(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5916965
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】オルガノシラン水溶液及びその保存方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/22 20060101AFI20160422BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20160422BHJP
A01N 55/00 20060101ALI20160422BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20160422BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
A01N25/22
A01N25/02
A01N55/00 B
A01P1/00
A01P3/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-536334(P2015-536334)
(86)(22)【出願日】2015年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2015056950
(87)【国際公開番号】WO2015141516
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-55190(P2014-55190)
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大浦 亮二
【審査官】
井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−031290(JP,A)
【文献】
国際公開第97/036980(WO,A1)
【文献】
特開2011−098976(JP,A)
【文献】
米国特許第04005028(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C07F
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物;乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸;並びにエタノール
を含有する、オルガノシラン水溶液。
一般式(1):
【化1】
(式中、nは、1〜10の整数であり、R
1は、炭素数10〜30のアルキル基であり、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、X
−は、ハロゲンイオンである。)
【請求項2】
上記一般式(1)で表される化合物の含有量が、0.001質量%〜0.8質量%である、
請求項1に記載のオルガノシラン水溶液。
【請求項3】
pHが4.0〜7.0である、
請求項1又は2に記載のオルガノシラン水溶液。
【請求項4】
上記酸の含有量が、全オルガノシラン水溶液の質量に対して10ppm〜100ppmである、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のオルガノシラン水溶液。
【請求項5】
上記酸が、乳酸である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のオルガノシラン水溶液。
【請求項6】
−30℃〜50℃の温度条件下で、6ヶ月以上安定である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のオルガノシラン水溶液。
【請求項7】
上記一般式(1)で表される化合物が、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドである、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のオルガノシラン水溶液。
【請求項8】
下記一般式(1)で表される化合物、エタノール及び水を含む混合物に、乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有させ、−30℃〜50℃の温度条件下で保存する、
請求項1〜7のいずれか1項に記載のオルガノシラン水溶液の保存方法。
一般式(1):
【化2】
(式中、nは、1〜10の整数であり、R
1は、炭素数10〜30のアルキル基であり、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、X
−は、ハロゲンイオンである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノシラン水溶液及びその保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活雑貨や衣類等の生活環境に対する、衛生、抗菌志向が高まっている。特に、高齢化社会の到来により、介護現場等での環境改善や、インフルエンザ、ノロウイルス等の病原体ウイルスに対する簡便な不活化対策として、タオル、マスク等の生活環境を取り巻く物品等に抗菌・抗ウイルス処理をすることで、被感染や2次感染のリスクを軽減することが望まれており、使い勝手の良いスプレータイプ等の形態の抗菌剤が多数上市されている。
【0003】
このようなニーズに対して、シランカップリング剤であるケイ素含有化合物を含む抗菌剤組成物及び抗ウイルス剤組成物が開発されている(特許文献1〜4参照)。これらの組成物をエタノールと水で希釈したものは、対象物に塗布すると、組成物中のシランカップリング剤が対象物に固定化され、抗菌及び抗ウイルス効果を長期間発揮することができる。従来の抗菌剤と比較すると極めて優れたものであり実用化もされている。
【0004】
しかし、シランカップリング剤は一般的に加水分解を経て縮重合して析出するため、溶液が白濁又はゲル化するという欠点を持つ。シランカップリング剤がこのような状態になると、期待通りの効果を発揮できないことに加え、スプレータイプの様な商品形態では、噴射口が詰まる等の不具合も懸念される。製造後から使用までの保存期間を考慮すると、想定されうる保存温度環境下において、数カ月単位での長期間における白濁又はゲル化の抑制が必要である。
【0005】
このような不具合に対して、抗菌剤組成物溶液中に両/陽イオン界面活性剤を添加する(特許文献1及び2参照)、pHを2.0〜3.5の範囲に調整する(特許文献3参照)、水溶性有機第4級アンモニウム化合物及び陽イオン系界面活性剤を添加する(特許文献4参照)、塩酸、酢酸等の酸でpH2.0〜3.0の範囲に調整してグリコールエーテル及び陽イオン性界面活性剤を添加する(特許文献5参照)等の対策が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−98976号公報
【特許文献2】国際公開第2010/073825号
【特許文献3】特開2007−31290号公報
【特許文献4】特表平06−505036号公報
【特許文献5】特表2009−528326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしこれらの対策では数カ月単位の長期間の白濁又はゲル化の抑制には不十分であり、特に高温や低温領域での効果が得られにくい。また、pH2.0〜3.5の条件は、対象物の腐食や人体への影響等の可能性を考えると使用環境上好ましいとは言えない。したがって本発明の目的は、通常の保存等で想定されうる温度環境下において、数カ月単位で白濁又はゲル化を抑制できるオルガノシラン水溶液、即ち、長期保存安定性に優れるオルガノシラン水溶液、及びその保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために完成した本発明は、
<1>下記一般式(1)で表される化合物;乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸;並びにエタノールを含有する、オルガノシラン水溶液。
一般式(1):
【化1】
(式中、nは、1〜10の整数であり、R
1は、炭素数10〜30のアルキル基であり、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、X
−は、ハロゲンイオンである。)
【0009】
<2>上記一般式(1)で表される化合物の含有量が、0.001質量%〜0.8質量%である、<1>に記載のオルガノシラン水溶液。
【0010】
<3>pHが4.0〜7.0である、<1>又は<2>に記載のオルガノシラン水溶液。
【0011】
<4>上記酸の含有量が、全オルガノシラン水溶液の質量に対して10ppm〜100ppmである、<1>〜<3>のいずれかに記載のオルガノシラン水溶液。
【0012】
<5>上記酸が、乳酸である、<1>〜<4>のいずれかに記載のオルガノシラン水溶液。
【0013】
<6>−30℃〜50℃の温度条件下で、6ヶ月以上安定である、<1>〜<5>のいずれかに記載のオルガノシラン水溶液。
【0014】
<7>上記一般式(1)で表される化合物が、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドである、<1>〜<6>のいずれかに記載のオルガノシラン水溶液。
【0015】
<8>下記一般式(1)で表される化合物、エタノール及び水を含む混合物に、乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有させ、−30℃〜50℃の温度条件下で保存する、<1>〜<7>のいずれかに記載のオルガノシラン水溶液の保存方法。
一般式(1):
【化2】
(式中、nは、1〜10の整数であり、R
1は、炭素数10〜30のアルキル基であるり、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、X
−は、ハロゲンイオンである。)
【発明の効果】
【0016】
本発明のオルガノシラン水溶液は、製造から使用までの長期間に渡って白濁又はゲル化することを抑制でき、長期保存安定性に優れるため、抗菌剤、抗ウイルス剤等として用いた場合に、その性能を長期間保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
<オルガノシラン水溶液>
本発明のオルガノシラン水溶液(以下、「当該水溶液」ともいう)は、下記一般式(1):
【0019】
【化3】
(式中、nは、1〜10の整数であり、R
1は、炭素数10〜30のアルキル基であり、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、X
−は、ハロゲンイオンである。)
で表される化合物(以下、「当該オルガノシラン化合物」ともいう)、乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸、並びにエタノールを必須成分として含む。当該水溶液は、溶媒である水中に、当該オルガノシラン化合物、乳酸及び/又は酢酸、並びにエタノールを含むことで、想定されうる保存温度環境下、即ち、冷凍・冷蔵温度、室温、ある程度の高温条件等において長期間保存しても、白濁、ゲル化を起こしにくく、長期保存安定性に優れる。
【0020】
ここで、「長期保存安定性に優れる」とは、密封容器に入れた当該水溶液が、−30℃〜50℃、好ましくは−16℃〜40℃での保存下において、3ヶ月以上、好ましくは6ヶ月以上、より好ましくは1年以上、さらに好ましくは2年以上白濁又はゲル化を生じず澄明である状態、又は生じた白濁若しくはゲル化成分が沈殿していない状態を意味する。なお、保存温度条件については、当該水溶液は、上記温度範囲のいずれかの温度で上記の期間安定であればよい。当該水溶液は、従来と比較して、飛躍的に保存安定期間を延長することが可能となり、その効果は、上記広い温度範囲で有効であるため、製造から使用までに想定されうる保存環境下において、長期間に渡って商品の品質劣化を防止できる。
【0021】
当該水溶液が含む各成分について以下に説明する。
【0022】
[オルガノシラン化合物]
当該水溶液が含むオルガノシラン化合物は上記式(1)で表される。上記式(1)中、nは、1〜10の整数である。R
1は、炭素数10〜30のアルキル基である。R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基である。X
−は、ハロゲンイオンである。
【0023】
上記式(1)で表されるオルガノシラン化合物は、トリエトキシシラン構造と、4級アンモニウム塩構造とを含んでいる。この4級アンモニウム塩構造は、一般の手指消毒薬にも含まれている4級アンモニウム塩と同様の構造であり、抗菌、抗ウイルス作用等を有する。一方、このトリエトキシシラン構造部分は、素材(ガラス、木、金属、繊維等)に化学的に結合して固定化されるため、当該水溶液を塗布された対象物は、上記抗菌・抗ウイルス作用等を有する構造部分により表面を覆われ、一定期間の抗菌・抗ウイルス効果を保持できる。ここで、「抗菌」とは、細菌及び真菌類の殺菌又は損傷、或いはこれらの増殖防止を意味し、「抗ウイルス」とは、病原体ウイルスの不活化を意味する。また、「固定化」とは、抗菌・抗ウイルス性を付与したい対象物に当該水溶液を塗布した際、当該オルガノシラン化合物のシランカップリング剤の作用により、当該オルガノシラン化合物が化学的に結合することを意味する。
【0024】
上記式(1)中、nは、1〜10の整数であり、1〜6であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。
【0025】
上記式(1)中、R
1は、炭素数10〜30のアルキル基であり、当該オルガノシラン化合物が有する上記抗菌・抗ウイルス性の観点から、炭素数12〜24のアルキル基であることが好ましく、炭素数15〜20のアルキル基であることがより好ましく、オクタデシル基であることがさらに好ましい。なお、上記アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状の鎖状アルキル基でもよいし、シクロアルキル基でもよいが、上記抗菌・抗ウイルス性の観点から、鎖状アルキル基が好ましい。
【0026】
上記式(1)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、当該オルガノシラン化合物が有する上記抗菌・抗ウイルス性の観点から、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0027】
上記式(1)中、X
−は、ハロゲンイオンであり、F
−、Cl
−、Br
−、I
−が好ましく、Cl
−がより好ましい。
【0028】
上記式(1)で表されるオルガノシラン化合物としては、オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドが好ましい。
【0029】
当該水溶液における、当該オルガノシラン化合物の含有量としては、0.0001質量%〜0.9質量%が好ましく、0.001質量%〜0.8質量%がより好ましく、0.005質量%〜0.6質量%がさらに好ましい。当該オルガノシラン化合物の含有量を上記数値範囲内とすることで、当該水溶液の長期保存安定性と抗菌・抗ウイルス性とを両立することができる。
【0030】
[酸]
当該水溶液は、乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含む。当該水溶液は、上記酸を含むことで、長期保存時においても白濁及びゲル化が抑制され、長期保存安定性に優れる。塩酸等を用いてpH2〜3に調整するような従来技術では、塗布面の腐食や人体への影響等の懸念があった。乳酸及び/又は酢酸を含む当該水溶液は、pHを弱酸性〜中性付近、具体的にはpH4.0〜7.0の範囲に調整しても、冷凍・冷蔵温度条件〜ある程度の高温条件に渡る広い温度範囲で、十分に白濁及びゲル化抑制効果を示し、長期保存安定性に優れる。一方、乳酸及び酢酸以外の酸として、例えばクエン酸等を添加したオルガノシラン水溶液では、特に冷凍温度条件下で長期保存した場合に、白濁、ゲル化が起こり易いという不都合があった。また、ホウ酸を添加した場合には、2ヶ月程度で白濁、ゲル化が起こり、特に高温領域での安定性に問題があった。当該水溶液は、pHを弱酸性〜中性付近とした場合でも、十分な長期保存安定性を示すことから、当該水溶液は、塗布面の腐食や人体への影響等の懸念が少ないという利点もある。
【0031】
当該水溶液は、乳酸か酢酸のどちらか一方を含んでいてもよく、両方を含んでいてもよいが、種々の温度条件下での保存安定性をより長期間維持できるという観点から、乳酸のみを含んでいることが好ましい。
【0032】
当該水溶液中の上記酸の濃度は特に限定されないが、極少量含むだけで、長期保存安定性効果を得ることが可能である。その濃度は、好ましくは当該水溶液の全質量に対して、5ppm〜200ppmであり、10ppm〜100ppmが好ましく、15ppm〜50ppmがより好ましい。
【0033】
[エタノール]
当該水溶液は、エタノールを含む。当該水溶液中のエタノールと水の比率は特に限定されず、質量比で、エタノール:水=40:60〜80:20であり、殺菌・消毒性能が最も高いといわれる、エタノール:水=70:30が好ましい。ここで、当該水溶液における「水」としては、特に限定されないが、例えば、水道水等の常水、工業用水等の工水、イオン交換水、純水等を用いることができる。中でも、イオン交換水が好ましい。
【0034】
当該水溶液は、上述した必須成分に加えて必要に応じ、例えば、アルコール事業法で定められた添加物(例えば、メタノール、イソプロパノール、香料等)等を含むことや、添加する上記酸に対応した塩を添加して、pH緩衝液とすることも可能である。
【0035】
当該水溶液のpHは、広い温度範囲での長期保存安定性を向上させる観点、塗布面の腐食や人体への影響等の懸念が少ないという観点から、4.0〜7.0が好ましく、4.0〜6.8がより好ましく、4.3〜6.6がさらに好ましい。
【0036】
<オルガノシラン水溶液の製造方法>
本発明のオルガノシラン水溶液の製造方法は、特に限定されるものではなく、当該オルガノシラン化合物、エタノール、乳酸及び/又は酢酸、水を任意の順で混合・溶解することで、本発明のオルガノシラン水溶液を得ることができる。上記製造方法としては、例えば、室温下でエタノールと水を混合撹拌している中へ、乳酸及び/又は酢酸を添加し、さらに当該オルガノシラン化合物を添加する。全原料が十分均一に混合溶解されるまで撹拌を継続することで、本発明のオルガノシラン水溶液が得られる。
【0037】
<オルガノシラン水溶液の保存方法>
本発明のオルガノシラン水溶液の保存方法は、下記一般式(1)で表される化合物、エタノール及び水を含む混合物に、乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含有させ、−30℃〜50℃の温度条件下で保存することを特徴とする。
一般式(1):
【化4】
(式中、nは、1〜10の整数である。R
1は、炭素数10〜30のアルキル基である。R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基である。X
−は、ハロゲンイオンである。)
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例を具体的に示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。尚、実施例中の略号は以下のとおりである。
ESi−QAC:上記式(1)で表される化合物で、化合物名オクタデシルジメチル(3−トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリド
【0039】
[実施例1〜15]
下記操作に従いオルガノシラン水溶液を作成した。尚、各成分の使用量、エタノール:イオン交換水の質量比、作成した水溶液のESi−QAC濃度及び酸濃度、作成した水溶液のpHを表1〜3に示す。
【0040】
エタノール(和光純薬工業(株))とイオン交換水を、室温下でビーカーに入れ、マグネティックスターラーで撹拌混合した。混合を継続しながら、乳酸又は酢酸(全て和光純薬工業(株))を添加し、次いで、ESi−QAC(マナック(株))を添加後、約1時間撹拌混合を行い、無色澄明のオルガノシラン水溶液を得た。
【0041】
[比較例1〜5]
下記操作に従いオルガノシラン水溶液を作成した。尚、各成分の使用量、エタノール:イオン交換水の質量比、作成した組成物中のESi−QAC濃度及び酸濃度、作成した水溶液のpHを表2〜3に示す。
【0042】
エタノール(和光純薬工業(株))とイオン交換水を、室温下でビーカーに入れ、マグネティックスターラーで撹拌混合した。混合を継続しながら、ESi−QAC(マナック(株))を添加後、約1時間撹拌混合を行い、無色澄明のオルガノシラン水溶液を得た。尚、比較例2〜4においては、ESi−QACを添加する前に所定量の酸を添加した。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
[保存安定性試験]
実施例1〜15及び比較例1〜5で得られたオルガノシラン水溶液について、保存安定性試験を実施した。試験方法及び試験条件について説明する。各試験試料は、約20ml容量の無色透明ガラス製ねじ口瓶に、約20ml充填して蓋を閉め密封した。充填の際は、液中のゴミを除くため、200メッシュの濾布で自然濾過を行った。試験試料を、−16℃、4℃、室温(10℃〜30℃の間で変動)、40℃の温度条件下で保存し、外観変化を目視で観察した。試験結果を表4〜6に示す。尚、試験結果は下記の方法で評価し、表に記載した。また、表中のn.d.は未測定であることを示す。
○:澄明
×:白濁又はゲル化若しくはそれらの成分が沈殿
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
実施例1及び5のオルガノシラン水溶液については、さらに長期間に渡って保存安定性試験を行ったところ、2年経過後においても、−16℃、4℃、室温及び40℃の全ての温度条件下で澄明であった。
【0051】
表4〜6に示すように、本発明に係るオルガノシラン水溶液は、各保存温度条件において、長期保存安定性に極めて優れていることがわかる。表6に示すように、本発明のオルガノシラン水溶液は、酢酸、乳酸以外の酸を添加した比較例のオルガノシラン水溶液と比較して、より長期間に渡る保存安定性、特に冷凍温度条件における保存安定性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のオルガノシラン水溶液は、製造から使用までの長期間に渡って白濁又はゲル化することを抑制でき、長期保存安定性に優れる。従って、本発明のオルガノシラン水溶液は、特に使い勝手の良いスプレータイプ等の形態の抗菌剤、抗ウイルス剤等として好適に用いられる。本発明のオルガノシラン水溶液は環境汚染のない簡単な処理で、金属、ガラス、セラミックス、樹脂、繊維等の各種素材の表面に抗菌性、抗ウイルス性を付与することができ、長期保存安定性にも優れることから、医療分野、食品分野等の抗菌、抗ウイルス作用が求められる分野において特に好適に用いることができる。