特許第5917139号(P5917139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917139
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ダイヤモンド膜の研磨方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 1/00 20060101AFI20160422BHJP
   B24D 13/10 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   B24B1/00 B
   B24B1/00 E
   B24D13/10
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-287408(P2011-287408)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136110(P2013-136110A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100104396
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 信昭
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 研吾
(72)【発明者】
【氏名】横澤 毅
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−115863(JP,A)
【文献】 特開平03−101873(JP,A)
【文献】 特開2003−238289(JP,A)
【文献】 特開2005−272901(JP,A)
【文献】 特開昭63−074563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 1/00
29/00
49/14
B24D 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Ti、Ba、Mg、Ca、V、Mn、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Siの金属を単独もしくは複合で用いた金属製ブラシ毛を束ねてなるブラシ工具の当該ブラシ毛を当接させ、当該ブラシ工具を回転させることによってダイヤモンド膜の研磨を行うダイヤモンド膜研磨方法であって、
少なくとも当該ブラシ毛に対し熱風を噴射する
ことを特徴とすることを特徴とするダイヤモンド膜研磨方法。
【請求項2】
前記熱風の噴射方向と、回転する前記ブラシ工具が前記熱風を巻き込む方向と、を一致させる
ことを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド膜研磨方法。
【請求項3】
前記熱風の噴射を、前記ダイヤモンド膜の研磨面に対し併せて行う
ことを特徴とする請求項1または2記載のダイヤモンド膜研磨方法。
【請求項4】
前記ブラシ毛の当接圧力を高めるために、ダイヤモンド膜表面と前記ブラシ工具との間の距離を縮める方向に付勢力を付与する
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のダイヤモンド膜研磨方法。
【請求項5】
前記ブラシ工具は、ステンレス鋼製ブラシ毛を放射状に束ねてなる平型ブラシである
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のダイヤモンド膜研磨方法。
【請求項6】
一部または全部がダイヤモンド膜で被覆されたワークの当該ダイヤモンド膜の研磨を行うためのダイヤモンド膜研磨装置であって、
ワークを保持するためのテーブルと、
Fe、Ti、Ba、Mg、Ca、V、Mn、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Siの金属を単独もしくは複合で用いた金属よりなるブラシ毛を束ねてなるブラシ工具と、
当該ブラシ工具のブラシ毛がダイヤモンド面に当接する位置で当該ブラシ工具を回転させる回転機構と、
少なくとも当該ブラシ毛に対し熱風を噴射するための熱風噴射機構と、を備える
ことを特徴とするダイヤモンド膜研磨装置。
【請求項7】
前記熱風噴射機構は、前記熱風の噴射方向と、回転する前記ブラシ工具が前記熱風を巻き込む方向と、が一致するように配してある
ことを特徴とする請求項6記載のダイヤモンド膜研磨装置。
【請求項8】
前記熱風噴射機構は、前記熱風の噴射を、前記ダイヤモンド膜の研磨面に対し併せて行うように構成してある
ことを特徴とする請求項6または7記載のダイヤモンド膜研磨装置。
【請求項9】
前記テーブルおよび/または前記回転機構には、可動構造を設けてあり、
当該可動構造は、前記テーブルおよび/または前記回転機構を互いに近接離反するように構成してあり、
当該テーブルおよび/または前記回転機構を、互いに近接する方向に付勢する付勢機構を設けてある
ことを特徴とする請求項6ないし8いずれか記載のダイヤモンド膜研磨装置。
【請求項10】
前記ブラシ工具は、ステンレス鋼製ブラシ毛を放射状に束ねてなる平型ブラシである
ことを特徴とする請求項6ないし9いずれか記載のダイヤモンド膜研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド膜の研磨方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素の結晶であるダイヤモンドは、著しく硬度が高く、耐摩耗性に優れている。その上、ダイヤモンドは、滑り性や熱伝導性にも優れている。このため、タイヤモンドは、様々な用途に使用される。例えば、バイト、エンドミル、やすりなどの切削用工具、パンチ、ダイなどの塑性加工金型、バルブリフタ、軸受けなどの摺動部材、ヒートシンクなどの放熱部材、電子基盤、レンズ、ウインドウなどの光学部品等に、ダイヤモンドが使用されている。このようなダイヤモンド製品は、その特性を十分に発揮させるために、そのダイヤモンド表面を研磨して平滑な面とすることが必要である。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたダイヤモンド膜の研磨方法(以下、「第1の従来方法」という)は、ダイヤモンド結晶中の炭素と反応し易い金属から構成された研磨部材を使用している。第1の従来方法では、上記した研磨部材に超音波を印加し、該研磨部材を超音波振動させながらダイヤモンド表面に押し付けて研磨を行っていく。第1の従来方法に使用される金属としては、γ−Feを含むステンレス鋼や、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)などが挙げられている。
【0004】
また、特許文献2によって提案されたダイヤモンド膜研磨方法(以下、「第2の従来方法」という)は、金属とダイヤモンドとの接触部分の温度を700℃〜1000℃の範囲で連続的に変化させながら、両者を前記接触部分で相対的に摺動させながら移動させて研磨する方法である。
【0005】
さらに、特許文献3によって教示されたダイヤモンド膜研磨方法(以下、「第3の従来方法」という)は、線状、ベルト状或いは棒状の形状を有しており且つ炭素と易反応性の金属または浸炭性金属からなる表面を有する研磨部材を使用している。その上で第3の従来方法は、該研磨部材の研磨表面を連続的もしくは断続的に変化させながら研磨部材でダイヤモンド表面の研磨を行う。ここで第3の従来方法では、研磨部材による研磨に先立って、該研磨部材および/またはダイヤモンド表面を加熱することが行われる。
【0006】
これらに加え、非特許文献1に記載されたダイヤモンド膜研磨方法(以下、「第4の従来方法」という)は、ステンレス鋼製のブラシ工具を用いてダイヤモンド膜を研磨する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−231022号公報
【特許文献2】特開平7−314299号公報
【特許文献3】特開2011−177883号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】科学研究費助成データベース 「CVDダイヤモンドコーティングされた複雑形状面のメカノケミカルポリッシング」 研究課題番号:21860096
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した先行技術で提案されている方法においても解決課題が残されており、未だ、その改善が求められている。
【0010】
超音波振動による摩擦熱を利用している第1の従来方法には、研磨面に対する高い押付荷重により、剥離や亀裂などのダメージがダイヤモンドに生じるおそれがある、という欠点がある。
【0011】
第2の従来方法における加熱は、金属とダイヤモンドとの接触部分を挟むように設けられたヒーターによって行われる。このため、ヒーターに面した側とそれ以外の側との間で加熱効率の違いが出る。加熱効率の違いは、温度勾配による研磨ムラを生じさせる恐れがある。したがって、第2の従来方法で使用可能な研磨部材は、一部しか加熱できなくてもその加熱効果が全体に及ぶように、構造的・素材的に熱伝導効率のよいものでなければならない。つまり、限定された研磨部材にだけ適用可能な方法である。
【0012】
第3の従来方法で使用する研磨部材は、線上、ベルト状あるいは棒状の形状のものであるから、金型などの複雑な形状を有する部材の表面に形成されたダイヤモンド膜の研磨には必ずしも適さない、という問題があった。
【0013】
第4の従来方法は、本願発明者らによって案出されたものである。本願発明者らによる実験によれば、ブラシ工具を用いてダイヤモンド膜を研磨すると、ブラシの持つ緩衝性によりダイヤモンド膜に対する過度な衝撃を避けることができること、金型などの複雑な形状にもある程度対応可能であることが分かった。
【0014】
しかし、第4の従来方法による研磨実験では、ダイヤモンド膜表面の半分ほどの面積が平滑化されたところ(半分ほど平滑化されていない凹部が残った状態)で著しく研磨速度が低下する現象が生じた。この現象は、研磨面 が平滑化して摩擦抵抗が下がったことで、研磨面とブラシ工具の摩擦による発熱量が小さくなり、ダイヤモンドとブラシ工具材料の熱化学反応に必要な温度に至らなくなったことが原因と考えられる。特に、ブラシ工具を用いる場合には研磨面への押し付け圧力が小さくなるため、この影響が顕著に生じるものと考えられた。この点が、第4の従来方法に対し改善すべき点である。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、ブラシ工具の使用を前提に、第4の従来方法の上述した改善点を解消することにある。すなわち、ダイヤモンド膜表面の平滑化に伴う発熱量の低下による研磨速度の減速という問題を払拭することが本発明の目的である。発熱量の低下を補うために、ダイヤモンド膜表面とブラシ工具とを加熱する方法が考えられる。しかし、たとえば、上掲した第2の従来方法が示すヒーター加熱を採用したとしても、ダイヤモンド膜表面とブラシ工具、特に後者を効率よく加熱することができない。ブラシ工具は多数のブラシ毛によって構成され、これらのブラシ毛同士はそれらが束ねられた根元で接しているに過ぎない。したがって、ブラシ工具全体の熱伝導率は、必ずしもよくない。さらに、回転するブラシ毛間に巻き込まれた空気が、加熱されたブラシ毛を冷ましてしまうことさえあり、この点も、加熱を妨げる一因となっていた。そこで、本項冒頭に記載した本発明の目的の達成が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明は、次の構成を備えている。なお、いずれかの請求項に記載した発明を説明するに当たって行う用語の定義等は、発明カテゴリーの違いや記載順に関わらず、その性質上可能な範囲において、他の請求項に記載した発明にも適用があるものとする。
【0017】
(定義)
本明細書において「炭素と反応しやすい金属」とは、文字通り炭素と反応しやすい金属のことをいう。そのような金属として、たとえば、ステンレス鋼の主成分であるFeのほか、Ti,Ba,Mg,Ca,V,Mn,Co,Ni,Y,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Al,Siなどの金属がある。「炭素と易反応性の金属」と言われることもある。ブラシ工具として使用可能な限りその工具形状に制限はないが、たとえば、ブラシ毛が放射方向に延びる平型やカップを逆さにした形状のカップ型などがある。
【0018】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項1の膜研磨方法」という)は、Fe、Ti、Ba、Mg、Ca、V、Mn、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Siの金属を単独もしくは複合で用いた金属製ブラシ毛を束ねてなるブラシの当該ブラシ毛を当接させ、当該ブラシ工具を回転させることによってダイヤモンド膜の研磨を行うダイヤモンド膜研磨方法である。請求項1の膜研磨方法の最大の特徴は、少なくとも当該ブラシ毛に対し熱風を噴射する点にある。熱風の噴射は、ブラシ毛以外の部位・部材に対して行われてもよい。
【0019】
請求項1の膜研磨方法によれば、熱風が噴射されたブラシ毛の温度が上がるため、ブラシ毛と炭素の反応が促進される。その結果、ダイヤモンド膜の研磨を効率よく行うことができる。すなわち、熱風噴射側からブラシ毛(ブラシ工具)を見たとき、回転するブラシ毛は高速(たとえば、1000m/分)で入れ替わる。このため、レーザー照射や固定ヒーターなどによる加熱では、加熱する時間が極端に短く、それに伴い、加熱してもすぐに冷えてしまう。この点、熱媒体が空気である熱風は、ブラシ毛の間に巻き込まれるように入り込む。回転によるブラシ毛の表面の形状変化にも柔軟に追従する。熱風は、このようにして回転するブラシ毛を内外から包み込み、熱量が続く限り加熱し続ける。したがって、熱風加熱であれば、回転するブラシ毛を効率よく加熱することができる。
【0020】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項2の膜研磨方法」という)は、請求項1の膜研磨方法であって、前記熱風の噴射方向と、回転する前記ブラシ工具が前記熱風を巻き込む方向(回転方向と順方向)と、を一致させることを特徴とする。
【0021】
請求項2の膜研磨方法によれば、請求項1の膜研磨方法の作用効果に加え、熱風が、ブラシ毛間の隙間に吸引され、ブラシ毛表面に追従しやすくなる。つまり、ブラシ工具の回転方向と逆方向に熱風を噴射すると、ブラシ工具の回転により生じた空気流に熱風が弾き返されるためブラシ毛の加熱効率が低下しやすい。これに対し、ブラシ工具の回転方向と順方向に噴射する熱風ならば、上記した弾き返しがなく、ブラシ毛間に巻き込まれ、ブラシ毛表面に追従する。これにより、加熱効率をよくすることができる。
【0022】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項3の膜研磨方法」という)は、請求項1または2の膜研磨方法であって、前記熱風の噴射を、前記ダイヤモンド膜の研磨面に対し併せて行うことを特徴とする。ダイヤモンド膜の研磨面に噴射される熱風は、ブラシ工具に向けて噴射された熱風の一部であってもよいし、ブラシ工具に向けた熱風とは別の熱風であってもよい。さらに、上記した一部の熱風と別の熱風の同時噴射であってもよい。
【0023】
請求項3の膜研磨方法によれば、請求項1または2の膜研磨方法の作用効果に加え、ブラシ毛の加熱に加え、ダイヤモンド膜の研磨面も加熱するので、効率よく短時間のうちに加熱効果を得ることができる。効率よい加熱効果は、効率よいダイヤモンド膜の研磨に貢献する。
【0024】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項4の膜研磨方法」という)は、請求項1ないし3いずれかの膜研磨方法であって、前記ブラシ毛の当接圧力を高めるために、ダイヤモンド膜表面と前記ブラシ工具との間の距離を縮める方向に付勢力を付与することを特徴とする。
【0025】
請求項4の膜研磨方法によれば、請求項1ないし3いずれかの膜研磨方法の作用効果に加え、付勢力の付与によりダイヤモンド膜の研磨面に対するブラシ毛の当接圧力を高める。当接圧力が高まると、ブラシ毛とダイヤモンド膜の研磨面との間の摩擦抵抗が大きくなる。摩擦抵抗が大きくなると、ダイヤモンド膜の研磨面の温度が上がるので、研磨効率がよくなる。また、研磨途中において研磨によりある程度平滑化したダイヤモンド膜の研磨面は、滑りにより研磨効率が悪くなる。そこで、ブラシ毛の当接力を高めることにより、ダイヤモンド膜の研磨面の滑りによる効率低下を抑制し、これによって、良好な研磨効率を保持することができる。
【0026】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項5の膜研磨方法」という)は、請求項1ないし4いずれかの膜研磨方法であって、前記ブラシ工具は、ステンレス鋼製ブラシ毛を放射状に束ねてなる平型ブラシであることを特徴とする。
【0027】
請求項5の膜研磨方法によれば、請求項1ないし4いずれかの膜研磨方法の作用効果に加え、上記した平型ブラシを使用対象とすれば、市場からの調達が容易である。市場からの調達が容易であれば、安価に手に入るので、ブラシ工具がたいへん使い勝手のよいものとなる。
【0028】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項6の膜研磨装置」という)は、一部または全部がダイヤモンド膜で被覆されたワークの当該ダイヤモンド膜の研磨を行うためのダイヤモンド膜研磨装置である。請求項6の膜研磨装置の特徴は、ワークを保持するためのテーブルと、Fe、Ti、Ba、Mg、Ca、V、Mn、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Siの金属を単独もしくは複合で用いたブラシ毛を束ねてなるブラシ工具と、当該ブラシ工具のブラシ毛がダイヤモンド面に当接する位置で当該ブラシ工具を回転させる回転機構と、少なくとも当該ブラシ毛に対し熱風を噴射するための熱風噴射機構と、を備える点にある。熱風噴射機構による熱風の噴射は、ブラシ毛以外の部位・部材に対して行われてもよい。

【0029】
請求項6の膜研磨装置によれば、熱噴射機構から噴射された熱風を受けてブラシ毛の温度が上がるため、テーブルに保持されたワークのダイヤモンド膜に含まれる炭素とブラシ毛との反応が促進される。その結果、ダイヤモンド膜の研磨を効率よく行うことができる。すなわち、熱風噴射機構側からブラシ毛(ブラシ工具)を見たとき、回転機構により回転させられるブラシ毛は高速(たとえば、1000m/分)で入れ替わる。このため、レーザー照射や固定ヒーターなどによる加熱では、加熱する時間が極端に短く、それに伴い、加熱してもすぐに冷えてしまう。この点、熱媒体が空気である熱風は、ブラシ毛の間に巻き込まれるように入り込む。回転によるブラシ毛の表面の形状変化にも柔軟に追従する。熱風は、このようにして回転するブラシ毛を内外から包み込み、熱量が続く限り加熱し続ける。したがって、熱風加熱であれば、回転するブラシ毛を効率よく加熱することができる。
【0030】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項7の膜研磨装置」という)は、請求項6の膜研磨装置であって、前記熱風噴射機構は、前記熱風の噴射方向と、回転する前記ブラシ工具が前記熱風を巻き込む方向(回転方向と順方向)と、が一致するように配してあることを特徴とする。
【0031】
請求項7の膜研磨装置によれば、請求項6の膜研磨方法の作用効果に加え、熱風噴射機構から噴射された熱風が、ブラシ毛間の隙間に吸引され、ブラシ毛表面に追従しやすくなる。つまり、ブラシ工具の回転方向と逆方向に熱風を噴射すると、ブラシ工具の回転により生じた空気流に熱風が弾き返されるためブラシ毛の加熱効率が低下しやすい。これに対し、ブラシ工具の回転方向と順方向に噴射する熱風ならば、上記した弾き返しがなく、ブラシ毛間に巻き込まれ、ブラシ毛表面に追従する。これにより、加熱効率をよくすることができる。
【0032】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項8の膜研磨装置」という)は、請求項6または7の膜研磨装置であって、前記熱風噴射機構は、前記熱風の噴射を、前記ダイヤモンド膜の研磨面に対し併せて行うように構成してあることを特徴とする。ダイヤモンド膜の研磨面に噴射される熱風は、ブラシ工具に向けて上記熱風噴射機構から噴射された熱風の一部であってもよいし、ブラシ工具に向けた上記熱風噴射機構から噴射された熱風とは別の熱風噴射機構によって噴射された熱風であってもよい。さらに、上記した熱風噴射機構により噴射された熱風の一部と、別の熱風噴射機構から噴射された別の熱風の同時噴射であってもよい。
【0033】
請求項8の膜研磨装置によれば、請求項6または7の膜研磨装置の作用効果に加え、熱風噴射機構がブラシ毛とダイヤモンド膜の研磨面とを同時加熱するので、効率よく短時間のうちに加熱効果を得ることができる。効率よい加熱効果は、効率よいダイヤモンド膜の研磨に貢献する。
【0034】
(請求項9記載の発明の特徴)
請求項9記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項9の膜研磨装置」という)は、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置であって、前記テーブルおよび/または前記回転機構には、可動構造を設けてあり、当該可動構造は、前記テーブルおよび/または前記回転機構を互いに近接離反するように構成してあり、当該テーブルおよび/または前記回転機構を、互いに近接する方向に付勢する付勢機構を設けてあることを特徴とする。
【0035】
請求項9の膜研磨装置によれば、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置の作用効果に加え、付勢機構による付勢力の付与によりダイヤモンド膜の研磨面に対するブラシ毛の当接圧力を高める。当接圧力が高まると、ブラシ毛とダイヤモンド膜の研磨面との間の摩擦抵抗が大きくなる。摩擦抵抗が大きくなると、ダイヤモンド膜の研磨面の温度が上がるので、研磨効率がよくなる。また、研磨途中において研磨によりある程度平滑化したダイヤモンド膜の研磨面は、滑りにより研磨効率が悪くなる。そこで、ブラシ毛の当接力を高めることにより、ダイヤモンド膜の研磨面の滑りによる効率低下を抑制し、これによって、良好な研磨効率を保持することができる。
【0036】
(請求項10記載の発明の特徴)
請求項10記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項10の膜研磨装置」という)は、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置であって、前記ブラシ工具は、ステンレス鋼製ブラシ毛を放射状に束ねてなる平型ブラシであることを特徴とする。
【0037】
請求項10の膜研磨方法によれば、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置の作用効果に加え、上記した平型ブラシを使用対象とすれば、市場からの調達が容易である。市場からの調達が容易であれば、安価に手に入るので、ブラシ工具がたいへん使い勝手のよいものとなる。
【発明の効果】
【0038】
熱風加熱により、ダイヤモンド膜表面の平滑化による発熱量の低下を伴う研磨速度の減速という問題を払拭することができる。これにより、効率よいダイヤモンド膜の研磨を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】ダイヤモンド膜研磨装置の概略図である。
図2】ブラシ工具の概略平面図である。
図3】光学顕微鏡で撮像した研磨面の様子を示す図である。
図4】光学顕微鏡で撮像した研磨面の様子を示す図である。
図5】光学顕微鏡で撮像した研磨面の様子を示す図である。
図6】光学顕微鏡で撮像した研磨面(熱風加熱)の様子を示す図である。
図7】光学顕微鏡で撮像した研磨面(熱風加熱)の様子を示す図である。
図8】光学顕微鏡で撮像した研磨面(熱風加熱)の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(ダイヤモンド膜研磨装置の概略構成)
各図を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。まず、図1および2を参照しながら、ダイヤモンド膜研磨方法に使用するダイヤモンド膜研磨装置(以下、単に「膜研磨装置」という)について説明する。膜研磨装置1は、ベース部2と、テーブル3と、ブラシ工具5と、回転機構7と、熱風噴射機構9(図2)と、可動構造11と、付勢機構13と、により概略構成してある。ベース部2は、床Fの上に設置されるベース基部2aと、ベース基部2aの一端から起立する起立部2bとから概略構成してある。テーブル3は、ワークWを研磨に適した状態で保持する機能を有している。ワークWは、被研磨体である。ワークWの表面の一部(全部でもよい)には、ダイヤモンド膜が形成されている。ダイヤモンド膜の表面は、研磨面Wdを構成する。ワークWの素材に限定はないが、本実施形態におけるワークWは、金型である。後述するように、膜研磨装置1は、平面研磨だけでなく、金型のように複雑形状をもった研磨面の研磨に優れた効果を発揮する。なお、ダイヤモンド膜の形成方法として、たとえば、CVD(Chemical Vapor Deposition)がある。
【0041】
(ブラシ工具の構造)
図1および2が示すように、ブラシ工具5は、多数のブラシ毛5hを束ねてなる、いわゆる平型のブラシ工具である。ブラシ工具5は、中心となる結束部5aを備える。上記ブラシ毛5hは、この結束部5aを中心に放射状に延びている。ブラシ毛5hは、ステンレス鋼製である。ステンレス鋼製のブラシ毛5hを採用したのは、炭素と反応しやすい金属であるからである。その上、ステンレス鋼製ブラシは、安価で入手容易な市販品をそのまま流用できるからである。本実施形態では、トラスコ中山株式会社製のステンレス平型ブラシ(品番:233H-4 商標)を採用した。ブラシ工具は、平型以外の形状(たとえば、カップ型)を採用することを妨げない。ワークW(研磨面Wd)の形状その他の研磨環境に適した形状のブラシ工具を選択するとよい。さらに、ステンレス鋼の主成分であるFeのほか、Ti,Ba,Mg,Ca,V,Mn,Co,Ni,Y,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Al,Siなどの金属を単独もしくは複合で用いたブラシ毛を使用することができる。結束部5aの上面には、回転軸5bの下端が固定してある。回転軸5bと結束部5aとブラシ毛5hは、一体化している。なお、結束部5aから見たブラシ毛5hのそれぞれの長さは、同じでもよいし、違いがあってもよい。また、ブラシ毛5hの強度(張り)を保つために、ブラシ毛5hを波打たせるなどの加工を施してもよい。
【0042】
(回転機構の構造)
回転機構7は、電動モータ(図示せず)を内蔵した機構本体7aと、機構本体7aによって回転されるチャック7bとにより構成してある。回転機構7は、図外の固定機構によって保持された固定式である。作業者が手で持てるような回転機構、たとえばマイクログラインダーのようなものを、回転機構7として用いてもよい。チャック7bは、ブラシ工具5の回転軸5bの開放端を解放可能に把持する機能を有する。チャック7bに把持された回転軸5bは、機構本体7aの回転作用によりチャック7bとともに回転する。回転軸5bの回転により、結束部5aとブラシ毛5hが一体回転する(図2)。回転軸5bの回転数は、ブラシ毛5hの材質、硬さ、太さ、材質、さらに、研磨面Wdの状態、加えて、ブラシ毛5hの研磨面Wd、さらに加えてブラシ毛5hや研磨面Wdの温度環境などを総合的に勘案して最適な回転数に設定する。本実施形態における回転軸5bの回転数は、20000〜40000rpmの範囲で適宜設定した。
【0043】
(熱風噴射機構の構造)
図2に示す熱風噴射機構9は、噴射機構本体9aと、ノズル9bと、から構成してある。噴射機構本体9aは、熱風を作り出すためのファンとヒーター(いずれも図示を省略)を内蔵している。噴射機構本体9aによって作られた熱風Ahは、ノズル9bの先端から噴射される。熱風Ahの温度や風量は、研磨に適したものに設定するとよい。本実施形態における噴射機構9は、たとえば、少なくとも最高600℃程度の熱風を噴射できるように設定してある。熱風噴射機構9の設置は、回転するブラシ毛5hおよびダイヤモンド膜の研磨面Wdに対し、熱風Ahを同時に噴射できるように行う。熱風Ahの噴射は少なくともブラシ毛5hに対してだけ行うようにしてもよいが、ブラシ毛5hだけでなく研磨面Wdに対しても併せて噴射する方が、開始から短時間で所定温度にまで加熱することができるし、所定温度の保持を安定して行うことができる。所定温度を保つことは、ダイヤモンド膜の研磨面Wdの炭素とブラシ毛5hとの反応を有効に促進する。所定温度については、後述する実施例の中で述べる。なお、熱風Ahの噴射方向と、ブラシ毛5hが回転する方向(ブラシ工具5が熱風Ahを巻き込む方向(回転方向と順方向)と、が一致するようにノズル9bを配しておくことが好ましい。ノズル9bから噴射された熱風Ahが、ブラシ毛5h間の隙間に吸引され、ブラシ毛5h表面に追従しやすくなるからである。これにより、加熱効率をよくすることができる。
【0044】
(可動構造と付勢機構)
図1に示すように、テーブル3の下面側には、可動構造11を設けてある。可動構造11は、レール11aと複数の車輪11bとからなる。レール11aは、図1では1本が隠れて見えないが、2本が対になっている。車輪11bは、テーブル3の下面に回転自在に固定してあり、レール11aの上で長さ方向に往復転動するようになっている。これらの構造が、テーブル3(ワークW)がブラシ工具5に近接離反する方向に往復移動することを可能にする。起立部2bの上端には、滑車13aを回転自在に設けてある。滑車13aの回転方向は、テーブル3の移動方向と同一直線上となるように設定してある。符号13bは、ワイヤを示す。ワイヤ13bの一端はテーブル3に、他端はウェイト13cに固定してある。滑車13aは、ワイヤ13bを、長さ方向に移動可能に下方から支持する。ウェイト13cの荷重(矢印Ab方向)が滑車13aを介して図2の矢印Aa方向(ブラシ工具5に近接する方向)にテーブル3を引っ張ることになる。これをテーブル3から見れば、テーブル3は、ブラシ工具5(回転機構7)に対し近接する方向に付勢されていることになる。上記した滑車13a、ワイヤ13bおよびウェイト13cは、本実施形態における付勢機構を構成する。なお、本実施形態では、テーブル3側にのみ可動構造11を設けたが、テーブル3側に代えもしくはテーブル3側とともに回転機構7側にも可動構造(図示せず)を設けてもよい。回転機構7側に可動機構を設けた場合は、回転機構7に適した付勢機構を設けることが必要になる。なお、前述したように、作業員が回転機構を持っている場合は、その作業員が可動構造と付勢構造の機能を果たす。
【実施例】
【0045】
(実験方法)
次に、膜研磨装置1を使用した実施例について説明する。本実施例で使用したブラシ工具5は、先に説明したトラスコ中山株式会社製のステンレス(SUS304)平型ブラシ(品番:233H-4 商標)である。平型ブラシの外径はφ23mm、厚さは2mmである。ブラシ毛5hの径はφ0.1mm、ブラシ毛5hの数は約3000本である。高速仕様のスピンドル(ナカニシ製HES500,最高回転数50000rpm)を回転機構7とした。スピンドルの回転数を変えることでワイヤーブラシの周速度の調整を行うことができる。ワークWとして、超硬合金の試料(形状:直方体20mm×20mm×50mm,基材:超硬合金)を用いた。広い面を研磨する場合には研磨面Wdの形状に倣ってブラシ工具5に送りやピックフィードを与える必要があるが、今回はそれらを与えず、同一箇所を研磨し続けた。なお、この実験で熱風噴射機構9は使用していない。
【0046】
ここで、スピンドルの回転数を変えてブラシ工具5の周速度を1445m/min,2168m/min,2890m/minとしてダイヤモンド薄膜の研磨を行った。図3〜5は、各研磨時間(20〜120min 20分間隔)における研磨面Wdの様子を光学顕微鏡(明視野)で撮像した様子を示す。いずれの周速度においても、研磨時間の経過に伴い、剥離を生じることなく研磨面Wdが研磨除去され、平滑化された面積の割合が増加していく様子が確認できる。また、ブラシ工具5の周速度が大きい場合ほど平滑化された面積割合の増加が速いことがわかる。周速度2890m/minにおいては、120minほど研磨することで、ほぼ全面が平滑化された状態が得られた。
【0047】
(熱風機による加熱補助の効果)
上記実験により120min程度研磨することで研磨面Wdの凹凸を全て平滑化できることがわかった。しかし、ブラシ工具5による研磨をより実用的なものにするには、短時間で平滑化できることが望ましい。ところが、スピンドルの回転数の制約がある。このため、ブラシ工具5の周速度をこれ以上大幅に増大させることは難しい。また、ブラシ工具5に加えられる付勢力を増大することも難しい。ブラシ毛5hの折損を招く恐れがあるからである。これらの理由から、ブラシ毛5hと研磨面Wdとの接触により発生する摩擦熱のみにより両者接触部の温度を上昇させて研磨所要時間を大幅に短縮させることは難しいと考えられる。そこで、研磨所要時間の短縮の試みとして、摩擦熱に加え、熱風噴射機構9により熱風Ahを噴射して加熱する実験を行った。
【0048】
このときのウェイト13cが加える荷重は2N、ブラシ工具5の周速度2890m/minとした。熱風噴射機構9が噴射する熱風Ahの温度をそれぞれ200℃,400℃,600℃とした。各研磨時間(10min,30min)における研磨面Wdの様子を光学顕微鏡(明視野)で撮像した結果を、それぞれ図6〜8に示す。
【0049】
上記実験の結果より、熱風温度200℃(図6)に比べて熱風温度400℃(図7)の方がより短時間で研磨が進展していることがわかる。一方、熱風温度600℃(図8)の場合には10minから30minへ研磨時間が経過しても研磨がほとんど進展していないことがわかる。これは、高温下においてブラシ毛を構成するステンレス鋼SUS304の機械的強度の低下が生じたことにより、ブラシ毛の凝着が大量に発生したことで研磨が進展しなくなったものと考えられる。これらのことから、より高温の熱風で加熱するほど研磨所要時間を短縮する効果が大きくなるが、ブラシ毛を構成する金属との関係において、過度に高温の熱風で加熱することは適当でないことわかる。
【0050】
以上のことから、ブラシ工具5および研磨面Wdを加熱することが研磨時間の短縮による研磨効率の向上に資することがわかった。研磨面Wdの加熱はともかくブラシ工具5の加熱には、前述した理由により熱風加熱が最適であると思われる。
【符号の説明】
【0051】
1 ダイヤモンド膜研磨装置(膜研磨装置)
2 ベース部
2a ベース基部
2b 起立部
3 テーブル
5 ブラシ工具
5a 結束部
5b 回転軸
5h ブラシ毛
7 回転機構
7a 機構本体
7b チャック
9 熱風噴射機構
11 可動構造
11a レール
11b 車輪
13 付勢機構
13a 滑車
13b ワイヤ
13c ウェイト
W ワーク
Wd ダイヤモンド面(研磨面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8