特許第5917450号(P5917450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917450
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】筋量増加剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20160422BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20160422BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20160422BHJP
   A61Q 90/00 20090101ALI20160422BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALN20160422BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20160422BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61P21/00
   A61K8/97
   A61Q90/00
   !A61K36/9068
   !A23L1/30 B
   !A23L1/30 Z
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-138458(P2013-138458)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-10078(P2015-10078A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年7月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505432636
【氏名又は名称】日本タブレット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】山地 亮一
(72)【発明者】
【氏名】林 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴則
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/172681(WO,A1)
【文献】 Journal of Ethnopharmacology,2011年,137(3),pp.1437-1441
【文献】 Physiological Reviews,2008年,Vol.88,No.2,pp.729-767
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/352
A61K 8/97
A61P 21/00
A61Q 90/00
A23L 33/10
A61K 36/9068
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学式1(但し、R、R、Rはいずれも−H又は−OMe、Rは−OHである。)で示されるメトキシフラボンを有効成分とする筋量増加剤。
【化1】
【請求項2】
5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボンからなる群から選ばれる1又は2以上の化合物を有効成分とする筋量増加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筋量増加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医学の進歩により平均寿命が延びた結果、日本を含む先進諸国では急速に高齢化が進んでいる。高齢化に伴って生じる運動器の障害により高齢者の生活の質が著しく低下するだけでなく、介護が必要な高齢者が増加するという大きな社会問題が発生している。そのために骨格筋の維持や増加は重要な課題である。
【0003】
骨格筋はヒトの体重の約40%を占める最も大きな組織であり、骨格筋は姿勢の保持や運動器としての機能だけではなく、糖の取り込みやエネルギー代謝の役割も担っている。骨格筋(筋肉)は、組織染色や形態的な違いをもとに、大きく赤色の遅筋型(type1)と白色の速筋型(type2)に分類される。遅筋型はミオグロビンとミトコンドリアを多く含み、主に酸素を用いたエネルギー代謝を行うため持久力のある筋肉である。一方、速筋型は解糖系を用いたエネルギー代謝を行うため、瞬発力のある筋肉である。
【0004】
骨格筋を維持又は増加するためにはタンパク合成の促進やタンパク分解の抑制が重要である。近年、これらの作用をもつ機能性食品成分の探索が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1にはジュニパーベリー抽出物、ユッカ抽出物、バジル抽出物、マスタードオイル、ムラサキトウモロコシ色素、トコフェロール類が筋量、特に速筋の量を増加させることが示されている。特許文献2には紅茶の抽出物が筋量を増加させることや筋萎縮を抑制することが示されている。特許文献3には甘草の疎水性抽出物が、特許文献4にはハナビラタケ科の茸類又はその抽出物がそれぞれ筋肉量を増加させることが示されている。そして、非特許文献1にはロイシンがタンパク質の合成を促進することが、非特許文献2にはケルセチンが廃用性の筋萎縮を抑制することが示されている。
【0006】
ところで、黒ショウガ(Kaempferia parviflora)は、別名黒ウコンとも称され、原産国であるタイではクラムチャイダム(Krachai Dam)とも呼ばれる。黒ショウガは薬用植物の一つであり、抗糖尿病、アンチエージング、滋養強壮、強精、抗疲労、美容、美肌、抗うつ、抗ウイルス、消化器病改善などを目的として幅広く使用されている。また、近年では、抗アレルギー作用や抗肥満、抗高脂血症作用、キサンチンオキシダーゼ阻害作用や5α−レダクターゼ阻害作用、血小板凝集抑制作用を有することも報告されている(例えば特許文献5〜7)。
【0007】
黒ショウガにおいてこれらの作用を発揮する活性物質についての解明は十分ではなく、特許文献6に5,7-ジメトキシフラボン、5,7,3',4'-テトラメトキシフラボン、3,5,7,6,4-ペンタメトキシフラボンがキサンチンオキシダーゼ阻害作用や5α−レダクターゼ阻害作用を有することが示されているに過ぎない。
【0008】
また、これまでのところ、黒ショウガ又はその抽出物が筋肉量を増加することやメトキシフラボン化合物が筋肉量を増加することの報告はみあたらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−100272号公報
【特許文献2】特開2013−091608号公報
【特許文献3】特開2012−193157号公報
【特許文献4】特開2009−062346号公報
【特許文献5】特開2010−209051号公報
【特許文献6】特開2011−236133号公報
【特許文献7】特開2012−153671号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Casperson SL et al., Leucine supplementation chronically improves muscle protein synthesis in older adults consuming the RDA for protein., Clin Nutr. 31(4), 2012, p.512-9
【非特許文献2】Mukai R et al., Quercetin Prevents Unloading-Derived Disused Muscle Atrophy by Attenuating the Induction of Ubiquitin Ligases in Tail-Suspension Mice. J. Nat. Prod. 73, 2010, p.1708-1710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、食用可能な天然物由来の新規筋量増加剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る筋量増加剤は黒ショウガ及び/は黒ショウガに含まれる化学式1で示される化合物を有効成分とする。


【発明の効果】
【0013】
本発明によると、食材由来の新規な筋量増加剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1はC2C12細胞におけるメトキシフラボンの筋分化に対する影響を示す画像である。上から順にそれぞれMyHC(ミオシン重鎖)、TPM(トロポミオシン)、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)の発現量を示す。Vehは対照、aは5,7,3',4'-テトラメトキシフラボン、bは3,5,7,3'4'-ペンタテトラメトキシフラボン、cは5,7-ジメトキシフラボン、dは5,7,4'-トリメトキシフラボン、eは3,5,7-トリメトキシフラボン、fは3,5,7,4'-テトラメトキシフラボン、gは5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン、hは5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、iは5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、jは5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボンを示す。
図2図2はC2C12細胞の形態に対するメトキシフラボンの影響を示す図である。Aは抗MyHC抗体と反応した筋管細胞の観察画像、Bは抗MyHC抗体と反応した筋管細胞の数をDAPI(核)の数で補正して数値化したグラフ、Cは抗MyHC抗体と反応した筋管細胞の横幅を数値化したグラフである。Vehは対照、aは5,7,3',4'-テトラメトキシフラボン、bは3,5,7,3'4'-ペンタテトラメトキシフラボン、cは5,7-ジメトキシフラボン、dは5,7,4'-トリメトキシフラボン、eは3,5,7-トリメトキシフラボン、fは3,5,7,4'-テトラメトキシフラボン、gは5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン、hは5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、iは5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、jは5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボンを示す。
図3図3はC2C12細胞における7-メトキシ基を持つメトキシフラボンの筋分化に対する影響を示す図である。AはMyHC、TPM、GAPDHの発現量を示す画像、Bは抗MyHC抗体で染まった筋管細胞の観察画像、Cは抗MyHC抗体で染まった筋管細胞の横幅を数値化したグラフである。Vehは対照、hは5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、HFは5-ヒドロキシフラボン、DHFは5,7-ジヒドロキシフラボンを示す。
図4図4は5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンの筋芽細胞分化促進作用を示す図である。A、BそれぞれはMyHC、TPM、GAPDHの発現量を示す画像であって、Aは濃度依存性を、Bは時間依存性を示す画像である。Vehは対照、hは5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンを示す。
図5図5はマウス骨格筋重量に及ぼすメトキシフラボンの影響を示すグラフである。QUはddYマウスの大腿四頭筋、TAはその前脛骨筋、EDLはその長趾伸筋、PLAはその足底筋、SOLはそのヒラメ筋、GASTはその腓腹筋、LAはその肛門括約筋を示す。Vehは対照、MFはメトキシフラボンの混合物である。
図6図6はSOL重量に及ぼすメトキシフラボンの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る筋量増加剤は、黒ショウガ(Kaempferia parviflora)及び/又は黒ショウガの抽出物を有効成分とする。黒ショウガの使用部位は特に限定されず。例えば、花、花弁、葉、茎、根、根茎の何れでもよい。また、各部位を単独で用いてもよく、各部位を混合して用いてもよい。本発明では、根茎が好ましく用いられる。使用される黒ショウガは非乾燥物(生のまま)であり、乾燥物でもあり得る。
【0016】
本発明に係る筋量増加剤の有効成分は、植物の形態を保持した黒ショウガ(植物体)であり、刻んだ黒ショウガであり、粉末状の黒ショウガであり得る。また、黒ショウガを任意の溶媒で抽出した抽出物でもあり得る。製剤上の観点からは、粉末状の乾燥黒ショウガ及び/又は黒ショウガ抽出物が好ましく用いられる。また、本発明では、黒ショウガの抽出物と黒ショウガを併用したり、さらに黒ショウガの抽出物及び/又は黒ショウガに、後述するメトキシフラボンを併用することもできる。
【0017】
乾燥条件は生薬の製造に適用される通常の条件であればよく、乾燥方法は自然乾燥や乾燥機を用いた人工的な乾燥方法、或いは両者の併用でもよい。
【0018】
抽出物の製造方法も特に制約されることはなく、当業者が適宜選択できる。例えば、加温して抽出する温浸法、加温することなく抽出する冷浸法、臨界条件で抽出を行う臨界抽出法が例示される。また、抽出温度などの抽出条件も当業者が適宜決定できる。抽出温度は、例えば10〜30℃であり、50〜70℃であり、70〜100℃であり得る。抽出に際して用いられる黒ショウガは、好ましくは乾燥された黒ショウガであり、さらに好ましくは刻み加工や粉末加工された乾燥黒ショウガである。
【0019】
抽出溶媒も特に制約されることはなく当業者が適宜選択できる。抽出溶媒は、水や有機溶媒であり得る。有機溶媒は親水性溶媒又は親油性溶媒のいずれでもよい。有機溶媒は、例えば、メタノールやエタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどの炭素数が4以下の親水性アルコール類であり、炭素数がそれ以上の親油性アルコール類であり、メチルエーテルやエチルエーテルなどのエーテル類であり、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素類であり、エチレングリコールやプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類であり得る。これらの抽出溶媒のうち、1種の溶媒又は2種以上の混合溶媒が抽出に用いられる。本発明においては、下記に述べるように、メトキシフラボンが筋量増加作用を示すことから、メトキシフラボンが抽出されやすい溶媒が好ましく選択される。この観点から、抽出溶媒として、水、エタノール、メタノールなどの親水性溶媒の1種又は2種の混合溶媒が好適である。有機溶媒の濃度は特に限定されず、10〜100v/v%、好ましくは30〜100v/v%、望ましくは50〜100v/v%、さらに望ましくは70〜100v/v%である。
【0020】
抽出操作は1回だけに限られず、抽出残渣に溶媒を加えて抽出操作を繰り返しても良い。このとき異なる溶媒を用いることもできる。また、有効成分である抽出物は、抽出操作により得られた抽出液であり、抽出液から溶媒を除去した濃縮物(濃縮エキス)であり、さらに乾燥を加えた乾燥濃縮物(乾燥エキス)でもあり得る。さらに、抽出物は、抽出操作により得られた抽出物に精製が加えられた抽出物(粗精製物)でもあり得る。精製方法も特に制約されず、2種以上の溶媒を用いた液液分配や吸着剤を用いたクロマトグラフィ(例えば、カラムクロマトグラフィや高速液体クロマトグラフィ)が例示される。
【0021】
また、本発明においては、次の化学式1(但し、R、R、Rはいずれも−H又は−OMe、Rは−OHである)で示されるメトキシフラボンを有効成分とすることができる。有効成分とされ得るメトキシフラボンは、5位の位置に水酸基を、7位の位置にメトキシ基を有するメトキシフラボンであり、さらに好ましくは5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボンである。本発明においては、これらの化合物のうちの1種又は2種以上の化合物が用いられる。これらの化合物は、黒ショウガから抽出、精製を経て得られる。また、全合成された化合物や各種のフラボノイドから半合成された化合物でもよい。
【0022】
【化1】
【0023】
本発明では、黒ショウガ(植物体)、黒ショウガの抽出物、化学式1に示すメトキシフラボンをそのまま筋量増加剤として用いられ得るが、適宜必要な担体と共に各種の組成物に調製される。組成物は、医薬組成物であり、食品組成物(いわゆる健康食品を含む)であり、化粧用組成物であり得る。組成物の形態も上記成分を配合できうる形態であれば特に限定されず、任意の形態が選択される。その形態は、例えば、液状であり、固形状であり、粉末状であり、ペースト状であり、ゲル状であり、クリーム状であり得る。医薬組成物の形態は、経口、非経口を問わず適用される形態であり、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、注射剤、点鼻剤、点眼剤、軟膏、硬膏、眼軟膏、ローション剤、クリーム剤、貼付剤、座剤であり得る。また、食品組成物は、例えば、清涼飲料水やアルコール飲料などの各種飲料、アイスクリームやバター、ヨーグルト、チーズなどの各種乳製品、ガムやキャンディ、ビスケット、スナックなどの菓子類、うどんやそば、ラーメンなどの麺類、おにぎりなどの米飯、パンであり得る。化粧用組成物は、例えば、乳液、クリーム、美容液、洗顔料、パック剤、ローション、日焼け止め、口紅、リップクリーム、洗口液、うがい薬、歯磨き類であり得る。これら組成物の調製方法も限定されず、常法に従って調製される。
【0024】
組成物に用いられる担体も、組成物の調製に必要とされるものであれば制限されることなく用いられる。担体は、例えば、デンプンやコーンスターチ、白糖、乳糖などの賦形剤であり、油脂やアルコール、水などの基剤であり、乳化剤であり得る。また、担体の他に上記組成物の調製に通常用いられる添加剤が使用され得る。使用され得る添加剤は、例えば、保存剤であり、滑沢剤であり、崩壊剤であり、コーティング剤であり、着色剤であり、着香剤であり、甘味剤であり得る。
【0025】
組成物に対する黒ショウガ、黒ショウガ抽出物、化学式1に示すメトキシフラボンの配合量は、組成物の形態や組成物の摂取量によっても適宜調整される。組成物中への配合量の下限は0.001%であり、0.01%であり、0.1%であり、1%であり、5%で有り得る。また、その上限は99.99%であり、99%であり、90%であり得る。黒ショウガや化学式1に示すメトキシフラボンなどの摂取量は、性別や年齢、体重、動物種によって適宜決定され得るが、その下限量は1日あたりメトキシフラボンとして0.001μgであり、0.01μgであり、0.1μgであり、1μgであり、10μgであり、0.1mgであり、0.5mgであり得る。また、その上限量は1日あたり、1gであり、100mgであり、10mgであり、5mgであり得る。
【0026】
本発明の筋量増加剤は、ヒトであるかヒトを除く動物であるかを問わず、筋肉量を増やす作用を有する。ここで、筋肉量を増やすとは、筋重量を増やすことを意味し、筋管細胞(筋肉繊維)の数の増大又は筋管細胞の肥大のいずれかが生じることの意味で用いられる。目的とする筋肉は、骨格筋と平滑筋のいずれでもよいが、好ましくは骨格筋である。また、筋肉は、遅筋(赤筋)、速筋(白筋)のいずれでもあり得るが、好ましくは遅筋である。骨格筋は、例えば大腿四頭筋であり、前脛骨筋であり、長趾伸筋であり、ヒラメ筋であり、足底筋であり、腓腹筋であり、肛門括約筋であり得るが、好ましくは、遅筋であるヒラメ筋である。
【0027】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限られることのないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0028】
(黒ショウガ抽出物の製造及びメトキシフラボンの調製)
黒ショウガ(Kaempferia parviflora)の根茎を粉砕した粉砕物1000gを70%メタノール(7000mL)により2時間加熱抽出を行った。この抽出操作は2回行った。得られた全ろ液を減圧濃縮して抽出物89gを得た。さらに、得られた抽出物から、特許文献6に記載の方法に準じて、合成吸着樹脂、シリカゲルを用いたゲルクロマトグラフィ及び逆相系HPLCを用いて下記表1に示す10種類のメトキシフラボン(a〜j)を得た。ただし表1中のR、R、R、Rはそれぞれ化学式1中の置換基に対応する。
【0029】
【表1】
【0030】
実験1.C2C12細胞におけるメトキシフラボンの筋分化に対する影響
メトキシフラボンがC2C12細胞における筋分化に与える影響を調べた。
まず、C2C12細胞がコンフルエントになった状態で、2%horse serum(HS)、100units/ml penicillin G sodium、100g/ml streptomycin、1.0g/l sodium bicarbonateを含むダルベッコ改変イーグル(D-MEM)培地(D-MEM培地(2%HS、+P/S))に交換し、以降2日毎にD-MEM培地(2%HS、+P/S)を交換し続けた。培地交換時に、dimethyl sulfoxide(DMSO)に溶解したメトキシフラボンを終濃度が10μMとなるように添加して細胞を分化誘導した。分化誘導8日後に細胞を溶解し、ウエスタンブロット法(セミドライ法)によりMyHCとTPM、GAPDHの発現量を調べた。内部標準にGAPDHを、対照(Veh)にDMSOを用いた。
【0031】
ウエスタンブロットは次の手順で行った。回収した細胞をリン酸緩衝液(PBS(-))
で洗浄した後、RIPA bufferと2×loading bufferを加えて超音波振動により細胞を破砕した。その後、98℃で2分間加熱して得られた溶液を電気泳動用の試料とした。Laemmliの方法に従いSDS-PAGE法により電気泳動を行った後、PVDF膜にトランスファーを行った。得られたPVDF膜にブロッキングを行った後、抗MyHCマウスモノクローナル抗体、抗TPMマウスモノクローナル抗体、抗GAPDHラビットポリクローナル抗体を1次抗体として抗原抗体反応を行った。次いで、HRP結合ヤギ抗マウスIgG、HRP結合ヤギ抗ラビットIgGを2次抗体として抗原抗体反応を行った。その後、PVDF膜をImmunobilonTM Western Chemiluminescent HRP Substrateに20秒間浸し、LAS-4000(GE Healthcare Bio-Sciences Corp., Piscataway, NJ, USA)により検出を行った。その結果を図1に示す。
【0032】
次に、24-wellsプレートに潘種したC2C12細胞がコンフルエントになった状態でD-MEM培地(2%HS、+P/S)に交換し、以降2日毎にD-MEM培地(2% HS、+P/S)を交換し続けた。培地交換時に、dimethyl sulfoxide(DMSO)に溶解したメトキシフラボンを終濃度が10μMとなるように添加して細胞を分化誘導した。対照(Veh)にDMSOを用いた。
【0033】
分化誘導8日目に4%のparaformaldehyde/PBS(-)で細胞を固定した。固定した細胞にブロッキングを行った後、抗MyHCマウスモノクローナル抗体を1次抗体として抗原抗体反応を行った。次いで、Alexa fluor結合抗マウスIgGを2次抗体として抗原抗体反応を行った後、蛍光顕微鏡を用いて2次抗体で染まった筋管細胞を観察した。その観察画像を図2Aに示した。
【0034】
抗原抗体反応後に100倍の倍率で撮影した写真から、染まった筋管細胞の本数とDAPI(核)の数を計測し、染まった筋管細胞の本数をDAPI(核)の数で割った値(Fusion index)を求めた。1サンプルあたりこの操作を12回繰り返してその平均値を求め、対照(Veh)に対する相対値を求めた。その結果を図2Bに示した。
【0035】
また、撮影した写真から、ImageJ(National Institutes of Health、Bethesda、MD、USA)を用いてMyHCで染まった筋管細胞の横幅(Myotube diameter)を測定した。1枚の写真あたり5箇所測定し、1サンプルあたりこの操作を4回繰り返してその平均値を求め、対照(Veh)に対する相対値を求めた。その結果を図2Cに示した。
【0036】
3,5,7,3,'4'-ペンタメトキシフラボン(b)、5,7-ジメトキシフラボン(c)、5,7,4'-トリメトキシフラボン(d)、3,5,7-トリメトキシフラボン(e)、3,5,7,4'-テトラメトキシフラボン(f)、5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)はそれぞれ対照に比べてMyHCとTPMの発現量を減少させ、5,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(a)は対照に比べてMyHCの発現量だけを減少させた。一方、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン(i)、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボン(j)は対照に比べてMyHCとTPMの発現量を増加させた(図1参照)。
【0037】
また、5,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(a)、3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボン(b)、5,7-ジメトキシフラボン(c)5,7,4'-トリメトキシフラボン(d)、3,5,7-トリメトキシフラボン(e)、3,5,7,4'-テトラメトキシフラボン(f)は対照に比べてFusion indexとMyotube diameterに影響を与えなかったが、5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)は対照に比べてMyotube diameterのみを有意(p<0.05)に増加させた。5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)と5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン(i)、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボン(j)は対照に比べてFusion indexとMyotube diameterを有意(p<0.05)に増加させた(図2B図2C参照)。
【0038】
実験2.C2C12細胞の筋分化における7位のメトキシ基を持つメトキシフラボンの影響
筋肥大の影響が、5位のヒドロキシ基だけによるものか、又は5位のヒドロキシ基と7位のメトキシ基の両方によるものかを調べた。
メトキシフラボンとして5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシフラボン(HF)、5,7-ジヒドロキシフラボン(DHF)を用いた。実験1と同様にして、10μMのメトキシフラボンの存在下で8日間分化誘導した。分化誘導8日後に細胞を溶解し、ウエスタンブロット法によりMyHCとTPM、GAPDHの発現量を調べた。内部標準にGAPDHを、対照(Veh)にDMSOを用いた。その結果を図3Aに示した。
【0039】
次に、実験1と同様にして、分化誘導した細胞を固定して抗MyHC抗体を反応させた後、それに対応する蛍光ラベルされた2次抗体で抗原抗体反応を行い、蛍光顕微鏡により抗体で染まった筋管細胞を観察した。その観察画像を図3Bに示した。また、抗MyHC抗体で染まった筋管細胞の横幅を数値化したグラフを図3Cに示した。
【0040】
5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)は対照、5-ヒドロキシフラボン(HF)、ジヒロキシフラボン(DHF)に比べて筋分化マーカーであるMyHCとTPMの発現量を増加させた(図3A)。また、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)は、対照に比べてMyotube diameterを有意(p<0.05)に増加させた(図3C)。これらのことから、5位のヒドロキシ基及び7位のメトキシ基が筋分化に寄与していることが推測された。
【0041】
実験3.5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンの筋芽細胞分化促進に対する影響
5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンが筋芽細胞分化促進に与える影響を調べた。
実験1と同様にして、0.1μM、1μM、10μMの5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)の存在下で8日間C2C12細胞を分化誘導した。分化誘導8日後に細胞を溶解し、ウエスタンブロット法によりMyHCとTPM、GAPDHの発現量を調べた。内部標準にGAPDHを、対照(Veh)にDMSOを用いた。その結果を図4Aに示した。
【0042】
次に、10μMの5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)の存在下でC2C12細胞を分化誘導し、細胞を2日毎(day0、2、4 、6、8)に回収した。その後、細胞を溶解させ、ウエスタンブロット法によりMyHC、TPM、GAPDHの発現を調べた。その結果を図4Bに示した。
【0043】
5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンは、対照に比べてMyHCとTPMの発現量を濃度依存的に増加させた(図4A参照)。さらに、10μMの5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンは、対照に比べてMyHCとTPMの発現量を時間依存的に増加させた(図4B参照)。
【0044】
実験4.メトキシフラボンの筋量増加に対する影響
メトキシフラボンがマウス骨格筋に与える影響を調べた。メトキシフラボンとして、実験1で筋分化作用が認められた5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン(i)、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボン(j)の混合物を用いた。
【0045】
メトキシフラボンの混合物(5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボンと5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボンをそれぞれ4.3%、19.4%、27.4%、29.8%含む(残りは未同定の夾雑物))とpropylene glycolを超純水にそれぞれ終濃度で2.5%、0.6%となるように加え、超音波分散機で溶解した。これらの溶液をそれぞれMF投与群の試料と、対照であるVeh投与群の試料とした。
【0046】
ddYマウス(雄性、6週齢)を1週間予備飼育した後、3週間にわたって各試料を投与した。1日1回、200μlの試料を、経口ゾンデを用いて経口投与した。投与終了後、イソフルラン麻酔下で下大静脈から採血後、頸椎脱臼により安楽死させた。ddYマウスの左右の後肢にある骨格筋である大腿四頭筋(QU)、前脛骨筋(TA)、長趾伸筋(EDL)、ヒラメ筋(SOL)、足底筋(PLA)、腓腹筋(GAST)及び肛門括約筋(LA)を採取し、各重量を測定した。体重あたりの筋重量を求めた後、各筋肉組織においてVeh投与群の値と比較した。その結果を図5に示した。また、個々のマウスにおけるヒラメ筋の筋重量を図6に示した。
【0047】
MF投与群はVeh投与群に比べて、ヒラメ筋の筋重量を含めて平滑筋の筋重量は明らかに増加したとは言えないまでもやや増加傾向にあると言える。その中でもヒラメ筋の筋重量は明らかに増加傾向にあったと言える(p=0.13)(図5A図6参照)。
【0048】
以上のことから、黒ショウガの抽出物に含まれるメトキシフラボン、好ましくは5位にヒドロキシ基及び7位にメトキシ基を有するメトキシフラボン、さらに好ましくは5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンが骨格筋、特に遅筋型の骨格筋であるヒラメ筋の筋量を増加させると言える。また、上記実験の投与量ではヒラメ筋以外の骨格筋においては明確な増加が認められなかったが、メトキシフラボンが筋芽細胞の分化マーカーであるMyHCとTPMの発現量を増加させること、筋管細胞を肥大させることから、メトキシフラボンはヒラメ筋以外の骨格筋の筋量を増加させ得ると言える。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は天然物由来による新規な筋量増加剤として利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6