特許第5917613号(P5917613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917613
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】接着方法、及び構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/02 20060101AFI20160428BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20160428BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20160428BHJP
   B23K 26/40 20140101ALI20160428BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20160428BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C09J5/02
   C09J201/00
   B23K26/36
   B23K26/40
   B32B7/12
   B32B15/08 N
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-136226(P2014-136226)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-14099(P2016-14099A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】粂田 祥平
(72)【発明者】
【氏名】吉野 玄人
(72)【発明者】
【氏名】葛西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】坂元 明
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−284676(JP,A)
【文献】 特開2002−084159(JP,A)
【文献】 特開2014−012284(JP,A)
【文献】 特開2007−167936(JP,A)
【文献】 特開2006−316290(JP,A)
【文献】 特開昭64−073750(JP,A)
【文献】 特開2000−357936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B23K 26/00− 26/70
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とを接着する接着方法であって、
上記第1部材は、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜が形成されており、上記第2部材は、金以外の材料からなり、
当該接着方法は、(1)上記第1部材の表面の一部を特定領域として、該特定領域の全体に対してレーザ光を散発的に照射することにより、該特定領域内に点在するレーザ光の照射点において上記薄膜の下地を露出させる照射工程と、(2)接着剤を用いて上記特定領域に上記第2部材を接着する接着工程と、を含んでおり、
上記特定領域は、上記第1部材の表面において上記第2部材が接着される領域に真に包含された領域であり、かつ、外周が角のない曲線となる領域である、
ことを特徴とする接着方法。
【請求項2】
上記照射工程は、上記特定領域において上記薄膜が残存する領域の面積の総和が上記特定領域の面積の60%以下になるまで繰り返される、ことを特徴とする請求項1に記載の接着方法。
【請求項3】
上記特定領域は、上記第1部材の表面において上記第2部材が接着される領域の外周に沿う環状領域である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の接着方法。
【請求項4】
上記第2部材は、透明部材である、ことを特徴とする請求項1〜3までの何れか1項に記載の接着方法。
【請求項5】
第1部材と第2部材とを接着する接着方法であって、
上記第1部材は、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜が形成されており、上記第2部材は、金以外の材料からなり、
当該接着方法は、(1)上記第1部材の表面の一部を特定領域として、該特定領域の全体に対してレーザ光を散発的に照射することにより、該特定領域内に点在するレーザ光の照射点において上記薄膜の下地を露出させる照射工程と、(2)接着剤を用いて上記特定領域に上記第2部材を接着する接着工程と、を含んでおり、
上記特定領域は、上記第1部材の表面において上記第2部材が接着される領域の外周に沿う環状領域である、
ことを特徴とする接着方法。
【請求項6】
第1部材と第2部材とを備えた構造物の製造方法であって、
上記第1部材は、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜が形成されており、上記第2部材は、金以外の材料からなり、
当該製造方法は、(1)上記第1部材の表面の一部を特定領域として、該特定領域の全体に対してレーザ光を散発的に照射することにより、該特定領域内に点在するレーザ光の照射点において上記薄膜の下地を露出させる照射工程と、(2)接着剤を用いて上記特定領域に上記第2部材を接着する接着工程と、を含んでおり、
上記特定領域は、上記第1部材の表面において上記第2部材が接着される領域に真に包含された領域であり、かつ、外周が角のない曲線となる領域である、
ことを特徴とする構造物の製造方法。
【請求項7】
第1部材と第2部材とを備えた構造物の製造方法であって、
上記第1部材は、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜が形成されており、上記第2部材は、金以外の材料からなり、
当該製造方法は、(1)上記第1部材の表面の一部を特定領域として、該特定領域の全体に対してレーザ光を散発的に照射することにより、該特定領域内に点在するレーザ光の照射点において上記薄膜の下地を露出させる照射工程と、(2)接着剤を用いて上記特定領域に上記第2部材を接着する接着工程と、を含んでおり、
上記特定領域は、上記第1部材の表面において上記第2部材が接着される領域の外周に沿う環状領域である、
ことを特徴とする構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤を用いて2つの部材を接着する接着方法に関する。また、互いに接着された2つの部材を備えた構造物、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を接合する接合方法としては、半田を用いた接合方法や接着剤を用いた接合方法が広く用いられている。例えば、レーザモジュールのサブマウントには、電子部品が半田を用いて接合され、光学部品が接着剤を用いて接合される。
【0003】
電子部品と光学部品とをサブマウントに接合する場合、以下のような問題が生じる。すなわち、半田を用いて電子部品をサブマウントに接合するためには、十分な接合強度を得るために、サブマウントの表面に金メッキを施す必要がある。しかしながら、サブマウントの表面に金メッキが施されていると、接着材を用いて光学部品をサブマウントに接合することが困難になる。
【0004】
表面に金メッキが施された部材に他の部材を接着することが困難な理由は、以下のとおりである。すなわち、一般的に、接着剤は、接着剤を構成する分子と、被接着表面を構成する原子又は分子との間に生じる分子間力を利用して接着を強固にする。しかしながら、被接着表面が金からなる場合には、金原子が無極性原子であるため、接着剤は、この分子間力を利用して接着を強固にすることができない。
【0005】
このような問題を回避するために利用可能な技術としては、特許文献1に記載の接着方法がある。特許文献1に記載の接着方法においては、金属との接着強度が強いFIPG(Formed In Place Gasket)を、金属部材と合成樹脂部材との接着に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−199834号公報(2013年10月3日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、表面に金メッキが施された第1部材(例えば、サブマウント)に第2部材(例えば、光学部品)を接着するためには、接着剤としてFIPGを用いることに加えて、第2部材の表面にアルミニウム粉末を含有する合成樹脂材料を設ける工程が必要となる。また、この技術を用いるためには、合成樹脂材料にアルミニウム粉末を含有させる工程、及び、その合成樹脂材料を適切に管理する工程も必要となる。
【0008】
このため、金メッキが施された第1部材と第2部材とを接着する接着方法であって、第2部材に対して特別な処理を施すことなく、強固な接着力を得ることが可能な接着方法の実現が望まれている。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、第1部材と第2部材とを接着する接着方法であって、第1部材の表面に金からなる薄膜が形成されている場合であっても、第2部材に対して特別な処理を施すことなく、強固な接着力を得ることが可能な接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1部材と第2部材とを接着する接着方法であって、上記第1部材は、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜が形成されており、第2部材は、金以外の材料からなり、当該接着方法は、(1)上記第1部材の表面の特定領域の少なくとも一部に対してレーザ光を照射することにより、上記特定領域の少なくとも一部において上記薄膜の下地を露出させる照射工程と、(2)接着剤を用いて上記特定領域に上記第2部材を接着する接着工程と、を含んでいることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、第2部材は、金からなる薄膜の上ではなく、金以外の材料からなる下地の上に接着される。このため、第2部材に特別な処理を施すことなく、第2部材を金からなる薄膜の上に接着する場合よりも強固な接着力を得ることができる。
【0012】
上記照射工程は、上記特定領域の各点に対してレーザ光を散発的に照射する工程である、ことが好ましい。
【0013】
上記の構成によれば、特定領域に下地が露出した領域を密に点在させることができる。また、照射工程を繰り返し実施することにより、特定領域において、下地が露出した領域の割合を次第に増加させると共に、特定領域において、薄膜が残存する領域の割合を次第に減少させることができる。
【0014】
上記照射工程は、上記特定領域において上記薄膜が残存する領域の面積の総和が上記特定領域の面積の60%以下になるまで繰り返される、ことが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、第1部材と第2部材との接着応力は、実用上十分と考えられる所定の値(1.4MPa)を上回る。
【0016】
上記特定領域は、上記第1部材の表面において上記第2部材が接着される領域に包含されている、ことが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、接着工程を実施した後に、薄膜の下地が外気に晒されることを防止できる。したがって、薄膜の下地の腐食その他の劣化を防止できる。
【0018】
上記特定領域は、外周が滑らかな曲線となる領域である、ことが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、特定領域の外周に曲げ応力が集中しやすい角が存在しないため、第1部材が撓んだときに生じる曲げ応力は、特定領域の外周に分散される。したがって、特定領域の外周に角が存在する場合と比較して、第1部材と第2部材とをより強固に接着できる。
【0020】
上記特定領域は、上記第1部材の表面において上記第2部材が接着される領域の外周に沿う環状領域である、ことが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、照射領域の面積が狭くてすむため、照射工程に要する時間を短縮できる。
【0022】
上記第2部材は、透明部材である、ことが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、第2部材を介して接着剤に光(例えば紫外線)を照射することが可能になるため、接着工程の実施が容易になる。
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1部材と第2部材とを備えた構造物の製造方法であって、上記第1部材は、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜が形成されており、当該製造方法は、(1)上記第1部材の表面の特定領域に対してレーザ光を照射することにより、上記特定領域において上記薄膜の下地を露出させる照射工程と、(2)接着剤を用いて上記特定領域に上記第2部材を接着する接着工程と、を含んでいることを特徴とする。
【0025】
本発明の一態様に係る構造物の製造方法は、本発明に係る接着方法と同様の効果を奏する。
【0026】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1部材と第2部材とを備えた構造物であって、上記第1部材は、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜が形成されており、上記第1部材の表面は、レーザ光を照射することにより上記薄膜の下地が露出した特定領域を含み、上記第2部材は、接着剤を用いて上記特定領域に接着されている、ことを特徴とする。
【0027】
本発明の一態様に係る構造物は、本発明に係る接着方法と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、第1部材と第2部材とを接着する接着方法であって、第1部材の表面に金からなる薄膜が形成されている場合であっても、第2部材に対して特別な処理を施すことなく、強固な接着力を得ることが可能な接着方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係る接着方法の流れを示すフローチャートである。(b)は、照射工程を実施する前の第1部材を示す斜視図であり、(c)は、照射工程を実施した後の第1部材を示す斜視図であり、(d)は、接着工程を実施した後の第1部材及び第2部材を示す斜視図である。
図2】比較例及び実施例1〜4における第1部材の照射領域の表面状態、Auメッキ領域の割合、表面粗さ、及び最大高低差を示す表である。
図3】第1部材と第2部材との接着応力とAuメッキ領域の割合との相関関係を示すグラフである。
図4】(a)及び(b)は、本発明の変形例に係る接着方法が含む照射工程を実施した後の第1部材及び薄膜を示す上面図である。
図5】(a)及び(b)は、本発明の別の変形例に係る接着方法が含む照射工程を実施した後の第1部材及び薄膜を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態に係る接着方法について、図1を参照して説明する。
【0031】
図1(a)は、本実施形態に係る接着方法S1を示すフローチャートである。
【0032】
接着方法S1は、第1部材11と第2部材14とを接着する接着方法であって、図1(a)に示すように、照射工程S11と、接着工程S12とを含む。以下、図1(b)〜図1(d)も参照しながら、接着方法S1に含まれる各工程について説明する。
【0033】
図1(b)は、照射工程S11を実施する前の第1部材11を示す斜視図である。第1部材11は、図1(b)に示すように、金以外の材料からなり、その表面には、金からなる薄膜12が形成(具体的には、メッキ)されている。
【0034】
本実施形態においては、銅製の基材11aの表面に、ニッケルからなる薄膜11bと、パラジウムからなる薄膜11cとをこの順で形成(具体的にはメッキ)したものを、第1部材11として用いる。この場合、金からなる薄膜12は、パラジウムからなる薄膜11c上に形成されることになる。なお、基材11a及び薄膜11b,11cの材料は、金以外の任意の材料から選択することが可能であり、例えばアルミニウム又はステンレス(SUS)であってもよい。また、薄膜11b,11cは、省略することが可能である。
【0035】
照射工程S11は、薄膜12上の特定領域(以下、「照射領域」と記載)12aの少なくとも一部にレーザ光を照射する工程である。照射工程S11を実施することにより、照射領域12aの少なくとも一部において、薄膜12を構成する金が蒸発し、その下地が露出する。図1(c)は、照射工程S11を実施した後の第1部材11を示す斜視図である。
【0036】
本実施形態では、照射工程S11において、照射領域12aの各点に対してレーザ光を散発的に照射する。具体的には、レーザマーキングの手法を流用して、照射領域12aの各照射点に対してパルスレーザを1パルスずつ照射する。これにより、照射領域12aに下地が露出した領域が密に点在させることができる。また、照射工程S11を繰り返し実施することにより、照射領域12aにおいて、下地が露出した領域の割合を次第に増加させると共に、照射領域12aにおいて、薄膜12が残存する領域の割合を次第に減少させることができる。
【0037】
接着工程S12は、薄膜12上の特定の領域(以下、「接着領域」と記載)12bに接着剤13を用いて第2部材14を接着する工程である。接着工程S12を実施することにより、第1部材11と第2部材14との接着が完了する。図1(d)は、接着工程S12を実施した後の第1部材11及び第2部材14を示す斜視図である。
【0038】
本実施形態においては、接着剤13の材料として、紫外線硬化樹脂等の光硬化樹脂を用い、第2部材14の材料として、ガラス等の透明材料を用いる。これにより、第2部材14を介して接着剤13に光(例えば紫外線)を照射することが可能になるため、接着工程S12の実施が容易になる。ただし、第2部材14の材料は、金以外の任意の材料から選択することが可能である。また、接着剤13は、光により硬化する光硬化樹脂に限定されず、熱により硬化する、又は、化学反応により硬化する樹脂であってもよい。
【0039】
本実施形態では、図1(b)に示すように、接着領域12bが照射領域12aを包含するように設定されている。換言すれば、照射領域12aが接着領域12bに包含されるように設定されている。これにより、図1(c)に示すように、接着工程S12を実施した後に、薄膜12の下地(本実施形態においては、基材11a、薄膜11b、又は薄膜11c)が外気に晒されることを防止できる。したがって、薄膜12の下地の腐食その他の劣化を防止できる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る接着方法S1においては、(1)レーザ光を照射することによって、照射領域12aの少なくとも一部において薄膜12の下地を露出させ、その後、(2)接着剤13を用いて、照射領域12aに第2部材14を接着する。このため、第2部材14は、照射領域12aの少なくとも一部において、金からなる薄膜12の上ではなく、金以外の材料からなる下地(銅製の基材11a、ニッケルからなる薄膜11b、又はパラジウムからなる薄膜11c)と接着される。このため、第2部材14を金からなる薄膜12の上に接着する場合と比べて、より強固な接着力を得ることができる。
【0041】
なお、本発明の接着方法は、光モジュールの製造方法にも適用することが可能である。光モジュールにおいては、基板の上に、又は、基板の上に積層されたサブマウントの上に、レーザ光を発する、LD(Laser Diode)などのレーザ光源や、当該LDを駆動するための電子部品、レーザ光を光ファイバに導く、ミラーやレンズなどの光学部材などが搭載されている。ここで、基板又はサブマウントの表面には、しばしば金メッキが施されている。そこで、基板又はサブマウントと光学部材とを接着する際に、本発明の接着方法を適用する。これにより、基板又はサブマウントの表面に金メッキが施されている場合であっても、第1部材11に対応する基板又はサブマウントの表面に、接着剤を用いて、第2部材12に対応する光学部材を良好に接着することができる。
【0042】
〔実施例〕
接着方法S1の実施例について、図2及び図3を参照して説明する。ここでは、(1)照射工程S11を1回実施する実施例1、(2)照射工程S11を2回実施する実施例、(3)照射工程S11を4回実施する実施例3、及び、(4)照射工程S11を8回実施する実施例4について説明する。
【0043】
なお、本実施例においては、第1部材11として、銅製の基材11aの表面に、ニッケルからなる厚さ1μmの薄膜11bと、パラジウムからなる厚さ0.1μmの薄膜11cとを、メッキ法を用いてこの順で形成したものを用いた。また、薄膜12として、メッキ法を用いて形成した厚さ0.1μmの金メッキ膜を用いた。また、第2部材14として、ガラス製のミラーを用いた。薄膜12において第2部材14が接合される接合領域12aは、このミラーの底面と合同な矩形領域である。本実施例においては、この第2部材14であるミラーとして、底面の面積が27mmであるミラーを用いた。
【0044】
照射工程S11においては、照射領域12aに所定の密度で分布する各照射点に対して波長1064nmのパルスレーザを1パルスずつ照射した。実施例1では、この照射工程S11を1回実施し、実施例2では、この照射工程S11を2回実施し、実施例3では、この照射工程S11を4回実施し、実施例4では、この照射工程S11を8回実施した。
【0045】
接着工程S12においては、(1)接着領域12bに接着剤13(紫外線硬化樹脂)を塗布し、(2)接着剤13を介して第2部材12を接着領域12b上に載置し、(3)第2部材12を介して接着剤13に紫外線を照射した。
【0046】
図2は、比較例(照射工程S11を実施しない場合)及び実施例1〜4における第1部材11の照射領域12aの表面状態、Auメッキ領域(照射領域12aにおいて薄膜12が残存する領域)の割合、表面粗さRa、及び最大高低差Ryを示す表である。ここで、最大高低差Ryとは、照射領域12aの表面プロファイルにおける最高点の高さと最低点の高さとの差である。
【0047】
図2に示すように、照射工程S11の実施回数が増加するにしたがって、Auメッキ領域の割合が次第に減少すること、すなわち、薄膜12の下地が露出した領域の割合が次第に増加することが確かめられた。また、照射工程S11の実施回数が増加するにしたがって、表面粗さRa及び最大高低差Ryが増加する傾向にあることが確かめられた。
【0048】
なお、Auメッキ領域の割合は、照射領域12aを撮像して得られた写真において、薄膜12が残存する領域を画像処理により抽出し、抽出した領域の面積の総和の照射領域12aの面積に対する割合を算出することによって得たものである。
【0049】
図3は、第1部材11と第2部材14との接着応力と、金メッキ領域の残存する割合との相関関係を示すグラフである。ここで、接着応力は、接着領域12aに加える力を次第に大きくしていき、第1部材11と第2部材14との接着が剥離し始めた時点で接着領域12aに加えていた力を、接着領域12aの面積で除算することにより算出される量である。接着応力が大きいことは、すなわち、接着強度が高いことを意味する。
【0050】
図3に示すように、Auメッキ領域の割合が100%である場合(比較例)、第1部材11と第2部材14との接着応力は、0.6MPa以上1.0MPa以下であった。そして、Auメッキ領域の割合が100%から減少するにしたがって、第1部材11と第2部材14との接着応力は、増加する傾向を示した。すなわち、Auメッキ領域の割合が100%から減少するにしたがって、接着強度が向上することが確かめられた。なお、照射工程S11の実施回数が8回である場合(実施例4)、第1部材11と第2部材14との接着応力は、1.8MPa以上2.5MPa以下であった。
【0051】
接着方法S1を用いて光モジュールを製造する場合、第1部材11と第2部材14との接着応力は、1.4MPa以上であることが好ましい。これは、光モジュールにおいて第1部材11に対応する基板又はサブマウントには、最大で10μmの撓みが生じる可能性があるという知見に基づく。発明者らは、基板又はサブマウントを10μm撓ませた場合に、第2部材14に対応する光学部品の接着領域12bには、最大で1.4MPa近い曲げ応力が生じるとの知見を得ている。第1部材11と第2部材14との接着応力が1.4MPa以上であることによって、第1部材11に10μmの撓みが生じた場合であっても、第1部材11と第2部材14との接着は剥離せずに良好な状態を保つことができる。
【0052】
図3に示す接着応力の測定結果によれば、Auメッキ領域の割合が60%以下である場合(実施例2〜4)、第1部材11と第2部材14との接着応力は、1.4MPaを上回る。したがって、接着方法S1において、照射工程S11は、Auメッキ領域の割合が60%以下になるまでを繰り返されることが好ましい。
【0053】
以上のように、接着方法S1において、照射工程S11の実施回数が増加するにしたがって、第1部材11と第2部材14との接着応力は向上する。その主要な原因は、照射領域12aにおけるAuメッキ領域の割合が減少することである。さらに、照射工程S11の実施回数を増加することの副次的な効果として、照射領域12a表面粗さRaを増大させることが挙げられる。表面粗さRaが増大することによって、接着剤13と薄膜12の下地との接着面積が増大し、その結果、接着応力が向上する。
【0054】
〔変形例1〕
本実施形態に係る接着方法S1の変形例について、図4を参照して説明する。図4の(a)及び(b)は、本変形例に係る接着方法S1が含む照射工程S11を実施した後の第1部材11及び薄膜12を示す上面図である。なお、図4の(a)及び(b)において、第1部材は図示していない。図4の(a)に示す薄膜12'及び(b)に示す薄膜12"のそれぞれは、図1の(c)に示す薄膜12に対応する。
【0055】
図4の(a)に示すように、本変形例に係る照射工程S11において、照射領域12a’は、外周が滑らかな曲線となる領域に設定されていることが好ましい。この構成によれば、照射領域12a’の外周には曲げ応力が集中しやすい角(頂点)が存在しないため、第1基板11が撓んだときに生じる曲げ応力は、照射領域12a'の外周に分散される。したがって、照射領域の形状が長方形である照射領域12aの場合と比較して、本変形例の接着方法により接着された構造物は、より高い接着応力を示す。
【0056】
また、図4の(b)に示すように、本変形例に係る照射工程S11において、照射領域12a"は、第1部材11の表面において、第2部材14が接着される接着領域12b”の外周に沿う環状領域に設定されていてもよい。本変形例において、薄膜12は、照射領域12a"の内側に存在する薄膜121と、照射領域12a"の外側に存在する薄膜122とからなる。
【0057】
この構成によれば、外周が滑らかな曲線によって構成された照射領域12a"に第2部材14が接着されていることによって、第1部材11と第2部材14とは、図4の(a)に示した変形例と同程度の高い接着応力を示す。その上で、図4の(a)に示した変形例と比較して、照射領域の面積が狭くてすむため、照射工程に要する時間を短縮できる。
【0058】
〔変形例2〕
本実施形態に係る接着方法S1の別の変形例について、図5を参照して説明する。図5の(a)及び(b)は、本変形例に係る接着方法S1が含む照射工程S11を実施した後の第1部材及び薄膜を示す上面図である。なお、図5の(a)及び(b)において、第1部材は図示していない。図5の(a)に示す薄膜22及び(b)に示す薄膜22'のそれぞれは、図1の(c)に示す薄膜12に対応する。
【0059】
図5の(a)に示すように、本変形例に係る照射工程S11において、薄膜22における照射領域22aは、接着領域22bを包含する領域に設定されていてもよい。この構成によれば、第1部材11を撓ませた場合に生じる曲げ応力が集中しやすい接着領域22bの外周が照射領域22aに包含されている。したがって、図1の(c)に示すように照射領域が接着領域に包含されている場合の接着方法と比較して、本変形例の接着方法により接着された構造物は、より高い接着応力を示す。
【0060】
ただし、照射領域22aのうち薄膜22の下地が露出した領域が外気に晒された場合に、その下地が露出した領域から腐食その他の劣化が進行する可能性がある。これを防ぐために、本変形例において、接着剤13は、照射領域22を包含する領域に塗布されることが好ましい。これによれば、照射領域22の下地が露出した領域における腐食その他の劣化を抑制することができる。
【0061】
また、図5の(b)に示すように、本変形例に係る照射工程S11において、照射領域22'は、接着領域22b’における外周領域を包含し、かつ、接着領域22b’の外周に沿う環状領域に設定されていてもよい。本変形例において、薄膜22’は、照射領域22a’の内側に存在する薄膜221と、照射領域22a’の外側に存在する薄膜222とからなる。
【0062】
この構成によれば、接着領域22b’の外周が照射領域22a'に包含されているため、第1部材11と第2部材14とは、図5の(a)に示した変形例と同程度の高い接着応力を示す。その上で、図5の(a)に示した変形例と比較して、照射領域の面積が狭くてすむため、照射工程に要する時間を短縮できる。
【0063】
なお、本変形例において、照射領域22a'の外周及び内周が滑らかな曲線となるものとして図5の(b)に図示したが、照射領域22a'の外周及び内周は、角(頂点)を含む形状であってもよい。例えば、照射領域22a'の外周及び内周の形状は、長方形であってもよい。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、接着剤を用いて2つの部材を接着する接着方法に利用することができる。また、互いに接着された2つの部材を備えた構造物、及び、その製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
S1 接着方法
S11 照射工程
S12 接着工程
1 構造物(レーザモジュール)
11 第1部材(サブマウント)
11a 基材
11b 薄膜
11c 薄膜
12 薄膜
12a 照射領域(特定領域)
12b 接着領域
13 接着剤
14 第2部材(ミラー)
図1
図2
図3
図4
図5