(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る荷電粒子線照射装置の斜視図である。
図1に示すように、荷電粒子線照射装置1は、治療台11を取り囲むように設けられた回転ガントリ12に取り付けられている。荷電粒子線照射装置1は、該回転ガントリ12によって、治療台11の回りに回転可能とされている。なお、この荷電粒子線照射装置1は、腫瘍の治療を行うための荷電粒子線照射装置である。
【0016】
図2は、荷電粒子線をスキャニング法で照射する荷電粒子線照射装置の概略構成図である。
図3は、荷電粒子線をワブラー法で照射する荷電粒子線照射装置の概略構成図である。
図2,3に示すように、荷電粒子線照射装置1は、患者13の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Rを照射するものである。荷電粒子線Rとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。なお、ワブラー法は、ブロードビーム法とも称される。
【0017】
なお、以下の説明においては、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」という語を用いて説明する。「Z方向」とは、荷電粒子線Rの基軸AXが延びる方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の走査電磁石3a,3bで偏向しなかった場合の荷電粒子線Rの照射軸とする。
図2,3では、基軸AXに沿って荷電粒子線Rが照射されている様子を示している。なお、以下の説明では、基軸AXに沿って荷電粒子線Rが照射される方向を「荷電粒子線Rの照射方向」であるものとする。「X方向」とは、Z方向と直交する平面内における一の方向である。「Y方向」とは、Z方向と直交する平面内においてX方向と直交する方向である。
【0018】
まず、
図2を参照して、スキャニング法に係る荷電粒子線照射装置1の構成について説明する。
図2に示すように、荷電粒子線照射装置1は、加速器2、走査電磁石3a,3b、モニタ4a,4b、収束体6a,6b、ディグレーダ30及び制御装置7を備えている。走査電磁石3a,3b、モニタ4a,4b、収束体6a,6b、ディグレーダ30及び制御装置7は、照射ノズル8に収納されている。ただし、制御装置7は、照射ノズル8の外部に設けられていてもよい。
【0019】
加速器2は、荷電粒子を加速させて、荷電粒子線Rを連続的に発生させる発生源である。加速器2として、例えば、サイクロトロン、シンクロトロン、サイクロシンクロトロン、ライナック等が挙げられる。加速器2で発生した荷電粒子線Rは、ビーム輸送系によって照射ノズル8へ輸送される。この加速器2は、制御装置7に接続されており、供給される電流が制御される。
【0020】
走査電磁石3a,3bは、それぞれ一対の電磁石から構成され、制御装置7から供給される電流に応じて一対の電磁石間の磁場を変化させ、当該電磁石間を通過する荷電粒子線Rを走査する。X方向走査電磁石3aは、X方向(第1の走査方向)に荷電粒子線Rを走査し、Y方向走査電磁石3bは、Y方向(第1の走査方向と直交する第2の走査方向)に荷電粒子線Rを走査する。これらの走査電磁石3a,3bは、基軸AX上であって、加速器2の下流側にこの順で配置されている。
【0021】
モニタ4aは、荷電粒子線Rのビーム位置を監視し、モニタ4bは、荷電粒子線Rの線量の絶対値と荷電粒子線Rの線量分布とを監視する。各モニタ4a,4bは、監視した監視情報を制御装置7に出力する。モニタ4aは、荷電粒子線Rの基軸AX上であって、加速器2の下流側でX方向走査電磁石3aの上流側に配置されている。モニタ4bは、基軸AX上であってY方向走査電磁石3bの下流側に配置されている。
【0022】
収束体6a,6bは、例えば荷電粒子線Rを絞って収束させるものであり、ここでは、電磁石が用いられている。収束体6aは、基軸AX上であって加速器2とモニタ4aとの間に配置され、収束体6bは、基軸AX上であって、モニタ4aと走査電磁石3aとの間に配置されている。
【0023】
ディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Rのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Rの飛程を調整する。なお、飛程の調整は、加速器2の直後に設けられたディグレーダ(不図示)によって荒調整が行われ、照射ノズル8内のディグレーダ30で微調整が行われる。ディグレーダ30は、基軸AX上であって、走査電磁石3a,3bよりも荷電粒子線Rの下流側に設けられ、患者13の体内における荷電粒子線Rの最大到達深さを調整する。ディグレーダ30は、X方向及びY方向に拡がる板状の部材である。なお、本実施形態において「飛程」とは、荷電粒子線Rが運動エネルギーを失って静止するまでに進む距離である。より詳細には、飛程は、最大線量を100%とした場合に、最大線量となる照射距離(深さ)よりも深い側であって、線量が90%となる深さである。荷電粒子線Rを腫瘍14に照射するときは、腫瘍14をZ方向に仮想的に複数の層Lに分割し(例えば、
図5を参照)、各層Lに設定された照射範囲において所定の走査パターンに沿って荷電粒子線Rを走査しながら照射を行う。一の層Lに対する荷電粒子線Rの照射が完了したら、ディグレーダ30(また、加速器2の直後のディグレーダも用いてよい)で飛程を調整し、他の層Lに対して荷電粒子線Rの照射を行う。ディグレーダ30は、Y方向走査電磁石3bから、1500mm〜2000mm程度の位置に配置されている。
【0024】
荷電粒子線Rの飛程の調整は、当該荷電粒子線Rのディグレーダ30内の通過距離を変えることによってなされる。例えば、荷電粒子線Rの照射軸上に配置されるディグレーダ30自体を、異なる厚さを有するものに置き換えることで、飛程の調整を行ってよい。または、Z方向に複数枚のディグレーダ30を配置可能な構成としておき、荷電粒子線Rの基軸AX上に配置されるディグレーダ30の枚数を変更することで、飛程の調整を行ってよい。この場合、各ディグレーダ30に対して、Z方向と直交する平面内で往復動可能なアクチュエータを設けておき、当該アクチュエータを制御することで、ディグレーダ30を荷電粒子線Rの基軸AX上への配置と退避が可能となる。なお、詳細な構成は後述するが、本実施形態では、ディグレーダ30が湾曲した形状となっているため、往復動可能なアクチュエータを用いる場合は、ディグレーダ30同士が干渉しないように、一のディグレーダ30の上流側面と、上流側で隣接する他のディグレーダ30の下流側面とを離間させておくことが好ましい。
【0025】
ディグレーダ30を設ける位置は、走査電磁石3a,3bより下流側であれば特に限定されないが、スキャニング法を採用する場合、モニタ4bよりも下流側に設けることが好ましい。本実施形態では、照射ノズル8の先端部8aに設けられている。なお、照射ノズル8の先端とは、荷電粒子線Rの下流側の端部である。
【0026】
制御装置7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御装置7は、モニタ4a,4bから出力された監視情報に基づいて、加速器2、走査電磁石3a,3b及び収束体6a,6bを制御する。
【0027】
図2に示す荷電粒子線照射装置1により、スキャニング法によって荷電粒子線Rの照射を行う場合、所定の飛程に調整可能なディグレーダ30をセットすると共に、通過する荷電粒子線Rが収束するように収束体6a,6bを作動状態(ON)とする。
【0028】
続いて、加速器2から荷電粒子線Rを出射する。出射された荷電粒子線Rは、走査電磁石3a,3bを制御することにより走査されると共に、ディグレーダ30で荷電粒子線Rの飛程が調整される。これにより、荷電粒子線Rは、腫瘍14に対してZ方向に設定された一の層Lにおける照射範囲内を走査されつつ照射されることとなる。一の層Lに対する照射が完了したら、次の層Lへ荷電粒子線Rを照射する。
【0029】
図3を参照して、ワブラー法に係る荷電粒子線照射装置の構成について説明する。
図3に示すように、荷電粒子線照射装置1は、加速器2、走査電磁石3a,3b、モニタ4a,4b、散乱体5、リッジフィルタ22、マルチリーフコリメータ24、ボーラス26、患者コリメータ27、ディグレーダ30及び制御装置7を備えている。走査電磁石3a,3b、モニタ4a,4b、散乱体5、リッジフィルタ22、マルチリーフコリメータ24、ボーラス26、患者コリメータ27、ディグレーダ30及び制御装置7は、照射ノズル8に収納されている。ただし、制御装置7は、照射ノズル8の外部に設けられていてもよい。なお、
図2の荷電粒子線照射装置1と同様な部分については、説明を省略する。
【0030】
散乱体5は、通過する荷電粒子線Rを、照射軸と直交する方向に広がりを持つ幅広のビームに拡散する。この散乱体5は、板状を呈し、例えば厚さ数mmのタングステンで形成されている。散乱体5は、基軸AX上において、走査電磁石3bの下流側でモニタ4bの上流側に配置されている。
【0031】
リッジフィルタ22は、荷電粒子線Rの線量分布を調整するものである。具体的には、リッジフィルタ22は、患者13の体内の腫瘍14の厚さ(照射方向の長さ)に対応するように、荷電粒子線Rに拡大ブラッグピーク(SOBP)を与える。リッジフィルタ22は、基軸AX上において散乱体5の下流側でモニタ4bの上流側に配置されている。
【0032】
ディグレーダ30は、基軸AX上においてリッジフィルタ22とモニタ4bとの間に配置されている。このディグレーダ30は、
図2で説明したものと同趣旨の機能・構成を有しており、同様な方法で飛程を調整可能である。ディグレーダ30は、散乱体5から、1000mm〜1800mm程度の位置に配置されている。
【0033】
マルチリーフコリメータ(Multi Leaf Collimator:以下、「MLC」という)24は、照射方向と垂直な平面方向における荷電粒子線Rの形状(平面形状)を整形するものであり、複数の櫛歯を含む遮線部24a,24bを有している。遮線部24a,24bは、互いに突き合わせるように配置されており、これらの遮線部24a,24b間には、開口部24cが形成されている。このMLC24は、開口部24cに荷電粒子線Rを通過させることで、開口部24cの形状に対応する輪郭に荷電粒子線Rを切り取る。
【0034】
また、MLC24は、Z方向と直交する方向に遮線部24a,24bを進退させることで、開口部24cの位置及び形状を変化することが可能となっている。さらに、MLC24は、リニアガイド28で照射方向に沿って案内されており、Z方向に沿って移動可能になっている。このMLC24は、モニタ4bの下流側に配置されている。
【0035】
ボーラス26は、荷電粒子線Rの最大到達深さの部分の立体形状を、腫瘍14の最大深さ部分の形状に合わせて整形する。このボーラス26の形状は、例えば、腫瘍14の輪郭線と、X線CTのデータから求められる周辺組織の電子密度とに基づいて算出される。ボーラス26は、基軸AX上においてMLC24の下流側に配置されている。患者コリメータ27は、荷電粒子線Rの平面形状を腫瘍14の平面形状に合わせて最終的に整形するものである。この患者コリメータ27は、基軸AX上においてボーラス26の下流側に配置されており、MLC24の代わりとして用いられてもよいし、MLC24と患者コリメータ27の双方を用いてもよい。ボーラス26及び患者コリメータ27は、照射ノズル8の先端部8aに設けられている。
【0036】
図3に示す荷電粒子線照射装置1により、ワブラー法によって荷電粒子線Rの照射を行う場合、所定の飛程に調整可能なディグレーダ30をセットすると共に、MLC24の遮線部24a,24bが進退されて開口部24cが所定形状とされる。
【0037】
続いて、加速器2から荷電粒子線Rを出射する。出射された荷電粒子線Rは、走査電磁石3a,3bによって円を描くように走査されて散乱体5によって拡散された後、リッジフィルタ22、ディグレーダ23、MLC24、ボーラス26及び患者コリメータ27によって整形及び調整される。これにより、腫瘍14の形状に沿った一様照射範囲でもって腫瘍14に荷電粒子線Rが照射されることとなる。
【0038】
なお、同一の荷電粒子線照射装置1で、スキャニング法とワブラー法の両方を行える構成としてもよい。すなわち、
図2に示す構成要素と
図3に示す構成要素の両方を設け、スキャニング法を採用する場合は、ワブラー法のみで用いる構成要素を退避させ、ワブラー法を採用する場合は、スキャニング法で採用する構成要素を退避させてもよい。
【0039】
次に、ディグレーダ30の構成の詳細について、
図4を用いて説明する。
【0040】
図4に示すように、ディグレーダ30は、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置している。「走査方向における外側へ向かう」とは、荷電粒子線Rの基軸AXと直交する方向であって、当該基軸AXから遠ざかる方向へ向かうことである。また、ディグレーダ30は、荷電粒子線Rに対して上流側面30a及び下流側面30bを有している。上流側面30a及び下流側面30bは、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置する。
【0041】
すなわち、照射軸が基軸AXと一致している荷電粒子線R1が上流側面30aに入射する位置を入射位置IP1とし、照射軸が基軸AXに対して偏向している荷電粒子線R2が上流側面30aに入射する位置を入射位置IP2とした場合、基軸AXの外側の入射位置IP2は、入射位置IP1よりも上流側に位置している。また、荷電粒子線R2の偏向角が大きくなって、入射位置IP2が基軸AXから遠ざかり走査方向における外側に向かうに従って、当該入射位置IP2は更に上流側へ位置する。照射軸が基軸AXと一致している荷電粒子線R1が下流側面30bから出射する位置を出射位置EP1とし、照射軸が基軸AXに対して偏向している荷電粒子線R2が下流側面30bから出射する位置を出射位置EP2とした場合、基軸AXの外側の出射位置EP2は、出射位置EP1よりも上流側に位置している。また、荷電粒子線R2の偏向角が大きくなって、出射位置EP2が基軸AXから遠ざかり走査方向における外側に向かうに従って、当該出射位置EP2は更に上流側へ位置する。
【0042】
図4(a)に示すように、ディグレーダ30は、X方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置すると共に、
図4(b)に示すように、Y方向における外側に向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置する。ディグレーダ30は、全体として、基軸AX側の部位が下流側へ向かって凸となるような椀状に形成されている。これにより、上流側面30aは凹レンズ状の面となり、下流側面30bは凸レンズ状の面となる。なお、Z方向から見たときのディグレーダ30の形状は特に限定されず、円形であっても四角形であってもそれ以上の多角形であってもよい。
【0043】
具体的には、ディグレーダ30は、
図4(a)に示すように、X方向における外側に向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側へ位置するように湾曲しており、
図4(b)に示すように、Y方向における外側に向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側へ位置するように湾曲している。上流側面30aは凹レンズ状の曲面となり、下流側面30bは凸レンズ状の曲面となる。
【0044】
図4(a)に示すように、X方向の湾曲については、X方向走査電磁石3aによる偏向の基準点SPを曲率中心として、所定の曲率半径で上流側面30a及び下流側面30b(下流側面30bの曲率半径は、上流側面30aの曲率半径にディグレーダ30の厚さAを加算させた値であることが好ましい)を湾曲させてよい。これによって、照射軸が基軸AXに対して偏向した荷電粒子線R2のディグレーダ30内の通過距離を、偏向角θによらず一定又は略一定とすることができる。なお、基準点SPは、基軸AXと偏向した荷電粒子線R2の照射軸との交点であり、X方向走査電磁石3aのZ方向の略中心位置に設定される。ただし、曲率中心を厳密に基準点SPに設定する必要はなく、X方向走査電磁石3a近傍であれば、基軸AX上のどの位置に設定してもよい。
【0045】
図4(b)に示すように、Y方向の湾曲については、Y方向走査電磁石3bによる偏向の基準点SPを曲率中心として、所定の曲率半径で上流側面30a及び下流側面30b(下流側面30bの曲率半径は、上流側面30aの曲率半径にディグレーダ30の厚さAを加算させた値であることが好ましい)を湾曲させてよい。これによって、照射軸が基軸AXに対して偏向した荷電粒子線R2のディグレーダ30内の通過距離を、偏向角θによらず一定又は略一定とすることができる。なお、基準点SPは、基軸AXと偏向した荷電粒子線R2の照射軸との交点であり、Y方向走査電磁石3bのZ方向の略中心位置に設定される。ただし、曲率中心を厳密に基準点SPに設定する必要はなく、Y方向走査電磁石3b近傍であれば、基軸AX上のどの位置に設定してもよい。
【0046】
X方向の湾曲に対する曲率中心とY方向の湾曲に対する曲率中心とが異なる位置に設定されている場合、上流側面30a及び下流側面30bの湾曲は、X方向の湾曲成分とY方向の湾曲成分とを重ね合わせて設定する。または、X方向の湾曲に対する曲率中心とY方向の湾曲に対する曲率中心とを一致させてもよく、この場合は上流側面30a及び下流側面30bの曲率半径をXY方向の位置によらず一定とすることができる。なお、上流側面30aの湾曲の曲率半径は、スキャニング法の場合は1500mm〜3000mmに設定することができ、ワブラー法の場合は1500mm〜3000mmに設定することができる。
【0047】
なお、上述のように曲率中心及び曲率半径を用いて上流側面30a及び下流側面30bの湾曲を設定する方法は一例に過ぎず、荷電粒子線Rのディグレーダ30内の通過距離を一定または略一定とすることができるならば、どのように湾曲させてもよい。
【0048】
また、
図4では、X方向及びY方向の両方について湾曲している例について説明したが、走査方向における1の方向のみについて湾曲していてもよく、X方向またはY方向の何れか一方についてのみ湾曲していてもよい。
【0049】
また、ディグレーダ30を湾曲させて上流側面30a及び下流側面30bを曲面とすることに代えて、上流側面30a及び下流側面30bの湾曲面を近似的に再現してもよい。例えば、
図6に示すように、上流側面30a及び下流側面30bに複数の段差部31,32を形成することによって、湾曲面を近似的に形成してよい。なお、
図6は、段差部31,32の設定方法を説明するために湾曲を強調して概略的に示したものである。この構成では、ディグレーダ30は、走査方向における外側へ向かうに従って、段階的に荷電粒子線Rの上流側に位置するように段差部31,32を有している。上流側面30aは走査方向における外側へ向かうに従って段階的に荷電粒子線Rの上流側に位置するように段差部31を有し、下流側面30bは走査方向における外側へ向かうに従って段階的に荷電粒子線Rの上流側に位置するように段差部32を有している。
【0050】
具体的に、上流側面30aでは、基軸AXから走査方向の外側へ向かって一段目の段差部31までは当該基軸AXと直交する平面が拡がり、一段目の段差部31の位置で荷電粒子線Rの上流側へ向かって所定高さ立ち上がり(垂直であっても垂直でなくともよい)、次の段差部31まで基軸AXと直交する平面が拡がる。当該繰り返しにより、上流側面30aには、走査方向の外側ほど、荷電粒子線Rの上流側に位置するような、複数の平面(基軸AXと直交する平面)が形成される。下流側面30bでは、基軸AXから走査方向の外側へ向かって一段目の段差部32までは当該基軸AXと直交する平面が拡がり、一段目の段差部32の位置で荷電粒子線Rの上流側へ向かって所定深さ下がり(垂直であっても垂直ででなくともよい)、次の段差部32まで基軸AXと直交する平面が拡がる。当該繰り返しにより、下流側面30bには、走査方向の外側ほど、荷電粒子線Rの上流側に位置するような、複数の平面(基軸AXと直交する平面)が形成される。
【0051】
図6を参照して、階段状のディグレーダ30(ここでは、階段ディグレーダ30と称する)の段差部31,32の設定方法について説明する。なお、湾曲させたディグレーダ150(ここでは、湾曲ディグレーダ150と称する)を二点鎖線で示している。階段ディグレーダ30は、当該湾曲ディグレーダ150に基づいて設定されるものとする。まず、湾曲ディグレーダ150の上流側面150aに基づいて、階段ディグレーダ30の上流側面30aの段差部31を設定する。ただし、以下に示す上述の段差部31,32の設定方法は一例であり、どのように設定してもよい。
【0052】
段差部31は、下流側の段差点DP1aと上流側の段差点DP1bを有するが、上流側の段差点DP1bが湾曲ディグレーダ150の上流側面150aと一致するように設定される。一の段差部31の下流側の段差点DP1aは、走査方向の内側に隣接する段差部31の上流側の段差点DP1bと、Z方向における位置が同一となるように設定される。このような条件下で、段差の高さT1が各段差部31において同程度となるように、段差点DP1a,DP2bを設定する。例えば、湾曲ディグレーダ150の曲率中心までの距離が2mの場合、4段構成(基軸AXと直交する平面が4段形成されている構成)とした場合、段差部31の高さT1は0.7mmとなる。実用的には、加工精度の観点から、高さT1を0.3mmとして9段程度にすることが好ましい。
【0053】
次に、湾曲ディグレーダ150の下流側面150bに基づいて、階段ディグレーダ30の下流側面30bの段差部31を設定する。段差部32には、下流側の段差点DP2aと上流側の段差点DP2bを有するが、上流側の段差点DP2bが湾曲ディグレーダ150の上流側面150aと一致するように設定される。一の段差部32の下流側の段差点DP2aは、走査方向の内側に隣接する段差部32の上流側の段差点DP2bと、Z方向における位置が同一となるように設定される。曲率中心と上流側面30aの段差点DP1bとを結ぶ直線上に、下流側面30bの段差点DP2bが設定される。また、曲率中心と上流側面30aの段差点DP1aとを結ぶ直線上に、下流側面30bの段差点DP2aが設定される。なお、上流側面30aの段差点DP1a,DP1bと、下流側面30bの段差点DP2a,DP2bとは、基軸AXからの距離が異なっている。
【0054】
次に、本実施形態に係るディグレーダ30の作用・効果について説明する。
【0055】
まず、比較のため、従来のディグレーダについて
図5を参照して説明する。従来のディグレーダ130は、X方向及びY方向に拡がる板状(厚さがAで一定)をなしており、ディグレーダ30の上流側面130a及び下流側面130bは、基軸AXと直交する平面をなしている。すなわち照射方向における断面が長方形をなしている。このようなディグレーダ130を用いた場合、照射軸と基軸AXが一致する荷電粒子線R1は、ディグレーダ130の上流側面130aに垂直に入射するため、ディグレーダ130内の通過距離が厚さと同じくAとなる。一方、照射軸が基軸AXに対して偏向する荷電粒子線R2は、ディグレーダ30内の通過距離がAよりも大きくなる。具体的には、荷電粒子線R2の照射軸が基軸AXに対して偏向角θで偏向する場合、ディグレーダ130内の通過距離は、「A/cosθ」となる。これによって、荷電粒子線R2の飛程は、荷電粒子線R1に比して短くなる。
【0056】
従って、前述のディグレーダ130内の通過距離と飛程の関係を考慮せずに所定の層LTに対して荷電粒子線Rの走査パターンを作成し、荷電粒子線照射装置1が当該走査パターンに基づいて荷電粒子線Rを照射した場合、照射軸と基軸AXが一致する荷電粒子線R1は計画通り層LTに照射されるが、照射軸が基軸AXに対して偏向する荷電粒子線R2は、層LTよりも上流側の箇所に照射される。これにより、腫瘍14の所定の箇所に照射される荷電粒子線Rの実際の線量が、治療計画時に計画していた線量と異なり、荷電粒子線の照射精度が低下するという問題がある。なお、
図5はスキャニング法の場合を例にして説明しているものであるが、ワブラー法の場合についても同様の問題が生じる。例えば、
図7に示すように、ガントリの小型化によってSAD(Source-axis distance:線源回転軸間距離)が短くなる場合や、腫瘍14が大きくて照射野が大きくなる場合は、ディグレーダ130内の荷電粒子線Rの通過距離の差が大きくなる。
【0057】
一方、本実施形態に係る荷電粒子線照射装置
1では、ディグレーダ30が、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置している。これにより、ディグレーダ30の走査方向における全体的な形状が、荷電粒子線Rの偏向の起点である走査電磁石3a,3bに対し、湾曲するような形状(
図4の場合は、ディグレーダ30は湾曲形状となり、
図6に示すように、段差部31,32を形成した場合は、ディグレーダ30は、近似的に湾曲するような形状となる)となる。従って、偏向角θが大きい荷電粒子線Rのディグレーダ30内の通過距離が大きくなることを抑制することができる。例えば、
図4(a)に示すように、ディグレーダ30が一定の厚さAにて湾曲した形状となっている場合、照射軸が基軸AXと一致する荷電粒子線R1のディグレーダ30内の通過距離は厚さAと等しく、照射軸が基軸AXに対して偏向している荷電粒子線R2のディグレーダ30内の通過距離も厚さAと等しく(又は略等しく)なる。これによって、偏向角θが小さい荷電粒子線Rと偏向角θの大きい荷電粒子線Rの、ディグレーダ30内の通過距離の差を小さくすることができるため、偏向角θによる荷電粒子線Rの飛程の変化を抑制することができる。以上により、精度良く荷電粒子線の照射を行うことができる。
【0058】
また、荷電粒子線照射装置
1において、ディグレーダ30の上流側面30aは、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置し、下流側面30bは、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置する。このような構成により、ディグレーダ30の厚さを一定又は略一定にした状態で、ディグレーダ30の走査方向における全体的な形状を湾曲した形状とすることができる。これにより、偏向角θによる荷電粒子線Rのディグレーダ30内の通過距離を一定又は略一定とすることができる。
【0059】
また、荷電粒子線照射装置
1において、ディグレーダ30は、走査方向における外側へ向かうに従って、段階的に荷電粒子線Rの上流側に位置するように段差部31,32を有していてもよい。このような複数の段差部31,32を形成することで、ディグレーダ30の形状を、走査方向において近似的に湾曲するような形状とすることができる。これにより、偏向角θによる荷電粒子線Rの飛程の変化を抑制できる形状とするためのディグレーダの加工を(
図4のようにディグレーダ30を湾曲した形状とする加工に比して)容易に行うことができる。
【0060】
また、荷電粒子線照射装置
1において、ディグレーダ30は、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側へ位置するように湾曲していてもよい。例えば、
図6のように段差部31,32を設けた場合は、偏向角θによって荷電粒子線Rのディグレーダ30内の通過距離に若干のばらつきが生じるが、
図4に示すようにディグレーダ30が湾曲していることにより、走査方向における全領域において、偏向角θによる荷電粒子線Rのディグレーダ30内の通過距離を正確に一定または略一定とすることができる。これによって荷電粒子線Rの照射の精度をより向上させることができる。
【0061】
また、荷電粒子線照射装置
1において、ディグレーダ30は、X方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置すると共に、Y方向における外側に向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置する。これによって、X方向及びY方向のいずれの位置においても、偏向角θによる荷電粒子線Rのディグレーダ30内の通過距離を一定または略一定とすることができる。これによって荷電粒子線Rの照射の精度を一層向上させることができる。
【0062】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0063】
例えば、上述の実施形態では板状のディグレーダ30を用いた場合の例について説明したが、
図8や
図9に示すようなディグレーダ40,50を用いてもよい。
【0064】
図8に示すように、楔形のディグレーダ40に対して本発明を適用してもよい。
図8(a)に示すディグレーダ40は、断面直角三角形状のディグレーダ40A,40Bを、Z方向に対向させ、アクチュエータ45で各ディグレーダ40A,40BをX方向に移動させることによって、飛程の調整を行うものである。なお、
図8(a)は、構成を分かり易くするために、ディグレーダ40A,40Bを基軸AXの位置においてXZ平面で切断した断面を示している。
図8(b)では、
図8(a)で切断された部分(基軸AXよりも紙面右側の部分)の断面も示している。
【0065】
図8(a)に示すように、上流側に配置されるディグレーダ40Aは、直角三角形の断面の長辺(基軸AXと直交する)に該当する上流側面40Aa、斜辺に該当する下流側面40Ab、短辺(基軸AXと平行となる)に該当する側面40Acを有している。側面40Acには、ディグレーダ40AをX方向に往復動させるアクチュエータ45が接続されている。下流側に配置されるディグレーダ40Aは、直角三角形の断面の斜辺に該当する上流側面40Ba、長辺(基軸AXと直交する)に該当する下流側面40Bb、短辺(基軸AXと平行となる)に該当する側面40Bcを有している。側面40Bcには、ディグレーダ40AをX方向に往復動させるアクチュエータ45が接続されている。ディグレーダ40Aの下流側面40Abとディグレーダ40Bの上流側面40Baとは、平行をなすように対向している。アクチュエータ45によってディグレーダ40Aとディグレーダ40BをX方向に移動させることで、荷電粒子線Rがディグレーダ40A,40B内を通過する通過距離(ディグレーダ40Aとディグレーダ40Bの合計)を調整することができる。
【0066】
なお、ディグレーダ40Bは、上流側面40BaのみはX方向の外側に向かうに従って上流側に位置しているものの、下流側面40BbはX方向の外側に向かっても上流側に位置しておらず、ディグレーダ40Bの厚さはX方向の外側に向かうに従って増加するような構成となっている。このような形状は、本願発明における「ディグレーダが、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線の上流側に位置する」ような形状には該当しないものとする。
【0067】
図8(b)に示すように、ディグレーダ40A,40Bは、走査方向(ここではY方向)における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置している。ディグレーダ40Aの上流側面40Aa及び下流側面40Abは、Y方向に対して湾曲しており、Y方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置している。ディグレーダ40Bの上流側面40Ba及び下流側面40Bbは、Y方向に対して湾曲しており、Y方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置している。これによって、Y方向に走査される荷電粒子線Rのディグレーダ40A,40B内の通過距離を一定または略一定にすることができる。なお、上流側面40Aa,40Ba及び下流側面40Ab,40Bbを湾曲面に代えて、
図6に示すような階段状の面としてもよい。
【0068】
図9に示すように、段差状のディグレーダ50に対して本発明を適用してもよい。
図9(a)に示すディグレーダ50は、段差状に形成されることで厚さが異なる部分を複数有しており、荷電粒子線Rを入射させる部分の厚さを変更することで、飛程の調整を行うものである。なお、
図9(a)は、構成を分かり易くするために、ディグレーダ50を基軸AXの位置においてXZ平面で切断した断面を示している。
図9(b)は、
図9(a)中の矢印Dの方向から見た図であり、
図9(b)では、
図9(a)で切断された部分(基軸AXよりも紙面右側の部分)の断面も示している。
【0069】
図9(a)に示すように、ディグレーダ50は、X方向に沿って、段階的に厚さが変化する構成を有している。すなわち、ディグレーダ50の下流側面50bは、X方向における全領域においてZ方向の位置が一定であるに対し、上流側では、上流側面51、上流側面52、上流側面53、上流側面54、上流側面55の順でZ方向において上流側に配置される。当該ディグレーダ50を用いる場合、荷電粒子線Rを入射させる上流側面を変更することによって、飛程の調整を行う。ディグレーダ50の側面50cには、当該ディグレーダ50をX方向に往復動させるアクチュエータ56が接続されている。
【0070】
図9(b)に示すように、ディグレーダ50は、走査方向(ここではY方向)における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置している。ディグレーダ50の各上流側面51〜55及び下流側面50bは、Y方向に対して湾曲しており、Y方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線Rの上流側に位置している。これによって、Y方向に走査される荷電粒子線Rがディグレーダ50内の通過距離を一定または略一定にすることができる。なお、上流側面51〜55
及び下流側面50bを湾曲面に代えて、
図6に示すような階段状の面としてもよい。
【0071】
なお、ディグレーダ50は、上流側面のみはX方向の外側の一方に向かうに従って段階的に上流側に位置する部分(
図9(a)の基軸AXよりも紙面右側)を有しているものの、下流側面50bはX方向の外側に向かっても上流側に位置しておらず、ディグレーダ50の厚さはX方向の外側の一方に向かうに従って増加するような構成となっている。このような形状は、本願発明における「ディグレーダが、走査方向における外側へ向かうに従って、荷電粒子線の上流側に位置する」ような形状には該当しないものとする。