(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
大気を吸入する吸気室と、この吸気室に吸入した吸入空気によって発生する騒音を低減するサイレンサダクトと、このサイレンサダクトの下流側に位置し吸入空気が流れる方向を転向する曲がり部を有するL字ダクトを備えた吸気ダクト部と、
吸入空気を前記吸気ダクト部から下流部へと導く吸気プレナムと、この吸気プレナムの下流側に位置し吸入空気を圧縮する軸流圧縮機と、この軸流圧縮機で圧縮された圧縮空気と燃料を混合して燃焼し高温ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、このガスタービン燃焼器で発生させた高温ガスによって駆動するタービンを備えたガスタービン部と、
前記吸気ダクト部及び前記ガスタービン部を備えたガスタービンを改造するガスタービン改造方法において、
前記ガスタービン部は、ガスタービンの出力が改造前と改造後でほぼ同等であって、吸込流量が改造前と比べて改造後が小さいガスタービンを備えたガスタービン部に改造し、
前記吸気ダクト部は、前記吸気ダクト部の縮流部の形状を、鉛直方向上側から見てサイレンサダクトとの接続部を上底、L字ダクトとの接続部を下底とし、前記上底が前記下底よりも大きい台形形状となるように形成すると共に、前記サイレンサダクトと前記L字ダクトとの間に前記台形形状の縮流部を設置して、この縮流部の空気の流れ方向の断面積を前記L字ダクトの空気の流れ方向の断面積よりも減少させた吸気ダクト部に改造することを特徴とするガスタービン改造方法。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題に対する関心の高まりから、火力発電設備に対してより一層の性能向上が求められている。その中でもガスタービンは比較的単体の効率が高く、かつ、他の発電設備との組合せ(例:蒸気タービンと組み合わせたコンバインドサイクル)によって50%以上という高い発電効率を達成可能であるため、CO
2削減の一端を担うことを期待されている。
【0003】
このため、ガスタービンは、圧縮機やガスタービン燃焼器、タービンといった主要コンポーネントの性能向上だけでなく、吸気ダクト部や排気部といった主要コンポーネント以外の部分に対しても効率向上が必要となっている。
【0004】
このうち、大気を吸入する吸気室と、吸入空気によって発生する騒音を低減するサイレンサダクトと、サイレンサダクト下流部に位置し吸入空気の方向を変えるL字ダクトによって構成される吸気ダクト部では、損失低減による性能向上と、下流側での流れの乱れ低減を両立する必要がある。
【0005】
特に吸気ダクト部の出口で大きな流れの乱れが存在すると、その乱れによって吸気ダクト部の下流側の圧縮機入口で吸入する吸気の周方向の流入条件が一様とならず、圧縮機前段翼、特に初段動翼で旋回失速等の非定常現象が発生しやすくなる。
【0006】
これらの非定常現象によって圧縮機翼に振動が生じ、圧縮機信頼性に対して悪影響を及ぼす可能性があるため、吸気ダクト部の出口での吸気の流れの乱れはなるべく小さくする必要がある。
【0007】
ところで、既存のガスタービン発電設備を高効率のものに改造する際に、改造前後のガスタービン仕様の相違によって吸気ダクト部の改造が必要になる場合がある。
【0008】
例えば改造前後のガスタービンの定格出力が同一であっても高効率のガスタービンに改造する場合、改造前のガスタービンの燃焼温度に比べて改造後のガスタービンの燃焼温度の方が高い場合が多い。
【0009】
一般にガスタービンの出力は吸込流量とタービン通過時の燃焼ガスの温度差(タービン入口温度−排気温度)にそれぞれ比例し、かつ排気温度はほぼ同等であることが多いので、燃焼ガスの燃焼温度が高い改造後のガスタービンの吸込流量は、燃焼ガスの燃焼温度が低い改造前のガスタービンに比べて小さくなる。
【0010】
一方、コスト低減の観点からは、既存のガスタービン発電設備における改造箇所を最小限にとどめる必要がある。このため吸気ダクト部のうち、吸気室とサイレンサダクトは改造前のものが流用されることが多い。つまり、サイレンサ下流部の設計流量は改造前のもので、吸気プレナムの設計流量は改造後のものとなるため、この間で設計流量を低減する縮流部を設ける必要がある。
【0011】
公知例の特開平10−238365号公報には、吸気噴霧冷却器を備えたガスタービン吸気ダクト部に縮流部を設置し、その縮流部で吸気噴霧冷却器から吸気に液滴を噴霧する構造に関する技術が開示されている。
【0012】
この特開平10−238365号公報では、ガスタービン吸気ダクト部に縮流部を設けることで流れを増速し、その増速区間で吸気噴霧冷却器から吸気に液滴を噴霧することで噴霧液滴の微細化と蒸発を促進することを目的としている。
【0013】
また、公知例の特開2004−176717号公報には、水噴霧装置を有する消音装置をガスタービン吸気ダクト部に設置し、この水噴霧装置を有する消音装置は中央範囲で流路が縮小した複数個のベンチュリー管として形成されており、前記複数個のベンチュリー管の間の中央範囲で形成された流路の縮流部を流下する吸気の流速を速め、この流速を速めた吸気に対して消音装置が有する水噴霧装置から液滴を噴霧する構造に関する技術が開示されている。
【0014】
しかしながら、前記特開平10−238365号公報及び特開2004−176717号公報の何れにもガスタービン発電設備を改造する場合の対応については何等考慮されていない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施例であるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンについて図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の第1実施例であるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンについて
図1乃至
図4を用いて説明する。
【0027】
図1に本発明の第1実施例であるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンについて、改造後のガスタービンの機器配置の概略図を示す。
【0028】
図1に示した本実施例の改造後のガスタービンにおいて、ガスタービンを構成するガスタービン発電設備1は、ガスタービン部2と、吸気をガスタービン部2に導く吸気ダクト部10と、ガスタービン部2によって駆動されて発電する発電機8と、前記ガスタービン部2を載置するタービンベース7から構成されている。
【0029】
前記吸気ダクト部10は、大気から吸気を取り込む吸気室11と、この吸気室11から取り込まれた吸気を消音するサイレンサを内部に配設したサイレンサダクト12と、このサイレンサダクト12の下流側に位置して吸気の流路を絞った縮流部21と、この縮流部21の下流側で吸気の流れ方向を転向してガスタービン部2に吸気を導くL字ダクト13から構成されている。
【0030】
一方、前記ガスタービン部2は、吸気ダクト部10のL字ダクト13を通じて供給された吸気を導入する吸気プレナム14と、この吸気プレナム14から導入した吸気を圧縮する軸流圧縮機3と、この軸流圧縮機3で圧縮した空気と燃料を混合して燃焼して高温の燃焼ガスを発生するガスタービン燃焼器4と、このガスタービン燃焼器4で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービン5と、このタービン5によって駆動されて発電する発電機8と、前記軸流圧縮機3、タービン5及び発電機8を連結する軸6と、前記タービン5を流下した燃焼ガスを排気として大気に排出する排気室15から構成されている。
【0031】
そして、前記構成のガスタービン部2はタービンベース7上に載置されている。
【0032】
上記した構成である本実施例のガスタービン改造方法を適用したガスタービンでは作動流体の挙動は以下の通りとなる。
【0033】
即ち、
図1に示した本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンであるガスタービンにおいて、吸気ダクト部10の吸気室11から吸込まれた吸気(空気)は、吸気ダクト部10のサイレンサダクト12、縮流部21、及びL字ダクト13を順次通過した後に、ガスタービン部2の吸気プレナム14を通じて軸流圧縮機3に流入する。
【0034】
ガスタービン部2の軸流圧縮機3に流入した吸気は、この軸流圧縮機3によって圧縮された後にガスタービン燃焼器4に流入し、このガスタービン燃焼器4にて吸気(空気)は噴射された燃料と混合して燃焼し、高温・高圧の燃焼ガスを発生させる。
【0035】
ガスタービン燃焼器4で発生した高温・高圧の燃焼ガスは、軸流圧縮機3と軸6によって連結されているタービン5に作動流体となって流入してこのタービン5を駆動するが、前記タービン5の駆動によって該タービン5と軸6によって連結した前記軸流圧縮機3を駆動するように構成されている。
【0036】
そして前記タービン5を高温・高圧の燃焼ガスによって駆動する際に、このタービン5の駆動によって該タービン5と軸6によって接続された発電機8を駆動し、この発電機8で発電を行なう。
【0037】
そして前記タービン5を駆動した燃焼ガスは該タービン5から排出されて排気室15に流入し、この排気室15から排気として大気に放出される。
【0038】
次に、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおいて、ガスタービン改造方法を実施する前のガスタービンの機器配置の概略図を
図2に示す。
【0039】
図1と
図2において、ハッチングを施した箇所がガスタービンの改造の対象となった箇所である。具体的なガスタービンの改造箇所は、ガスタービン部2の吸気プレナム14と排気室15、及びガスタービン部2の本体部分である軸流圧縮機3、ガスタービン燃焼器4、タービン5、軸6、タービン5、及び発電機8と、吸気ダクト部10のL字ダクト13である。
【0040】
本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおいては、改造前と改造後とでガスタービンの出力が同等であり、吸込流量が改造前と比べて改造後の吸込流量が小さい(燃焼温度の大きい)ガスタービン部2の改造を想定しているため、ガスタービン部2の吸気プレナム14入口における設計流量は、吸気ダクト部10のサイレンサダクト12出口における設計流量よりも小さくなる。
【0041】
上記した本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、改造前と改造後とでガスタービンの出力が同等とは、改造前後のガスタービンの出力が±5%の範囲にあることを意味している。
【0042】
また、改造前と改造後とで改造後のガスタービンの吸込流量が小さいとは、ガスタービンの吸込流量が改造前のそれと比べて改造後の吸込流量が−20%の範囲にある、好ましくは−10%の範囲にあることを意味している。
【0043】
上記した設計流量の差を解消するため、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、改造時に、前記吸気ダクト部10のサイレンサダクト12の直下となる該サイレンサダクト12とL字ダクト13との間に縮流部21を設けている。
【0044】
改造前後の吸気ダクト部10を鉛直方向から見た矢視図を
図3A及び
図3Bに示す。
図3Bに示したように、本実施例のガスタービン改造方法では、改造後の吸気ダクト部10の縮流部21を鉛直上部から見た形状は等脚台形となることを想定している。
【0045】
なお、改造後の吸気ダクト部10の縮流部21の形状は、吸気の流れ方向の断面積が下流方向で大きくならないような形状であれば、等脚台形以外の他の形状であっても問題ない。ただし、コストの観点からはなるべく単純な形状の方が良いため、本実施例のガスタービン改造方法で想定している等脚台形形状が望ましい。
【0046】
次に、本実施例のガスタービン改造方法におけるガスタービン設備1の具体的な動作について説明する。まず本実施例のガスタービン改造方法におけるガスタービンの吸込流量、圧力比、燃焼温度は、改造前ではそれぞれ、300kg/s、15、1100℃、改造後ではそれぞれ、250kg/s、20、1500℃程度を想定しており、出力としては約80MW〜100MWの範囲のガスタービンを想定している。
【0047】
本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、改造後のガスタービン設備1において吸気室11から吸気ダクト部10に流入した作動流体の空気は、サイレンサダクト12を約5m/sで通過してサイレンサダクト12の下流側の直後に設置された縮流部21へ流入する。
【0048】
縮流部21へ流入した作動流体の流速は、作動流体が流下する流路の断面積が、サイレンサダクト12の大きな流路断面積から縮流部21の小さな流路断面積に減少することに伴って、約5m/sから約6m/sに増加し、前記縮流部21の下流側に設置されたL字ダクト13へ流入する。
【0049】
この際のL字ダクト13への作動流体の流入速度は、改造前のL字ダクト13への作動流体の流入速度とほぼ同等になっている。
【0050】
吸気ダクト部10のL字ダクト13に流入した作動流体は、L字ダクト13を流下する過程で作動流体である空気の流れの方向を転向して、ガスタービン部2の吸気プレナム14に流入する。
【0051】
吸気プレナム14を通過した作動流体は、約150m/sの速度で軸流圧縮機3の入口へ流入し、この軸流圧縮機3によって圧縮された後にガスタービン燃焼器4に流入し、このガスタービン燃焼器4で作動流体の空気が該ガスタービン燃焼器4に噴射された燃料と混合して燃焼し、高温・高圧の燃焼ガスを発生させる。
【0052】
ガスタービン燃焼器4で発生した高温・高圧の燃焼ガスは、軸流圧縮機3と軸6によって連結されているタービン5に流入してこのタービン5を駆動すると共に、前記タービン5の駆動によって該タービン5と軸6によって連結した前記軸流圧縮機3も駆動させる。
【0053】
そしてタービン5を高温・高圧の燃焼ガスによって駆動する際に、このタービン5の駆動によって該タービン5と軸6によって接続された発電機8を駆動し、この発電機8で発電が行なう。
【0054】
そしてタービン5を駆動した燃焼ガスは、該タービン5から排出されて圧力約0.1MPa、温度約500℃となって排気室15に流入し、この排気室15から排気として大気に放出される。
【0055】
本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、排気室15の下流側にタービン5から排出した排ガスを熱源とした蒸気タービン系統を備えたコンバインドサイクルについては記載していないが、排気室15の下流側にコンバインドサイクルを設置する場合には、前記コンバインドサイクルに排気室15から排出した排ガスから熱量を回収して蒸気を発生する排熱回収ボイラ(図示せず)を設置して排ガスから熱量を回収し、前記排熱回収ボイラで発生させた蒸気で駆動する蒸気タービンを備えた蒸気タービン系統を設置すれば良い。
【0056】
本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおける条件下では、改造によって
図3Bに示したように吸気ダクト部10のサイレンサダクト12の直下となる該サイレンサダクト12とL字ダクト13との間に、前記サイレンサダクト12の流路断面積よりも小さな流路断面積を有する縮流部21を配設しているが、この際、前記縮流部21と縮流部21の下流側のL字ダクト13との接続部では、ガスタービンの改造前よりも内部を流れる空気の流れが剥離しやすくなる。
【0057】
縮流部21とL字ダクト13との接続部では、前記接続部での空気の流れの剥離によって流路を流下する空気の主流に生じる流れの乱れが、L字ダクト13だけでなくガスタービン部2の吸気プレナム14入口まで及ぶ場合に、軸流圧縮機3の入口部での空気の流れ場に周方向偏差が発生する可能性が高い。
【0058】
この軸流圧縮機3の入口部での空気の流れ場の周方向偏差の発生によって、軸流圧縮機3の前段翼、特に初段動翼で旋回失速等の非定常現象が発生しやすくなって圧縮機翼に振動が生じ、軸流圧縮機3の信頼性に対して悪影響を及ぼす可能性がある。
【0059】
そこで上記した課題を抑制するため、本実施例のガスタービン改造方法では、吸気ダクト部10の縮流部21の設置箇所を
図1及び
図3Bにガスタービン改造後の吸気ダクト部10の構造として示したように、吸気ダクト部10の縮流部21の設置箇所をサイレンサダクト12の直下となるサイレンサダクト12の下流側に設置した構成を採用している。
【0060】
上記した構成のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを適用した場合、吸気ダクト部10の縮流部21とL字ダクト13との接続部で空気の剥離による空気の主流の流れに乱れが生じたとしても、空気の流れは前記L字ダクト13を通過する過程でほぼ整流されることから、前記L字ダクト13を通じてガスタービン部2の吸気プレナム14に流入する空気の流れに、この吸気プレナム14の入口で発生する流れの乱れを抑制することが可能となる。
【0061】
改造前後で改造前の構造を改造後でも流用する流用箇所の増加を狙って前記縮流部21の設置箇所を吸気ダクト部10のL字ダクト13とガスタービン部2の吸気プレナム14との間に設置することを考えた場合には、吸気プレナム14の入口で前述の空気の流れの剥離が生じるので、軸流圧縮機3入口での空気の流れの乱れが大きくなり、軸流圧縮機3の信頼性の観点から好ましくない。
【0062】
また、一般的にL字ダクト13の上流部よりもL字ダクト13の下流部の方が流れる空気の流速が高くなっているため、前記縮流部21の設置箇所を、吸気ダクト部10のL字ダクト13とガスタービン部2の吸気プレナム14との間に設置する場合には、
(前記縮流部21をサイレンサダクト12とL字ダクト13との間に設置した場合に較べて)前述の縮流部21とL字ダクト13との接続部の空気の剥離による流れの乱れは、より大きくなることが予想される。
【0063】
上記した本実施例におけるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンによれば、改造前の吸気ダクト部10に設置した既設の吸気室11とサイレンサダクト12を最大限流用すると共に、乱れが小さく信頼性の高いガスタービン設備1が提供できる。
【0064】
また、上記した本実施例におけるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンによれば、L字ダクト上流部に縮流部を設けることで、縮流部下流部にて発生する流れの乱れがL字ダクト通過時に整流され、乱れの小さい状態で吸気プレナムに流入するため、信頼性が向上する。
【0065】
またサイレンサ下流部〜吸気プレナム入口間の流路断面積が流れ方向に対して一定もしくは減少を続けることで拡大部がなくなり、拡大部によって発生する損失や流れの乱れを低減することができる。
【0066】
本実施例によれば、既存のガスタービン発電設備を既存のガスタービンよりも流量の小さいガスタービンに改造する場合に、既存のガスタービン発電設備を出来るだけ多く流用すると共に、吸気ダクト部に吸気した空気の流れの乱れを低減した信頼性の高いガスタービンを得ることを可能にしたガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンが実現できる。
【0067】
次に本発明の第1実施例であるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンの変形例について
図4を用いて説明する。
【0068】
本発明の第1実施例のガスタービン改造方法の変形例は
図1、
図3A、及び
図3Bに示した本発明の第1実施例のガスタービン改造方法と基本的な構成は同じであるので、両者に共通した構成の説明は省略し、相違した部分だけを以下に説明する。
【0069】
本発明の第1実施例のガスタービン改造方法の変形例では、
図4に示したように、L字ダクト13の流路の曲がり部に面取り部13aを施す構成を採用している。
【0070】
このガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンの変形例においては、吸気ダクト部10のL字ダクト13を空気が流れる際に、L字ダクト13の流路の曲がり部に面取り部13aが施されているので、内部を流れる空気がL字ダクト13の流路の曲がり部を通過する際に、この曲がり部に形成された面取り部13aによってL字ダクト13の曲がり部通過時に発生する空気の剥離が抑制される。
【0071】
よって、前記ガスタービン改造方法の変形例においては、さらなる信頼性の向上と損失低減が達成される。
【0072】
前記L字ダクト13の流路の曲がり部に形成された面取り部13aは、曲率を持つ形状に形成することが望ましいが、直線形状で形成しても曲がり部通過時に発生する流れの剥離による損失や流れの乱れを、ある程度低減させることは可能である。
【0073】
本実施例の変形例であるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンによれば、さらにL字ダクト部の前記曲がり部に面取りを施すことで、曲がり部通過時に発生する流れの剥離による損失や流れの乱れを低減することも可能となる。
【実施例2】
【0074】
次に本発明の第2実施例であるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンについて
図5A、
図5B、
図5Cを用いて説明する。
【0075】
本発明の第2実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンは、
図1、
図3A、及び
図3Bに示した本発明の第1実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンと基本的な構成は同じであるので、両者に共通した構成の説明は省略し、相違した部分だけを以下に説明する。
【0076】
図5A、
図5B、
図5Cに本実施例のガスタービン改造方法における改造前後の吸気ダクト部10を鉛直方向から見た矢視図を示す。
図5Aはガスタービン改造前の吸気ダクト部10の構成を示しており、
図2に示した第1実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおける改造前の吸気ダクト部10と同じ構成となっている。
【0077】
本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおいては、
図5B、
図5Cに示したように、ガスタービン改造時に、吸気ダクト部10のサイレンサダクト12とL字ダクト13との間に、サイレンサダクト12の流路断面積よりも小さな流路断面積を有する縮流部21を設置しているが、この縮流部21の入口近傍には吸気に微細液滴を噴霧する吸気噴霧冷却装置22が設けられている。
【0078】
ここで、簡単に吸気噴霧冷却について説明する。吸気噴霧冷却は吸気冷却の一種で、ガスタービン吸気部に微細液滴を噴霧して液滴の蒸発によって吸気を冷却する技術である。
【0079】
ガスタービンは吸気温度が高くなるとガスタービンの出力が低下するという特性を持つので、吸気温度の高い夏場の出力向上策として用いられることがある。一般に噴霧流量が多いほど出力向上量は多くなる。
【0080】
本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、吸気噴霧冷却装置22として、
図5BのA−A断面である
図5Cに示すような、円筒状の複数のノズルヘッダ23を配置した構成を想定している。これらの各ノズルヘッダ23には複数の噴霧ノズル24が設けられており、これらの噴霧ノズル24より微細化された水滴が吸気に噴霧され、水滴の蒸発によって吸気の主流空気を冷却してガスタービンの出力の向上を図っている。
【0081】
なお、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、前記吸気噴霧冷却装置22を構成する噴霧ノズル24として高圧水を噴霧する1流体ノズルを想定しているが、高圧・高温の空気と水を混合して噴霧する2流体ノズルを用いても良い。
【0082】
また、
図5Bには図示していないが、1流体ノズル、或いは2流体ノズルのどちらのタイプのノズルを噴霧ノズル24に用いる場合でも、ノズルヘッダ23に対して外部よりポンプ等で水を供給する必要がある。
【0083】
次に、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンで設置した吸気噴霧冷却装置22を構成する噴霧ノズル24を備えた噴霧ノズルヘッダ23の設置位置は、前記縮流部21の上流側となる縮流部21の入口近傍となっている。この理由は下記の通りである。
【0084】
理由の1点目は、噴霧ノズルヘッダ23を縮流部21の上流側に設置することで前記吸気噴霧冷却装置22から吸気に対して液滴を噴霧した後の液滴の蒸発時間を稼ぎ、より吸気噴霧冷却の効果を向上させるためである。
【0085】
理由の2点目は、縮流部21の入口の方が出口側より設置するノズルヘッダ23の数を増やすことができるため、吸気に対して噴霧する液滴の噴霧量を増加させることができる点である。
【0086】
理由の3点目は、縮流部21出口側よりも相対的に流路断面積の大きい縮流部21入口近傍にノズルヘッダ23を配置することで、ノズルヘッダ23を吸気が通過時に発生する流速増加および損失を抑制するためである。
【0087】
特に3点目によって縮流部21入口近傍に吸気噴霧装置22を設置した場合でも、ガスタービン部2の吸気プレナム14入口での空気の流れの乱れを抑制することができるため、第1実施例のガスタービン改造方法と同様に信頼性の高いガスタービンを提供することが可能となる。
【0088】
また本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおける吸気噴霧冷却装置22の噴霧ノズル24から吸気に対して噴霧する液滴の噴霧方向は、
図5Bに示したように、吸気ダクト部10の縮流部21を鉛直上部から見て、空気の主流に垂直方向の縮流部壁面に近づくにつれて流れの下流方向内向きになるようにする。
【0089】
一般に噴霧ノズル24から噴霧される液滴は、ある一定の噴霧角を持った円錐状の噴霧形状となるため、このような噴霧方向とすることで特に縮流部21の壁面近傍で噴霧された液滴が噴霧直後に縮流部21の壁面に付着してドレンとなるのを抑制することが可能となる。
【0090】
噴霧された液滴がドレンとなるドレン量の低減は、液滴噴霧後のガスタービンの出力が液滴噴霧前のガスタービンの出力と同一出力を得るための噴霧水量の削減につながるだけでなく、縮流部21の壁面に付着した液滴が空気の流れの主流によって分裂して粗大液滴となり、吸気ダクト部10の下流側に位置するガスタービン部2の軸流圧縮機3に流入してエロージョンを引き起こす可能性の抑制にもつながる。
【0091】
上記した本実施例におけるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを用いることで、吸気噴霧冷却装置22を備えた場合でも、ガスタービン部2の吸気プレナム14入口での空気流の乱れが小さく信頼性の高いガスタービンを提供できる。
【0092】
さらに吸気噴霧冷却装置22から吸気に対して液滴を噴霧する吸気噴霧時については、流量の増加、蒸発時間の確保、およびドレン量の抑制を両立した吸気ダクト部10の構造を提供可能である。
【0093】
なお、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおける吸気ダクト部10の縮流部21と、吸気噴霧冷却装置22の構成については、ガスタービン改造方法としてだけでなく、新設するガスタービンに設置する吸気ダクト部10の縮流部21の構造、及び吸気噴霧冷却装置22の構造としても適用可能である。
【0094】
上記した本実施例におけるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンによれば、圧縮機出口〜燃焼器入口間に湿分もしくは蒸気を添加する手段を設けることで、タービン側の流量を増加させることが可能になる。これにより、コンバインドサイクルとして利用しているガスタービン発電設備の改造時に上記の吸気ダクト部を適用した場合でも、タービン出口の流量を維持できるので、下流側の蒸気タービン系統の作動条件の変化がなく、蒸気タービン系統での性能低下を抑制することが可能となる。
【0095】
また上記した本実施例におけるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンによれば、前記縮流部入口近傍に噴霧冷却装置を持つため、縮流部を持たないガスタービンに対して噴霧流量を増加させることができ、噴霧による性能向上量が増加する。
【0096】
また、鉛直上部から見た前記噴霧冷却装置の噴霧方向を、鉛直上部から見て主流に垂直方向の縮流部壁面に近づくにつれて流れの下流方向内向きとすることで、吸気噴霧冷却に必要な蒸発時間の確保と噴霧液滴の衝突によるドレン化の低減を達成することができる。
【0097】
また、吸気噴霧装置を流路断面積の大きい縮流部入口近傍に設置することで、吸気噴霧装置設置によって生じる流れの乱れを最小限に抑制することが可能になる。
【0098】
本実施例によれば、既存のガスタービン発電設備を既存のガスタービンよりも流量の小さいガスタービンに改造する場合に、既存のガスタービン発電設備を出来るだけ多く流用すると共に、吸気ダクト部に吸気した空気の流れの乱れを低減した信頼性の高いガスタービンを得ることを可能にしたガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンが実現できる。
【実施例3】
【0099】
次に本発明の第3実施例であるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンについて
図6、
図6A,
図6Bを用いて説明する。
【0100】
本発明の第3実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンは、
図1、
図3A、及び
図3Bに示した本発明の第1実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンと基本的な構成は同じであるので、両者に共通した構成の説明は省略し、相違した部分だけを以下に説明する。
【0101】
図6は本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを実施した改造後のガスタービンの機器配置の概略図を、
図7Aはガスタービン改造前の軸流圧縮機3の初段近傍の子午面断面の概略図を、
図7Bは本実施例におけるガスタービン改造後の軸流圧縮機3の初段近傍の子午面断面の概略図をそれぞれ示す。
【0102】
図6及び
図7Bに示した本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、
図6に示したように、軸流圧縮機3とガスタービン燃焼器4との間に前記軸流圧縮機3で圧縮された空気を加湿する加湿装置41が取り付けられている。
【0103】
更に、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、
図7Bに示したように、軸流圧縮機3の初段動翼32の構造が、翼断面の重心を結んだ線(スタッキングライン)が半径方向外方に向かって直線状から翼前縁側にカーブした三次元翼となるように形成されている。
【0104】
即ち、ガスタービンの改造前では
図7Aに示したように、軸流圧縮機3の初段動翼32の構造は、翼断面の重心を結んだ線(スタッキングライン)が半径方向に直線状の形状であったが、本実施例のガスタービン改造方法を実施したガスタービンの改造後では、
図7Bに示したように、ガスタービンの改造後の軸流圧縮機3の初段動翼32の構造が、翼断面のスタッキングラインが翼長下半部では半径方向に直線状の形状から、翼長上半部では半径方向外方に向かって直線状から翼前縁側に湾曲した形状の三次元翼となるように形成されている。
【0105】
そして、ガスタービンの改造前後において、軸流圧縮機3の初段近傍の構成要素は同一であり、入口案内翼31、入口案内翼31の下流側の初段動翼32、初段動翼32の下流側の初段静翼33、前記初段動翼32を設けたロータ34、および前記入口案内翼31と初段静翼33を設けたケーシング35によって構成されている。
【0106】
本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを実施した改造後におけるガスタービンの軸流圧縮機3では、改造後の軸流圧縮機3の初段動翼32の形状として、翼断面の重心を結んだ線(スタッキングライン)が半径方向に直線となった形状であったのが、ガスタービンの改造後の軸流圧縮機3の初段動翼32では、
図7Bに示したように、翼断面のスタッキングラインが翼長下半部では半径方向に直線状の形状であったものが、翼長上半部では半径方向に直線状の形状から翼前縁側に湾曲した形状となる三次元翼となるように形成されている。
【0107】
一般に三次元翼を適切に設計すると、翼断面のスタッキングラインが直線の翼に比べて作動範囲を広くすることができる。つまり、軸流圧縮機3の初段動翼の設計流入角から失速状態になるまでの裕度を、改造前に比べて改造後のガスタービンでは大きくすることが可能となる。
【0108】
なお、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを実施した改造後におけるガスタービンの軸流圧縮機3の初段動翼32に適用した三次元翼の形状として、
図7Bに示したように、翼断面のスタッキングラインが翼長下半部では上流側に湾曲した三次元翼の形状である前方スイープ翼形状を想定しているが、前述の裕度が向上する初段動翼形状であれば、スタッキングラインの形状はどのような形状でも良い。
【0109】
次に、
図7Bに示したように、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを実施した改造後におけるガスタービンの軸流圧縮機3の初段動翼32に、翼断面のスタッキングラインが翼前縁側に湾曲した形状となる三次元翼を採用した場合におけるガスタービン部2の吸気プレナム14の入口から軸流圧縮機3の初段静翼33までの流れについて説明する。
【0110】
吸気ダクト部10を通過してガスタービン部2の吸気プレナム14入口に到達した空気の流れは、
図6及び
図7Bに示したように、軸流圧縮機3の最上流の翼である入口案内翼31へと流入する。
【0111】
吸気プレナム14では空気の流れとして鉛直下向きの流れが、軸方向の流れとなるように転向するが、吸気プレナム14の形状の制約により軸流圧縮機3の周方向及び径方向に偏差が生じるのは避けられない。
【0112】
つまり、吸気プレナム14から軸流圧縮機3の入口案内翼31に流入する空気の流れの流入条件は完全に一様ではなく、周方向及び径方向に偏差を持っている。
【0113】
この周方向及び径方向の空気の流れの偏差によって、入口案内翼31の下流部に存在する初段動翼32への空気の流れの流入条件も周方向及び径方向に偏差を持つことになる。
【0114】
一般に、入口案内翼31や初段静翼32は可変機構によって前記入口案内翼31や初段静翼32の取付角を変化できる場合が多く、仮に空気の流れの流入条件が変化した場合には、前記取付角を変更すればよいが、ロータ34に設けられた初段動翼32にはそのような可変機構を用いることはできない。
【0115】
このため、吸気プレナム14での空気の流れの転向によって軸流圧縮機3の入口案内翼31に流入する空気の流れに周方向及び径方向に偏差が発生すると、設計時に比べて失速の裕度が小さくなり、流れの剥離による非定常現象等、ガスタービンの信頼性に影響を与える可能性のある現象が起こりやすくなることが予想される。
【0116】
そこで、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおいては、軸流圧縮機3の初段動翼32を、
図7Bに示したように、翼断面のスタッキングラインが半径方向外方に向かって直線状から翼前縁側に湾曲した形状となる三次元翼を採用して失速裕度の高い翼に置き換えることで、軸流圧縮機3の入口案内翼31に流入する空気の流れの乱れに対する軸流圧縮機3の信頼性への影響を低減できるため、さらに信頼性が向上したガスタービンを実現することが可能になる。
【0117】
また、
図6中に示すように、軸流圧縮機3とガスタービン燃焼器4の間に軸流圧縮機3で圧縮した吸気を加湿する加湿装置41を設けることで、吸込空気の流量を変えずにタービン側の流量のみを増加させることが可能となる。
【0118】
これによって、改造後のガスタービンにおけるタービン5の出口部で流量とガス温度の両方が、改造前のガスタービンにおけるタービン5の出口部で流量とガス温度とほぼ一致させることが可能になる。
【0119】
特に改造するガスタービンにおけるガスタービン部2の下流側に蒸気タービン系統を有するガスタービン発電設備1を備えている場合に、上記した本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを用いることで、ガスタービン部2の性能向上を達成すると共に、蒸気タービン系統の蒸気流量の減少による蒸気タービン系の性能低下も抑制可能となる。
【0120】
なお、加湿装置41の具体的な加湿方法として、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンでは、軸流圧縮機3で圧縮した空気に蒸気を注入する蒸気噴射を想定しているが、軸流圧縮機3の出口空気を抽気して液滴噴霧や多孔質材からなる増湿塔を用いてこの抽気した軸流圧縮機3の出口空気を加湿する構成の加湿方法を用いても良い。
【0121】
上記した本実施例におけるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンを用いることで、軸流圧縮機3の信頼性がさらに向上し、更に、ガスタービン部2の下流側に蒸気タービン系統を有するガスタービン発電設備1を備えた場合でも改造による蒸気タービン系の性能低下を抑制することが可能となる。
【0122】
なお、本実施例のガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンにおいては、軸流圧縮機3の初段動翼32の改造と、加湿装置41の設置は、それぞれ独立に行っても良い。その場合、軸流圧縮機3の初段動翼32の改造によってさらなる信頼性が向上し、加湿装置41の設置によってガスタービン部2の下流側に設置した蒸気タービン系統を有するガスタービン発電設備1の蒸気タービンの性能の低下を抑制することが可能となる。
【0123】
上記した本実施例におけるガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンによれば、圧縮機初段動翼の設計流入角から失速状態になるまでの裕度を改造前より増加させることで、さらに圧縮機の信頼性を向上させることが可能となる。
【0124】
本実施例によれば、既存のガスタービン発電設備を既存のガスタービンよりも流量の小さいガスタービンに改造する場合に、既存のガスタービン発電設備を出来るだけ多く流用すると共に、吸気ダクト部に吸気した空気の流れの乱れを低減した信頼性の高いガスタービンを得ることを可能にしたガスタービン改造方法及び改造を施したガスタービンが実現できる。