特許第5917241号(P5917241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917241
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】塗装装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 7/06 20060101AFI20160422BHJP
   B05B 1/26 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   B05B7/06
   B05B1/26 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-85312(P2012-85312)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-212480(P2013-212480A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 賢二
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−199069(JP,U)
【文献】 特開昭61−278371(JP,A)
【文献】 特表平06−509275(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3151151(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0206963(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00−9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エア供給路が形成されたボディと、
前記ボディの先端部に設けられ、塗料を吐出する塗料ノズルと、
前記ボディの先端部に前記塗料ノズルを中心として回転し得るように設けたエアキャップと、
前記エア供給路と連通するように前記エアキャップに形成され、霧化状態の塗料流を扁平なパターンに成形するためのパターンエアを吐出する一対のパターンエア吐出口と、
前記ボディと前記エアキャップとの間に形成され、前記エア供給路の下流端が開口するリング状空間と、
前記エアキャップに形成され、上流端が前記リング状空間に開口して下流端が前記パターンエア吐出口に連通する一対のエア流入路と、
前記ボディに相対回転規制状態で設けられ、前記塗料ノズルを中心とする円周上に沿って交互に配置した複数の凸部と凹部からなる係止部と、
前記エアキャップに対し一体回転し得るように圧入された状態で組み付けられており、前記リング状空間を、前記エア供給路の下流端に連通する通気空間と、前記エア流入路の上流端に連通する後面溝とに仕切り、且つ通気空間と後面溝とを連通させるように配されたリング状本体部と、
前記リング状本体部に一体に形成され、前記係止部に対して弾性的に係止可能な弾性係止片と、
前記ボディに対して前記エアキャップを相対変位規制状態に固定する固定形態と、前記ボディに対する前記エアキャップの相対回転を許容し且つ前記エアキャップの前記ボディからの離脱を規制する回転許容形態との間で変位する保持手段とを備えていることを特徴とする塗装装置。
【請求項2】
前記リング状空間内において前記エア供給路の下流端と対向するように配されたリング状の受け面を備えていることを特徴とする請求項1記載の塗装装置。
【請求項3】
前記弾性係止片と前記受け面が一体部品化されていることを特徴とする請求項2記載の塗装装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ボディの先端部に取り付けた塗料ノズルと、塗料ノズルを囲むようにボディに取り付けたエアキャップとを備え、塗料ノズルから吐出された塗料を、エアキャップから吐出した霧化エアによって霧化するとともに、エアキャップから吐出したパターンエアにより扁平となるようにパターン制御する塗装装置が開示されている。この塗装装置では、パターン幅を変更するための手段として、パターンエアの噴出流量を変更する技術が記載されている。
【0003】
大きさや形状の異なる複数種類の被塗物を塗装する場合、被塗物の大きさや形状の違い(例えば、被塗物の幅寸法の違い)に応じて霧化塗料のパターン幅を変更することは、塗装装置がハンドガンである場合に、作業者が塗装装置を把持して塗装を行う際の作業性低下を回避しつつ、塗料の無駄を省く、という観点において、有効な手段であると考えられる。
【0004】
しかし、一般に、パターンエアと塗料を霧化するための霧化エアは、ボディ内の共通流路を通ってエアキャップに供給されるため、パターンエアの流量を変更すると、霧化エアの流量も連動して変更されることになる。霧化エアの流量は、塗料の霧化状態に影響を及ぼし、ひいては、塗膜の厚さ等に影響を与えるため、パターンエアの流量を調節してパターン幅を変更すると、塗装の仕上がり具合も変化してしまうことになる。
【0005】
この対策としては、塗料ノズルを中心としてエアキャップを回転し得る構造とし、ボディ側に設けた周方向の凹凸と、エアキャップに設けた周方向の凹凸とを嵌合させることでエアキャップを回り止めし、ナットの締付けによってエアキャップを所望の向きに固定する構造が考えられる。この構造によってエアキャップの向きを変更し、塗装装置の移動方向に対するパターンの向きを、直角方向と斜め方向との間で変えれば、塗料の塗り幅を被塗物に合わせて調節できる。この方法によれば、パターンエアの流量を変える必要がないので、パターンの向きを変更しても、塗装の仕上がり状態が変動せずに済む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平07−012451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パターンの向きを変更する際には、まず、エアキャップを固定しているナットを緩めて外し、次に、凹凸の嵌合を解除するために、エアキャップをボディから離脱させ、エアキャップを適正な向きに位置合わせして再びボディに装着して、凹凸同士を嵌合させ、最後に、ナットを締めてエアキャップを固定する、という手順で作業が行われる。
【0008】
ボディには、塗料やエアの供給ホースが接続されているため、エアキャップの向きを変更する作業は、塗装ブース内で行われる。ところが、塗装ブースの床は、被塗物に塗着しなかった余剰塗料の回収を行うために、網状になっていて、この網状の床の下方は、余剰塗料を排出するための排水路となっている。そのため、ボディから外したナットやエアキャップをうっかり落としてしまうと、落としたナットやエアキャップは、編み目をすり抜けて排水路に落ちてしまう。
【0009】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ボディに取り付けられているエアキャップの向きを変更するに際して、エアキャップをボディから外さずに変更作業を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、エア供給路が形成されたボディと、前記ボディの先端部に設けられ、塗料を吐出する塗料ノズルと、前記ボディの先端部に前記塗料ノズルを中心として回転し得るように設けたエアキャップと、前記エア供給路と連通するように前記エアキャップに形成され、霧化状態の塗料流を扁平なパターンに成形するためのパターンエアを吐出する一対のパターンエア吐出口と、前記ボディと前記エアキャップとの間に形成され、前記エア供給路の下流端が開口するリング状空間と、前記エアキャップに形成され、上流端が前記リング状空間に開口して下流端が前記パターンエア吐出口に連通する一対のエア流入路と、前記ボディに相対回転規制状態で設けられ、前記塗料ノズルを中心とする円周上に沿って交互に配置した複数の凸部と凹部からなる係止部と、前記エアキャップに対し一体回転し得るように圧入された状態で組み付けられており、前記リング状空間を、前記エア供給路の下流端に連通する通気空間と、前記エア流入路の上流端に連通する後面溝とに仕切り、且つ通気空間と後面溝とを連通させるように配されたリング状本体部と、前記リング状本体部に一体に形成され、前記係止部に対して弾性的に係止可能な弾性係止片と、前記ボディに対して前記エアキャップを相対変位規制状態に固定する固定形態と、前記ボディに対する前記エアキャップの相対回転を許容し且つ前記エアキャップの前記ボディからの離脱を規制する回転許容形態との間で変位する保持手段とを備えているところに特徴を有する。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記リング状空間内において前記エア供給路の下流端と対向するように配されたリング状の受け面を備えているところに特徴を有する。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記弾性係止片と前記受け面が一体部品化されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
<請求項1の発明>
塗装を行う際、エアキャップは、弾性係止片と係止部との係止作用と、固定形態とされた保持手段とにより、ボディに対する相対回転及びボディからの離脱を規制された状態に固定される。エアキャップの向きを変更する際には、保持手段を固定形態から回転許容形態へ変位させ、エアキャップを所定の向きとなるまで回転させる。すると、弾性係止片と係止部との係止により、エアキャップが回転規制される。エアキャップを所定の向きへ回転させた後は、保持手段を回転許容形態から固定形態へ変位させる。本発明では、エアキャップの向きを変更するためにボディに対してエアキャップを回転可能としたときに、保持手段が、エアキャップのボディからの離脱を規制しているので、エアキャップがボディから外れて落下する虞はない。
【0014】
<請求項2の発明>
エアキャップの向きを変えることによって、エア供給路の下流端が、一対のエア流入路のうち一方のエア流入路の上流端だけと対応する位置関係になった場合、エア供給路から吐出したエアの大部分が、対応するエア流入路のみに流入するため、一対のパターンエア吐出口から吐出するパターンエアの流量が不均一となることが懸念される。しかし、本発明では、エア供給路の下流端と対向するように配置されたリング状の受け面を設けているので、エア供給路から吐出したエアは、受け面に衝突して全周に亘って分散され、一対のエア流入路内には均等にエアが流入する。したがって、エアキャップの向きがどのようであっても、一対のパターンエア吐出口からは均等にパターンエアが吐出する。
【0015】
<請求項3の発明>
弾性係止片と受け面が一体部品化されているので、部品点数が削減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態1の塗装装置の側面図
図2】塗装装置の正面図
図3図2のA−A線断面図
図4図2のB−B線断面図
図5】ボディからエアキャップとナットを外した状態をあらわす斜視図
図6】ボディにエアキャップと係止部材を組み付けた状態をあらわす斜視図
図7】エアキャップと係止部材とナットを分離した状態を斜め前方から視た斜視図
図8】エアキャップと係止部材とナットを分離した状態を斜め後方から視た斜視図
図9】エアキャップに係止部材を組み付けた状態をあらわす背面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1図9を参照して説明する。本実施形態の塗装装置は、作業者が把持して使用する静電塗装用のハンドガンである。塗装装置は、ボディ10と、塗料ノズル20と、エアキャップ30と、ナット40(本発明の構成要件である保持手段)と、リング状部材60とを備えて構成されている。
【0018】
ボディ10は合成樹脂製であり、ボディ10には、作業者が片手で保持するためのグリップ(図示省略)と、塗料及びエアを吐出させるためのトリガー(図示省略)が設けられている。図1に示すように、ボディ10には高電圧発生装置11が内蔵されており、図3,4に示すように、ボディ10の内部には、1本の塗料供給路12と、1本の霧化エア供給路13と、1本のパターンエア供給路14(本発明の構成要件であるエア供給路)とが形成されている。霧化エア供給路13とパターンエア供給路14は、その上流端において合流している。
【0019】
ボディ10の前端部は円形をなし、ボディ10の前端部外周には雄ネジ部15が形成されている。塗料供給路12の下流端は、ボディ10の前端面の中央に形成した同心円形の収容部16に開口している。霧化エア供給路13の下流端は、収容部16の内周面に開口している。収容部16には、塗料ノズル20の後端部がねじ込みにより取り付けられている。
【0020】
図3〜5に示すように、ボディ10の前端面には、収容部16を同心状に包囲するように配された同心円形の前面溝17が形成されている。前面溝17には、パターンエア供給路14の下流端が開口している。前面溝17におけるパターンエア供給路14の開口方向は、後述するエアキャップ30の回転中心軸方向(つまり、軸線方向)と平行な方向である。また、前面溝17(つまり、ボディ10の前端面)におけるパターンエア供給路14の下流端の開口位置は、塗料ノズル20の中心から偏心した位置となっている。
【0021】
塗料ノズル20は、合成樹脂製であり、円筒形をなしてボディ10に同心状に組み付けられたノズル本体部21と、ノズル本体部21と同心の円形をなす外筒部22とを有する。図3,4に示すように、ノズル本体部21の中空内は、塗料供給路12に連通する塗料流入路23となっている。塗料流入路23の前端部は、塗料吐出口24として前方へ開口している。外筒部22は、ノズル本体の外周における前端部よりも後方の位置から前方へ突出した形態である。塗料ノズル20の前端面には、ノズル本体部21と外筒部22との間に構成された周溝25が形成されている。塗料ノズル20には、霧化エア供給路13の下流端を、周溝25に連通させるための複数の霧化エア導入路26が形成されている。
【0022】
エアキャップ30は、合成樹脂製であり、図3,6,7に示すように、円盤状(円形の皿状)をなすキャップ本体部31と、ハウジング本体部の前端面から前方へ突出する一対の角部32とを備えて構成されている。キャップ本体部31は、後面側が凹んだ形態であり、中央部には貫通形態の中心孔33が形成されている。図3,4,8,9に示すように、キャップ本体部31には、その後面から後方へ中心孔33と同心円状に突出する内筒部34が形成されている。キャップ本体部31の外周縁部は、前面側が全周に亘って中心孔33と同心円状に切欠することで段差状に形成された受け部35となっている。
【0023】
キャップ本体部31の後面のうち内筒部34と受け部35との間で径方向に挟まれた領域は、全周に亘って連続する同心円形の後面溝37となっている。また、一対の角部32は、中心孔33を挟んで対称な形態であり、図3に示すように、両角部32の内部には、パターンエア流入路38(本発明の構成要件であるエア流入路)が形成されている。この一対のパターンエア流入路38の上流端は後面溝37に開口しており、後面溝37におけるパターンエア流入路38の開口方向は、エアキャップ30の回転中心軸方向(つまり、軸線方向)と平行な方向である。また、後面溝37におけるパターンエア流入路38の上流端の開口位置は、塗料ノズル20の中心から偏心した位置となっている。パターンエア流入路38の下流端は、角部32の前端部において中心に向かって開口するパターンエア吐出口39となっている。
【0024】
ナット40は、合成樹脂製であり、円筒形をなす。図3,4に示すように、ナット40の内周には、雌ネジ部41が形成されている。ナット40の前端部には、その内周から全周に亘って同心円状に内側へ張り出した形態の係止縁部42が形成されている。係止縁部42の後面内周部は、全周に亘って同心円状に切欠され、エアキャップ30の受け部35の前面と整合するような段差状に形成されている。
【0025】
エアキャップ30を前方からボディ10に組み付けると、図3,4に示すように、内筒部34の後端部の外向きテーパ面と、外筒部22の前端部の内向きテーパ面とが当接することにより、エアキャップ30がボディ10に対して同心状に位置決めされる。そして、エアキャップ30に対しその前方からナット40を外嵌し、雌ネジ部41を雄ネジ部15に螺合して締め付けると、ナット40の係止縁部42がエアキャップ30の受け部35に対して前方から同心状に係止することにより、エアキャップ30がボディ10に対して組付け状態に固定される。このとき、係止縁部42と受け部35の嵌合部分は段差状をなしているので、エアキャップ30とナット40は、径方向において位置決めされる。また、この段差形状は、ナット40に対してエアキャップ30を相対回転し得るようにガイドする機能も発揮する。
【0026】
エアキャップ30をボディ10に組み付けた状態では、エアキャップ30の中心孔33とノズル本体部21の前端部外周との間に、塗料吐出口24を同心状に包囲する同心円形の霧化エア吐出口43が形成されるとともに、塗料ノズル20の前面とエアキャップ30の後面との間に、同心円形の霧化エア導入空間44が形成される。霧化エア導入空間44は、塗料ノズル20の周溝25と霧化エア吐出口43とに連通する。したがって、霧化エア供給路13を通して供給されたエアは、霧化エア導入路26、周溝25、霧化エア導入空間44を通って霧化エア吐出口43から霧化エアとなって吐出される。
【0027】
エアキャップ30をボディ10に組み付けた状態では、ボディ10の前端面とエアキャップ30の後面との間に、全周に亘って連続する同心円形の通気空間45が形成される。この通気空間45は、ボディ10の前面溝17とエアキャップ30の後面溝37とに連通している。そして、通気空間45と前面溝17と後面溝37とにより、全周に亘って連続する円形のリング状空間46が構成される。パターンエア供給路14を通して供給されたエアは、リング状空間46と一対のパターンエア流入路38を通って、一対のパターンエア吐出口39からパターンエアとなって吐出される。
【0028】
塗装を行う際には、高電圧を印加された状態で塗料吐出口24から吐出した塗料が、霧化エアにより霧化されるとともに、一対のパターンエアにより扁平なパターンに成形された状態で、被塗物(図示省略)に対して塗布される。被塗物に塗布される霧化塗料のパターン幅は、被塗物の大きさや形状の違い(例えば、被塗物の幅寸法の違い)に応じて変更することが望ましい。しかし、霧化エア供給路13とパターンエア供給路14は上流端で合流しているため、パターンエアの流量を調節してパターン幅を変更すると、塗料の霧化状態に影響が及び、その結果、塗装の仕上がり具合が変化する虞がある。
【0029】
そこで、本実施形態では、パターンエアの吐出流量を変えることなくパターン幅を調節する手段として、ボディ10に対してエアキャップ30を回転可能とし、周方向におけるパターンエア吐出口39の位置を調節することで、パターン幅を変えるようになっている。さらに、本実施形態では、エアキャップ30の向きを変更するに際して、エアキャップ30をボディ10から外さずに変更作業を行えるようになっている。以下、その構成を説明する。
【0030】
ボディ10の前端面には、その外周縁に沿って全周に亘って連続した形態であって塗料ノズル20と同心の円形をなす係止部50が一体に形成されている。係止部50は、前面溝17の外周縁に沿うように配置されており、リング状空間46を構成する通気空間45に直接、臨んでいる。係止部50は、周方向において複数の凸部51と複数の凹部52とを一定ピッチで交互に、且つ隣接して配置して構成されている。そして、図5,6に示すように、隣接する凸部51と凹部52との境界では、径方向に沿った2つの境界面53,54が、凸部51を構成する外面及び凹部52を構成する内面として共有されている。ボディ10を正面側(前方)から見たときに、凸部51と、この凸部51に対して反時計回り方向に隣接する凹部52との間の係止用境界面53は、周方向に対して直角をなしている。一方、ボディ10を正面側から見たときに、凸部51と、この凸部51に対して時計回り方向に隣接する凹部52との間の誘導用境界面54は、周方向に対して傾斜している。
【0031】
エアキャップ30には、エアキャップ30とは別体部品である合成樹脂製のリング状部材60が、組み付けられている。図7,9に示すように、リング状部材60は、塗料ノズル20と同心の円環形をなすリング状本体部61と、リング状本体部61に一体形成した3つの位置決め突起64と、リング状本体部61に一体に形成した一対の弾性係止片66とから構成されている。
【0032】
図3,4に示すように、リング状本体部61の外径は、ナット40の内径(つまり、リング状空間46を構成する通気空間45の外径)と同じ寸法か、それよりも僅かに小さい寸法である。リング状本体部61の内径は、塗料ノズル20の外筒部22の外径(つまり、通気空間45の内径)よりも少し大きい寸法とされている。このリング状本体部61の内周と外筒部22の外周との間の隙間は、全周に亘って連続した円環形の連通部62となっている。また、リング状本体部61の後面は、全周に亘り、前面溝17と対向する受け面63となっている。
【0033】
図9に示すように、3つの位置決め突起64は、リング状本体部61と同心の円弧形をなし、リング状本体部61の前面から突出している。3つの位置決め突起64は、周方向において一定のピッチで配置されている。エアキャップ30には、その後面における位置決め突起64と対応する領域を凹ませた形態の3つの位置決め溝65が形成されている。位置決め突起64を位置決め溝65に圧入すると、エアキャップ30とリング状部材60が一体回転し得るように組み付けられる。
【0034】
エアキャップ30とリング状部材60を組み付けた状態では、リング状本体部61の内周側部分が、通気空間45と後面溝37との間を仕切るように位置するが、その技術的意義は、次の通りである。前面溝17におけるパターンエア供給路14の開口方向と、後面溝37におけるパターンエア流入路38の開口方向は、エアキャップ30の回転中心軸方向(つまり、軸線方向)と平行な方向である。そして、エアキャップ30の回転中心(つまり、塗料ノズル20及びエアキャップ30の中心)からパターンエア供給路14の開口位置までの径方向の寸法と、エアキャップ30の回転中心からパターンエア流入路38の開口位置までの径方向の寸法とはほぼ同じである。
【0035】
そのため、エアキャップ30の向きによっては、1つのパターンエア供給路14の下流端の開口が、一対のパターンエア流入路38のうち一方のパターンエア流入路38の上流端の開口だけと対向する位置関係になる場合がある。このようになった場合、パターンエア供給路14から吐出したエアの大部分が、対応する一方のパターンエア流入路38のみに流入するため、一対のパターンエア吐出口39から吐出するパターンエアの流量が不均一となることが懸念される。
【0036】
そこで、本実施形態では、エアキャップ30の周方向における向きがどのような向きであっても、パターンエア供給路14の吐出方向前方には、必ず、全周に亘って連続するリング状の受け面63が対向配置されるようにした。つまり、パターンエア供給路14の下流端の開口とパターンエア流入路38の上流端の開口とが、直接、対向することがない。受け面63(リング状本体部61)を設けたことにより、パターンエア供給路14から吐出したエアは、まず、受け面63に衝突し、通気空間45内において全周に亘って均一な流量となるように分散され、連通部62を通過して後面溝37に流入し、一対のパターンエア流入路38内に均等にエアが流入する。したがって、エアキャップ30の周方向における向きがどのようであっても、一対のパターンエア吐出口39からは均等にパターンエアが吐出する。
【0037】
また、図7〜9に示すように、リング状部材60には、エアキャップ30をボディ10に対して位置決めするための手段として、一対の弾性係止片66が、リング状部材60の中心に関して点対称となるように一体形成されている。弾性係止片66は、リング状本体部61の後面から片持ち状に延出した形態であり、前後方向に弾性変位し得るようになっている。弾性係止片66の延出方向は、前方から見て時計回り方向である。弾性係止片66の延出端部には、後方へ突出する係止突起67が形成されている。この一対の弾性係止片66は、エアキャップ30と一体となって回転するようになっている。また、リング状本体部61と弾性係止片66と受け面63は一体部品化されているので、部品点数が削減されている。
【0038】
エアキャップ30をボディ10に組み付けてナット40により固定した状態では、一対の弾性係止片66の係止突起67が、夫々、対応する一対の凹部52に嵌入して凸部51に係止する。この弾性係止片66と係止部50との係止によりエアキャップ30がボディ10に対して周方向に位置決めされた状態となる。この位置決め状態では、エアキャップ30を正面から見て時計回り方向へ回転させようとしても、係止突起67が周方向に対して直角な係止用境界面53に係止することにより、エアキャップ30のボディ10に対する時計回り方向へ回転が確実に規制される。
【0039】
尚、エアキャップ30とリング状部材60は、位置決め突起64と位置決め溝65との圧入に加え、係止部50に弾性的に押圧する弾性係止片66の弾性復元力と、パターンエア供給路14から吐出して受け面63に当たるエアの圧力とによっても、信頼性の高い組付け状態が維持される。
【0040】
同じく、エアキャップ30をナット40で締め付けてボディ10に固定した状態において、エアキャップ30に対し正面から見て反時計回り方向への回転力を付与した場合、その回転力が弾性係止片66の弾力よりも小さければ、係止突起67が誘導用境界面54に係止することにより、エアキャップ30の反時計回り方向への回転が規制される。
【0041】
しかし、エアキャップ30に付与する回転力が弾性係止片66の弾力を上回れば、エアキャップ30を反時計方向へ回すことができる。このとき、エアキャップ30が回転するのに伴い、係止突起67が、周方向に対して傾斜した誘導用境界面54上を摺接するとともに、弾性係止片66が前方(係止部50から遠ざかる方向)へ弾性変位する。そして、係止突起67が凸部51を乗り越えると、弾性係止片66が弾性復帰して係止突起67が凹部52に嵌入し、作業者は、弾性係止片66が弾性復帰するときのクリック感(クリック音)を感得する。但し、ナット40を締め付けた状態では、エアキャップ30を回転操作する際の弾性係止片66の弾性変位量が大きいため、弾性係止片66の弾性変形に起因する抵抗が、作業者には強く感じる。
【0042】
この抵抗を軽減するため、エアキャップ30を回転する際には、ナット40を少し緩めてエアキャップ30とリング状本体部61をボディ10から前方へ遠ざけるようにすることが望ましい。但し、ナット40はボディ10からは外さない。ナット40を緩めれば、エアキャップ30の回転操作に伴って係止突起67が凸部51を乗り越えるときの弾性変位量が小さくなるので、抵抗が低減される。尚、弾性係止片66が形成されているリング状部材60の材料は、エアキャップ30に比べて柔らかい材料にすることが好ましい。また、エアキャップ30を回転させる際には、エアキャップ30の外周縁がナット40の内周や係止縁部42の内周に摺接することにより、エアキャップ30がボディ10及びナット40に対して同心状にガイドされる。
【0043】
上述のように本実施形態の塗装装置は、ボディ10には、塗料ノズル20を中心とする円周上に沿って交互に配置した複数の凸部51と凹部52からなる係止部50を相対回転規制状態で設け、エアキャップ30には、係止部50に対して弾性的に係止可能な弾性係止片66を相対回転規制状態で設け、さらに、ボディ10に対してエアキャップ30を相対変位規制状態に固定する固定形態と、ボディ10に対するエアキャップ30の相対回転を許容し且つエアキャップ30のボディ10からの離脱を規制する回転許容形態との間で変位するナット40とを備えている。
【0044】
この構成によれば、エアキャップ30の向きを変更する際には、ナット40を固定形態から回転許容形態へ変位させ、エアキャップ30を所定の向きとなるまで回転させれば、弾性係止片66と係止部50との係止により、エアキャップ30が、回転規制されて所望の位置に位置決めされる。エアキャップ30を所定の向きへ回転させた後は、ナット40を回転許容形態から固定形態へ変位させれば、エアキャップ30を回転規制状態に確実に固定できる。本実施形態では、エアキャップ30の向きを変更する際に、ボディ10に対してエアキャップ30を回転可能としたときに、ナット40によって、エアキャップ30のボディ10からの離脱が規制されるので、エアキャップ30がボディ10から外れて落下する虞はない。
【0045】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。尚、下記実施形態は一部で重複するものもある。
(1)上記実施形態では、エアキャップと弾性係止片を別体部品とした上で一体回転し得るように組み付けたが、弾性係止片をエアキャップに一体に形成してもよい。この場合、係止部をボディと一体に形成してもよく、ボディとは別体の係止部をボディに組み付けてもよい。また、当て面は、エアキャップ側とボディ側のどちらに設けてもよい。
(2)上記実施形態では、弾性係止片をエアキャップ側に一体回転可能に設け、係止部をボディ側に回転規制された状態で設けたが、弾性係止片をボディ側に回転規制状態で設け、係止部をエアキャップ側に一体回転可能に設けてもよい。この場合、弾性係止片とボディは、一体部品としてもよく、別体部品としてもよい。また、係止部とエアキャップは、一体部品としてもよく、別体部品としてもよい。
(3)上記実施形態では、当て面をエアキャップ側に一体回転可能に設けたが、当て面はボディ側に回転規制状態で設けてもよい。この場合、当て面とボディは、一体部品としてもよく、別体部品としてもよい。
(4)上記実施形態では、弾性係止片と当て面を一体部品化したが、弾性係止片と当て面は、互いに分離可能な独立した別体部品としてもよい。この場合、弾性係止片と当て面の両方の部品を、エアキャップに対して一体回転可能に設けてもよく、また、弾性係止片と当て面のうちいずれか一方の部品を、エアキャップ側に一体回転可能に設けるともに、他方の部品を、ボディ側に回転規制状態で設けてもよい。
(5)上記実施形態では、一対のパターンエアの吐出状態を均等化するための当て面を設けたが、当て面を有しない形態とすることもできる。
(6)上記実施形態では、エアキャップ、弾性係止片、受け面、係止部、ボディを合成樹脂製としたが、塗装ガンが非静電塗装用である場合は、これらのうち少なくとも一部の部品や部位を金属製としてもよい。
(7)上記実施形態では、弾性係止片が係止部を構成する凸部を乗り越えるときの弾性撓み量が、全ての凸部において同一となるようにしたが、これに替えて、一部の凸部における弾性撓み量が、他の凸部における弾性撓み量よりも大きくなるように設定してよい。具体的には、ボディに対するエアキャップの基準位置を定めるとともに、エアキャップの回転方向を正逆いずれか一方向のみに規定した上で、エアキャップが基準位置にあるときに弾性係止片が係止する凸部を、他の凸部よりも高く設定する形態とすることができる。
このようにすれば、エアキャップの回転過程においてエアキャップが基準位置に到達するまでは、弾性係止片の弾性撓み量が比較的小さいので、回転操作時の抵抗(作業者が感得するクリック感)やクリック音が小さい。そして、エアキャップが基準位置に到達した状態から更に回転しようとすると、弾性係止片の弾性撓みに起因する抵抗が増大するので、作業者は、エアキャップが基準位置に到達したことを感得することができる。したがって、作業者は、エアキャップを所望の基準位置に確実に回転させることができる。
(8)上記実施形態では、エアキャップの回転可能な方向を、エアキャップの正面側から視たときに反時計回り方向のみとしたが、これに限らず、エアキャップの回転可能な方向は、エアキャップの正面側から視たときに時計回り方向のみとしてもよく、エアキャップの正面側から視たときに時計回り方向と反時計回り方向の両方向としてもよい。
(9)上記実施形態では、静電塗装用の塗装装置に適用したが、本発明は、非静電塗装層の塗装装置にも適用できる。
(10)上記実施形態では、塗装装置が作業者が把持して使用するハンドガンである場合について説明したが、本発明は、塗装ロボットに取り付けられる塗装ガンにも適用できる。
【符号の説明】
【0046】
10…ボディ
14…パターンエア供給路(エア供給路)
20…塗料ノズル
30…エアキャップ
38…パターンエア流入路(エア流入路)
39…パターンエア吐出口
40…ナット(保持手段)
46…リング状空間
50…係止部
51…凸部
52…凹部
63…受け面
66…弾性係止片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9