置換基が結合し得る部位の数、までの整数である。例えば環Dがベンゼン環であれば、s1は1〜4の整数であり、ナフタレン環であればs1は1〜6の整数である。
【0097】
ここで、s1〜s3が2以上の場合には、環D〜Fのそれぞれに複数のYが結合することになるが、同一の環に結合した複数のYは同一であっても異なっていてもよい。また、異なる環に結合したYが同一であっても異なっていてもよいことはもちろんである。
【0098】
上記一般式(I)において、ZおよびZはそれぞれ独立に単結合、−CO−O−、−O−CO−、−CHO−、−OCH−、−CHCH−、−CH=CHCHO−、−CH=CH−、−CFO−、−OCF−、−S−、−SO−、−SO−又は−C≡C−を表し、rは0、1又は2を表す。
【0099】
ここでrが2の場合には、環D及びZが二つずつ存在することになるが、二つ存在するZは同一であっても異なっていてもよく、二つ存在する環Dは同一であっても異なっていてもよい。さらに、二つの環Dにそれぞれ結合するYは、同一であっても異なっていてもよい。
【0100】
さらに、上記Yとしては、広い温度範囲における低粘度を達成する観点からは、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、メチル基、エチル基が好ましく、水素原子、重水素原子及びハロゲン原子がより好ましく、水素原子及びハロゲン原子が特に好ましい。
【0101】
また、ZおよびZとしては、広い温度範囲における低粘度を達成する観点からは、単結合、−CO−O−、−O−CO−、−CHCH−、−CHO−、−OCH−、−SO−が好ましく、単結合、−CO−O−、及び−CHO−がより好ましく、単結合及び−CO−O−が特に好ましい。
【0102】
環D、環E及び環Fとしては、広い温度範囲における低粘度を達成する観点からは、ベンゼン環、シクロヘキサン環、ジオキサン環、テトラリン環及び多環芳香族環が好ましい。また、同様な観点から、rは0又は1であることが好ましい。
【0103】
以上説明した一般式(I)で表される二価のメソ−ゲン基の具体例としては、下記の二価の有機残基が挙げられる。
【0104】
【化13】
【0105】
<基Bについて>
次に、上記一般式(3)における基Bについて説明する。一般式(3)において基Bは、下記一般式(5)で表される一価の有機残基である。
【0106】
【化14】
【0107】
基Bもまた、基Aと同様に本発明の化合物Bにおけるテール部分を構成し、またこれの種類により、化合物B同士、又は後述する本発明の潤滑剤組成物の構成成分との分子間距離や分子間力を調整することができる。以下、前記一般式(5)における各基について説明する。
【0108】
(R21及びR23について)
一般式(5)においてR21及びR23はそれぞれ独立に、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基である。
【0109】
21及びR23は、R24及びR26とともに、基Bにおける主鎖を構成し、これらによって、基Bのサイズ(長径)や化合物Bの極性を調節することができる。
【0110】
前記アルキレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルキレン基の例としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。
【0111】
前記アルケニレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニレン基の例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基が挙げられる。
【0112】
以上説明したR21及びR23としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基が好ましい。また、本発明の化合物Bの合成の容易性の観点から、これらの基は同一の基であることが好ましい。
【0113】
(R24について)
上記一般式(5)においてR24は、単結合;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニレン基である。
【0114】
前記アルキレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜4である。このようなアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。
【0115】
前記アルケニレン基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニレン基の例としては、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基が挙げられる。
【0116】
以上説明したR24としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基が好ましい。
【0117】
(R22及びR25について)
上記一般式(5)においてR22及びR25はそれぞれ独立に、水素原子;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基である。
【0118】
22及びR25は基Bにおける側鎖を構成し、これらの構造を調節することによって、本発明の化合物B同士、あるいは化合物Bと後述する本発明の潤滑剤組成物における各種構成成分との分子間距離や分子間力を調節することができる。
【0119】
前記アルキル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜4である。このようなアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、2−メチルプロピル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
【0120】
前記アルケニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルケニル基の例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基が挙げられる。
【0121】
前記アルキニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜4である。このようなアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基が挙げられる。
【0122】
以上説明したR22及びR25としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、水素原子、並びにフッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
【0123】
(R26について)
上記一般式(5)においてR26は、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基;フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基;あるいは、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基である。
【0124】
前記アルキル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が1〜12である。このようなアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。
【0125】
前記アルケニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜12である。このようなアルケニル基の例としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基が挙げられる。
【0126】
前記アルキニル基は、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性の観点から、好ましくはその炭素数が2〜12である。このようなアルキニル基の例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基が挙げられる。
【0127】
以上説明したR26としては、本発明の化合物Bの揮発性と潤滑性と安定性の観点から、フッ素原子、ヒドロキシル基又はシアノ基で置換されていてもよく分岐を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
【0128】
<基A及び基Bについて>
以上説明したとおり、一般式(3)において基A及び基Bは各個独立に定義されるものであるが、これらの選択肢には共通するものがある。
【0129】
このため、基A及び基Bの種類によってはこれらが同一の基である場合がある。そのような場合の本発明の化合物Bは、後述する本発明の化合物Bの製造において使用する原料の種類が少なくて済むため、製造の観点から好ましい。
【0130】
一方基A及び基Bが異なる基である場合には、これらが同一の場合に比べて使用する製造原料の種類が多くなるが、後述する、潤滑剤組成物の使用可能温度範囲の点において有利な場合がある。
【0131】
〔化合物A及び化合物B〕
以上説明した本発明の化合物Aは、所定のエステル構造及び鎖状エーテル構造を有しており、一方本発明の化合物Bは、所定の鎖状エーテル構造及び剛直なコア構造(基W)を有している。
【0132】
これらは所定の鎖状エーテル構造を有している点で共通し、このような構造と所定の構造(エステル構造又はコア構造)とを組み合わせて有する本発明の化合物A及びBは、潤滑性に優れる。
【0133】
具体的には本発明の化合物Aは、−20〜60℃の温度範囲において、粘度が通常500mPa・s以下、好ましくは1〜400mPa・s、より好ましくは3〜300mPa・s、さらに好ましくは5〜200mPa・sの範囲にある。
【0134】
また本発明の化合物Bは、−20〜60℃の温度範囲において、粘度が通常50,000mPa・s以下、好ましくは100〜30,000mPa・s、より好ましくは200〜20,000mPa・s、さらに好ましくは300〜20,000mPa・sの範囲にある。
【0135】
なお、本明細書において粘度は、回転粘度計で測定する。
【0136】
そして、本発明の化合物の動摩擦係数は、−10℃〜40℃の範囲において、通常0.05〜0.21、潤滑性の観点から好ましくは0.05〜0.19であり、より好ましくは0.12〜0.17である。
【0137】
動摩擦係数は、市販の動摩擦係数測定装置で測定できるが、本明細書において動摩擦係数は、新東科学株式会社製表面性測定機「TYPE:14FW」を使用して測定する。
【0138】
本発明の潤滑性化合物および後述する潤滑性組成物の動摩擦係数は、温度により影響を受けるため、前記動摩擦係数は、上記−10℃〜40℃の範囲における所定の測定温度で測定する。
【0139】
具体的には、前記表面性測定機の移動台にステンレス板を固定して試料をたらし、以下の条件で、固定したボールで点圧を加え往復運動による摩耗を繰り返し、往復回数100回ごとにおける動摩擦係数を1800回まで測定し、それらの平均値(平均動摩擦係数)を算出する。この平均値を、本発明における動摩擦係数とする。
【0140】
(測定条件)
垂直荷重:100g
摩擦速度:600mm/min
往復回数:1800
往復ストローク:5mm
加重変換器容量:19.61N
試験片温度:−10℃〜40℃
摩擦相手材:SUS304 ステンレス球 直径10mm
サンプル量:0.2mL
【0141】
以上説明したとおり、本発明の化合物は低温から高温までの広範な温度範囲において粘度が低く、また動摩擦係数も低いため、潤滑性に優れ、潤滑剤組成物の基油又は添加剤として好適に用いることができる。
【0142】
さらに、本発明の化合物Bは後述の実施例から明らかなとおり、蒸発損失が少ないので、潤滑剤組成物の基油として特に好ましい。
【0143】
[本発明の化合物の製造方法]
続いて、本発明の化合物A及びBの製造方法について説明する。
【0144】
<化合物Aの製造方法>
まず、本発明の化合物Aの製造方法について説明する。前記化合物Aの製造方法は特に限定されるものではなく、公知の反応を組み合わせることで、化合物Aを製造することができる。
【0145】
前記化合物Aは、上記一般式(1)における、mの添え字がつけられたかっこでくくられた単位を一つ又は複数有しており、その合成においては、例えばこの単位を構成する化合物を所定回数繰り返し反応させ、そして一般式(1)のエステル部位となる化合物と反応させることで、容易に合成することができる。
【0146】
前記の合成においては、例えば下記式(II)で表されるジオールを用意する。
【0147】
【化15】

なお、R〜Rは一般式(1)におけるものと同様である。
【0148】
当該化合物を、例えばまずハロゲン化アルキル(RX:Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子などのハロゲン原子)と反応させ、一つのヒドロキシル基をアルキル化する。得られたアルキル化生成物を、前記式(II)で表される化合物と反応させることで、本発明の化合物Aにおける所定の繰り返し数mの単位を形成することができる。
【0149】
この際、反応をコントロールするために、例えばアルキル化生成物又は前記式(II)の化合物のうちの一方のヒドロキシル基を、例えば金属ナトリウムにより金属アルコキシド化し、他方のヒドロキシル基をハロゲン化したうえで、両者を反応させてもよい。
【0150】
そして所定の繰り返し数(m)の単位とした後、遊離のヒドロキシル基(又はこれを所定の活性基としたもの)をエステル化することで、本発明の化合物Aが得られる。なお、ハロゲン化アルキルにより一般式(1)におけるRを形成する反応は、所定の繰り返し数の単位とした後や、さらに前記エステル化反応を実施した後に行ってもよい。
【0151】
前記エステル化には従来公知のエステル化試薬を使用することができ、例えば公知の酸クロリド(RCOCl)を使用することができる。
【0152】
以上説明した反応には従来公知の各種有機溶媒が使用可能であり、例えばエタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジエチルエーテル、ジクロロメタンが使用可能である。
【0153】
<化合物Bの製造方法>
次に、本発明の化合物Bの製造方法について説明する。前記化合物Bの製造方法もまた特に限定されるものではなく、公知の反応を組み合わせることで、化合物Bを製造することができる。
【0154】
化合物Bの合成は、一般式(3)に記載の基W(コア部分)と、その両側にある基A又は基Bとを、エーテル結合により順次又は同時に結合させることで、容易に行うことができる。
【0155】
前記エーテル結合により基Wと基A又は基Wと基Bとを結合する反応としては、アルコール化合物(A−OHやB−OH)やフェノール化合物(HO−W−OH)とアルカリ金属やアルカリ金属アルコラートを用い、ハロゲン化合物(A−X、B−XやX−W−X(Xは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子などのハロゲン原子))と反応させる方法が利用できる。
【0156】
前記アルカリ金属としては、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。また前記アルカリ金属アルコラートとしては、ナトリウムエチラート、ナトリウムメチラート、tert−ブトキシナトリウム、tert−ブトキシカリウムなどが挙げられる。
【0157】
これらの反応には従来公知の各種有機溶媒が使用可能であり、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、トルエンが使用可能である。
【0158】
なお、化合物Bが、一般式(3)において基Aと基Bとが同一の基である化合物である場合には、以上説明した、一般式(3)における基Aとなる化合物と基Bとなる化合物とは同一であり、それゆえ化合物Bの合成原料が2種類で済むため、その合成が容易である。
【0159】
(混合物の生成)
一方、基Aと基Bとが異なる基である場合には、一般式(3)における基Wとなる化合物X’−W−X’(コア原料)と、基Aとなる化合物A−X(原料1)と、基Bとなる化合物B−X(原料2)とを反応させることになる。ここで、これらを同時に反応させると、コア原料の2か所の反応点のいずれに原料1又は2が反応するかは確率の問題となり、一般式(3)の基Wにおける左側の反応点に原料1又は2が反応し、右側の反応点に原料1又は2が反応して、合計4種類の化合物が生成する。なお、一般式(3)において基Wが左右対称の構造の基である場合には、3種類の化合物が生成することになる。この複数種類の化合物の生成を反応式で示すと、例えば以下の通りである。
【0160】
【化16】

(Xは互いに独立にハロゲン原子又はヒドロキシル基であり、X’は互いに独立にハロゲン原子又はヒドロキシル基である。)
【0161】
目的の本発明の化合物Bは、このような複数の化合物の混合物として得られるが、当該混合物は化合物B単独の場合に比較して、より広い温度範囲で潤滑剤用途に適した低粘度を示すので、前記混合物は、後述する通り本発明の潤滑剤組成物として好適に使用することができる。
【0162】
[潤滑剤組成物]
上述の通り、本発明の化合物は広範な温度範囲において粘度が低く、また動摩擦係数も低いため、潤滑性に優れ、潤滑剤組成物の基油または添加剤として好適に用いることができる。
【0163】
なお、本発明の化合物Bは、一般式(3)における基Wが各種の剛直な基であるため、化合物Bの多くが液晶相を形成することができる。具体的には本発明の化合物Bは、通常−20〜150℃の範囲にて液晶相を形成する(サーモトロピック液晶)。形成する液晶相はスメクチック液晶相、ネマチック液晶相、コレステリック液晶相、ディスコチック液晶相のいずれでもよい。なお、液晶性の有無は偏光顕微鏡を用いた観察により判断できる。
【0164】
また、本発明の化合物Bは、有機溶媒(後述する潤滑剤組成物における基油など)などの溶媒中に含有させて、濃度に依存して液晶相を形成し得るものである(リオトロピック液晶)。
【0165】
このような液晶相を形成する場合には、化合物Bを後述する潤滑剤組成物の成分として使用した場合、当該化合物Bが、潤滑剤組成物が使用された機械要素の部位において規則的に配列し、機械要素の回転等による機械的衝撃によっては潤滑剤組成物が飛散されにくくなると考えられるため、好ましい。さらに化合物Bは、蒸発損失が少ないため、高温など、過酷な環境においても、潤滑剤組成物の成分として好適に機能するものと考えられる。
【0166】
本発明の潤滑剤組成物は、このような本発明の化合物B及び/又は化合物Aを含む。また、本発明の潤滑剤組成物においては、本発明の化合物Aとして1種の化合物を単独で使用してもよく、2種以上の化合物を併用してもよい。本発明の化合物Bについても同様である。
【0167】
本発明の潤滑剤組成物の粘度は、−20〜60℃の温度範囲において、通常1〜50,000mPa・s、好ましくは3〜10,000mPa・sの範囲にあり、後述するような、粘度が低めの潤滑油から粘度が高めの潤滑油まで、幅広い用途に使用しうる。
【0168】
そして、本発明の潤滑剤組成物の動摩擦係数は、−10℃〜40℃の範囲において、通常0.05〜0.5、潤滑性の観点から好ましくは0.08〜0.2である。
【0169】
<化合物Bの混合物態様の潤滑剤組成物>
また、本発明の化合物Bの製造方法の説明で上述した通り、コア原料と原料1(一般式(3)における基Aを形成)及び2(一般式(3)における基Bを形成)とを同時に反応させると、確率の問題で4種類(又は3種類)の化合物が生成し、本発明の化合物Bは混合物として得られる。このようにして得られた混合物は、A−O−W−O−A、A−O−W−O−B、B−O−W−O−A、そしてB−O−W−O−Bという構造の化合物の混合物である。
【0170】
これらの化合物はつまり、前記一般式(3)における基Aの選択肢から選択される一つの基(第一の基)及び基Bの選択肢から選択される一つの基(第二の基)を、基Wの左側及び右側において任意の組み合わせで有する化合物(基A及び基Bが第一の基である化合物、基Aが第一の基であり基Bが第二の基である化合物、基Aが第二の基であり基Bが第一の基である化合物、そして、基A及び基Bが第二の基である化合物)である。
【0171】
このような混合物もまた本発明の潤滑剤組成物として使用可能であり、当該潤滑剤組成物は、化合物Bを単独で使用した場合に比べて、より広い温度範囲にて低粘度を達成することができる。しかも前記混合物は、化合物Bを合成するにあたって必然的に生成するため、化合物Bに所定のその他の化合物を添加するような操作が不要であり、また化合物Bだけを前記混合物から単離することも不要であり、製造コストの点でも有利である。
【0172】
<その他の成分>
次に、本発明の潤滑剤組成物が、本発明の効果を損なわない範囲において含んでもよい、その他の成分について、順に説明する。これらは基本的に潤滑剤組成物の含有成分として従来公知の物質であって、その含有量は、特にほかに言及しない限り、従来公知の範囲で当業者が適宜選択することができる。また、いずれの成分も1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0173】
(液晶化合物)
本発明の化合物Bには液晶化合物であるものがあるが、本発明の潤滑剤組成物は、それ以外の液晶化合物を含有してもよい。
【0174】
そのような液晶化合物としては、スメクチック相あるいはネマチック相を示す液晶化合物、アルキルスルホン酸、ナフィオン膜系の構造を持つ化合物、アルキルカルボン酸、アルキルスルホン酸等を挙げることができる。
【0175】
これらの成分の併用は、本発明の潤滑剤組成物に含まれる液晶化合物が液晶相を形成する温度範囲を広げ得るものであり、上述の液晶相形成による利点を広い温度範囲にて享受できる可能性がある。
【0176】
(基油)
本発明の化合物を添加剤として潤滑剤組成物に含める場合、基油としては、従来公知の各種の潤滑剤基油を使用することができる。
【0177】
前記基油としては、特に限定されないが、例えば、鉱油、高精製鉱油、合成炭化水素油、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、シリコーン油、ナフテン系鉱油及びフッ素油等が使用できる。このような基油の本発明の潤滑剤組成物における含有量は、通常80〜99重量%である。
【0178】
(その他の添加剤)
本発明の化合物を基油として潤滑剤組成物に含める場合、従来公知の各種添加剤を潤滑剤組成物に添加可能である。なお、本発明の化合物Aを基油として配合し、本発明の化合物Bを添加剤として配合してもよい。その逆も可能である。
【0179】
その他、本発明の潤滑剤組成物に添加可能な添加剤としては、軸受油、ギヤ油及び作動油などの潤滑剤に用いられている各種添加剤、すなわち極圧剤、配向吸着剤、摩耗防止剤、摩耗調整剤、油性剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤、固体潤滑剤等が挙げられる。
【0180】
前記極圧剤の例としては、塩素系化合物、硫黄系化合物、リン酸系化合物、ヒドロキシカルボン酸誘導体、及び有機金属系極圧剤が挙げられる。極圧剤を添加することにより、本発明の潤滑剤組成物の耐摩耗性が向上する。
【0181】
前記配向吸着剤の例としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤などの各種カップリング剤に代表される有機シランや有機チタン、有機アルミニウム等が挙げられる。配向吸着剤を添加することにより、本発明の潤滑剤組成物が液晶化合物を含有する場合に、その液晶配向を強め、後述する、本発明の潤滑剤組成物から形成される被膜の厚さとその強度が強化され得る。
【0182】
<潤滑剤組成物の調製方法>
本発明の潤滑剤組成物は、以上説明した本発明の化合物やその他の成分を、従来公知の方法で混合することによって、調製することができる。本発明の潤滑剤組成物の調製方法の一例を示せば、以下のとおりである。
【0183】
潤滑剤組成物の構成成分を常法で混合し、その後、必要に応じて、ロールミル、脱泡処理、フィルター処理等を行って本発明の潤滑剤組成物を得る。あるいは、潤滑剤組成物の油成分を先に混合し、続いて添加剤等のその他の成分を加えて混合し、必要に応じて上記の脱泡処理等を行うことによっても、潤滑剤組成物を調製することができる。
【0184】
〔潤滑剤組成物の用途〕
本発明の潤滑剤組成物は、上述の通り広い温度範囲、特に低温域において良好な低粘度を示し、また動摩擦係数も小さいので、各種の機械装置における潤滑剤として使用可能である。
【0185】
機械装置は一般に、互いに接触して相対運動する複数の機械要素を有するが、この機械要素の接触面の少なくとも一部に本発明の潤滑剤組成物を配置することで、前記複数の機械要素の接触による摩擦を低減し、相対運動を円滑にすることができる。
【0186】
本発明において前記接触とは、複数の物体が直接接している場合だけでなく、本発明の潤滑剤組成物により形成される被膜など、何らかの物質の介在を受けて間接的に接している場合を含む。すなわち、本発明の潤滑剤組成物が複数の機械要素の接触面に配置された場合、当該組成物からなる被膜が複数の機械要素の間に形成されて、機械要素の直接的接触がなくなる。これにより、機械要素同士の摩擦による摩耗や焼き付きを好適に防止することができる。
【0187】
本発明の潤滑剤組成物を前記複数の機械要素の接触面に配置する方法は当業者に公知である。そのような方法として例えば、前記接触面への組成物の塗布、前記機械要素の接触面を含む、機械要素が近接している一定領域への前記組成物の充填が挙げられる。
【0188】
また、前記機械要素とは、各種の機械装置を構成する要素(部品等)であり、従来潤滑剤による潤滑が行われているもの、及び、将来潤滑剤による潤滑が行われる可能性のあるものを含む。
【0189】
前記複数の機械要素の接触面、より広く言えば機械要素の接触部位は平面であっても曲面であってもよいし、そのような面の少なくとも一部に凹凸があってもよいし、孔部が存在してもよい。また機械要素の接触部位を構成する各機械要素の部位には、各種改質など、表面処理がなされていてもよい。機械要素の材質も特に限定されず、金属材料、あるいは有機・無機材料など、いずれの材料で構成されていてもよい。また、機械要素の一方と他方とで、構成材料の種類が異なっていてもよい。
【0190】
このような各種機械要素を有する機械装置の例としては、運送用機械、加工用機械、コンピュータ関連機器、複写機等の事務関連機器並びに家庭用製品などが挙げられ、本発明の潤滑剤組成物は、例えばこれら各種機械装置の軸受けの潤滑のために好適に利用することができる。
【0191】
前記軸受けの具体例としては、電動ファンモータ及びワイパーモータ等の自動車電装品に使用される軸受;水ポンプ及び電磁クラッチ装置等の自動車エンジン補機等や駆動系に使用される転がり軸受;産業機械装置用の小型ないし大型の汎用モータ等の回転装置に使用される転がり軸受;工作機械の主軸軸受等の高速高精度回転軸受、エアコンファンモータ及び洗濯機等の家庭電化製品のモータや回転装置に使用される転がり軸受;HDD装置及びDVD装置等のコンピュータ関連機器の回転部に使用される転がり軸受;複写機及び自動改札装置等の事務機の回転部に使用される転がり軸受;並びに、電車及び貨車の車軸軸受が挙げられる。
【0192】
また本発明の潤滑剤組成物は、自動車のCVJ装置や電子電気制御のパワーステアリング装置等に使用される樹脂プーリの潤滑、並びに、リニアガイドやボールねじなどの各種転動装置の機械要素の潤滑に使用することができる。
【0193】
本発明の潤滑剤組成物は、例えば、自動車等の車両のエンジン油、ギヤ油、自動車用作動油、船舶・航空機用潤滑油、マシン油,タービン油、油圧作動油、スピンドル油、圧縮機・真空ポンプ油、冷凍機油及び金属加工用潤滑油剤、また、ヒンジ油、ミシン油及び摺動面油、さらには、HDD装置のプラッタ用潤滑剤(水平磁気記録方式及び熱アシスト記録技術等を利用した垂直磁気記録方式に使用されるものを含む)、磁気記録媒体用潤滑剤、マイクロマシン用潤滑剤や人工骨用潤滑剤等にも利用することができる。
【実施例】
【0194】
以下、実施例および比較例によりさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されない。
【0195】
[実施例1及び比較例1]
<合成例1>
以下に示す反応スキームに従い、本発明の化合物A1を合成した。
【0196】
【化17】
【0197】
(1)化合物(A1−ii)の合成
1000mlのナス型フラスコにエタノール400mlを入れ、金属ナトリウム13.8g(0.6mol)を溶解した。これに、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを71.0g(0.6mol)を加え、エタノールをエバポレーターで減圧除去した。
【0198】
残渣にDMF200mlを加え、窒素雰囲気下で70℃、24時間撹拌した。その後、1−ブロモヘキサンを82.2g(0.6mol)加え、窒素雰囲気下、70℃で24時間攪拌した。
【0199】
反応液を10%冷希塩酸600mlに注ぎ、2Lの分液漏斗を用いて600mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水600mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0200】
無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルをエバポレータにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である無色透明の液体 化合物(A1−ii)を31.8g(0.158mol)得た。
【0201】
(2)化合物(A1−iii)の合成
100mlの三つ口フラスコに化合物(A1−ii)を27.4g(0.14mol)、ピリジン1.0g(0.013mol)を入れた。滴下漏斗に三臭化燐36.6g(0.14mol)をトルエン20mlに溶解させたものを入れ、反応液を5℃以下に保つよう氷浴で冷却しながら滴下した。窒素雰囲気下で室温、24時間撹拌した。
【0202】
反応液を氷水300mlに注ぎ、ジエチルエーテル300mlで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加え良く振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0203】
無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルをエバポレーターにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である無色透明液体の化合物(A1−iii)を31.1g(0.12mol)得た。
【0204】
(3)化合物(A1−v)の合成
500mlのナス型フラスコにエタノール100mlを入れ、金属ナトリウム2.2g(0.1mol)を溶解した。これに、化合物(A1−iv)を8.1g(0.08mol)を加え、エタノールをエバポレーターで減圧除去した。
【0205】
残渣にDMF100mlを加え、窒素雰囲気下で70℃、24時間撹拌した。その後、化合物(A1−iii)を31.0g(0.12mol)加え、窒素雰囲気下、70℃で24時間攪拌した。
【0206】
反応液を10%冷希塩酸300mlに注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて300mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0207】
無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルをエバポレータにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である無色透明の液体 化合物(A1−v)を8.5g(0.029mol)得た。
【0208】
(4)化合物(A1)の合成
500mlの三ツ口フラスコにジエチルエーテル80mlと、化合物(A1−v)8.3g(0.029mol)と、ピリジン2.3g(0.029mol)を入れ撹拌した。滴下漏斗に1−デカン酸クロライド5.5g(0.029mol)を入れ、反応液を5℃以下に保つよう氷浴で冷却しながら滴下した。窒素雰囲気下で50℃、24時間撹拌した。
【0209】
反応液を10%冷希塩酸300mlに注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて300mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0210】
無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルをエバポレータにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である無色透明の液体 化合物(A1)を9.6g(0.022mol)得た。
【0211】
<粘度評価>
上記のとおり得られた化合物A1の、各種温度での粘度を評価した。粘度の測定方法は以下のとおりである。回転粘度計(東機産業(株)製TV−22LT形粘度計)を使用し、下記表1に示す各測定温度で、化合物A1の粘度を測定した。評価結果を下記表1にあわせて示す。
【0212】
【表1】
【0213】
また、DOS(下記構造式:ジオクチルセバケート)の同様な粘度測定結果を以下の表2に示す。
【0214】
【化18】

【表2】
【0215】
以上の、本発明の化合物A1とDOSの粘度評価結果を比較すると、下記表3の通りとなる。
【0216】
【表3】
【0217】
この比較表からわかるように、本発明の化合物は各種温度において、従来広く潤滑油として使用されているDOSよりも粘度が低く、特に−20℃という低温においてDOSよりも粘度が非常に低いので、そのような低温環境においても良好に使用し得るものである。
【0218】
<動摩擦係数測定>
新東科学株式会社製表面性測定機TYPE:14FWを使用した。本装置の移動台にステンレス板を固定して試料(化合物A1及びDOS)をたらし、固定したボールで点圧を加え往復運動による摩耗を繰り返し、下記表4に示される所定の往復回数におけるDOS及び本発明の化合物A1の動摩擦係数を測定し、またこれらの平均値(平均動摩擦係数)を算出した。結果を下記表4・5にあわせて示す。本発明の化合物A1はDOSよりも動摩擦係数が小さいことがわかる。
【0219】
(測定条件)
垂直荷重:100g
摩擦速度:600mm/min
往復回数:1800
往復ストローク:5mm
加重変換器容量:19.61N
試験片温度:40℃
摩擦相手材:SUS304 ステンレス球 直径10mm
サンプル量:0.2mL
【0220】
【表4】
【0221】
【表5】
【0222】
[実施例2〜5]
〔合成例2〜5〕
以下に示す通り、一般式(1)においてRが各種の炭素鎖長のアルキル基である本発明の化合物A2〜A5を製造した。
【0223】
<合成例2>
(本発明の化合物A3の中間体の合成)
【0224】
【化19】

500mlの三角フラスコにエタノール200mlを入れ、Na 4.7g(0.20mol)を溶解させた。これに、エタノール100mlに式(i)の化合物を25.0g(0.19mol)溶解させたものを加え、エタノールをエバポレーターで減圧除去した。
【0225】
残渣にDMF200mlを加え、窒素雰囲気下で加熱溶解させた。その後、窒素雰囲気下、70℃で24時間攪拌した。
【0226】
攪拌後、式(ii)の化合物45.2g(0.20mol)を滴下し、70℃で24時間反応させた。
【0227】
反応後、反応液を冷希塩酸(氷30g+蒸留水200ml+塩酸30ml)に注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて300mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0228】
無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルを減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である式(iii)の化合物(化合物A3の中間体)を得た。
【0229】
(本発明の化合物A3の合成)
【化20】
【0230】
500mlの三口フラスコにジエチルエーテル200mlと式(iii)の化合物20.0g(0.074mol)とピリジン5.8g(0.074mol)を加え、そこに氷浴中で式(iv)の化合物14.0g(0.074mol)を滴下した。滴下後、油浴を用いて50℃で24時間還流した。
【0231】
還流後、1Lの分液漏斗を用いて抽出を行った。まず、反応液に300mlのジエチルエーテルを加え冷希塩酸(氷30g+蒸留水200ml+塩酸30ml)に注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて抽出操作した。エーテル層を得て、そこに蒸留水100mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を500mlの三角フラスコに分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0232】
無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルを減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である式(v)の化合物(本発明の化合物A3)を得た。
【0233】
<合成例3〜5>
合成例2において、式(ii)の化合物(RBr)のRをC17、C1225及びC1429に替えて同様の反応を実施し、それぞれ本発明の化合物A2、A4及びA5を得た。
【0234】
<化合物A2〜A5及びDOSの評価(実施例2〜5及び比較例2)>
合成例2で製造された本発明の化合物A3、及びDOSについて、各種温度での粘度を測定した。結果を下記表6に示す。
【0235】
【表6】
【0236】
また、本発明の化合物A2〜A5及びDOSについて、上記と同様にして動摩擦係数の測定を行った。結果を下記表7に示す。
【0237】
【表7】
【0238】
表7より、本発明の化合物A2〜A5はいずれもDOSよりも動摩擦係数が低く潤滑剤として優れ、また一般式(1)におけるRの調節によって動摩擦係数を調節できることがわかる。
【0239】
[実施例6〜10及び比較例3]
<合成例6>
以下に示す反応スキームに従い、本発明の化合物B1を合成した。
【0240】
【化21】
【0241】
(1)化合物(B1−ii)の合成
500mlのナス型フラスコにエタノール300mlを入れ、金属ナトリウム19.0g(0.83mol)を溶解した。これに、化合物(B1−i)を71.0g(0.60mol)を加え、エタノールをエバポレーターで減圧除去した。
【0242】
残渣にDMF300mlを加え、窒素雰囲気下で70℃、24時間撹拌した。その後、1−ブロモブタンを104g(0.76mol)加え、窒素雰囲気下、70℃で24時間攪拌した。
【0243】
反応液を10%冷希塩酸300mlに注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて300mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0244】
無水硫酸ナトリウムを濾過にて除去し、ジエチルエーテルをエバポレータにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である無色透明の液体 化合物(B1−ii)を27.4g(0.157mol)得た。
【0245】
(2)化合物(B1−iii)の合成
100mlの三つ口フラスコに化合物(B1−ii)を25.4g(0.15mol)、ピリジン2.0g(0.026mol)を入れた。滴下漏斗に三臭化燐44.3g(0.16mol)をトルエン30mlに溶解させたものを入れ、反応液を5℃以下に保つよう氷浴で冷却しながら滴下した。窒素雰囲気下で室温、12時間撹拌した。
【0246】
反応液を氷水300mlに注ぎ、ジエチルエーテル300mlで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加え良く振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0247】
無水硫酸ナトリウムを濾過により除去し、ジエチルエーテルをエバポレーターにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、目的物である無色透明液体の化合物(B1−iii)を17.4g(0.073mol)得た。
【0248】
(3)化合物(B1)の合成
500mlの三つ口フラスコに4,4’−ビフェノール5.0g(0.027mol)と、DMFを130ml加え撹拌溶解した。次に、炭酸カリウム15.38g(0.11mol)を加え室温で一晩撹拌した。そこに、化合物(B1−iii)16.56g(0.069mol)を加え、室温で48時間撹拌した。
【0249】
反応液を10%冷希塩酸300mlに注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて300mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0250】
無水硫酸ナトリウムを濾過にて除去し、ジエチルエーテルをエバポレータにて減圧除去した。残渣にメタノール100mlを加え、デカンテーションにより、目的物である乳白色の固体 化合物(B1)を2.36g(0.0047mol)得た。
【0251】
<合成例7〜10>
合成例6(化合物B1−iiの合成)において、「1−ブロモブタン」を「1−ブロモ−2−メチルブタン」、「1−ブロモヘキサン」、「1−ブロモ−2−エチルヘキサン」及び「1−ブロモデカン」に替えて同様の反応を実施し、それぞれ本発明の化合物B2、B3、B4およびB5を得た。
【0252】
合成した本発明の化合物B1〜B5及びDOSについて、上記と同様に動摩擦係数の測定を行った(実施例6〜10及び比較例3)。結果を下記表8に示す。
【0253】
【表8】
【0254】
<合成例11>混合物態様の化合物Bの製造
以下に示す反応スキームに従い、混合物態様の本発明の化合物B(B1、B3及びB6)を合成した。
【0255】
【化22】
【0256】
100mlの三つ口フラスコに4,4’−ビフェノール8.9g(0.048mol)と、炭酸カリウム20.0g(0.145mol)、DMF70mlを加え室温で1時間撹拌した。さらに化合物(A1−iii)を12.7g(0.048mol)、化合物(B1−iii)を11.38g(0.048mol)を加え80℃で24時間撹拌した。
【0257】
反応液を10%冷希塩酸300mlに注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて300mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。
【0258】
無水硫酸ナトリウムを濾過にて除去し、ジエチルエーテルをエバポレータにて減圧除去した。残渣にヘキサン80mlを加え、60℃に加熱して、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。ヘキサンをエバポレーターにて減圧除去し、本発明の化合物(B1)、(B3)、及び(B6)の混合物17.0gを得た。
【0259】
[実施例11及び比較例4]
<合成例12>
以下に示す通り、混合物態様の本発明の化合物B(B3、B7及びB8)を合成した。
【0260】
{化合物(A2−iii)の合成}
以下に示す反応スキームに従い、化合物(A2−iii)を合成した。
【0261】
【化23】
【0262】
(1)化合物(A2−ii)の合成
1000mlのナス型フラスコにエタノール400mlを入れ、金属ナトリウム13.8g(0.6mol)を溶解した。これに、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを71.0g(0.6mol)を加え、エタノールをエバポレーターで減圧除去した。
【0263】
残渣にDMF200mlを加え、窒素雰囲気下で70℃、24時間撹拌した。その後、1−ブロモプロパンを73.8g(0.6mol)加え、窒素雰囲気下、70℃で24時間攪拌した。
【0264】
反応液を、10%冷希塩酸600mlに注ぎ、2Lの分液漏斗を用いて600mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、そこに蒸留水600mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて一晩脱水した。無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルをエバポレーターにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、無色透明の液体である式(A2−ii)の化合物を24.0g(0.15mol)得た。
【0265】
(2)化合物(A2−iii)の合成
100mlの三口フラスコに式(A2−ii)の化合物を22.4g(0.14mol)、ピリジン1.0g(0.013mol)を入れた。三臭化燐36.6g(0.14mol)をトルエン20mlに溶解させた溶液を、反応液を5℃以下に保つように氷浴で冷却しながら、滴下漏斗により反応液に滴下した。滴下終了後、窒素雰囲気下、室温にて12時間撹拌した。
【0266】
反応液を氷水300mlに注ぎ、ジエチルエーテル300mlで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて、一晩脱水した。無水硫酸ナトリウムを除去し、ジエチルエーテルをエバポレーターにて減圧除去した。残渣を減圧蒸留し、無色透明の液体である式(A2−iii)の化合物を26.7g(0.12mol)得た。
【0267】
<混合物様態の本発明の化合物B(B3、B7及びB8)の製造>
下記に示す反応スキームに従い、混合物様態の本発明の化合物B(B3、B7及びB8)の合成を行った。
【0268】
【化24】
【0269】
100mlの三口フラスコに4,4’−ビフェノール8.9g(0.048mol)と、炭酸カリウム20.0g(0.145mol)、DMF70mlを加え室温で1時間撹拌した。さらに式(A2−iii)の化合物を10.7g(0.048mol)、式(A1−iii)の化合物を12.7g(0.048mol)加え80℃で24時間撹拌した。
【0270】
反応液を10%冷希塩酸300mlに注ぎ、1Lの分液漏斗を用いて300mlのジエチルエーテルで目的物を抽出した。エーテル層を得て、それに蒸留水300mlを加えよく振り洗浄し、エーテル層を分液により得た。そこに無水硫酸ナトリウムを加えて一晩脱水した。
【0271】
無水硫酸ナトリウムを濾過にて除去し、ジエチルエーテルをエバポレータにて減圧除去した。残渣にヘキサン80mlを加え、60℃に加熱して、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。ヘキサンをエバポレーターにて減圧除去し、本発明の化合物
(B7)、(B8)、及び(B3)の混合物16.5gを得た。
【0272】
<経時蒸発損失の測定(実施例11及び比較例4)>
以上の合成例12で得た(B7)、(B8)、及び(B3)の混合物と、代表的な潤滑油であるDOS(セバシン酸ジオクチルエステル)とを、それぞれステンレス製容器に1.0000g入れたものを3個ずつ用意した。それらを100℃の恒温槽(常圧)に入れ、所定の時間で取り出し、電子天秤にて重量を測定し、減少した重量(蒸発損失)の平均値をグラフにプロットした。結果を図1に示す。
【0273】
図1より、DOSと比較して、(B7)、(B8)、及び(B3)の混合物は、100℃の環境ではほとんど蒸発損失がないことがわかる。
図1