(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917384
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20160422BHJP
H01F 7/20 20060101ALI20160422BHJP
G01M 17/08 20060101ALI20160422BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20160422BHJP
B60L 13/04 20060101ALN20160422BHJP
【FI】
G01M7/00 AZAA
H01F7/20 E
G01M17/00 F
G01M17/00 P
!B60L13/04 Z
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-274327(P2012-274327)
(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公開番号】特開2014-119336(P2014-119336A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 紀之
(72)【発明者】
【氏名】田中 実
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−275604(JP,A)
【文献】
特開2007−081068(JP,A)
【文献】
特開2011−038817(JP,A)
【文献】
特開2012−078314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
G01M 17/007
G01M 17/08
H01F 7/20
B60L 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導磁気浮上式鉄道の地上コイルを加振用治具を介した動電型加振装置にボルトで締結し、その地上コイルの加振周波数による慣性力を求めることにより、そのボルト締結部近傍の発生応力を電磁加振時と等価とするようにし、電磁加振力の代替として慣性力を利用する動的加振を行うことを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法。
【請求項2】
請求項1記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、モーダル解析結果を元にした加振条件にて動的耐久性試験を行うことを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法。
【請求項3】
請求項1記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、前記ボルト締結部毎に非対称な加振力を付加することを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法。
【請求項4】
請求項1記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、前記ボルト締結部毎に事前解析に基づく加振位相差にて加振力を付加することを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法。
【請求項5】
請求項1記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、耐候性試験装置内に前記動電型加振装置を設置することにより、外部より負荷される環境劣化要因を加味することを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法。
【請求項6】
請求項5記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、前記環境劣化要因が紫外線照射や温度変化、湿度変化、散水であることを特徴とする超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルのボルト締結部やケーブル接続部の性能評価に係わり、当該部位の動的耐久性を製品レベルで評価する方
法に関するものである。慣性力を利用した動的耐久性試験方
法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法としては、以下のようなものがある。
【0003】
(1)油圧式疲労試験機
供試体を固定し、載荷治具を介して所定の箇所に所定の荷重を繰り返し加える方法で、一般的な機械的耐久性試験方法である。加振周波数が20Hz以下、分布荷重が加えられない等、超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験としては、実使用時との等価性に劣る試験方法である。
【0004】
(2)電磁加振試験
地上コイルの動的耐久性を検証する手段としては、超電導磁石磁場を利用した電磁加振試験が一般的である。励磁した超電導磁石に地上コイルを対向設置し、外部のインバータ電源から任意の電流値、周波数の交流電流を通電することにより、地上コイルのコイル導体に加振力を発生させるものである。加振周波数や加振力を任意に設定できる上に、コイル導体に分布荷重が加えられるため、実使用時との等価性に優れた耐久性試験方法である。
【0005】
図9は従来の超電導磁石磁場を利用した電磁加振試験装置を示す図面代用写真である。
【0006】
地上コイルの動的耐久性を検証する手段としては、この図に示すような超電導磁石による超電導磁石磁場を利用した地上コイルの電磁加振試験が一般的である。当該試験は、地上コイルへの分布荷重や加振周波数において、実走行との等価性に優れている。
【0007】
また、本願発明者らは、超電導磁気浮上式鉄道の地上コイルのモールド材を対象に、任意の周波数での加振が可能な超電導磁石磁場を利用した電磁加振疲労試験装置を提案している(下記特許文献1参照)。
【0008】
さらに、本願発明者らは、超電導磁気浮上式鉄道の地上コイルのモールド材を対象に、駆動源として動電型振動発生装置を用いて材料試験片に曲げ疲労負荷を与えて疲労試験を実施する、動電型振動発生装置を用いた周波数可変疲労試験装置を提案している(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−38816号公報
【特許文献2】特開2011−38817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
(1)油圧式疲労試験機の場合は、載荷試験用治具を介して比較的簡易に耐久性試験が行える反面、以下の問題点を有している。
【0011】
(i)磁気浮上式鉄道用地上コイルのように比較的剛性の小さい供試体では、載荷による変位量が大きく、加振周波数をせいぜい20Hz程度にしか上げられず、高速走行を模擬した動的耐久性試験用途には適用できない。
【0012】
(ii)試験構成上、供試体に分布負荷を加えることができず、実使用時との等価性において劣る試験方法である。
【0013】
(2)電磁加振試験の場合は、実使用時との等価性に優れた試験方法である反面、以下の問題点を有している。
【0014】
(i)強磁場発生用超電導磁石や励磁電源、地上コイルへの通電用大容量インバータ、コイル取付架台、交流磁場遮蔽板、地上コイル冷却設備等の付帯設備が必要となり、高価な所要設備を整備する必要がある。
【0015】
(ii)インバータからの通電による地上コイルの温度上昇が著しいため、冷却を併用しながら通電(例えば5分間に数秒程度)が前提となり、高周波での加振が可能である割に耐久性試験では長時間を要する。
【0016】
(iii)事前準備を含め試験に要する費用や労力が大きく、簡易な評価試験とは言い難い。
【0017】
本発明は、上記状況に鑑みて、大掛かりな試験設備を必要とせず、安価に検証試験が可能であり、地上コイルに発熱を伴わないため、連続加振が可能であり、試験期間を大幅に短縮できる、超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、超電導磁気浮上式鉄道の地上コイルを加振用治具を介した動電型加振装置にボルトで締結し、
その地上コイルの加振周波数による慣性力を求めることにより、そのボルト締結部近傍の発生応力を電磁加振時と等価とするようにし、電磁加振力の代替として慣性力を利用する動的加振を行うことを特徴とする。
【0019】
〔2〕上記〔1〕記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、モーダル解析結果を元にした加振条件にて動的耐久性試験を行うことを特徴とする。
【0020】
〔3〕上記〔1〕記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、前記ボルト締結部毎に非対称な加振力を付加することを特徴とする。
【0021】
〔4〕上記〔1〕記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、前記ボルト締結部毎に事前解析に基づく加振位相差にて加振力を付加することを特徴とする。
【0022】
〔5〕上記〔1〕記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法において、耐候性試験装置内に前記動電型加振装置を設置することにより、外部より負荷される環境劣化要因を加味することを特徴とする。
【0023】
〔6〕上記〔5〕記載の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験
方法において、前記環境劣化要因が紫外線照射や温度変化、湿度変化、散水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0025】
(1)動電型加振装置及び加振用治具があれば、大掛かりな試験設備を必要としないため、安価に検証試験が可能である。
【0026】
(2)地上コイルに発熱を伴わないため、連続加振が可能であり、試験期間を大幅に短縮(例えば約3カ月→約40時間)が可能となる。
【0027】
(3)地上コイルの動的耐久性試験に関しては、これまで特殊試験と位置づけられ、製品の開発段階における設計妥当性の検証や完成品の健全度確認用途として限定的に用いられてきたが、コイルメーカーでの自主開発や出荷検査用途にも多用でき、製品の品質向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施例を示す慣性力を利用した超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験装置である。
【
図2】本発明にかかる加振周波数による慣性力特性図である。
【
図3】本発明にかかる加振変位による慣性力特性図である。
【
図4】本発明にかかる実機コイルの機械加振状況を示す図面代用写真である。
【
図5】加振後(35年相当)の締結部の外観を示す図である。
【
図7】応用試験例としてハンマリング試験状況を示す図である。
【
図8】3D表示〔コンプレックス〕100Hz(軸力50%)を示す図である。
【
図9】従来の超電導磁石磁場を利用した電磁加振試験装置を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法は、超電導磁気浮上式鉄道の地上コイルを加振用治具を介した動電型加振装置にボルトで締結し、
その地上コイルの加振周波数による慣性力を求めることにより、そのボルト締結部近傍の発生応力を電磁加振時と等価とするようにし、電磁加振力の代替として慣性力を利用する動的加振を行う。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
図1は本発明の実施例を示す慣性力を利用した超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験装置である。
【0032】
この図において、地上コイル1をボルト3にてボルト締結し、地上コイル1のボルト締結部2に動電型加振装置4に加振用治具5を介して地上コイル1のボルト締結部2
に強制加振力を加える。したがって、地上コイル1のボルト締結部2を強制加振することにより、地上コイル1の質量に比例した慣性力を与えるようにした。
【0033】
このように、従来の電磁加振力の代替として慣性力を利用することにより、動的加振源とする。
【0034】
図2は本発明にかかる加振周波数による慣性力特性図であり、コイル質量;100kg、加振変位:1mm、横軸に加振周波数(Hz)、縦軸に慣性力(kN)を示している。
【0035】
また、
図3は本発明にかかる加振変位による慣性力特性図であり、コイル質量;100kg、加振周波数:100Hz、横軸に加振変位(mm)、縦軸に慣性力(kN)を示している。
【0036】
ここで、F:慣性力、m:コイルの質量(kg)、α:加速度、ω:角速度(rad/s)、x:加振変位(m)であり、
x=Asinωt
v=Aωcosωt
α=−Aω
2 sinωt=−ω
2 x
F=mα
次に、動電型加振機による検証について説明する。
【0037】
図4は実機コイルの機械加振状況を示す図面代用写真である。
【0038】
加振条件は(1)実機コイルを上記したように動電型加振機に締結する。
【0039】
(2)実機コイルの締結部近傍の発生応力を電磁加振時と等価に設定する。つまり、この図に示すように、実機コイル11を加振用治具12を介した動電型加振機13での機械加振を行う。
【0040】
図5は加振後(35年相当)の締結部の外観を示す図であり、
図5(a)は積層型FRPブッシュ(締結部)、
図5(b)は金属ブッシュ(締結部)を示す図である。
【0041】
図6は締結部近傍の振動加速度を示す図であり、
図6(a)は締結部(積層型FRPブッシュ)近傍の振動加速度、
図6(b)は締結部(金属ブッシュ)近傍の振動加速度を示す図である。
【0042】
これらの図から明らかなように、積層型FRPブッシュの方が同一形状の金属ブッシュに比べて顕著な優位性を示している。
【0043】
次に、モーダル解析結果を元にした動的耐久性試験について説明する。
【0044】
図7は応用試験例としてハンマリング試験状況を示す図、
図8は3D表示〔コンプレックス〕100Hz(軸力50%)を示す図であり、ここでは、打点は7、測定点は(1)〜(8)であり、測定点(5)と(6)は緩み模擬10,20,50%と設定している。
【0045】
(i)ボルト締結部〔例えば、上コイル(2),(3)と下コイル(5),(6)〕に非対称な加振力を付加する。
【0046】
(ii) ボルト締結部毎〔例えば、上コイル(2),(3)と下コイル(5),(6)〕に事前解析に基づく加振位相差にて加振力を付加する。
【0047】
(iii) 耐候性試験装置内に動電型加振装置を設置することにより、紫外線照射や温度変化、湿度変化、散水との複合試験が可能となる。
【0048】
本発明によれば、
(1)動電型加振装置及び加振用治具があれば、大掛かりな試験設備を必要としないため、安価に検証試験が可能である。
【0049】
(2)地上コイルに発熱を伴わないため、連続加振が可能であり、試験期間
の大幅
な短縮(例えば約3カ月→約40時間)が可能となる。
【0050】
(3)地上コイルの動的耐久性試験に関しては、これまで特殊試験と位置づけられ、製品の開発段階における設計妥当性の検証や完成品の健全度確認用途として限定的に用いられてきたが、コイルメーカーでの自主開発や出荷検査用途にも多用でき、製品の品質向上が期待できる。
【0051】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法及び試験装置は、大掛かりな試験設備を必要とせず、安価に検証試験が可能であり、地上コイルに発熱を伴わないため、連続加振が可能であり、試験期間を大幅に短縮できる、超電導磁気浮上式鉄道用地上コイルの動的耐久性試験方法及び試験装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 地上コイル
2 地上コイルのボルト締結部
3 ボルト
4,13 動電型加振装置
5,12 加振用治具
11 実機コイル