特許第5917228号(P5917228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アサヒビール株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917228
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ビール様飲料用風味改善剤
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20160422BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C12C5/02
   A23L2/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-74682(P2012-74682)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-201976(P2013-201976A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】岸本 徹
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−231535(JP,A)
【文献】 特開2003−342187(JP,A)
【文献】 特表平07−505523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 5/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビールを製造する際に通常使用される麦芽を含むデンプン原料を糖化して得た麦汁を発酵させ、熟成させ、酵母除去して製造されたビール様アルコール含有液を凍結乾燥させる工程、を包含するビール様飲料用風味改善剤の製造方法
【請求項2】
前記ビール様アルコール含有液が、ビールを製造する際に通常使用される麦芽を25重量%(w/w)以上の量で含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたものである請求項1に記載のビール様飲料用風味改善剤の製造方法
【請求項3】
風味を改善しようとするビール様飲料が、麦芽を25重量%(w/w)以下の量で含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたものである、請求項1又は2に記載のビール様飲料用風味改善剤の製造方法
【請求項4】
風味を改善しようとするビール様飲料が、ビール様低糖質アルコール飲料、ビール様低プリン体アルコール飲料、ビール様糖質ゼロアルコール飲料又はビール様ノンアルコール飲料である、請求項1又は2に記載のビール様飲料用風味改善剤の製造方法
【請求項5】
風味を改善しようとするビール様飲料に対して請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法で得られたビール様飲料用風味改善剤を添加することによりコク感又はビールらしい風味を付与又は増強する工程を包含する、ビール様飲料の製造方法。
【請求項6】
前記ビール様飲料用風味改善剤が風味を改善しようとするビール様飲料100mlに対して0.01〜30gの割合となる量で添加される請求項5に記載のビール様飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール凍結乾燥物に関し、特に、ビール様飲料の風味を改善するために使用するビール凍結乾燥物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の低価格志向を背景に、麦芽使用比率が低い、または、麦芽を使用しないビール様飲料が数多く市販されている。このように麦芽使用量を低減させたビール様飲料では本格的なビールの風味やコク感が失われてしまうことが多い。
【0003】
また、近年の健康ブームを背景に、低糖質、低カロリー、低アルコール、糖質ゼロ又はノンアルコール等、機能系のビール様飲料が数多く市販されている。例えば、糖質やプリン体の含有量を低減させたビール様アルコール飲料は、その製造工程において活性炭処理等の方法により、糖質やプリン体の除去を行っている。その過程で、ビールらしい風味を維持するために本来必要な成分まで除去されてしまい、風味のバランスが崩れてしまうことがある。
【0004】
また、風味バランスが崩れない場合でも、不要成分を除去する課程でビール様飲料のコク感が低減し、ビールらしい風味が失われてしまうことは多い。
【0005】
ビール様ノンアルコール飲料は一般的にアルコール発酵工程を経ずに製造されるため、ビールらしさを欠き、飲用意向に劣るという問題がある。
【0006】
特許文献1及び2では、麦芽又はホップ等のビール原料に含まれる風味物質を使用してビールの風味の一部を改善する試みが行われている。しかし、使用されている風味物質は本来ビールに含まれている風味物質と成分及び組成が相違し、ビールのコク感又はビールらしい風味を付与又は増強することは行われていない。
【0007】
特許文献3には、酒類を噴霧乾燥又は凍結乾燥して得られる粉末酒を主成分とするアルコール含有錠剤を製造することが記載されている。得られるアルコール含有錠剤は水を加えて飲用されたり、菓子、料理に酒類の風味を付与するために使用される。特許文献3のアルコール含有錠剤は、酒類の風味を改善するために使用されていない。また、特許文献3には凍結乾燥される酒類としてビールは記載されていない。更に、特許文献3の実施例においては、凍結乾燥の操作が実際には行なわれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−13166号公報
【特許文献2】国際公開WO2010/079778号公報
【特許文献3】特開昭61−67471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、ビールらしい風味が弱いビール様飲料に、ビールらしい風味を付与することができ、又はそのビールらしい風味を増強することができる添加物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、発酵工程を経て製造されたビール様アルコール含有液を凍結乾燥させて得られるビール凍結乾燥物を含むビール様飲料用風味改善剤を提供する。
【0011】
ある一形態においては、前記ビール様アルコール含有液が、麦芽を25重量%(w/w)以上の量で含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたものである。
【0012】
ある一形態においては、風味を改善しようとするビール様飲料が麦芽を25重量%(w/w)以下の量で含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたものである。
【0013】
ある一形態においてはビール様低糖質アルコール飲料、ビール様低プリン体アルコール飲料、ビール様糖質ゼロアルコール飲料又はビール様ノンアルコール飲料である。
【0014】
また、本発明は、風味を改善しようとするビール様飲料に対して上記いずれかのビール様飲料用風味改善剤を添加することによりビールらしい風味を付与又は増強する工程を包含する、ビール様飲料の製造方法を提供する。
【0015】
ある一形態においては、前記ビール様飲料用風味改善剤は、前記ビール凍結乾燥物が風味を改善しようとするビール様飲料100mlに対して0.01〜30gの割合となる量で添加される。
【0016】
また、本発明は、上記いずれかに記載のビール様飲料用風味改善剤を含むビール様飲料を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のビール様飲料用風味改善剤を、風味を改善しようとするビール様飲料に添加すると、ビール様飲料のビールらしい風味が生成又は増強される。特に、本発明のビール様飲料用風味改善剤は、ビールらしい風味が弱いビール様飲料に、ビール特有の穀物感及びコク感を付与することができ、風味のバランスに優れたビール様飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発酵工程を経て製造されたビール様アルコール含有液とは、ビール酵母を用いて、炭素源、窒素源、ホップ類などを含むビール醸造用液をアルコール発酵させて得られたビール風味を有する液体をいう。炭素源としては、穀物類等のデンプン原料を糖化して得た糖液、又は糖類そのものから得た糖液などが使用される。デンプン原料である穀物類としては、麦芽及び大麦、米、とうもろこしなどが使用される。窒素源としては、麦芽以外の植物由来のタンパク質もしくはその加水分解物が使用される。
【0019】
炭素源である糖液は、穀物類を糖化して得られるものが好ましい。そして、該穀物類は麦芽を含有することが好ましい。該穀物類中、麦芽の含有量は、好ましくは25重量%(w/w)以上、より好ましくは50重量%(w/w)以上、更に好ましくは75%(w/w)以上である。穀物類中の麦芽の含有量が25重量%(w/w)未満であると、得られるビール凍結乾燥物のビールらしい風味が弱くなり、ビール用飲料用風味改善剤としての機能が低下することがある。
【0020】
ビール様アルコール含有液の製造方法は、ビールを製造する際に通常行われる工程を包含する。一例として、麦芽を含む穀類を粉砕し、副原料及び水と混合して煮沸することにより、デンプンを糖化する。得られる麦汁(糖液)にホップを加えて更に煮沸した後冷却し、冷却液にビール酵母を加えて発酵させる。次いで、発酵液を低温で熟成させ、酵母などを除去して、ビール様アルコール含有液が得られる。
【0021】
発酵工程を経て製造されたビール様アルコール含有液は、真空凍結乾燥法を使用して乾燥される。真空凍結乾燥法は、水分を含んだ食品や食品原料を、マイナス30℃程度以下の低温で急速に凍結し、さらに減圧して真空状態で水分を昇華させて乾燥させる方法である。真空凍結乾燥法はフリーズドライ法とも呼ばれる。
【0022】
真空凍結乾燥の過程では、ビール様アルコール含有液に含有されているエタノール及び水等の昇華性成分は昇華する。昇華性成分の昇華が終了した後、不昇華性成分である残渣が得られる。これがビール凍結乾燥物である。ビール凍結乾燥物は、外観が多孔性固体状又は粉体状である。真空凍結乾燥を行うことにより、ビール様アルコール含有液は、ビール特有の香り及び味を維持したまま乾燥される。
【0023】
真空凍結乾燥を行う際、凍結温度は0℃以下、好ましくは−10〜−80℃、より好ましくは−30〜−80℃である。凍結温度が低温であればあるほど、試料を凍結させるまでに要する時間が短くなる。また、真空凍結乾燥を行う際の減圧度は100Pa以下、好ましくは100〜5Pa、より好ましくは20〜5Paである。減圧度が低ければ低いほど、乾燥に要する時間が短い。
【0024】
ビール凍結乾燥物の水分含有量は乾燥を行う時間に依存して変化するが、一般に、15%以下、好ましくは10〜1%である。ビール凍結乾燥物の水分含有量が20%を超えると凍結乾燥物が固形化し、取り扱いにくくなる。
【0025】
このようにして得られたビール凍結乾燥物は、ビール様飲料の風味を改善するための添加剤、即ち、ビール様飲料用風味改善剤として使用される。ビール凍結乾燥物は単独で使用されてよく、又はこれとは異なるビール様飲料用風味改善剤と組み合わせて使用されてもよい。風味とは香り及び味をいう。改善とは一般的な消費者の嗜好に合うように改変することをいい、具体的には、ビールらしい風味、及びビール特有の穀物感及びコク感、及び優れた風味バランスを生成すること、又はこれを増強することをいう。
【0026】
ビール様飲料とは、ビールらしい風味を有する飲料の全てを指していう。例えば、ビール様飲料には、上述のビール様アルコール含有液、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール飲料、ノンアルコール飲料などであって、ビールらしい風味を有するものが含まれる。
【0027】
中でも、風味を改善する対象として好ましいビール様飲料は、デンプン原料中麦芽使用比率が低いビール様飲料、または、デンプン原料として麦芽を使用しないビール様飲料である。このようなビール様飲料はビール特有の風味やコク感が弱いからである。例えば、発酵工程を経て製造されるビール様アルコール飲料であっても、麦芽の使用比率が低い、または、麦芽を使用しない場合は、同様である。例えば、麦芽を25重量%(w/w)以下、特に20重量%以下又は15重量%以下の量で含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造されたビール様飲料はビール特有の風味やコク感に乏しいものが多い。
【0028】
また、ビール様低糖質アルコール飲料、ビール様低プリン体アルコール飲料、ビール様低カロリーアルコール飲料及びビール様低アルコール飲料等のいわゆる機能系のビール様アルコール飲料も風味を改善する対象として好ましいビール様飲料である。これらは、低糖質化、低カロリー化、低プリン体化又は低アルコール化される課程で適切な風味を実現するのに必要な風味物質が除去されてしまい、コク感又はビールらしい風味が減少していることが多いからである。
【0029】
更に、ビール様ノンアルコール飲料はアルコール発酵工程を経ずに製造されるものがある。これらのビール様飲料はコク感及びビールらしい風味に乏しく、麦汁臭を呈することが多い。それゆえ、ビール様ノンアルコール飲料も風味を改善する対象として好ましい。
【0030】
本発明のビール様飲料用風味改善剤を用いてビール様飲料の風味を改善するためには、風味改善の対象とするビール様飲料に対して本発明のビール様飲料用風味改善剤を適量添加すればよい。ビール様飲料用風味改善剤の添加量は、風味改善の対象とするビール様飲料の種類又は目標とする呈味レベルによって異なる。
【0031】
一般には、ビール様飲料用風味改善剤の添加量は、ビール凍結乾燥物がビール様飲料100mlに対して0.01〜30g、好ましくは0.03〜20g、より好ましくは0.05〜15gの割合になる量である。ビール様飲料に含有されるビール凍結乾燥物の割合がビール様飲料100mlに対して0.01g未満であると風味改善効果が不十分となり、30gを超えると風味バランスが崩れ、ビールらしい風味が損なわれる。
【0032】
例えば、風味を改善しようとするビール様飲料がビール様ノンアルコール飲料である場合、ビール様飲料用風味改善剤の添加量は、ビール凍結乾燥物が、好ましくは、ビール様飲料100mlに対して0.1〜10gの割合になる量の範囲内で適宜調節される。また、例えば、風味を改善しようとするビール様飲料がビール様アルコール飲料である場合、ビール様飲料用風味改善剤の添加量は、ビール凍結乾燥物が、好ましくは、ビール様飲料100mlに対して0.1〜10gの割合になる量の範囲内で適宜調節される。
【0033】
風味を改善しようとするビール様飲料に本発明のビール様飲料用風味改善剤を添加する場合、そのタイミングに制限はなく、ビール様飲料の製造工程における適当な工程で添加することができる。例えば、発泡酒に添加する場合には、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程又は熟成工程等任意の工程でよいが、添加する工程が前工程であればあるほど、風味改善剤中の各成分の濃度の消長が考えられるため、後発酵工程の終了後が望ましい。また、リキュール類に添加する場合には、税法上、主発酵終了前に添加する必要があるため、主発酵開始前及び主発酵終了直前に添加することが望ましい。
【0034】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0035】
実施例1
ビール凍結乾燥物の製造
穀類として麦芽(カナダ産、フランス産)のみを使用して(麦芽100%)醸造された市販のビールを準備した。このビール350mlを1L容の丸底フラスコに入れ、−85℃にて凍結させた。真空凍結乾燥機(東京理化器械製「FDU−2100」)にて、−85℃、10Paにて、36時間乾燥させた。その結果37.2gのビール凍結乾燥物を得ることができた。得られたビール凍結乾燥物の水分含量は6.3%であった。
【0036】
実施例2
ビール様ノンアルコール飲料Aの風味改善
発酵工程を経ないで製造された市販のビール様ノンアルコール飲料Aを準備した。
【0037】
実施例1で得られた凍結乾燥物を、100mlのビール様ノンアルコール飲料Aにそれぞれ表1に示す量添加して、ビール様飲料を製造した。そして、得られたビール様飲料について、3名の専門評価者が、穀物香気、コク感などを10段階で評価した。評価基準は、感じることができない場合は「0」であり、正の数に大きいほど官能が強いことを意味する。評価点は3名による評価の平均値とした。結果を表1に示す。
【0038】
[表1]
【0039】
その結果、ビール凍結乾燥物の添加量0.05グラム(0.05%)から、ビール様飲料の風味に変化が現れ、ビール様穀物香気、コク感、ビールらしさ、バランスの良さが向上した。これらの結果から当該凍結乾燥物を、アルコールを含まないビール様飲料に対して0.050%(w/v)以上含ませることにより風味改善効果を付与できることが示された。
【0040】
実施例3
ビール様アルコール飲料Bの風味改善
麦芽を15重量%(w/w)以下含有する穀物類をデンプン原料として用いて製造された、コクが少なくアルコール臭が目立つという特徴を有するビール様アルコール飲料Bを準備した。
【0041】
実施例1で得られた凍結乾燥物を、100mlのビール様アルコール飲料Bにそれぞれ表2に示す量添加して、ビール様飲料を製造した。そして、得られたビール様飲料について、3人の専門評価者が、穀物香気及びコク感を10段階で評価した。評価基準は、感じることができない場合は「0」であり、正の数に大きいほど官能が強いことを意味する。評価点は3名による評価の平均値とした。結果を表2に示す。
【0042】
[表2]
【0043】
その結果、ビール凍結乾燥物の添加量0.05グラム(0.05%)から、風味に変化が現れ、ビール様穀物香気、コク感が向上した。これらの結果から当該凍結乾燥物を、ビール様アルコール飲料に対して0.050%(w/v)以上含ませることにより風味改善効果を付与できることが示された。
【0044】
次いで、ビール凍結乾燥物を添加する前及び後にビール様アルコール飲料Bの成分を分析し、ビール凍結乾燥粉末の添加により、ビール様アルコール飲料B中にビールのコク形成成分が増大しているかどうかを確認した。総合的にビールのコクを形成する成分としては、ポリフェノール類などが知られている(日本味と匂学会誌 9(2), 143-146, 2002-08)。また、ビール中で穀物的な香り、カラメル様の穀物香気を有する化合物として、4-vinylguaiacol、2-acetyl pyrolineが知られている(J. Agric. Food Chem., 2006, 54 (23), pp 8855-8861)。
【0045】
ビール様アルコール飲料B100mlに対してビール凍結乾燥物1.0gを添加し、総ポリフェノール、全窒素、4-vinylguaiacol、2-acetyl pyrolineの含有量を測定した。総ポリフェノール「ビール酒造組合分析法8.19」に、全窒素の分析は「ビール酒造組合分析法8.9」に、4-vinylguaiacol、guaiacol、2-acetyl pyrolineの分析は、J. Sep. Sci. 2009, 32, 3746-3754に従った。結果を表3に示す。
【0046】
[表3]
【0047】
これらの結果により、ビール凍結乾燥粉末の添加により、ビール様アルコール飲料B中にビールのコク形成成分が実際に増大していることが示された。
【0048】
実施例4
麦芽使用量による相違
ビール様アルコール含有液を製造する際にデンプン原料として使用する穀類の麦芽含有量によって、ビール凍結乾燥物の風味改善効果がどのように相違するか、検討した。
【0049】
麦芽(カナダ産)6kgを粉砕し、水30Lと混合して糖化させた後に、ホップ30gを加えて60分間煮沸し、その後4℃に冷却することによって麦汁を得た。得られた麦汁に酵母を加えて1週間発酵させた。その後、ろ過することにより酵母などの不溶成分を除去して、ビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率100%である。
【0050】
麦芽の代わりに麦芽3.9kgとコーンスターチ2.1kgの混合物を使用すること以外は上記と同様にしてビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率66%(w/w)である。
【0051】
麦芽の代わりに麦芽1.5gとコーンスターチ4.5kgの混合物を使用すること以外は上記と同様にしてビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率25%(w/w)である。
【0052】
麦芽の代わりに大豆ペプチド6kgを使用すること以外は上記と同様にしてビール様アルコール含有液を得た。このビール様アルコール含有液は穀類中の麦芽含有率0%である。
【0053】
これらのビール様アルコール含有液を、実施例1と同様にして凍結乾燥させたところ、凍結乾燥物が、それぞれ37.2g、33.7g、29.8g及び34.7g得られた。
【0054】
得られたビール凍結乾燥物を、ビール様ノンアルコール飲料A100mlに0.050g添加し、実施例2と同様にして、ビール様穀物香気、コク感などを評価した。結果を表3に示す。
【0055】
[表4]
【0056】
また、得られたビール凍結乾燥物を、ビール様アルコール飲料B100mlに0.050g添加し、実施例3と同様にして、ビール様穀物香気及びコク感を評価した。結果を表4に示す。
【0057】
[表5]
【0058】
これらの結果から、ビール様アルコール含有液を製造する際に使用する穀類中の麦芽含有量が異なっても、凍結乾燥物の添加量が0.05%(w/v)以上であれば、風味改善効果を付与することができ、該麦芽含有量が25%(w/w)以上である場合、風味改善効果が特に向上することが示された。
【0059】
比較例
ビール噴霧乾燥物の製造及び使用
穀類として麦芽のみを使用して(麦芽100%)醸造された市販のビールを準備した。このビールを噴霧乾燥装置内にて240℃の気体中に噴霧し、急速に乾燥させ、ビール噴霧乾燥物を得た。
【0060】
得られたビール噴霧乾燥物を、100mlのビール様ノンアルコール飲料Aに1g添加して、ビール様飲料を製造した。そして、得られたビール様飲料について、実施例2と同様にして官能評価を行ったところ、採点基準に達せず、味噌、醤油、こげ、渋い、コク、ビール香気ではない風味であった。
【0061】
その結果、ビール噴霧乾燥物は、ビール香気というよりも味噌、醤油的な香気が目立ち、ビール様飲料にビールらしい風味を付与する用途に適していないことが示された。