(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハやLCD用ガラス等の被加工物の研磨加工は、例えば、次のようにして行なわれる。すなわち、
図18に示すように、研磨装置の上下に対向する定盤の上側定盤9に、研磨加工が施される被加工物10を保持し、下側定盤11に、研磨パッド12を貼り付け、被加工物10の表面を研磨パッド12に圧接させつつ両定盤間に砥粒を含む研磨液を供給しながら両定盤9,11を矢符で示すように相対回転させることにより行なわれる。
【0003】
従来、被加工物10は、上側定盤9に固定されて被加工物10の裏面を吸着保持する被加工物保持材としてのバッキング材13と、被加工物10の外周を取り囲んで被加工物10がバッキング材13表面で位置ずれするのを防止する枠状のテンプレート14とを用いて上側定盤9に保持される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記バッキング材13としては、例えば、基材に塗工したウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液層を水中にて湿式凝固させ、温水中で洗浄、熱風で乾燥を行って、
図19(a)に示すように基材1上に発泡層2を形成し、所要の厚みに揃えるなどの目的で、
図19(b)に示すように、前記発泡層2の表面2aをバフ加工したものが用いられる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
前記バフ加工後の発泡層2の表面2a−2は、被加工物を吸着保持する保持面となるのであるが、バフ加工では、十分な平滑面が得られず、このため、被加工物の吸着保持力が不十分となっていた。
【0006】
このため、
図20(a)に示すように、基材1上に形成された発泡層2の表面2aをバフ加工することなく、
図20(b)に示すように、基材1から発泡層2を剥離し、
図20(c)に示すように、表面2aを平坦な圧接ローラ7に圧接し、
図20(d)に示すように発泡層2の裏面2b側をバフ加工した後、
図20(e)に示すように両面テープ8等に再び接着したバッキング材がある(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかるバッキング材では、表面に多数の気泡が開口しているので、表面から亀裂が入って破断しやすく、被研磨物の脱着時に被加工物保持材を破損してしまう場合がある。
【0009】
本発明は、上述のような点に鑑みて為されたものであって、強度を高めた被加工物保持材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
【0011】
本発明の被加工物保持材は、
多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備えるとともに、前記発泡層の表面が、被加工物を保持する保持面とされる被加工物保持材であって、前記発泡層は、その密度が、当該発泡層における表面側及び裏面側では、厚み方向の中央部に比べて大きく、前記表面側から及び前記裏面側から厚み方向の中央部側にそれぞれいくにつれて小さくなるように傾斜した密度分布を有している。
【0012】
本発明によると、発泡層は、その密度が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側で小さくなるように傾斜した密度分布となっているので、表裏面は密度が大きく、緻密で強度が高いものとなり、中央部側に向かって密度が徐々に小さくなるので、内部で密度の急激な変化がなく、破損しにくいものとなる。
【0013】
また、本発明の被加工物保持材は、
多数の涙滴状の気泡を有する発泡層を備えるとともに、前記発泡層の表面が、被加工物を保持する保持面とされる被加工物保持材であって、前記発泡層は、その縦断面における単位面積当たりの空隙部の割合である空隙率が、当該発泡層における表面側及び裏面側では、厚み方向の中央部に比べて小さく、前記表面側から及び前記裏面側から厚み方向の中央部側にそれぞれいくにつれて大きくなるように傾斜した空隙率分布を有している。
【0014】
本発明によると、発泡層は、空隙率が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側で大きくなるように傾斜した空隙率分布を有している、換言すると、発泡層は、その密度が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側で小さくなるように傾斜した密度分布となっているので、表裏面は密度が大きく、緻密で強度が高いものとなり、中央部側に向かって密度が徐々に小さくなるので、内部で密度の急激な変化がなく、破損しにくいものとなる。
【0015】
好ましい実施形態では、前記発泡層は、基材上に樹脂溶液を塗工して湿式凝固させてなり、前記樹脂溶液が、ウレタン樹脂溶液であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発泡層は、その密度が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側で小さくなるように傾斜した密度分布となっているので、表裏面は密度が大きく、緻密で強度が高いものとなり、中央部側に向かって密度が徐々に小さくなるので、内部で密度の急激な変化がなく、破損しにくいものとなる。これによって、被加工物の脱着時に被加工物保持材を破損するのを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面によって本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る被加工物保持材の製造方法を示す図である。
【0020】
この実施形態の被加工物保持材は、次のようにして製造される。先ず、ウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を、PETフィルム等の基材1上に塗工し、湿式凝固法により、
図1(a)に示すように、基材1上に、涙滴状の気泡などの多数の気泡を有する多孔質の発泡層2を形成する。この発泡層2を、
図1(b)に示すように基材1から剥離する。
【0021】
次に、発泡層2の表裏両面2a,2bに
図1(c)に示すように、平滑部材としてのPETフィルム等の樹脂フィルム3をそれぞれ重ね、2本のヒートロール間を通過させることによって
図1(d)に示すように加熱加圧して一体化する。
【0022】
その後、表裏面の樹脂フィルム3を
図1(e)に示すように剥離し、裏面2b−1に両面テープ4を貼り付けて
図1(f)に示すように表面2a−1を被加工物の保持面する本発明に係る被加工物保持材を得ることができる。
【0023】
湿式凝固法によって、発泡層2を形成する工程では、湿式発泡の際に、発泡層が若干収縮するのに対して、PETフィルム等からなる基材1が収縮しないために、発泡層2に歪が生じ、この歪が、被研磨物を保持する発泡層2の表面に筋となって現れ、例えば、2psi以下の低圧研磨においては、前記筋を押し潰すことができないために、研磨面に影響を及ぼす場合があるが、この実施形態では、発泡層2から基材1を剥離するので、発泡層2の歪が解放されることになり、これによって、歪に起因する上記のような不具合が生じることもない。
【0024】
発泡層2を形成するためのウレタン樹脂としては、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などのウレタン樹脂を用いることができ、異なる種類のウレタン樹脂をブレンドしてもよい。
【0025】
ウレタン樹脂を溶解させる水溶性有機溶媒としては、上述のジメチルホルムアミドの他、例えば、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド等の溶媒を用いることができる。
【0026】
この実施形態の被加工物保持材では、基材1から剥がした発泡層2の表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を挟んでヒートロールで加熱加圧するので、発泡層2の気泡等が押し潰され、表面2a−1側および裏面2b−1側は、
当該発泡層2における厚み方向の中央部に比べて空隙部が少なく、密度が大きくなっており、厚み方向の中央部側にいくにつれて密度が小さくなるような傾斜した密度分布となっている。
【0027】
このように発泡層2は、その密度が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側で徐々に小さくなるように傾斜した密度分布を有している、すなわち、厚み方向で密度が急激に変化していないので、破損しにくいものとなる。
【0028】
特に、表裏面側は、上述のように気泡等が潰れて緻密であるので、強度が高くなっており、一層、破損しにくいものとなり、被研磨物の脱着時に被加工物保持材が破断するのを防止することができる。
【0029】
また、表裏面側は、空隙部が少なく緻密になっているので、研磨加工する際に、研磨液の浸透が緻密な表裏面によって阻止されることになる。これによって、被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層2が、両面テープ4から剥がれるのを抑制することができる。
【0030】
また、平滑な樹脂フィルム3を挟んで加熱加圧した後、樹脂フィルム3を剥がすので、発泡層2の表裏両面2a−1,2b−1は平滑なものとなり、これによって、被加工物保持材を保持する保持面となる発泡層2の表面2a−1の吸着保持力が向上する。
【0031】
更に、発泡層の表面および裏面のいずれもバフ加工する必要がないので、バフ粉が、開口した気泡(ポア)の孔内に残存することがない。
【0032】
この発泡層2について、次のようにして評価を行った。すなわち、
図1(c)に示すように、表裏両面2a,2bに、平滑な樹脂フィルム3を重ねて厚みを1.2mmとした発泡層2を、
図2に示すように間隙が1.0mmで、150℃の上下のヒートロール5,6間を1.0m/minで通過させ、その後、樹脂フィルム3を剥離した表面側、すなわち、
図1(e)に示される実施例の発泡層2の表面2a−1側を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察するとともに、樹脂フィルム3を剥離した裏面、すなわち、
図1(e)に示される裏面2b−1を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。
【0033】
一方、比較例として、
図1(b)に示す基材1から剥離した発泡層2の表面2aおよび裏面2b、すなわち、樹脂フィルム3を重ねたヒートロール5,6による加熱加圧を行っていない発泡層2の表面2aおよび裏面2bについて、同様に、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した。
【0034】
更に、実施例および比較例の発泡層の密度分布を評価するために、発泡層の断面のSEM写真に基づいて、下記のようにして空隙率を測定した。
【0035】
この空隙率は、発泡層の断面のSEM写真において、単位面積当りにおける空隙部が占める割合(%)を、画像処理ソフト(WinROOF、三谷商事製)を用いて算出した。すなわち、表面から厚み100μm毎に、100μm四方の面積について、WinROOFの測定条件を、コントラスト:100、明るさ:50、閾値:0−200として測定を行った。
【0036】
また、実施例および比較例について、同様にして、単位面積当たりの気泡を測定して平均値を算出して平均気泡径を求めた。
【0037】
図3および
図4は、倍率500倍の比較例および実施例の表面の縁部分におけるSEM写真であり、
図5および
図6は、倍率2000倍の比較例および実施例の表面の縁部分のSEM写真であり、これらの図では、表面の縁部分をSEM像とし、表面および側面を観察できるようにしている。
【0038】
また、
図7および
図8は、倍率1000倍の比較例および実施例の裏面のSEM写真である。
【0039】
樹脂フィルム3を重ねてヒートロール5,6を通過させた後、樹脂フィルム3を剥離した
図4および
図6に示される実施例の発泡層の表面側は、
図3および
図5の比較例の発泡層の表面側に比べて、小さな気泡(ポア)がつぶれ、空隙部が少なく緻密になっているとともに、表面が平滑となっている。
【0040】
また、
図8の実施例の発泡層の裏面も小さな気泡(ポア)がつぶれ、
図7の比較例に比べて緻密となっている。
【0041】
実施例および比較例の上述の空隙率の測定結果を、
図9および
図10に示す。
【0042】
これらの図において、横軸は表面からの距離(μm)に、縦軸は空隙率(%)にそれぞれ対応している。
【0043】
図9の実施例では、発泡層の空隙率が、表面側は小さく、厚み方向の中央部にいくにつれて大きくなり、中央部を越えて裏面側にいくにつれて小さくなっている。すなわち、発泡層の空隙率が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側で大きくなるように傾斜した分布を有している。密度を用いて言い換えると、発泡層の密度が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側で小さくなるように傾斜した分布を有している。
【0044】
これに対して、
図10の比較例では、発泡層の空隙率が、表面側は小さく、厚み方向の中央部にいくにつれて大きくなり、一旦、小さく平坦になった後、再び裏面側にいくにつれて大きくなっている。
【0045】
図9の実施例では、表裏面から厚み方向の中央部に徐々に空隙率が大きくなっているのに対して、
図10の比較例では、厚み方向の中央部で、一旦大きくなった後、裏面側でも空隙率が大きくなっており、空隙率の変化も実施例に比べて急激である。
【0046】
このように実施例では、厚み方向の表裏面側よりも中央部側が徐々に小さくなるように傾斜した密度分布を有しているので、厚み方向の内部で、密度が急激に変化する従来例に比べて、破損しにくくなり、特に、実施例では、表裏面が緻密で強度が高くなっているので、一層、破損しにくくなる。
【0047】
図11および
図12に、実施例および比較例の平均気泡径の測定結果を示す。
【0048】
図11の実施例では、平均気泡径が、表面側および裏面側で小さく、表裏面側が緻密であるのに対して、
図12の比較例では、表面側から裏面側にいくにつれて平均気泡径が大きくなっている。
【0049】
このように実施例では、表面側および裏面側は、比較例の表面側および裏面側に比べて、いずれも空隙部が少なく緻密となっており、研磨加工する際に、研磨液の浸透が表面側および裏面側によって阻止されることになる。これによって、研磨液が浸透して被加工物の平坦度を悪化させたり、発泡層が、両面テープから剥がれるのを抑制することができる。更に、開口が押し潰された表面層および裏面層によって、強度が高まるとともに、密度が、厚み方向の表裏面側よりも中央部側が徐々に小さくなるように傾斜した分布となっているので、密度が急激に変化する箇所がなく、破断しにくいものとなり、被研磨物の脱着時に被加工物保持材が破損するのを防止することができる。
【0050】
更に、被加工物保持材を保持する保持面となる発泡層の表面は、平滑な面となっているので、被加工物保持材を保持するための吸着保持力が向上する。
【0051】
この発泡層の表面の平滑性を評価するために、上記実施例および比較例の表面うねりを測定した。
測定条件は、下記の表1の通りである。
【0053】
図13に比較例のろ波うねり曲線を、
図14に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0054】
また、実施例と比較例のWa(算術平均うねり)、Wcmax(うねり曲線要素の高さの最大値)、および、Wfpd(ろ波中心線うねり曲線中のある基準長さについての真直度の、評価長さの範囲内での最大値)の計測結果を、表2に示す。
【0056】
図13、
図14および表2に示すように、実施例の発泡層の表面は、比較例に比べて、うねりが低減されていることがわかる。
【0057】
表2に示されるように、実施例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、2.18μmであって、3μm以内であるのに対して、比較例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、5.93μmである。
【0058】
したがって、実施例の被加工物保持材によれば、被加工物の平坦性を改善することができる。
【0059】
更に、実施例の発泡層の裏面に両面テープを貼り付けた被加工物保持材の圧縮率を測定した。
【0060】
圧縮率は、サンプルに初期荷重を1分間かけたときの厚みT1を測定し、続けて第二荷重を1分間かけたときの厚みT2を測定し、次式によって算出した。
【0061】
圧縮率(%)=[(T1−T2)/T1]×100
実施例の被加工物保持材の圧縮率は、35.1%であった。
【0062】
この圧縮率は、20%〜60%であるのが好ましい。
【0063】
また、上記実施例および比較例とは、組成の異なる低モジュラスの発泡ポリウレタン樹脂を用いて別の実施例および別の比較例を製作し、同様に表面うねりを計測した。
【0064】
図15に比較例のろ波うねり曲線を、
図16に実施例のろ波うねり曲線をそれぞれ示す。
【0065】
また、実施例と比較例のWa、Wcmax、および、Wfpdの計測結果を、表3に示す。
【0067】
図15、
図16および表3に示すように、組成の異なるポリウレタン発泡樹脂であっても、うねりが低減されていることがわかる。
【0068】
表3に示されるように、実施例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、2.06μmであって、3μm以内であるのに対して、比較例のうねり曲線要素の高さの最大値Wcmaxは、3.33μmである。
【0069】
図17は、本発明の他の実施形態の被加工物保持材の製造方法を示す図であり、上述の
図1に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0070】
この実施形態の被加工物保持材は、先ず、ウレタン樹脂のDMF(ジメチルホルムアミド)溶液を、PETフィルム等の基材1上に塗工し、湿式凝固法により、
図17(a)に示すように、基材1上に、涙滴状の気泡などの多数の気泡を有する多孔質の発泡層2を形成する。
【0071】
次に、発泡層2が形成された基材1を、
図17(b)に示すように、樹脂フィルム3で挟んで、2本のヒートロール間を通過させることによって
図17(c)に示すように加熱加圧して一体化する。その後、表裏面の樹脂フィルム3を
図17(d)に示すように剥離し、表面2a−1を被加工物の保持面とした被加工物保持材を得るものである。
【0072】
この実施形態の被加工物保持材では、発泡層2の表面に樹脂フィルム3を重ねてヒートロールによる加熱加圧を行うので、発泡層2の表面2a−1側には、気泡等が押し潰されて空隙部が少ない緻密な層2a−1aが形成されるとともに、表面2a−1が平滑となっている。
その他の構成は、上述の実施の形態と同様である。