【実施例1】
【0028】
(黒ショウガ抽出物の製造及びメトキシフラボンの調製)
黒ショウガ(Kaempferia parviflora)の根茎を粉砕した粉砕物1000gを70%メタノール(7000mL)により2時間加熱抽出を行った。この抽出操作は2回行った。得られた全ろ液を減圧濃縮して抽出物89gを得た。さらに、得られた抽出物から、特許文献6に記載の方法に準じて、合成吸着樹脂、シリカゲルを用いたゲルクロマトグラフィ及び逆相系HPLCを用いて下記表1に示す10種類のメトキシフラボン(a〜j)を得た。ただし表1中のR
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ化学式1中の置換基に対応する。
【0029】
【表1】
【0030】
実験1.C2C12細胞におけるメトキシフラボンの筋分化に対する影響
メトキシフラボンがC2C12細胞における筋分化に与える影響を調べた。
まず、C2C12細胞がコンフルエントになった状態で、2%horse serum(HS)、100units/ml penicillin G sodium、100g/ml streptomycin、1.0g/l sodium bicarbonateを含むダルベッコ改変イーグル(D-MEM)培地(D-MEM培地(2%HS、+P/S))に交換し、以降2日毎にD-MEM培地(2%HS、+P/S)を交換し続けた。培地交換時に、dimethyl sulfoxide(DMSO)に溶解したメトキシフラボンを終濃度が10μMとなるように添加して細胞を分化誘導した。分化誘導8日後に細胞を溶解し、ウエスタンブロット法(セミドライ法)によりMyHCとTPM、GAPDHの発現量を調べた。内部標準にGAPDHを、対照(Veh)にDMSOを用いた。
【0031】
ウエスタンブロットは次の手順で行った。回収した細胞をリン酸緩衝液(PBS(-))
で洗浄した後、RIPA bufferと2×loading bufferを加えて超音波振動により細胞を破砕した。その後、98℃で2分間加熱して得られた溶液を電気泳動用の試料とした。Laemmliの方法に従いSDS-PAGE法により電気泳動を行った後、PVDF膜にトランスファーを行った。得られたPVDF膜にブロッキングを行った後、抗MyHCマウスモノクローナル抗体、抗TPMマウスモノクローナル抗体、抗GAPDHラビットポリクローナル抗体を1次抗体として抗原抗体反応を行った。次いで、HRP結合ヤギ抗マウスIgG、HRP結合ヤギ抗ラビットIgGを2次抗体として抗原抗体反応を行った。その後、PVDF膜をImmunobilon
TM Western Chemiluminescent HRP Substrateに20秒間浸し、LAS-4000(GE Healthcare Bio-Sciences Corp., Piscataway, NJ, USA)により検出を行った。その結果を
図1に示す。
【0032】
次に、24-wellsプレートに潘種したC2C12細胞がコンフルエントになった状態でD-MEM培地(2%HS、+P/S)に交換し、以降2日毎にD-MEM培地(2% HS、+P/S)を交換し続けた。培地交換時に、dimethyl sulfoxide(DMSO)に溶解したメトキシフラボンを終濃度が10μMとなるように添加して細胞を分化誘導した。対照(Veh)にDMSOを用いた。
【0033】
分化誘導8日目に4%のparaformaldehyde/PBS(-)で細胞を固定した。固定した細胞にブロッキングを行った後、抗MyHCマウスモノクローナル抗体を1次抗体として抗原抗体反応を行った。次いで、Alexa fluor結合抗マウスIgGを2次抗体として抗原抗体反応を行った後、蛍光顕微鏡を用いて2次抗体で染まった筋管細胞を観察した。その観察画像を
図2Aに示した。
【0034】
抗原抗体反応後に100倍の倍率で撮影した写真から、染まった筋管細胞の本数とDAPI(核)の数を計測し、染まった筋管細胞の本数をDAPI(核)の数で割った値(Fusion index)を求めた。1サンプルあたりこの操作を12回繰り返してその平均値を求め、対照(Veh)に対する相対値を求めた。その結果を
図2Bに示した。
【0035】
また、撮影した写真から、ImageJ(National Institutes of Health、Bethesda、MD、USA)を用いてMyHCで染まった筋管細胞の横幅(Myotube diameter)を測定した。1枚の写真あたり5箇所測定し、1サンプルあたりこの操作を4回繰り返してその平均値を求め、対照(Veh)に対する相対値を求めた。その結果を
図2Cに示した。
【0036】
3,5,7,3,'4'-ペンタメトキシフラボン(b)、5,7-ジメトキシフラボン(c)、5,7,4'-トリメトキシフラボン(d)、3,5,7-トリメトキシフラボン(e)、3,5,7,4'-テトラメトキシフラボン(f)、5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)はそれぞれ対照に比べてMyHCとTPMの発現量を減少させ、5,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(a)は対照に比べてMyHCの発現量だけを減少させた。一方、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン(i)、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボン(j)は対照に比べてMyHCとTPMの発現量を増加させた(
図1参照)。
【0037】
また、5,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(a)、3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボン(b)、5,7-ジメトキシフラボン(c)5,7,4'-トリメトキシフラボン(d)、3,5,7-トリメトキシフラボン(e)、3,5,7,4'-テトラメトキシフラボン(f)は対照に比べてFusion indexとMyotube diameterに影響を与えなかったが、5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)は対照に比べてMyotube diameterのみを有意(p<0.05)に増加させた。5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)と5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン(i)、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボン(j)は対照に比べてFusion indexとMyotube diameterを有意(p<0.05)に増加させた(
図2B、
図2C参照)。
【0038】
実験2.C2C12細胞の筋分化における7位のメトキシ基を持つメトキシフラボンの影響
筋肥大の影響が、5位のヒドロキシ基だけによるものか、又は5位のヒドロキシ基と7位のメトキシ基の両方によるものかを調べた。
メトキシフラボンとして5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシフラボン(HF)、5,7-ジヒドロキシフラボン(DHF)を用いた。実験1と同様にして、10μMのメトキシフラボンの存在下で8日間分化誘導した。分化誘導8日後に細胞を溶解し、ウエスタンブロット法によりMyHCとTPM、GAPDHの発現量を調べた。内部標準にGAPDHを、対照(Veh)にDMSOを用いた。その結果を
図3Aに示した。
【0039】
次に、実験1と同様にして、分化誘導した細胞を固定して抗MyHC抗体を反応させた後、それに対応する蛍光ラベルされた2次抗体で抗原抗体反応を行い、蛍光顕微鏡により抗体で染まった筋管細胞を観察した。その観察画像を
図3Bに示した。また、抗MyHC抗体で染まった筋管細胞の横幅を数値化したグラフを
図3Cに示した。
【0040】
5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)は対照、5-ヒドロキシフラボン(HF)、ジヒロキシフラボン(DHF)に比べて筋分化マーカーであるMyHCとTPMの発現量を増加させた(
図3A)。また、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)は、対照に比べてMyotube diameterを有意(p<0.05)に増加させた(
図3C)。これらのことから、5位のヒドロキシ基及び7位のメトキシ基が筋分化に寄与していることが推測された。
【0041】
実験3.5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンの筋芽細胞分化促進に対する影響
5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンが筋芽細胞分化促進に与える影響を調べた。
実験1と同様にして、0.1μM、1μM、10μMの5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)の存在下で8日間C2C12細胞を分化誘導した。分化誘導8日後に細胞を溶解し、ウエスタンブロット法によりMyHCとTPM、GAPDHの発現量を調べた。内部標準にGAPDHを、対照(Veh)にDMSOを用いた。その結果を
図4Aに示した。
【0042】
次に、10μMの5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)の存在下でC2C12細胞を分化誘導し、細胞を2日毎(day0、2、4 、6、8)に回収した。その後、細胞を溶解させ、ウエスタンブロット法によりMyHC、TPM、GAPDHの発現を調べた。その結果を
図4Bに示した。
【0043】
5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンは、対照に比べてMyHCとTPMの発現量を濃度依存的に増加させた(
図4A参照)。さらに、10μMの5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンは、対照に比べてMyHCとTPMの発現量を時間依存的に増加させた(
図4B参照)。
【0044】
実験4.メトキシフラボンの筋量増加に対する影響
メトキシフラボンがマウス骨格筋に与える影響を調べた。メトキシフラボンとして、実験1で筋分化作用が認められた5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボン(g)、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(h)、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン(i)、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボン(j)の混合物を用いた。
【0045】
メトキシフラボンの混合物(5-ヒドロキシ-3,7,3',4'-テトラメトキシフラボンと5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,4'-トリメトキシフラボンをそれぞれ4.3%、19.4%、27.4%、29.8%含む(残りは未同定の夾雑物))とpropylene glycolを超純水にそれぞれ終濃度で2.5%、0.6%となるように加え、超音波分散機で溶解した。これらの溶液をそれぞれMF投与群の試料と、対照であるVeh投与群の試料とした。
【0046】
ddYマウス(雄性、6週齢)を1週間予備飼育した後、3週間にわたって各試料を投与した。1日1回、200μlの試料を、経口ゾンデを用いて経口投与した。投与終了後、イソフルラン麻酔下で下大静脈から採血後、頸椎脱臼により安楽死させた。ddYマウスの左右の後肢にある骨格筋である大腿四頭筋(QU)、前脛骨筋(TA)、長趾伸筋(EDL)、ヒラメ筋(SOL)、足底筋(PLA)、腓腹筋(GAST)及び肛門括約筋(LA)を採取し、各重量を測定した。体重あたりの筋重量を求めた後、各筋肉組織においてVeh投与群の値と比較した。その結果を
図5に示した。また、個々のマウスにおけるヒラメ筋の筋重量を
図6に示した。
【0047】
MF投与群はVeh投与群に比べて、ヒラメ筋の筋重量を含めて平滑筋の筋重量は明らかに増加したとは言えないまでもやや増加傾向にあると言える。その中でもヒラメ筋の筋重量は明らかに増加傾向にあったと言える(p=0.13)(
図5A、
図6参照)。
【0048】
以上のことから、黒ショウガの抽出物に含まれるメトキシフラボン、好ましくは5位にヒドロキシ基及び7位にメトキシ基を有するメトキシフラボン、さらに好ましくは5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンが骨格筋、特に遅筋型の骨格筋であるヒラメ筋の筋量を増加させると言える。また、上記実験の投与量ではヒラメ筋以外の骨格筋においては明確な増加が認められなかったが、メトキシフラボンが筋芽細胞の分化マーカーであるMyHCとTPMの発現量を増加させること、筋管細胞を肥大させることから、メトキシフラボンはヒラメ筋以外の骨格筋の筋量を増加させ得ると言える。