特許第5917188号(P5917188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5917188ダイナミックマイクロホンユニット、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法およびダイナミックマイクロホン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917188
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ダイナミックマイクロホンユニット、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法およびダイナミックマイクロホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/08 20060101AFI20160422BHJP
   H04R 9/02 20060101ALI20160422BHJP
   H04R 9/04 20060101ALI20160422BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   H04R9/08
   H04R9/02 102A
   H04R9/04 105A
   H04R1/02 106
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-38741(P2012-38741)
(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2013-175903(P2013-175903A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 武田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭41−003081(JP,B1)
【文献】 特開2005−057775(JP,A)
【文献】 実開昭57−204795(JP,U)
【文献】 特開平11−196489(JP,A)
【文献】 実開昭60−160698(JP,U)
【文献】 実開昭62−169591(JP,U)
【文献】 実開昭61−050398(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/08
H04R 1/02
H04R 9/02
H04R 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を含んでいて磁気ギャップを形成する磁気回路構成部材と、
音波を受けて振動する振動板と、
前記振動板に固着されて前記磁気ギャップ内に配置されているボイスコイルと、
前記ボイスコイルの背後の空間を埋める音響抵抗体と、を備え、
前記磁気回路構成部材は、前記永久磁石と、前記永久磁石に固着されたポールピースと、前記永久磁石および前記ポールピースの外周側に配置されたヨークを有し、前記磁気ギャップは前記ポールピースと前記ヨークとの間に形成され、
前記音響抵抗体は、多孔質の焼結部品からなり、前記永久磁石および前記ポールピースと前記ヨークとの間に介在して前記永久磁石、前記ポールピースおよび前記ヨークを一体化し、前記音響抵抗体の前記ボイスコイル後背部に向する位置には、前記ボイスコイルに対する逃げ穴を有する、ダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項2】
前記音響抵抗体は、多孔質の焼結プラスチックからなる請求項1記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項3】
前記音響抵抗体は、前記ボイスコイルの背面側空気室と、ユニットの後背部に形成されている空気室であって前記ボイスコイルの背面側空気室よりも大きい空気室とをつないでいる請求項1または2記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項4】
前記ボイスコイルおよび前記音響抵抗体は円筒形状に形成され、前記音響抵抗体の前記逃げ穴は前記ボイスコイルおよび前記音響抵抗体の円筒形と同心の円に沿って形成されている請求項1,2または3記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項5】
前記磁気回路構成部材はさらにテールヨークを有し、前記テールヨークを含む前記磁気回路構成部材と前記音響抵抗体が一体化されている請求項1乃至のいずれかに記載のダイナミックマイクロホンユニット。
【請求項6】
磁気ギャップ形成用突起を有する下型と音響抵抗体素材を圧縮する上型を用いるダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法であって、
前記下型の前記磁気ギャップ形成用突起の内周面に沿わせてポールピースを配置するとともに前記ポールピースに永久磁石を載せ、ヨークの一端部内周を前記磁気ギャップ形成用突起の外周面に沿わせて配置する磁気回路構成部材配置工程と、
前記ポールピースおよび永久磁石の外周面と前記ヨークの内周面との間の空間に音響抵抗体素材を供給する音響抵抗体素材供給工程と、
記上型前記下型とによって前記音響抵抗体素材を加圧するとともに加熱して前記音響抵抗体素材を焼結させ多孔質の音響抵抗体を形成し、前記磁気回路構成部材と前記音響抵抗体素材を一体化する焼結工程と、を具備するダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法。
【請求項7】
音響抵抗体素材は樹脂粉体からなる請求項記載のダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれかに記載のダイナミックマイクロホンユニットがマイクロホンケースに組み込まれ、ボイスコイルの背後の空間と前記マイクロホンケースの内部空間とが、焼結部品からなる音響抵抗体を介して連通しているダイナミックマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイスコイルの背部に近接させて音響抵抗体を配置することができ、外力に対する機械的強度を高めることができるダイナミックマイクロホンユニット、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法およびダイナミックマイクロホンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイナミックマイクロホンユニットは、永久磁石、ヨーク、ポールピースなどで構成される磁気回路と、磁気回路中に形成されている円筒形状の磁気ギャップと、磁気ギャップ内に配置されているボイスコイルと、ボイスコイルが固着されている振動板とを主たる構成要素としている。ダイナミックマイクロホンは、上記ダイナミックマイクロホンユニットを、グリップを兼ねたマイクロホンケースに組み込むことによって構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ダイナミックマイクロホンの無指向性成分は抵抗制御である。このため、振動板の直後に音響抵抗体を配置することによって周波数応答を平坦にすることができる。図3は、従来のダイナミックマイクロホンの一例を示す。図3において、磁性材からなるほぼ円筒形状のヨーク1の内周側には、中心軸線方向のほぼ中央部に円板状のテールヨーク2が固着されている。ヨーク1の前端(図3において左端)部には内向きの鍔15が形成され、ヨーク1の内周側には、上記鍔15とテールヨーク2で挟み込まれるようにしてほぼ円筒形状のヨークスペーサ5が配置されている。ヨークスペーサ5の内周側にはテールヨーク2に接着された円柱形の永久磁石3が、また、永久磁石3に接着されたほぼ円柱形のポールピース4が配置されている。ポールピース4の前端部外周には鍔41が形成されている。
【0004】
永久磁石3、テールヨーク2、ヨーク1、ポールピース4で磁気回路を構成していて、ヨーク1の鍔15の内周面と、ポールピース4の鍔41の外周面との間に円筒形状の磁気ギャップが形成されている。ヨーク1の前端部外周には、円筒形状の保護ケース6が、その内向きの鍔61が嵌められることによって固着されている。保護ケース6の前端には外周壁を残して窪みが設けられ、この窪み内に上記外周壁と同心の円に沿って形成された突堤に、振動板8の外周縁部が固着されている。振動板8はドーム型のセンタードームと、センタードームの外周を囲んで形成された断面が円弧形のサブドームを有してなり、サブドームの外周縁部が上記のように保護ケース6突堤に固着されている。
【0005】
振動板8のセンタードームとサブドームの境界に沿って、細い導線が円筒形状に巻かれてなるボイスコイル9の一端が固着され、ボイスコイル9は上記磁気ギャップ内に位置している。振動板8が音波を受けて振動するとボイスコイル9も振動し、ボイスコイル9が磁気ギャップ内の磁束を横切ることによって発電する。このようにして電気音響変換され、音波に対応した音声信号がボイスコイル9から出力される。保護ケース6の前端には、振動板8との間に適宜の間隔をおいてレゾネータ7が固着されている。
【0006】
ポールピース4の鍔41を除く基体部分の外径と永久磁石3の外径は同じで、これら永久磁石3およびポールピース4の外周面と、ヨーク1の内周面との間に形成されている円筒形状の空間には円筒形状のヨークスペーサ5が嵌められている。ヨークスペーサ5は、樹脂などの非磁性体を素材としており、ヨーク1と永久磁石3およびポールピース4との相対位置関係を定めている。ヨークスペーサ5の内周面側には適宜数の溝51が中心軸線方向に形成され、溝51は、ヨークスペーサ5の前端側と後端側の空間を結んでいる。テールヨーク2はこのテールヨーク2を厚さ方向に貫く適宜数の孔21を有していて、孔21はヨークスペーサ5の溝51と連通している。
【0007】
ヨーク1の後端部内周側には扁平な円柱状に形成された音響抵抗体10が嵌められ、音響抵抗体10はテールヨーク2の背面に接して上記孔21を覆っている。ヨーク1の後端は開放していて、このヨーク1の開放端に蓋11が取り付けられている。蓋11は円板形の蓋本体とこの蓋本体の片面から突出した円筒部112を有し、円筒部112がヨーク1の開放端部内周側に嵌め込まれることによって蓋11がヨーク1に取り付けられ、蓋11の円筒部112の前端が音響抵抗体10をテールヨーク2に向かって押し付けている。蓋11の本体には孔111が形成されている。ヨーク1の後端部外周にはグリップを兼ねたマイクロホンケース12の開放端部が嵌め込まれ、マイクロホンケース12は蓋11の背面側に比較的大きな空気室121を形成するとともにこの空気室121を閉鎖している。
【0008】
ヨークスペーサ5の前端部は、ボイスコイル9の振動の妨げにならないように、ボイスコイル9と対向する半径方向内周側の約半分が窪んでいる。この窪みが形成されることにより、ボイスコイル9の後背部に小さな空気室53が形成されている。ボイスコイル9のセンタードームおよびサブドームの背面側の空間は、前記磁気ギャップ、上記空気室53、ヨークスペーサ5の溝51、テールヨーク2の孔21、音響抵抗10、蓋11の孔111を経てマイクロホンケース12内の空気室121と連通している。
【0009】
上記のように構成されたダイナミックマイクロホンは、振動板8の背面側の空間が、ボイスコイル9を境にして、実質的に内周側の空間と外周側の空間に分割されている。換言すれば、振動板8の背面側の空間は、センタードームの背面側空間と、サブドームの背面側空間に分割されている。これら内周側と外周側の空間は、ボイスコイル9の内周側磁気ギャップおよび外周側磁気ギャップを経て連通している。ダイナミックマイクロホンの感度を高めるためは、上記磁気ギャップを狭くすることが有効であることから、ボイスコイル9がポールピース4およびヨーク1に接触しない範囲で可能な限り上記磁気ギャップを狭くしている。そのため、振動板8の背面側の空間が、ボイスコイル9を境にして、上記のように実質的に内周側空間と外周側空間に分割されたのと同じになっている。
【0010】
いま、ボイスコイル9のセンタードームの背面側空間の音響容量をSc、サブドームの背面側空間の音響容量をSs、ボイスコイル9の内周面とポールピース4の鍔41の外周面との間に生じている隙間による音響質量をmgi、上記隙間の音響抵抗をrgi、ボイスコイル9の外周面とヨーク1の内周面との間に生じている隙間による音響質量をmgo、上記隙間の音響抵抗をrgoとする。また、振動板8に前面側にかかる音圧をP1、ヨーク1内に配置されている音響抵抗体10の音響抵抗をr1、振動板8の前面側空気室の音響質量をmo、上記空気室の音響容量をSoとする。さらに、ボイスコイル9の後背部の前記空気室53の音響容量をSgとする。図5図6に示すように、上記二つの空間の音響容量ScとSsが、上記音響質量mgi、音響抵抗rgiを経てつながり、また、音響質量mgo、音響抵抗rgoを経てつながっている。
【0011】
図5に示す等価回路からわかるように、ボイスコイル9のセンタードームおよびサブドームの背面側空気室の音響容量Sc,Ssと、音響質量mgi,mgoが共振し、周波数特性に凹凸を作る。また、ボイスコイル9が配置されている磁気ギャップは小さな空気室53に連通しており、この空気室53の音響容量Sgが上記音響質量mgi,mgoと共振する。そこで、図3に示す例では、上記空気室53に連通するヨーク1の後部に空気室を設けてこの空気室に音響抵抗体10を設け、上記ヨーク1の後部の空気室をさらにマイクロホンケース12によって形成される大きな空気室121に連通させている。かかる構成においては、上記磁気ギャップのボイスコイル9を境にした内周側の音響質量mgi,音響抵抗rgiと、外周側の音響質量mgo,音響抵抗rgoに対して、それぞれ音響抵抗体10の音響抵抗r1が直列接続になる。空気室53の音響容量Sgは極めて小さくそのスティフネスが高くなることから、共振周波数を高くすることができ、周波数特性における主要な収音周波数帯域の凹凸をなくすことができる。
【0012】
図4に示す従来例は、図3に示す従来例の構成からヨークスペーサ5を省略したもので、ボイスコイル9の背後に比較的大きな容積の空気室53が生じていて、この空気室53の音響容量Sgも大きくなっている。その他の構成は図3に示す従来例の構成と同じであり、音響質量、音響抵抗、音響容量も図3に示す従来例と同様に定義する。図4に示す従来例の構成によれば、音響容量Sgが大きくなっているため、その等価回路は図5に示すとおりであって、空気室53のスティフネス低く、主要な収音周波数帯域に凹凸が生じる。
【0013】
図3に示す従来例は、空気室53の容積を小さくして音響容量Sgを小さくし、空気室53のスティフネスを大きくするために、空気室53にヨークスペーサ5を介在させている。したがって、上記音響容量Sgは無視できる程度に極めて小さくなり、音響的な等価回路は図6に示すように音響容量Sgを無くしたものと実質的に同じになり、前述のように、周波数特性における主要な収音周波数帯域の凹凸をなくすことができる。図3に示す従来例において、振動板8の背面側の空間に連通する空気室に配置されている音響抵抗体10の音響抵抗r1は、マイクロホンの無指向性成分を司っている。容積の小さい上記空気室53の直後に音響抵抗r1が存在していることにより、良好な無指向性成分を得ることができる。音響抵抗体10を配置している大きな空気室121は、音波が音響抵抗体10を介して振動板8の背面側から入り込まないようにするために設けられている。
【0014】
ここまで説明してきたように、ボイスコイル9の背後の空気室53は、可能な限り容積を小さくすることが望ましい。そのためには、ボイスコイル9の背面側空間に配置する音響抵抗体を、可能な限りボイスコイル9に近接させることが望ましい。しかし、従来のように音響抵抗体がフェルト状のもの、不織布状のものなどからなる場合、繊維の一部がボイスコイル9に接触しやすく、繊維がボイスコイル9に接触すると、電気音響変換された音声信号に異音信号が混入する。したがって、繊維質の素材からなる音響抵抗体はボイスコイル9に近接させることはできない。
【0015】
既に述べたように、マイクロホンの感度を高めるためには、ボイスコイル9が配置される磁気ギャップは可能な限り狭くし、ボイスコイル9と、ヨーク1との間隔およびポールピース4との間隔を狭くすることが望ましい。一般的には磁気ギャップは0.4〜0.7mm程度と狭くなっていて、この狭い磁気ギャップ内でボイスコイル9がヨーク1およびポールピース4に接触することなく振動しなければならない。したがって、ヨーク1およびポールピース4の偏心が極めて小さくなるように精度よく加工し、精度よく組み立てる必要がある。
【0016】
また、ダイナミックマイクロホンは、手持ち型のマイクロホンとして用いられる場合が多いため、落下による衝撃を受けやすい。ダイナミックマイクロホンは、磁気回路を構成する永久磁石、ヨーク、ポールピースなど、比較的重量のある部品が多く用いられるため、衝撃を受けると大きな慣性力が発生する。図4に示す従来例のように、永久磁石3およびポールピース4と、ヨーク1との間に大きな空気室53が生じているものにおいては、マイクロホンの中心軸線に対して直交する方向から衝撃が加わると、磁気回路を構成する各部品相互の接着が上記慣性力で外れ、部品が脱落しやすいという問題がある。脱落した磁気回路構成部品は、永久磁石3の磁力で吸着され、ボイスコイル9に接触してその振動を制限し、あるいはボイスコイル9を断線させることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2010−114705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、ボイスコイルの背部に近接させて音響抵抗体を配置して音響特性を改善するとともに、磁気回路構成部材を精度よく安定に位置決めすることができるダイナミックマイクロホンユニット、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法およびダイナミックマイクロホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るダイナミックマイクロホンユニットは、
永久磁石を含んでいて磁気ギャップを形成する磁気回路構成部材と、
音波を受けて振動する振動板と、
前記振動板に固着されて前記磁気ギャップ内に配置されているボイスコイルと、
前記ボイスコイルの背後の空間を埋める音響抵抗体と、を備え、
前記磁気回路構成部材は、前記永久磁石と、前記永久磁石に固着されたポールピースと、前記永久磁石および前記ポールピースの外周側に配置されたヨークを有し、前記磁気ギャップは前記ポールピースと前記ヨークとの間に形成され、
前記音響抵抗体は、多孔質の焼結部品からなり、前記永久磁石および前記ポールピースと前記ヨークとの間に介在して前記永久磁石、前記ポールピースおよび前記ヨークを一体化し、前記音響抵抗体の前記ボイスコイル後背部に向する位置には、前記ボイスコイルに対する逃げ穴を有することを最も主要な特徴とする。
【0020】
本発明に係るダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法は、
磁気ギャップ形成用突起を有する下型と音響抵抗体素材を圧縮する上型を用いるダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法であって、
前記下型の前記磁気ギャップ形成用突起の内周面に沿わせてポールピースを配置するとともに前記ポールピースに永久磁石を載せ、ヨークの一端部内周を前記磁気ギャップ形成用突起の外周面に沿わせて配置する磁気回路構成部材配置工程と、
前記ポールピースおよび永久磁石の外周面と前記ヨークの内周面との間の空間に音響抵抗体素材を供給する音響抵抗体素材供給工程と、
記上型前記下型とによって前記音響抵抗体素材を加圧するとともに加熱して前記音響抵抗体素材を焼結させ多孔質の音響抵抗体を形成し、前記磁気回路構成部材と前記音響抵抗体素材を一体化する焼結工程と、を具備すること
を特徴とする。
【0021】
本発明に係るダイナミックマイクロホンは、前記本発明に係るダイナミックマイクロホンユニットがマイクロホンケースに組み込まれ、ボイスコイルの背後の空間と前記マイクロホンケースの内部空間とが、焼結部品からなる音響抵抗体を介して連通していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
ボイスコイルの背後の空間を、音響抵抗体が埋めているため、音響抵抗体をボイスコイルに近接させることができ、ボイスコイルの背後の空間の容積を極めて小さくして音響特性を改善することができる。焼結部品からなる音響抵抗体が介在することによって磁気回路構成部材を精度よく安定に位置決めすることができるとともに、衝撃力が加わっても、磁気回路構成部材が脱落しにくいという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンの実施例を示す縦断面図である。
図2】本発明に係るダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法の実施例を工程順に示す縦断面図である。
図3】従来のダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンの例を示す縦断面図である。
図4】従来のダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンの別の例を示す縦断面図である。
図5図4に示す従来のダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンの音響的な等価回路図である。
図6図3に示す従来のダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンの音響的な等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るダイナミックマイクロホンユニット、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法およびダイナミックマイクロホンの実施例について図面を参照しながら説明する。なお、図3図4に示す従来例における構成部分と同じ構成部分には共通の符号を付している。
【実施例】
【0025】
図1において、磁性材からなるほぼ円筒形状のヨーク1の内周側には、中心軸線方向のほぼ中央部に円板状のテールヨーク2が嵌められて固着され、ヨーク1の内部空間を軸線方向にほぼ二分している。ヨーク1の前端(図3において左端)部には内向きの鍔15が形成されている。ヨーク1の前半部内周側には、テールヨーク2に接着された円柱形の永久磁石3が、また、永久磁石3に接着されたほぼ円柱形のポールピース4が配置されている。ポールピース4の前端部外周には鍔41が形成されている。ポールピース4の鍔41を除く基部の外周面および永久磁石3の外周面と、ヨーク1の内周面との間には円筒形状の空間が生じている。
【0026】
永久磁石3、テールヨーク2、ヨーク1、ポールピース4で磁気回路を構成していて、ヨーク1の内向きの鍔15の内周面と、ポールピース4の鍔41の外周面との間に円筒形状の磁気ギャップが形成されている。ヨーク1の前端部外周には、円筒形状の保護ケース6の内向きの鍔61が嵌められることによって保護ケース6がヨーク1に固着されている。保護ケース6の前端には外周壁64を残して窪み62が設けられ、この窪み62内に上記外周壁64と同心の円に沿って円形の突堤63が形成されている。この突堤63の前端面に、振動板8の外周縁部が固着されている。振動板8はドーム型のセンタードームと、センタードームの外周を囲んで形成された断面が円弧形のサブドームを有してなり、サブドームの外周縁部が上記のようにして保護ケース6の突堤63に固着されている。
【0027】
振動板8のセンタードームとサブドームの境界に沿って、細い導線が円筒形状に巻かれてなるボイスコイル9の一端が固着され、ボイスコイル9は上記磁気ギャップ内に位置している。振動板8が音波を受けて振動するとボイスコイル9も前後に振動し、ボイスコイル9が磁気ギャップ内の磁束を横切ることによって発電する。このようにして電気音響変換され、音波に対応した音声信号がボイスコイル9の両端から出力される。保護ケース6の前端には、振動板8との間に適宜の間隔をおいてレゾネータ7が固着されている。レゾネータ7には音波の導入孔71が形成され、前部音響端子を構成している。
【0028】
ポールピース4の鍔41を除く基部の外径と永久磁石3の外径は同じで、これら永久磁石3およびポールピース4の外周面と、ヨーク1の内周面との間に前記円筒形状の空間が形成されている。上記円筒形状の空間には焼結部品からなる音響抵抗体20が介在し、上記円筒形状の空間の大部分を音響抵抗体20が埋めている。音響抵抗体20を構成する焼結部品は、非磁性の樹脂粉体からなる音響抵抗体素材を圧縮し加熱して焼結させることによって製作されている。したがって、音響抵抗体20は多孔質の焼結プラスチックであって、適宜の音響抵抗をもって音波を通すことができる。
【0029】
音響抵抗体20は、単独の部品として製作されていてもよいが、本実施例では、後で説明するように、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造工程において圧縮、加熱されることによって製作される。この音響抵抗体20の製作工程において、永久磁石3、ポールピース4、ヨーク1で構成される磁気回路構成部品も一体化され、上記磁気回路ユニットが製造される。音響抵抗体20は、ヨーク1と永久磁石3およびポールピース4との相対位置関係を定めている。音響抵抗体20は多孔質の焼結部品であることから、音響抵抗体20の前端側と後端側の空間を連通させている。テールヨーク2はこのテールヨーク2を厚さ方向に貫く適宜数の孔21を有していて、孔21は、多孔質の音響抵抗体20を経て前記磁気ギャップと連通している。
【0030】
音響抵抗体20の前端面は、半径方向外径側のほぼ半分がヨーク1の前記内向きの鍔15の内側の面に密着している。音響抵抗体20の前端面には、上記鍔15の内周面よりも内周側に穴201が形成されている。穴201は、円筒形の音響抵抗体20の中心軸と同心の円に沿い、円筒形状のボイスコイル9と対向する位置に形成され、ボイスコイル9に対する逃げ穴となっている。したがって、穴201は、音響抵抗体20およびボイスコイル9ばかりでなく、前記永久磁石3を含む前記磁気回路構成部材とも同心の円に沿って形成されている。
【0031】
音響抵抗体20は焼結部品であり、従来の音響抵抗体のように繊維がはみ出すことはないため、音響抵抗体20をボイスコイル9に近接させることができる。また、音響抵抗体20は精度よく安定に位置決めされるため、逃げ穴201は、ボイスコイル9が接触しない範囲で可能な限り小さい幅に、かつ、ボイスコイル9が最大振幅で振動しても接触しない範囲で可能な限り深さを浅くしている。したがって、主として上記逃げ穴201からなるボイスコイル9の背部の空気室の容積は極めて小さく、この空気室の音響容量Sgは無視できる程度に極めて小さくすることができる。
【0032】
ヨーク1の後端は開放していて、このヨーク1の開放端に蓋11が取り付けられている。蓋11は円板形の蓋本体とこの蓋本体の片面から突出した円筒部112を有し、円筒部112がヨーク1の開放端部内周側に嵌め込まれることによって蓋11がヨーク1に取り付けられている。蓋11の本体には孔111が形成されている。ヨーク1の後端部外周にはグリップを兼ねたマイクロホンケース12の開放端部が嵌め込まれ、マイクロホンケース12は蓋11の背面側に比較的大きな空気室121を形成するとともにこの空気室121を閉鎖している。蓋11を含む前側の各部材で構成されている部分はダイナミックマイクロホンユニットを構成しており、このダイナミックマイクロホンユニットがマイクロホンケース12に組み込まれることによりダイナミックマイクロホンが構成されている。
【0033】
以上説明した実施例に係るダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンは、音響抵抗体20の材質、配置位置などに特徴があり、さらには、音響抵抗体20にボイスコイル9に対する逃げ穴201を設けたことに特徴がある。このような特徴を有するダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンは、その磁気回路ユニットを、従来にない独特の工程を経ることによって製造することができる。以下、図2を参照しながらダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法の実施例について説明する。
【0034】
本発明に係るダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法の実施例では、図2に示すように、磁気ギャップ形成用突起31を有する下型30と音響抵抗体素材を圧縮する上型40を用いる。まず、図2(a)に示すように、下型30をその磁気ギャップ形成用突起31が上向きになるように設置し、磁気ギャップ形成用突起31の内周側にポールピース4を配置する。前記実施例におけるポールピース4は鍔41を有しており、この鍔41の外周面を磁気ギャップ形成用突起31の内周面に沿わせて配置する。磁気ギャップ形成用突起31の高さはポールピース4の鍔41の高さ(厚さ)よりも高くなっている。ポールピース4の上に永久磁石3を載せる。ポールピース4と永久磁石3は接着してもよいし、接着しなくてもよい。
【0035】
次に、図2(b)に示すように、ヨーク1を、その一端部内周を磁気ギャップ形成用突起31の外周面に沿わせて下型30上に配置する。ヨーク1の一端部とは内向きの鍔15が形成されている側の端部で、鍔15の内周面を磁気ギャップ形成用突起31の外周面に沿わせて配置する。ヨーク1の鍔15の厚さはポールピース4の鍔41の厚さとほぼ同じで、磁気ギャップ形成用突起31の上部が上記各鍔15,41よりも上に突出している。ヨーク1の内周面と、積み上げられているポールピース4および永久磁石3の外周面との間には円筒形状の空間が生じている。図2(a)(b)に示す工程は、下型30への磁気回路構成部材配置工程である。
【0036】
次に、図2(c)に示す音響抵抗体素材供給工程を実行する。この工程では、ポールピース4および永久磁石3の外周面と、ヨーク1の内周面との間に生じている空間に音響抵抗体素材20Aを供給する。音響抵抗体素材20Aは、非磁性の樹脂粉体からなる。例えば、エチレンビニールアセテート(EVA)、メチルメタアクリレート(MMA)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などの紛体から適宜のものを選択して用いることができる。音響抵抗体素材20Aは、上記空間からはみ出さない程度の量とする。
【0037】
次に、図2(d)に示す焼結工程を実行する。この焼結工程では、上型40を下型30に向かって移動させて音響抵抗体素材20Aを加圧し、加圧した状態で加熱することにより焼結部品としての音響抵抗体20を製作する。上型40は下部が円筒形状の押圧成形部45を一体に有している。押圧成形部45の半径方向の厚さは、ポールピース4および永久磁石3の外周面と、ヨーク1の内周面との間の生じている空間の間隔と同じになっている。上記空間に上型40の押圧成形部45を嵌め込みながら上型40を下型30に向かって降下させると、押圧成形部45が上記空間内の音響抵抗体素材20Aを圧縮する。予め定められている所定の加圧力が音響抵抗体素材20Aに加えられている状態で音響抵抗体素材20Aを加熱して音響抵抗体素材20Aを焼結させると、焼結部品からなる音響抵抗体20を上記空間内で製作することができる。
【0038】
音響抵抗体素材20Aが焼結されることにより、磁気回路構成部材であるポールピース4および永久磁石3と、ヨーク1とが音響抵抗体20とともに一体化され、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットが製作される。図2(e)は、上記のようにして音響抵抗体20を焼結し、ダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットを製作したのち冷却し、上型40および下型30から取り出した上記磁気回路ユニットを示す。この磁気回路ユニットを構成するヨーク1の内向きの鍔15の内周面とポールピース4の鍔41の外周面との間に、下型30の磁気ギャップ形成用突起31と同形で同じ幅の磁気ギャップ50が形成されている。さらに、上記各鍔15,41の厚さよりも高さが高くなっている磁気ギャップ形成用突起31の先端部で、音響抵抗体20の端面に、磁気ギャップ50の幅と同じ幅の前記逃げ穴201が磁気ギャップ50に連続して形成されている。
【0039】
図1に示すように、上記磁気回路ユニットに、テールヨーク2、保護ケース6、ボイスコイル9と一体の振動板8、レゾネータ7、蓋11が組み込まれることによってダイナミックマイクロホンユニットが構成される。上記マイクロホンユニットにマイクロホンケース12が結合されることによってダイナミックマイクロホンが構成される。ボイスコイル9は磁気ギャップ50内に配置され、ボイスコイル9の後端部は逃げ穴201に対向しており、ボイスコイル9が最大振幅で振動しても、逃げ穴201が存在することによりボイスコイル9が音響抵抗体20に接触することがないように構成されている。
【0040】
ポールピース4、永久磁石3、ヨーク1は、上下の型40,30で位置決めされ、この状態で音響抵抗体20が焼結されることにより、これらの部材が一体に結合されるため、これらの部材相互の位置関係および同心度の精度が高まり、さらには、磁気回路ユニットの機械的強度が高まる。したがって、磁気ギャップ50を狭くしても、ポールピース4、ヨーク1へのボイスコイル9の接触を防止することができ、マイクの感度を高めることができる。また、音響抵抗体20に形成する逃げ穴201の幅および深さ寸法を極めて小さくすることができるため、ボイスコイル9の背後の空間容積を極めて小さくすることができ、前記音響容量Sgを無視できる程度に小さくすることができる。こうして、共振周波数を高くすることができ、周波数特性における主要な収音周波数帯域の凹凸をなくすことができる。衝撃などで磁気回路構成部材相互が分離しやすいといった従来の問題点を解消することができる。
【0041】
多孔質の焼結部品は、無数の微小な孔が閉鎖されることなく連続しており、空気や液体が通り抜けることができるので、音響抵抗体として利用可能であることがわかった。そこで、本発明では音響抵抗体20の素材を焼結部品とした。焼結部品からなる音響抵抗体は、従来の音響抵抗体のように繊維の一部が伸び出るというようなことはなく、表面は成形型で成形されて滑らかであるから、図1図2に示すように、焼結部品からなる音響抵抗体20は、これをボイスコイル9の背部に近接させて配置することができる。
【0042】
焼結部品からなる音響抵抗体20は、振動板8の背面側の空間に連通する空気室に配置されていることになる。音響抵抗体10の音響抵抗r1は、マイクロホンの無指向性成分を司っている。ボイスコイル9の背後の空気室は容積の小さい前記逃げ穴201からなり、この逃げ穴201の容積はごく小さく、容積の小さい逃げ穴201の直後に音響抵抗r1が存在していることにより、良好な無指向性成分を得ることができる。
【0043】
音響抵抗体20を焼結部品で製作した本発明の実施例によれば、音響抵抗体20を介して磁気回路構成部品を一体化することができるため、マイクロホンの落下などによって衝撃を受けても、磁気回路構成部品が脱落しにくく、機械的強度が高まるとともに、機械的な精度を高めることができる利点がある。
【0044】
音響抵抗体20の音響抵抗値r1は、音響抵抗体素材である紛体の大きさ、加圧力、焼結温度などの諸条件を設定することで任意に設定することができる。これらの条件を一旦定めると、所定の音響抵抗値を安定して得ることができ、個体差を少なくすることができる。
【0045】
図2に示すダイナミックマイクロホン用磁気回路ユニットの製造方法では、音響抵抗体素材を焼結する工程を実行することにより、磁気回路構成部材が一体化されて磁気回路ユニットが製造されるようになっている。かかる製法で製造された磁気回路ユニットを本発明に係るダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンに用いれば、これまで述べてきたさまざまな効果を得ることができる。しかし、ダイナミックマイクロホンユニットおよびダイナミックマイクロホンとして、所期の主要な効果を得るためには、必ずしも磁気回路ユニットを前記製造方法で製造する必要はなく、焼結部品としての音響抵抗体20を個別に製作しておき、これを磁気回路構成部材とともに組み上げるようにしてもよい。
【0046】
以上説明した実施例では、音響抵抗体20は焼結部品であり、より具体的には多孔質の焼結プラスチックであった。しかし、音響抵抗体20は所定の形をとどめることができ、かつ、所定の音響抵抗をもって音波を通すことができるものであれば、焼結部品に限定されるものではない。したがって、音響抵抗体20は、例えば、スポンジ状の部品であって、このスポンジ状の部品の、ボイスコイル後背部に対応する部分に逃げ穴を有していればよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ヨーク
2 テールヨーク
3 永久磁石
4 ポールピース
7 レゾネータ
8 振動板
9 ボイスコイル
30 下型
31 磁気ギャップ形成用突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6