【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明は、アルミニウム合金箔からなる集電体を備える二次電池用電極に関するものであるが、活物質の種類によっては、負極、正極どちらにも利用でき得るものである。以下の実施例は、正極において本アルミニウム合金箔に適用した例について示す。
【0043】
(実施例1〜27、比較例1〜3)
表1に示したアルミニウム合金の内、1N30合金については、鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により500mmの厚さに製造した。次に、アルミニウム合金鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム合金鋳塊に520℃にて6時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム合金鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が94%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して3mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は350℃であった。
【0044】
続いて、このアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした。さらに通常の箔圧延を施した後に、表1に示す条件で前処理、加熱処理を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0045】
また、表1に示した1085合金については、鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により500mmの厚さに製造した。次に、アルミニウム合金鋳塊の圧延面を面削により平滑にした後、アルミニウム合金鋳塊に520℃にて6時間に亘って均質化処理を施した後、アルミニウム合金鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が94%になるように施して厚さが30mmのアルミニウム合金熱間粗圧延板を得た。その後、得られたアルミニウム合金熱間粗圧延板に熱間仕上げ圧延を施して3mmの厚さの熱間圧延板を製造した。
【0046】
熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を巻き取られたコイル状のまま室温まで冷却した後、この熱間圧延板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.30mmのアルミニウム合金板とした。さらに通常の箔圧延を施した後に、表1に示す条件で前処理、加熱処理を施して厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0047】
得られた各々のリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔について、酸化皮膜厚さ、表面の油分量および超音波溶接後の溶着しているアルミニウム部分の総厚さを測定し、表1に示した。なお、アルミニウム合金箔の処理及び各項目の測定方法の詳細を下記に記す。
【0048】
〔超音波脱脂〕
得られた箔圧延後のアルミニウム合金箔をアセトン中に浸漬し、超音波をかけて脱脂を行った。脱脂後はアセトン蒸発により気化熱を奪われ、アルミニウム合金箔表面に水滴が着くので脱脂直後にドライヤーの冷風で素早く乾燥させた。
【0049】
〔電解研磨〕
得られた箔圧延後のアルミニウム合金箔を5±2℃の過塩素酸:エタノール=1:4の容積比を有する溶液中で、各アルミニウム合金箔に応じた孔食電位+1Vで電解研磨を5〜20秒実施した。研磨時間は各アルミニウム合金箔に応じた最適時間で行った。
【0050】
〔油塗布(実施例24、比較例3)〕
圧延後のアルミニウム合金箔の表面には、通常1〜5mg/m
2の量の油分が付着している。圧延後の油分を一回除去し、そして油分量を人為的に変化させて付着させ、油分量の影響を調査する必要がある。そこで、アセトン中で超音波脱脂(前記)を行い、表面油分量を減少させ、そこへ油分を付着させる。得られた箔圧延後のアルミニウム合金箔を上記と同様の超音波脱脂(アセトン中)を行った後、塗布後の油分量が10g/m
2となるよう、バーコーターで圧延油を塗布し、25℃×24時間大気中で保持した。
【0051】
〔酸化皮膜厚さ測定〕
得られた各々のリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を10mm巾で130mmの長さに切断採取し、30±1.0℃の13mass%アジピン酸アンモニウム水溶液中に各上記寸法の試料を100mm長さ分だけ浸漬し、0.04mAの電流を、定電流で流し、時間−電圧曲線の変曲点の電圧に1.4nmを乗じた数値を皮膜厚さとした。
【0052】
〔表面の油分量(C量)〕
得られた各々のリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を10mm×30mmの大きさに切断採取し、島津製作所製SSM−5000Aを用い、試料を本装置へ挿入し、900℃に加熱して気化された全炭素量を同社製TOC−V CPHを用いて分析し、アルミニウム合金箔表面に残存する油分量を測定した。
【0053】
〔溶着後の総厚さ〕
得られた各々のリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を25mm×100mmの大きさに溶着する枚数分切断し、それら各枚数を重ねた状態で、日本アレックス製超音波溶接機AMW−35Mを用いて、上部のホーンと下部のアンビルの間に複数枚の上記アルミニウム合金箔を挟んで加圧し、下記条件にて超音波溶接を施した。溶接条件は異なる2条件を採用した。
【0054】
超音波溶接は用意した全てのアルミニウム合金箔がすべて溶着する枚数を求め、溶着して箔が板状に厚くなった溶着後のアルミニウム合金箔の総厚さを求めた。すなわち、超音波溶接するアルミニウム合金箔の枚数を1枚ずつ変えて行き、全ての枚数が溶着できる最大の枚数を求め、そのアルミニウム部分の総厚さを測定した。全ての枚数が溶着しているかどうかは断面観察から確認した。すなわち、溶着後の各アルミニウム合金箔を常温硬化型エポキシ樹脂中に埋め込み、研磨後、断面から溶着した枚数及び総厚さを測定した。
(1)溶接条件−1
・周波数 35kHz
・エネルギー 60J
・アンプリチュード 100%
・HOLD TIME 0.5秒
・Triggar圧 1bar
・Weld圧 1bar
・シリンダー径 φ20mm
(2)溶接条件−2
・周波数 35kHz
・エネルギー 80J
・アンプリチュード 70%
・HOLD TIME 2.0秒
・Triggar圧 1bar
・Weld圧 1bar
・シリンダー径 φ20mm
【0055】
(実施例28〜35、比較例4〜9)
表2に示した1N30および1085のアルミニウム合金鋳塊から製造された15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を用いて、表2に示す条件で水和処理及びその後の酸化処理を施した。なお、1N30合金箔および1085合金箔の製造方法は上述と同様であった。
【0056】
得られた各々のリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔について、前記と同じように酸化皮膜厚さ、表面の油分量及び溶着後の総厚さを測定した。なお、その時の溶接条件は前記と同じ2条件である。
【0057】
(実施例36〜46、比較例10〜12)
表3に示したアルミニウム合金鋳塊から製造された15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を用いて、表2に示す条件で水和処理及びその後の酸化処理を施した。なお、1N30合金箔および1085合金箔の製造方法は上述と同様であった。8021合金と3003合金の製造条件は以下に示す通りである。
【0058】
〔8021合金〕
通常のJIS H4160に規定された8021合金の組成のアルミニウム合金鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により500mmの厚さに製造した。このアルミニウム合金鋳塊を用いて、鋳塊面削後、520℃で1時間の均質化処理を施した。均質化処理終了後、ただちに熱間圧延を実施し、アルミニウム鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が94%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して3mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は350℃であった。熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、この熱間圧延板に冷間圧延を施して板厚を0.60mmとした後、この0.60mm厚さのアルミニウム合金板に380℃にて4時間に亘って中間焼鈍を施した。続いて、このアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした。さらに通常の箔圧延を施して、厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0059】
〔3003合金〕
通常のJIS H4160に規定された3003合金の組成の鋳塊を50mm/分の凝固速度で半連続鋳造により500mmの厚さに製造した。このアルミニウム合金鋳塊を用いて、鋳塊面削後、600℃で3時間の均質化処理を施した。均質化処理終了後室温まで鋳塊を冷却した後、再び430℃に加熱した後、熱間圧延を実施し、アルミニウム合金鋳塊に熱間粗圧延を圧延率が94%になるように施し、得られたアルミニウム合金板に熱間仕上げ圧延を施して2mmの厚さを有する熱間圧延板を製造した。熱間仕上げ圧延終了直後のアルミニウム合金板の温度は310℃であった。熱間仕上げ圧延後のアルミニウム合金板を室温まで冷却した後、この熱間圧延板に冷間圧延を施して板厚を1.00mmとした後、この1.00mm厚さのアルミニウム合金板に350℃にて2時間に亘って中間焼鈍を施した。続いて、このアルミニウム合金板に通常の圧延油を用いて冷間圧延を施し、0.3mmのアルミニウム合金板とした。さらに通常の箔圧延を施して、厚さが15μmのリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔を得た。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
(実施例47〜51、比較例13〜14)
実施例1〜27と同じ1N30合金の板厚が0.3mmのアルミニウム板を用いて、表4に示す各箔厚に圧延され製造されたリチウムイオン二次電池アルミニウム合金箔を得た。なお、実施例49及び実施例50は、最終の仕上げ圧延で2枚のアルミニウム箔を重ね合わせる、いわゆる重合圧延によって、片面がつや消しのアルミニウム合金箔とした。実施例51〜53に関わるアルミニウム合金箔は1枚で両ツヤの前記と同じアルミニウム合金箔とした。これらのアルミニウム合金箔を前記と同様の評価を行った。
【0064】
【表4】
【0065】
<密着性評価>
これらの実施例・比較例に関わるリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔に、LiCoO
2などの活物質と、カーボンなどの導電材と、PVDFなどの結着剤とを混練してペースト作製し、その活物質を含むペーストを塗工し、150℃で10分間、大気中で乾燥させた後のアルミニウム合金箔の密着性を評価した。その結果を表1〜表4に示す。
【0066】
密着性の評価は、上記の活物質を含むペーストを塗工し乾燥したアルミニウム合金箔を25mm巾に切断し、塗工面側を下側にし、アルミニウム合金箔側を上面となるように両面テープで水平な台に粘着させ、日本電産シンポ製デジタル・フォース・ゲージ(FGC−0.5B)を用いて、10mm/秒の速度で引き剥がした時の荷重の平均値を密着力とした。0.5N/25mm以上のものを(○)、0.5N/25mm未満のものを(×)とした。
【0067】
<結果の考察>
表1に示すように、実施例1〜実施例27は、比較例1〜3に比べて、酸化皮膜厚さ及び表面C量が適切な範囲となっているため、超音波溶接をした場合に、より多くの枚数のアルミニウム合金箔が良好に溶着されたことが判る。また、比較例1〜比較例2は、密着性が良好でなかった。
【0068】
また、表2に示すように、実施例28〜35は、溶接条件1では溶着枚数が少なくなっているが、酸化皮膜厚さ及び表面C量が表2に示す処理によって適切な範囲となっているため、溶接条件2に変更して超音波溶接をした場合には、溶着枚数が増加しており、良好に溶着されたことが判る。しかしながら、比較例4〜9では、溶接条件2に変更しても溶着枚数があまり増加せず、溶
着結果が良好ではないことが判る。また、比較例6〜比較例8は、密着性が良好でなかった。
【0069】
さらに、また、表3に示すように、比較例10〜12が溶接条件を変えても溶着枚数があまり増加せず、溶着が不十分であるのに比べて、実施例36〜46は、酸化皮膜厚さ及び表面C量が表3に示す処理によって適切な範囲となっているため、どちらの溶接条件であっても超音波溶接をした場合に、溶着枚数が多い結果となり、良好に溶着されたことが判る。また、比較例10〜比較例12は、密着性が良好でなかった。
【0070】
また、表4に示すように、実施例47〜51では所望の各厚さに圧延され、かつ、超音波溶接性にも優れたものとなっているのに対して、比較例13は、厚さが薄過ぎて超音波溶接ができるだけのアルミニウム合金箔を得ることができなかった。また、比較例14は、箔厚が厚過ぎて超音波溶接するのにいかなる条件
に変更しても所望の枚数全てを溶着させることができなかった。
【0071】
ここで、上記実施例及び比較例をプロットしたグラフを
図1に示す。
図1において、比較例は◇で示し、実施例のうち溶接条件1又は2での溶着枚数が40枚以上のものを◆、40枚未満のものを▲で示した。
【0072】
図1を見ると、全ての実施例は、酸化皮膜厚さが1.0nm以上10.0nm以下、表面の油分量が0.65mg/m
2以上であり、且つ式(1)及び(2)で規定される範囲内であった。また、溶着枚数が40枚以上である実施例は、全て式(3)及び(4)で規定される範囲内であった。そして、全ての比較例は、酸化皮膜が1.0nm未満であるか、又は式(1)又は(2)で規定される範囲外であった。
【0073】
以上のように、本発明に関わる表面に適当な厚さの酸化皮膜を有し、適切な量の油分量を有するリチウムイオン二次電池用アルミニウム合金箔は、適切な溶接条件により、優れた超音波溶接性及び活物質層との密着性を得ることができるようになることが分かった。