(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記監視部は、少なくとも1つの加熱源での差ΔEが下限値ΔEminを下回る場合(ΔE<ΔEmin)、少なくとも1つのゾーンの設定温度を高くする、請求項2又は3に記載の射出成形機。
前記監視部は、少なくとも1つの加熱源での差ΔEが上限値ΔEmaxを超える場合(ΔE>ΔEmax)、少なくとも1つのゾーンの設定温度を調整する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の射出成形機。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において、同一の又は対応する構成については同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態による射出成形機を示す図である。以下、樹脂の射出方向を前方とし、樹脂の射出方向とは反対方向を後方として説明する。
【0011】
射出成形機10は、シリンダ11内で溶融した樹脂をノズル12から射出し、金型装置内のキャビティ空間に充填する。金型装置は固定金型及び可動金型で構成され、型締め時に固定金型と可動金型との間にキャビティ空間が形成される。キャビティ空間で冷却固化された樹脂は、型開き後に成形品として取り出される。成形材料としての樹脂ペレットは、ホッパ16からシリンダ11の後部に供給される。
【0012】
尚、ホッパ16の代わりに、シリンダ11に樹脂ペレットを定量供給する材料供給装置(例えばスクリュフィーダ)が設けられてもよい。
【0013】
射出成形機10は、シリンダ11内に配設されるスクリュ13を回転させる計量用モータ41を備える。計量用モータ41は、サーボモータであってよい。計量用モータ41の回転は、ベルトやプーリ等の連結部材42を介して、射出軸43に伝えられ、スクリュ13が回転される。そうすると、スクリュ13のフライト(ねじ山)が動き、スクリュ13のねじ溝内に供給された樹脂が前方に送られる。
【0014】
射出成形機10は、スクリュ13を軸方向に移動させる射出用モータ51を備える。射出用モータ51は、サーボモータであってよい。射出用モータ51の回転はボールねじ軸52に伝えられる。ボールねじ軸52の回転により前後進するボールねじナット53はプレッシャプレート54に固定されている。プレッシャプレート54は、ベースフレーム(図示せず)に固定されたガイドバー55、56に沿って移動可能である。プレッシャプレート54の前後進運動は、ベアリング57、樹脂圧力検出器(例えばロードセル)58、射出軸43を介してスクリュ13に伝えられ、スクリュ13が進退される。スクリュ13の進退量は、プレッシャプレート54に取り付けられる位置検出器59で検出される。
【0015】
射出成形機10の動作は、コントローラ60によって制御される。コントローラ60は、CPU及びメモリ等で構成され、メモリ等に記憶されたプログラムをCPUで実施させることにより、各種機能を実現する。コントローラ60は、例えば計量工程を制御する計量処理部61、充填工程を制御する充填処理部62を備える。
【0016】
次に、射出成形機10の動作について説明する。
【0017】
計量工程では、計量処理部61が、計量用モータ41を回転駆動し、スクリュ13を回転させる。そうすると、スクリュ13のフライト(ねじ山)が動き、スクリュ13のねじ溝内に供給された樹脂ペレットが前方に送られる。樹脂は、シリンダ11内を前方に移動しながら、シリンダ11からの熱等で加熱され、シリンダ11の先端部において完全に溶融した状態となる。そして、スクリュ13の前方に溶融樹脂が蓄積されるにつれ、スクリュ13は後退する。スクリュ13が所定距離後退し、スクリュ13の前方に所定量の樹脂が蓄積されると、計量処理部61は計量用モータ41の回転を停止させ、スクリュ13の回転を停止させる。
【0018】
充填工程では、充填処理部62が、射出用モータ51を回転駆動し、スクリュ13を前進させ、型締め状態の金型装置内のキャビティ空間に溶融樹脂を押し込む。スクリュ13が溶融樹脂を押す力は、樹脂圧力検出器58により反力として検出される。つまり、スクリュ13にかかる樹脂圧力(樹脂の射出圧)が検出される。キャビティ空間で樹脂が冷却によって収縮するので、熱収縮分の樹脂を補充するため、保圧工程では、スクリュ13にかかる樹脂圧力(樹脂の射出圧)が所定の圧力に保たれる。
【0019】
図2は、本発明の一実施形態による射出成形機の要部を示す図である。
【0020】
射出成形機10は、シリンダ11と、シリンダ11内で樹脂を送るスクリュ13と、シリンダ11を加熱する複数の加熱源H
1〜H
4と、シリンダ11の後部を冷却する冷却装置30とを備える。
【0021】
スクリュ13は、シリンダ11内に回転自在に且つ軸方向に移動自在に配設される。スクリュ13は、スクリュ回転軸14と、スクリュ回転軸14の周りに螺旋状に設けられるフライト15とを一体的に有する。スクリュ13が回転すると、スクリュ13のフライト15が動き、スクリュ13のねじ溝内に供給された樹脂ペレットが前方に送られる。
【0022】
スクリュ13は、例えば
図2に示すように、軸方向に沿って後方(ホッパ16側)から前方(ノズル12側)にかけて、供給部13a、圧縮部13b、計量部13cとして区別される。供給部13aは、樹脂を受け取り前方に搬送する部分である。圧縮部13bは、供給された樹脂を圧縮しながら溶融する部分である。計量部13cは、溶融した樹脂を一定量づつ計量する部分である。スクリュ13のねじ溝の深さは、供給部13aで深く、計量部13cで浅く、圧縮部13bにおいて前方に向かうほど浅くなっている。尚、スクリュ13の構成は特に限定されない。例えばスクリュ13のねじ溝の深さは、一定であってもよい。また、スクリュ圧縮比が一定であってもよい。スクリュ圧縮比はねじ溝の容積比のことであり、ねじ溝の深さ、フライトピッチ、フライト幅等で決まる。
【0023】
加熱源H
1〜H
4としては、例えばシリンダ11を外側から加熱するヒータが用いられる。ヒータは、シリンダ11の外周を囲むように設けられる。
【0024】
複数の加熱源H
1〜H
4は、シリンダ11の軸方向に沿って配列され、シリンダ11を軸方向に複数のゾーン(
図3では4つのゾーンZ
1〜Z
4)に分けて個別に加熱する。各ゾーンZ
1〜Z
4の温度が設定温度になるように、複数の加熱源H
1〜H
4がコントローラ60によってフィードバック制御される。各ゾーンZ
1〜Z
4の温度は、温度センサS
1〜S
4により測定される。尚、ノズル12にも加熱源が設けられてよい。
【0025】
冷却装置30は、複数の加熱源H
1〜H
4よりも後方に設けられる。冷却装置30は、シリンダ11の後部を冷却し、シリンダ11の後部やホッパ16内で樹脂ペレットのブリッジ(塊化)が生じないように、樹脂ペレットの表面が溶融しない温度にシリンダの後部の温度を保つ。冷却装置30は、水や空気等の冷媒の流路31を有する。
【0026】
図3は、設定温度が低温のときの、成形時の加熱エネルギーEm
nと、定常時の加熱エネルギーEi
nとの差ΔE
n(ΔE
n=Em
n−Ei
n)の一例を示す図である。
図3において、斜線は、ゾーンZ
3の設定温度を10℃上げ、ゾーンZ
4の設定温度を20℃上げたときの変化を示す。Em
n、Ei
n、ΔE
nの番号nは、加熱源H
nが設けられるゾーンZ
nの番号nを表す。ゾーンZ
nの番号n(
図3ではn=1、2、3、4)が大きくなるほど、ゾーンZ
nの位置が冷却装置30から遠くなる。ここで、「定常時」とは、スクリュ停止状態でシリンダ11の温度を設定温度に維持する時を意味する。
【0027】
成形時の加熱エネルギーEm
nは、所定時間(例えば1回の成形、或いは1回の計量工程等)の間に加熱源H
nがゾーンZ
nに供給するエネルギー(J)のことである。成形時の加熱エネルギーEm
nは、加熱源H
nがヒータの場合、ヒータが上記所定時間の間に消費する電力量と等価である。電力量は、加熱源H
nに接続される電力量計P
nにより測定される。
【0028】
成形時には、スクリュ13の動作によって樹脂に剪断熱が生じる。樹脂の剪断熱は、スクリュ13が回転しながら後退する計量工程で主に発生する。樹脂の剪断熱量がある程度多くなると、樹脂からシリンダ11に熱が移動するようになる。また、成形時には、ホッパ16からシリンダ11に新たな樹脂ペレットが順次供給され、シリンダ11と樹脂との間で熱がやり取りされる。
【0029】
定常時の加熱エネルギーEi
nは、上記所定時間と同じ時間の間に加熱源H
nがゾーンZ
nに供給する
エネルギー(J)のことである。定常時の加熱エネルギーEi
nは、成形開始直前に、電力量計P
nにより測定されてよい。成形開始直前に、シリンダ11の温度は設定温度で安定化している。尚、定常時の加熱エネルギーEi
nは、シミュレーション等により算出することも可能である。
【0030】
定常時には、スクリュ13が停止しているので、樹脂に剪断熱が生じない。また、定常時には、ホッパ16からシリンダ11に新たな樹脂ペレットが供給されないので、シリンダ11内に樹脂が残っていても、成形時に行われるシリンダ11と樹脂との間での熱のやり取りはほとんどない。
【0031】
コントローラ60は、加熱源H
n毎に、成形時の加熱エネルギーEm
nと、定常時の加熱エネルギーEi
nとの差ΔE
n(ΔE
n=Em
n−Ei
n)を監視する監視部63を備える。差ΔE
nが正の場合、ゾーンZ
nの温度を設定温度に保つための加熱源H
nの熱量が増えており、加熱源H
nの熱がシリンダ11を介して樹脂に移動している。従って、差ΔE
nが正であることは、ゾーンZ
nにおいてシリンダ11の熱が樹脂に移動していることを示している。一方、差ΔE
nが負の場合、ゾーンZ
nの温度を設定温度に保つための加熱源H
nの熱量が減っており、樹脂の熱がゾーンZ
nに流れ込んでいる。従って、差ΔE
nが負であることは、ゾーンZ
nにおいて樹脂の熱がシリンダ11に移動していることを示している。樹脂の剪断熱量が大きくなるほど、差ΔE
nが小さくなる。このように、差ΔE
nから、成形時に樹脂で生じる定性的な剪断熱量、成形時におけるシリンダ11と樹脂との間での熱の移動方向や移動量がわかり、シリンダ11内の樹脂の状態がわかる。
【0032】
図3に示すように、各ゾーンZ
nの設定温度が一律に低い温度であると、スクリュ動作時に樹脂が強く剪断され、樹脂に生じる剪断熱量が増える。樹脂に生じる剪断熱量は、加熱源の加熱量と異なり、制御困難である。
【0033】
そこで、監視部63は、監視結果に基づいて、加熱源H
nによって加熱されるゾーンZ
nの設定温度を調整してよい。監視部63は、少なくとも1つの加熱源H
nでの差ΔE
nが下限値ΔEmin
nを下回る場合(ΔE
n<ΔEmin
n)、少なくとも1つのゾーンH
nの設定温度を高くする。設定温度をどの程度高くするかは、差ΔE
nが下限値ΔEmin
nをどの程度下回るかに基づいて決定されてよい。
【0034】
例えば、監視部63は、
図3に斜線で示すように、差ΔE
nが下限値ΔEmin
nを下回るゾーン(
図3の場合、ゾーンZ
3、Z
4)の設定温度を高くする。加熱源H
3、H
4の出力が高くなり、ゾーンZ
3、Z
4における樹脂の温度が高くなり、溶融した樹脂の粘度が下がるため、樹脂に生じる剪断熱を低減でき、シリンダ温度の安定性を向上できる。
【0035】
尚、監視部63は、差ΔE
nが下限値ΔEmin
nを下回るゾーンZ
3、Z
4よりも冷却装置30に近いゾーンZ
1、Z
2の設定温度を高くしてもよい。シリンダ11内を前方に移動する樹脂がゾーンZ
3に到達するまでに十分に温められ、樹脂に生じる剪断熱量を低減できる。ゾーンZ
3、Z
4の設定温度の変更が困難な場合に、特に有効である。
【0036】
尚、下限値ΔEmin
nは、
図3では複数の加熱源H
nで同じ値に設定されているが、加熱源H
n毎に異なる値に設定されてもよい。
【0037】
図4は、設定温度が高温のときの、成形時の加熱エネルギーEm
nと、定常時の加熱エネルギーEi
nとの差ΔE
nの一例を示す図である。
図4において、斜線は、ゾーンZ
1の設定温度を20℃下げ、ゾーンZ
2の設定温度を10℃下げたときの状態を示す。
【0038】
図4に示すように、各ゾーンZ
nの設定温度が一律に高い温度であり、加熱源H
nの加熱量が多く、樹脂の剪断熱量が少ないと、全てのゾーンで、シリンダ11から樹脂に熱が移動する。その移動量は、冷却装置30に近いゾーンほど多くなる。シリンダ11から樹脂への熱の移動量が多すぎると、加熱源H
nの出力が定格出力に達しているか、定格出力近くになっていることがある。
【0039】
そこで、監視部63は、少なくとも1つの加熱源H
nにおける差ΔE
nが上限値ΔEmax
nを超える場合(ΔE
n>ΔEmax
n)、少なくとも1つのゾーンH
nの設定温度を調整する。調整量は、差ΔE
nが上限値ΔEmax
nをどの程度超えるかで決定されてよい。
【0040】
例えば、監視部63は、
図4に斜線で示すように、差ΔE
nが上限値ΔEmax
nを超えるゾーンZ
n(
図4の場合、ゾーンZ
1、Z
2)の設定温度を低くする。加熱源H
1、H
2がシリンダ11に与えるべき熱量が少なくなり、加熱源H
1、H
2の出力が定格出力よりも十分に低くなり、シリンダ11の温度が設定温度で安定化する。
【0041】
尚、監視部63は、差ΔE
nが上限値ΔEmax
n以下のゾーンZ
n(
図4の場合、ゾーンZ
3、Z
4)の設定温度を高くし、加熱源H
3、H
4の出力を上げてもよい。隣り合うゾーンの間では熱のやり取りがあるので、余力のある加熱源H
3、H
4の出力を上げることで、余力のない加熱源H
1、H
2の出力を下げることができる。
【0042】
尚、上限値ΔEmax
nは、
図4では複数の加熱源H
nで同じ値に設定されているが、加熱源H
n毎に異なる値に設定されてもよい。
【0043】
以上、射出成形機について実施形態で説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲内で、種々の変形、改良が可能である。
【0044】
例えば、上記実施形態の加熱源H
1〜H
4は、シリンダ11を外側から加熱するヒータであるが、例えばシリンダ11を誘導加熱する誘導加熱コイルでもよく、加熱源の種類は特に限定されない。
【0045】
また、上記実施形態の射出成形機は、スクリュ・インライン方式のものであるが、スクリュ・プリプラ方式のものでもよい。スクリュ・プリプラ方式では、可塑化用シリンダ内で溶融された樹脂を射出用シリンダに供給し、射出用シリンダから金型装置内に溶融樹脂を射出する。スクリュ・プリプラ方式では、加熱源によって加熱されるシリンダは可塑化用シリンダであって、可塑化用シリンダ内にスクリュが配設される。