(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917558
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】キャスティングによるナノ双晶形成チタン材料の作製方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/18 20060101AFI20160428BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20160428BHJP
B21C 1/00 20060101ALI20160428BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20160428BHJP
【FI】
C22F1/18 H
C22C14/00 Z
B21C1/00 L
!C22F1/00 604
!C22F1/00 612
!C22F1/00 624
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 673
!C22F1/00 675
!C22F1/00 681
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 694A
!C22F1/00 694B
!C22F1/00 694Z
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-545363(P2013-545363)
(86)(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公表番号】特表2014-506293(P2014-506293A)
(43)【公表日】2014年3月13日
(86)【国際出願番号】EP2011073598
(87)【国際公開番号】WO2012085089
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年10月21日
(31)【優先権主張番号】10196576.2
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グオカイ シャイ
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−515551(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0109158(US,A1)
【文献】
特開2006−169581(JP,A)
【文献】
特開2009−228053(JP,A)
【文献】
特開2008−195994(JP,A)
【文献】
Q. Y. Sun, H. C. Gu,Tensile and low-cycle fatigue behavior of commercially pure titanium and Ti-5Al-2.5Sn alloy at 293 and 77 K,Materials Science and Engineering A,NL,ELSEVIER,2001年10月15日,Vol. 316,p. 80-86
【文献】
Yuming Wang, En Ma, Ruslan Z. Valiev, Yuntian Zhu,Tough Nanostructured Metals at Cryogenic Temperatures,Advanced Materials,ドイツ,WILEY-VCH,2004年 2月17日,Vol. 16, No. 4,p. 328-331
【文献】
藤井秀樹,極低温環境下におけるチタンの機械的性質,チタン,日本,日本チタン協会,2005年 7月28日,Vol. 53, No.3,p. 210-216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/18
C22C 14/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ双晶形成工業用純チタン材料を作製するための方法であって:
‐ チタン以外に、0.05重量%以下のN、0.08重量%以下のC、0.015重量%以下のH、0.50重量%以下のFe、0.40重量%以下のO、および0.40重量%以下の残部からなる工業用純チタン材料をキャスティングする工程、
‐ 前記キャスティングした材料を、0℃もしくはそれ未満の温度とする工程、および、
‐ その温度にて、前記材料に、前記材料中にナノ双晶が形成される度合いまで塑性変形を付与する工程であって、前記塑性変形が、延伸(drawing)または圧縮によって一回の変形あたり10%未満にて前記材料に付与される歪付与(straining)を含む、工程、
を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記変形が、1秒あたり2%未満の速度にて前記材料に付与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記変形が、1秒あたり1.5%未満の速度にて前記材料に付与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記変形が、1秒あたり1%未満の速度にて前記材料に付与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記材料が、−50℃未満の温度とされ、前記塑性変形が、その温度にて前記材料に付与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記材料が、−100℃未満の温度とされ、前記塑性変形が、その温度にて前記材料に付与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記材料が、−196℃の温度に冷却され、前記塑性変形が、その温度にて前記材料に付与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記材料が、少なくとも10%の塑性変形に対応する度合いまで塑性変形される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記変形が、1秒あたり0.2%超の速度にて前記材料に付与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記変形が、1秒あたり0.4%超の速度にて前記材料に付与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記変形が、1秒あたり0.6%超の速度にて前記材料に付与される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記キャスティングされた工業用純チタン材料が、0.35重量%以上のOを含有しない、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ双晶を含有する工業用純チタン材料を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンは、その有利な機械特性およびその比較的低い比重が高い価値を有する数多くの用途を有する。いくつかの用途において、工業用純チタンを、例えばTi‐6Al‐4Vなどのより一般的に用いられるアロイの代わりに用いることは興味深い。これは、典型的にはインプラントとしてであるが、宝飾品、ピアスなどを例とするその他の形態においても、最終製品が、ヒト組織と絶えず接触する可能性のある用途において特に興味深い。
【0003】
これは、Ti‐6Al‐4Vおよびその他の機械的に有利であるアロイ中に多くの場合存在するバナジウムが、毒性およびアレルギー性を有し、従って、インプラントまたはその他の類似の用途に用いられる材料に含まれるのに適さないからである。さらに、工業用純チタンの生体適合性は、その他のチタンアロイよりも良好であることが一般的に認められている。
【0004】
しかし、問題は、例えば工業用純チタンなどの低バナジウム含有量のチタン材料が、対応するアロイよりも非常に低い降伏強度および引張強度を有することである。
【0005】
従って、低バナジウム含有量のチタン材料、典型的には工業用純(CP)チタン材料であって、従来のCPチタン材料よりも比較的高い降伏強度および引張強度を有し、および好ましくは高い延性を保持するものが求められている。
【0006】
転位の導入または結晶粒度の減少によってCPチタン材料の強度を高めることは可能である。しかし、従来、このような方法は望ましくない延性の低下を引き起こし、これによって、ほとんどの用途に対してその材料の適性が低下してしまう。
【0007】
最近、金属材料にナノ双晶を導入することが、高強度および高延性の材料を得る効果的な方法であることが証明された。しかし、すべての材料がそのような処理に対する感受性を有するというわけではない。さらに、それによってナノ双晶を材料中に誘導することができる一般的な操作は存在しない。異なる材料には、異なる方法が、ナノ双晶を誘導する効果を有することが示されている。
【0008】
双晶は、同一の結晶格子のいくつかを共有する2つの別々の結晶として定義され得る。ナノ双晶の場合、この別々の結晶間の距離は、1000nm未満である。
【0009】
非特許文献である、非特許文献1から、高歪み速度にてナノ構造チタンを強化することが知られている。このチタン材料は、等径角度付き押出し法(equal channel angular pressing)プラス冷間圧延によって作製される。従って、このチタン材料は、超微細結晶粒チタン材料である。高歪み速度におけるチタン材料の変形プロセスの過程にて、材料中に双晶が観察されている。
【0010】
特許文献1は、超微細結晶粒チタンまたはチタンアロイの物品を作製する方法に関するものである。粗結晶粒チタン材料が、低温粉砕を用いて機械的に激しく変形され、超微細結晶粒粉体とされる。この方法の結果、機械特性が改善された材料が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願第2005/0109158号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】XP‐002639666
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、例えばキャスティングされたチタンなど、粉体から形成されていないチタンの強度を改善する方法は知られていない。
【0014】
本発明の目的は、強度が改善された工業用純チタン材料、およびそのような材料を作製する方法を提供することである。これは、独立請求項に従う本発明によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ナノ双晶形成工業用純チタン材料の作製方法に関し、その方法は:
‐ チタン以外に、0.05質量%以下のN、0.08質量%以下のC、0.015質量%以下のH、0.50質量%以下のFe、0.40質量%以下のO、および0.40質量%以下の残部を含有する工業用純チタン材料をキャスティングする工程、
‐ この材料を、0℃もしくはそれ未満の温度とする工程、および、
‐ この温度にて、この材料に、材料中にナノ双晶が形成される度合いまで塑性変形を付与する工程、
を含んでなる。
【0016】
実験から、これらの工程を実施することにより、ナノ双晶が材料中に導入され、ここで、チタン材料の引張強度および降伏強度の両方が増加することが示される。本発明は、いかなる特定のタイプのキャスティングにも限定されるものではなく、基本材料が粉体ではないすべてのタイプの方法を包含することを意図している。従って、本発明は、とりわけ、連続キャスティングおよび金型キャスティングを包含する。さらに、キャスティング後のいかなる時点にて低温での変形を実施してもよい。本発明に関して、キャスティング工程は、本発明の方法の残りの工程に対して感受性を有するマイクロ構造を得るために重要である。従って、キャスティング工程と組み合わせて低温での変形を行うべきかどうかについての制限はない。
【0017】
本発明の実施形態において、変形は、1秒あたり2%未満、好ましくは1秒あたり1.5%未満、より好ましくは1秒あたり1%未満の速度にて材料に付与される。
【0018】
比較的低い変形速度は、材料の温度上昇が制御可能なレベルに維持されることから、有利である。変形速度が高すぎる場合は、材料の温度が上昇して、ナノ双晶の形成など、塑性変形の予測性に悪影響を及ぼしかねない。
【0019】
塑性変形が材料に付与される前に、材料は、好ましくは−50℃未満、またはさらにより好ましくは−100℃未満の温度とされる。
【0020】
本発明の方法の1つの実施形態において、塑性変形が材料に付与される前に、材料は、例えば液体窒素により、−196℃の温度まで冷却される。
【0021】
本発明の方法の1つの実施形態において、塑性変形は、例えば圧延からの、圧縮によって材料に付与される。
【0022】
圧縮の別の選択肢として、またはそれを補完するものとして、塑性変形は、例えば延伸(drawing)によって材料に付与される、歪付与(straining)を含んでいてよい。材料は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%の塑性変形に対応する度合いまで塑性変形されてよい。
【0023】
本発明に従う方法の特定の実施形態では、塑性変形は、一回の変形あたり10%未満、好ましくは一回の変形あたり6%未満、より好ましくは一回の変形あたり4%未満にて、間欠的に材料へ付与される。
【0024】
本出願の範囲のために、間欠的な延伸とは、延伸が段階的に実施されることである。各段階の間にて、延伸が再開される前に、短時間、好ましくは1秒間超、さらにより好ましくは3秒間超、例えば5から10秒間、一時的な応力の90%未満まで、好ましくは80%または70%未満まで、応力が一時的に低下される。
【0025】
本発明に従う方法のさらなる実施形態では、材料への変形の付与は、1秒あたり0.2%超、好ましくは1秒あたり0.4%超、より好ましくは1秒あたり0.6%超の速度で行われる。
【0026】
本発明に従う方法のさらなる実施形態では、キャスティングされた工業用純チタン材料は、0.01質量%以下のHを含有し、本発明に従う方法の別の実施形態では、この材料は、0.45質量%以下のFeを含有する。なおさらなる実施形態では、キャスティングされた工業用純チタン材料は、0.35質量%以下のO、好ましくは、0.30質量%以下のOを含有する。
【0027】
本発明の方法により、比較的に高い強度を有する工業用純チタン材料が作製される。本方法によって提供される材料中の平均ナノスケール双晶間隔は、1000nm未満である。
【0028】
好ましくは、材料は、500nm未満、より好ましくは300nm未満のナノスケール双晶間隔を有する。
【0029】
本発明の方法により、材料は、好ましくは、700MPa超、好ましくは750MPa超、より好ましくは800MPa超の降伏強度を得ることになる。
【0030】
本発明の別の好ましい実施形態において、材料は、750MPa超、好ましくは800MPa超、より好ましくは850MPa超の引張強度を有する。
【0031】
以下に、添付の図を参照して本発明を詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】種々の温度におけるCPチタン材料の、歪に対する引張応力を示すグラフである。
【
図3】本発明に従って作製されたナノ双晶形成CP Ti‐材料の顕微鏡写真を示す図である。
【
図4】本発明に従って作製されたナノ双晶形成CP Ti‐材料のTEM分析を示す図である。
【
図5】本発明に従って作製されたナノ双晶形成CP Ti‐材料のX線回折パターンを示す図である。
【
図6】本発明に従って作製されたナノ双晶形成材料における方位差マッピングの測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、工業用純チタン材料のための改善、特に、そのような材料を作製する方法への改善を提供する。
【0034】
チタンは、種々の組成の数多くのグレードで存在する。グレード1から4のいずれかに相当する組成のチタンは、一般的に、工業用純チタンと称される。グレード5の組成を有するチタンは、一般的に、Ti‐6Al‐4Vとして知られており、これは、その非常に良好な機械特性のために、今日最も広く用いられているチタン材料である。
【0035】
グレード1〜5のチタン材料の組成を以下の表1に示す。数値は、区間として示されない限りにおいて、最大質量%を示す。
【0037】
上記で示されるように、工業用純チタン材料は、アレルギー性金属バナジウムをまったく含有しないか、または僅かに少量含有するだけであることから、医療分野などを例とするいくつかの用途において非常に魅力的である。本発明の特定の目的は、グレード1〜4の範囲内の組成のチタン材料の機械特性、特に降伏強度を改善する方法を見出し、それによって、グレード5の範囲内の組成のチタン材料の機械特性にそれらを相当させることである。
【0038】
一般的に、工業用純チタン材料の場合、材料の強度は、酸素含有量の増加に比例して上昇する。表2には、チタングレード1〜5およびグレード23のいくつかの典型的な機械特性を示しており、ここで、Rp0.2は、塑性変形0.2%における降伏強度に対応し、Rmは、引張強度に対応し、Aは、伸長度(極限歪)に対応し、Eは、ヤング率に対応する。
【0040】
本発明によると、ナノ双晶を、工業用純チタン材料に導入することができることが示された。このことは、以下の4つの実施例で示され、そこから、本発明の一般化が可能である。
【実施例】
【0041】
4つの代表例としてのサンプルの組成を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3から、第一のサンプル、すなわち、CP Ti#1は、チタングレード2に属する組成を有すること、および第二および第三のサンプル、すなわち、CP Ti#2および#3は、窒素含有量が高いことから、チタングレード3に属する組成を有すると結論付けることができる。第四のサンプルは、鉄含有量が高いことから、グレード4に属する。
【0044】
以下の4つの実施例において、サンプルに、間欠的な延伸を施した。本出願の範囲のために、段階的または間欠的延伸とは、延伸が再開される前に、5から10秒間を例とする短い時間、一時的な応力の90%未満まで、または好ましくは80%もしくは70%未満まで、応力が一時的に低下されることを意味する。
【0045】
間欠的塑性変形は、変形に対する総許容度を高める効果的な方法であり、それによって、連続変形よりも高い総変形を達成することが可能であることが証明されている。
【0046】
さらに、延伸の過程での温度上昇を回避する目的で、延伸プロセス全体を通して、材料を連続的に冷却した。
【0047】
以下の実施例のための出発物質は、溶融、キャスティング、鍛造/熱間圧延、および棒材への押出を含む従来の冶金学的方法によって作製される棒材である。
【0048】
従って、本発明の方法は、それ以外で仕上げられた作製物に対して実施してよい。
【0049】
実施例1
第一の実施例では、サンプル CP Ti#1を−100℃未満の温度まで冷却し、続いて、この温度にて塑性変形を施した。
【0050】
初期全長50mmを有するこのサンプルに、20mm/分(1秒あたり0.67%)の引張速度により、総変形35%まで塑性変形を施した。変形は、1回あたり2%の間隔で行った。
【0051】
実施例2
第二の実施例では、サンプル CP Ti#2を−100℃未満の温度まで冷却し、続いて、この温度にて塑性変形を施した。
【0052】
初期全長50mmを有するこのサンプルに、30mm/分(1秒あたり1%)の引張速度により、総変形35%まで塑性変形を施した。変形は、1回あたり2%の間隔で行った。
【0053】
実施例3
第三の実施例では、サンプル CP Ti#3を−100℃未満の温度まで冷却し、続いて、この温度にて塑性変形を施した。
【0054】
初期全長50mmを有するこのサンプルに、20mm/分(1秒あたり0.67%)の引張速度により、総変形40%まで塑性変形を施した。変形は、1回あたり2%の間隔で行った。
【0055】
実施例4
第四の実施例では、サンプル CP Ti#4を−100℃未満の温度まで冷却し、続いて、この温度にて塑性変形を施した。
【0056】
初期全長50mmを有するこのサンプルに、30mm/分(1秒あたり1%)の引張速度により、総変形25%まで塑性変形を施した。変形は、1回あたり2%の間隔で行った。
【0057】
示した温度での張力付与(pretension)の完了後、サンプル#1〜4を、続いて行われる室温での機械特性試験のために、室温下に置いた。
【0058】
サンプルの観察された機械特性を、表4に示す。
【0059】
表4から明らかなように、降伏強度および引張強度はいずれも、4つのサンプルすべてにおいて、グレード2および3のチタン材料の対応するレファレンス値と比較して大きく上昇した。この強度の上昇は、低温において予め歪付与することによって誘導される材料構造中のナノ双晶形成に起因するものであり、それによって、それらは、グレード5およびグレード23のチタンを例とするレファレンス材料の特性に匹敵するか、またはさらにはそれを上回るものとなる。
【0060】
【表4】
【0061】
上記で示した実施例から、本発明の方法を一般化することができる。本詳細な記述の以下の部分では、本発明に従う工業用純チタン材料を作製する方法の論理流れ図について、
図1を参照して記載する。
【0062】
第一の工程では、工業用純チタン材料が提供される。本発明によると、提供される材料はキャスティングされるものであり、例えば焼結および/またはホットアイソスタティックプレス(HIP)などの粉体法によって作製されるものではない。
【0063】
キャスティングされたチタン材料は、室温未満まで冷却される。一般則として、その温度が低いほど、ナノ双晶の効果が大きくなる。
【0064】
図2には、グレード2のチタン材料の引張試験についてのグラフを示す。本グラフにおいて、応力の急な低下、およびそれに続く鋸歯状の曲線部分を見ることができる。このような鋸歯状曲線は、双晶が発生したことを示している。さらに、
図2のグラフから、引張試験が実施される温度が、材料の強度に強い影響を持つが、応力の急な低下が発生する歪にも強い影響を持つことが分かる。温度が低いほど、応力の急な低下を引き起こすのに要する、従って双晶の形成を開始するのに要する歪が小さくなる。
【0065】
このグラフから、双晶は、0℃およびそれ未満の温度から形成され得るが、双晶の形成は、0℃では、約9%より大きい歪の場合にのみ発生することも明らかである。
【0066】
論理流れ図の工程4において、材料中にナノ双晶が発生するまで、材料に塑性変形が付与される。塑性変形は、材料中にて特定の密度のナノ双晶または「ナノスケールの双晶間隔」が達成されるまで維持されるべきである。これについては、以下でより詳細に記述する。
【0067】
示した実施例から考えると、低温での塑性変形によって十分な機械特性を有するナノ双晶形成材料を得ることができる組成範囲は広い。特に、ナノ双晶を持たないCPチタン材料の強度を決定する酸素含有量を、ナノ双晶を形成させる目的で高くする必要がないと考えられる。サンプルCP Ti#1では、酸素含有量は、0.19質量%という低さであり、これは、チタングレード1の定義(0.18%以下)のボーダーラインである。
【0068】
サンプルCP Ti#1〜4が実際にナノ双晶を含有するという理論を確認する目的で、それぞれのマイクロ構造を、低倍率顕微鏡およびTEM分析の両方で調べた。
【0069】
ナノ双晶形成純チタン材料は、針状またはラス形状パターンに富むマイクロ構造を有する。このような針またはラス形状は、
図3の比較的低倍率で示される。視認されるように、針またはラス形状は、特定のクラスター内において類似の結晶方位を有しているが、各クラスターは、特定の方位を有しており、それは、隣接するクラスターとは独立である。
【0070】
ナノ双晶の密度は、
図4のTEM分析において視認されるように、非常に高くなり得る。この場合は、72%よりも高い。材料のいわゆる「ナノスケール双晶間隔」は、1000nm未満である。ほとんどの双晶の場合において、ナノスケール双晶間隔は、500nm未満であり、特には、300nm未満である。さらに、ほとんどの双晶は、50nm超の「ナノスケール双晶間隔」を有する。
【0071】
双晶ドメインは、結晶粒全体に広がっているわけではなく、むしろ、より短いセグメントに分割されている。結晶粒間の方位差は大きく、隣接するドメインの結晶学的方位はまったく異なる。
図5に示すX線結晶回折パターンから、チタンの特徴的なHCP構造を構成するほとんどのドットの近傍に小さい相補的なドット(complementary dots)が見られる。これらの相補的なドットは、双晶の存在を示す。
【0072】
図6は、ナノ双晶形成CPチタン材料の方位差マッピングの測定を示す。この図において、非相関ピークは、符号1で示され、相関ピークは、符号2で示される。相関ピーク2は、符号3で示されるランダムまたは理論線に沿っている。約9、29、63および69、83および89にて、いくつかの非相関ピークが存在する。これらの方位差は、60および85に位置する僅かに2つの方位差が存在するだけである通常のCPチタン材料と異なっている。60における方位差は、圧縮双晶形成によって形成され、85における方位差は、引張双晶形成によって形成される。32における方位差は、通常、27の双晶形成によって形成される。10から20よりも小さい方位差は、特別小傾角粒界によって形成されるものであり、双晶を表すものではない。
【0073】
ナノ双晶形成材料に関して考え得る1つの推測は、63および69における方位差が、1つの群(圧縮双晶形成)に属し、83および89における方位差が、別の群(引張双晶形成)に属し得るというものである。
【0074】
しかし、TEM分析から、双晶が存在すること、および双晶ドメインのほとんどは、少なくとも1000nmよりも小さく、それらがナノ双晶と称されるべきであるようなサイズであることという結論を得ることができる。
【0075】
本明細書では、4つの実施例を提示している。しかし、提示した実施例および達成された機械特性を支持する類似の特徴を有するその他の実施例も実施した。本発明は、従って、提示した実施例に限定されるものではなく、以下の請求項によって限定されるものである。