(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本実施形態に係る繊維束処理装置の全体構成について簡単に説明する。本実施形態における繊維束処理装置は、フィラメントワインディング装置100(以降「FW装置100」)である。
【0021】
図1は、FW装置100の全体構成を示す図である。図中に示す矢印Dは、ライナー1の移送方向を示している。また、ライナー1の移送方向と平行な方向をFW装置100の前後方向とし、ライナー1が移送される一方向を前側、他方向を後側と定義する。なお、FW装置100は、ライナー1を前後方向に往復動させるため、該ライナー1の移送方向に応じて前側及び後側が定まる。
【0022】
図2は、クリールスタンド40の一部構成を示す図である。図中に示す矢印Xは、繊維束Fbの送り方向を示している。
【0023】
FW装置100は、ライナー1の外周面に繊維束Fbを巻き付ける。FW装置100は、主にライナー移送装置10と、ヘリカル巻き装置20と、フープ巻き装置30と、クリールスタンド40と、で構成される。
【0024】
ライナー1は、例えば高強度アルミニウム材やポリアミド系樹脂等によって形成された略円筒形状の中空容器である。ライナー1は、該ライナー1の外周面に繊維束Fbが巻き付けられることによって耐圧特性の向上が図られる。つまり、ライナー1は、耐圧容器を構成する基材とされる。
【0025】
ライナー移送装置10は、ライナー1を回転又は非回転状態で移送する。詳細には、ライナー移送装置10は、FW装置100の前後方向を中心軸としてライナー1を回転させるとともに、FW装置100の前後方向にライナー1を移送する。ライナー移送装置10は、主に基台11と、ライナー支持フレーム12と、回転軸13と、で構成される。
【0026】
基台11は、FW装置100の前後方向に延設されたレール上に載置されている。基台11には、一対のライナー支持フレーム12と回転軸13が設けられている。そして、回転軸13に取り付けられたライナー1は、図示しない動力機構によって一方向に回転される。
【0027】
このような構成により、ライナー移送装置10は、FW装置100の前後方向を中心軸としてライナー1を回転させるとともに、FW装置100の前後方向にライナー1を移送することを可能としている。
【0028】
ヘリカル巻き装置20は、ライナー1の外周面に繊維束Fbを巻き付ける。詳細には、ヘリカル巻き装置20は、繊維束Fbの巻き付け角度がFW装置100の前後方向に対して所定の値となる、いわゆるヘリカル巻きを行なう。ヘリカル巻き装置20は、主に基台21と、ヘリカル巻き掛け装置22と、で構成される。
【0029】
基台21には、ヘリカル巻き掛け装置22が設けられている。ヘリカル巻き掛け装置22には、繊維束Fbを案内する複数の繊維束ガイド23が設けられている。そして、各繊維束ガイド23によって案内された繊維束Fbは、回転しながら通過するライナー1の外周面に巻き付けられる。
【0030】
このような構成により、ヘリカル巻き装置20は、繊維束Fbの巻き付け角度がFW装置100の前後方向に対して所定の値となるヘリカル巻きを行なうことを可能としている。
【0031】
フープ巻き装置30は、ライナー1の外周面に繊維束Fbを巻き付ける。詳細には、フープ巻き装置30は、繊維束Fbの巻き付け角度がFW装置100の前後方向に対して略垂直となる、いわゆるフープ巻きを行なう。フープ巻き装置30は、主に基台31と、フープ巻き掛け装置32と、で構成される。
【0032】
基台31には、フープ巻き掛け装置32が設けられている。フープ巻き掛け装置32には、繊維束Fbが巻かれた複数のボビンBが備えられている。そして、各ボビンBから解舒された繊維束Fbは、フープ巻き掛け装置32が自ら回転することで非回転状態のライナー1の外周面に巻き付けられる。
【0033】
このような構成により、フープ巻き装置30は、繊維束Fbの巻き付け角度がFW装置100の前後方向に対して略垂直となるフープ巻きを行なうことを可能としている。
【0034】
クリールスタンド40は、ヘリカル巻き装置20に繊維束Fbを供給する。詳細には、クリールスタンド40は、ヘリカル巻き装置20を構成するヘリカル巻き掛け装置22の各繊維束ガイド23に対して繊維束Fbを供給する。クリールスタンド40は、主にラック41と、ボビン支持軸42と、ローラ43と、ガイド44と、硬化装置45Aと、で構成される。
【0035】
ラック41には、複数のボビン支持軸42とローラ43が互いに平行に取り付けられている。また、ラック41には、ボビン支持軸42の軸心方向に対して垂直にガイド44が取り付けられている。ボビン支持軸42によって支持されるボビンBは、繊維束Fbが引っ張られることによって回転し、該繊維束Fbを解舒する(転がし取り方式という)。そして、ボビンBから解舒された繊維束Fbは、ローラ43によってガイド44へ導かれ、硬化装置45Aを介して繊維束ガイド23に送られる。
【0036】
このような構成により、クリールスタンド40は、ヘリカル巻き装置20を構成するヘリカル巻き掛け装置22の各繊維束ガイド23に対して繊維束Fbを供給することを可能としている。
【0037】
次に、硬化装置45Aの構造について詳細に説明する。
【0038】
図3は、第一実施形態に係るFW装置100の硬化装置45Aの構造を示す図である。図中に示す矢印Xは、繊維束Fbの送り方向を示している。また、図中に示す矢印Rは、硬化装置45Aを構成するローラ452の回転方向を示している。
【0039】
硬化装置45Aは、繊維束Fbに熱を加えることで該繊維束Fbに含浸されている樹脂を硬化又は半硬化させる。長時間十分に熱を加えこれ以上硬度が増さない状態のものを「硬化した」と定義し、それ未満の硬さであり、さらに熱を加えることでまだ硬化可能な状態のものを「半硬化」と定義する。硬化装置45Aは、主に発熱部451と、ローラ452と、ローラの外周面から突起したアイロン部453と、で構成される。
【0040】
発熱部451は、電熱線(カンタル線やニクロム線等)を螺旋状に形成したコイルであり、電気が流れることによって発熱する。本実施形態において、発熱部451は、繊維束Fbに対向するように取り付けられている。また、発熱部451は、繊維束Fbがヘリカル巻き装置20に向けて送られる際に連続して発熱するように構成されている。なお、本実施形態における発熱部451は、アイロン部453を介して繊維束Fbに熱を加えるため、十分に大きな発熱量を確保している。また、発熱部451の発熱量は、繊維束Fbを硬化又は半硬化できる値となるように設定できる。
【0041】
ローラ452は、略円筒形状に形成された回転体であり、該ローラ452に接触した状態で送られる繊維束Fbによって従動回転する。本実施形態において、ローラ452は、繊維束Fbと発熱部451の間に取り付けられている。また、ローラ452は、繊維束Fbに接触した状態で回転するために該繊維束Fbの振動を抑えることができ、繊維束Fbが発熱部451に近接するのを防いでいる。なお、本実施形態におけるローラ452は、繊維束Fbによって従動回転する構成であるが、駆動装置によって主動回転し、繊維束Fbを送り出す構成であっても良い。
【0042】
アイロン部453は、略矩形状に形成された金属板であり、発熱部451に近接して熱を蓄える。また、アイロン部453は、繊維束Fbに接触して該繊維束Fbに熱を加える。本実施形態において、アイロン部453は、ローラ452の表面に取り付けられている。このため、アイロン部453は、ローラ452と一体となって回転する。なお、本実施形態におけるアイロン部453は、ローラ452の表面に回転位相角αを一定として合計四つ取り付けられている。つまり、アイロン部453は、ローラ452の表面に回転位相角90°毎に取り付けられている。但し、アイロン部453が取り付けられる回転位相角αについて限定するものではない(アイロン部453の個数について限定するものではない)。
【0043】
以下に、硬化装置45Aの動作態様について説明する。なお、ここでは、※印を付した一のアイロン部453に着目して説明する。
【0044】
図4は、硬化装置45Aの動作態様を示す図である。図中に示す矢印Xは、繊維束Fbの送り方向を示している。また、図中に示す矢印Rは、硬化装置45Aを構成するローラ452の回転方向を示している。
【0045】
まず、アイロン部453は、ローラ452と一体となって回転し、発熱部451に近接する(
図4A参照)。すると、アイロン部453は、発熱部451に近接したことで熱せられ、該発熱部451から受けた熱を蓄える。
【0046】
次に、アイロン部453は、ローラ452と一体となって回転し、繊維束Fbに接触する(
図4B参照)。すると、アイロン部453は、繊維束Fbに接触したことで蓄えていた熱を放出する。つまり、アイロン部453は、繊維束Fbに接触したことで該繊維束Fbに熱を加える。
【0047】
このような構成により、硬化装置45Aは、繊維束Fbがライナー1に導かれる途中で該繊維束Fbに含浸されている樹脂の一部を硬化又は半硬化させる。
【0048】
これは、
図7Aに示すように、繊維束Fbを構成する一部の繊維Fが切れても、樹脂の硬化又は半硬化部分Cによって切れた繊維Fを保持できるという効果を奏する。つまり、繊維束Fbを構成する一部の繊維Fが切れても、切れた繊維Fが分離するのを防ぐのである。従って、本実施形態に係るFW装置100は、繊維束Fbを構成する一部の繊維Fが切れても、切れた繊維Fがガイド等に絡まることを防止できる。
【0049】
また、上述したように、アイロン部453は、ローラ452の表面に回転位相角90°毎に取り付けられている。このため、硬化装置45Aは、繊維束Fbの送り方向に対して一定の間隔毎に該繊維束Fbに含浸されている樹脂を硬化又は半硬化させる。
【0050】
これは、
図7Bに示すように、繊維束Fbの柔軟性を維持しつつ、樹脂の硬化又は半硬化部分Cによって切れた繊維Fを保持できるという効果を奏する。つまり、繊維束Fbの送り方向がガイド等によって曲げられる地点Pで該繊維束Fbの最小曲げ半径が大きくならないように柔軟性を維持しつつ、切れた繊維Fが分離するのを防ぐのである。
【0051】
更に、硬化装置45Aにおいて、アイロン部453は、ローラ452の回転軸に対して平行に取り付けられている。このため、硬化装置45Aは、繊維束Fbの送り方向に対して垂直に該繊維束Fbに含浸されている樹脂を硬化又は半硬化させる。
【0052】
これは、
図7Bに示すように、繊維束Fbの柔軟性を十分に維持しつつ、樹脂の硬化又は半硬化部分Cによって切れた繊維Fを保持できるという効果を奏する。また、
図7Cに示すように、繊維束Fbの捩れ方向に対する剛性が高まるため、該繊維束Fbの捩れを抑制できるという効果も奏する。つまり、繊維束Fbの硬化又は半硬化部分Cが該繊維束Fbの捩り方向にかかる力Tに対して抵抗となるため、繊維束Fbの捩れを抑制するのである。更に、繊維束Fbの幅方向に対する剛性が高まるため、繊維束Fbの幅寸法を維持した状態で搬送することができる。
【0053】
なお、本硬化装置45Aは、アイロン部453がローラ452に取り付けられた状態で該ローラ452と一体となって回転することに特徴がある。これにより、簡素な構造でありながら、連続して繊維束Fbに含浸されている樹脂の一部を硬化又は半硬化できる。
【0054】
上述したFW装置100では、一本の繊維束Fbに対して一台の硬化装置45Aを備えている。しかし、一本の繊維束Fbに対して複数台の硬化装置45Aを備える構成であっても良い。また、繊維束Fbを挟むように上下に備える構成であっても良い。
【0055】
更に、FW装置100では、クリールスタンド40に硬化装置45Aが取り付けられている。しかし、硬化装置45Aの取り付け位置について限定するものではない。
【0056】
次に、硬化装置45Bの構造について詳細に説明する。
【0057】
図5は、第二実施形態に係るFW装置200の硬化装置45Bの構造を示す図である。図中に示す矢印Xは、繊維束Fbの送り方向を示している。また、図中に示す矢印Rは、硬化装置45Bを構成するアーム456の揺動方向を示している。
【0058】
硬化装置45Bは、繊維束Fbに熱を加えることで該繊維束Fbに含浸されている樹脂を硬化又は半硬化させる。硬化装置45Bは、主に発熱部454と、駆動部455と、アーム456と、アイロン部457と、で構成される。
【0059】
発熱部454は、電熱線(カンタル線やニクロム線等)を螺旋状に形成したコイルであり、電気が流れることによって発熱する。本実施形態において、発熱部454は、繊維束Fbに対向するように取り付けられている。また、発熱部454は、繊維束Fbがヘリカル巻き装置20に向けて送られる際に連続して発熱するように構成されている。なお、本実施形態における発熱部454は、アイロン部457を介して繊維束Fbに熱を加えるため、十分に大きな発熱量を確保している。
【0060】
駆動部455は、主に電動モータを用いて構成されており、電気の供給を受けて駆動する。本実施形態において、駆動部455は、繊維束Fbと発熱部451の間に取り付けられている。また、駆動部455は、繊維束Fbがヘリカル巻き装置20に向けて送られる際に連続してアーム456を揺動するように構成されている。なお、本実施形態における駆動部455は、電動モータとしてステッピングモータを採用しているが、例えばサーボモータ等であっても良く、その種類は問わない。
【0061】
アーム456は、略四角柱形状に形成された構造体であり、駆動部455によって揺動される。本実施形態において、アーム456は、該アーム456の一方の端部が駆動部455の駆動軸に取り付けられている。また、アーム456は、該アーム456の他方の端部にアイロン部457が取り付けられている。なお、本実施形態におけるアーム456は、駆動部455の駆動軸を中心として揺動されるが、ギヤやリンク機構を介して揺動される構成であっても良い。
【0062】
アイロン部457は、略矩形状に形成された金属板であり、発熱部451に近接して熱を蓄える。また、アイロン部457は、繊維束Fbに接触して該繊維束Fbに熱を加える。本実施形態において、アイロン部457は、アーム456の端部に取り付けられている。このため、アイロン部457は、アーム456と一体となって揺動する。なお、本実施形態におけるアイロン部457は、アーム456の端部に一つ取り付けられている。但し、アイロン部457の個数について限定するものではない。
【0063】
以下に、硬化装置45Bの動作態様について説明する。
【0064】
図6は、硬化装置45Bの動作態様を示す図である。図中に示す矢印Xは、繊維束Fbの送り方向を示している。また、図中に示す矢印Rは、硬化装置45Bを構成するアーム456の揺動方向を示している。
【0065】
まず、アイロン部457は、アーム456と一体となって繊維束Fbから離間する方向に揺動し、発熱部454に近接する(
図6A参照)。すると、アイロン部457は、発熱部454に近接したことで熱せられ、該発熱部454から受けた熱を蓄える。
【0066】
次に、アイロン部457は、アーム456と一体となって繊維束Fbに近接する方向に揺動し、繊維束Fbに接触する(
図6B参照)。すると、アイロン部457は、繊維束Fbに接触したことで蓄えていた熱を放出する。つまり、アイロン部457は、繊維束Fbに接触したことで該繊維束Fbに熱を加える。
【0067】
このような構成により、硬化装置45Bは、繊維束Fbがライナー1に導かれる途中で該繊維束Fbに含浸されている樹脂の一部を硬化又は半硬化させる。
【0068】
そして、硬化装置45Bを用いた場合であっても、硬化装置45Aと同様の効果を得ることが可能である。即ち、本実施形態に係るFW装置200は、繊維束Fbを構成する一部の繊維Fが切れても、切れた繊維Fがガイド等に絡まることを防止できる。また、繊維束Fbの柔軟性を維持しつつ、樹脂の硬化又は半硬化部分Cによって切れた繊維Fを保持できる。更に、繊維束Fbの捩れ方向に対する剛性が高まるため、該繊維束Fbの捩れを抑制できる。繊維束Fbの幅方向に対する剛性が高まるため、該繊維束Fbの幅寸法を維持した状態で搬送することができる。
【0069】
なお、本硬化装置45Bは、アイロン部457がアーム456に取り付けられた状態で該アーム456と一体となって揺動することに特徴がある。これにより、簡素な構造でありながら、連続して繊維束Fbに含浸されている樹脂の一部を硬化又は半硬化できる。
【0070】
上述したFW装置200では、一本の繊維束Fbに対して一台の硬化装置45Bを備えている。しかし、一本の繊維束Fbに対して複数台の硬化装置45Bを備える構成であっても良い。また、繊維束Fbを挟むように上下に備える構成であっても良い。
【0071】
更に、FW装置200では、クリールスタンド40に硬化装置45Bが取り付けられている。しかし、硬化装置45Bの取り付け位置について限定するものではない。
【0072】
なお、上述した硬化装置45A・45Bは、フープ巻き装置30に取り付けることも可能である。