(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
冷感剤がl−メントール、乳酸メンチル及びカンフルから選ばれる1種又は2種以上であり、かつ含水高分子ゲル層又はナノファイバー層中における冷感剤の含有量が0.0001〜10質量%である請求項1〜5のいずれか1項記載の皮膚貼付用シート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の皮膚貼付用シートは、ヒトの皮膚に貼付して用いるものであり、含水高分子ゲル層に網目構造を有するナノファイバー層が積層されてなる。
含水高分子ゲル層は、高分子により形成されたゲルが多量の水分を保持して膨潤してなる層である。本発明の皮膚貼付用シートを皮膚に貼付した際、含水高分子ゲル層が皮膚に直接接触することによって皮膚からゲル層へと熱が伝わり、次いでゲル層中の水が蒸散して皮膚から気化熱を奪うことによって皮膚を冷却する。一方、含水高分子ゲル層に積層されたナノファイバー層では、後述するように、含水高分子ゲル層から蒸散してくる水分を滞留させることなく容易に通過させ、シート外へ放出されるのを促進するので、継続的にゲル中の水が蒸散し、長時間に亘って冷却効果を十分に発揮することができる。
【0012】
含水高分子ゲル層中における水分含有量は、水の気化熱により持続的に皮膚を冷却する観点や保形性の点から、好ましくは40〜99質量%、また好ましくは50〜98質量%、より好ましくは70〜97質量%、さらに好ましくは80〜96質量%である。
【0013】
含水高分子ゲル層の厚みは、その組成により変動し得るが、後述するナノファイバー層がもたらす作用とも相まって、十分な水分量を供給しつつ高い冷却効果を長時間に亘り持続させる観点、及びゲル中における蓄熱を回避して良好な熱伝導性を確保する観点から、好ましくは0.01mm〜2mmであり、より好ましくは0.1〜1.5mmであり、さらに好ましくは0.1〜1mmである。
【0014】
含水高分子ゲル層を形成する高分子は、水を保持して膨潤しつつ適度な弾力性や伸縮性、柔軟性を有するゲルを形成し得るものであれば特に制限されないが、例えば、カルボキシル基、硫酸基、又はリン酸基なる官能基を有する高分子が挙げられる。具体的には、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のアニオン性セルロース誘導体、カラギーナン、アルギン酸及びその塩類、アニオン性の澱粉誘導体等が挙げられる。なかでも、高い保水量と、十分なゲル強度及び皮膚の凹凸やその動きに追従可能な柔軟性とを兼ね備える観点、並びにより高い水分量を保持し得る観点から、ポリ(メタ)アクリル酸類、アニオン性セルロース誘導体、カラギーナンが好ましく、カルボキシメチルセルロースがより好ましい。これら高分子の含有量は、含水高分子ゲル層中に、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%であり、かかる含有量となる量でゲル原液に配合するとよい。
【0015】
上記高分子によりゲルを形成する際、架橋剤を用いて高分子が有する官能基と反応させるのがよい。かかる架橋剤としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム等を含む酸化物や水酸化物、塩類のような金属イオン化合物;ポリリジン等のポリアミノ酸のようなカチオン性ポリマー;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等の多官能性エポキシ化合物が挙げられる。
【0016】
上記含水高分子ゲル層は、さらに十分な冷却感を発揮させる観点から冷感剤を含有するのが好ましい。これにより良好な冷涼感をも付与して冷却感をさらに増幅させることができ、例えば、本発明の皮膚貼付用シートを夏場の屋外での活動時のように、より持続性のある高い冷却効果が望まれるような場面等で使用するのに好適である。
【0017】
冷感剤としては、l−メントール、イソプレゴール、3−(l−メントキシ)プロパン−1,2−ジオール、p−メンタン−3,8−ジオール、6−イソプロピル−9−メチル−1,4−ジオキサスピロ−(4,5)−デカン−2−メタノール、コハク酸メンチル及びそのアルカリ土類塩、トリメチルシクロヘキサノール、N-エチル−2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキサン カルボキサミド、3−(l-メントキシ)−2−メチル-プロパン−1,2−ジオール、ハッカ油、ペパーミント油、ウィンターグリーン、メントン、メントングリセリンケタール、乳酸メンチル、カンフル等が挙げられる。なかでも、長時間に亘り心地よい冷涼感を持続させる観点から、l−メントール、乳酸メンチル、カンフルが好ましい。これら冷感剤の含有量は、含水高分子ゲル層中に、好ましくは0.0001〜10質量%、より好ましくは0.001〜5質量%、さらに好ましくは0.01〜1質量%である。
【0018】
通常、ヒトの正常な皮膚のpHは4〜6の範囲にあり、皮膚のpHが必要以上に変動すると皮膚の機能が妨げられてしまうことから、皮膚に直接接する含水高分子ゲル層のpHも上記範囲内であるのが好ましい。そのため、上記含水高分子ゲル層を形成するゲル原液のpHは、こうした貼付時の安全性を加味する観点から、好ましくは7.5以下であり、より好ましくは3.5〜6.5であり、さらに好ましくは4.0〜6.0である。かかるpHは、適宜pH調整剤を用いることによって、最終pHが上記範囲内となるように調整すればよい。pH調整剤としては、例えばコハク酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸又はこれらの塩、或いはリン酸又はその塩等が好適に使用される。
【0019】
上記含水高分子ゲル層には、上記成分のほか、通常、化粧品や医薬品等で用いられる他の成分、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の保湿剤;油剤;アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等の界面活性剤;薬効成分;パラオキシ安息香酸エステル等の防腐剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;溶解剤;着色料;「合成香料化学と商品知識」、印藤元一著、1996年化学工業日報社刊;「パフューム アンド フレバー ケミカルス(Perfume and Flavor Chemicals)」、ステファンアークタンダー(STEFFENARCTAMDER)著、1969年等の文献に記載された香料等を適宜含有させてもよい。
【0020】
含水高分子ゲル層を製造するには、例えば、まずこれを形成する上記高分子、水、必要に応じて冷感剤や他の成分を含有するゲル原液を調製する。次いで、剥離可能なフィルムや不織布にゲル原液を挟み込み、ベーカー式アプリケーター等を用いて展延する。このとき、ゲル原液を挟み込む一方の面をナノファーバー層としてもよい。そして、加温下で数日間熟成させることにより、含水高分子ゲル層を得る。
【0021】
網目構造を有するナノファイバー層は、上記含水高分子ゲル層の一方の面上に直接積層される層であり、繊維径がナノオーダーであるナノファイバーによって微細な網目構造が形成されている。かかる層を構成するナノファイバーは、一般に中実の繊維であるが、これに限られず、例えば中空のナノファイバーであってもよく、中空のナノファイバーが断面方向に潰れた形状のリボン状ナノファイバーであってもよい。また、ナノファイバー全体が網目構造を形成していればよく、個々のナノファイバーについては、少なくとも一部が一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向に配向していてもよい。
【0022】
ナノファイバーの平均繊維径は、比表面積を大きくしてより多くの水分を保持・蒸散させる観点から、好ましくは50nm以上2000nm未満であり、より好ましくは50nm以上1000nm未満であり、さらに好ましくは50nm以上800nmである。なお、ナノファイバーの平均繊維径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、ナノファイバーを10000倍に拡大して観察し、その2次元画像から欠陥(ナノファイバーの塊、ナノファイバーの交差部分、ナノファイバー原料液の液滴)を除いたナノファイバーから任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの繊維径を測定し、これらの値から求めた平均値を意味する。
【0023】
ナノファイバーの長さは、繊維径の100倍以上あれば繊維として用いることができ、その製造方法に応じて適宜選択すればよい。
【0024】
ナノファイバー層におけるナノファイバーの坪量は、皮膚貼付用シートの用途に応じて適宜選択すればよいが、含水高分子ゲル層に含まれる水分の蒸散を阻害せず、かつこの効果を長時間に亘って持続させる観点から、0.01〜100g/m
2であるのが好ましく、0.1〜50g/m
2であるのがより好ましく、0.1〜20g/m
2であるのがさらに好ましい。
【0025】
上記ナノファイバー層の厚みは、皮膚貼付用シートの用途に応じて適宜選択することができるが、含水高分子ゲル層に含まれる水分の蒸散を阻害せず、かつこの効果を長時間に亘って持続させる観点から、好ましくは500nm〜1mm、より好ましくは1μm〜500μmである。なお、ナノファイバー層の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定した値を意味する。測定時にナノファイバー層に加える荷重は、0.01Nとする。
【0026】
ナノファイバーは、高分子化合物を含有する原料液を用いて製造される。高分子化合物としては、天然高分子化合物及び合成高分子化合物のいずれをも用いることができるが、親水性高分子化合物であるのが好ましい。親水性高分子化合物としては、例えば、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子化合物;部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子化合物が挙げられる。これらの親水性高分子化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ナノファイバー形成後に水に完全に溶解してしまう高分子化合物の場合には、上記親水性高分子化合物に尿素やメラミン、フェノール樹脂等、水酸基と反応する架橋剤を加えて耐水化処理を行ったり、加熱処理を行い結晶化することで耐水化処理を行ったりすることが好ましい。なかでも、ナノファイバー層の製造が容易である観点から、プルラン等の天然高分子化合物、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等の合成高分子化合物を用いることが好ましく、ポリビニルアルコールがより好ましい。
なお、上記原料液には、高分子化合物の種類に応じ、溶媒としてアルコール等の有機溶媒を含有させる。
【0027】
また、疎水性高分子化合物としては、ポリウレタンやポリスチレン、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリビニルブチラール等の合成高分子化合物が挙げられる。
なお、前述した親水性高分子化合物と疎水性高分子化合物とを混合してナノファイバーを作成してもよい。
【0028】
ナノファイバーを製造するには、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)を用いるのが好ましい。かかる方法であると、ナノオーダーの繊維径をより均一な極細繊維に形成しやすく、また、これらを含水高分子ゲル層上に直接堆積させて、ナノファイバー層を積層することもできる。
【0029】
エレクトロスピニング法を実施するためには、シリンダ、ピストン及びキャピラリを備えたシリンジ、高電圧源、並びに導電性コレクタを有する装置を用いる。キャピラリの内径は好ましくは10〜1000μmであり、シリンダ内に上記高分子化合物を含有する原料液を充填する。高電圧源は、例えば10〜50kVの直流電圧源とし、その正極をシリンジ内の原料液と導通させ、負極を接地させる。導電性コレクタは、例えば金属製の板を用いて接地させる。シリンジにおけるニードルの先端と導電性コレクタとの間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定すればよい。かかる装置は、大気中、例えば温度20〜40℃、湿度10〜50%RHの環境下で運転することができる。
【0030】
次いで、シリンジと導電性コレクタとの間に電圧を印加した状態下に、シリンジのピストンを徐々に押し込み、キャピラリの先端から原料液を押し出す。押し出された原料液においては、溶媒が揮発し、溶質である高分子化合物が固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバーを形成し、導電性コレクタに引き寄せられる。こうして形成されたナノファイバーは、原理上は無限長の連続繊維となり、平滑な基板上に堆積させることでナノファイバー層を形成することができる。
【0031】
このように、エレクトロスピニング法を用いれば、ナノオーダーの均一な繊維径を有する極細繊維を容易に得ることができるだけでなく、基板として含水高分子ゲル層を配置することにより、かかる層にナノファイバー層が積層されてなる本発明の皮膚貼付用シートを得ることもできる。
【0032】
上記ナノファイバー層は、含水高分子ゲル層の水分蒸散を促進しながら冷却感をも付与する観点から、さらに冷感剤を含有するのが好ましい。これにより良好な冷涼感をも付与して冷却効果を増幅させることができ、例えば本発明の皮膚貼付用シートを屋外等で使用する場合に有効である。冷感剤としては、上記含水高分子ゲル層で用いる冷感剤と同様のものを用いることができる。これら冷感剤の含有量は、ナノファイバー層中に、好ましくは0.0001〜10質量%、より好ましくは0.001〜5質量%、さらに好ましくは0.01〜3質量%であり、かかる含有量となる量で原料液に配合するとよい。
なお、かかる冷感剤は、上述のとおり含水高分子ゲル層に含有していてもよく、ナノファイバー層に含有していてもよく、また双方の層に含有していてもよい。
【0033】
上記ナノファイバー層には、上記成分のほか、含水高分子ゲル層と同様の他の成分を適宜含有させてもよい。
【0034】
本発明の皮膚貼付用シートを製造するには、別途形成した含水高分子ゲル層にナノファイバー層を載置してもよく、エレクトロスピニング法を用いて予め形成した含水高分子ゲル層を基板とし、この上にナノファイバー層を形成してもよい。
得られた皮膚貼付用シートは、包装ピローに格納してもよく、また一方の面、好ましくは含水高分子ゲル層上に、皮膚に貼付後剥離するためのフィルムやシートを支持層として積層してもよい。
【0035】
本発明の皮膚貼付用シートは、含水高分子ゲル層を皮膚に貼付することによって皮膚を効果的かつ持続的に冷却することができるものであり、外皮(頭皮を含む)に貼付するための化粧料、医薬品、医薬部外品及び雑貨として、その用途は多岐に亘る。例えば、急な発熱時に額や首元を冷却したい場合、夏場の暑くて寝苦しい夜の就寝前に足や体、頸、頭部を冷却したい場合、暑熱感あふれる夏場の屋外で冷涼感を得たい場合などに、所望の部位の皮膚上に貼付して用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[製造例1:ナノファイバーシートAの製造]
ポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA、117)を水に溶解し、12質量%溶液とした。これを電界紡糸装置(株メック製NF-102)の溶液充填部に充填し、30kVの電圧をかけて電界紡糸を行い、得られたナノファイバーシートに180℃、1分間の熱処理を行って、ナノファイバーシートAを製造した。なお、このときに用いた金属性キャピラリの径は内径 0.22mmで、シリンジにおけるニードルの先端から導電性コレクタまでの距離は23cmであった。得られたナノファイバーシートAは、厚さ100μm、平均繊維径641nm、坪量18g/m
2)であった。
【0038】
[製造例2:ナノファイバーシートBの製造]
ポリビニルアルコールの代わりにポリウレタン(DIC(株)製 ASPU−116)をイソプロピルアルコールに溶解し15%溶液を用いた以外、製造例1と同様にしてナノファイバーシートCを製造した。得られたナノファイバーシートBは、厚さ20μm、平均繊維径450nm、坪量4.8g/m
2)であった。
【0039】
[製造例3:ナノファイバーシートCの製造]
ポリビニルアルコール(クラレ(株)PVA、117)を水に溶解し、10質量%溶液とした以外、製造例1と同様にしてナノファイバーシートDを製造した。なお、このときに用いた金属性キャピラリの径は内径 0.22mmで、シリンジにおけるニードルの先端から導電性コレクタまでの距離は23cmであった。得られたナノファイバーシートCは、厚さ100μm、平均繊維径394nm、坪量18g/m
2)であった。
【0040】
[参考例1〜3]
参考例1として製造例1で得られたナノファイバーシートA、参考例2としてレーヨン不織布(日本バイリーン(株)ED−5150、平均繊維径約5000〜20000nm、坪量142g/m
2)、及び参考例3としてポリオレフィン不織布(日本バイリーン(株)ED−17、平均繊維径約5000〜20000nm、坪量170g/m
2)を用い、各々の水分蒸散率(%)の経時的な変動を比較した。結果を
図1に示す。
なお、水分蒸散率は、以下の方法により求めた。
【0041】
《水分蒸散率(%)》
温度28±1℃、湿度60±5%RHの測定環境下、ポリプロピレン製の皿の上に100μLの水を置き、その上にナノファイバーシートあるいは不織布を置き、その直後から経時的に総重量を測定して水分の変化量を求め、これらの値を元に、以下の式より水分蒸散率(%)を算出した。
水分蒸散率(%)=(測定開始前の総重量−ある一定時間経過後の総重量)/0.1×100
【0042】
図1の結果より、製造例1のナノファイバーシートAは、レーヨン不織布やポリオレフィン不織布よりも水分蒸散速度が顕著に速い上に水分蒸散率も極めて高く、従来冷却シート剤に使用されている不織布よりも非常に有用性が高いことがわかる。
【0043】
[実施例1]
グリセリンとプロピレングリコールとの混合液を混練機に投入し、コハク酸水溶液に分散させたカルボキシメチルセルロース、乾燥水酸化アルミニウムゲル、パラオキシ安息香酸メチルの順に添加して、ゲル原液を調製した。次いで、得られたゲル原液を、貼付後に剥離するための支持体とするポリプロピレンフィルムと製造例1で得られたナノファイバーシートAとの間に挟み込み、ベーカー式アプリケーターによってゲル原液の厚さを適宜調整して展延した。得られたシートをアルミピローに封入し、密封した後に、50℃で5日間熟成し、ゲル原液中の高分子の架橋反応を進行させて含水高分子ゲル層を形成し、表1に示す構成の積層シートを得た。得られた積層シートは正方形(面積25cm
2)に型抜きして、皮膚に貼付するための測定サンプルとした。なお、調製したゲル原液のpHは、4.5〜6.5であった。
得られた測定サンプルを用い、以下の方法により、貼付時間の経過に伴う皮膚温度変化量を求め、冷却効果の指標とした。結果を
図2に示す。
【0044】
《皮膚温度変化量(Δ℃)》
被験者を30代健常男性とし、温度28±1℃、湿度60±5%RHの測定環境下、あらかじめサーミスタプローブを前腕につけておき、シート貼付前の皮膚表面温度を測定した。その後に実施例1で得られた積層シートをサーミスタプローブ上から皮膚に貼付して、貼付から所定時間を経過した時点での皮膚表面温度を3回測定してその平均値を求め、以下の式により皮膚温度変化量を算出した。
皮膚温度変化量(Δ℃)=(シート貼付前の皮膚温度)−(シート貼付後の皮膚温度)
【0045】
[比較例1]
ポリプロピレンフィルムと参考例2で用いたレーヨン不織布との間にゲル原液を挟み込んだ以外、実施例1と同様にして、表1に示す構成の積層シートを作製し、測定サンプルを得た。
得られた測定サンプルを用い、実施例1と同様にして皮膚温度変化量を求めた。結果を
図2に示す。
【0046】
[比較例2]
ポリプロピレンフィルムと参考例3で用いたポリオレフィン不織布との間にゲル原液を挟み込んだ以外、実施例1と同様にして、表1に示す構成の積層シートを作製し、測定サンプルを得た。
得られた測定サンプルを用い、実施例1と同様にして皮膚温度変化量を求めた。結果を
図2に示す。
【0047】
[比較例3]
ナノファイバーシートを用いなかった以外、実施例1と同様にして、表1に示す構成の単層シートを得て、測定サンプルとした。
得られた測定サンプルを用い、実施例1と同様にして皮膚温度変化量を求めた。結果を
図2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1及び
図2の結果より、レーヨン不織布やポリオレフィン不織布を用いた比較例1〜2のシートやナノファイバーシート層のない比較例3に比べ、PVAナノファイバーを用いた実施例1のシートは、冷却効果が極めて高く、その効果も良好に持続することが明らかとなった。
【0050】
[実施例2]
製造例2で得られたナノファイバーシートB(ナノファイバーを構成する高分子としてポリビニルアルコールの代わりにポリウレタン(DIC(株)製 ASPU−116)を採用)を用いた以外、実施例1と同様にして、表2に示す構成の積層シートを得て、皮膚に貼付した際の皮膚温度変化量を求めた。これらの結果を
図3に示す。
【0051】
[実施例3]
ゲルに含有される水分量を変えた以外、実施例1と同様にして、表2に示す構成の積層シートを得て、皮膚に貼付した際の皮膚温度変化量を求めた。これらの結果を
図3に示す。
【表2】
【0052】
表2及び
図3の結果より、実施例1〜3の積層シートは、貼付後から時間が経過しても皮膚温度が徐々に低下して高い冷却効果を発揮することがわかる。なかでも、同じ含水高分子ゲル層の実施例1と実施例2を比較すると、親水性高分子化合物から形成されたナノファイバーシートを積層させた実施例1は、疎水性高分子化合物から形成されたナノファイバーシートを積層させた実施例2に比べ、より高い冷却効果を持続させることができることもわかる。さらに実施例1の積層シートは、皮膚貼付時の冷却感が持続し、刺激感を伴わない心地よい冷感であった。また、実施例1の積層シートは水分含量の少ない実施例3の積層シートと比較して、冷却効果がより高まることもわかる。
【0053】
[実施例4]
含水高分子ゲル層の厚みを1.5mmに調整し、製造例3で得られたナノファイバーシートC(平均繊維径394nm)を用いた以外、実施例1と同様にして、表3に示す構成の積層シートを得て、皮膚に貼付した際の皮膚温度変化量を求めた。結果を
図4に示す。
【0054】
[実施例5]
含水高分子ゲル層の厚みを1.5mmに調整した以外、実施例1と同様にして、表3に示す構成の積層シートを得て、皮膚に貼付した際の皮膚温度変化量を求めた。結果を
図4に示す。
【0055】
[比較例4]
含水高分子ゲル層の厚みを1.5mmに調整し、ナノファイバーシートを用いなかった以外、実施例1と同様にして、表3に示す構成の単層シートを得て、皮膚に貼付した際の皮膚温度変化量を求めた。結果を
図4に示す。
【0056】
[比較例5]
平均繊維径5〜20μm程度の不織布に、層厚み2〜3mm程度の含水高分子ゲル層を形成してなる市販の冷却シートを用い、実施例1と同様にして、皮膚に貼付した際の皮膚温度変化量を求めた。結果を
図4に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
実施例4と実施例5を比較すると、シート直後の冷却効果はともに同等であるが、貼付して約5分後からの皮膚温度変化は、繊維径のより小さいナノファイバーシートを積層した実施例4の方が大きく、より高い冷却効果が得られることがわかる。一方、比較例4では、貼付直後の皮膚温度変化は大きいものの、時間の経過とともに皮膚温度変化がみられなくなり、持続的な冷却効果は不十分であった。また、比較例5でも、貼付直後の皮膚温度変化は大きいものの、1分後から急激に皮膚温度が上昇しはじめ、速やかに冷却効果が損なわれていくことがわかる。
これらの結果から、含水高分子ゲル層とナノファイバー層とを組み合わせた本願発明の積層シートを貼付すれば、貼付直後の冷却効果に優れるだけでなく、その後も引き続き冷却効果を持続させ、長時間に亘って優れた冷却感が得られることが明らかとなった。
【0059】
[実施例6]
乳酸メンチルをPEG400(三洋化成工業(株))に加温溶解して含水ゲル層に配合した以外、実施例1と同様にして、表4に示す構成の積層シートを作製し、以下に示す方法で感覚評価を行った。結果を
図5に示す。
【0060】
《感覚評価方法》
実施例1と実施例6のシートを28℃、60%RH環境にて専門パネラー3名の額に貼付し、冷却感覚についての評価を行った。シートを貼付した後の感覚評価は、以下のようにスコアづけし、協議にて決定した。
感覚スコア
4:かなり冷たい
3:冷たい
2:やや冷たい
1:かすかに冷たい
0:なにも感じない
−1:ぬるい
【0061】
【表4】
【0062】
貼付部位の冷却効果は、実施例1と実施例6とではほとんど変わらなかったが、冷却感覚は、
図5に示すように、実施例6のシートでは実施例1のシートよりも冷感が強く、さらにその冷感が30分以上持続した。