特許第5917235号(P5917235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917235
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】シュー生地利用食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/00 20060101AFI20160422BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20160422BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20160422BHJP
【FI】
   A21D13/00
   A21D10/00
   A23L1/48
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-82231(P2012-82231)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208100(P2013-208100A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093816
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】佐野 由美子
(72)【発明者】
【氏名】山下 ひかる
(72)【発明者】
【氏名】小泉 賢一
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−222543(JP,A)
【文献】 特開昭58−013339(JP,A)
【文献】 特開2011−087514(JP,A)
【文献】 特開2003−189785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 13/00−13/08
A21D 10/00−10/04
A23L 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FROSTI(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュー生地と、発酵させたパン生地を別個に調し、前記シュー生地とパン生地を混合し、混合後に発酵工程をとらず油で揚げてなることを特徴とするシュー生地利用食品の製造方法
【請求項2】
前記シュー生地の前記パン生地への配合割合が、前記パン生地中の小麦粉に対して、20〜1700重量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のシュー生地利用食品の製造方法
【請求項3】
前記シュー生地利用食品の生地中に、食材を混合して油で揚げてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシュー生地利用食品の製造方法
【請求項4】
前記シュー生地利用食品の生地で、食材又は具材を包み油で揚げてなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシュー生地利用食品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュー生地を利用した新規な形状及び食感のシュー生地利用食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、揚げパン(ドーナツ)は、パン生地(ドーナツ生地)を油で揚げて(フライして)なる。そして、その断面は小さな穴或いは微細空洞が密に形成され、パサついた食感、或いはもっちりとした食感であるのが一般的である。
【0003】
他方、揚げパンの原料にシュー生地を添加したパンとして、特許文献1の発明が公開されている。特許文献1の発明は、小麦粉,油脂,卵等の原料から公知のシュー生地を調製し、このシュー生地をパンの原料に均一に混捏してパン生地となし、これを焼成或いはフライすることを特徴とするパンの製造方法というものである。
【0004】
そのようにして得られるものは、これまでにない新しい食感を持ったパンであり、特許文献1の効果の段落0021には、ソフト感が強いと記載されている。即ち、特許文献1の発明の特徴は、シュー生地をパン生地に均一に混捏した後に、発酵させ(段落0015、0017、0019に「ホイロ」とある。段落0019では、「ホイロ35℃にて45分とし、食用油により180℃で3分間フライして」とある。)、焼成等してパンを製造することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−8196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、シュー生地を用いて、特許文献1ともまた異なる従来にない新規な形状及び食感のシュー生地利用食品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、
(1)
シュー生地と、発酵させたパン生地を別個に調し、前記シュー生地とパン生地を混合し、混合後に発酵工程をとらず油で揚げてなることを特徴とするシュー生地利用食品の製造方法の構成とした。
(2)
前記シュー生地の前記パン生地への配合割合が、前記パン生地中の小麦粉に対して、20〜1700重量%の範囲であることを特徴とする(1)に記載のシュー生地利用食品の製造方法の構成とした。
(3)
前記シュー生地利用食品の生地中に、食材を混合して油で揚げてなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のシュー生地利用食品の製造方法の構成とした。
(4)
前記シュー生地利用食品の生地で、食材又は具材を包み油で揚げてなることを特徴とする(1)又は(2)に記載のシュー生地利用食品の製造方法の構成とした
【0008】
なお、本発明において、「シュー生地」とは、シューパフの原料(粉体、油脂、卵、水など)を調合、混合などして調したものであって、焼成していない混合物のことをいう。
【0009】
また、粉体とは、一般的にシュー生地に使用される、穀物粉砕物及び澱粉などのことである。穀物粉砕物としては、小麦粉、米など穀物、野菜などを粉末化したもの、例えば、米粉、きな粉などがある。米粉には、もち米を原料にしたもち米粉(白玉粉)、うるち米を原料とするうるち米粉がある。
【0010】
澱粉は、穀物、野菜、根から抽出したもので、食品に使用できる天然澱粉、加工澱粉である。天然澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉などがある。
【0011】
加工澱粉としては、前記天然澱粉に各種官能基をエーテル化、エステル化したもの、架橋化したものなど、食品に使用できる加工を施したものが使用できる。なお、吸水によって高粘度を発現するアルファー化加工は、吸水後の粘度によっては使用できない。
【0012】
上記粉体と、シュー生地に一般に使用される種々の材料とが混合され、シュー生地となる。他の材料として、例えば、水、卵原料、油脂、乳原料、添加物などがある。
【0013】
卵原料としては、割卵、加工卵の他、殺菌卵、殺菌凍結卵、乾燥卵を使用することができる。卵成分は、全卵、卵白、卵黄を単一、混合して使用できる。
【0014】
油脂としては、バター、マーガリン、ファットスプレッ、ショートニングなどを単体又は併用することができる。好ましくは、シューパフ専用のマーガリン類を用いる。さらに、シューパフのパサツキを抑えるため、液状油を併用するとよい。
【0015】
乳原料としては、バターの他、生クリーム、ホイップ用クリーム、濃縮乳、牛乳、発酵乳などが使用できる。
【0016】
添加物として、甘味料、調味料(醤油、みりん、食塩、アミノ酸など)、酸味料(酢、果汁、ピューレ、濃縮ペースト、マヨネーズなど)、pH調整剤、香料、香辛料、色素、保存料、増粘剤、ゲル化剤などが使用できる。また、膨張剤として、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ベーキングパウダーなどが使用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記構成であるので、新規な形状かつ食感のシュー生地利用食品を提供することができる。特に、図4に示すように、内部にはパン生地を揚げたドーナツで形成される微細空洞に比べ大きめの空洞が形成され、外観形状は略球形に仕上がる。
【0018】
また、本発明によるシュー生地利用食品の内部は、従来のドーナツのようなパサパサした感じではなく、ソフトでもなく、内部には厚膜が形成され大きめの空洞を遮断し、みずみずしく、しっとりして、そして歯切れが良く、弾力のある食感である。他方外皮は、従来のドーナツにないパリッとした食感である。
【0019】
さらに、本発明では、少量のシュー生地利用食品の生地をパン生地に混合しても、内部に大きめの空洞が散在して形成されるため、ボリューム感(体積)が得られる。従来にない極めて斬新な食感及び形態のシュー生地利用食品が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に用いるシュー生地及びパン生地の配合の一例である。
図2】本発明によるシュー生地利用食品の配合組成の一例である。
図3】本発明であるシュー生地利用食品の製造方法のフローの一例である。
図4】実施例1と比較例1によるシュー生地利用食品の外観(上段)及び断面(下段)の写真である。
図5】シュー生地とパン生地の混合割合の検討結果を示す図である。
図6図5の試験配合をフライした後の外観及び断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に、本発明に用いるシュー生地(A)及びパン生地(B)の原材料及び配合量(重量部表示)の一例を示した。シュー生地、パン生地の配合及び調は、一般的なシュー生地、パン生地の配合及び調方法でよい。以下、シュー生地及びパン生地の調方法を具体的に説明する。各原料の添加量は、図1に示す通りである。
【0023】
図1(A)シュー生地の調
以下、図1(A)を参照してシュー生地の調方法を説明する。
先ず、図1のa(油脂、水、牛乳、食塩)を加熱して沸騰させる。次に、沸騰したaにb(薄力粉、強力粉)を撹拌しながら投入し、低速で30秒、中高速で2〜3分間撹拌を継続して混合物を得る。撹拌速度は、一般的な生地の調速度であって、当業者において周知、慣用されている範囲でよい。以下同じ。
【0024】
その後、8割程度の図1c(液卵)を複数回に分けて前記混合物に添加する。添加する毎に低速で30秒、中高速で3〜4分間撹拌する。最後にcの残りのd(重曹、炭案)を溶かした上で、前記混合物に添加し、低速で30秒、中高速で2〜3分間撹拌する。
【0025】
ここでは、図1(A)の油脂は、月島食品工業株式会社製「シューファンデR」を使用したが、油脂としてはシュー生地に使用されるバター、マーガリン、その他シュー用油脂調品を使用することもできる。
【0026】
図1(B)パン生地の調
・ミキシング
以下、図1(B)を参照してパン生地の調方法を説明する。
パン生地は、一般的なパン生地で常法によって調すればよい。ここでは、ストレート法を用いた。図1(B)の全て原材料を容器に投入し、撹拌する。例えば、低速で2分間、中速で5分間、さらに低速で2分間、中速で6分間、高速で1分などである。このときのパン生地温度は、27℃であった。
・発酵
パン生地の発酵は、27℃、湿度75%で60分間行った。なお、本発明では、パン生地の発酵工程を必須とする。
【0027】
次に、シュー生地利用食品の生地の調について、図2を参照して説明する。
・実施例1
図1の(A)で調し粗熱を除去したシュー生地(A)100重量部と、図1の(B)で調したパン生地(B)40重量部を撹拌、例えば中高速2〜3分間、する。その後、パンの製造における一般的な発酵工程をとることなく、フライに供する。一般的な発酵工程とは、生地の雰囲気温度、湿度、発酵時間などのパラメータの管理をし、生地を膨化させるために行うものである。
【0028】
このように調したシュー生地(A)とパン生地(B)との関係は、図2実施例1重量%の欄に示すように、パン生地中の小麦粉重量に対して約476重量%であった。
【0029】
また、シュー生地とパン生地の混合時の温度は25〜35℃の範囲が好ましい。混合時の温度が低いとシュー生地利用食品のボリュームが出にくく、外観も略球形になりにくい。
【0030】
なお、シュー生地とパン生地を撹拌し、シュー生地利用食品生地を調した後にフライに供すまでの時間に極僅かな発酵が進行すると思われるが、このような発酵現象は、前記パラメータを管理していない状態で進行するものであるから、本願出願では発酵工程とは言わない。
【0031】
一方、シュー生地と発酵済みのパン生地を混合した後に発酵工程を採用すると、混合生地がダレ、フライ後に略球形が確保できない。また、そのようなものの食感は、揚げパンのような食感であり、上述の新規な食感とはほど遠いものである。従って、シュー生地と発酵済みのパン生地の混合からフライまでの時間もなるべく短くすることが望ましい。
【0032】
・比較例1
比較例1は特許文献1の実施例3段落0019に記載の通り調した。そして、シュー生地のパン生地への配合割合は、図2比較例1重量%に示したように約150%であり、実施例1(476重量%)より極めて少ない。さらに、比較例1は、特許文献1に記載のように、フロアタイム45分の発酵工程を経ている。これらの点が、本発明と特許文献1との形状及び食感に大きな差が生じる要因である。
【0033】
[フライ]
・実施例1
その後、所定量分割する、実施例1ではグラシン紙に100g絞りだした。そして、油(190℃)で、10分間揚げた。
・比較例1
油(180℃)で、3分間揚げた。
【0034】
図3に、本発明のシュー生地利用食品の製造方法のフローをまとめた。シュー生地とパン生地(発酵)を別個に調し、それぞれ、所定の割合で混合し、その後は発酵工程を特別設けることなく、油中でフライする。それによって、外観は略球形で、内部には大きめの空洞が散在する従来にないシュー生地利用食品が製造できる。
【0035】
シュー生地及びパン生地は、一般的な配合でよい。なお、シュー生地とパン生地の混合割合は、上述の範囲であることが好ましい。
【0036】
次に、フライした実施例1のシュー生地利用食品と比較例1(特許文献1実施例3明細書段落0019)のドーナツの写真を図4に示し、外観、内部形状を対比する。
【0037】
フライ後の外観は、実施例1では図4(A)(B)に示すように略球形であり、他方比較例1では図4(C)(D)に示すようにやや上下に圧縮した扁平であり、明らかに異なる外観を示した。また、外皮は、実施例1では硬く(断面外周の一層黒みが強い部分)、内部組織と明確に区別され、極めてサクサクした食感である。他方比較例1の外皮では一般的なドーナツと同程度のパサパサした食感で、食感における内部組織との境界も明確でなかった。
【0038】
内部形状(断面)においては、実施例1では図4(B)に示すように内部に大きめの空洞が多数散在し、他方比較例1では図4(B)に示すように一般的な焼成パン程度の小さな空洞(微細空洞)が密に形成されるにすぎず、明らかに異なる内部形状を示した。
【0039】
食感においては、実施例1は、パサパサ感はなく、ソフトでもなく、内部に厚膜が形成あれ、みずみずしく、しっとり、そして歯切れが良く、弾力のある食感で、外皮は従来のドーナツにないパリッとした食感である。他方比較例1では特許文献1段落0019に記載の通りであり、全く異なる食感を示した。
【実施例2】
【0040】
以下、シュー生地とパン生地の混合比率、パン生地中の小麦粉に対するシュー生地の添加量(重量%)を試験した。その結果を図5に、その試験の内何点かについてフライ後の外観写真及び断面写真図6に示した。図6の写真と図5の対応は、図5第2行目に示した。
【0041】
食感総合評価は、熟練したパネラーが内部組織のみずみずしさ、しっとり感、歯切れ、空洞と空洞との間の組織(膜)の膜厚感(もっちり感)を、総合的に評価し、◎優、○良、△可、×不可で評価した。
【0042】
比較例2はシュー生地のみをフライしたもので、外観は略球形に仕上がるものの内部はいくつかの大空洞で構成され、食感は油っぽいシューパフであった。比較例3はパン生地のみをフライしたもので、従来の揚げパンである。これらは、いずれも本発明の形状、食感呈するものではなかった。
【0043】
図5、6の試験の結果、本発明のシュー生地の適切なパン生地への配合割合は、パン生地中の小麦粉重量に対して20〜1700重量%、好ましくは50〜1100重量%、より好ましくは300〜500重量%の範囲であった。
【0044】
シュー生地の混合重量%が20重量%より少ないと本発明の特徴である膜厚感、モッチリ感が十分に発揮されず、みずみずしさ、しっとり感がなくなり、パサパサ感が増す。一方、1700重量%より多いと大空洞が形成され、膜厚感、モッチリ感がなくなり、パサパサ感が増し、望ましくない。
【実施例3】
【0045】
本発明によるシュー生地利用食品の生地に、干しぶどう等のドライフルーツ、チーズ、サラミ等の通常そのまま食する食材を混ぜてフライすることもできる。下記、具材であっても、本発明の特徴を発揮する範囲において、混合しても問題ない。
【実施例4】
【0046】
さらに、本発明シュー生地利用食品の生地で、食材又は具材を包みフライしてもよい。包む具材としては、例えば、あんこなどの餡、ジャム、クリーム、肉まんの具などの固形物、(半)流動物などが例示でき、従来から製菓・製パンに使用されている、一般にそのまま食するものでない具材(フィリング)が例示できる。
図1
図2
図3
図5
図4
図6