(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の一実施形態による旋回駆動装置が組み込まれたショベルの全体構成及び駆動系の構成について説明する。
図1は本発明の一実施形態による旋回駆動装置が組み込まれたショベルを示す側面図である。
【0014】
図1に示すショベルの下部走行体1には、旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3には、ブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端に、アーム5が取り付けられ、アーム5の先端にバケット6が取り付けられている。ブーム4,アーム5及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3には、キャビン10が設けられ、且つエンジン等の動力源が搭載される。
【0015】
なお、
図1に示すショベルは、旋回駆動装置に供給する電力を蓄積する蓄電装置を有するショベルであるが、電動旋回を採用したショベルであれば、例えば外部電源から充電電力が供給される電気駆動式ショベルにも本発明を適用することができる。
【0016】
図2は
図1に示すショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。
【0017】
図2において、機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は実線でそれぞれ示されている。
【0018】
機械式駆動部としてのエンジン11と、アシスト駆動部としての電動発電機12は、変速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続されている。変速機13の出力軸には、油圧ポンプとしてメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続されている。
【0019】
コントロールバルブ17は、ハイブリッド式ショベルにおける油圧系の制御を行う制御装置である。下部走行体1用の油圧モータ1A(右用)及び1B(左用)、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9は、高圧油圧ラインを介してコントロールバルブ17に接続される。
【0020】
電動発電機12には、インバータ18Aを介して、蓄電器としてのキャパシタを含む蓄電系(蓄電装置)120が接続される。蓄電系120には、インバータ20を介して電動作業要素としての旋回用電動機21が接続されている。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、及び旋回減速機24が接続される。旋回減速機24の出力軸24Aにはメカニカルブレーキ23が接続される。旋回用電動機21と、レゾルバ22と、メカニカルブレーキ23と、旋回減速機24とにより、負荷駆動系として旋回駆動装置40が構成される。ここで、旋回用電動機21が上部旋回体3を旋回駆動するための旋回用電動モータに相当し、メカニカルブレーキ23が上部旋回体3に機械的にブレーキをかけておくブレーキ装置に相当する。
【0021】
操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26Cを含む。レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続される。圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。
【0022】
コントローラ30は、ハイブリッド式ショベルの駆動制御を行う主制御部としての制御装置である。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成され、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行することにより実現される装置である。
【0023】
コントローラ30は、圧力センサ29から供給される信号を速度指令に変換し、旋回用電動機21の駆動制御を行う。圧力センサ29から供給される信号は、旋回機構2を旋回させるために操作装置26を操作した場合の操作量を表す信号に相当する。
【0024】
コントローラ30は、電動発電機12の運転制御(電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替え)を行うとともに、蓄電系120の昇降圧コンバータを駆動制御することによりキャパシタの充放電制御を行う。コントローラ30は、キャパシタの充電状態、電動発電機12の運転状態(電動(アシスト)運転又は発電運転)、及び旋回用電動機21の運転状態(力行運転又は回生運転)に基づいて、蓄電系120の昇降圧コンバータの昇圧動作と降圧動作の切替制御を行い、これによりキャパシタの充放電制御を行う。また、コントローラ30は、後述のようにキャパシタに充電する量(充電電流又は充電電力)の制御も行なう。
【0025】
旋回用電動機21の回転速度(角速度ω)はレゾルバ22により検出される。また、ブーム4の角度(ブーム角度θB)はブーム4の支持軸に設けられたロータリエンコーダ等のブーム角度センサ7Bにより検出される。コントローラ30は、旋回用電動機21の角速度ωに基づいて推定旋回回生電力(エネルギ)を演算で求める。そして、コントローラ30は、演算で求めた推定旋回回生電力に基づいて、SOCの回生見込み目標値を演算により求める。コントローラ30は、キャパシタ19のSOCを、求めた回生見込み目標値に近づけるようにハイブリッド式ショベルの各部を制御する。
【0026】
上述のような構成のハイブリッド式ショベルによる作業では、上部旋回体3を旋回駆動するために、インバータ20を介して供給される電力により旋回用電動機21が駆動される。旋回用電動機21の出力軸21Aの回転力は、旋回減速機24とメカニカルブレーキ23を介して旋回駆動装置40の出力軸40Aに伝達される。
【0027】
図3は本発明の一実施形態による旋回駆動装置40の構成を示すブロック図である。上述のように、旋回駆動装置40は、駆動源としての電動モータである旋回用電動機21を含む。旋回用電動機21の出力軸側に旋回減速機24として遊星減速機が接続される。旋回減速機24(遊星減速機)の出力軸には、メカニカルブレーキ23としてのディスクブレーキが設けられる。旋回減速機24(遊星減速機)の出力軸は、旋回駆動装置40の出力軸40Aとなる。なお、図示はしないが、旋回駆動装置40の出力軸40Aは旋回機構2に接続され、出力軸40Aの回転力により旋回機構2が駆動される。
【0028】
図4は旋回駆動装置40のうち、旋回減速機24及びメカニカルブレーキ23を構成する部分の断面図である。本実施形態では、旋回減速機24を構成する遊星減速機の太陽歯車42が、旋回用電動機21の出力軸21Aに固定されている。太陽歯車42は複数の遊星歯車44に係合している。遊星歯車44の各々は、旋回減速機(遊星減速機)の出力軸を構成するキャリア46に回転可能に支持されている。そして、各遊星歯車44は、ギヤケース50の内面に形成された内歯歯車48に噛合している。
【0029】
内歯歯車48が形成されたギヤケース50は、旋回用電動機21のエンドプレート21aに固定されており、自ら回転することはできない。一方、出力軸を構成するキャリア46は、ブレーキケース52を挟んでギヤケース50に固定されたエンドケース54に対して、ベアリング56を介して回転可能に支えられている。
【0030】
以上のような構成の遊星減速機において、旋回用電動機21の出力軸21Aが回転して太陽歯車42が回転すると、遊星歯車44が回転(自転)する。遊星歯車44はギヤケース50の内面に形成された内歯歯車48に噛合しており、遊星歯車44の回転力で内歯歯車48が形成されたギヤケース50が回転しようとする。ところが、ギヤケース5は旋回用電動機21のエンドプレート21aに固定されているので、回転することはできない。その結果、遊星歯車44を支持しながら自ら回転可能に支持されているキャリア46のほうが回転することとなる。以上のような歯車作用により、旋回用電動機21の出力軸21Aの回転が減速されてキャリア46から出力される。
【0031】
次に、メカニカルブレーキ23を構成するディスクブレーキの構造について説明する。ディスクブレーキは固定部であるブレーキケース52と出力軸であるキャリア46との間に形成される。キャリア46の外周にから外側に向けてブレーキディスク60が延在する。ブレーキディスク60は、キャリア46に対して回転はできないが、キャリア46の回転軸方向には移動可能な状態で、例えばスプライン接続のような接続構造を介してキャリア46に接続されている。
【0032】
ブレーキディスク60の上下両側には、ブレーキパッド62が配置されている。ブレーキパッド62は、固定部であるブレーキケース52に対して回転はできないが、キャリア46の回転軸方向には移動可能な状態で、例えばスプライン接続のような接続構造を介してブレーキケース50の内面側に接続されている。上側のブレーキパッド62の上には、ピストン64が、キャリア46の回転軸方向に移動可能な状態で配置されている。ピストン64はスプリング66により押圧されて常に上側のブレーキパッド62に押し付けられている。本実施形態では、スプリング66としてコイルスプリングを用いているが、小さな変位で高出力を得ることのできる多段重ねの皿バネを用いることもできる。
【0033】
ブレーキパッド62とブレーキディスク60とは、キャリア46の回転軸方向に移動可能であるので、上側のブレーキパッド62がピストン64により押圧されると、ブレーキディスク60は上下のブレーキパッド60により挟まれて押圧される。ブレーキパッド62とディスクブレーキ60の表面は摩擦係数の大きな被膜に覆われており、ディスクブレーキ60がブレーキパッド62により挟まれて押圧されることで、ディスクブレーキ60の回転を阻止しようとするブレーキ力がディスクブレーキ60に作用する。ディスクブレーキ60はキャリア46対して回転できないように接続されているので、ディスクブレーキ60に作用するブレーキ力がキャリア46に加わるブレーキ力となる。
【0034】
ピストン64とブレーキケース52との間には、作動油が供給可能な油圧空間68が形成され、油圧空間68にブレーキ解除ポート70が接続されている。コントロールバルブ17からブレーキ解除ポート70を介して油圧空間68に油圧を供給すると、ピストン64が油圧により押し上げられて、ブレーキパッド62を押圧する力が無くなり、ブレーキは解除される。
【0035】
上述のディスクブレーキは、いわゆる湿式ディスクブレーキであり、ブレーキディスク60及びブレーキパッド62が収容される空間(湿式ブレーキ空間と称する)には、作動油が充填される。
【0036】
一方、遊星減速機において、太陽歯車42と遊星歯車44と内歯歯車48との噛合部分を収容する空間(歯車空間と称する)には、歯車の噛合いを滑らかにするために潤滑油が満たされている。
【0037】
上述の歯車空間の潤滑油は、歯車作動時の熱を吸収して高温となる。一方、湿式ブレーキ空間の作動油は、ブレーキ作動時のみ摩擦熱を吸収する程度であり、歯車空間の潤滑油ほどは高温とならない。しかし、歯車空間の潤滑油と湿式ブレーキ空間の作動油とが混ざり合うと、湿式ブレーキ空間の作動油の温度も高温となってしまう。
【0038】
そこで、本実施形態では、
図4に示すようにオ、ギヤケース50の内歯歯車48の下側の部分とキャリア46の外周面との間にオイルシール72を配置することで、歯車空間と湿式ブレーキ空間とを互いに分離し、歯車空間内の潤滑油が湿式ブレーキ空間内に流れ込まないようにしている。
【0039】
そして、本実施形態では、湿式ブレーキ空間に冷却された作動油を供給しながら湿式ブレーキ空間から作動油を排出することで、湿式ブレーキ空間で作動油の流れをつくり、常に湿式ブレーキ空間内の作動油の温度が低い温度に維持されるようにしている。湿式ブレーキ空間は、ギヤケース50とオイルシール72とにより歯車空間から分離されているため、湿式ブレーキ空間内の作動油をギヤケース50とオイルシール72に接触させながら流すことで、歯車空間内の潤滑油を冷却することができる。
【0040】
上述のような作動油の流れを形成するために、本実施形態では、湿式ブレーキ空間のうち、スプリング66が配置される部分に連通する上部作動油流通口74をギヤケース50の上部に設けている。また、ディスクブレーキ60が配置される部分の下側の空間に連通する下部作動油流通口76をエンドケース54に設けている。さらに、下部作動用供給口76の反対側のエンドケース54に、ディスクブレーキ60が配置される部分の下側の空間に連通する下部作動油流通78が設けられている。
【0041】
ここで、湿式ブレーキ空間での作動油の流れについて説明する。湿式ブレーキ空間に供給される作動油は、ディスクブレーキの動作を補助しディスクブレーキを冷却する機能を有していればよい。この作動油として、例えば、ショベルの油圧回路で用いられる作動油を用いることができる。例えば、パイロットポンプ15から吐出する作動油を湿式ブレーキ空間に供給することができる。パイロットポンプ15が吸引するタンク内の作動油は、タンクに戻される前にオイルクーラ等で冷却された低温の作動油である。この場合は、タンク内の低温の作動油をそのまま湿式ブレーキ空間に供給すればよい。あるいは、タンクと湿式ブレーキ空間との間にオイルクーラを設けて、湿式ブレーキ空間に供給される作動油を冷却してもよい。いずれにしろ、湿式ブレーキ空間に供給される作動油は冷却された低温の作動油であることが望ましい。
【0042】
図4に示す例では、ギヤケース50の上部に設けられた上部作動油流通口74を介して作動油が湿式ブレーキ空間に供給される。上部作動油流通口74から供給された作動油はスプリング66が収容された空間を通って、ブレーキディスク60が収容された空間に流れ、エンドケース54に設けられた下部作動油流通口78から排出される。
【0043】
ここで、スプリング66が収容された空間を形成するギヤケース50の外壁面は、内歯歯車48が形成された部分の反対側の面となり、歯車空間に沿った壁面である。この壁面を、パイロットポンプ15から吐出した低温の作動油が通過する際に、作動油は歯車空間からギヤケース50に伝達された熱を吸収する。これにより、歯車空間内の歯車及び潤滑油が冷却される。このように、低温の作動油を湿式ブレーキ空間に供給することにより、遊星減速機が冷却されて歯車による伝達ロスを低減することができ、旋回駆動装置の過熱を防止することができる。
【0044】
図5に示す例では、作動油は、エンドケース54に設けられた下部作動油流通口76から供給され、ブレーキディスク60が収容された空間を通り、スプリング66が収容された空間に流れる。この作動油により遊星減速機が冷却され、作動油は最終的にエンドケース54に設けられた下部作動油流通口78から排出される。
【0045】
図6に示す例では、作動油は、エンドケース54に設けられた下部作動油流通口78から供給され、ブレーキディスク60が収容された空間を通り、スプリング66が収容された空間に流れる。この作動油により遊星減速機が冷却され、作動油は最終的にギヤケース50に設けられた上部作動油流通口74から排出される。
【0046】
なお、
図3示す旋回駆動装置40の構成では、旋回減速機24(遊星減速機)の出力軸となるキャリア46が、旋回駆動装置40の出力軸40Aに相当するが、旋回減速機24(この例では、旋回減速機24−1と称する)の後段にさらに2段目の旋回減速機24−2を設けることとしてもよい。
図7は2段目の旋回減速機が設けられた旋回駆動装置40−1の構成を示すブロック図である。2段目の遊星減速機24−2はメカニカルブレーキ23(ディスクブレーキ)を間に挟んで1段目の旋回減速機24−1に組み付けられる。2段目の遊星減速機24−2出力軸が旋回駆動装置40−1の出力軸40Aとなる。
【0047】
具体的には、例えば、
図4に一部が示されるように、キャリア46の軸の先端に太陽歯車80を取り付け、太陽歯車80と内歯歯車82との間で遊星歯車84を駆動するというように、2段目の旋回減速機(遊星減速機)24−2を構成し、大きな減速比を得るようにしてもよい。
【0048】
上述の実施形態ではパイロットポンプ15から吐出される作動油を旋回減速機24に供給しているが、旋回減速機24に作動油を供給するためのポンプとして冷却用ポンプ90を設けてもよい。
図8は冷却用ポンプ90が設けられたショベルの駆動系の構成を示すブロック図である。
【0049】
図8に示すように、冷却用ポンプ90は、メインポンプ14とパイロットポンプ15との間に配置され、メインポンプ14が回転すると冷却用ポンプ90も回転するようになっている。冷却用ポンプ90の吐出口に接続された冷却用作動油供給ライン92は、旋回減速機24の上部作動油流通口74又は下部作動油流通口76,78に接続される。したがって、冷却用ポンプ90から吐出される作動油は冷却用作動油供給ライン92を通じて旋回減速機24のギヤケース50とブレーキケース52の間に形成された湿式ブレーキ空間に供給される。この作動油によりギヤケース50は冷却され、また湿式ブレーキ空間内のブレーキも潤滑且つ冷却される。旋回減速機24に供給された作動油は、冷却用作動油排出ライン94から排出され、オイルクーラ(図示せず)で冷却されてからタンクに戻る。
【0050】
冷却用ポンプ90を設けることで、作動油が流入し難い狭い空間にも確実に作動油を供給することができる。これにより、旋回減速機24が高温になることを防止することができる。
【0051】
なお、メカニカルブレーキ23(ディスクブレーキ)のON・OFF用の作動油は、パイロットポンプ15から供給される。