【実施例】
【0035】
実施例1
ビール凍結乾燥物の製造
穀類として麦芽(カナダ産、フランス産)のみを使用して(麦芽100%)醸造された市販のビールを準備した。このビール350mlを1L容の丸底フラスコに入れ、−85℃にて凍結させた。真空凍結乾燥機(東京理化器械製「FDU−2100」)にて、−85℃、10Paにて、36時間乾燥させた。その結果37.2gのビール凍結乾燥物を得ることができた。得られたビール凍結乾燥物の水分含量は6.3%であった。
【0036】
実施例2
ビール様ノンアルコール飲料Aの風味改善
発酵工程を経ないで製造された市販のビール様ノンアルコール飲料Aを準備した。
【0037】
実施例1で得られた凍結乾燥物を、100mlのビール様ノンアルコール飲料Aにそれぞれ表1に示す量添加して、ビール様飲料を製造した。そして、得られたビール様飲料について、3名の専門評価者が、穀物香気、コク感などを10段階で評価した。評価基準は、感じることができない場合は「0」であり、正の数に大きいほど官能が強いことを意味する。評価点は3名による評価の平均値とした。結果を表1に示す。
【0038】
[表1]
【0039】
その結果、ビール凍結乾燥物の添加量0.05グラム(0.05%)から、ビール様飲料の風味に変化が現れ、ビール様穀物香気、コク感、ビールらしさ、バランスの良さが向上した。これらの結果から当該凍結乾燥物を、アルコールを含まないビール様飲料に対して0.050%(w/v)以上含ませることにより風味改善効果を付与できることが示された。
【0040】
実施例3
ビール様アルコール飲料Bの風味改善
麦芽を15重量%(w/w)以下含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造された、コクが少なくアルコール臭が目立つという特徴を有するビール様アルコール飲料Bを準備した。
【0041】
実施例1で得られた凍結乾燥物を、100mlのビール様アルコール飲料Bにそれぞれ表2に示す量添加して、ビール様飲料を製造した。そして、得られたビール様飲料について、3人の専門評価者が、穀物香気及びコク感を10段階で評価した。評価基準は、感じることができない場合は「0」であり、正の数に大きいほど官能が強いことを意味する。評価点は3名による評価の平均値とした。結果を表2に示す。
【0042】
[表2]
【0043】
その結果、ビール凍結乾燥物の添加量0.05グラム(0.05%)から、風味に変化が現れ、ビール様穀物香気、コク感が向上した。これらの結果から当該凍結乾燥物を、ビール様アルコール飲料に対して0.050%(w/v)以上含ませることにより風味改善効果を付与できることが示された。
【0044】
次いで、ビール凍結乾燥物を添加する前及び後にビール様アルコール飲料Bの成分を分析し、ビール凍結乾燥粉末の添加により、ビール様アルコール飲料B中にビールのコク形成成分が増大しているかどうかを確認した。総合的にビールのコクを形成する成分としては、ポリフェノール類などが知られている(日本味と匂学会誌 9(2), 143-146, 2002-08)。また、ビール中で穀物的な香り、カラメル様の穀物香気を有する化合物として、4-vinylguaiacol、2-acetyl pyrolineが知られている(J. Agric. Food Chem., 2006, 54 (23), pp 8855-8861)。
【0045】
ビール様アルコール飲料B100mlに対してビール凍結乾燥物1.0gを添加し、総ポリフェノール、全窒素、4-vinylguaiacol、2-acetyl pyrolineの含有量を測定した。総ポリフェノール「ビール酒造組合分析法8.19」に、全窒素の分析は「ビール酒造組合分析法8.9」に、4-vinylguaiacol、guaiacol、2-acetyl pyrolineの分析は、J. Sep. Sci. 2009, 32, 3746-3754に従った。結果を表3に示す。
【0046】
[表3]
【0047】
これらの結果により、ビール凍結乾燥粉末の添加により、ビール様アルコール飲料B中にビールのコク形成成分が実際に増大していることが示された。
【0048】
実施例4
麦芽使用量による相違
ビール様アルコール含有液を製造する際にデンプン原料として使用する穀類の麦芽含有量によって、ビール凍結乾燥物の風味改善効果がどのように相違するか、検討した。
【0049】
麦芽(カナダ産)6kgを粉砕し、水30Lと混合して糖化させた後に、ホップ30gを加えて60分間煮沸し、その後4℃に冷却することによって麦汁を得た。得られた麦汁に酵母を加えて1週間発酵させた。その後、ろ過することにより酵母などの不溶成分を除去して、ビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率100%である。
【0050】
麦芽の代わりに麦芽3.9kgとコーンスターチ2.1kgの混合物を使用すること以外は上記と同様にしてビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率66%(w/w)である。
【0051】
麦芽の代わりに麦芽1.5gとコーンスターチ4.5kgの混合物を使用すること以外は上記と同様にしてビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率25%(w/w)である。
【0052】
麦芽の代わりに大豆ペプチド6kgを使用すること以外は上記と同様にしてビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率0%である。
【0053】
これらのビール様アルコール含有液を、実施例1と同様にして凍結乾燥させたところ、凍結乾燥物が、それぞれ37.2g、33.7g、29.8g及び34.7g得られた。
【0054】
得られたビール凍結乾燥物を、ビール様ノンアルコール飲料A100mlに0.050g添加し、実施例2と同様にして、ビール様穀物香気、コク感などを評価した。結果を表3に示す。
【0055】
[表4]
【0056】
また、得られたビール凍結乾燥物を、ビール様アルコール飲料B100mlに0.050g添加し、実施例3と同様にして、ビール様穀物香気及びコク感を評価した。結果を表4に示す。
【0057】
[表5]
【0058】
これらの結果から、ビール様アルコール含有液を製造する際に使用する穀類中の麦芽含有量が異なっても、凍結乾燥物の添加量が0.05%(w/v)以上であれば、風味改善効果を付与することができ、該麦芽含有量が25%(w/w)以上である場合、風味改善効果が特に向上することが示された。
【0059】
比較例
ビール噴霧乾燥物の製造及び使用
穀類として麦芽のみを使用して(麦芽100%)醸造された市販のビールを準備した。このビールを噴霧乾燥装置内にて240℃の気体中に噴霧し、急速に乾燥させ、ビール噴霧乾燥物を得た。
【0060】
得られたビール噴霧乾燥物を、100mlのビール様ノンアルコール飲料Aに1g添加して、ビール様飲料を製造した。そして、得られたビール様飲料について、実施例2と同様にして官能評価を行ったところ、採点基準に達せず、味噌、醤油、こげ、渋い、コク、ビール香気ではない風味であった。
【0061】
その結果、ビール噴霧乾燥物は、ビール香気というよりも味噌、醤油的な香気が目立ち、ビール様飲料にビールらしい風味を付与する用途に適していないことが示された。