(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
横断面が円形に形成され、純度99.999質量%以上の金属電線を有し、該金属電線の横断面における平均結晶粒径が該金属電線の直径の1/20以上に形成された線状導体と、
上記線状導体の一方端に接続された第1接続部と、
上記線状導体の他方端に接続された第2接続部と、
上記第1接続部及び第2接続部の間に設けられ、上記線状導体を冷却する冷却装置とを備え、
上記第1接続部及び第2接続部の間には、上記冷却装置が上記線状導体に沿って互いに離間するように複数設けられ、
上記複数の冷却装置の間には、上記線状導体を囲むように保冷室が設けられている、冷却システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超伝導材料を導体に用いた超伝導ケーブルでは、導体を極低温に冷却及び維持するための冷却システムが必要である。ここで、この冷却システムでは、冷媒の回収及び再冷却という冷媒の相変換を行うための大掛かり装置が必要であり、また、例えば、事故時の急激な冷媒の気化に備えて堅牢な構造が必要であるので、安全性を踏まえてシステムを構築すると、コストが高くなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、可及的にコストが抑制された冷却システムを構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、横断面が円形に形成され純度99.999質量%以上の金属電線を有し、金属電線の横断面における平均結晶粒径が金属電線の直径の1/20以上に形成された線状導体を第1接続部及び第2接続部の間で冷却するようにしたものである。
【0009】
具体的に本発明に係る冷却システムは、横断面が円形に形成され、純度99.999質量%以上の金属電線を有し、該金属電線の横断面における平均結晶粒径が該金属電線の直径の1/20以上に形成された線状導体と、上記線状導体の一方端に接続された第1接続部と、上記線状導体の他方端に接続された第2接続部と、上記第1接続部及び第2接続部の間に設けられ、上記線状導体を冷却する冷却装置とを備えている。
【0010】
上記の構成によれば、純度99.999質量%以上の金属電線の横断面における平均結晶粒径が金属電線の直径の1/20以上であるので、金属電線における結晶欠陥が減少して、金属電線の残留抵抗比(Residual Resistivity Ratio、以下、「RRR」とも称する)が500以上に高くなる。ここで、上記のような低電気抵抗で高純度の金属電線を有する線状導体は、200W/(m・K)〜420W/(m・K)程度の高い熱伝導率(20℃)を有しているので、例えば、4.2K程度の極低温でもニオブチタンなどの超伝導材料よりも高い熱伝導率を有することになる。そのため、例えば、線状導体の一部を極低温に冷却することにより、その極低温が線状導体全体に広がって、線状導体全体が極低温に冷却される。これにより、第1接続部及び第2接続部の間で線状導体を冷却する冷却装置を簡素化することが可能になる。しかも、冷却システムを構成する線状導体は、例えば、製造及び加工が比較的に困難なニオブチタンなどの超伝導材料を用いることなく、製造及び加工が比較的に容易な金属電線を用いて構成されているので、可及的にコストが抑制された冷却システムが構築される。なお、RRRは、温度293K(常温20℃)及び4.2Kでの電気抵抗の比である。
【0011】
上記第1接続部及び第2接続部の間には、上記冷却装置が上記線状導体に沿って互いに離間するように複数設けられ、上記複数の冷却装置の間には、上記線状導体を囲むように保冷室が設けられていてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、互いに離間する複数の冷却装置の間に線状導体の一部を囲む保冷室が設けられているので、例えば、各冷却装置で極低温に冷却された線状導体の部分の極低温が保冷室の内部に配置する線状導体の部分に比較的高い熱伝導率を有する線状導体を介して広がることにより、線状導体全体が極低温に冷却され、線状導体を全長にわたって冷却装置で冷却する場合よりも、冷却装置がコンパクトになると共に、冷却に関するランニングコストが抑制される。
【0013】
上記冷却装置は、冷媒を介して上記線状導体を冷却し、該冷却装置に隣り合う上記保冷室に該冷却装置からの冷媒が流れ込むように設けられていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、冷却装置では、それに隣り合う保冷室に冷却装置からの冷媒が流れ込むようになっているので、保冷室の内部において、冷却装置からの冷媒を用いて線状導体が冷却されることになり、例えば、冷却装置から漏れ出た冷媒が有効利用される。
【0015】
上記第1接続部及び第2接続部の間には、上記冷却装置が上記線状導体の全長にわたるように1つ設けられていてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、第1接続部及び第2接続部の間では、線状導体の全長にわたるように1つの冷却装置が設けられているので、超伝導材料を用いた線状導体を冷却する場合よりも、例えば、線状導体を内部に備え、線状導体を冷却可能に構成されたケーブルの直径が小さくなり、冷却装置がコンパクトになる。
【0017】
上記冷却装置は、上記線状導体を囲むように設けられた冷却室と、該冷却室の内部に冷媒を供給する冷媒供給部とを備えていてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、冷却装置が線状導体を囲むように設けられた冷却室とその冷却室の内部に冷媒を供給する冷媒供給部とを備えているので、線状導体の側面に冷媒を接触させて線状導体を冷却する冷却装置が具体的に構成される。
【0019】
上記線状導体は、上記金属電線を複数有し、該複数の金属電線が互いに並行に延びるように設けられた撚り線であってもよい。
【0020】
上記の構成によれば、複数の金属電線が互いに並行に延びるように設けられた撚り線により線状導体が構成されているので、単線の金属電線を用いた場合よりも線状導体の強度が高くなる。
【0021】
上記金属電線の純度は、99.9999質量%以上であってもよい。
【0022】
上記の構成によれば、金属電線の純度がいっそう高くなるので、線状導体のRRRがいっそう高くなる。
【0023】
上記金属電線の横断面における平均結晶粒径は、上記金属電線の直径の1/10以上であってもよい。
【0024】
上記の構成によれば、金属電線の横断面における平均結晶粒径が金属電線の直径の1/10以上であるので、金属電線における結晶欠陥がいっそう減少して、線状導体のRRRがいっそう高くなる。
【0025】
上記金属電線における鉄及びニッケルの総含有量は、1ppm以下であってもよい。
【0026】
上記の構成によれば、金属電線における鉄及びニッケルの総含有量が1ppm以下であるので、例えば、磁気共鳴画像診断装置や核磁気共鳴診断装置などの磁束密度1T以上の強磁場で好適に使用される。
【0027】
上記金属電線は、ポリイミド樹脂製の絶縁層で被覆されていてもよい。
【0028】
上記の構成によれば、金属電線がポリイミド樹脂製の絶縁層で被覆されているので、その絶縁層の柔軟性により、極低温環境(例えば、液体窒素温度:−196℃)であっても、金属電線を被覆する絶縁層の割れによる破壊が抑制される。また、金属電線と絶縁層とでは、それらの材質を考慮すると、熱膨張係数が必然的に大きく異なってしまう。しかしながら、線状導体の環境温度に起因して金属電線が伸縮(膨張/収縮)しても、絶縁層がその柔軟性により金属電線の側面に密着したまま金属電線の伸縮に追従するので、常温環境と極低温環境とを繰り返すような過酷な条件下であっても、絶縁層の劣化が抑制される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、横断面が円形に形成され純度99.999質量%以上の金属電線を有し、金属電線の横断面における平均結晶粒径が金属電線の直径の1/20以上に形成された線状導体を第1接続部及び第2接続部の間で冷却するように構成されているので、可及的にコストが抑制された冷却システムを構築することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の各実施形態に限定されるものではない。
【0032】
《発明の実施形態1》
図1〜
図8は、本発明に係る冷却システムの実施形態1を示している。ここで、
図1は、本実施形態の冷却システム50aを示す断面図である。また、
図2は、冷却システム50aを構成する線状導体20aの斜視図である。また、
図3及び
図4は、線状導体20aの横断面を示す模式図の第1例及び第2例である。また、
図5及び
図6は、線状導体20aの製造方法を示すフローチャートである。また、
図7は、冷却システム50aを構成する線状導体20bの斜視図である。また、
図8は、線状導体20bの製造方法を示すフローチャートである。
【0033】
冷却システム50aは、
図1に示すように、線状導体20と、線状導体20の長さ方向の一方端に接続された第1接続部21と、線状導体20の長さ方向の他方端に接続された第2接続部22と、第1接続部21及び第2接続部22の間に互いに離間するように設けられ、線状導体20を冷却するための複数の冷却装置30と、隣り合う一対の冷却装置30の間にそれぞれ設けられ、線状導体20を保冷するための複数の保冷室40とを備えている。なお、本実施形態では、線状導体20として、側面に導体が露出する線状導体20a(
図2参照)と、側面に導体が露出しない線状導体20b(
図7参照)とを例示する。
【0034】
線状導体20aは、
図2に示すように、互いに並行に延びるように設けられた複数本(例えば、7本)の金属電線10を撚り合わせた撚り線である。
【0035】
金属電線10は、
図2に示すように、横断面が円形に形成され、例えば、銅、アルミニウム、銀などにより構成されている。ここで、金属電線10の金属の純度は、99.999質量%以上であり、好ましくは99.9999質量%以上であり、より好ましくは、99.99998質量%以上である。また、金属電線10の横断面における平均結晶粒径は、金属電線10の直径の1/20以上(例えば、1/10程度、
図3参照)であり、好ましくは、金属電線10の直径の1/10以上(例えば、1/5程度、
図4参照)である。また、金属電線10における鉄及びニッケルの総含有量は、1ppm以下である。
【0036】
金属電線10は、常温(20℃)での電気抵抗R
293K及び4.2Kでの電気抵抗R
4.2Kの比率、すなわち、残留抵抗比(RRR=R
293K/R
4.2K)が500以上、好ましくは5000以上になっている。また、金属電線10は、銅製の場合380W/(m・K)程度、アルミニウム製の場合200W/(m・K)程度、銀製の場合420W/(m・K)程度の高い熱伝導率(20℃)を有している。ここで、熱伝導率は、JIS R 1611に基づいてレーザーフラッシュ法により測定される。
【0037】
一方、線状導体20bは、
図7に示すように、互いに並行に延びるように設けられた複数本(例えば、7本)の絶縁電線15を撚り合わせた撚り線である。
【0038】
絶縁電線15は、
図7に示すように、金属電線10と、金属電線10の側面を被覆するように設けられたポリイミド樹脂製の絶縁層11とを備えている。
【0039】
絶縁層11は、例えば、ブロック共重合ポリイミドにより構成されている、ここで、このブロック共重合ポリイミドは、例えば、ポリイミドの主鎖中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有している。また、このブロック共重合ポリイミドは、例えば、重量平均分子量が45000〜90000であり、数平均分子量が20000〜40000である。なお、絶縁層11の膜厚は、例えば、1μm〜50μm程度である。
【0040】
第1接続部21及び第2接続部22は、例えば、銅製の接続端子であり、線状導体20と圧着又は圧縮などにより固定されている。
【0041】
冷却装置30は、
図1に示すように、線状導体20の一部を囲むように設けられた冷却室31と、冷却室31の後述する円筒体の側面に接続された冷媒供給部32とを備えている。
【0042】
冷却室31は、例えば、線状導体20の周囲に設けられた円筒体と、その円筒体の一対の開口部にそれぞれ設けられ、線状導体20が挿入された一対の環状体とを備え、ほぼ閉じた空間を形成している。ここで、冷却室31は、例えば、真空断熱層が壁間に形成されたステンレス製の2重壁などの構造を有している。
【0043】
冷媒供給部32は、例えば、液体ヘリウムや液体窒素などの冷媒Cを冷却室31の内部に供給するように設けられている。
【0044】
なお、本実施形態では、線状導体20に液体の冷媒Cを接触させて線状導体20を冷却する冷却装置30を例示したが、線状導体20を冷却する冷却装置は、蒸気や冷媒などの圧縮を利用した冷却機であってもよい。
【0045】
保冷室40は、
図1に示すように、隣り合う一対の冷却装置30を連結すると共に、線状導体20の一部を囲むように円筒状に設けられている。ここで、保冷室40は、例えば、真空断熱層が管間に形成されたステンレス製の2重管などにより構成されている。
【0046】
上記構成の冷却システム50aは、
図1に示すように、各冷却装置30の冷却室31の内部に配置する線状導体20を冷媒Cで冷却すると共に、冷却室31に隣り合う保冷室40の内部に冷却室31からの冷媒Cが流れ込むことにより、保冷室40の内部において線状導体20を保冷するだけでなく冷却もするように構成されている。
【0047】
次に、本実施形態の冷却システム50aを構成する線状導体20aの製造方法について説明する。なお、本実施形態の製造方法は、準備工程、熱処理工程及び成形工程を備える。
【0048】
<準備工程>
図5に示すように、例えば、電気銅を鋳造することにより純度99.999質量%以上のビレットを作製した後に、その作製されたビレットを複数のステップで伸線することにより、例えば、直径0.1mm〜3.2mm程度の銅電線を作製する。
【0049】
<熱処理工程>
上記準備工程で作製され、ボビンに巻き取った銅電線をバッチ焼き鈍し炉の内部に搬入した後に、炉内の銅電線を300℃以上で1時間以上(好ましくは500℃以上で1時間以上)の条件で水素などの還元雰囲気、窒素などの不活性ガス雰囲気又は真空雰囲気で熱処理することにより、銅電線の横断面における平均結晶粒径を銅電線の直径の1/20以上、好ましくは1/10以上にする。
【0050】
なお、本実施形態では、銅電線を一括して熱処理するバッチ処理を行う製造方法を例示したが、例えば、上記準備工程で作製された銅電線をそのまま筒状のパイプ焼き鈍し炉の内部に搬入及び搬送させることにより、炉内で銅電線を搬送しながら500℃以上で30秒以上(好ましくは600℃以上で30秒以上)の条件で水素などの還元雰囲気、又は窒素などの不活性ガス雰囲気で連続して熱処理してもよい。
【0051】
<成形工程>
上記熱処理工程で熱処理された銅電線を複数本準備し、それらの複数本の銅電線を撚り合わせることにより、撚り線(線状導体20a)を作製する。
【0052】
以上のようにして、本実施形態の線状導体20aを製造することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、熱処理工程を行った後に、成形工程を行う製造方法を例示したが、
図6に示すように、上述した準備工程を行った後に、上述した成形工程を行い、最後に、上述した熱処理工程を行ってもよい。また、本実施形態の線状導体20bは、上述した線状導体20aの製造方法と同様に、
図8に示すように、上述した準備工程及び熱処理工程を行った後に、その熱処理された銅電線の側面に対する電着塗装又はディップ塗装とその後の焼き付け処理とを行うことにより、絶縁層11を形成し、最後に、上述した成形工程を行うことにより、製造することができる。
【0054】
次に、具体的に行った実験について説明する。
【0055】
具体的には、下記の表1に示すように、実施例1〜9として、純度99.999質量%、99.9999質量%又は99.99998質量%の銅線材を用い、上述した線状導体20aの製造方法と同様に、所定の条件の熱処理を行うことにより、直径0.32mmの単線の銅電線を作製した。また、比較例1及び2として、純度99.99質量%及び99.999質量%の銅線材を用い、所定の条件の熱処理を行うことにより、直径0.32mmの単線の銅電線を作製した。そして、それらの作製された各銅電線について、結晶粒径、RRR、並びに鉄及びニッケルの総含有量を評価した。ここで、結晶粒径、すなわち、平均結晶粒径については、銅電線の横断面のミクロ組織から{√(結晶の平均面積/π)}×2の式に基づいて算出した。また、RRRについては、室温(20℃=293K)における電気抵抗R
293K、及び液体ヘリウム温度(4.2K)における電気抵抗R
4.2Kを四端子法により測定して、R
293K/R
4.2Kの式より算出した。また、鉄及びニッケルの総含有量については、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のVG9000を用いて、グロー放電質量分析法により測定した。また、銅の純度は、同じくグロー放電質量分析法により、銅の含有量、又は不純物(銀、アルミニウム、ヒ素、ビスマス、クロム、鉄、マグネシウム、ナトリウム、ニッケル、硫黄、アンチモン、ケイ素などの元素)の含有量を測定することにより、算出した。
【0057】
実験結果としては、比較例1では、99.99質量%の銅線材を500℃で1時間(3600秒)の条件で熱処理しても、RRRが400程度になるものの、実施例1〜3では、より高純度の99.999質量%の銅線材を用い、300℃以上で1時間以上の条件で熱処理することにより、RRRが1500〜4600程度に高くなることが確認された。また、連続処理を行った実施例4では、500℃で30秒の条件で熱処理するだけでRRRが2800程度に高くなることが確認された。さらに、99.9999質量%の銅線材を用いた実施例5では、500℃で30秒の条件で熱処理するだけでRRRが4500程度に高くなることが確認された。また、さらに高純度の99.99998質量%の銅線材を用いた実施例6では、500℃で30秒の条件で熱処理するだけでRRRが5400程度に高くなることが確認された。同じく99.99998質量%の銅線材を用いた実施例7〜9では、300℃以上で1時間以上の条件で熱処理することにより、RRRが4800〜9800程度に高くなることが確認された。
【0058】
また、平均結晶粒径については、比較例1及び2で、銅電線の直径の1/22及び1/21程度となるものの、実施例1〜9では、銅電線の直径の1/16〜1/6程度となり、銅電線の直径の1/20(好ましくは1/10)以上になることが確認された。
【0059】
また、鉄及びニッケルの総含有量については、比較例1及び2で、1.1及び0.3ppmになるものの、実施例1〜9では、0.02ppm〜0.5ppmとなり、1ppm以下になることが確認された。
【0060】
次に、具体的に行った他の実験について説明する。
【0061】
実施例として、純度99.9999質量%で直径1.0mmの銅電線を用いて、上述した実施例9の熱処理を行った後に、その側面にポリイミド樹脂を電着塗装することにより、厚さ10μm程度のポリイミド樹脂製の絶縁層を有する絶縁電線を作製した。また、比較例として、純度99.9999質量%で直径1.0mmの銅電線を用いて、上述した実施例9の熱処理を行った後に、その側面にエポキシ樹脂をディップ塗装することにより、厚さ10μm程度のエポキシ樹脂製の絶縁層を有する絶縁電線を作製した。それらの作製された各絶縁電線を内径1mmでコイル状に緊密に10回巻き付けて試験体をそれぞれ作製し、それらの各試験体を液体窒素に10分間浸漬した後に、常温(20℃)に戻し、各試験体の絶縁層の表面を20倍の拡大鏡で観察して、割れの有無を確認した。
【0062】
実験結果としては、実施例では、絶縁層に割れが確認されなかったのに対し、比較例では、絶縁層に割れが確認された。
【0063】
なお、上記各実施例では、金属電線として銅電線を例示したが、本発明は、アルミニウムや銀製などの金属電線にも適用することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の冷却システム50aによれば、純度99.999質量%以上の各金属電線10の横断面における平均結晶粒径が金属電線10の直径の1/20以上であるので、金属電線10における結晶欠陥が減少して、金属電線10のRRRが500以上に高くなる。ここで、このような低電気抵抗で高純度の金属電線10を有する線状導体20は、200W/(m・K)〜420W/(m・K)程度の高い熱伝導率(20℃)を有しているので、例えば、4.2K程度の極低温でもニオブチタンなどの超伝導材料よりも高い熱伝導率を有することになる。そのため、線状導体20の一部を極低温に冷却することにより、その極低温が線状導体20全体に広がって、線状導体20全体が極低温に冷却される。これにより、第1接続部21及び第2接続部22の間で線状導体20を冷却する冷却装置30を簡素化することができる。しかも、冷却システム50aを構成する線状導体20は、例えば、製造及び加工が比較的に困難なニオブチタンなどの超伝導材料を用いることなく、製造及び加工が比較的に容易な金属電線10を用いて構成されているので、可及的にコストが抑制された冷却システム50aを構築することができる。
【0065】
また、本実施形態の冷却システム50aによれば、互いに離間する複数の冷却装置30の間に線状導体20の一部を囲む保冷室40が設けられているので、各冷却装置30で極低温に冷却された線状導体20の部分の極低温が保冷室40の内部に配置する線状導体20の部分に比較的高い熱伝導率を有する線状導体20を介して広がることにより、線状導体20全体が極低温に冷却され、線状導体を全長にわたって冷却装置で冷却する場合よりも、冷却装置30をコンパクトにすることができると共に、冷却に関するランニングコストを抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態の冷却システム50aによれば、冷却装置30では、それに隣り合う保冷室40に冷却装置30からの冷媒Cが流れ込むようになっているので、保冷室40の内部において、冷却装置30からの冷媒Cを用いて線状導体20が冷却されることになり、冷却装置30から漏れ出た冷媒Cを有効利用することができる。
【0067】
また、本実施形態の冷却システム50aによれば、複数の金属電線10が互いに並行に延びるように設けられた撚り線により線状導体20が構成されているので、単線の金属電線を用いた場合よりも線状導体20の強度を高くすることができる。
【0068】
また、本実施形態の冷却システム50aによれば、金属電線10における鉄及びニッケルの総含有量が1ppm以下であるので、例えば、磁気共鳴画像診断装置や核磁気共鳴診断装置などの磁束密度1T以上の強磁場で好適に使用することができる。
【0069】
また、本実施形態の冷却システム50aによれば、線状導体20を構成する金属電線10が高純度の銅電線である場合には、導体が超伝導材料でなく、接続技術が確立された銅電線であるので、周辺機器との接続を容易に行うことができる。
【0070】
また、本実施形態の線状導体20bを用いた冷却システム50aによれば、金属電線10がポリイミド樹脂製の絶縁層11で被覆されているので、絶縁層11の柔軟性により、極低温環境(液体窒素温度:−196℃)であっても、金属電線10を被覆する絶縁層11の割れによる破壊を抑制することができる。また、金属電線10と絶縁層11とでは、それらの材質を考慮すると、熱膨張係数が必然的に大きく異なってしまう。しかしながら、線状導体20bの環境温度に起因して金属電線10が伸縮(膨張/収縮)しても、絶縁層11がその柔軟性により金属電線10の側面に密着したまま金属電線10の伸縮に追従するので、常温環境と極低温環境とを繰り返すような過酷な条件下であっても、絶縁層11の劣化を抑制することができる。
【0071】
《発明の実施形態2》
図9は、本実施形態の冷却システム50bを示す断面図である。なお、以下の実施形態において、
図1〜
図8と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0072】
上記実施形態1では、複数の冷却装置30を備えた冷却システム50aを例示したが、本実施形態では、1つの冷却装置35を備えた冷却システム50bを例示する。
【0073】
冷却システム50bは、
図9に示すように、上記実施形態1の線状導体20a又は20bからなる線状導体20と、線状導体20の長さ方向の一方端に接続された第1接続部21と、線状導体20の長さ方向の他方端に接続された第2接続部22と、第1接続部21及び第2接続部22の間に設けられ、線状導体20を冷却するための冷却装置35とを備えている。
【0074】
冷却装置35は、
図9に示すように、線状導体20の全体を囲むように設けられた冷却室33と、冷却室33の後述する円筒体の側面に接続された冷媒供給部34とを備えている。
【0075】
冷却室33は、例えば、線状導体20の周囲に設けられた円筒体と、その円筒体の一対の開口部にそれぞれ設けられ、線状導体20が挿入された一対の環状体とを備え、ほぼ閉じた空間を形成している。ここで、冷却室33は、例えば、真空断熱層が壁間に形成されたステンレス製の2重壁などの構造を有している。
【0076】
冷媒供給部34は、例えば、液体ヘリウムなどの冷媒Cを冷却室33の内部に供給するように設けられている。
【0077】
上記構成の冷却システム50bは、
図9に示すように、冷却装置35の冷却室31の内部に配置する線状導体20を冷媒Cで冷却するように構成されている。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の冷却システム50bによれば、上記実施形態1と同様に、横断面が円形に形成され純度99.999質量%以上の金属電線10を複数有し、各金属電線10の横断面における平均結晶粒径が金属電線10の直径の1/20以上に形成された線状導体20を第1接続部21及び第2接続部22の間で冷却するように構成されているので、可及的にコストが抑制された冷却システム50bを構築することができる。
【0079】
また、本実施形態の冷却システム50bによれば、第1接続部21及び第2接続部22の間では、線状導体20の全長にわたるように1つの冷却装置35が設けられているので、超伝導材料を用いた線状導体を冷却する場合よりも、線状導体20を内部に備え、線状導体20を冷却可能に構成されたケーブルの直径が小さくなり、冷却装置35をコンパクトにすることができる。
【0080】
なお、上記各実施形態では、7本の単線からなる撚り線の線状導体を備えた冷却システムを例示したが、本発明は、7本以外の単線からなる撚り線や1本の単線の線状導体を備えた冷却システム、及び互いに並行に延びるように複数の線状導体が設けられた冷却システムにも適用することができる。
【0081】
また、上記各実施形態では、横断面が円形に形成された丸線の線状導体を備えた冷却システムを例示したが、本発明は、横断面が扁平した円形に形成された線状導体、横断面が矩形状に形成された平角線の線状導体、又は管状導体などを備えた冷却システムにも適用することができる。