特許第5917249号(P5917249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5917249等速自在継手の内方部材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917249
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】等速自在継手の内方部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/20 20060101AFI20160422BHJP
   F16D 3/205 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   F16D3/20 J
   F16D3/205 M
   F16D3/20 F
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-90183(P2012-90183)
(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公開番号】特開2013-217478(P2013-217478A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】長久 正登
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 佳宏
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−541682(JP,A)
【文献】 特開2007−155100(JP,A)
【文献】 特開2008−284999(JP,A)
【文献】 特開2011−094700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/20− 3/229
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にトルク伝達要素を支承する軌道面が形成され、内周にスプライン部が形成された等速自在継手の内方部材の製造方法であって、前記内方部材を鋼材とし局部的に浸炭を抑制した浸炭焼入焼戻しを施し、前記スプライン部を形成する部分を不完全焼入部とすると共に、当該を除いた表面にスプライン部より炭素濃度の高い焼入部を形成し、前記浸炭焼入焼戻し後に前記スプライン孔部を形成する部分をブローチ加工し、このブローチ加工により前記スプライン部の少なくともスプライン大径の表面を浸炭異常層のない金属組織にすることを特徴とする等速自在継手の内方部材の製造方法
【請求項2】
前記スプライン大径の表面硬さをHv230以上でHv390以下としたことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の内方部材の製造方法
【請求項3】
前記内方部材がクロム鋼からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の等速自在継手の内方部材の製造方法
【請求項4】
前記内方部材がトリポード部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の等速自在継手の内方部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、等速自在継手の内方部材およびその製造方法に関し、特に、自動車、航空機、船舶や各種産業機械などの動力伝達部に使用される等速自在継手の内方部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転力を等速で伝達するドライブシャフトやプロペラシャフト等に組込まれる等速自在継手には、固定式等速自在継手と摺動式等速自在継手の二種がある。これらの等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸を連結して、その二軸が作動角をとっても等速で回転を伝達し得る構造を備えている。
【0003】
自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトは、デフと車輪との相対的な位置関係の変化による角度変位と軸方向変位に対応する必要があるため、一般的にデフ側(インボード側)に角度変位と軸方向変位に対応できる摺動式等速自在継手を、駆動車輪側(アウトボード側)に大きな作動角が取れる固定式等速自在継手をそれぞれ装着し、両等速自在継手をシャフトで連結した構造を有する。この等速自在継手の内方部材とシャフトの連結構造として、スプライン結合(セレーション結合も含む。以下、本明細書および特許請求の範囲において同じとする。)が使用されている。
【0004】
例えば、摺動式等速自在継手の一種にトリポード型等速自在継手がある。トリポード型等速自在継手61は、図14に示すように、外側継手部材62、内方部材としてのトリポード部材63、転動体65および球面ローラ64を主な構成とする。外側継手部材62の内周部に3本のトラック溝66が軸方向に形成され、各トラック溝66の両側にそれぞれローラ案内面67が軸方向に形成されている。トリポード部材63は、そのボス部63aより3本の脚軸63bが放射状に形成されている。脚軸63bに多数の転動体65を介して球面ローラ64が嵌合され、転動体の両端にワッシャ69、70を介在させ、ワッシャ69は止め輪68により位置決めされている。脚軸63bの外周面は転動体65の内側軌道面を形成し、球面ローラ64の内周面は転動体65の外側軌道面を形成している。上記の構成により、転動体65の列が脚軸63b上で案内されると共に、球面ローラ64は、転動体65上で回転自在で、かつ脚軸63bの軸線方向に移動可能となっている。球面ローラ64は、外側継手部材62のローラ案内面67に回転自在に収容されている。このような構造により、外側継手部材62とトリポード部材63との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収され、回転が等速で伝達される。トリポード部材63のボス部63aの内周面72にスプライン73が形成され、このスプライン73とシャフト71のスプライン74が嵌合され、トルク伝達可能に連結される。
【0005】
一方、固定式等速自在継手の一種にツェッパ型等速自在継手がある。ツェッパ型等速自在継手91は、図17および図18に示すように、外側継手部材92、内方部材としての内側継手部材93、ボール94および保持器95を主な構成とする。外側継手部材92の球状内周面98には複数のトラック溝96が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材93の球状外周面99には、外側継手部材92のトラック溝96と対向するトラック溝97が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材92のトラック溝96と内側継手部材93のトラック溝97との間にトルクを伝達する複数のボール94が介在されている。外側継手部材92の球状内周面98と内側継手部材93の球状外周面99の間に、ボール94を保持する保持器95が配置されている。外側継手部材92の球状内周面98と内側継手部材93の球状外周面99の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。また、保持器95の球状外周面100および球状内周面101の曲率中心も継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材92のトラック溝96の曲率中心Aと、内側継手部材93のトラック溝97の曲率中心Bとは、継手の中心Oに対して軸方向に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材92と内側継手部材93の二軸間で回転が等速で伝達されることになる。内側継手部材93の内周面105にスプライン106が形成され、このスプライン106とシャフト102のスプライン107が嵌合され、トルク伝達可能に連結されている。
【0006】
上記の等速自在継手61、91の内方部材としてのトリポード部材63や内側継手部材93は、周方向の肉厚が変化する形状であるので、スプラインの熱処理変形に対する対策技術が公開されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−232697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図15に、トリポード部材を拡大して示す。従来、トリポード部材63は、図16に示すように、バー材切断工程S1、球状化焼なまし工程S2、ボンデ処理工程S3、冷間鍛造工程S4、旋削加工工程S5、ブローチ加工工程S6、熱処理工程S7、研削加工工程S8を経て製作される。トリポード部材63は、強度や耐摩耗性及び耐はく離性を要求されることから、上記の製作工程のように浸炭焼入焼戻しなどの熱処理を施して硬度を高めるようにしている。ところが、図15に示すように、トリポード部材63は、ボス部63aから脚軸63bが放射状に突出した形状であるので、周方向での肉厚の変化が大きい。
【0009】
このような肉厚の変化が大きい部品を浸炭焼入焼戻しした場合、冷却速度が部位により異なるため熱処理変形が大きくなる。また、焼入れでの変態により膨張が生じ、この膨張は部品の体積に比例する。そのため、肉厚の厚い部位は大きく膨張し、逆に肉厚の薄い部位は小さな膨張となり、その結果、トリポード部材63のスプライン73のピッチ円Pは、熱処理前の真円形状から、図15に示すように、肉厚の厚い脚軸形成部位Dにおいてピッチ円Pの直径が大きく、肉厚の薄い円筒状部位Cではピッチ円Pの直径が小さくなり、数十μm程度の直径差を有する略三角形状に変形する。図15では、理解しやすいように直径差を誇張して図示している。
【0010】
上記のような熱処理変形が生じるため、トリポード部材63のスプライン73にシャフト71のスプライン74を嵌合結合してトルクを伝達する場合、肉厚の薄い円筒状部位Cのスプライン73に大きな負荷がかかり、脚軸形成部位Dのスプライン73には小さな負荷となって、スプライン73の各歯に作用する応力が不均一になる。これにより、トリポード部材63の疲労強度の低下や疲労強度の大きなバラツキを招く場合がある。また、このようなトリポード部材63の熱処理変形によるスプライン負荷の不均一により、嵌合するシャフトの強度を低下させる場合がある。このような状況にあるが、トリポード部材63のスプライン73の熱処理変形は、容易に、また経済的に研削仕上げすることが難しいこともあって、熱処理後仕上げ加工されずに使用されることが多い。
【0011】
図19に、ツェッパ型等速自在継手の内側継手部材を拡大して示す。内側継手部材93についても、前述したトリポード部材63とほぼ同様の工程を経て製作される。内側継手部材93は、トラック溝形成部位Eと球状外周面形成部位Fからなり、肉厚が周方向で変化する。この内側継手部材93の肉厚の変化量は、トリポード部材63ほど大きくはないが、内側継手部材93の内周面105に形成されたスプライン106のピッチ円Pは多角形状の熱処理変形が生じ、前述したトリポード部材63と同様の問題がある。図19でも、多角形状の熱処理変形を理解しやすいように誇張して図示している。
【0012】
上記の問題に対して、特許文献1に記載の技術は、内側継手部材のセレーションの熱処理前形状を、その熱処理による変形量を予め考慮して、薄肉部の内径寸法を厚肉部の内径寸法よりも大きくするものである。しかし、この技術では、不可避的に発生する熱処理変形のバラツキを解消することができない。したがって、スプラインの各歯に作用する応力を均一するには限界がある。また、トリポード部材の破壊の起点となるスプラインの歯底(大径)の表面に浸炭異常層が形成されるので、強度面での改善も必要であることが分かった。
【0013】
また、特許文献1には、内側継手部材の熱処理後に、セレーションを形成することも記載されている。しかし、この場合には、超硬工具鋼に特殊なコーティングを施したハードブローチやワイヤカットなどの仕上げ加工が必要となり、このため、新たな設備の導入や加工時間が長いことにより、大幅なコストの増加を招くため問題がある。
【0014】
上記のような問題に鑑み、本発明は、加工時間の増加やコスト増加を抑制しつつ、スプラインの各歯に作用する応力を均一にし、高強度な等速自在継手の内方部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、内方部材のスプライン形成部を一般的なブローチ加工が可能な硬度とし、浸炭焼入焼戻し後のブローチ加工により、真円度が高く、かつ浸炭異常層を除去したスプラインを形成するという新たな着想を行い、本発明に至った。
【0016】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、外周にトルク伝達要素を支承する軌道面が形成され、内周にスプライン部が形成された等速自在継手の内方部材の製造方法であって、前記内方部材を鋼材とし局部的に浸炭を抑制した浸炭焼入焼戻しを施し、前記スプライン部を形成する部分を不完全焼入部とすると共に、当該を除いた表面にスプライン部より炭素濃度の高い焼入部を形成し、前記浸炭焼入焼戻し後に前記スプライン孔部を形成する部分をブローチ加工し、このブローチ加工により前記スプライン部の少なくともスプライン大径の表面を浸炭異常層のない金属組織にすることを特徴とする。
【0017】
上記の構成により、等速自在継手の内方部材のスプライン形成部を一般的なブローチ加工が可能な硬度とし浸炭焼入焼戻し後にブローチ加工することにより、ブローチの寿命向上が図れると共に、新たな設備の導入や長い加工時間によるコストの増加や生産性の低下を抑制することができる。また、本製造方法に基づく内方部材は、真円度の高いピッチ円を有するスプラインが形成され、かつ、歯底部の浸炭異常層が除去されているので、高強度でかつ強度のバラツキの小さな内方部材を実現することができる。同時に、当該内方部材に嵌合されるシャフトの強度を向上させることができる。
【0018】
ここで、一般的なブローチとは、通常の高速度工具鋼(SKH55やSKH51)や、これに相当する鋼材(モリブデン系高速度工具鋼)を熱処理しHRC63以上に焼入焼戻し後、仕上げ加工したブローチを意味する。
【0019】
具体的には、上記のスプライン大径の表面硬さをHv230以上でHv390以下とすることが好ましい。さらに好ましくはHv260以上でHv340以下とする。表面硬さがHv390を越えると、ブローチの寿命が著しく低下すると共にトラニオンの強度も低下する。一方、表面硬さがHv230未満では、スプラインの強度の低下を招き、また、浸炭作業面では、浸炭の拡散を完全に防止する必要が生じ、大掛かりな治工具が必要となり、生産性の低下とコストの増加を招き、好ましくない。表面硬さの測定部位は、スプライン軸方向中央の円周方向断面の大径表面から0.2mmである。
【0020】
上記の内方部材をクロム鋼とすることが好ましい。クロム鋼の方が、クロムモリブデン鋼より内周部の硬度が低下するためブローチの寿命が向上する。また、モリブデンを添加しない低コストのクロム鋼でも高強度になることが判明した。
【0021】
上記の内方部材がトリポード部材であることを特徴とする。トリポード部材は、ボス部から3本の脚軸が放射状に突出した形状であるので、周方向での肉厚の変化が大きく、熱処理変形が大きい。したがって、トリポード部材に適用するとより効果が大きい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、等速自在継手の内方部材のスプライン孔部が真円度の高いピッチ円に形成され、かつ、歯底部の浸炭異常層が除去されることにより、高強度でかつ強度のバラツキの小さな内方部材を実現することができる。また、本発明の製造方法によれば、ブローチの寿命向上が図れると共に、新たな設備の導入や長い加工時間によるコストの増加や生産性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に基づく内方部材としてのトリポード部材を組込んだ等速自在継手の縦断面図である。
図2】上記のトリポード部材を拡大して示した正面図である。
図3】本発明の製造方法についての実施形態におけるトリポード部材の製造工程を示す図である。
図4】旋削工程後のトリポード部材を示す縦断面図である。
図5】熱処理工程を示す概況図である。
図6】熱処理後のトリポード部材を示す図である。
図7】ブローチ加工のトリポード部材を示す縦断面図である。
図8本発明の実施形態に基づくトリポード部材を示す図である。
図9】本発明の実施形態に基づく内方部材としての内側継手部材を組込んだ等速自在継手の縦断面図である。
図10】上記の等速自在継手の側面図である。
図11】上記の内側継手部材を拡大して示した正面図である。
図12本発明の実施形態に基づく内側継手部材を示す図である。
図13】実施形態の内方部材を組込んだドライブシャフトを示す縦断面図である。
図14】従来のトリポード部材を組込んだ等速自在継手の縦断面図である。
図15】上記のトリポード部材を拡大して示した正面図である。
図16】上記のトリポード部材の製造工程を示す図である。
図17】従来の内側継手部材を組込んだ等速自在継手の縦断面図である。
図18】上記の等速自在継手の側面図である。
図19】上記の内側継手部材を拡大した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
本発明の実施形態に基づく等速自在継手の内方部材を図1および図2に示す。この等速自在継手は摺動式トリポード型等速自在継手である。トリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2、内方部材としてのトリポード部材3、トルク伝達要素としての転動体5および球面ローラ4を主な構成とする。外側継手部材2の内周部に3本のトラック溝6が軸方向に形成され、各トラック溝6の両側にそれぞれローラ案内面7が軸方向に形成されている。トリポード部材3は、そのボス部3aより3本の脚軸3bが放射状に形成されている。脚軸3bに多数の転動体5を介して球面ローラ4が嵌合され、転動体の両端にワッシャ9、10を介在させ、ワッシャ9は止め輪8により位置決めされている。脚軸3bの外径面は転動体5の内側軌道面を形成し、球面ローラ4の内径面は転動体5の外側軌道面を形成している。転動体5の列が脚軸3b上で案内されると共に、球面ローラ4は、転動体5上で回転自在で、かつ脚軸3bの軸線方向に移動可能となっている。また、球面ローラ4は、外側継手部材2のローラ案内面7に回転自在に収容されている。このような構造により、外側継手部材2とトリポード部材3との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収され、回転が等速で伝達される。
【0028】
トリポード部材3のボス部3aの内周面12にスプライン13が形成され、このスプライン13とシャフト11のスプライン14が嵌合され、トルク伝達可能に連結されている。
【0029】
図2にトリポード部材3の正面図を拡大して示す。トリポード部材3は、ボス部3aから3本の脚軸3bが放射状に突出し、転動体5の内側軌道面となる脚軸3bの外径面15は、例えば、研削加工により仕上げられている。ボス部3aの内周面12にスプライン13が形成されている。図示のように、本実施形態のトラニオン部材3のスプライン13は、熱処理変形がなく、肉厚の厚い脚軸形成部位Dと肉厚の薄い円筒状部位Cの全周にわたって真円度の高いピッチ円Pで形成されている。したがって、このスプライン13にシャフト11のスプライン14を嵌合してトルクを伝達するとき、各スプライン13、14の各歯に作用する応力は可及的に均一になる。このトラニオン部材3は、後述する局部的に浸炭を抑制した浸炭焼入焼戻しが施されており、スプライン13が形成された部位13sは不完全焼入部で形成され、このスプライン13が形成された部位13sを除いた表面は焼入部となっている。以下、スプライン13が形成された部位13sをスプライン形成部13sと略称する。本実施形態のトラニオン部材3のスプライン13において、熱処理変形がなく、真円度の高いピッチ円Pで形成される理由は、スプライン形成部13sを、一般的なブローチ加工が可能な硬度を有する不完全焼入部としているので、浸炭焼入焼戻し後に、ブローチ加工によりスプライン13を形成することができるからである。すなわち、前述した従来技術のようなスプラインの熱処理変形の問題は生じない。
【0030】
また、ブローチ加工により浸炭異常層が除去されるので、トリポード部材3の破壊の起点となるスプライン13の歯底(大径)の表面が浸炭異常層のない金属組織となる。したがって、トリポード部材3の疲労強度が向上し、同時に、トリポード部材3に嵌合されるシャフト11の強度を向上させることができる。
【0031】
次に、前述したトリポード部材3を得るための本発明の製造方法についての実施形態について図3〜7に基づいて説明する。図3にトリポード部材3の製造工程の概要を示す。トリポード部材3は、図示のようにバー材切断工程S1、球状化焼なまし工程S2、ボンデ処理工程S3、冷間鍛造工程S4、旋削加工工程S5、熱処理工程S6、ブローチ加工工程S7、研削加工工程S8を経て製作される。本実施形態の製造工程は、従来の製造工程(図16参照)を比較すると、熱処理工程S6の内容と製造工程の順序として熱処理後にスプラインのブローチ加工工程S7を施すところが異なる。
【0032】
各工程の概要を説明する。各工程は、代表的な例を示すものであって、必要に応じて適宜変更や追加を行うことができる。
【0033】
[バー材切断工程S1]
鍛造重量に基づいて所定長さで切断し、ビレットを製作する。
【0034】
[球状化焼なまし工程S2]
冷間鍛造において通常行われるもので、球状化焼なましを施すことにより、冷間鍛造の際の材料流動性(変形能)を向上させる。球状化焼なましの処理時間を短縮するために、ビレットを据え込み加工し、加工ひずみを与える場合がある。
【0035】
[ボンデ処理工程S3]
鍛造金型の寿命向上や鍛造性を向上するために、ビレットに潤滑性を高めるボンデ処理を施す。
【0036】
[冷間鍛造工程S4]
鍛造金型のキャビティ内にビレットを投入し、ビレットを塑性加工により金型に充足させる。これにより、ボス部とボス部内周面並びに脚軸が形成されたトリポード部材の冷間鍛造品が得られる。
【0037】
[旋削加工工程S5]
冷間鍛造品から脚軸の外径面、止め輪溝、根元部、端面、内周面および面取り部を機械加工する。
【0038】
[熱処理工程S5]
等速自在継手の内方部材は、強度を要求されることから、浸炭焼入焼戻しを施して硬度を高める。本実施形態では、局部的に浸炭を抑制した浸炭焼入焼戻しにより、スプライン形成部を一般的なブローチ加工が可能な硬度を有する不完全焼入部とし、このスプライン形成部を除いた表面は焼入部を形成させる。
【0039】
[ブローチ加工工程S7]
熱処理完了品の内周面にブローチ加工してスプラインを形成する。
【0040】
[研削加工工程S8]
転動体の軌道面となる脚軸の外径面を研削加工で仕上げる。
【0041】
本製造工程の内、バー材切断工程S1〜旋削加工工程S5および研削加工工程S8は、従来と同じである。
【0042】
本実施形態では、図4に示すスプライン加工前のトリポード部材3の旋削完了品3’を熱処理工程S6に投入する。旋削完了品3’は、具体的には、旋削加工工程S5において、冷間鍛造品(図示省略)から脚軸3b’の外径面15、止め輪溝16、根元部17、端面18、内周面12および面取り部19が旋削加工されている。
【0043】
次に、熱処理工程S6を図5および図6に基づいて説明する。熱処理として浸炭処理を施す。トリポード部材3の内周のスプライン形成部13sの硬度を局部的に低下させて、一般的なブローチ加工が可能な硬度を有する不完全焼入部を得るために、スプライン形成部13sへの浸炭を抑制する。局部的に浸炭を抑制するには、例えば、浸炭炉に処理品(旋削完了品3’)を投入する際に、処理品の内周の径に近い径の浸炭抑制棒に串刺しにし、炭素の侵入を抑制することにより得ることができる。
【0044】
局部的に浸炭を抑制した浸炭焼入焼戻しの具体例を図5に基づいて説明する。図示のように、トリポード部材3の旋削完了品3’を二点鎖線で示す部分を含めて多数(例えば、十数個)積み重ねて浸炭抑制棒20に串刺し状態にし、この浸炭抑制棒20を多数(例えば、十数本)のセットにし、二点鎖線で図示した平網21に固定し、この平網21を適宜段数(例えば、3段)重ねて、その状態で浸炭焼入焼戻しする。浸炭抑制棒20は、耐熱性のステンレス鋼製が好ましく、浸炭抑制棒20は、旋削完了品3’の串刺し作業性も考慮して、内周面の径より若干小さい外径に設定する。図5では、旋削完了品3’の内周面と浸炭抑制棒20の外径面との嵌合すきまを省略して図示している。
【0045】
浸炭処理の条件は、浸炭・拡散が950℃で180〜200分で、浸炭・拡散の後、840℃で20〜30分の加熱保持し、その後、100〜120℃の油に焼入れし、焼戻しは150〜180℃で120分の条件が好ましい。当然、処理品のサイズ等が異なれば、適宜処理条件を変える。
【0046】
上記の状態で浸炭焼入焼戻しすると、旋削完了品3’の内周面12は、その径に近い外径の浸炭抑制棒20が嵌合されているので、炭素の侵入を抑制することができる。ただし、旋削完了品3’のボス部3a’の両端面18は、内周面12の軸方向中央部スプライン部より炭素が侵入しやすいため硬度が増加する。
【0047】
図6に浸炭焼入焼戻し後のトリポード部材3’の状態を示す。図6(a)はトリポード部材3’の部分的な縦断面を示し、図6(b)は、図6(a)のG部の金属組織を示す。図6(a)に示すように、トリポード部材3の熱処理完了品3’の内周のスプライン形成部13sを除いた表面、すなわち、クロスハッチングを施した表面にスプライン部より炭素濃度の高い焼入部Hが形成されている。焼入部Hは、脚軸3b’の外径面15、止め輪溝16、根元部17、ボス部3a’の外表面および端面18に形成され、焼入部Hは面取り部19の手前で留まっている。浸炭は拡散現象のため、焼入部Hと面取り部19の境部では、炭素濃度は連続的に変化するものである(急激に変化するものではない)。焼入部Hの表面硬さは、Hv660〜750程度である。表面硬さの測定部位は、ボス部については軸方向中央部で表面から0.2mmであり、脚軸部ついては軌道面の表面から0.2mmである。一方、トリポード部材3の熱処理完了品3’の内周のスプライン形成部13sは、炭素の侵入が抑制され、冷却速度も遅くなるため不完全焼入部Jが形成されている。この不完全焼入部Jは、スプライン形成部13sの内周面12から半径方向にはスプラインの大径(図7参照)を越えて形成されている。
【0048】
内周のスプライン形成部13sの金属組織を図6(b)に示す。内周面12から厚さIの部分が浸炭異常層である。浸炭異常層の厚さIは、浸炭時間が長くなるほど厚くなるが、本実施形態のトリポード部材では10〜25μm程度である。SCM420材、SCr420材などの浸炭用鋼を浸炭焼入焼戻しした場合、表層部に浸炭異常層という軟質の組織が形成される。浸炭異常層とは、鋼中の鉄よりも酸化されやすい珪素(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)などの合金元素が浸炭中、オーステナイト粒界で優先酸化した粒界酸化物と、この粒界酸化物生成により固溶合金元素が低下して焼入れ中に生じる不完全焼入層とからなり、これを本明細書および特許請求の範囲において浸炭異常層という。
【0049】
図7にブローチ加工工程S7を経たトリポード部材3を示す。内周のスプライン形成部13sは、不完全焼入部Jが形成されており、一般的なブローチ加工が適用可能な硬度になっている。具体的には、スプライン13の大径の表面硬さをHv230以上でHv390以下とすることが好ましい。さらに好ましくはHv260以上でHv340以下としている。スプライン13の大径の表面硬さがHv390を越えると、ブローチの寿命が著しく低下すると共にブローチの強度も低下する。一方、表面硬さがHv230未満では、スプライン13の強度の低下を招き、また、浸炭作業面では、浸炭の拡散を完全に防止する必要が生じるので、大掛かりな治工具が必要となり、生産性の低下とコストの増加を招く。表面硬さの測定部位は、スプライン軸方向中央の円周方向断面の大径表面から0.2mmである。スプライン形成部13sをブローチ加工が可能な硬度とし浸炭後にブローチ加工することにより、真円度の高いピッチ円P(図2参照)を有するスプラインを形成することができる。これにより、シャフト11のスプライン14(図1参照)と嵌合してトルクを伝達するとき、スプライン13、14各歯の応力が均一になり、その結果、スプライン13、14への作用応力を低下させることができる。
【0050】
また、前述したように、浸炭異常層の厚さIは10〜25μm程度であるので、スプライン13のブローチ加工により、トリポード部材3の破壊の起点となるスプライン13の歯底(大径)の表面の浸炭異常層は除去され、少なくともスプライン大径の表面は浸炭異常層のない金属組織となっている。したがって、高強度でかつ強度のバラツキの小さなトリポード部材3を実現することができる。同時に、当該トリポード部材3に嵌合されるシャフト11の強度を向上させることができる。なお、ブローチ加工の際、トリポード部材3の内周面12は切削しないので、内周面12には浸炭異常層は残存するが、トルク負荷時の破壊の起点となる部位ではないので、問題は生じない。
【0051】
次に、本発明の実施形態に基づくトリポード型等速自在継手のトリポード部材を図8に基づいて説明する。図8(a)は、トリポード部材の部分的な縦断面図であり、図8(b)はトリポード部材の正面図である。このトリポード部材3は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手に組込まれるものである。前述した実施形態に基づくトリポード型等速自在継手と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0052】
本実施形態のトリポード部材3には、図8(a)に二点鎖線で示すようにダブルローラタイプのローラカセット22が装着される。トルク伝達要素としてのローラカセット22は、外側ローラ4、内側リング23および転動体5から構成され、外側ローラ4にワッシャ24を装着して一体ユニットとしている。トリポード部材3の脚軸3bの横断面が略楕円形状に形成されており、この脚軸3bにローラカセット22の内側リング23が首振り自在に装着されている。本実施形態では、脚軸3bの外径面15は、トルク伝達要素としての内側リング23の内径面と嵌合し転がり運動を含んだ支承形態となっており、この外径面15を本明細書および特許請求の範囲において軌道面という。外側ローラ4は、外側継手部材のローラ案内面(図示省略)に回転自在に収容される。このダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手は、外側ローラ4が外側継手部材のローラ案内面に平行に案内されるので、軸方向の誘起スラストやスライド抵抗を低減し低振動を実現する。
【0053】
本実施形態のトリポード部材3においても、スプライン形成部13sは不完全焼入部Jで形成され、少なくともスプライン13の大径の表面を浸炭異常層のない金属組織となっており、スプライン形成部13sを除いた表面はスプライン部より炭素濃度の高い焼入部(図示省略)となっている。そして、浸炭焼入焼戻し後のブローチ加工により、トラニオン部材3のスプライン13は熱処理変形がなく、真円度の高いピッチ円で形成され、このスプライン13にシャフトのスプラインを嵌合しトルクを伝達するとき、各スプラインの応力は可及的に均一になる。また、ブローチ加工により浸炭異常層が除去されるので、トリポード部材3の疲労強度が向上し、同時に、トリポード部材3に嵌合されるシャフトの強度を向上させることができる。その他、製造工程や、内周面12に形成されたスプライン13およびスプライン形成部13sの金属組織、寸法精度、強度特性などの詳細については、前述した実施形態に基づくトリポード型等速自在継手と同様であるので、重複説明を省略する。
【0054】
本発明の実施形態に基づく等速自在継手の内方部材について図9〜11に基づいて説明する。図9および図10に示す等速自在継手は、固定式等速自在継手の一種であるツェッパ型等速自在継手である。この等速自在継手31は、外側継手部材32、内方部材としての内側継手部材33、トルク伝達要素としてのボール34およびケージ35を主な構成とする。外側継手部材32の球状内周面38には6本のトラック溝36が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材33の球状外周面39には、外側継手部材32のトラック溝36と対向するトラック溝37が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材32のトラック溝36と内側継手部材33のトラック溝37との間にトルクを伝達する6個のボール34が介在されている。トラック溝36、37がボール34の軌道面を形成する。外側継手部材32の球状内周面38と内側継手部材33の球状外周面39の間に、ボール34を保持するケージ35が配置されている。内側継手部材33の内周面45にはスプライン46が形成され、このスプライン46にシャフト42のスプライン47が嵌合され、止め輪44により軸方向に固定されている。
外側継手部材32の外周と、内側継手部材33にスプライン連結されたシャフト42の外
周とをブーツ43で覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている。
【0055】
図9に示すように、外側継手部材32の球状内周面38と内側継手部材33の球状外周面39の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。また、保持器35の球状外周面40および球状内周面41の曲率中心も継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材32のトラック溝36の曲率中心Aと、内側継手部材33のトラック溝37の曲率中心Bとは、継手の中心Oに対して軸方向に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材32と内側継手部材33の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール34が常に案内され、二軸間で等速に回転が伝達されることになる。
【0056】
図11に内側継手部材33を拡大した正面図を示す。内側継手部材33も、前述した第1の実施形態のトリポード部材とほぼ同様の工程を経て製作される。内側継手部材33は、トラック溝形成部位Eと球状外周面形成部位Fからなり、肉厚が周方向で変化する。この内側継手部材33においても、スプライン形成部46sは不完全焼入部で形成され、少なくともスプライン46の大径の表面は浸炭異常層のない金属組織となっており、スプライン形成部46sを除いた表面はスプライン部より炭素濃度の高い焼入部となっている。
【0057】
内側継手部材33のスプライン46は、熱処理変形がなく、肉厚の厚い球状外周面形成部位Fと肉厚の薄いトラック溝形成部位Eの全周にわたって真円度の高いピッチ円Pで形成され、このスプライン46にシャフト42のスプライン47を嵌合しトルクを伝達するとき、各スプライン46、47の応力は可及的に均一になる。また、ブローチ加工により浸炭異常層が除去されるので、内側継手部材33の疲労強度が向上し、同時に、内側継手部材33に嵌合されるシャフト42の強度を向上させることができる。その他、製造工程や、内周面45に形成されたスプライン46およびスプライン形成部46sの金属組織、寸法精度、強度特性などの詳細については、前述した実施形態に基づくトリポード型等速自在継手と同様であるので、重複説明を省略する。
【0058】
本発明の実施形態に基づく等速自在継手の内方部材を図12に基づいて説明する。図12(a)は内方部材としての内側継手部材の縦断面図であり、図12(b)は、図12(a)の軸方向中央部での横断面図である。この内側継手部材33は、摺動式等速自在継手の一種であるダブルオフセット型等速自在継手の内側継手部材である。この内側継手部材33の球状外周面39には直線状のトラック溝37が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。トラック溝37がボールの軌道面を形成する。この内側継手部材33も、前述した第1の実施形態のトリポード部材とほぼ同様の工程を経て製作される。内側継手部材33は、トラック溝形成部位Eと球状外周面形成部位Fからなり、肉厚が周方向で変化する。
【0059】
この内側継手部材33においても、スプライン形成部46sは不完全焼入部Jで形成さ
れ、少なくともスプライン46の大径の表面は浸炭異常層のない金属組織となっており、
スプライン形成部46sを除いた表面はスプライン部より炭素濃度の高い焼入部(図示省
略)となっている。そして、浸炭焼入焼戻し後のブローチ加工により、内側継手部材33
のスプライン46は熱処理変形がなく、真円度の高いピッチ円で形成され、このスプライ
ン46にシャフトのスプラインを嵌合しトルクを伝達するとき、各スプラインの応力は可
及的に均一になる。また、ブローチ加工により浸炭異常層が除去されるので、内側継手部
材33の疲労強度が向上し、同時に、内側継手部材33に嵌合されるシャフトの強度を向
上させることができる。その他、製造工程や、内周面45に形成されたスプライン46お
よびスプライン形成部46sの金属組織、寸法精度、強度特性などの詳細については、前述した実施形態に基づくトリポード型等速自在継手と同様であるので、重複説明を省略する。
【0060】
図13、実施形態に基づく内側継手部材を組込んだ固定式のツェッパ型等速自在継手
31と実施形態に基づくトリポード部材を組み込んだ摺動式のトリポード型等速自在継手
1を適用した自動車のフロント用ドライブシャフト50を示す。ツェッパ型等速自在継手
31の内側継手部材33は中空シャフト51の一端にスプライン連結され、他端にはトリ
ポード型等速自在継手1のトリポード部材3がスプライン連結されている。ツェッパ型等
速自在継手31の外周面と中空シャフト51の外周面との間、およびトリポード型等速自
在継手1の外周面とシャフト51の外周面との間に、それぞれ蛇腹状ブーツ43、52が
ブーツバンド53a、53b、53c、53dにより締付け固定されている。継手内部に
は、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0061】
内側継手部材33およびトリポード部材3のスプラインは熱処理変形がなく、真円度の高いピッチ円で形成されているので、前述したように嵌合する中空シャフトのスプラインとの間の応力は可及的に均一になる。また、ブローチ加工により浸炭異常層が除去されるので、内側継手部材33の疲労強度が向上し、同時に、内側継手部材33に嵌合される中空シャフト51の強度を向上させることができる。これにより、高強度の自動車用ドライブシャフト50を実現することができる。
【0062】
さらに、前述した製造方法についての実施形態の変形例として、ブローチの寿命がより向上する加工工程を種々検討した結果、クロム鋼(SCr415)のバー材を切断、球状化焼なまし、ボンデ処理、冷間鍛造、荒旋削、熱処理、内周部仕上げ旋削、ブローチ加工、脚軸部研削という工程であることが分かった。
【0063】
熱処理後の内周部仕上げ旋削は、ボス部の両端、すなわち、スプラインの軸方向の両端面と内周部仕上げ旋削する。これは、ボス部の両端面は、内周部の軸方向中央部より炭素が侵入しやすく、表面硬さが増加することに対処するためである。また、内周部は、浸炭焼入焼戻し後、真円度が悪化する。この変形を残した状態でブローチ加工するとブローチの歯の寿命が低下する。したがって、仕上げ旋削で硬化部の除去と内周部の真円度の向上により、ブローチの寿命がより向上することが分かった。本発明の製造方法についての実施形態は、図3に示す熱処理工程S6とブローチ加工工程S7との間に、上記のような内周面仕上げ旋削加工工程を追加したものも当然含むものである。
【0064】
本発明の製造方法についての実施形態によれば、ブローチ加工は、通常の高速度工具鋼(SKH55やSKH51)や、これに相当する鋼材(モリブデン系高速度工具鋼)を熱処理しHRC63以上に焼入焼戻し後、仕上げ加工した一般的なブローチで加工することができる。
【実施例】
【0065】
本発明の実施例および比較例を以下に説明する。本発明の実施形態に基づくトリポード部材3を実施例1は、クロムモリブデン鋼(SCM420)のバー材を、実施形態の製造工程である切断、球状化焼なまし、ボンデ処理、冷間鍛造、旋削、浸炭焼入焼戻し、ブローチ加工、脚軸の研削を行って製作した。スプラインはJIS B 1603の平底スプラインで、主要諸元は、ダイヤメトラルピッチ:32/64、圧力角:37.5°、歯数:30、大径:25.034mm、小径:23.19mm、ピッチ円直径(PCD):23.813mmとした。熱処理条件としては、トリポード部材の旋削完了品を浸炭抑制棒に積み重ねて串刺し状態にし、950℃で200分の浸炭・拡散の後、840℃で23分の加熱保持後、110℃の油に焼入れた。その後、160℃で120分の焼戻しを行った。
【0066】
実施例2は、クロム鋼(SCr420)のバー材を用いて、実施例1と同じ製造工程で製作した。平底スプラインの諸元および熱処理条件は、実施例1と同じである。
【0067】
実施例3は、実施例2のJIS B 1603の平底スプラインを丸底スプラインに変更した点のみが異なる。
【0068】
比較例1は、クロムモリブデン鋼(SCM420)のバー材を、従来の製造工程である切断、球状化焼なまし、ボンデ処理、冷間鍛造、旋削、ブローチ加工、浸炭焼入焼戻し、脚軸の研削を行って製作した。熱処理条件は、通常の浸炭焼入焼戻しで、実施例1と同じ温度条件および時間条件とした。スプライン歯の形状および諸元は、実施例1および実施例2と同じである。
【0069】
実施例と比較例の特性と疲労試験結果を表1に示す。ただし、疲労試験は、自動車規格(JASO C 304−89:自動車の駆動軸用等速ジョイント 1989年3月31日制定 社団法人 自動車技術会 発行)の3ページの表3中の等速ジョイントの呼び22.2のジョイントに作動角0°の状態で1504Nmの荷重を負荷して実施した。表1の表面硬さの測定部位は、歯面部については軸方向中央部で表面から0.2mmであり、脚軸部ついては軌道面の表面から0.2mmである。
【表1】
【0070】
疲労試験結果より、比較例1の破断回数L50(50%破壊確率寿命)を基準として、実施例1〜3は大幅に疲労寿命が向上している。モリブデン(Mo)を添加しない低コストのクロム鋼(SCr420)を用いた実施例2でも高強度になることが分かった。また、クロムモリブデン鋼(SCM420)を用いた実施例1よりクロム鋼(SCr420)を用いた実施例2の方が歯面部の硬さが低下するためブローチの寿命が向上することが分かった。
【0071】
実施例3の疲労試験結果より、スプライン歯の形状変更の効果として、平底スプラインよりも丸底スプラインの方が若干疲労強度で有利と考えられる。
【0072】
次に、実施例1と比較例1を中空シャフトにスプライン嵌合させた組付け状態での疲労強度を評価するために疲労試験を実施した。中空シャフトは、SAE15B35材の鋼管を用いて、塑性加工と機械加工を行い、高周波焼入れにより硬化させ中空シャフトを製作した。中空シャフトのスプラインの主要諸元は、ダイヤメトラルピッチ:32/64、圧力角:37.5°、歯数:30、大径:24.613mm、小径:22.535mm、ピッチ円直径(PCD):23.813mmとした。スプライン形成部における中空シャフトの内径は10.8mmとした。
【0073】
実施例1のトリポード部材と比較例1のトリポード部材を中空シャフトにスプライン嵌合させた中空シャフト組付け体AおよびBの疲労試験結果を表2に示す。疲労試験の荷重は、表1の場合と同じであるが、両振り捩り疲労試験を行った。
【表2】
【0074】
疲労試験の結果、比較例1のトリポード部材を組付けた中空シャフト組付け体Bの破断回数L50を基準として、実施例1のトリポード部材を組付けた中空シャフト組付け体Aの疲労強度は大幅に向上することが分かった。また、破断部位はいずれも中空シャフトのスプライン部であった。
【0075】
以上の実施形態では、固定式等速自在継手としてツェッパ型等速自在継手、摺動式等
速自在継手としてダブルオフセット型等速自在継手およびトリポード型等速自在継手の内
方部材を示したが、これに限定されるものではない。上記の他に、固定式等速自在継手と
して、アンダーカットフリー型等速自在継手、カウンタートラック形式の等速自在継手や
、摺動式等速自在継手として、クロスグルーブ型等速自在継手、保持器のないデルタ型等
速自在継手の内方部材でも適宜実施することができる。また、ボールの個数は6個のもの
を示したが、これに限定されるものではなく、3〜5個、8個や10個以上でも実施する
ことができる。
【0076】
また、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0077】
1 トリポード型等速自在継手
2 外側継手部材
3 トリポード部材
4 球面ローラ(トルク伝達要素)
5 転動体(トルク伝達要素)
6 トラック溝
7 ローラ案内面
11 シャフト
12 内周面
13 スプライン
13s スプライン形成部
15 外径面(軌道面)
31 ツェッパ型等速自在継手
32 外側継手部材
33 内側継手部材
34 ボール(トルク伝達要素)
35 保持器
36 トラック溝(軌道面)
37 トラック溝(軌道面)
42 シャフト
A 曲率中心
B 曲率中心
C 円筒状部位
D 脚軸形成部位
E トラック溝形成部位
H 焼入部
J 不完全焼入部
O 継手の中心
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図6