【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した先行技術で提案されている方法においても解決課題が残されており、未だ、その改善が求められている。
【0010】
超音波振動による摩擦熱を利用している第1の従来方法には、研磨面に対する高い押付荷重により、剥離や亀裂などのダメージがダイヤモンドに生じるおそれがある、という欠点がある。
【0011】
第2の従来方法における加熱は、金属とダイヤモンドとの接触部分を挟むように設けられたヒーターによって行われる。このため、ヒーターに面した側とそれ以外の側との間で加熱効率の違いが出る。加熱効率の違いは、温度勾配による研磨ムラを生じさせる恐れがある。したがって、第2の従来方法で使用可能な研磨部材は、一部しか加熱できなくてもその加熱効果が全体に及ぶように、構造的・素材的に熱伝導効率のよいものでなければならない。つまり、限定された研磨部材にだけ適用可能な方法である。
【0012】
第3の従来方法で使用する研磨部材は、線上、ベルト状あるいは棒状の形状のものであるから、金型などの複雑な形状を有する部材の表面に形成されたダイヤモンド膜の研磨には必ずしも適さない、という問題があった。
【0013】
第4の従来方法は、本願発明者らによって案出されたものである。本願発明者らによる実験によれば、ブラシ工具を用いてダイヤモンド膜を研磨すると、ブラシの持つ緩衝性によりダイヤモンド膜に対する過度な衝撃を避けることができること、金型などの複雑な形状にもある程度対応可能であることが分かった。
【0014】
しかし、第4の従来方法による研磨実験では、ダイヤモンド膜表面の半分ほどの面積が平滑化されたところ(半分ほど平滑化されていない凹部が残った状態)で著しく研磨速度が低下する現象が生じた。この現象は、研磨面 が平滑化して摩擦抵抗が下がったことで、研磨面とブラシ工具の摩擦による発熱量が小さくなり、ダイヤモンドとブラシ工具材料の熱化学反応に必要な温度に至らなくなったことが原因と考えられる。特に、ブラシ工具を用いる場合には研磨面への押し付け圧力が小さくなるため、この影響が顕著に生じるものと考えられた。この点が、第4の従来方法に対し改善すべき点である。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、ブラシ工具の使用を前提に、第4の従来方法の上述した改善点を解消することにある。すなわち、ダイヤモンド膜表面の平滑化に伴う発熱量の低下による研磨速度の減速という問題を払拭することが本発明の目的である。発熱量の低下を補うために、ダイヤモンド膜表面とブラシ工具とを加熱する方法が考えられる。しかし、たとえば、上掲した第2の従来方法が示すヒーター加熱を採用したとしても、ダイヤモンド膜表面とブラシ工具、特に後者を効率よく加熱することができない。ブラシ工具は多数のブラシ毛によって構成され、これらのブラシ毛同士はそれらが束ねられた根元で接しているに過ぎない。したがって、ブラシ工具全体の熱伝導率は、必ずしもよくない。さらに、回転するブラシ毛間に巻き込まれた空気が、加熱されたブラシ毛を冷ましてしまうことさえあり、この点も、加熱を妨げる一因となっていた。そこで、本項冒頭に記載した本発明の目的の達成が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明は、次の構成を備えている。なお、いずれかの請求項に記載した発明を説明するに当たって行う用語の定義等は、発明カテゴリーの違いや記載順に関わらず、その性質上可能な範囲において、他の請求項に記載した発明にも適用があるものとする。
【0017】
(定義)
本明細書において「炭素と反応しやすい金属」とは、文字通り炭素と反応しやすい金属のことをいう。そのような金属として、たとえば、ステンレス鋼の主成分であるFeのほか、Ti,Ba,Mg,Ca,V,Mn,Co,Ni,Y,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Al,Siなどの金属がある。「炭素と易反応性の金属」と言われることもある。ブラシ工具として使用可能な限りその工具形状に制限はないが、たとえば、ブラシ毛が放射方向に延びる平型やカップを逆さにした形状のカップ型などがある。
【0018】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項1の膜研磨方法」という)は、
Fe、Ti、Ba、Mg、Ca、V、Mn、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Siの金属を単独もしくは複合で用いた金属製ブラシ毛を束ねてなるブラシの当該ブラシ毛を当接させ、当該ブラシ工具を回転させることによってダイヤモンド膜の研磨を行うダイヤモンド膜研磨方法である。請求項1の膜研磨方法の最大の特徴は、少なくとも当該ブラシ毛に対し熱風を噴射する点にある。熱風の噴射は、ブラシ毛以外の部位・部材に対して行われてもよい。
【0019】
請求項1の膜研磨方法によれば、熱風が噴射されたブラシ毛の温度が上がるため、ブラシ毛と炭素の反応が促進される。その結果、ダイヤモンド膜の研磨を効率よく行うことができる。すなわち、熱風噴射側からブラシ毛(ブラシ工具)を見たとき、回転するブラシ毛は高速(たとえば、1000m/分)で入れ替わる。このため、レーザー照射や固定ヒーターなどによる加熱では、加熱する時間が極端に短く、それに伴い、加熱してもすぐに冷えてしまう。この点、熱媒体が空気である熱風は、ブラシ毛の間に巻き込まれるように入り込む。回転によるブラシ毛の表面の形状変化にも柔軟に追従する。熱風は、このようにして回転するブラシ毛を内外から包み込み、熱量が続く限り加熱し続ける。したがって、熱風加熱であれば、回転するブラシ毛を効率よく加熱することができる。
【0020】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項2の膜研磨方法」という)は、請求項1の膜研磨方法であって、前記熱風の噴射方向と、回転する前記ブラシ工具が前記熱風を巻き込む方向(回転方向と順方向)と、を一致させることを特徴とする。
【0021】
請求項2の膜研磨方法によれば、請求項1の膜研磨方法の作用効果に加え、熱風が、ブラシ毛間の隙間に吸引され、ブラシ毛表面に追従しやすくなる。つまり、ブラシ工具の回転方向と逆方向に熱風を噴射すると、ブラシ工具の回転により生じた空気流に熱風が弾き返されるためブラシ毛の加熱効率が低下しやすい。これに対し、ブラシ工具の回転方向と順方向に噴射する熱風ならば、上記した弾き返しがなく、ブラシ毛間に巻き込まれ、ブラシ毛表面に追従する。これにより、加熱効率をよくすることができる。
【0022】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項3の膜研磨方法」という)は、請求項1または2の膜研磨方法であって、前記熱風の噴射を、前記ダイヤモンド膜の研磨面に対し併せて行うことを特徴とする。ダイヤモンド膜の研磨面に噴射される熱風は、ブラシ工具に向けて噴射された熱風の一部であってもよいし、ブラシ工具に向けた熱風とは別の熱風であってもよい。さらに、上記した一部の熱風と別の熱風の同時噴射であってもよい。
【0023】
請求項3の膜研磨方法によれば、請求項1または2の膜研磨方法の作用効果に加え、ブラシ毛の加熱に加え、ダイヤモンド膜の研磨面も加熱するので、効率よく短時間のうちに加熱効果を得ることができる。効率よい加熱効果は、効率よいダイヤモンド膜の研磨に貢献する。
【0024】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項4の膜研磨方法」という)は、請求項1ないし3いずれかの膜研磨方法であって、前記ブラシ毛の当接圧力を高めるために、ダイヤモンド膜表面と前記ブラシ工具との間の距離を縮める方向に付勢力を付与することを特徴とする。
【0025】
請求項4の膜研磨方法によれば、請求項1ないし3いずれかの膜研磨方法の作用効果に加え、付勢力の付与によりダイヤモンド膜の研磨面に対するブラシ毛の当接圧力を高める。当接圧力が高まると、ブラシ毛とダイヤモンド膜の研磨面との間の摩擦抵抗が大きくなる。摩擦抵抗が大きくなると、ダイヤモンド膜の研磨面の温度が上がるので、研磨効率がよくなる。また、研磨途中において研磨によりある程度平滑化したダイヤモンド膜の研磨面は、滑りにより研磨効率が悪くなる。そこで、ブラシ毛の当接力を高めることにより、ダイヤモンド膜の研磨面の滑りによる効率低下を抑制し、これによって、良好な研磨効率を保持することができる。
【0026】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨方法(以下、適宜「請求項5の膜研磨方法」という)は、請求項1ないし4いずれかの膜研磨方法であって、前記ブラシ工具は、ステンレス鋼製ブラシ毛を放射状に束ねてなる平型ブラシであることを特徴とする。
【0027】
請求項5の膜研磨方法によれば、請求項1ないし4いずれかの膜研磨方法の作用効果に加え、上記した平型ブラシを使用対象とすれば、市場からの調達が容易である。市場からの調達が容易であれば、安価に手に入るので、ブラシ工具がたいへん使い勝手のよいものとなる。
【0028】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項6の膜研磨装置」という)は、一部または全部がダイヤモンド膜で被覆されたワークの当該ダイヤモンド膜の研磨を行うためのダイヤモンド膜研磨装置である。請求項6の膜研磨装置の特徴は、ワークを保持するためのテーブルと、
Fe、Ti、Ba、Mg、Ca、V、Mn、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Al、Siの金属を単独もしくは複合で用いたブラシ毛を束ねてなるブラシ工具と、当該ブラシ工具のブラシ毛がダイヤモンド面に当接する位置で当該ブラシ工具を回転させる回転機構と、少なくとも当該ブラシ毛に対し熱風を噴射するための熱風噴射機構と、を備える点にある。熱風噴射機構による熱風の噴射は、ブラシ毛以外の部位・部材に対して行われてもよい。
【0029】
請求項6の膜研磨装置によれば、熱噴射機構から噴射された熱風を受けてブラシ毛の温度が上がるため、テーブルに保持されたワークのダイヤモンド膜に含まれる炭素とブラシ毛との反応が促進される。その結果、ダイヤモンド膜の研磨を効率よく行うことができる。すなわち、熱風噴射機構側からブラシ毛(ブラシ工具)を見たとき、回転機構により回転させられるブラシ毛は高速(たとえば、1000m/分)で入れ替わる。このため、レーザー照射や固定ヒーターなどによる加熱では、加熱する時間が極端に短く、それに伴い、加熱してもすぐに冷えてしまう。この点、熱媒体が空気である熱風は、ブラシ毛の間に巻き込まれるように入り込む。回転によるブラシ毛の表面の形状変化にも柔軟に追従する。熱風は、このようにして回転するブラシ毛を内外から包み込み、熱量が続く限り加熱し続ける。したがって、熱風加熱であれば、回転するブラシ毛を効率よく加熱することができる。
【0030】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項7の膜研磨装置」という)は、請求項6の膜研磨装置であって、前記熱風噴射機構は、前記熱風の噴射方向と、回転する前記ブラシ工具が前記熱風を巻き込む方向(回転方向と順方向)と、が一致するように配してあることを特徴とする。
【0031】
請求項7の膜研磨装置によれば、請求項6の膜研磨方法の作用効果に加え、熱風噴射機構から噴射された熱風が、ブラシ毛間の隙間に吸引され、ブラシ毛表面に追従しやすくなる。つまり、ブラシ工具の回転方向と逆方向に熱風を噴射すると、ブラシ工具の回転により生じた空気流に熱風が弾き返されるためブラシ毛の加熱効率が低下しやすい。これに対し、ブラシ工具の回転方向と順方向に噴射する熱風ならば、上記した弾き返しがなく、ブラシ毛間に巻き込まれ、ブラシ毛表面に追従する。これにより、加熱効率をよくすることができる。
【0032】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項8の膜研磨装置」という)は、請求項6または7の膜研磨装置であって、前記熱風噴射機構は、前記熱風の噴射を、前記ダイヤモンド膜の研磨面に対し併せて行うように構成してあることを特徴とする。ダイヤモンド膜の研磨面に噴射される熱風は、ブラシ工具に向けて上記熱風噴射機構から噴射された熱風の一部であってもよいし、ブラシ工具に向けた上記熱風噴射機構から噴射された熱風とは別の熱風噴射機構によって噴射された熱風であってもよい。さらに、上記した熱風噴射機構により噴射された熱風の一部と、別の熱風噴射機構から噴射された別の熱風の同時噴射であってもよい。
【0033】
請求項8の膜研磨装置によれば、請求項6または7の膜研磨装置の作用効果に加え、熱風噴射機構がブラシ毛とダイヤモンド膜の研磨面とを同時加熱するので、効率よく短時間のうちに加熱効果を得ることができる。効率よい加熱効果は、効率よいダイヤモンド膜の研磨に貢献する。
【0034】
(請求項9記載の発明の特徴)
請求項9記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項9の膜研磨装置」という)は、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置であって、前記テーブルおよび/または前記回転機構には、可動構造を設けてあり、当該可動構造は、前記テーブルおよび/または前記回転機構を互いに近接離反するように構成してあり、当該テーブルおよび/または前記回転機構を、互いに近接する方向に付勢する付勢機構を設けてあることを特徴とする。
【0035】
請求項9の膜研磨装置によれば、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置の作用効果に加え、付勢機構による付勢力の付与によりダイヤモンド膜の研磨面に対するブラシ毛の当接圧力を高める。当接圧力が高まると、ブラシ毛とダイヤモンド膜の研磨面との間の摩擦抵抗が大きくなる。摩擦抵抗が大きくなると、ダイヤモンド膜の研磨面の温度が上がるので、研磨効率がよくなる。また、研磨途中において研磨によりある程度平滑化したダイヤモンド膜の研磨面は、滑りにより研磨効率が悪くなる。そこで、ブラシ毛の当接力を高めることにより、ダイヤモンド膜の研磨面の滑りによる効率低下を抑制し、これによって、良好な研磨効率を保持することができる。
【0036】
(請求項10記載の発明の特徴)
請求項10記載の発明に係るダイヤモンド膜研磨装置(以下、適宜「請求項10の膜研磨装置」という)は、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置であって、前記ブラシ工具は、ステンレス鋼製ブラシ毛を放射状に束ねてなる平型ブラシであることを特徴とする。
【0037】
請求項10の膜研磨方法によれば、請求項6ないし8いずれかの膜研磨装置の作用効果に加え、上記した平型ブラシを使用対象とすれば、市場からの調達が容易である。市場からの調達が容易であれば、安価に手に入るので、ブラシ工具がたいへん使い勝手のよいものとなる。