(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917554
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】燃料噴射装置、ピストンエンジン及ピストンエンジン運転方法
(51)【国際特許分類】
F02M 47/00 20060101AFI20160428BHJP
F02M 61/10 20060101ALI20160428BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20160428BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20160428BHJP
F02M 53/00 20060101ALI20160428BHJP
F02M 47/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
F02M47/00 C
F02M61/10 W
F02M51/06 S
F02M61/16 M
F02M51/06 Q
F02M53/00 A
F02M47/02
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-542581(P2013-542581)
(86)(22)【出願日】2011年12月5日
(65)【公表番号】特表2013-545032(P2013-545032A)
(43)【公表日】2013年12月19日
(86)【国際出願番号】FI2011051076
(87)【国際公開番号】WO2012076753
(87)【国際公開日】20120614
【審査請求日】2014年8月13日
(31)【優先権主張番号】20106310
(32)【優先日】2010年12月10日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】503129903
【氏名又は名称】ワルトシラ フィンランド オサケユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100103779
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 定雄
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ,デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】スロシンスキー,ホルマー
【審査官】
寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−236101(JP,A)
【文献】
特開平07−259693(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第2439397(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射用ニードルが設けられる燃料噴射装置本体を備えるピストンエンジン用の燃料噴射装置であって、前記噴射用ニードルは、噴射用ニードルの位置に基づいて噴射装置からの燃料噴射流を阻止又は可能とするように設けられ、
前記噴射用ニードルの位置は、制御スペース内の加圧制御流体によって制御され、前記燃料噴射装置本体は、前記噴射用ニードルが内部に設けられるインジェクタースペースを有し、前記インジェクタースペースには燃料入口孔と前記噴射用ニードルの制御の下で燃料が噴射される、前記インジェクタースペースの第1の端部の燃料噴射噴霧孔オリフィスが設けられ、
前記噴射用ニードルの第2の端部が制御スペースを区画するように設けられ、前記制御スペースは、少なくとも前記噴射用ニードルの上端部を囲むカラー部によって区画されており、
前記制御スペースは、加圧流体源に連結される連通路と、燃料噴射システムの低圧側に連結される出口流路と、前記カラー部と前記噴射用ニードルの対向する面の間のギャップによって形成され、少なくとも二つの協働する温度効果部材を有する制限区域を有する制御流体用の通路に連結され、
前記温度効果部材のうちの第1の部材は第2の部材と異なる熱膨張係数を持つことを特徴とする、
燃料噴射装置。
【請求項2】
前記第1の部材はセラミックであり、前記第2の部材はスチールである請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料噴射装置を有することを特徴とするコモンレール燃料噴射システムを持つピストンエンジン。
【請求項4】
前記ピストンエンジンは前記燃料噴射装置の近傍に設けられた冷却システムを有することを特徴とする請求項3に記載のピストンエンジン。
【請求項5】
前記ピストンエンジンは燃料噴射装置本体の近傍に設けられた冷却システムを有することを特徴とする請求項4に記載のピストンエンジン。
【請求項6】
コモンレール燃料噴射システムを備え、噴射用ニードルが設けられる請求項1に記載の燃料噴射装置を有するピストンエンジンの運転方法であって、エンジン始動後に少なくとも一の予め定められた物質の排出量がエンジンの排ガスから測定されるように、前記ピストンエンジンが駆動され、少なくとも前記エンジンが通常の運転温度に達するまで、前記噴射用ニードルの位置に影響を及ぼす制御流体の流れに対して温度依存効果を与える少なくとも一つの温度効果部材を制御するために、前記エンジンの冷却システムが、燃料及び/又は燃料噴射装置の温度に影響を及ぼすように制御されることを特徴とする、運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃ピストンエンジンの燃料噴射及び燃料噴射率の調整に関する。本発明は、また、ピストンエンジン及びピストンエンジンの作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンには、通常、燃料注入システムが設けられており、ここでは燃料の加圧と噴射の制御は分けて行われる。このようなシステムにおいては、アキュームレータの容量が加圧燃料の貯蔵として使用され、加圧燃料の燃焼チャンバー内への吸気は燃料噴射ノズルのバルブニードルによって行われる。これらのシステムはコモンレール燃料噴射システムとして一般に知られている。
【0003】
ノズルに供給される燃料の圧力と量は燃焼プロセスによって生成される燃焼ガスの量と質にとって重要であり、その燃焼ガスは最後には環境に対して負担をかける。したがって、これまでの目的は、種々の比較的複雑な電子システムによる燃料供給ラインにおける流量と圧力を制御するということに向けられてきた。
【0004】
コモンレールシステムにおいては、バルブニードルの制御は、典型的にはニードルを開及び/又は閉の方向にニードル面に対して作用する燃料圧力を利用することにより達成される。典型的なコモンレールシステムにおいては、噴射ノズル内においてバルブニードルが上昇し始めると殆ど直ちに噴射圧力は高レベルに達する。
【0005】
したがって、燃料のマスフローが噴射の開始直後からきわめて大容量なものとなるように燃料は燃焼スペース内に噴射される。この場合、シリンダー圧力は最適な性能が得られるように急速に上昇する。したがって、噴射圧曲線(噴射プロセスの期間における種々の時点でのノズル内の圧力)によって示される最大圧力への到達は通常は早すぎる。更に、次の噴射が始まる前の噴射圧力の減少に時間を要する。
【0006】
圧力上昇率を制御するために、比率調整装置による、いわゆる燃料噴射率調整(rate shaping)を使用することが知れている。
【0007】
EP 1686257 A2 は、ニードルが閉の状態において、開及び閉の両方向にニードル表面に燃料圧力を作用させることによりバルブニードルを制御する燃料噴射装置を開示している。噴射時において、ニードル表面にニードルの閉の方向に作用する燃料圧力はノズルの流出孔を開くことにより開放され、これにより力のバランスに変化が生じ、ニードルの移動が生じる。EP 1686257 A2 は、また、燃料噴射時の初期部分で燃料の流れを制限し、噴射の後半の部分で流量をより大きくする比率調整システムを開示している。この装置では、比率調整は、燃料を噴射装置のサック(sac)へ導く主燃料ラインに設けられる制限装置を変更することに基づいている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
たとえこの燃料噴射装置がこのような使用に適合しているとしても、比率調整機能のより精密な制御に対する要請がでてきている。したがって、本発明の目的は、エンジンの種々の運転状態においてもより良好に作動するピストンエンジンのための燃料噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、噴射用ニードルが設けられる燃料噴射装置本体を備えるピストンエンジン用燃料噴射装置によって達成され、噴射用ニードルは、噴射用ニードルの位置に基づいて噴射装置からの燃料噴射流を阻止又は可能とするように設けられ、前記噴射用ニードルの位置は、加圧制御流体を作用させて前記ニードルがその閉の位置となるように、また、前記加圧流体を減少させて前記ニードルが閉の位置から離れるように移動させるように加圧制御流体によって制御され、前記燃料噴射装置は、更に、前記制御流体のための流路を備え、前記制御流体の流路は前記制御流体の流れを制限する制限部分を備えている。前記制限部分は、少なくとも一つの温度依存制限効果を与える温度効果部材を備えている。
【0010】
この燃料噴射率調整の方法は、前記制限部分の、異なる温度で異なる制限効果を与える手段によって達成される。この制限部分の温度は燃料の温度を変えることに変更することができる。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記制限部分は制限流体のための流路を画成する、少なくとも二つの協働作用する温度効果部材を有する少なくとも一つの面を持ち、第1の部材は第2の部材と温度膨張係数が異なる。
【0012】
本発明の一実施例によれば、前記第1の部材はセラミックであり、前記第2の部材はスチールである。セラミック材料は、また、使用における改善された耐摩耗を与える。
【0013】
噴射用ニードルの位置は加圧制御流体によって影響を受けるため、加圧制御流体を適用することにより、ニードルはその閉の位置に向けて付勢され、加圧流体を減少することにより、ニードルはその閉の位置から離れる方向に移動し、制御に対する比率調整操作の効力は噴射装置を経由する燃焼チャンバー内へ実際の燃料の流れに対して不利を及ぼさない。
【0014】
本発明の他の実施例によれば、燃料噴射装置本体は、その内部に噴射用ニードルが入り込むインジェクタースペースを備え、そのインジェクタースペースは、燃料入口孔とそのインジェクタースペースの一方の端部に燃料噴射スプレー孔オリフィスが設けられ、そこを通して噴射用ニードルの制御の下で燃料が噴射され、噴射用ニードルの第2の端部が制御スペースを画成するように設けられ、その制御スペースは前記制限部分が設けられる制御流体のための流路に属している。
【0015】
前記制御スペースは噴射用ニードルの少なくとも一部を囲むカラー部分によって画成されることが有利である。好ましい実施例によれば、制御スペースは少なくとも噴射用ニードルの端部の一部を囲むカラーによって画成される。制限部分は噴射用ニードルとカラー部分の対向する面を有している。
【0016】
前記カラー部分は噴射用ニードルとは異なる材料からなることが有利である。
【0017】
本発明の他の実施例によれば、分離した制御パネルが前記カラー部分内に設けられ、その制御パネルにはオリフィスが設けられ、また、制限部分は、制御パネルのオリフィスとバルブプレートの出口チャンネル内の第2の狭窄部を有し、制御パネルはバルブプレーとは異なる熱膨張率を有している。
【0018】
燃料噴射装置本体内に噴射用ニードルが設けられるコモンレール燃料噴射システムを持つピストンエンジンにおいては、ニードルがその位置に基づいて噴射装置からの燃料噴射の流れを阻止或いは許可するために設けられ、その噴射用ニードルの位置は、加圧制御流体を作用させることにより前記ニードルをその閉鎖位置に向けて付勢し、加圧制御流体を減少させることにより、前記ニードルをその閉鎖位置から離れる方向に移動させるように、加圧制御流体によって変更され、噴射装置は、更に、加圧状態が噴射用ニードルの位置に影響を及ぼす制御流体のための流路を有し、その制御流体用の流路は、制御流体の流れに制限を与える制限部分を備えている。本発明の特徴は、前記制限部分は、異なる温度において異なる温度効果を与える少なくとも一つの温度効果部材を備えることにある。
【0019】
本発明の一つの実施例によれば、ピストンエンジンは燃料噴射装置の作動上の近傍位置に設けられた冷却システムを有している。
【0020】
本発明の更なる実施例によれば、冷却システムは燃料噴射装置の本体の作動上の近傍位置に設けられる。
【0021】
本発明は、噴射用ニードルが設けられる噴射装置本体を有するコモンレール燃料噴射システムを持つピストンエンジンを運転方法に関し、ピストンエンジンは、エンジンの始動後、少なくとも一つの予め決められた物質の排出がエンジンの排気ガスから測定され、少なくともエンジンが正常の運転温度に達するまで、エンジンの冷却システムが、噴射用ニードルの位置に影響を与える制御流体に対して温度依存制限効果を与える少なくとも一つの温度効果部材を制御するために、燃料及び/又は燃料噴射装置の温度に影響を与えるように制御される。
【0022】
以下、本発明を例示的、概略図を参考にして説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】本発明の実施例による比率形成の機能性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1はピストンエンジンのシリンダーヘッド15内に設けられた燃料噴射システム10の概略図を示す。燃料噴射システム10は燃料噴射装置20を有し、これにより燃料がエンジンの燃焼チャンバー内に供給される。
図1の実施例においては、燃料噴射装置20は燃料噴射装置本体25に組み込まれている。燃料噴射装置は燃料アキュームレータスペース30を含み、この燃料アキュームレータスペース30は燃料噴射システム10に属する加圧燃料源35に接続されている。燃料噴射装置本体25には、内部に噴射用ニードル40が設けられる燃料スペース70が設けられている。噴射用ニードル40は第1の端部に先端45を持ち、それにより、噴射用ニードル40が燃料噴射噴霧孔オリフィス(
図3の46,
図1には示されていない)と燃料噴射装置本体25の燃料スペースとの間の流路を開又は閉にすることにより、燃焼スペース内へ燃料噴射流を阻止、又は許可するようにしている。噴射用ニードルは特に
図3に示されるように、一又は複数の連続する部品により組み立てることができる。ニードルが
図1及び
図3に示される位置にあるとき、噴射用ニードルの上端である第2の端部には、カラー部65があり、その内部に噴射用ニードルの第2端部が延びている。カラー部65内及び噴射用ニードル上のスペースは本システムの制御スペース63を区画する。カラーは円筒状内部空間を有し、噴射用ニードル40の第2端部は円筒状外面を有し、それらは共通の長手方向軸を持つ。
【0025】
燃料噴射装置本体25内のアキュームレータスペース30は、燃料噴射装置本体25に設けられる主燃料チャンネル50を通して噴射装置における燃料スペース70と流体接続されている。主燃料チャンネルは入口ポート51を通して燃料スペース70に開口している。チャンネル50には、また、フローヒューズ55も設けられている。フローヒューズは、例えば、システムの故障時のような場合に燃料の流れを阻止するようにして、制限された連続する燃料の流れだけを可能にするために設けられるものである。
図1から明らかなように、アキュームレータ30の圧力は、主チャンネル50と接続されていることにより、燃料スペース70を支配する。燃料スペース70の上部にはバルブプレート60が設けられる。バルブプレート60は燃料スペース70の上部を区画する。
【0026】
バルブプレートには、カラー部65内のスペースに接続する連通チャンネル75が設けられている。連通チャンネル75には後にその目的を説明する第1狭窄部80が設けられる。バルブプレートには、更に、カラー部65内のスペースに開口する出口チャンネル85が設けられる。出口チャンネル85には第2狭窄部90が設けられ、そこを通して出口チャンネル85がバルブ部材95に接続されている。バルブ部材は好ましくはオン・オフ電磁バルブで、燃料噴射システム10の高圧部30,35,70及び低圧部100と互いに接続可能に分離している。
【0027】
カラー部65は、カラー部65と噴射用ニードル40との間に支持されたニードルスプリング66によってバルブプレート60に押し付けられている。
【0028】
燃料噴射システム10は、加圧燃料源がアキュームレータ30の容積が所定圧の燃料で満たされるように作動する。バルブ部材、即ち、ソレノイド95が出口チャンネル85とシステムの低圧部100との間で流路を連通状態としたとき、チャンバー内、即ちカラー65内及び噴射用ニードル40の第2端部上部のスペースの圧力は急速に減少する。これは、第1狭窄部80が出口チャンネル85の第2狭窄部90の第2区域より小さい燃料フローの第1区域を持つという事実により生じる。燃料スペース70内の圧力が実質的に変化しないように維持されている間におけるカラー部65内及び噴射用ニードル40の第2端部内の圧力の減少は、噴射用ニードル40の長手方向軸の方向に作用する力のバランスを変え、バルブプレート60の方向に押し燃料噴射噴霧孔オリフィスと燃料スペース70との間の流れ連結を開にする。
【0029】
燃料スペース70内の圧力が下側からバルブプレート60に対し緊密に密閉を確保するように作用するため、噴射サイクル全体の間、カラー部65はバルブプレート60に対して緊密に押圧される。
【0030】
カラー部65とニードル40との間の小さいギャップ71は燃料スペース70からの燃料の僅かな漏洩を可能とし、これが往復運動するニードルと静止するカラー部との間の潤滑を助ける。
【0031】
上述のように、噴射用ニードル40の位置は、この実施例では燃料である加圧制御流体によって影響を受ける。制御流体が他の適当な加圧媒体、例えば油圧とすることもできることは当業者にとって明らかであるが、噴射のために既に加圧された燃料を用いることが有利である。したがって、加圧燃料を使用することにより、ニードルはその閉の位置に向けて付勢され、また、制御流体を減圧することにより、閉の位置から離れる方向に移動することが可能となる。
【0032】
噴射は、高圧燃料噴射システム10であるにも関わらず、本発明の実施例に従い少ない初期噴射比率で実行され、これは、NO
x粒子及び同時に発生するノイズを減少させる可能性をもたらす。これは、制御流体圧力が減少し、ニードル40がその閉位置から離れる方向に移動することが可能となるとき、制御流体の流量を制限することにより達成される。
【0033】
図1の実施例においては、制御圧力が噴射用ニードルの位置に影響を与えるとところの制御流体の流路は、連通路75と第1狭窄部80,出口チャンネル85及び第2狭窄部90及びカラー部65とニードル40との間の間隙の組み合わせによって形成される。比率形成機能を与えるため、この流路は制御流体に制限効果を与える少なくとも一つの区域を有し、この場合、3個の制限部、即ち、第1及び第2制限部及びギャップで、これらの全てはカラー部65内のスペース63の減圧効果を与えるものである。
【0034】
図1の実施例において、カラー部65及び少なくともインジェクションニードル40の第2端部は異なる熱膨張率を持つ材料から成り、異なる温度で異なる制限効果を与える温度効果部材の実施例となるものである。
【0035】
この実施例においては、特に、カラー部65の内面とインジェクションニードルの外面が制御流体の流路を画成し、ここでは、二つの対向する温度効果部材がそれらの間でそこを支配する温度に従って変化するようにギャップを生じる。このことは、次に、燃料スペース70からそのギャップを通り、カラー部65内への燃料の流量率を変化させ、また、カラー部65内の圧力を減少させる。
【0036】
シリンダーヘッド15にはシリンダーヘッド内の流路を含む燃料噴射装置20の作動上の近傍位置、特に燃料噴射装置本体の近傍に設けられた冷却システム102が設けられている。冷却システムにより、少なくとも温度効果部材40、65,71を制御するため、燃料及び/又は燃料噴射装置10の温度に影響を与えることが可能となる。冷却装置は噴射装置本体25に対して設けられる流路チャンネル(図示せず)を含むことができる。
【0037】
次に
図2を参照すると、
図1の温度依存部材の作用を示す状態の例が示されている。垂直軸は噴射圧pを示し、水平軸はエンジンのクランク角C.A.を示す。曲線は噴射開始時の圧力の増加を示す。曲線Aはカラー部65及び噴射用ニードル40の双方がスチールで造られ、従って、同一の温度特性、特に熱膨張係数を有する。曲線Aはここでは参照として示されるものである。曲線Bはカラー部65及び噴射用ニードル40が異なる材料で造られるケースを示す。特に、カラー部65は炭化タングステン又は窒化シリコンのようなセラミックであり、噴射用ニードルはスチールである。この例の燃料温度は約140℃である。曲線Cもカラー部65がセラミックであり、噴射用ニードルがスチールである。この例の燃料温度は約40℃である。
【0038】
図2に見られるように、低温でエンジンが作動しているときは噴射圧力の増加はかなり緩やかなスロープとなっている。一例として、ある圧力において、クランクアングル(C.A.)1.9°の遅れDを示している。これは、通常の運転温度以下のエンジンの作動時、例えば、エンジンのスタート直後、においては、特に有利であることを示している。この状態においては、排ガス制御装置、特に、NOx触媒コンバータはまだその作動温度に達してなく、本発明の手段による温度効果燃料噴射比率形成はこの問題に対して有利な効果をもたらす。
【0039】
本発明の実施例によれば、ピストンエンジンは、エンジン始動時の後は、少なくとも一つの決められた物質がエンジンの排ガスから測定され、少なくともエンジンが通常作動温度になるまで、制御流体の流れに温度依存制限効果を与える少なくとも一つの温度効果部材65を制御するために、エンジンの冷却システムが燃料及び/又は燃料噴射装置10の温度に影響を及ぼすように制御される。
【0040】
図3は本発明の他の実施例による燃料噴射システム10を示す。カラー部65内の制御スペース63に関する詳細な部分以外は
図1の実施例に対応し、従って、同一の参照番号が対応する要素について使用される。
【0041】
図3の実施例においては、噴射用ニードル40の第2端部、即ち、
図3の位置の上端、には、制御スペース63に穴を切削形成する穴のような
円筒状空間64が設けられる。噴射用ニードル40の第2端部とスプリング67によって支持されたバルブプレート60の間に設けられた制御プレート68がある。この制御プレートは孔又はオリフィス69を有し、この孔は、第1の側、即ち、噴射用ニードルの側から、第2の側、即ち、バルブプレート60の側へ噴射用ニードルの軸方向に延びている。制御プレート68の第2の側には、また、キャビティを囲む制御プレート68の周囲のリム72によって区画されるスペースが設けられる。連結チャンネル75と出口チャンネル85はこのスペースに接続されている。カラー部65の端部には半径方向の縮小部65’があり、これがカラー部65の肩部を形成している。制御プレート68はカラー部65の内径より大きい径を持ち、これにより、縮小部65’によって形成される肩部が制御プレートが動くことを制限している。縮小部の長手方向の高さは制御プレートの噴射用ニードル40の軸方向における厚みより大きくしている。
【0042】
噴射が開始する前の静止位置において、制御プレート60はリム72によってバルブプレート60に対してシールされている。バルブ部材95が起動されると、制御スペース63の減圧が開始される。カラー部65内の加圧制御スペースからの燃料の流出は、出口チャンネル85の第2制限部90と共に制御プレート68のオリフィス69により制御される。これは、ニードル上昇の傾斜をより遅くし、したがって、噴射圧力の上昇をより低いものとする。
【0043】
更に、
図3の実施例においては、制御流体の流路はカラー部65とニードル40との間にギャップ71が存在する。比率形成機能を変えるために、流路は異なる熱膨張係数を持つ少なくとも一つの区域、その一つの実施例として異なる温度で異なる制限効果を与える温度効果部材を持つ。カラー部65と噴射用ニードルの第2端部は異なる温度膨張係数を持ち、制御流体に対する制限効果を与える。
【0044】
閉鎖シーケンスはバルブ部材95が制御プレートのオリフィス69を通過する流れを閉じるとき開始する。バルブ部材95は電磁バルブとすることが有利である。初期のフェーズにおいて、制御プレート68はバルブプレート60に対向する位置にあり、燃料はオリフィス69を通してのみ流れる。オリフィス80を経由する流れはオリフィス69を通りキャビティ64又は制御スペース63へと続くため、ニードル40の頂部に作用する制御スペース63内の圧力は、ニードルがその閉動作を開始するように作用する。キャビティ64内の圧力による力とばね67の力は、リム72とバルブプレート60によって区画される制御プレート68の第2側におけるスペース内の圧力により生じる圧力以下に減少する。この時点において、制御プレート68はバルブプレート60との接触状態から離れ、燃料は制御プレート68の周りに流れる。この流れが第2スペース63内への燃料の流量が大幅に増加することを可能にし、ニードルをその閉位置となるように作用する。閉鎖シーケンスにおいて、制御プレート68は噴射用ニードル40とバルブプレート60の間に浮遊している。制御プレートとカラー部の間のギャップは、制御流体が、ニードルをプレート68が追随することなく十分に早く下方に押し下げることを可能にするのに十分な大きさとされている。したがって、オリフィス69は初期フェーズの後は閉鎖シーケンスを遅延させることは全くない。
【0045】
本発明の実施例によれば、カラー部65は噴射用ニードルとは異なる材料、即ち、
図1に示されるようにセラミックから成る。本発明の他の実施例によれば、カラー部65は噴射用ニードルと同じ材料からなる。
【0046】
本発明は、これまで現時点で最も好ましい実施例と考えられている例示的実施例により説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでなく、それらの特徴の種々の組み合わせ及び変形、及び、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲に含まれる他の出願をカバーするものであると理解されるべきである。上述のすべての実施例に関連して詳細に述べられた事項は、技術的に適用可能であれば、他の実施例に関連して使用することが可能である。