(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本件発明に係る内燃機関用ピストン構造の好ましい実施の形態について、以下に図を用いて示しながらより詳細に説明する。
【0016】
まず、ピストン動作中における異音発生現象について説明しておく。
【0017】
図1は、内燃機関用ピストン構造における異音発生現象を説明するための要部断面図である。なお、
図1(a)は、
図1のaで示した部分の要部拡大図である。
図1に示す内燃機関用ピストン構造は、ピストン頂部側から順に、トップリング2、セカンドリング3、そして3ピース型オイルリング4が装着されたものであり、ピストン7に装着されたこれらピストンリングがシリンダ8の内壁面に対して摺接した状態で往復動作(図中矢印方向)を繰り返す。3ピース型オイルリング4を用いた場合、ピストン7の往復動作中に発生する異音は、
図1(a)に示すように、3ピース型オイルリング4がシリンダ8との摺動動作中にサイドレール6が振動を発生し、シリンダ8を振動させる事によるものである。時期としては、圧縮行程の上死点近傍から作用行程前半に発生するものである。これ以外の行程(排気行程、吸気行程)では、サイドレール6の振動は全く発生しない。スティックリップ要因のみで振動するならば排気〜吸気行程でも異音が発生するはずであるが、これらの行程では異音が発生しないため、ガス圧作用の影響が大きな要因として挙げられる。
【0018】
図2は、シリンダ内におけるピストン動作中のピストンリングそれぞれの動きとブローバイガスの流れとを説明するために例示した図である。
図2に、ブローバイガスの流れを示したのは、当該サイドレール6の振動する主な要因について、ピストン7の頂部側からのブローバイガスの影響が主に考えられるからである。以下に、
図2(A)から
図2(C)までを順次説明していく。
【0019】
図2(A)は、アイドリング状態の圧縮行程において、シリンダ筒内圧力が負圧の状態でピストン上昇時を示している。
図2(A)において、トップリング2は、上面側に負圧が作用しているので上面着座である。また、セカンドリング3も、若干ながら負圧が作用しており上面着座である。そして、
図2(A)に示す状態は、まだ負圧作用時であるため、ブローバイガスの流れは燃焼室方向(図中矢印方向)である。
【0020】
次に、
図2(B)は、圧縮行程において上死点近傍でシリンダ筒内圧力(
図1に示すP1)が正圧に移行した直後の状態を示している。シリンダ筒内圧力において正圧が作用することで、トップリング2は押し上げられて下面側へ移動するが、この際にトップリング合口のみならず上下面をブローバイガスが流れることになる。トップリング2が下面着座で正圧を迎える場合、ブローバイガスは、トップリング合口で構成される漏れ通路からの量であるが、上下面も含めた漏れ通路からは多くのガスがセカンドランドへ流れ込むことになる。これによるセカンドランド圧力(
図1においてピストン7のトップリング2とセカンドリング3との間のセカンドランド部とシリンダ8との間の空間P2の圧力)の上昇によって、セカンドリング3は、下面着座へ移行する。
【0021】
次に、
図2(C)は、
図2(B)においてセカンドリング3が下面着座へ移行した直後の状態を示す。
図2(C)において、トップリング2上下面からのブローバイガス流入によってセカンドランド圧力が上昇するが、トップリング2の下面着座が不十分な場合には、セカンドランド圧力がシリンダ筒内圧力に近い値まで上昇する。また、慣性力が上向きに作用しているので、トップリング2は、下面着座を確実に出来ず不安定な姿勢となり、セカンドランド圧力が急激に上昇し、セカンドリング3合口から下方へ流れるブローバイガス量が増加する。そのため、ブローバイガスがオイルリング周りまで流れ込むが、サードランド圧力(
図1においてピストン7のセカンドリング3とオイルリングの間のサードランド部とシリンダ8との間の空間P3の圧力)の上昇も伴うため、サイドレール6が強く押し下げられる。サイドレール6上面を流れるブローバイガスの量及び圧力が非振動限界を超えると、サイドレール6は振動を発生する。これによって、異音が発生すると考える。
【0022】
上述の
図2(a)〜
図2(c)に関する説明より、ピストン7の往復運動の際に異音が発生するのを防止するためには、ピストン7の頂部側からのブローバイガスを極力ピストン7のトップリング2とセカンドリング3との間のセカンドランドの空間のガス圧上昇を抑え、速やかに流すことが重要である。ピストン動作時における異音発生の原因は、上述したように、セカンドランド部とシリンダ8との間の空間の圧力上昇により、オイルリング4がオイルリング溝7c下部へ押し下げられ、サイドレール6が振動するスペースが生じることに起因するものである。
【0023】
以上、ピストン動作中における異音発生現象について説明してきたが、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造は、所定の条件を満たすことで、オイルリングのオイルシール性能を維持しつつ、ピストン動作中における異音の発生を抑止することが出来る。
【0024】
本件発明に係る内燃機関用ピストン構造:
図3は、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造を説明するための要部断面図である。本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1は、ピストン頂部側から順に、トップリング2、セカンドリング3、そして3ピース型オイルリング4が装着される。そして、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1において、当該内燃機関用ピストン7の当該トップリングが装着される溝7aと当該セカンドリングが装着される溝7bとの間に形成されるセカンドランド部の外径をA
mmとし、当該内燃機関用ピストン7が装着されるシリンダ8の内径をB
mmとし、当該トップリングが装着される溝7aの下面と当該セカンドリングが装着される溝7bの上面との間のピストン軸に沿った長さをC
mmとした場合に、
シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積である{(B/2)
2−(A/2)
2}×π×C/B
が2.4〜3.7の条件を満たすことを特徴とするものである。
【0025】
本件発明の条件{(B/2)
2−(A/2)
2}×π×C/Bが2.4未満の場合には、当該セカンドランドの空間において、ガス圧が上昇してしまうため、異音が発生する場合がある。また、本件発明の条件{(B/2)
2−(A/2)
2}×π×C/Bが3.7を超える場合には、オイルリング4のオイルシール性能を維持することが出来ず、オイル消費が増加するため好ましくない。
【0026】
また、
図4は、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造を例示した図である。本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1においては、シリンダ内径1mmあたりの当該セカンドランド部とシリンダ8との間の空間の容積(
図3及び
図4参照のこと。)を適切な範囲に設定することで、ブローバイガス量を抑制しながらも、当該セカンドランド部とシリンダ8との間の空間のガス圧上昇を抑え、速やかにブローバイガスを流すことが可能となる。
【0027】
また、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1は、セカンドリング3の合口隙間Xとトップリング2の合口隙間Yとの比X/Yが、2.5〜4であ
る。
【0028】
図4(b)には、
図4においてbで囲まれた箇所(トップリング2をトップリング溝7aへ装着した状態での合口隙間Y部分)の拡大図が示されている。また、
図4(c)には、
図4においてcで囲まれた箇所(セカンドリング3をセカンドリング溝7bへ装着した状態での合口隙間X部分)の拡大図が示されている。本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1は、上述の条件と併せて、セカンドリング3の合口隙間Xとトップリング2の合口隙間Yとの比X/Yが2.5〜4となる条件を満足することで、セカンドランド部とシリンダ8との間の空間の圧力P2(
図1参照のこと。)の変化を軽減させる効果を得ることが出来る。
【0029】
なお、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1において、セカンドリング3の合口隙間Xとトップリング2の合口隙間Yとの比X/Yが、2.5未満の場合には、ガスが当該セカンドランド部とシリンダ8との間の空間にガスが溜まりやすくなり、圧力が高い状態となる。また、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1において、セカンドリング3の合口隙間Xとトップリング2の合口隙間Yとの比X/Yが、4を超える場合には、オイルシール性能が維持出来ず、オイル消費が増加するため好ましくない。
【0030】
図5は、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造において用いられるオイルリングのピストンへの装着状態を説明するために示したシリンダ軸を含む平面で切断した断面図である。本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1において、用いる3ピース型オイルリング4は、上下一対のサイドレール6,6と当該サイドレール6,6をシリンダ8の内周面8aに押圧するスペーサエキスパンダ5とからなるものである。また、当該スペーサエキスパンダ5は、当該サイドレール6,6の内周縁部に当接して当該サイドレール6,6を半径方向外周側に押圧するための耳部5bを備える。そして、当該耳部5bは、当該サイドレール6,6との接触面が当該サイドレールを半径方向外周側に押圧するためのオイルリング軸(
図5にはオイルリング軸と平行な軸Oを示す)となす傾斜角Gが15°〜25°の傾斜面を備えることで、サイドレール保持性を向上させ、オイルリング摺動時においてサイドレールの振動によって起こり得る異音を抑制することが出来る。
【0031】
なお、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1において、スペーサエキスパンダ5の耳部5bにおける、当該サイドレールとの接触面が当該サイドレールを半径方向外周側に押圧するためのオイルリング軸となす傾斜角Gが15°未満の場合には、オイルリング溝7cの半径方向の壁面に対するサイドレール6,6の側圧力が十分確保出来ず、オイルリング4のオイルシール性能を低下させてしまう。また、スペーサエキスパンダ5の耳部5bにおける、当該サイドレールとの接触面が当該サイドレールを半径方向外周側に押圧するためのオイルリング軸となす傾斜角Gが25°を超える場合には、オイルコントロール性能が悪化し、オイル消費が増加してしまう。
【0032】
ちなみに、本件発明の3ピース型オイルリング4は、内燃機関用ピストン構造1の異音の発生を抑止する策として、サイドレール6がスペーサエキスパンダ5の突起部分5aと耳部5bの傾斜面とで安定して支持され、サイドレール2とシリンダの内周面5との摩擦力を小さくすることが出来る。
【0033】
また、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1において、
図5に示す如く、3ピース型オイルリング5と当該3ピース型オイルリング5が装着される溝7cとのピストン軸方向におけるサイドクリアランスEが、0.092mm以下であることが好ましい。
【0034】
ここで、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1のオイルリング4と当該オイルリング4を装着する溝7cとのオイルリング軸方向におけるサイドクリアランスE(=W−D−2F)は、サイドレール6がリング溝4内で上下に動くことができる許容量を表している(
図5参照のこと。)。従って、このサイドクリアランスEを0.092mm以下に設定することで、オイルリング4のピストンリング溝7a内における移動範囲を小さくして、サイドレール6の振動を抑制することが可能となる。その結果、ピストン7の往復運動の際に異音が発生するのを防止することが出来るようになる。
【0035】
なお、サイドクリアランスEが0.092mmを超えると、サイドレール6の軸方向の動きが大きくなり過ぎて、当該サイドレール6の振動を抑制することが出来ず、ピストン7動作中の異音の発生を十分に抑制することが出来なくなる。
【0036】
ちなみに、本件発明の3ピース型オイルリング4は、サイドレール6におけるシリンダ内壁面との摺動面がバレル形状であることで、オイルコントロール性を向上させると共に、オイル消費量の増加を抑制することが出来るようになる。なお、ここで言うバレル形状とは、曲面形状を言い、その曲率に関して限定されるものではない。
【0037】
また、
図3に示すように、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1で用いるトップリング2は、外周面形状がバレルフェイス形状であることで、低張力でありながらシリンダ内壁面に対する追従性を向上させることが出来るため好ましい。また、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1で用いるセカンドリング3は、外周面形状がリング軸方向断面における略矩形形状の下面と外周面とで形成される角部を切り欠いてステップ状としたアンダーカット形状にすることで、吸気行程時のピストンの動きにより当該セカンドリング3の外周側が上方に捻れる作用が働き、オイル掻き落とし機能の向上を図ることができる。また、本件発明のセカンドリング3をアンダーカット形状にすることで、シリンダ内壁面に接触する面積を小さくし、燃焼行程時のピストンの動きにより当該セカンドリング3のシリンダ内壁面に対する面圧を高め、オイル上がりを効果的に抑制することが出来る。
【0038】
以上説明してきたように、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造1によれば、オイル消費を増加させずにピストンの動作中の異音の発生を抑止することが出来る。なお、以下にその根拠を実施例により示すが、本件発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
実施例1では、排気量が1500cc(シリンダ径73mm)のエンジンの実機試験を行い、内燃機関用ピストン構造において、本件発明に規定する条件を満たした場合に異音が発生するか否かについての確認を以下に示す方法により行った。具体的には、本件発明に規定する、(1)シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積、(2)セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比、(3)オイルリング耳部傾斜角度、(4)オイルリングのサイドクリアランス、の4つの条件について確認した。なお、エンジンの運転条件は、アイドリング運転状態とした。そして、実施例1では、ピストンに装着するピストンリングの組合せを、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングとした。
【0040】
そして、このときのピストンは、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が2.4mm
3/mmとなるものを用いた。
【0041】
また、トップリングは、シリンダ内壁面との摺動面がバレル形状であり、JIS規格で表されるSWOSC−V材からなり、軸方向幅が1.00mm、径方向幅が2.35mmで、張力が3.20(N)のものに、PVD処理を外周に施したものを用いた。そして、トップリングは、ピストンリング溝へ装着した状態における合口隙間が0.20mmのものを用いた。
【0042】
また、セカンドリングは、シリンダ内壁面との摺動面がテーパー形状で且つ軸方向断面における略矩形形状の下面と外周面とで形成される角部を切り欠いてステップ状としたテーパーアンダーカット形状で、JIS規格で表されるSWRH62B材からなり、軸方向幅が1.00mm、径方向幅が2.30mmで、張力が2.20(N)のものに、亜鉛系リン酸塩被覆を外周に施したものを用いた。また、セカンドリングは、ピストンリング溝へ装着した状態における合口隙間が0.50mmのものを用い、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が2.5となるものを用いた。
【0043】
また、オイルリングは、上下一対のサイドレールと当該サイドレールをシリンダの内周面に押圧するスペーサエキスパンダからなる3ピース型オイルリングであり、サイドレールがJIS規格で表されるSK6材からなり、軸方向幅が0.35mm、径方向幅が1.75mmでPVD処理を外周に施し、スペーサエキスパンダがJIS規格で表されるSUS304材からなり、サイドレールとスペーサエキスパンダとを組み合わせた際の軸方向幅が2.00mm、径方向幅が2.25mmであるものを用いた。また、当該オイルリングは、耳部傾斜角度(オイルリング軸となす傾斜角)が15°であり、サイドクリアランスが0.092mmとなるものを用いた。
【0044】
異音発生確認試験: 本確認試験では、異音の確認を測定器を用いて行う前に、まずは直接耳にて異音の確認を行った。これは、異音は、測定器を用いるよりも耳で直接聴いた方が、その音の大小を明確に確認することが出来るためである。その後、直接耳で聴いて異音を確認出来る最小の音量を基準とし、耳で聴いた結果を定量的に確認するために測定器による測定を行った。この測定器による測定では、再確認できるよう、マイクロホンを用いて録音した音による音量判断と、個人差による評価誤差を減らすため、オシロスコープでの音の波形による視角評価とを行った。このような評価方法を採用することで、分析誤差をなくして高い信頼性での異音確認を行うことが可能となる。また、異音測定を行うにあたって、シリンダに取り付けられるフィラーキャップの上部2.5cmにてマイクロホンを固定設置して測定を行った。
【0045】
ここで、マイクロホンを、アンプを介してデータレコーダの入力端子に接続した。そして、当該データレコーダの出力端子には、フィルタ(nf multifunctionfilter 3611)を介してオシロスコープに接続した。そして、保存された音をオシロスコープに表示した。そして、異音の測定は、エンジンヘッドカバーにおける騒音レベルをマイクロホンで拾い、データレコーダに記録し、解析した。
【0046】
図6は、オシロスコープで表示した異音の波形を例示した図である。
図6に示す波形振幅の大きい範囲が異音の生じた範囲であり、それ以外の範囲が異音の生じない範囲となる。
図6における異音の波形にて、異音の有無を確認した。
【0047】
上述した方法に基づき、実施例1について異音発生の確認を行った結果を以下の表1に示す。表1には、ピストン、セカンドリング及びオイルリングの仕様条件と、異音発生の有無との関係について、当該仕様条件が異なる試料同士を対比可能なように示してある。そして表1より、実施例1は、異音測定を計4回行った結果、全く異音の確認をすることが出来なかった。
【実施例2】
【0048】
実施例2は、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。ピストン及びトップリングは、実施例1で使用したものと同じである。なお、実施例2で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0049】
実施例2は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が2.4mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が4.0、オイルリングの耳部傾斜角度が25°、オイルリングのサイドクリアランスが0.091mmとなるものを用いた。そして表1より、実施例2は、異音測定を計4回行った結果、全く異音の確認をすることが出来なかった。
【実施例3】
【0050】
実施例3は、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。トップリング及びセカンドリングは、実施例1で使用したものと同じである。なお、実施例3で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0051】
実施例3は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が3.7mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が2.5、オイルリングの耳部傾斜角度が15°、オイルリングのサイドクリアランスが0.088mmとなるものを用いた。そして表1より、実施例3は、異音測定を計4回行った結果、全く異音の確認をすることが出来なかった。
【実施例4】
【0052】
実施例4は、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。ピストンは、実施例3で使用したものと同じであり、また、トップリング及びセカンドリングは、実施例2で使用したものと同じである。なお、実施例4で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0053】
実施例4は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が3.7mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が4.0、オイルリングの耳部傾斜角度が25°、オイルリングのサイドクリアランスが0.090mmとなるものを用いた。そして表1より、実施例4は、異音測定を計4回行った結果、全く異音の確認をすることが出来なかった。
【実施例5】
【0054】
実施例5は、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。トップリングは、実施例1で使用したものと同じである。なお、実施例5で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0055】
実施例5は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が3.0mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が3.0、オイルリングの耳部傾斜角度が20°、オイルリングのサイドクリアランスが0.077mmとなるものを用いた。そして表1より、実施例5は、異音測定を計4回行った結果、全く異音の確認をすることが出来なかった。
【0056】
[比較例1]
比較例1は、実施例との対比用として用いる。比較例1では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。トップリング、セカンドリング及びオイルリングは、実施例1で使用したものと同じである。なお、比較例1で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0057】
比較例1は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が2.3mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が2.5、オイルリングの耳部傾斜角度が15°、オイルリングのサイドクリアランスが0.092mmとなるものを用いた。そして表1より、比較例1は、1回以上の異音の確認をすることが出来た。
【0058】
[比較例2]
比較例2は、実施例との対比用として用いる。比較例2では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。トップリング及びセカンドリングは、実施例2で使用したものと同じである。なお、比較例2で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0059】
比較例2は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が2.3mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が4.0、オイルリングの耳部傾斜角度が25°、オイルリングのサイドクリアランスが0.085mmとなるものを用いた。そして表1より、比較例2は、1回以上の異音の確認をすることが出来た。
【0060】
[比較例3]
比較例3は、実施例との対比用として用いる。比較例3では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。トップリングは、実施例1で使用したものと同じである。なお、比較例3で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0061】
比較例3は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が2.3mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が2.4、オイルリングの耳部傾斜角度が15°、オイルリングのサイドクリアランスが0.087mmとなるものを用いた。そして表1より、比較例3は、1回以上の異音の確認をすることが出来た。
【0062】
[比較例4]
比較例4は、実施例との対比用として用いる。比較例4では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。トップリング及びオイルリングは、実施例2で使用したものと同じである。なお、比較例4で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0063】
比較例4は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が2.3mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が4.1、オイルリングの耳部傾斜角度が25°、オイルリングのサイドクリアランスが0.091mmとなるものを用いた。そして表1より、比較例4は、1回以上の異音の確認をすることが出来た。
【0064】
[比較例5]
比較例5は、実施例との対比用として用いる。比較例5では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて異音の確認を行った。そして、実施例1と同様に、ピストンリングは、トップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングを組み合わせたものを使用した。トップリングは、実施例1で使用したものと同じである。なお、比較例5で用いる内燃機関用ピストン構造は、具体的には以下に示す仕様のものである。
【0065】
比較例5は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積(mm
3)が2.3mm
3/mm、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比が4.1、オイルリングの耳部傾斜角度が30°、オイルリングのサイドクリアランスが0.090mmとなるものを用いた。そして表1より、比較例5は、1回以上の異音の確認をすることが出来た。
【0066】
[実施例と比較例との対比]
以下に、内燃機関用ピストン構造におけるピストンのセカンドランド部の外径とセカンドリング及びオイルリングの形状とがピストン動作中における異音の発生にどのような影響を及ぼすのかについて、表1に示す内容を基に実施例と比較例とを対比しつつ検討していく。
【0068】
表1に示す結果より、本件発明に規定する、(1)シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積、(2)セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比、(3)オイルリング耳部傾斜角度、(4)オイルリングのサイドクリアランス、の4つの条件全てを満たす実施例(実施例1〜実施例5)に関しては、いずれも異音の確認をすることが出来なかった。ちなみに、実施例1及び実施例2は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が本件発明の条件の下限値に設定されている。また、実施例3及び実施例4は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が本件発明の条件の上限値に設定されている。
【0069】
これに対し、比較例(比較例1〜比較例5)に関しては、全てに1回以上の異音の確認をすることが出来た。ここで、比較例1〜比較例5は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が本件発明の条件の下限値(2.4mm
3/mm)から外れたものである。なお、本確認試験において、本件発明の上限値(3.7mm
3/mm)から外れたものに関しては、異音に関していえば発生しないことが経験則上明らかであるため、確認を行わなかった。そして、比較例1、比較例2に関しては、本件発明の条件である、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比、オイルリング耳部傾斜角度、オイルリングのサイドクリアランスの3つを満たしている。特に、比較例1に関しては、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積以外の条件が実施例1と同じである。以上の結果から、少なくともシリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が、本件発明の条件範囲(2.4mm
3/mm〜3.7mm
3/mm)であれば、異音発生の抑制の観点からみて好ましいことが証明された。
【0070】
以上の結果をふまえ、本件発明に規定する、(1)シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積、(2)セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比、(3)オイルリング耳部傾斜角度、(4)オイルリングのサイドクリアランス、の4つの条件に関して、オイル消費量との関係も考慮に入れて、内燃機関用ピストン構造の条件としてより好ましいものである根拠を以下の試験結果を元に示す。なお、異音発生の確認を行うにあたっては、実施例1に示す方法及び評価基準を採用した。
【0071】
[セカンドランド部空間容積に関する検証試験]
ここでは、実施例1と同様に排気量が1500cc(シリンダ径73mm)のエンジンの実機試験を行い、内燃機関用ピストン構造において、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が、異音の発生及びオイル消費量にどのような影響を与えるかについて検証試験を行った。なお、本検証試験を行うに際し、エンジンの運転条件は、全負荷(WOT)で回転数6000回転で8時間行った。そして、本検証試験では、ピストンに装着するピストンリングの組合せを、実施例1と同様にトップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングとし、全ての試料(試料1〜試料6)について、トップリング合口隙間が0.2mm、セカンドリング合口隙間が0.6mm、オイルリングの耳部傾斜角が20°、オイルリングのサイドクリアランスが0.090mmとなる条件のものを用いた。そして、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積のみ、それぞれ異なる条件となるものを用いた。
【0072】
上述した方法に基づき、セカンドランド部空間容積に関する検証試験を行った結果を以下の表2に示す。表2には、本検証試験で用いたピストン、セカンドリング及びオイルリングの仕様条件と、異音発生の有無及びオイル消費量との関係について示した。なお、表中、本件発明に規定する条件を外れる数値に関しては、二重線により囲んである。そして、本件発明の条件を満たす試料2〜試料5のそれぞれを実施例6〜実施例9とし、本件発明の条件を満たさない試料1、試料6のそれぞれを比較例6、比較例7とした。表2に示す、オイル消費量比は、本発明試料のオイル消費量の平均値を1とした比率として数値化したものである。
【0074】
図7は、表2に示す結果を示す結果を、セカンドランド部空間容積とオイル消費量の関係についてグラフにより示したものである。
図7に示すグラフは、試料1〜試料6について異音発生頻度毎に分類(異音無しを「○」、計4回中2回異音の確認出来たものを「◆」)して示している。また、図中において点線により囲んである領域は、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が、本件発明の条件を満たす領域として示してある。すなわち、実施例6〜実施例9の結果を示すプロットがこの領域内に位置し、比較例6及び比較例7の結果を示すプロットがこの領域外に位置している。
【0075】
図7より、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が、本件発明の条件の下限値「2.4mm
3/mm」より外れると異音が発生し、本件発明の条件の上限値「3.7mm
3/mm」より外れるとオイル消費量が増加する傾向がみられた。以上の結果より、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が、本件発明の条件「2.4mm
3/mm〜3.7mm
3/mm」を満たすことにより、異音の発生を抑制し、且つオイル消費量の増加を招かないことが証明出来た。
【0076】
[セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比に関する検証試験]
ここでは、実施例1と同様に排気量が1500cc(シリンダ径73mm)のエンジンの実機試験を行い、内燃機関用ピストン構造において、セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比が、異音の発生及びオイル消費量にどのような影響を与えるかについて検証試験を行った。なお、本検証試験を行うに際し、エンジンの運転条件は、全負荷(WOT)でアイドリング運転から回転数5000回転のパターン運転にて8時間行った。そして、本検証試験では、ピストンに装着するピストンリングの組合せを、実施例1と同様にトップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングとし、全ての試料(試料7〜試料13)について、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が2.5mm
3/mm、トップリング合口隙間が0.2mm、オイルリングの耳部傾斜角が20°、オイルリングのサイドクリアランスが0.090mmとなる条件のものを用いた。そして、セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比のみを、それぞれ異なる条件となるものを用いた。
【0077】
上述した方法に基づき、セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比に関する検証試験を行った結果を以下の表3に示す。表3には、本検証試験で用いたピストン、セカンドリング及びオイルリングの仕様条件と、異音発生の有無及びオイル消費量との関係について示した。なお、表中、本件発明に規定する条件を外れる数値に関しては、二重線により囲んである。そして、本件発明の条件を満たす試料9〜試料12のそれぞれを実施例10〜実施例13とし、本件発明の条件を満たさない試料7、試料8、試料13のそれぞれを比較例8〜比較例10とした。表3に示す、オイル消費量比は、本発明試料のオイル消費量の平均値を1とした比率として数値化したものである。
【0079】
図8は、表3に示す結果を、セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比とオイル消費量の関係についてグラフにより示したものである。
図8に示すグラフは、試料7〜試料13について異音発生頻度毎に分類(異音無しを「○」、計4回中2回異音の確認出来たものを「◆」、計4回中3回異音の確認出来たものを「■」)して示している。また、図中において点線により囲んである領域は、セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比が、本件発明の条件を満たす領域として示してある。すなわち、実施例10〜実施例13の結果を示すプロットがこの領域内に位置し、比較例8〜比較例10の結果を示すプロットがこの領域外に位置している。
【0080】
図8より、セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比が、本件発明の条件の下限値「2.5」より外れると異音が発生し、本件発明の条件の上限値「4.0」より外れるとオイル消費量が増加する傾向がみられた。以上の結果より、セカンドリングの合口隙間とトップリングの合口隙間との比が、本件発明の条件「2.5〜4.0」を満たすことにより、異音の発生を抑制し、且つオイル消費量の増加を招かないことが証明出来た。
【0081】
[オイルリングの耳部傾斜角度に関する検証試験]
ここでは、実施例1と同様に排気量が1500cc(シリンダ径73mm)のエンジンの実機試験を行い、内燃機関用ピストン構造において、オイルリングの耳部傾斜角度が、異音の発生及びオイル消費量にどのような影響を与えるかについて検証試験を行った。なお、本検証試験を行うに際し、エンジンの運転条件は、全負荷(WOT)で回転数6000回転で8時間行った。そして、本検証試験では、ピストンに装着するピストンリングの組合せを、実施例1と同様にトップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングとし、全ての試料(試料14〜試料18)について、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が2.5mm
3/mm、トップリング合口隙間が0.2mm、セカンドリング合口隙間が0.6mm、オイルリングのサイドクリアランスが0.090mmとなる条件のものを用いた。そして、オイルリングの耳部傾斜角度のみを、それぞれ異なる条件となるものを用いた。
【0082】
上述した方法に基づき、オイルリングの耳部傾斜角度に関する検証試験を行った結果を以下の表4に示す。表4には、本検証試験で用いたピストン、セカンドリング及びオイルリングの仕様条件と、異音発生の有無及びオイル消費量との関係について示した。なお、表中、本件発明に規定する条件を外れる数値に関しては、二重線により囲んである。そして、本件発明の条件を満たす試料15〜試料17のそれぞれを実施例14〜実施例16とし、本件発明の条件を満たさない試料14、試料18のそれぞれを比較例11、比較例12とした。表4に示す、オイル消費量比は、本発明試料のオイル消費量の平均値を1とした比率として数値化したものである。
【0084】
図9は、表4に示す結果を示す結果を、オイルリングの耳部傾斜角度とオイル消費量の関係についてグラフにより示したものである。
図9に示すグラフは、試料14〜試料18について異音発生頻度毎に分類(異音無しを「○」、計4回中3回異音の確認出来たものを「■」)して示している。また、図中において点線により囲んである領域は、オイルリングの耳部傾斜角度が、本件発明の条件を満たす領域として示してある。すなわち、実施例14〜実施例16の結果を示すプロットがこの領域内に位置し、比較例11及び比較例12の結果を示すプロットがこの領域外に位置している。
【0085】
図9より、オイルリングの耳部傾斜角度が、本件発明の条件の下限値「15°」より外れると異音が発生すると共にオイル消費量も増加し、本件発明の条件の上限値「25°」より外れるとオイル消費量が増加する傾向がみられた。以上の結果より、オイルリングの耳部傾斜角度が、本件発明の条件「15°〜25°」を満たすことにより、異音の発生を抑制し、且つオイル消費量の増加を招かないことが証明出来た。
【0086】
[オイルリングのサイドクリアランスに関する検証試験]
ここでは、実施例1と同様に排気量が1500cc(シリンダ径73mm)のエンジンの実機試験を行い、内燃機関用ピストン構造において、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が、異音の発生にどのような影響を与えるかについて検証試験を行った。なお、本検証試験を行うに際し、エンジンの運転条件は、アイドリング運転状態とした。そして、本検証試験では、ピストンに装着するピストンリングの組合せを、実施例1と同様にトップリング、セカンドリング、3ピース型オイルリングとし、全ての試料(試料19〜試料25)について、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積が2.5mm
3/mm、トップリング合口隙間が0.2mm、セカンドリング合口隙間が0.6mm、オイルリングの耳部傾斜角が20°となる条件のものを用いた。そして、オイルリングのサイドクリアランスのみを、それぞれ異なる条件となるものを用いた。ちなみに、本検証試験では、オイルリングのサイドクリアランスとオイル消費量との関係について検証を行っていないが、これは当該サイドクリアランスが大きくなると、オイル消費が増加することが経験則上明らかになっているためである。
【0087】
上述した方法に基づき、オイルリングのサイドクリアランスに関する検証試験を行った結果を以下の表5に示す。表5には、本検証試験で用いたピストン、セカンドリング及びオイルリングの仕様条件と、異音発生の頻度との関係について示した。なお、表中、本件発明に規定する条件を外れる数値に関しては、二重線により囲んである。そして、本件発明の条件を満たす試料19〜試料22のそれぞれを実施例17〜実施例20とし、本件発明の条件を満たさない試料23〜試料25のそれぞれを比較例13〜比較例15とした。
【0089】
図10は、表5に示す結果を示す結果を、オイルリングのサイドクリアランスと異音発生の頻度の関係についてグラフにより示したものである。
図10に示すグラフは、試料19〜試料25について異音発生頻度毎に分類(異音無しを「○」、計4回中1回異音の確認出来たものを「△」、計4回中3回異音の確認出来たものを「■」)して示している。また、図中において点線により囲んである領域は、オイルリングのサイドクリアランスが、本件発明の条件を満たす領域として示してある。すなわち、実施例17〜実施例20の結果を示すプロットが、この領域内に位置し、比較例13〜比較例15の結果を示すプロットがこの領域外に位置している。
【0090】
図10より、オイルリングのサイドクリアランスが、本件発明の条件値「0.092以下」より外れると異音が発生する傾向がみられた。以上の結果より、オイルリングのサイドクリアランスが、本件発明の条件「0.092以下」を満たすことにより、異音発生の頻度を抑制することが証明出来た。
【0091】
以上説明したように、シリンダ内径1mmあたりのセカンドランド部とシリンダとの間の空間の容積について、本件発明の条件を満足することで、異音の発生を確実に防止し、且つオイル消費量の増加を招かないことが分かった。また、セカンドリング合口隙間とトップリング合口隙間との比、オイルリングの耳部傾斜角度、また、オイルリングのサイドクリアランスについて、本件発明の条件を満足すると、異音の発生を抑制し、且つオイル消費量を低減させる上でより好ましいことが分かった。以上のことから、本件発明に係る内燃機関用ピストン構造によれば、オイルリングのオイルシール性能を維持しつつ、高い静粛性を実現することが出来る。