【実施例】
【0158】
なお、下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.及びManiatis,T.著,Cold SpringHarbor Laboratory Pressより1989年発刊)に記載の方法及びその他の当業者が使用する実験書に記載の方法により行うか、又は市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って行った。
実施例1.プラスミド作製
1)−1 ヒトB7−H3発現ベクターの作製
1)−1−1 全長ヒトB7−H3バリアント1発現ベクターの作製
LNCaP細胞(American Type Culture Collection:ATCC)total RNAより合成したcDNAを鋳型にプライマーセット:
プライマー1:
5’−ctatagggagacccaagctggctagcatgctgcgtcggcggggcag−3’(配列表の配列番号1)
及び、プライマー2:
5’−aacgggccctctagactcgagcggccgctcaggctatttcttgtccatcatcttctttgctgtcag−3’(配列表の配列番号2)
を用いてPCR反応を行い、ヒトB7−H3バリアント1をコードするcDNAを増幅した。
次に、得られたPCR産物をMagExtractor PCR & Gel cleanup(TOYOBO社)にて精製した。更に、制限酵素(NheI/NotI)で消化した後、MagExtractor PCR&Gel cleanup(TOYOBO社)にて精製した。pcDNA3.1(+)プラスミドDNAを同じ制限酵素(NheI/NotI)で消化した後、MagExtractor PCR & Gel cleanup(TOYOBO社)にて精製した。
上記精製DNA溶液を混合し、更にLigation high(TOYOBO社)を加え、16℃で8時間インキュベートし、ライゲーションした。
上記反応物を大腸菌DH5αコンピテントセル(インビトロジェン社)に加え、形質転換した。
上記で得られたコロニーについて、PCRプライマーとBGH reverse PrimerでコロニーダイレクトPCRを行い、候補クローンをセレクションした。
得られた候補クローンを液体培地(LB/Amp)で培養し、MagExtractor−Plasmid−(TOYOBO社)でプラスミドDNAを抽出した。
得られたプラスミドDNAを鋳型に
プライマー3(CMV promoterプライマー):
5’− cgcaaatgggcggtaggcgtg −3’(配列表の配列番号3)
及び、プライマー4(BGH reverseプライマー)
5’− tagaaggcacagtcgagg −3’(配列表の配列番号4)
間のシーケンス解析を行い、取得クローンと提供CDS配列を比較した。
配列を確認後、得られたクローンを200mlのLB/Amp培地で培養し、VioGene社 Plasmid Midi V−100キットを使って、プラスミドDNAの抽出を行った。
本ベクターをpcDNA3.1−B7−H3と命名した。本ベクターにクローニングされたB7−H3バリアント1遺伝子のORF部分の配列は配列表の配列番号5のヌクレオチド番号1乃至1602に示されている。また、B7−H3バリアント1のアミノ酸配列は配列表の配列番号6に示されている。
1)−1−2 全長ヒトB7−H3バリアント2発現ベクターの作製
LNCaP細胞total RNAより合成したcDNAを鋳型に、以下に記すプライマーセット:
プライマー5
5’− ggggacaagtttgtacaaaaaagcaggcttcaccatgctgcgtcggcggggcagccctg −3’(配列表の配列番号7)
プライマー6
5’− ggggaccactttgtacaagaaagctgggtcggctatttcttgt −3’(配列表の配列番号8)
を用いてPCRを行い、ヒトB7−H3バリアント2をコードするcDNAを増幅した。
【0159】
実施例1)−1−1と同様に精製を行い、精製後のPCR産物をGateway BP反応によりpDONR221 vector(インビトロジェン社)に組み込み、大腸菌TOP10(インビトロジェン社)を形質転換した。
形質転換後に得られたクローンについてコロニーPCRにてインサートサイズの確認を行った。それぞれ、インサートの長さを確認した8つのクローンについて、ベクター側からインサートの方向へ1反応ずつのシークエンス反応を行い、インサートの3’及び5’の末端DNA配列の確認を行った。配列を確認したエントリークローンとGatewayデスティネーションベクターpcDNA−DEST40(インビトロジェン社)でGateway LR反応を行った。大腸菌TOP10の形質転換後に得られたクローンについてコロニーPCRにてインサートサイズの確認を行った。インサートの長さを確認したクローンについて、インサートの3’及び5’の末端DNA 配列の解析を行い、目的インサートが正しく挿入されたことを確認した。作製したクローンのプラスミドをインビトロジェン社 PureLink HiPure Plasmid Megaprep Kitを用い1mg以上精製した。
本ベクターをpcDNA−DEST40−B7−H3バリアント2と命名した。本ベクターにクローニングされたB7−H3バリアント2遺伝子のORF部分の配列は配列表の配列番号9のヌクレオチド番号1乃至948に示されている。またB7−H3バリアント2のアミノ酸配列は配列表の配列番号10に示されている。
1)−2 B7−H3部分蛋白質発現ベクターの作製
実施例1)−1−1のB7−H3バリアント1に係るB7−H3全長プラスミドをテンプレートとし、以下に記す領域をそれぞれPCRにより増幅した。目的とする領域番号は配列番号5で示されるB7−H3のヌクレオチド番号に相当する。プライマーはGateway att配列に加え、3’側はStopコドンを含むように設計した。
下記1)、2)、3)は2領域を増幅後、PCRで連結し1断片とした。即ち、1)はプライマー7及び12とプライマー15及び11で増幅し、PCR産物を更にプライマー7及び11で増幅した。2)はプライマー8及び13とプライマー15及び11で増幅し、PCR産物を更にプライマー8及び11で増幅した。3)はプライマー9及び14とプライマー15及び11で増幅し、PCR産物を更にプライマー9及び11で増幅した。4)はプライマー10及び11で増幅した。5)はプライマー8及び11で増幅した。6)はプライマー9及び11で増幅した。
・目的領域
1)B7−H3バリアント1 ORF:79〜417及び1369〜1602 (573bp)
2)B7−H3バリアント1 ORF:418〜732及び1369〜1602 (549bp)
3)B7−H3バリアント1 ORF:733〜1071及び1369〜1602 (573bp)
4)B7−H3バリアント1 ORF:1072〜1602 (531bp)
5)B7−H3バリアント1 ORF:418〜1602 (1185bp)
6)B7−H3バリアント1 ORF:733〜1602 (870bp)
・プライマー番号及び塩基配列
プライマー7
5’− ggggacaagtttgtacaaaaaagcaggcttcggagccctggaggtccaggtc −3’(配列表の配列番号11)
プライマー8
5’− ggggacaagtttgtacaaaaaagcaggcttcgctccctactcgaagcccagcatg −3’(配列表の配列番号12)
プライマー9
5’− ggggacaagtttgtacaaaaaagcaggcttcggagccgtggaggtccaggtc −3’(配列表の配列番号13)
プライマー10
5’− ggggacaagtttgtacaaaaaagcaggcttcgctccctactcgaagcccagcatg −3’(配列表の配列番号14)
プライマー11
5’− ggggaccactttgtacaagaaagctgggtctcaggctatttcttgtccatcatc −3’(配列表の配列番号15)
プライマー12
5’− gggaatgtcataggctgcccggccacctgcaggctgacggcag −3’(配列表の配列番号16)
プライマー13
5’− gggaatgtcataggctgccctgtggggcttctctggggtgtg −3’(配列表の配列番号17)
プライマー14
5’− gggaatgtcataggctgcccggccacctgcaggctgacggcag −3’(配列表の配列番号18)
プライマー15
5’− gggcagcctatgacattccccccagag −3’(配列表の配列番号19)
実施例1)−1−1と同様に精製を行い、精製後の各増幅物をGateway BP反応によりpDONR221 vectorに組み込み、大腸菌TOP10を形質転換した。形質転換後に得られたクローンについてコロニーPCRにてインサートサイズの確認を行った。
インサートの長さを確認した各クローンについて、ベクター側からインサートの方向へ1反応ずつのシークエンス反応を行い、インサートの3’及び5’の末端DNA配列の確認を行った。
目的のインサートが確認されたクローンについて、下記プライマーを用いてインサートの全DNA配列についても確認を行った。配列解析の結果、全て目的配列情報と完全に一致したことが確認された。
配列を確認した各エントリークローンとpFLAG−myc−CMV−19−DEST(インビトロジェン社)でGateway LR反応を行った。大腸菌DH10B(インビトロジェン社)の形質転換後に得られたクローンについてコロニーPCRにてインサートサイズの確認を行った。
インサートの長さを確認した各クローンについて、インサートの3’及び5’の末端DNA配列の解析を行い、目的インサートが正しく挿入されたことを確認した。以下、上記1)から6)を組み込んだ発現ベクターをそれぞれB7−H3 IgV1、B7−H3 IgC1、B7−H3 IgV2、B7−H3 IgC2、B7−H3 IgC1−V2−C2、B7−H3 IgV2−C2と記す。
本ベクターにクローニングされたB7−H3 IgV1、B7−H3 IgC1、B7−H3 IgV2、B7−H3 IgC2、B7−H3 IgC1−V2−C2、B7−H3 IgV2−C2遺伝子のORF部分のヌクレオチド配列はそれぞれ配列表の配列番号20、22、24、26、28、30に示されている。またB7−H3 IgV1、B7−H3 IgC1、B7−H3 IgV2、B7−H3 IgC2、B7−H3 IgC1−V2−C2、B7−H3 IgV2−C2のアミノ酸配列は配列表の配列番号21、23、25、27、29、31に示されている。また、配列番号20及び21の配列は
図15に、配列番号22及び23の配列は
図16に、配列番号24及び25の配列は
図17に、配列番号26及び27の配列は
図18に、配列番号28及び29の配列は
図19に、配列番号30及び31の配列は
図20に各々記載されている。
1)−3 B7ファミリー遺伝子発現ベクターの作製
B7ファミリー遺伝子であるB7RP−1、B7−H1、B7−DCを発現ベクターpCMV6−XL−4に組み込んだ遺伝子発現ベクター、pCMV6−XL−4−B7RP−1、pCMV6−XL−4−B7−H1、pCMV6−XL−4−B7−DCはいずれもOrigene社より購入した。
【0160】
B7ファミリー遺伝子であるCD80、CD86、B7−H4を発現するベクターは以下のように作製した。
CD80、CD86、B7−H4をエントリーベクターpENTR/221に組み込んだクローンであるpENTR/221−CD80、pENTR/221−CD86、pENTR/221−B7−H4をインビトロジェン社から購入した。
配列を確認した各エントリークローンとpcDNA3.1−DEST(インビトロジェン社)でGateway LR反応を行った。大腸菌DH10Bの形質転換後に得られたクローンについてコロニーPCRにてインサートサイズの確認を行った。インサートの長さを確認した各クローンについて、インサートの3’及び5’の末端DNA配列の解析を行い、目的インサートが正しく挿入されたことを確認した。
本ベクターにクローニングされたB7RP−1、B7−H1、B7−DC、CD80、CD86、B7−H4遺伝子のORF部分のヌクレオチド配列はそれぞれ配列表の配列番号32、34、36、38、40、42に示されている。またB7RP−1、B7−H1、B7−DC、CD80、CD86、B7−H4のアミノ酸配列は配列表の配列番号33、35、37、39、41、43に示されている。
実施例2.モノクローナル抗体作製及び抗体スクリーニング
2)−1 免疫
4〜6週齢のBALB/cAnNCrlCrljマウス(日本チャールス・リバー社)、FcgRII KOマウス(タコニック社、免疫生物学研究所)又はGANPマウス(Transgenic社)を使用した。0日目、7日目、15日目、24日目にベルセン(インビトロジェン)で剥がしたLNCaP細胞、MCF7細胞(ATCC)又はAsPC1細胞(ATCC)を5x10
6細胞/マウスをマウス背部皮下に投与した。31日目に同じ細胞を5x10
6細胞各マウスに静脈投与し、34日目にマウス脾臓を採取しハイブリドーマ作製に用いた。
2)−2 ハイブリドーマの作製
脾臓細胞とマウスミエローマP3X63Ag8U.1細胞(ATCC)とをPEG4000(IBL社製)を用いて細胞融合しハイブリドーマを作製した。
【0161】
その結果、LNCaP細胞免疫マウスより計9639クローン、MCF7細胞免疫マウスより4043クローン、AsPC1細胞免疫マウスより3617クローンのハイブリドーマを樹立した。得られたハイブリドーマ培養上清用いて抗体産生ハイブリドーマのCDCアッセイによるスクリーニングを行った。
2)−3 抗体スクリーニング:CDCアッセイ
0日目に5000cells/80μLとなるようにLNCaP細胞又はMCF7細胞を希釈し、96well plateに80μL/well添加し、一晩培養した。ハイブリドーマ培養上清を、細胞を播いたplateに20μL/well 添加し、4℃で1時間静置した。ウサギ補体の希釈凍結乾燥品(Cedarlane社)に1バイアルあたり1mLの滅菌水を氷上で添加した。1分間静置、混合したのち、19mLの0.1% BSA/RPMI 1640培地(BSA Sigma社)と混合した。37℃で1時間反応を行った。
【0162】
プレートを室温で30分間放置し、室温に戻した。CellTiter−Glo試薬(Promega社)を各ウェルに120μL添加し、室温で10分間反応した。プレートリーダー(ARVO HTS Prekin Elmer社)にて発光量を測定した。発光量の少ないウェルは、補体依存的な細胞死を誘導したと判断された。そのような補体依存的な細胞死を誘導した培養上清を産生するハイブリドーマを選択した。
その結果、それぞれLNCaP免疫由来クローンより、24クローン、MCF7免疫由来クローンより36クローン、AsPC1免疫由来クローンより3クローンのスクリーニング陽性クローンが得られた。
実施例3.抗原同定
3)−1 免疫沈降物の同定
3)−1−1 免疫沈降
MCF7細胞を5−10x10
8細胞培養した。これらの細胞はセルスクレーパーで剥離、回収した後、−80度に凍結保存を行った。4℃に冷やした1%NP−40(シグマアルドリッチ社)とProtease inhibitor(ロシュ社)入りのLysis buffer 10mlを凍結細胞に添加し、氷上であわ立てないようにピペットでペレットを溶解した。完全にペレットが溶解したら氷上で、30分放置した。可溶化したサンプルは、4℃、10000−15000回転、20分遠心分離し、上清を15mlファルコンチューブに移した。
Protein G sepharose 4FF beads(アマシャムファルマシア社)500μlを3回洗浄し、Lysis bufferに置換した。氷上でprotein G sepharose 4FF beads 500μlを可溶化したサンプル上清に添加し、一晩4℃で回転攪拌した。
サンプルをPolyprep column chromatography columns(Biorad社)に通し、フォロースルーを免疫沈降サンプルとして用いた。
免疫沈降に用いる抗体液3μgをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に置換した50μlのprotein G sepharose 4FF beadsに添加(1.5ml tube)、4℃にて1時間から16時間回転攪拌して抗体をbeadsに結合させた。免疫沈降サンプルに抗体が結合したbeadsを添加し、4℃、3時間回転攪拌した。
カラムを空の15mlファルコンチューブに移し、6.5ml Lysis bufferを添加した。この操作を4回繰り返した。
カラムの出口に蓋をして、500μl Lysis bufferでピペッティングし、1.5mlチューブにbeadsを回収した。この操作を2回繰り返した。
5000回転で1分間、4℃遠心後、上清を静かに除き、90μlのElution buffer(10mM Glycine−HCl pH2.0)を添加、voltex後遠心した。1.5ml spin culmnのカラムを外し、10μl 1M Tris−HCL、pH8.5を添加した。カラムを元に戻し、溶出分画を移し、10000回転で1分間遠心した。100μlのサンプルを得た。
このサンプルを以下の3)−1−2に示すように、液層消化法によるMS解析を行った。
3)−1−2 質量分析法による抗原同定
免疫沈降法により得られた画分を常法に従い、液層消化法にてトリプシン(モディファイドトリプシン、プロメガ社)を加え37℃にて16時間消化反応を行った。生成した消化ペプチドは液体クロマトグラフィー(LC)/タンデム質量分析装置(MS/MS)(サーモフィッシャーサイエンス社)に供した。得られた質量スペクトルデータは、データベース検索ソフトウエア(Mascot、マトリクスサイエンス社)により分析した。データベースはInternational Protein Index(IPI)を用いた。その結果、34種類の抗原が同定された。
同定された抗原情報の中から、細胞膜蛋白質であることを考慮した文献情報検索を行い、B7−H3(CD2
76)抗原(B7−H3バリアント1)に着目し、以下の3)−2及び3)−3の実験を行った。
3)−2 抗原遺伝子発現細胞の調製
NIH−3T3細胞(ATCC)を5×10
4細胞/cm
2になるようcollagen type Iコートフラスコ(IWAKI社製)に播種し10% ウシ胎児血清(FBS)含有DMEM培地(インビトロジェン社)中で37℃、5% CO
2の条件下で1晩培養した。
翌日、実施例1)−1−1で作製されたpcDNA3.1−B7−H3、1)−1−2で作製されたpcDNA−DEST40−B7−H3バリアント2、及び空ベクターであるpcDNA−DEST40をそれぞれNIH−3T3細胞にLipofectamine 2000(インビトロジェン社製)を用いてトランスフェクションし、37℃、5% CO
2の条件下で更に1晩培養した。
翌日、トランスフェクションされたNIH−3T3細胞をトリプシン処理し、10% FBS含有DMEMで細胞を洗浄した後、5%FBS含有PBSに懸濁した。得られた細胞懸濁液をフローサイトメトリー解析に使用した。
3)−3 フローサイトメトリー解析
MSでB7−H3バリアント1を免疫沈降したハイブリドーマが産生する抗体のB7−H3に対する結合特異性をフローサイトメトリー法により確認した。実施例3)−2で調製した細胞懸濁液を遠心し、上清を除去した後、各ベクターをトランスフェクトしたNIH−3T3細胞に対しハイブリドーマ培養上清を加えて懸濁し、4℃で1時間静置した。
5%FBS含有PBSで2回洗浄した後、5%FBS含有PBSで1000倍に希釈したFluorescein−conjugated goat IgG fraction to mouse IgG(Whole Molecule)(ICN Pharmaceuticals社製 #55493)を加えて懸濁し、4℃で1時間静置した。
5%FBS含有PBSで2回洗浄した後、2μg/ml 7−aminoactinomycin D(インビトロジェン(Molecular Probes)社製)を含む5%FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター(FC500:BeckmanCoulter社)で検出を行った。データ解析はFlowjo(TreeStar社)で行った。
7−aminoactinomycin D陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成した。
コントロールである空ベクターを導入したNIH−3T3細胞の蛍光強度ヒストグラムに対してB7−H3バリアント1発現NIH−3T3細胞及びB7−H3バリアント2発現NIH−3T3細胞のヒストグラムが強蛍光強度側にシフトしているサンプルを産生するハイブリドーマを抗B7−H3抗体産生ハイブリドーマとして取得した。
【0163】
その結果、L7、L8、L11、M30、M31の5クローンの抗B7−H3抗体産生ハイブリドーマ由来の抗体がB7−H3バリアント1及びB7−H3バリアント2と交差反応性を示すことが明らかとなった。
3)−4 モノクローナル抗体の癌細胞株に対する結合性の確認
実施例3)−3でB7−H3バリアント1及びB7−H3バリアント2への結合が確認されたモノクローナル抗体が、B7−H3バリアント1及びB7−H3バリアント2を高発現する癌細胞に結合するか否かを実施例3)−3と同様のフローサイトメトリー法で検討した。
トランスフェクションしたNIH−3T3細胞の代わりにヒト乳癌細胞株(MDA−MB−231)(ATCC)、ヒト肺癌細胞株(NCI−H322)(ATCC)が用いられた。その結果、樹立したモノクローナル抗体はいずれもこれらの癌細胞株に結合することが確認された。
3)−5 モノクローナル抗体のアイソタイプ決定
モノクローナル抗体のアイソタイプは、Mouse monoclonal isotyping kit(Serotec社製)により決定された。その結果、抗B7−H3抗体産生ハイブリドーマ(L7、L8、L11、M30、M31)由来の抗体のアイソタイプは、いずれもIgG2aであった。
3)−6 モノクローナル抗体の調製
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ移植マウスの腹水又はハイブリドーマ培養上清(以下「抗体精製原料」という。)から精製した。
【0164】
マウス腹水は以下のように調製した。まず、7‐8週齢のBALB/cAJcl−nu/nu(日本クレア)をプリスタン(Sigma社製)処理し、約3週間後に生理食塩水で洗浄したハイブリドーマをマウス1匹あたり1×10
7細胞で腹腔内に移植した。1‐2週間後に腹腔内に貯留した腹水を採取し0.22μmのフィルターを通して滅菌し抗体精製原料として用いた。
【0165】
ハイブリドーマ培養上清はCELLine(BD Biosciences社製)を使用し調製した。培地にClonaCell−HY Growth Medium E(StemCell Technologies社製 #03805)を用いる点以外はメーカーの指示書に従い培養した。回収された培養上清は0.45μmフィルターで濾過し、抗体精製原料として用いた。
【0166】
抗体はRecombinat Protein A rPA50(RepliGen社製)をホルミル−セルロファイン(生化学工業社製)に固定化したアフィニテイーカラム(以下「ホルミルセルロファインProtein A」と略す)又はHitrap MabSelect SuRe(GE Healthcare Bio−Sciences社製)で精製された。ホルミルセルロファインProtein Aでは、抗体精製原料を結合バッファー(3M NaCl,1.5M Glycine pH8.9)で3倍希釈したものをカラムに添加し、結合バッファーで洗浄後、0.1M クエン酸 pH4.0で溶出した。
一方、Hitrap MabSelect SuRe(GEヘルスケア社)では、抗体精製原料をカラムに添加しPBSで洗浄後、2M Arginine−HCl pH4.0で溶出した。
溶出された抗体溶液は中和後、PBSにバッファー置換された。
【0167】
抗体の濃度はPOROS G 20μm Column,PEEK,4.6mm×100mm,1.7ml(Applied Biosystems)に結合させた抗体を溶出し、溶出液の吸光度(O.D.280nm)を測定することにより求めた。具体的には、平衡化バッファー(30.6mM リン酸2水素ナトリウム・12水、19.5mM リン酸1カリウム、0.15M NaCl、pH7.0)で平衡化したPOROS G 20μmにPBSで希釈した抗体サンプルを添加し、平衡化バッファーでカラムを洗浄後、カラムに結合した抗体を溶離液(0.1%(v/v) HCl、0.15M NaCl)で溶出した。溶出液の吸光度(O.D.280nm)のピーク面積を測定し、次式で濃度を算出した。
【0168】
抗体サンプル濃度(mg/ml)=(抗体サンプルのピーク面積)/(標準品(ヒトIgG1)のピーク面積)×標準品の濃度(mg/ml)×サンプルの希釈倍率
また、得られた抗体に含まれるエンドトキシン濃度をエンドスペシーES−50Mセット(生化学工業 #020150)とエンドトキシン標準品CSE−Lセット(生化学工業 #020055)を用いて測定し、1EU/mg以下であることを確認し以下の実験に使用した。
実施例4.抗B7−H3抗体の性質
4)−1 ADCP活性
Balb/c−nu/nuマウス(♀、6−10wk)(日本チャールズリバー社)に1.5mLのチオグリコレートを腹腔内投与した。5日後に腹腔中のマクロファージ細胞を回収した。500μL/well(1x10
5 cell/well)を24 well plateに添加し、37℃で1晩培養した。本細胞をエフェクター細胞とした。
ターゲット細胞となるNCI−H322細胞のラベリングをPKH26 dye labeling kit(Sigma社)を用いて行った。ターゲット細胞をTrypLE(インビトロジェン社)で剥離し、PBSで2回洗浄した。細胞をDiluent Cで1x10
7 cells/mlになるよう懸濁した。PKH26 dye stock(1mM)をDiluent Cで8μMに希釈し、すぐに細胞浮遊液と等量のdye希釈液を添加した。室温に5分間放置した。血清1mlを添加し、更に血清入り培地を加え2回洗浄を行った。本細胞をターゲット細胞とした。
【0169】
実施例3)−6で得られた抗体を培養液で20μg/mlに希釈した。次に実施例4)−1−1で得られたターゲット細胞を、2x10
6/100μl/tubeに分注し、混合した。氷上で30分間静置した。上清を捨て、培養液で2回洗浄した。培養液500μLに懸濁した。エフェクター細胞から上清を除き、抗体を処理し培養液にサスペンドした細胞を添加し、混合した。CO
2インキュベータ内で3時間培養した。Trypsin−EDTAで細胞を剥離し、細胞を回収した。回収した細胞にFITC標識抗マウスCD11b抗体(ベクトンディッキンソン社)を加え、氷上で30分間静置した。上清を捨て、培養液で2回洗浄した。回収した細胞を300μlの培養液で懸濁し、FACS Calibur(ベクトンディッキンソン社)にて測定を行った。CD11b陽性のマクロファージ細胞において、PKH26陽性画分を貪食陽性細胞として評価を行った(n=3)。
【0170】
その結果、
図1に示されるように、L7、L8、L11、M30、M31はそれぞれマクロファージによるNCI−H322細胞の貪食率を48.0±0.9%、52.3±1.1%、57.1±2.5%、61.9±2.1%、57.7±3.0%誘導したことから、L7、L8、L11、M30、M31抗体はNCI−H322細胞に対してADCP活性を有することが示された。
【0171】
同様に、市販の抗B7−H3抗体を入手し、そのADCP活性を測定した。ラット抗ヒトB7−H3抗体MIH35(eBioscience社)、マウス抗ヒトB7−H3抗体185504(R&D Systems社)、MIH42(Serotec社)、DCN70(Biolegend社)をそれぞれ入手した。これら抗体がB7−H3と結合することを実施例3)−3と同様の方法で確認した。これらの抗体を用いて、上記の方法にてADCP活性を測定した。
その結果、
図2に示されるように、MIH35、MIH42、DCN70を1μg/ml添加した際、それぞれマクロファージによるNCI−H322細胞の貪食を4.2%、8.2%、10.8%誘導した。このことから、MIH35、MIH42、DCN70はほとんどADCP活性を示さないことが明らかとなった。
これらのことより、今回のスクリーニングにより得られたB7−H3認識クローンM30は市販B7−H3抗体と比較して特に強いADCP活性を有することが示された。
4)−2 ADCC活性
4)−2−1 エフェクター細胞の調製
ヌードマウスであるCAnN.Cg−Foxn1
nu/CrlCrlj(日本チャールス・リバー社)より無菌的に脾臓を採取した。採取した脾臓を2枚のスライドグラスでホモジナイズし、BD Pharm Lyse(BD Biosciences社製 #555899)を用いて溶血処理を行った。得られた脾臓細胞をFetal Bovine Serum, Ultra−low IgG(インビトロジェン社製)を10%含むフェノールレッド不含RPMI1640(インビトロジェン社製)(以下「ADCC用培地」と略す。)に懸濁し、セルストレイナー(ポアサイズ40μm:BD Biosciences社製)を通した後、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測した。脾臓細胞懸濁液を遠心後、培地を除去し、生細胞密度で1.5×10
7細胞/mlになるようADCC用培地で再懸濁しエフェクター細胞とした。
4)−2−2 標的細胞の調製
実施例3)−3と同様の方法で作製したB7−H3発現293細胞(ATCC)及び空ベクターを発現した293細胞をトリプシン処理し、10% FBS含有RPMI1640(インビトロジェン社)で細胞を洗浄後、10% FBS含有RPMI1640に再懸濁し、各細胞4×10
6個を0.22μmフィルターで滅菌したChromium−51(5550kBq)と混合し、37℃、5% CO
2の条件下で1時間ラベルした。ラベルした細胞を10% FBS含有RPMI1640(インビトロジェン社)で3回洗浄し、ADCC用培地で2×10
5細胞/mlになるよう再懸濁し標的細胞とした。
4)−2−3
51Crリリースアッセイ
2×10
5細胞/mlの標的細胞を50μl/ウェルで96穴U底マイクロプレートに分注した。そこにエフェクター細胞添加後の終濃度で2.5μg/mlになるようADCC用培地で希釈したM30、アイソタイプコントロール抗体(mIgG2a)(eBioscience社)を50μl添加し、4℃で1時間静置した。そこに1.5×10
7細胞/mlのエフェクター細胞を100μl添加し、37℃、5% CO
2の条件下で一晩培養した。翌日、上清をLumaPlate(PerkinElmer社製)に回収し、ガンマカウンターで放出されたガンマ線量を測定した。ADCC活性による細胞溶解率は次式で算出した。
【0172】
細胞溶解率(%)=(A‐B)/(C‐B)×100
A:サンプルウェルのカウント
B:自然放出(抗体・エフェクター細胞非添加ウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時とエフェクター細胞添加時にそれぞれADCC用培地を50μl、100μl添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
【0173】
C:最大放出(標的細胞を界面活性剤で溶解させたウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時にADCC用培地を50μl、エフェクター細胞添加時にTriton−X100を2%(v/v)含むADCC用培地を100μlを添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
【0174】
3回の実験の平均値で、エラーバーは、標準偏差を示し、P値はStudent’s t−testにより算出した。測定結果を
図3に示した。
その結果、M30は、B7−H3発現293細胞に対して31.6±3.3%の細胞溶解活性を示したことから、M30抗体はB7−H3発現293細胞に対してADCC活性を有することが示された。
4)−3 CDC活性
実施例2)−
3に示す方法と同様の手法で実験を行った。評価細胞にはNCI−H322細胞を用いた。補体添加後の終濃度で25μg/mlになるように10%FBS含有RPMI1640(抗生物質入り:ペニシリン、ストレプトマイシン)で希釈した実施例3)−6で得られた抗B7−H3抗体(L7、L8、L11、M30、M31)及びアイソタイプコントロール抗体(mIgG2a)を添加し、4℃で1時間静置した。そこにRPMI1640で30%に希釈したウサギ補体(CEDARLANE社製 #CL3051)を終濃度で5%になるよう添加し37℃、5% CO
2の条件下で1時間インキュベートし、更に室温で30分間静置した。細胞生存率を測定するため、培養液と等量のCellTiter−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を添加し、室温で10分間攪拌した後、プレートリーダーで発光量を計測した。細胞生存率は次式で算出した。
【0175】
細胞生存率(%)=(a−b)/(c−b)×100
a:サンプルウェルの発光量
b:バックグラウンド(細胞・抗体非添加ウェル)発光量の平均値(n=3)。細胞播種時に細胞懸濁液の代わりに等量の10%FBS含有RPMI1640(抗生物質入り:ペニシリン、ストレプトマイシン)を添加し、抗体添加時に抗体希釈液と等量の10%FBS含有RPMI1640(抗生物質入り:ペニシリン、ストレプトマイシン)を添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
【0176】
c:抗体非添加ウェルの発光量の平均値(n=3)。抗体添加時に抗体希釈液と等量の10%FBS含有RPMI1640(抗生物質入り:ペニシリン、ストレプトマイシン)を添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
【0177】
測定結果を
図4に示した。3回の実験の平均値で、エラーバーは、標準偏差を示している。その結果、コントロール抗体、L7、L8、L11、M30、M31は、それぞれ補体存在下でNCI−H322細胞に対し101.5±3.3%、6.3±4.2%、13.6±9.1%、7.2±1.4%、7.5±1.8%、12.8±2.0%の細胞生存率の低下を誘導したことから、L7、L8、L11、M30、M31抗体はNCI−H322細胞に対しCDC活性を有することが示された。
4)−4 結合ドメインの決定
M30がB7−H3のどのドメインに結合するかを実施例3)−3と同様のフローサイトメトリー法で検討した。実施例1)−1−3にて調整された各B7−H3部分蛋白質発現ベクターをトランスフェクションしたNIH−3T3細胞が用いられた。
その結果、
図5に示すようにM30は、B7−H3 IgC1、B7−H3 IgC2、B7−H3 IgC1−V2−C2、B7−H3 IgV2−C2に結合することが確認された。B7−H3 IgV1、B7−H3 IgV2には結合しなかった。
このことから、M30はB7−H3のC1ドメイン(配列番号6のアミノ酸番号140乃至244に示されるアミノ酸配列)及びC2ドメイン(配列番号6のアミノ酸番号358乃至456に示されるアミノ酸配列)に結合することが示された。同様にして、L8、L11及びM31もC1ドメイン及びC2ドメインに結合することが示され、L7はV1ドメイン(配列番号6のアミノ酸番号27乃至139に示されるアミノ酸配列)及びV2ドメイン(配列番号6のアミノ酸番号245乃至357に示されるアミノ酸配列)に結合することが示された。
【0178】
よって、M30はB7−H3の細胞外領域中のドメインであるIgC1ドメイン及び/又はIgC2ドメインにおけるエピトープを認識して、IgC1ドメイン若しくはIgC2ドメイン又は両者に結合することが示された。
4)−5 抗原特異性
M30の抗原特異性を実施例3)−3と同様のフローサイトメトリー法で検討した。
実施例1)−1−4にて調整されたB7ファミリー蛋白質であるCD80、CD86、B7−RP−1、B7−H1、B7−DC、B7−H4蛋白質発現ベクターをそれぞれトランスフェクションした293T細胞が用いられた。
その結果、M30はB7ファミリー分子である、CD80、CD86、B7−RP−1、B7−H1、B7−DC、B7−H4へ結合しないことが示された。
実施例5.in vivo抗腫瘍効果
5)−1 抗B7−H3抗体のin vivo抗腫瘍効果
NCI−H322細胞をトリプシン処理して培養フラスコより剥がした後、10%FBS含有RPMI1640(インビトロジェン社)に懸濁後遠心し、上清を除去した。細胞を同培地で2回洗浄したあと、生理食塩水(大塚製薬工場製)に懸濁し、6週齢のBALB/cAJcl−nu/nu(日本クレア社)に1×10
7細胞/マウスで腋窩部皮下に移植した。移植日を0日目として10、17、24、31、38日目にL7、L8、L11、M30、M31抗体を500μg/マウス(約25mg/kg)で腹腔内投与した。コントロールには抗体と同体積(500μl)のPBSを腹腔内投与した。腫瘍体積を10、17、24、31、38、45日目に測定し、抗体投与による抗腫瘍効果を検討した。
その結果、M30、M31投与群ではPBS投与群に比べ、有意に腫瘍増殖が抑制された(45日目時点の腫瘍体積についてPBS投与群との比較でM30、M31のP値はそれぞれP<0.05、P<0.01であった。P値はStudent’s t−testにより算出)。また、45日目時点での腫瘍増殖阻害率(=100‐(抗体投与群の腫瘍体積の平均値)/(PBS投与群の腫瘍体積の平均値)×100)はL7、L8、L11、M30、M31でそれぞれ−16.1%、0.2%、25.5%、47.2%、58.2%であった。M30、M31抗体でin vivoで非常に強い抗腫瘍効果が観察された(
図6)。
【0179】
以上の結果より、M30及びM31抗体がB7−H3抗原を認識し、抗腫瘍効果を示す抗体であることが明らかとなった。
5)−2 貪食細胞を除去した場合のin vivo抗腫瘍効果
生体内の貪食細胞を除去するため、クロドロネート封入リポソームを作製した。即ち、クロドロネート封入リポソームを生体内に投与することにより、生体内の貪食細胞(マクロファージ)が除去されることが報告されており(Journal of immunological methods 1994年、第174巻、p.83−93)、当該報告の方法に従い、クロドロネート封入リポソームを作製して、以下の実験に供した。
【0180】
NCI−H322細胞をトリプシン処理して培養フラスコより剥がした後、10%FBS含有RPMI1640(インビトロジェン社)に懸濁後遠心し、上清を除去した。当該細胞を同培地で2回洗浄したあと、生理食塩水(PBS、大塚製薬工場製)に懸濁し、6週齢のBALB/cAJcl−nu/nu(日本クレア社)に1×10
7細胞/マウスで腋窩部皮下に移植した。移植日を−14日目として0日目に群分けを行った。
マウス生体内のマクロファージを除去する群には、クロドロネート封入リポソームを0、4、7、11、14、18、21、25、28、32日目に0.2mL/マウスで静脈注射した。また、陰性対照群にはPBSを同日(0、4、7、11、14、18、21、25、28、32日目)に0.2mL/マウスで静脈注射した。
次に、上記両群にM30抗体を1、8、15、22、29日目に500μg/マウス(約25mg/kg)で腹腔内投与した。また、陰性対照としてM30抗体と同体積(500μl)のPBSを同日(1、8、15、22、29日目)に上記両群に腹腔内投与した。
腫瘍体積を0、8、15、22、29、36日目に測定し、抗体投与による抗腫瘍効果を検討した(n=8)。
その結果を表1、表2及び
図7に示す。
【0181】
【表1】
【0182】
PBS静脈投与+M30抗体腹腔内投与群(PBS+M30投与群)では、陰性対象となるPBS静脈投与+PBS腹腔内投与群(PBS+PBS投与群)に比べ、有意に腫瘍増殖が抑制された。即ち、36日目時点の腫瘍体積についてPBS+PBS投与群との比較でPBS+M30投与群のP値はP<0.05であった(P値はStudent’s t−testにより算出)。また、36日目時点での腫瘍増殖阻害率(=100‐(PBS+M30投与群の腫瘍体積の平均値)/(PBS+PBS投与群の腫瘍体積の平均値)×100)は49.8%であった(表2)。
一方、クロドロネート封入リポソーム静脈投与+PBS腹腔内投与群(Clod lip+PBS投与群)及びクロドロネート封入リポソーム静脈投与+M30抗体腹腔内投与群(Clod lip+M30投与群)では腫瘍増殖の抑制は認められなかった。即ち、36日目時点の腫瘍体積についてPBS+PBS投与群との比較でClod lip+PBS投与群およびClod lip+M30投与群のP値はそれぞれP=0.52、P=1であった(P値はStudent’s t−testにより算出)。また、36日目時点での腫瘍増殖阻害率(=100‐(Clod lip+PBS投与群又はClod lip+M30投与群の腫瘍体積の平均値)/(PBS+PBS投与群の腫瘍体積の平均値)×100)はそれぞれ−21.2%、−1.4%であった(表2)。
【0183】
【表2】
【0184】
以上の結果より、M30抗体の抗腫瘍効果はクロドロネート封入リポソーム投与により抑制されたことが示されたことから、M30抗体の抗腫瘍効果は主にマクロファージを介した効果であることが明らかとなった。
実施例6.マウス抗体M30のcDNAのクローニングと配列の決定
6)−1 マウス抗体M30の重鎖及び軽鎖のN末端アミノ酸配列の決定
マウス抗体M30の重鎖及び軽鎖のN末端アミノ酸配列を決定するために、実施例3)−6で精製したマウス抗体M30をSDS−PAGEで分離した。分離後のゲルからPVDF膜(ポアサイズ 0.45μm;インビトロジェン社製)にゲル中のタンパク質を転写し、洗浄バッファー(25mM NaCl、10mMホウ酸ナトリウムバッファー pH8.0)で洗浄した後、染色液(50%メタノール、20%酢酸、0.05%クマシーブリリアントブルー)に5分間浸して染色してから、90%メタノールで脱色した。
PVDF膜上で可視化された重鎖(移動度が小さい方のバンド)及び軽鎖(移動度が大きい方のバンド)に相当するバンド部分を切りとった。
軽鎖に相当するバンドについては、少量の0.5%ポリビニルピロリドン/100mM酢酸溶液中で、37℃で30分間保温した後、水でよく洗浄し、次に、Pfuピログルタミン酸アミノペプチダーゼキット(タカラバイオ株式会社)を用いて修飾N末端残基を除去し、水で洗浄した後風乾した。Procise(登録商標)cLCプロテインシーケンサーModel492cLC(Applied Biosystems)を用いて、自動エドマン法(Edman et al.(1967)Eur.J.Biochem.1,80参照)によりそれぞれのN末端アミノ酸配列の同定を試みた。
その結果、マウス抗体M30の重鎖に相当するバンドのN末端のアミノ酸配列は、
EVQLQQSGPE(配列表の配列番号44)
であり、軽鎖に相当するバンドのN末端アミノ酸配列は、
IVLSQSPTILSASP(配列表の配列番号45)
であった。
6−2)マウス抗体M30産生ハイブリドーマからのmRNAの調製
マウス抗体M30の重鎖及び軽鎖をコードするcDNAをクローニングするため、マウス抗体M30産生ハイブリドーマよりQuick Prep mRNA Purification Kit(GE Healthcare社)を用いてmRNAを調製した。
6−3)マウス抗体M30のcDNAのクローニングと配列の決定
マウス抗体M30の重鎖及び軽鎖のアイソタイプがγ2aとκであること(実施例3)−5)、実施例1−1)で決定した重鎖及び軽鎖のN末端アミノ酸配列、及び抗体のアミノ酸配列データベース(Kabat,E.A.et al.,(1991) in Sequences of Proteins of Immunological Interest Vol.I及びII,U.S.Department of Health and Human Services参照)を参考にして、抗体遺伝子翻訳領域の5’末端側と終止コドンを含む3’末端部分にそれぞれハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーをいくつか合成し、実施例6−2)で調製したmRNAとTaKaRa One Step RNA PCR Kit(AMV)(タカラバイオ社)を用いて重鎖、及び軽鎖をコードするcDNAを増幅したところ、下記のプライマーセットで抗体の重鎖、及び軽鎖をコードするcDNAを増幅することができた。
重鎖用プライマーセット
プライマー16
5’−aagaattcatggaatggagttggata−3’(配列表の配列番号46)
プライマー17
5’−aagatatctcatttacccggagtccgggagaa−3’ (配列表の配列番号47)
軽鎖用プライマーセット
プライマー18
5’−aagaattcatggattttctggtgcag−3’(配列表の配列番号48)
プライマー19
5’−aagatatcttaacactcattcctgttgaagct−3’(配列表の配列番号49)
PCRで増幅された重鎖、及び軽鎖のcDNAをそれぞれpEF6/V5−His TOPO TA Expression Kit(インビトロジェン社)を用いてクローニングし、クローニングされた重鎖、軽鎖の各ヌクレオチド配列を遺伝子配列解析装置(「ABI PRISM 3700 DNA Analyzer;Applied Biosystems」又は「Applied Biosystems 3730xl Analyzer;Applied Biosystems」)を用いて決定した。シーケンスの反応は、GeneAmp 9700(Applied Biosystems社)を用いた。
決定されたマウス抗体M30の重鎖をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列表の配列番号50に示し、アミノ酸配列を配列番号51に示した。また、配列番号50及び51の配列は
図21に記載されている。
決定されたマウス抗体M30の軽鎖をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列表の配列番号52に示し、アミノ酸配列を配列表の配列番号53に示した。また、配列番号52及び53の配列は
図22に記載されている。
また、重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を、抗体のアミノ酸配列のデータベースであるKabatMan(PROTEINS:Structure, Function and Genetics,25(1996),130−133.参照)を用いて比較検討した結果、マウス抗体M30の重鎖については、配列表の配列番号51のアミノ酸番号20乃至141に示されるアミノ酸配列が可変領域であることが明らかになった。またマウス抗体M30の軽鎖については、配列表の配列番号53のアミノ酸番号23乃至130に示されるアミノ酸配列が可変領域であることが明らかとなった。
実施例7.キメラ抗体M30(cM30抗体)の作製
7)−
1 キメラ及びヒト化軽鎖発現ベクターpEF6KCLの構築
プラスミドpEF6/V5−HisB(インビトロジェン社)を鋳型として下記プライマーを用いてPCRを行うことにより、BGHpAの直後(Sequence Position 2174)から、Sma I(Sequence Position 2958)までのDNA断片(f1 origin of replication及びSV40 promotor and originを含むDNAフラグメント、以下、「フラグメントA」とする。)を取得した。
プライマー20
5’−ccacgcgccctgtagcggcgcattaagc−3’(配列表の配列番号54)
プライマー21
5’−aaacccgggagctttttgcaaaagcctagg−3’(配列表の配列番号55)
得られたフラグメントAと、ヒトκ鎖分泌シグナル及びヒトκ鎖定常領域及びヒトpolyA付加シグナルをコードするDNA配列を含むDNAフラグメント(配列番号56:以下、「フラグメントB」とする。配列番号56の配列は
図23に記載されている)をOverlap Extension PCRにより結合した。得られたフラグメントAとフラグメントBとが結合したDNA断片を制限酵素KpnI及びSmaIで消化し、制限酵素KpnI及びSmaIで消化したプラスミドpEF6/V5−HisB(インビトロジェン社)とライゲーションし、EF1プロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、ヒトκ鎖定常領域、及びヒトpolyA付加シグナル配列をもつ、キメラ及びヒト化軽鎖発現ベクターpEF6KCLを構築した。
7)−2 pEF1KCLの構築
上記の方法で得られたpEF6KCLから制限酵素KpnI及びSmaIで切り出されたDNA断片を、KpnI及びSmaIで消化したpEF1/myc−HisB(インビトロジェン社)とライゲーションし、プラスミドpEF1KCLを構築した。
7)−3 キメラ及びヒト化重鎖発現ベクターpEF1FCCUの構築
ヒトIgG1シグナル配列及び定常領域のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片(配列番号57:配列番号57の配列は
図24に記載されている)を制限酵素NheI及びPmeIで消化し、NheI及びPmeIで消化したプラスミドpEF1KCLと結合し、EF1プロモーターの下流にシグナル配列、クローニングサイト、ヒト重鎖定常領域、及びヒトpolyA付加シグナル配列をもつキメラ及びヒト化重鎖発現ベクターpEF1FCCUを構築した。
7)−4 M30キメラタイプ軽鎖発現ベクターの構築
マウス抗体M30の軽鎖をコードするcDNAをテンプレートとして、KOD−Plus−(TOYOBO社)と下記のプライマーセットで軽鎖の可変領域をコードするcDNAを含む部分を増幅し、制限酵素NdeI及びBsiWIで切り出されるDNA断片を、キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現汎用ベクター(pEF6KCL)を制限酵素NdeI及びBsiWIで切断した箇所に挿入することにより、M30キメラタイプ軽鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pEF6KCL/M30L」と命名した。M30キメラタイプ軽鎖のヌクレオチド配列を配列表の配列番号58に示し、アミノ酸配列を配列番号59に示した。また、配列番号58及び59の配列は
図25に記載されている。なお、配列表の配列番号59に記載のcM30抗体軽鎖のアミノ酸配列において128番目のスレオニン残基は軽鎖可変領域のカルボキシル末端であり、配列表の配列番号53に記載のM30抗体軽鎖のアミノ酸配列において130番目のアラニン残基に対応するが、配列番号59に記載のアミノ酸配列においては既にヒト抗体軽鎖由来のスレオニン残基に置換されている。
軽鎖用プライマーセット
プライマー22
5’−aaacatatggccaaattgttctctcccagtctccaacaatcc−3’(配列表の配列番号60)
プライマー23
5’−aaacgtacgtttcagctccagcttggtcccagtaccg−3’(配列表の配列番号61)
7)−5 M30キメラタイプ重鎖発現ベクターの構築
マウス抗体M30の重鎖をコードするcDNAをテンプレートとして、KOD−Plus−(TOYOBO社)と下記のプライマーセットAを用いてPCRを行うことにより得られたDNA断片と下記のプライマーセットBを用いてPCRを行うことにより得られたDNA断片を、下記のプライマーセットCを用いたOverlap Extension PCRにより結合することにより、可変領域の中にあるBlpIを除去するとともに重鎖の可変領域をコードするcDNAを含む部分を増幅した。制限酵素BlpIで切り出されるDNA断片を、キメラ及びヒト化抗体重鎖発現汎用ベクター(pEF1FCCU)を制限酵素BlpIで切断した箇所に挿入することにより、M30キメラタイプ重鎖発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「pEF1FCCU/M30H」と命名した。
M30キメラタイプ重鎖のヌクレオチド配列を配列表の配列番号62に示し、アミノ酸配列を配列番号63に示した。また、配列番号62及び63の配列は
図26に記載されている。
プライマーセットA
プライマー24
5’−aaagctgagcgaggtccagctgcagcagtctggacctgag−3’(配列表の配列番号64)
プライマー25
5’−gaggtcaggctgctgagttccatgtaggctgtgctg−3’(配列表の配列番号65)
プライマーセットB
プライマー26
5’−cagcacagcctacatggaactcagcagcctgacctc−3’(配列表の配列番号66)
プライマー27
5’−aaagctgagctgactgtgagagtggtgccttggccccag−3’(配列表の配列番号67)
プライマーセットC
プライマー28
5’−aaagctgagcgaggtccagctgcagcagtctggacctgag−3’(配列表の配列番号68)
プライマー29
5’−aaagctgagctgactgtgagagtggtgccttggccccag−3’(配列表の配列番号69)
7)−6 キメラ抗体M30調製
7)−6−1 キメラ抗体M30の生産
1.2×10
9個の対数増殖期のFreeStyle 293F細胞(インビトロジェン社)を新鮮な1.2LのFreeStyle293 expression medium (インビトロジェン社)に播種し、37℃、8%CO
2インキュベーター内で90rpmで一時間振とう培養した。Polyethyleneimine(Polyscience #24765)3.6mgをOpti−Pro SFM培地(インビトロジェン社)20mlに溶解し、次にPureLink HiPure Plasmidキット(インビトロジェン社)を用いて調製したpEF1FCCU/M30H(0.4mg)及びpEF6KCL/M30L(0.8mg)を20mlのOpti−Pro SFM培地に懸濁した。Polyethyleneimine/Opti−Pro SFM混合液20mlに、発現ベクター/Opti−Pro SFM混合液20mlを加え穏やかに攪拌し、更に5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8%CO
2インキュベーターで7日間、90rpmで振とう培養して得られた培養上清をDisposable Capsule Filter (Advantec #CCS−045−E1H)でろ過した。
pEF1FCCU/M30HとpEF6KCL/M30Lとの組合せによって取得されたキメラ抗体M30を「cM30」又は「cM30抗体」と命名した。
7)−6−2 cM30の精製
実施例7
)−6−
1で得られた培養上清を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー(4−6℃下)(GEヘルスケア・ジャパン社)とセラミックヒドロキシルアパタイト(室温下)の2段階工程で精製した。rProteinAアフィニティークロマトグラフィー精製後とセラミックヒドロキシルアパタイト精製後のバッファー置換工程は室温下で実施した。
最初に、培養上清1100−1200mlを、PBSで平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrapカラム:容積1ml×2連結)にアプライした。培養液がカラムに全て入ったのち、PBS15−30mlでカラムを洗浄した。
次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を脱塩カラム(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrap Desaltingカラム:容積5ml×2連結)で5mM リン酸ナトリウム/50mM MES/20mM NaCl/pH6.5のバッファーへ置換を行った。
更にその置換した抗体溶液を、5mM NaPi/50mM MES/20mM NaCl/pH6.5のバッファーで平衡化されたセラミックハイドロキシルアパタイトカラム(日本バイオラッド、Bio−Scale CHT2−1 Hydroxyapatite Column:容積2ml)にアプライした。塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出を実施し、抗体の含まれる画分を集めた。当該画分を脱塩カラム(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrap Desaltingカラム:容積5mlx2連結)でCBS(10mMクエン酸緩衝液/140mM塩化ナトリウム、pH6.0)への液置換を行った。
最後にCentrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量30K,Sartorius社,4℃下)にて濃縮し、IgG濃度を1.0mg/ml以上に調製し精製サンプルとした。
実施例8.cM30抗体の活性
8)−1 cM30抗体のB7−H3に対する結合活性
M30抗体及びcM30抗体のB7−H3抗原との親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)装置(GE Healthcare社)により測定した。定法により、抗マウスIgG又は抗ヒトIgG抗体をセンサーチップに固定化し、そこへM30抗体サンプル又はcM30抗体を結合した後に、各濃度のリコンビナントB7−H3バリアント2抗原の細胞外領域ポリペプチド
(R&D Systems社製:#2318−B3−050/CF)を添加し、ランニングバッファー(リン酸バッファー、0.05% SP20)中での抗体に対する結合量を経時的に測定した。測定した結合量を、専用ソフトウェア(BIAevaluation Version4.1、GEヘルスケア社)により解析し解離定数を算出した。
その結果、M30抗体及びcM30抗体はそれぞれ5.89nM及び3.43nMの解離定数でリコンビナントB7−H3抗原に結合した。このことから、M30抗体及びcM30抗体はB7−H3抗原に結合し、その結合強度はほぼ同等であることが確かめられた。
8)−2 cM30抗体のADCP活性
健常人の末梢血単核球(PBMC)を定法に従い分離した。RPMI−10%FCS(インビトロジェン社)中に懸濁し、フラスコ中に播種した。CO
2インキュベータで一晩培養を行った。培養上清を捨て、フラスコに付着した細胞にM−CSF及びGM−CSF(PeproTech社)を添加したRPMI−10%FCSを加え、2週間培養した。細胞をTrypLEで剥離し、回収した。500μl/well(1x10
5 cell/well)を24 well plateに添加し、37℃で1晩培養した。本細胞をエフェクター細胞とした。
ターゲット細胞となるNCI−H322細胞のラベリングをPKH26 dye labeling kit(Sigma社)を用いて行った。ターゲット細胞をTrypLEで剥離し、PBSで2回洗浄した。細胞をDiluent Cで1x10
7 cells/mlになるよう懸濁した。PKH26 dye stock (1mM)をDiluent Cで8μMに希釈し、すぐに細胞浮遊液と等量のdye 希釈液を添加した。室温に5分間放置した。血清1mlを添加し、更に血清入り培地を加え2回洗浄を行った。
【0185】
M30及びcM30抗体を培養液で20μg/mlに希釈した。ターゲット細胞を、2x10
6/100μl/tube分注、混合した。氷上で30分間静置した。上清を捨て、培養液で2回洗浄した。培養液500μlに懸濁した。エフェクター細胞から上清を除き、抗体を処理し培養液にサスペンドした細胞を添加し、混合した。CO
2インキュベータ内で3時間培養した。Trypsin−EDTAで細胞を剥離し、細胞を回収した。回収した細胞にFITC標識抗マウスCD11b抗体(ベクトンディッキンソン社)を加え、氷上で30分間静置した。上清を捨て、培養液で2回洗浄した。回収した細胞を300μLの場位置で懸濁し、FACS Calibur(ベクトンディッキンソン社)にて測定を行った。CD11b陽性のマクロファージ細胞において、PKH26陽性画分を貪食陽性細胞として評価を行った。
【0186】
その結果、
図8に示されるように、10μg/mlのM30及びcM30抗体を添加した際、それぞれマクロファージによるNCI−H322細胞の貪食を33±1%及び35±2%誘導した。このことから、cM30抗体はM30抗体と同様にNCI−H322細胞に対してADCP活性を有することが示された。同様の実験結果がMDA−MB−231細胞(ATCC)に対するADCP活性においても得られた。
8)−3 cM30抗体のin vivo抗腫瘍効果
MDA−MB−231細胞をトリプシン処理して培養フラスコより剥がした後、10% FBS含有RPMI1640培地(インビトロジェン社)に懸濁後遠心し、上清を除去した。細胞を同培地で2回洗浄したあと、BDマトリゲル基底膜マトリックス(BD Biosciences社製)に懸濁し、6週齢のマウス(CB17/Icr−Prkdc[scid]/CrlCrlj、日本チャールス・リバー株式会社)に5×10
6細胞/マウスで腋窩部皮下に移植した。移植日を0日目として14、21、28、35、42日目にM30抗体、cM30抗体を500μg/マウス(約25mg/kg)で腹腔内投与した。腫瘍体積を14、18、21、25、28、32、35、39、42、46、49、52日目に測定し、抗体投与による抗腫瘍効果を検討した。
その結果、M30抗体、cM30抗体投与群では、抗体を投与しない無処置群に比べ、有意に腫瘍増殖が抑制された。52日目時点の腫瘍重量について無処置群との比較でM30抗体、cM30抗体のP値は共にP<0.001であった。P値はDunnett型多重比較により算出した。
また、52日目時点での腫瘍増殖阻害率(=100−(抗体投与群の腫瘍体積の平均値)/(無処置群の腫瘍体積の平均値)×100)はM30抗体で71.3%、cM30抗体で71.7%であり、cM30抗体はM30抗体と同様にin vivoで非常に強い抗腫瘍効果が観察された(
図9)。
実施例9.マウス抗ヒトB7−H3抗体#M30のヒト化抗体の設計
9)−1 M30のヒト化バージョンの設計
9)−1−1 M30の可変領域の分子モデリング
M30の可変領域の分子モデリングは、相同性モデリングとして一般的に公知の方法(Methods in Enzymology,203,121−153,(1991))によって実行された。Protein Data Bank(Nuc.Acid Res.35,D301−D303(2007))に登録されるヒト免疫グロブリンの可変領域の1次配列(X線結晶構造から誘導される三次元構造が入手可能である)を、実施例6−3)で決定されたM30の可変領域と比較した。
結果として、3BKYが、M30の軽鎖の可変領域に対して同様にフレームワーク中に欠損がある抗体の中で、最も高い配列相同性を有するとして選択された。また、3DGGが、M30の重鎖の可変領域に対して最も高い配列相同性を有するとして選択された。
フレームワーク領域の三次元構造は、M30の軽鎖及び重鎖に対応する3BKY及び3DGGの座標を組み合わせて、「フレームワークモデル」を得ることによって作製された。M30のCDRは、Thornton et al.(J.Mol.Biol.,263,800−815,(1996))の分類、及びH3ルール(FEBS letter 399,1−8(1996))に従って、CDRH1(配列番号92)、CDRH2(配列番号93)及びCDRH3(配列番号94)、CDRL1(配列番号95)、CDRL2(配列番号96)、CDRL3(配列番号97)に対し最も近いコンホメーションを有する座標としてそれぞれ2HOJ、1BBD、1Q9O、2FBJ、1LNK、1TETを選び、フレームワークモデルに組み込まれた。
【0187】
最後に、エネルギーの点でM30の可変領域の可能性のある分子モデルを得るために、不利な原子間接触を除くためのエネルギー計算を行った。上記手順を、市販の蛋白質立体構造予測プログラムPrime及び配座探索プログラムMacroModel(Schrodinger、LLC)を用いて行った。
9)−1−2 ヒト化M30に対するアミノ酸配列の設計
ヒト化M30抗体の構築を、CDRグラフティング(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029−10033(1989))として一般的に公知の方法によって行った。
アクセプター抗体は、フレームワーク領域内のアミノ酸相同性に基づいて選択された。M30のフレームワーク領域の配列を、抗体のアミノ酸配列のKabatデータベース(Nuc.Acid Res.29,205−206(2001))の全てのヒトフレームワークと比較し、結果として、mAb49‘CL抗体(NCBIのGenBank: D16838.1及びD16837.1)がフレームワーク領域についての70%の配列相同性に起因して、アクセプターとして選択された。
mAb49‘CLについてのフレームワーク領域のアミノ酸残基を、M30についてのアミノ酸残基と整列させ、異なるアミノ酸が使用される位置を同定した。これらの残基の位置は、上で構築されたM30の三次元モデルを使用して分析され、そしてアクセプター上にグラフティングされるべきドナー残基が、Queen et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029−10033(1989))によって与えられる基準によって選択された。選択されたいくつかのドナー残基をアクセプター抗体に移入することによって、ヒト化
M30抗体配列を以下の実施例に記載されるように構築した。
9)−2 M30重鎖のヒト化
9)−2−1 M30−H1タイプ重鎖:
配列表の配列番号63に示されるcM30重鎖のアミノ酸番号20(グルタミン酸)、24(グルタミン)、28(プロリン)、30(ロイシン)、31(バリン)、35(アラニン)、39(メチオニン)、57(リジン)、59(リジン)、67(イソロイシン)、86(リジン)、87(アラニン)、89(グルタミン)、91(セリン)、93(リジン)、95(セリン)、106(スレオニン)、110(セリン)、136(スレオニン)、137(ロイシン)をそれぞれグルタミン、バリン、アラニン、バリン、リジン、セリン、バリン、アルギニン、アラニン、メチオニン、アルギニン、バリン、イソロイシン、アラニン、グルタミン酸、スレオニン、アルギニン、スレオニン、ロイシン、バリンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30重鎖を「M30−H1タイプ重鎖」と命名した。
M30−H1タイプ重鎖のアミノ酸配列を配列番号85に示した。
9)−2−2 M30−H2タイプ重鎖:
配列表の配列番号63に示されるcM30重鎖のアミノ酸番号20(グルタミン酸)、24(グルタミン)、28(プロリン)、30(ロイシン)、31(バリン)、35(アラニン)、39(メチオニン)、57(リジン)、59(リジン)、86(リジン)、87(アラニン)、89(グルタミン)、91(セリン)、93(リジン)、95(セリン)、106(スレオニン)、110(セリン)、136(スレオニン)、137(ロイシン)をそれぞれグルタミン、バリン、アラニン、バリン、リジン、セリン、バリン、アルギニン、アラニン、アルギニン、バリン、イソロイシン、アラニン、グルタミン酸、スレオニン、アルギニン、スレオニン、ロイシン、バリンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30重鎖を「M30−H2タイプ重鎖」と命名した。
M30−H2タイプ重鎖のアミノ酸配列を配列番号87に示した。
9)−2−3 M30−H3タイプ重鎖:
配列表の配列番号63に示されるcM30重鎖のアミノ酸番号24(グルタミン)、28(プロリン)、30(ロイシン)、31(バリン)、35(アラニン)、39(メチオニン)、59(リジン)、89(グルタミン)、91(セリン)、93(リジン)、95(セリン)、106(スレオニン)、110(セリン)、136(スレオニン)、137(ロイシン)をそれぞれバリン、アラニン、バリン、リジン、セリン、バリン、アラニン、イソロイシン、アラニン、グルタミン酸、スレオニン、アルギニン、スレオニン、ロイシン、バリンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30重鎖を「M30−H3タイプ重鎖」と命名した。
M30−H3タイプ重鎖のアミノ酸配列を配列番号89に示した。
9)−2−4 M30−H4タイプ重鎖:
配列表の配列番号63に示されるcM30重鎖のアミノ酸番号24(グルタミン)、28(プロリン)、30(ロイシン)、31(バリン)、35(アラニン)、39(メチオニン)、59(リジン)、95(セリン)、106(スレオニン)、110(セリン)、136(スレオニン)、137(ロイシン)をそれぞれバリン、アラニン、バリン、リジン、セリン、バリン、アラニン、スレオニン、アルギニン、スレオニン、ロイシン、バリンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30重鎖を「M30−H4タイプ重鎖」と命名した。
M30−H4タイプ重鎖のアミノ酸配列を配列番号91に示した。
9)−3 M30軽鎖のヒト化
9)−3−1 M30−L1タイプ軽鎖:
配列表の配列番号59に示されるcM30軽鎖のアミノ酸番号21(グルタミン)、25(セリン)、29(スレオニン)、30(イソロイシン)、33(アラニン)、38(リジン)、39(バリン)、41(メチオニン)、42(スレオニン)、61(セリン)、62(セリン)、64(リジン)、65(プロリン)、66(トリプトファン)、77(バリン)、89(セリン)、90(チロシン)、91(セリン)、97(バリン)、99(アラニン)、102(アラニン)、104(スレオニン)、119(スレオニン)、123(ロイシン)、125(ロイシン)をそれぞれグルタミン酸、スレオニン、アラニン、スレオニン、ロイシン、アルギニン、アラニン、ロイシン、セリン、グルタミン、アラニン、アルギニン、ロイシン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、スレオニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、バリン、グルタミン、バリン、イソロイシンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30軽鎖を「M30−L1タイプ軽鎖」と命名した。
M30−L1タイプ軽鎖のアミノ酸配列を配列番号71に示した。
9)−3−2 M30−L2タイプ軽鎖:
配列表の配列番号59に示されるcM30軽鎖のアミノ酸番号21(グルタミン)、25(セリン)、29(スレオニン)、30(イソロイシン)、33(アラニン)、38(リジン)、39(バリン)、41(メチオニン)、42(スレオニン)、61(セリン)、62(セリン)、64(リジン)、65(プロリン)、77(バリン)、89(セリン)、91(セリン)、97(バリン)、99(アラニン)、102(アラニン)、104(スレオニン)、119(スレオニン)、123(ロイシン)、125(ロイシン)をそれぞれグルタミン酸、スレオニン、アラニン、スレオニン、ロイシン、アルギニン、アラニン、ロイシン、セリン、グルタミン、アラニン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、スレオニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、バリン、グルタミン、バリン、イソロイシンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30軽鎖を「M30−L2タイプ軽鎖」と命名した。
M30−L2タイプ軽鎖のアミノ酸配列を配列番号73に示した。
9)−3−3 M30−L3タイプ軽鎖:
配列表の配列番号59に示されるcM30軽鎖のアミノ酸番号29(スレオニン)、30(イソロイシン)、33(アラニン)、38(リジン)、39(バリン)、41(メチオニン)、62(セリン)、65(プロリン)、77(バリン)、91(セリン)、97(バリン)、99(アラニン)、102(アラニン)、104(スレオニン)、119(スレオニン)、123(ロイシン)、125(ロイシン)をそれぞれアラニン、スレオニン、ロイシン、アルギニン、アラニン、ロイシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、バリン、グルタミン、バリン、イソロイシンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30軽鎖を「M30−L3タイプ軽鎖」と命名した。
M30−L3タイプ軽鎖のアミノ酸配列を配列番号75に示した。
9)−3−4 M30−L4タイプ軽鎖:
配列表の配列番号59に示されるcM30軽鎖のアミノ酸番号21(グルタミン)、25(セリン)、29(スレオニン)、30(イソロイシン)、33(アラニン)、38(リジン)、39(バリン)、41(メチオニン)、42(スレオニン)、61(セリン)、62(セリン)、64(リジン)、66(トリプトファン)、77(バリン)、89(セリン)、90(チロシン)、91(セリン)、96(アルギニン)、97(バリン)、99(アラニン)、102(アラニン)、104(スレオニン)、119(スレオニン)、123(ロイシン)、125(ロイシン)をそれぞれグルタミン酸、スレオニン、アラニン、スレオニン、ロイシン、アルギニン、アラニン、ロイシン、セリン、グルタミン、アラニン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、スレオニン、セリン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、バリン、グルタミン、バリン、イソロイシンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30軽鎖を「M30−L4タイプ軽鎖」と命名した。
M30−L4タイプ軽鎖のアミノ酸配列を配列番号77に示した。
9)−3−5 M30−L5タイプ軽鎖:
配列表の配列番号59に示されるcM30軽鎖のアミノ酸番号29(スレオニン)、30(イソロイシン)、33(アラニン)、38(リジン)、39(バリン)、41(メチオニン)、62(セリン)、77(バリン)、91(セリン)、97(バリン)、99(アラニン)、102(アラニン)、104(スレオニン)、119(スレオニン)、123(ロイシン)、125(ロイシン)をそれぞれアラニン、スレオニン、ロイシン、アルギニン、アラニン、ロイシン、アラニン、イソロイシン、スレオニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、バリン、グルタミン、バリン、イソロイシンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30軽鎖を「M30−L5タイプ軽鎖」と命名した。
M30−L5タイプ軽鎖のアミノ酸配列を配列番号79に示した。
9)−3−6 M30−L6タイプ軽鎖:
配列表の配列番号59に示されるcM30軽鎖のアミノ酸番号21(グルタミン)、25(セリン)、29(スレオニン)、30(イソロイシン)、33(アラニン)、38(リジン)、39(バリン)、41(メチオニン)、42(スレオニン)、61(セリン)、62(セリン)、64(リジン)、66(トリプトファン)、77(バリン)、89(セリン)、90(チロシン)、91(セリン)、97(バリン)、99(アラニン)、102(アラニン)、104(スレオニン)、119(スレオニン)、123(ロイシン)、125(ロイシン)をそれぞれグルタミン酸、スレオニン、アラニン、スレオニン、ロイシン、アルギニン、アラニン、ロイシン、セリン、グルタミン、アラニン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、スレオニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、バリン、グルタミン、バリン、イソロイシンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30軽鎖を「M30−L6タイプ軽鎖」と命名した。
M30−L6タイプ軽鎖のアミノ酸配列を配列番号81に示した。
9)−3−7 M30−L7タイプ軽鎖:
配列表の配列番号59に示されるcM30軽鎖のアミノ酸番号21(グルタミン)、25(セリン)、29(スレオニン)、30(イソロイシン)、33(アラニン)、38(リジン)、39(バリン)、41(メチオニン)、42(スレオニン)、61(セリン)、62(セリン)、64(リジン)、66(トリプトファン)、77(バリン)、89(セリン)、91(セリン)、97(バリン)、99(アラニン)、102(アラニン)、104(スレオニン)、119(スレオニン)、123(ロイシン)、125(ロイシン)をそれぞれグルタミン酸、スレオニン、アラニン、スレオニン、ロイシン、アルギニン、アラニン、ロイシン、セリン、グルタミン、アラニン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、スレオニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、バリン、グルタミン、バリン、イソロイシンに置き換えることを伴い設計されたヒト化M30軽鎖を「M30−L7タイプ軽鎖」と命名した。
M30−L7タイプ軽鎖のアミノ酸配列を配列番号83に示した。
(実施例10)ヒト化抗体の作製
10)−1 M30−L1、M30−L2、M30−L3、M30−L4、M30−L5、M30−L6、及びM30−L7タイプ軽鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号71のアミノ酸番号21乃至128、配列番号73のアミノ酸番号21乃至128、配列番号75のアミノ酸番号21乃至128、配列番号77のアミノ酸番号21乃至128、配列番号79のアミノ酸番号21乃至128、配列番号81のアミノ酸番号21乃至128、及び配列番号83のアミノ酸番号21乃至128にそれぞれ示される、M30−L1、M30−L2、M30−L3、M30−L4、M30−L5、M30−L6、及びM30−L7タイプ軽鎖可変領域をコードする遺伝子を含むDNAを上記アミノ酸配列に係る配列番号に対応するヌクレオチド配列に係る配列番号70、72、74、76、78、80及び82に基づき合成し(GENEART社、人工遺伝子合成サービス)、制限酵素NdeI及びBsiWIで切り出されるDNA断片を、キメラ及びヒト化抗体軽鎖発現汎用ベクター(pEF6KCL)を制限酵素NdeI及びBsiWIで切断した箇所に挿入することにより、M30−L1、M30−L2、M30−L3、M30−L4、M30−L5、M30−L6、及びM30−L7タイプ軽鎖発現ベクターを構築した。
得られた発現ベクターをそれぞれ「pEF6KCL/M30−L1」、「pEF6KCL/M30−L2」、「pEF6KCL/M30−L3」、「pEF6KCL/M30−L4」、「pEF6KCL/M30−L5」、「pEF6KCL/M30−L6」、及び「pEF6KCL/M30−L7」と命名した。
10)−2 M30−H1、M30−H2、M30−H3、及びM30−H4タイプ重鎖発現ベクターの構築
配列表の配列番号85のアミノ酸番号20乃至141、配列番号87のアミノ酸番号20乃至141、配列番号89のアミノ酸番号20乃至141、及び配列番号91のアミノ酸番号20乃至141にそれぞれ示される、M30−H1、M30−H2、M30−H3、及びM30−H4タイプ重鎖可変領域をコードする遺伝子を含むDNAを上記アミノ酸配列に係る配列番号に対応するヌクレオチド配列に係る配列番号84、86、88及び90に基づき合成し(GENEART社 人工遺伝子合成サービス)、制限酵素BlpIで切り出されるDNA断片を、ヒト化抗体重鎖発現汎用ベクター(pEF1FCCU)を制限酵素BlpIで切断した箇所に挿入することにより、M30−H1、M30−H2、M30−H3、及びM30−H4タイプ重鎖発現ベクターを構築した。
得られた発現ベクターをそれぞれ「pEF1FCCU/M30−H1」、「pEF1FCCU/M30−H2」、「pEF1FCCU/M30−H3」、及び「pEF1FCCU/M30−H4」と命名した。
10)−3 ヒト化抗体の生産
1.2×10
9個の対数増殖期のFreeStyle 293F細胞(インビトロジェン社)を新鮮な1.2LのFreeStyle293 expression medium(インビトロジェン社)に播種し、37℃、8%CO
2インキュベーター内で90rpmで一時間振とう培養した。Polyethyleneimine(Polyscience #24765)3.6mgをOpti−Pro SFM培地(インビトロジェン社)20mlに溶解し、次にPureLink HiPure Plasmidキット(インビトロジェン社)を用いて調製した重鎖発現ベクター(0.4mg)及び軽鎖発現ベクター(0.8mg)を20mlのOpti−Pro SFM培地に懸濁した。Polyethyleneimine/Opti−Pro SFM混合液20mlに、発現ベクター/Opti−Pro SFM混合液20mlを加え穏やかに攪拌し、更に5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8%CO
2インキュベーターで7日間、90rpmで振とう培養して得られた培養上清をDisposable Capsule Filter (Advantec #CCS−045−E1H)でろ過した。
pEF1FCCU/M30−H1とpEF6KCL/M30−L1との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H1−L1」、pEF1FCCU/M30−H1とpEF6KCL/M30−L2との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H1−L2」、pEF1FCCU/M30−H1とpEF6KCL/M30−L3との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H1−L3」、pEF1FCCU/M30−H1とpEF6KCL/M30−L4との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H1−L4」、pEF1FCCU/M30−H4とpEF6KCL/M30−L1との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H4−L1」、pEF1FCCU/M30−H4とpEF6KCL/M30−L2との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H4−L2」、pEF1FCCU/M30−H4とpEF6KCL/M30−L3との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H4−L3」、pEF1FCCU/M30−H4とpEF6KCL/M30−L4との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H4−L4」、pEF1FCCU/M30−H1とpEF6KCL/M30−L5との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H1−L5」、pEF1FCCU/M30−H1とpEF6KCL/M30−L6との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H1−L6」、及びpEF1FCCU/M30−H1とpEF6KCL/M30−L7との組合せによって取得されたM30のヒト化抗体を「M30−H1−L7」、と命名した。
10)−4 ヒト化抗体の精製
実施例
10)−3で得られた培養上清を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー(4−6℃下)とセラミックヒドロキシルアパタイト(室温下)の2段階工程で精製した。rProteinAアフィニティークロマトグラフィー精製後とセラミックヒドロキシルアパタイト精製後のバッファー置換工程は室温下で実施した。
最初に、培養上清1100−1200mlを、PBSで平衡化したMabSelectSuRe(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrapカラム:容積1ml×2連結)にアプライした。培養液がカラムに全て入ったのち、PBS15−30mlでカラムを洗浄した。
次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。当該画分を脱塩カラム(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrap Desaltingカラム:容積5ml×2連結)で5mM リン酸ナトリウム/50mM MES/20mM NaCl/pH6.5のバッファーへ置換を行った。
更にその置換した抗体溶液を、5mM NaPi/50mM MES/20mM NaCl/pH6.5のバッファーで平衡化されたセラミックハイドロキシルアパタイトカラム(日本バイオラッド、Bio−Scale CHT2−1 Hydroxyapatite Column:容積2ml)にアプライした。塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出を実施し、抗体の含まれる画分を集めた。
当該画分を脱塩カラム(GE Healthcare Bioscience社製、HiTrap Desaltingカラム:容積5mlx2連結)でCBS(10mMクエン酸緩衝液/140mM塩化ナトリウム、pH6.0)への液置換を行った。
最後にCentrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量30K,Sartorius社,4℃下)にて濃縮し、IgG濃度を1.0mg/ml以上に調製し精製サンプルとした。
10)−5 ヒト化抗体のB7−H3抗原への結合性
抗原であるヒトB7−H3とヒト化M30抗体との結合性は、表面プラズモン共鳴(SPR)装置(BIACORE社)により測定した。定法により、抗ヒトIgG抗体をセンサーチップに固定化し、そこへ上記10)−4で得られたヒト化M30抗体の精製サンプルを結合した後に、各濃度のB7−H3バリアント2抗原の細胞外領域ポリペプチド(R&D Systems社製:#2318−B3−050/CF)を添加し、ランニングバッファー(リン酸バッファー、0.05% SP20)中での抗体に対する結合量を経時的に測定した。測定した結合量を、専用ソフトウェア(BIA evaluation)により解析し解離定数(KD[M])を算出した。cM30抗体を測定回ごとに陽性対照として測定を行った。その結果は表3のとおりであり、ヒト化M30抗体はいずれもB7−H3抗原に対して結合活性を有していた。
【0188】
【表3】
【0189】
実施例11.M30抗体、cM30抗体及びヒト化M30抗体のB7−H3抗原結合に対する競合阻害活性の測定
M30抗体のB7−H3バリアント1及びバリアント2への結合に対するcM30抗体、ヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)の競合阻害活性を以下の方法で測定した。
【0190】
EZ−Link Sulfo−NHS−LC Biotinylation Kit(Thermo scientific社製 #21435)を使用し添付のプロトコールに従い、マウスモノクローナル抗体M30をそれぞれビオチン化した(以下、ビオチン化M30をそれぞれ、「bM30」と表記する。)。また、下記ELISA法に用いるバッファーは全てBD OPTI EIA (BD Biosciences #550536)を用いた。
B7−H3バリアント1の細胞外領域ポリペプチド(R&D Systems社製:#1949−B3−050/CF)及びB7−H3バリアント2の細胞外領域ポリペプチド(R&D Systems社製:#2318−B3−050/CF)をCoating bufferで0.5μg/mlに希釈してイムノプレート(Nunc社製 #442404)に100μl/ウェルで分注し、4℃で一晩静置することでプレートに蛋白質を吸着させた。翌日、ウェルをassay diluentを200μl/ウェルで分注し、室温で4時間静置した。
ウェル中の液を除去後、5μg/mlのビオチン化抗体と各種濃度(0μg/ml、1μg/ml、5μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、125μg/ml)の非標識抗体の混合溶液をassay diluentにそれぞれ100μl/ウェルで分注し、1時間室温で静置した。
Wash bufferで2回ウェルを洗浄した後、assay diluentで500倍に希釈したStreptavidin−horseradish Peroxidase Conjugate(GE Healthcare Bio−Sciences社製 #RPN1231V)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間静置した。
ウェル中の液を除去し、wash bufferで2回ウェルを洗浄した後、Substrate Solutionを100μl/ウェルで添加し攪拌しながら発色反応を行った。発色後、blocking bufferを100μl/ウェルで添加して発色反応を止め、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。
【0191】
その結果、bM30のみを添加したウェルの吸光度はB7−H3バリアント1の細胞外領域ポリペプチド及びB7−H3バリアント2の細胞外領域ポリペプチドを付着させたプレートでそれぞれ2.36±0.05、1.90±0.20(平均値±標準偏差(n=12))であった。
【0192】
図10のグラフ中の吸光度はそれぞれ平均値±標準偏差(n=3)で示している。コントロールIgGは、bM30のB7−H3に対する結合を阻害しなかった。
一方、bM30のB7−H3に対する結合は、B7−H3バリアント1の細胞外領域ポリペプチド及びB7−H3バリアント2の細胞外領域ポリペプチドを付着させたプレートいずれにおいてもM30抗体自身又はそのキメラ抗体であるcM30抗体及びヒト化抗体であるM30−H1−L4により阻害されることが示された。
【0193】
即ち、cM30抗体及びヒト化抗体(M30−H1−L4抗体)はM30抗体と同一のB7−H3抗原エピトープを認識していることが示された。
実施例12.ヒト化M30抗体の活性
12)−1 ヒト化M30抗体のADCP活性
健常人PBMCを定法に従い分離した。RPMI−10%FCS中に懸濁し、フラスコ中に播種した。CO
2インキュベータで一晩培養を行った。培養上清を捨て、フラスコに付着した細胞にM−CSF及びGM−CSF(PeproTech社)を添加したRPMI−10%FCSを加え、2週間培養した。細胞をTrypLEで剥離し、回収した。500μl/well(1x10
5 cell/well)を24 well plateに添加し、37℃で1晩培養した。本細胞をエフェクター細胞とした。
ターゲット細胞となるNCI−H322細胞のラベリングをPKH26 dye labeling kit(Sigma社)を用いて行った。ターゲット細胞をTrypLEで剥離し、PBSで2回洗浄した。細胞をDiluent Cで1x10
7 cells/mlになるよう懸濁した。PKH26 dye stock(1mM)をDiluent Cで8μMに希釈し、すぐに細胞浮遊液と等量のdye希釈液を添加した。室温に5分間放置した。血清1mlを添加し、更に血清入り培地を加え2回洗浄を行った。
【0194】
M30抗体、cM30抗体及びヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)をRPMI−10%FCS(インビトロジェン社)で20μg/mlに希釈した。ターゲット細胞(NCI−H322細胞)を、2x10
6 cells/100μl/tube分注、混合した。氷上で30分間静置した。
上清を捨て、培養液で2回洗浄した。培養液500μLに懸濁した。
エフェクター細胞から上清を除き、M30抗体、cM30抗体及びヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)を処理し培養液にサスペンドした細胞を添加し、混合した。CO
2インキュベータ内で3時間培養した。
Trypsin−EDTAで細胞を剥離し、細胞を回収した。
回収した細胞にFITC標識抗マウスCD11b抗体(ベクトンディッキンソン社)を加え、氷上で30分間静置した。
上清を捨て、培養液で2回洗浄した。
回収した細胞を300ulの場位置で懸濁し、FACS Calibur(ベクトンディッキンソン社)にて測定を行った。CD11b陽性のマクロファージ細胞において、PKH26陽性画分を貪食陽性細胞として評価を行った。
【0195】
その結果を
図11に示す。
ヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)を添加した群では、M30抗体及びcM30抗体を添加した群と同様に、NCI−H322細胞に対してADCP活性が認められた。
12)−2 ヒト化M30抗体のADCC活性
健常人PBMCを定法に従い分離した。RPMI−10%FCS中に懸濁し、フラスコ中に播種した。CO
2インキュベータで一晩培養を行った。
浮遊細胞を回収し、洗浄操作を行い末梢血リンパ球(PBL)とした。得られたPBLをFetal Bovine Serum(インビトロジェン社製)を10%含むフェノールレッド不含RPMI1640(インビトロジェン社製)(以下「ADCC用培地」と略す。)に懸濁し、セルストレイナー(ポアサイズ40μm:BD Biosciences社製)を通した後、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測した。
PBL懸濁液を遠心後、培地を除去し、生細胞密度で2.5×10
6細胞/mlになるようADCC用培地で再懸濁しエフェクター細胞とした。
【0196】
NCI−H322細胞をトリプシン処理し、10%FBS含有RPMI1640で細胞を洗浄後、10% FBS含有RPMI1640に再懸濁し、各細胞4×10
6個を0.22μmフィルターで滅菌したChromium−51(5550kBq)と混合し、37℃、5% CO
2の条件下で1時間ラベルした。ラベルした細胞をADCC用培地で3回洗浄し、ADCC用培地で2×10
5細胞/mlになるよう再懸濁し標的細胞とした。
2×10
5細胞/mlの標的細胞を50μl/ウェルで96穴U底マイクロプレートに分注した。そこにエフェクター細胞添加後の終濃度で1、10、100、1000ng/mlになるようADCC用培地で希釈したcM30抗体並びにヒト化M30抗体(M30−H1−L4、M30−H4−L4、M30−H1−L5、M30−H1−L6、M30−H1−L7)の各抗体を50μl添加した。そこに2.5×10
6細胞/mlのエフェクター細胞を100μl添加し、37℃、5% CO
2の条件下で4時間培養した。上清をLumaPlate(PerkinElmer社製)に回収し、ガンマカウンターで放出されたガンマ線量を測定した。ADCC活性による細胞溶解率は次式で算出した。
【0197】
細胞溶解率(%)=(A‐B)/(C‐B)×100
A:サンプルウェルのカウント
B:自然放出(抗体・エフェクター細胞非添加ウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時とエフェクター細胞添加時にそれぞれADCC用培地を50μl、100μl添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
【0198】
C:最大放出(標的細胞を界面活性剤で溶解させたウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時にADCC用培地を50μl、エフェクター細胞添加時にTriton−X100を2%(v/v)含むADCC用培地を100μlを添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
【0199】
その結果を表4及び
図12に示す。
3回の実験の平均値で、エラーバーは、標準偏差を示し、P値はStudent’s t−testにより算出した。
M30−H1−L4抗体添加群では、cM30抗体添加群と同様に、ADCC活性が認められた。その他のヒト化M30抗体(M30−H4−L4、M30−H1−L5、M30−H1−L6、M30−H1−L7)についても同様にADCC活性が認められた。
【0200】
【表4】
【0201】
12)−3 ヒト化M30抗体のin vivo抗腫瘍効果
MDA−MB−231細胞をトリプシン処理して培養フラスコより剥がした後、10% FBS含有RPMI1640培地(ライフテクノロジーズ社)に懸濁後遠心し、上清を除去した。細胞を同培地で2回洗浄したあと、BDマトリゲル基底膜マトリックス(BD Biosciences社製)に懸濁し、6週齢のマウス(FOX CHASE SCID C.B.17/Icr−scid/scidJcl、日本クレア株式会社)に5×10
6細胞/マウスで腋窩部皮下に移植した。移植日を0日目として14、21、28、35、42日目にヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)を10、1、0.1、0.01mg/kg(各約200、20、2、0.2μg/マウス)で腹腔内投与した。腫瘍体積を14、18、21、25、28、31、35、39、42、45、49日目に測定し、抗体投与による抗腫瘍効果を検討した。
その結果、ヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)の10、1、0.1mg/kg投与群では、抗体を投与しない無処置群に比べ、有意に腫瘍増殖が抑制された。49日目時点の腫瘍重量について無処置群との比較でヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)の10、1および0.1mg/kg投与群の腫瘍増殖阻害率(%)(=100−(抗体投与群の腫瘍重量の平均値)/(無処置群の腫瘍重量の平均値)×100)はそれぞれ、67、54、51%で、P値はいずれもP<0.0001であった。P値はDunnett型多重比較により算出した。
また、49日目時点でのM30−H1−L4抗体の腫瘍増殖阻害率(%)(=100−(抗体投与群の腫瘍体積の平均値)/(無処置群の腫瘍体積の平均値)×100)は10、1、0.1、0.01mg/kg投与群でそれぞれ84、68、61、30%であり、ヒト化M30抗体(M30−H1−L4抗体)は、M30抗体及びcM30抗体と同様に、in vivoで非常に強い抗腫瘍効果が観察され、その効果には用量反応性が確認された(
図38)。