【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では交差する直階段の交差区間に形成される踊り場7を通じて隣接する階段間を行き来可能にしているが、踊り場7の設置位置が前記のようにいずれかの階の床面のレベルに揃えられているため(段落0011)、上下に隣接する階間の中間部を通じた、隣接階間の同一地点間の移動が自由になっている訳ではない。踊り場7には階段の幅方向に配置される渡り廊下14、15が連続し、渡り廊下14、15が隣接する棟の廊下4に連続している。
【0007】
特許文献1は複数の層を持つ棟(建物)が平行に、隣接して立設される場合において、隣接する棟の対向する面に配置された廊下間の移動(往来)を可能にすることを目的とするに留まるため(請求項1、段落0002)、隣接階間の中間部を経由させ、隣接する直階段間を折り返して昇降させることは可能になっていない。特に工事期間中の作業性向上のための移動の便宜を考慮した、隣接階間の同一地点間の短絡化した移動は可能になっていない。
【0008】
本発明は上記背景より、主に工事期間中の作業性向上のための、上下に隣接する階間の同一地点間の移動を可能にするクロス階段と、それに使用され、交差する階段間の往来に適したクロス階段往来用渡り部材を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明のクロス階段は、平面上、空間を挟んで対向し、層の異なる床間に架設される複数本の直階段型の階段がその幅方向に隣接しながら、立面上、互いに交差するクロス階段であり、前記隣接する2本の階段が双方の階段の長さ方向中間部において互いに交差し、この交差する区間に
、前記階段の長さ方向に前記各階段の複数枚の段板に跨る長さを持つと共に、前記階段の幅方向に前記隣接する階段間に跨る幅を持つ渡り部材が着脱自在に設置され、前記交差する区間において前記階段の幅方向に連通し、前記階段間が往来可能となって
おり、
前記渡り部材は前記階段の幅方向両側に前記各階段の2枚以上の前記段板に跨って支持される脚部を有し、この各脚部はそれぞれの側の前記階段の2枚以上の前記段板の踏面の形状に応じて切り欠かれた形状をしていることを構成要件とする。
【0010】
「空間」は階段室となる空間を指す。「層の異なる床間」は基本的には上下に隣接する階(ある階とその直上階)の床間を指すが、直階段が2層間(例えば1階と3階との間)に架設されることもあるため、必ずしも上下に隣接する階の床間とは限らない。
【0011】
クロス階段を構成する直階段型の階段は建物の平面計画に応じ、幅方向に3本以上、隣接して架設される場合もあり、その場合も、少なくともいずれか隣接する2本の階段が互いに交差する。2本の階段が交差する区間(連通区間)は主に建物(構造物)の工事(施工)期間中における作業者の作業効率向上の目的で通行されることから、交差区間(連通区間)の階段の長さ方向の幅には、人の通過が可能な大きさが確保されればよい。この関係で、交差区間は少なくとも各階段の長さ方向中間部に位置する1枚、もしくは複数枚の段板を含む領域(区間)であればよく、交差区間には踊り場の形成を要しない。
【0012】
直階段では階段が架設される下層階の床面のレベルと上層階の床面のレベルの差(階高)と、両床面間の水平距離の関係から、段数(段板の枚数)と1枚の段板の奥行き(踏面寸法)が決まる。このため、水平距離の制約から、踊り場を確保できる余裕のない床面積の領域内に踊り場を形成すれば、少なくともいずれかの段板の奥行きを縮小せざるを得ない結果を招く。これに対し、踊り場の形成を要することなく、階段の長さ方向には1枚、もしくは複数枚の段板を含む領域で幅方向に隣接する階段が連通することで、いずれの段板の奥行き(踏面寸法)をも減少させずに隣接する階段間の往来を自在にすることができる。
【0013】
直階段を構成する全段板の奥行きを減少させる必要がないことで、隣接する階段間の人(作業者)の往来(通行)に使用される交差区間(連通区間)の足場となる床面(段板の踏面)の内、段差のない平坦な面をなす領域(範囲)の面積を拡大することができる利点がある。段板の奥行きが小さければ、交差区間の足場となる床面、例えば後述する渡り部材の連結部の上面が段差のある階段状になり易い。
【0014】
詳しく言えば、交差区間(連通区間)には上記のように階段の長さ方向に、人の通行のための一定の幅が確保されるが、1枚の段板の奥行きが小さければ、交差区間の一定幅を確保する上で、多数の段板に跨る区間が必要になるため、交差区間の通路の足場となる床面が階段状になり、段差を有する形になり、段数も多くなり易い。これに対し、1枚の段板の奥行きを減少させずに済む場合には、通路の足場となる床面を平板状にすることが可能になるか、またはより少ない段数の段板に跨がればよい形状にすることができるため、通行時の安定性と安全性が確保され易くなる。
【0015】
また隣接する2本の階段が双方の階段の長さ方向中間部において互いに交差することで、異なる層間(階間)の中間部の高さ(レベル)で隣接する2本の階段間の移動(往来)が可能になるため、異なる層間、特に隣接階間の同一地点間の短絡化した移動が可能になる。
【0016】
異なる層間の同一地点間、例えば
図5に示すように一方の階段の、○を付した下階の上り口から直上階の階段の上り口まで、1層分、移動する上では、下階の階段の上り口から階段の中途(長さ方向中間部)の交差区間(連通区間)まで上昇したところで、交差区間(連通区間)から隣接する階段に移動し、折り返してその階段の中途(中間部)から、矢印の先端である降り口まで上昇すればよいことになる。折り返した先の階段の降り口は直上階の階段の上り口と同一地点に他ならないから、異なる層間の同一地点間の移動距離は水平距離で言えば、直階段の上り口から降り口までの距離に過ぎない。
【0017】
結果として、
図6に示すように下階の階段の上り口から階段(直階段)の対向する側である上階の降り口まで移動した後に上階の廊下や床を通じ、階段室周りを迂回する必要が
図5ではなくなるため、移動の効率が大幅に向上し、移動時間が短縮される。
【0018】
図5に示す一方の階段の下階の上り口からは、交差区間(連通区間)を経由することで、隣接する他方の階段の同一階の上り口に移動することも可能であり、同一層内での階段室を挟んで対向する一方側の床から他方側の床にまで移動する際にも、階段室周りを迂回することなく、移動のための水平距離を短縮することが可能である。
【0019】
隣接する2本の階段の交差区間(連通区間)は少なくとも通路として使用されている期間は、手摺りや壁等の境界(仕切り)がない開放状態になるが、通行時の安全性確保の目的で、階段(段板)とは別に渡り部材が着脱自在に設置される
。渡り部材は2本の階段の交差区間(連通区間)に、階段の長さ方向に各階段
の複数枚の段板に跨る長さを持つと共に、階段の幅方向には隣接する階段間に跨る幅を持ち、隣接する階段の各段板上に載置された状態で、隣接する階段の双方に着脱自在に
設置される(請求項
1、2)。各階段の、少なくとも隣接する階段側に側桁がある場合には、渡り部材は両階段の側桁間に跨る幅を持つ。
【0020】
渡り部材は双方の階段に対して着脱自在であることで、主に建物の工事期間中の仮設部材として設置されるが、仮設の場合の設置状態での安定性は各階段の段板、側桁、もしくは仮設の手摺り等に仮固定されることにより確保される。渡り部材の段板に突き当たる部位
は段板の表面形状に応じて切り欠かれた形状に形成される。
【0021】
前記のように階段は幅方向に3本以上、隣接することもあり、その内の幅方向の中心に位置する階段の一方側に隣接する階段との交差位置と、他方側に隣接する階段との交差位置が異なるような場合には、階段幅方向の中心に位置する階段には2箇所の交差区間が形成されるため、その2箇所に渡り部材が設置されることもある。